【モバマスSS】少女は星に願う (31)
・モバP=女
・複数P世界
・百合要素
・ちょい鬱
以上の四点を含みますので、苦手な方はブラウザバックしてください
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「やっぱり、今日も届かないなぁ」
都会の霞んだ空に浮かぶ星空に手を伸ばしながら、そう呟いた。こんなにも届きそうなのに、掴むことができないなんて星というものは不思議なものだ。何十年前の人も何十年後の人もこうやって星空に手を伸ばして、同じことを考えるのだろうか?
「綺麗な夜景だね。でも……君の方が綺麗だよ」
物思いに更けていると、後ろから歯の浮いたようなセリフが聞こえてきた。何回も同じような言葉を聞いてきた私にとってその言葉はもう不愉快でしかなかった。そして、相手の男もきっとそれを理解しているだろう。だって、それはそう言う行為なのだから。
「それじゃ、続きをしましょうか……」
窓の後ろに浮かぶ大きな月をバックに、私は妖艶な笑みを浮かべた。
「モバP君、今日もよろしく頼むよ」
「はい」
これは、普通の人間が見れば、ただの朝の挨拶に見えただろう。だが、私にとってそれは違う意味を持っているということを、机の上の卓上カレンダーにつけられた赤い丸がそれを証明していた。
「おはようございます。モバPさん。今日も早いですね」
事務所の扉を開けて、蛍光色のスーツを着た千川ちひろが出社してきた。千川ちひろは私より少し後に入ってきた、この事務所の経理を担当している人だ。
「おはよう。千川さん」
私がそう言うと、千川は何か思い出したらしく、カバンの中をガサゴソ漁って、中から栄養ドリンクを取り出した。
「差し入れです」
「ありがとう。千川さん」
私は、千川から貰ったドリンクを一気に飲み干して、パソコンに向かって書類作りを始めた。
「お、おはようございます!」
出社時間ぎりぎりになって、男Pが出社した。男Pはいわゆる新人というやつで、仕事もまだまだ甘いところが多いが、誠実で、まっすぐで情熱があって、すぐに事務所の子たちと仲良くなっていた。私とは、真逆のタイプの人間だ。だからこそ、私は心配だった。こういう人間ほど、壊れやすいという事を私は知っているからだ。
「男Pさん。おはようございます。出勤はもうちょっと余裕を持ってするようにしてくださいね」
「すいません……」
千川に注意されて、男Pは少し落ち込んでいるみたいだった。
「まあ、いいじゃないですか。私だって、最初はこんな感じでしたから」
私がそう横から口を挟むと、男Pはぱぁっと顔を明るくした。
「駄目ですよモバPさん。あんまり甘やかすと成長しないですよ」
「そう? ほら、褒めて伸ばすタイプだっているでしょ?」
「そうなんです! 僕は褒めて伸びるタイプなんですよ!」
「ほら~、もう調子に乗ってるじゃないですかぁ……」
千川は溜息をつきながらも、笑っていた。
「まあ、とにかく期待してますからね。男P君♪」
「は、はい! 頑張ります!」
男Pはしゃっきと返事をすると、営業回りに行ってくると言い残して事務所から嵐のように去っていった。
千川は、頭を抱えて怪訝な顔を浮かべた。だが、手のかかる新人ほど可愛いというもので、事実千川は、男Pの事をいたく気に入っていると以前、酒の席で話していたらしい。
「まあ、あの子はきっと大物になると思うよ」
「そうですね」
お互いを見合って、微笑みあった。
「さて、無駄話はこれくらいにして。仕事に戻りましょう」
「そうですね」
私たちは、パソコンに向かってキーボードを打ち込んでいく。街の喧騒とキーボードの音が、心地よいリズムを刻む。
「おはようございます」
扉の前には、うちの看板アイドルの一人「高垣楓」がそこに立っていた。楓は私の古くからの友人だ。私が、このCGプロに就職すると聞くやいなや、モデルからこのCGプロに就職してきたのだ。何で? と理由を聞いても、いつも面白くない駄洒落ではぐらかされるので、結局何でここに来たのか私は知らない。
「おはよう。ところでかなり早くない? 仕事までまだ3時間もあるけれど……」
自分の手帳を一度確認して、そう告げると楓はにっこりとほほ笑んで、こう言った。
「モバPさんと少しでも一緒にいたいので」と
千川さんもいるんだけど、と言おうと思ったが、無粋だと思ったので言わないでおこう。本当に楓は昔からこうだ。いまいち、全容がいまだにつかめないのだ。この職に就いてから人を見る目がついてきたとは思うのだが、彼女だけは、高垣楓だけは理解できなかった。
例えるなら、子供や猫といったところだろうか。
「ふう……」
仕事も、ひと段落ついて時間もいい具合なので私は休憩することにした。私が立ち上がると楓が、期待した眼差しでこちらを見てきたので私は仕方なく楓に声を掛けることにした。
「今から一緒にランチでもどう?」
「ぜひ、行かせてください。昼飯のあとはひるめしよう。ふふっ」
楓は珍しくいい駄洒落が言えたことがよほど嬉しかったのか、得意げな表情を浮かべていた。
「その後、仕事だからね?」
「それくらい分かってますよー」
楓は頬をフグみたいに膨らませて、私の方を向いた。私はそれがおかしくて少し笑ってしまった。
「あ、そうだ。千川さんも、ご一緒にどうですか?」
「ごめんなさい……。私はもうちょっと仕事を終わらせておきたいので……」
「そう……。それじゃまた今度ね」
いつもならこの時間には大体、仕事がいい感じに終わってるはずなのだが……。まあ、今日は特別業務が多いのかもしれない。そういえば、思い返してみると楓と一緒に昼食を食べに行こうと思った時だけ、千川を誘っても断られているような気がする。だが、そんなことをわざわざする理由がないので、きっと偶然なのだろう。
「それでは、行ってきますね」
「はい、それではごゆっくりどうぞ」
千川がやけに笑顔なのが気になったが、私と楓は外に出た。
とりあえず、お腹が痛いので今日はここまでにしておきます
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