[ラブライブ!]真姫「あの日」[短編] (13)
※School idol dialy 園田 海未編のネタバレになる可能性があります。
ー大人になるというのは、すれっからしになることだと思い込んでいた少女の頃、立居振舞いの美しい、発音の正確な素敵な女の人に会いました─
「少し、休憩にしようかしら。」
音楽室の外は夕焼け。少しずつ日が延びてきたわね。
「まさかこの曲が日の目を見ることになるとは。ドームだなんて、わからないものね。」
今までの日々を思って曲を書いた9人のための曲だもの。持てる全てを注ぎたい。
それにしても…
「今までの日々、か。」
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ふふ、生真面目な大和撫子のことを真っ先に思い出したのは、昨日読んだ詩のせいってことにしておきましょう。
「柄にもなくセンチメンタルね。イミワカンナイ、ってわけでもないけれど。」
梅雨の終わりだったわね。
厳しく己を律する強さを持つ貴女の、その身に秘めた優しさを目の当たりにした日は。
そう、私が運命を決めた日。
『真姫 ──μ'sを続けたいですか?』
自宅のリビングで投げ掛けられた優しい問いに、胸がいっぱいになってしまって頷くのがやっとだったわ。
返事を受けとると、貴女は居住まいを正し、冷ややかに皆を見下ろす父に向き合った。
凛とした瞳と嘘のない言葉。さすがの父もたじろいでた。私も圧倒されたわよ。本当に強いのねって。
当の本人は、ただ必死だっただけだと言っていたけれど。
でも、本当に驚いたのはそれだけじゃないの。
私と同じ、家の歴史も未来も背負う身で、しかし今この瞬間だけは譲れないと願いを叫ぶ声。想いが紡がれる度、紅潮していく頬。こぼれおちた涙。
強さも弱さも、迷いも決意も合わせ持った、貴女の本当の姿。
それを見て私、すっかりやられてしまったのかもしれないわ。
ほら、それまでは、真面目すぎるお堅い所しか知らなかったでしょ?
夏合宿あたりからは随分お茶目なところも見せてくれるようになったけれど…
「初々しさが素敵なのよね。」
完全無欠に見えるのに、すぐに顔が赤くなる。言葉を失ってしまう。
きっとそれで良いんだって、今ならわかる。
繊細すぎるくらいに豊かな感性が、私の音楽に命を与えてくれたのだから。
良い仕事には、弱いアンテナが必要なの。
私もね、いつも完璧じゃなくてもいいんだわ。
知性と美貌を兼ね備えた真姫ちゃんだって、どぎまぎするもの。
誰かの期待に応えようとして、心を殺す必要なんかないのよ。
…あら、足音が聞こえる。相変わらずテンポまで几帳面なんだから。
…もう、すぐそこね。
私、あなたがここに来ることを望んでいたのかもしれないわ。
「遅くまでお疲れ様です。灯りがついていたのでまさかとは思いましたが。」
「いつものことじゃない、お互い様よ。」
ほんと、何度このやりとりを繰り返したかしら。
「ねぇ…突然なんだけれど、歌詞を付けて欲しい曲があるの。聴いて貰える?」
返事を待たずに鍵盤を叩くのもお約束。
貴女は黙って耳を傾けている。
私の大切な詩人。
どうか、添えて欲しいの。
外に向かって開く柔らかな花の上で、私たちが踊る最後の曲に。
私たちが過ごした時間の意味をそっと汲みあげる、穏やかであたたかな詩を、どうか─
「お願いできるかしら、海未。」
参考
「汲む」茨木のり子
「SID 園田海未」
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