とある二作品からオマージュ、パロ、もしくはパクリ。
多少の設定改変。
以上の二点を先に説明しておきます。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1461028404
セットポジション、テイクバック。ステップ、リリース、ストライク。
その瞬間、体は一本のネジになる。
打者が何者であれ掠ることすら許さない。
惚れ惚れとするほど滑らかな肉と骨と意志の連動。
反復のしすぎで人間らしさを失った腰と肘が屍の山を築く。
ここは歓声に焼かれるフライパン。
栄冠を仄めかすエールが響く。
ひりつく炎天。
肺を焦がす夏の匂い。
首をつるように頭を垂れた男の姿。
ぞっどするほど冷ややかな色をした、雲一つない青い空。
球場は水色の宇宙になって、その中心で、今日も私は孤立する。
でも、それも終わりだと誰かが言った。
目も当てられない失投。
取り返しのつかない暴投。
はたからみえれば滑稽なことこの上ない、見事なまでのフィルダーズチョイス。
聞きたくもない濁った音に目を背ける。
その時。
私は初めて、骨の砕ける音を聞いた。
0/一年目
家から徒歩で二、三分だからという理由で選んだ『聖タチバナ学園』。学園は私立ということもあって、学内の設備はとにかく充実していた。少し前まで通っていた中学と比べれば雲泥の差だった。随分と適当な理由で進路を決めたものだが、こうやって見ると結構よかった選択じゃないかと思われる。校内で見かける女生徒もそれはそれは……いいものである。
しかし、問題の発生。
入学当初から立てていた計画は、あっさりと白紙に戻った。
これから三年間の学園生活で根幹となる筈だったものはここにはなぜか存在せず、期待されていた我々の戦いの日々は、肝心の時間を迎えた当日、大方の予想を裏切ってそうそうの終わりを告げたのである。
「―――いや、見事なまでの手のひら返しだ。ここまでくるといっそ清々しいけど、どう思う?」
放課後のこと。
これから一年は使うであろう教室内で、入学してから手渡された学内資料を机に開き、悠々とした調子で俺はそう訊ねた。
質問を投げ掛けられた人物はぼんやりと虚空を見つめていて、きっと俺の言葉なんて聞いちゃいなかっただろう。
そんな態度に少々呆れながらも、それも仕方ないかと息を吐く。
『矢部明雄』。『~でやんす』という語尾が特徴的で、その人柄がなんとなく気になったので話しかけてみるとだ。入学してからすぐ、互いに同じ好みを持つ一点からごく短い間で友人関係となってしまった。クラスが同じになってしまったことも友人となった理由の一つである。
で、話は戻るが。
その共通した好みが、『野球』という訳である。
しかし目の前の資料、担任から聞いた限りでは、この学園には『野球部』あるいは『愛好会』すらないようだ。
アニメ・玩具となどいったホビーに心酔しながらも、野球を愛し(多分)、根っからの『野球バカ』・『野球少年』であるらしい矢部はその事実を受け止められず、先程こちらが問いを投げかけても聞く耳を持たなかったことから分かる通り、現在現実から逃げている訳だ。が、現実は虚しく残酷で、この学園には野球はない。もう一度言うが、野球はない。それもかなり徹底していて、グラウンドにはマウンドすらないという。ここの学園長は野球がよっぽど嫌いなのだろうかと思わず疑ってしまうほどだ。……実際、担任の『大仙清』教諭から聞いた限りでは、学園長は野球を推奨していないっぽいということだ。ワン・アウト一塁ダブル・プレー、なんて言葉が聞こえてきそうだ。
そんな事実に対して、同じく『野球少年』である俺は平然としているように見えるが。
こう見えて結構傷心中で、それなりに頭を悩ましている。
……どうしたものだろうか?
矢部同様に、教室の天井をぼんやりと眺める。
三年間野球を楽しむという計画が白紙となった現在、やれることはこのくらい。
とにかく、うん。今は休もう。入学式での長々とした学園長の演説(?)や、クラス内での自己紹介に、教科書の類の購入など、野球部がないというとんでも事実を聞かされ知ってしまったお陰で色々とあって疲れているのだから。なんて思いながら、一先目を閉じた。
その睡眠が、これから始まる『高校生活』のエネルギーを得るためのものか。
はたまた諦めの永眠かは知らない。今は知りたくない。
そんなものは後に分かる。だから、今はこうしておこう。
……そういうことだ。
1/slugger.
(4/18)
縦およそ一五〇センチ/横およそ九〇センチの白線で囲まれた空間に立つ人影があった。
誰のものだろうか? 簡単なことだ。その影は、自分以外の何者でもない。
微かに腰を沈め、金属の棒を握り締めながら悠然と構える。
そして、視線は先を向いている。
何が映る? 投手(てき)の姿だった。
向こうもまた、緊張一つせず悠々とマウンドに立っている。
威厳すら感じるその姿に、僅かな感心を抱く。
―――セットポジション、テイクバック。
マウンドに立つ影がゆらりと身体を動かす。
後方へと重心は進み、白球を握る腕が下へと沈む。
関節と骨は齟齬を起こすことなく連動を始め、微かに沈んだ身体は浮上を始める。
―――ステップ、トップ。リリース。
足は大地を踏みしめ、張りつめた弓のように身体はしなる。
瞬間、装填された弾丸は込められた力を逃すことなく直進する。
コンマ数秒後の世界、こちらはステップと同時にテイクバックを終えた。
トップに入った身体は蓄えられた力を放出しようとスイングは開始する。
軸足はコマのように回転すると、アルファベットのCのごとき美しい曲線を描いた。
左手はグリップを引き、ヘッドは猛進するかのごとく前方へ走り、一本の金属棒は空を滑った。
―――刹那の闘劇後。
聞こえる音は、白球を叩く音か。
あるいは其が皮を叩く音か。
もう二度とその答えは分からない。
現(うつつ)では当然のことで、またヒュプノスの中でさえ、闘劇は閉幕を迎えることは許されない。
機会は一生訪れないまま、かつて思い描いた未来の姿は泡沫となって散ったのだ。
■■■
「――――――、」
高校生となって初めて迎える日曜日でのこと、気持ちの悪い汗を全身でかきながら目が覚めた。
最悪だと心の中で呟きながら、着替えの衣服を手に持つと風呂場へと向かった。
その際に一度リビングの方へと顔を出すと、そこには誰の姿もなかった。
高校生となってから一人暮らしを始めたのだから当然の結末だった。
が、寝起きでぼんやりとした頭の中では親がキッチンで朝食を作っている姿が浮かんでいたのだ。
何を間抜けなことを、と内心で自嘲しながら今一度風呂場へと向かう。
そして。
シャワーを浴びれば目も覚めるだろう、と思いながら着ていた服を洗面所近くで脱ぎ去ると浴室に足を運んだ。
そこは実家と比べれば狭い場所だが、何も文句はない。
雨のように降り注ぐ水滴を浴びながら、ふと今日の予定について考えてみる。
しかし残念ながら何も予定はない。お先真っ暗とは言わないが、真っ白なのもどうだろうか。
億劫なほど長い休暇の時間の有効な活用法を、汗を流しながら暫し考えてみる。
結果、思いついたのは運動だった。ようは、適度なトレーニング。
しかし、運動部に所属はしていない。この先もするつもりはないと思う。
それなのにトレーニングとは、とまたもや自嘲してみるが。
とにかく午前中はそうしようとはんば無理やりにでも自身を納得させた。
2-1/
(4/18)
都内に構える市民球場でのこと。
スタンドには大勢の人影がちらついていた。
老若男女問わずの野球愛好者たち、高校の在学生・OBによる応援団、そしてベンチから外れた野球部員達。
皆が皆、それぞれの意思を持って春季に行われている地区大会の一戦を観戦していた。
また、内野席の一角では俺と矢部を含めた二つの影があった。
■■■
「―――で、国見くん。これから先、どうするでやんす?」
試合は中盤、現在五回裏。スコアは0-1。
で、季節は春だというのに、何時も以上に暑苦しいそんな午前十一時。
大体腰のあたりの高さをした柵に肘を乗っけて観戦していると、矢部はそんなことを訊ねてきた。
質問の内容は至って曖昧で、どうするとだけ。
しかし、それが今日の日程について訊いてきたわけではないことは分かっていた。
それでもとぼけた調子で言った。
「近くに美味いかき氷を食える場所があるぞ」
「……この後の予定について訊いているわけじゃないでやんす」
呆れたように矢部は声を漏らした。
冗談、冗談と。
そう取り繕うと、俺は言った。
「愛好会でも部でもいいから、とりあえず野球ができる環境を作ろうぜ」
「まあ、普通に考えたらそうでやんすね。でも部員とか、顧問とか大丈夫でやんすか?」
「そこら辺からかき集めるさ。顧問に関しては嬉しいことに、大仙先生がやってくれるそうだぞ」
「ええ!? そうでやんす?」
「ああ、この前頼んでみたらオッケーしてくれた」
二日前の金曜日、部や愛好会の作り方をうちの担任に訊いていた時のこと。
もし部や愛好会を設立する時に顧問に困っていたら、自分がなってやると言ってくれたのだ。
じゃあと、その言葉に乗って顧問を頼んだのである。
「何時の間に、そんなことをしてたでやんす……」
「思い立ったらすぐ行動すべしってな。でないと、一生寝ちまう羽目になりそうだからな」
「寝るでやんすか?」
「なんでもないよ」
誤魔化すようにそう言って、
「まあ、だから後は部員の確保だな。って言っても、これは今からなら簡単に集まりそうだけど……ただ」
「? どうしたでやんす?」
不思議そうに矢部は首を傾げた。
「いや、うちの校長が野球を推奨してないって聞いただろ?」
「ああ、そういえばそんな話もあったでやんす」
「だから愛好会や部を作ろうにも、無理やり権力でぺっちゃんこってならなきゃいいんだけど」
「……なんだか不吉でやんすね」
「ま、いざとなったらこう懐に仕込んでておいて……」
「なるほど、賄賂でやんすか! ……でも何を渡すでやんす?」
「大仙教諭いわく、うちの校長はさゆりアナのファンらしいから……」
「む、じゃあさゆりアナのグラビア雑誌でやんすね!」
うむ。物分りのいいことで。
少しばかり感心すると。
「賄賂代は割り勘だからな」
「な! 国見くんが全負担じゃないでやんす!?」
「何を言うか、おどれは」
矢部は驚いているが、こっちも少々驚き。
感心を返せ、ばきゃやろう。
―――なんて思っていると、甲高い音が球場で響いた。
バッターが空を見上げている。遅れてピッチャーが後ろを振り返った。
キャッチャーはマスクを取って立ち上がる。その姿はどことなく力が抜けているように見える。
勢いよく伸びる白球を求めて外野手は下がるが、ある時点で足取りを止めた。
それからすぐだった。
ゴンッ、と鈍い音がした。
観客席からは雄叫びなような歓声と、小鳥のように高い喜声が聞こえてきた。
一方で、悲痛が混ざった溜息や声も聞こえてきた。
そして刻まれる数字。スコアは、0-3。
球場で起きたのは、二点取得のツーランホームラン。
パワフル高校と西強高校の試合は、現時点で西強高校が優勢のようだ。
また、互いの高校の差はスコア以上に出ている。
なにしろパワフル高校のヒット数はここまで一つ。
しかし、西強高校は先程のホームランで十二としている。
「……やっぱり強いでやんすね、西強高校」
「そりゃ、強いさ。全国屈指の名門校で、今年の春の選抜は優勝。去年の夏も、ベスト4」
そんな場所で一年坊がレギュラーを確約されるのだから、我が親友も恐ろしいものである。
呆れたように笑みを浮かべると、
「? どうしたでやんす?」
「なんでもでないよ」
誤魔化すように、そう呟いた。
■■■
で、だ。
結局、試合は西強高校の圧倒劇にて終わる。
五回までなんとか三失点で終えるものの、その五回で起きたツーランがよほどの効いたのか、それ以降は見るも無残となった。
そもそもの話、五回の時点であれだけ安打を打たれているのだからそうなるのも必然だったのだろう。
それに、両チームの選手での差もあったことだし。
といっても、パワフル高校は確か去年の夏に行われた地区大会で確かベスト8だったはず。
だからパワフル高校が弱いのではなく、西強高校が抜けているのだろう。
事実、甲子園の成績だけでなく、甲子園予選激戦区である東京都で毎年のように出場校の座を手にしているのだから。
つまりまあ―――それから分かることはだ。
―――甲子園に出ようものなら、西強高校に勝たなきゃいけないわけか。
なんて理不尽な戦いだろう。
それでも夢見る球児達ならば、あれに挑まなければならならない。
生憎、夢見る球児ではないので、夢破れる屈辱を味わうことはなさそうだが。
―――まあ、そんなことよりも。
「いやー、やっぱりかき氷は氷あずきに限る」
現在、例の喫茶店にて休憩中。
ガラスの器で山になっているかき氷を一口パクリといくと、そんな声が漏れた。
美味い、美味い。俺は続けて手に持ったスプーンを動かす。
一方で、向かいの席に座る矢部はなぜだが何時もとは違った。
それには思わず俺は首を傾げると。
「……どうした?」
「むしろこっちが聞きたいでやんす。どうして、国見くんはそう平然としてるでやんす?」
「? なにか問題でもあるのか?」
「おおありでやんす!」
そう言われても、今一理解できない。
はて? 矢部に一体何があったのだろうか?
なんて、再び首を傾げてみる。
瞬間、隣に座る人物から声が上がった。
「こら、矢部。店内で余り大きな声を上げるんじゃない」
その声の主は、我がクラスの担任である大仙清教諭様のものだった。
大仙教諭様は俺達と同様にかき氷を静かに食していた。
対して注意を受けた矢部はお申し訳な表情を作る。
「あ……すまないでやんす」
そう矢部は口にすると、すぐさま表情を崩して言った。
「―――って、違うでやんす。どうして大仙先生がここにいるでやんすか!?」
「そりゃお前、教師だって息抜きの一つくらいする」
当然のように、大仙教諭様は語る。
そしてまた一口と、かき氷を口に放った。
そんな態度に矢部はタジタジとすると、
「いや、その、もっとちゃんとした説明をしてほしいでやんす……」
「? ちゃんとしたと言っても、休日に喫茶店に足を運んだだけだ。
お前たちと会ったのは……そう、偶然というやつだ」
「……じゃあ、国見くんが先生を呼んだわけじゃないでやんす?」
「ばっきゃろ、せっかくの休日に、こんなおっさん呼んでどうする」
「……国見。生徒指導の部屋は何時でも空いているぞ」
こつり、と頭部を軽い拳骨が襲った。
痛くはなかったが、俺は頭を押さえる。
そして大仙先生はというと、態度を崩さぬまま口を動かした。
「と、そういえばだ。野球部……いや、愛好会だったか?
まあ、どちらでもいいか。とにかく、部員の件だが、こっちで三人ほど確保しておいた」
その言葉にちょっとだけ驚いた。
矢部は俺以上に驚いていて、少しだけ間を置いて言った。
「……大仙先生は、どうしてそんなに協力的でやんす?」
「ん? ……いや、前から高校野球に興味があってな。
顧問をやってみたいというか……まあ、出来心みたいなものだ」
それにしては、こちらの想像以上にやってくれる。顧問の件だけでも助かったというのに。
なんて思っていると、だ。既に大仙先生は、残り少なかったかき氷を食べ終えていた。
そして、
「―――じゃ、また今度な」
そう言って、会計を済ませると俺達の前から去った。
乙
>>9
サンクス
■■■
大仙先生が立ち去ってからすぐのこと。
矢部は残りのかき氷をちまちまと食べていた。
そして俺は既に残り少ないかき氷を食べ終えると、ぼんやりと傍の窓から外を眺めていた。
大したものは何も見えない。
アスファルトの道路を車が走るか、その傍の歩行路を人が通るか。
あとは、繁々とした青葉が付いた木々くらいだ。
一言で言ってしまえば、ちょっと暇である。
だからというか、視線は外に向けたまま、暇つぶしに俺は口を開いた。
「なあ、この後はどうする?」
そんな言葉を矢部は耳にすると、一度スプーンを持つ手を止めた。
どうやら俺とは違って、喋りながら食べるなんてことはしないらしい。
まったく、行儀のいいことで。
「……そうでやんすね」
と言って、矢部は少しだけ考える仕草を取った。
そして、出た答えは、
「んー、なんでもいいでやんす」
何でもいい、何でもいい。
そう、軽い口調で矢部は言った。
が、それが一番困る解答だということを矢部は知っているのだろうか。
「…………ふむ」
と、今度はこちらがシンキングタイム。
そんな最中、視線は相変わらず外を向いていて、困ったなという思いが湧き始める。
反面、鏡に薄らと映る自分を見てみれば、結構呑気な顔をしていた。
余裕があるのだろう。
まあ事実、実のところそんなに深く悩んでいないことだし。
これからの予定なんて、頭が痛くなるほど悩むようなものでもないだろう。
……まあ、それはさておき。
そうして。
三分ほどのんびりと考えたところで、俺の脳裏には一つ案が浮かんだ。
対して矢部は既にかき氷を食べ終えていて、今すぐにでも会計にいこうと思えばいける状態だった。
そんな中、俺は言った。顎に手を付き、視線は微塵も動かさないまま。
「ボウリングでも行くか?」
「……ボウリングでやんす?」
「ああ。近くのボウリング場で、確か新入生応援キャンペーンなんてものがやってるから、今なら安くつくぞ」
「……そうでやんすか。じゃ、今から行くでやんす」
了解、と俺は相槌を打った。
そして、席から立ち上がろうとした。
当然ながら、矢部も立ち上がろうと腰を上げた。
―――その瞬間だった。
ふと視界には、歩行路を進む人の姿が映った。
身体は動作を止め、瞬間的に声が出た。
「―――あっ」
視線が外に釘づけになる。歩を勧めるその人物の背を目が追う。
しかしながら、窓の面積は限られているため、ある地点からその人物の姿は見えなくなった。
それでも名残惜しいのか、俺は外を見ていた。
ぼんやりと夢見心地のような気分だった。
そんな状態から脱したのは、矢部の一声のおかげだった。
「どうしたでやんすか?」
「……多分だけど、昔の知人がいた」
「友達でやんす?」
違う。友人なんて関係じゃなかった。顔を合わしたので、一回だけだ。
それでも、アイツの顔は今でもよく覚えていた。
……まあ、瞬間的なことだったから見間違いの可能性だってある。
だが、見間違いだとは到底思えなかった。
俺は首を横に振ると、
「いや、なんというか……あれだ、好敵手ってやつかな?」
締りがない言い方だが、そう口にしておいた。
好敵手? と矢部は首を傾げていたが。
俺は詳しくは語ることなく、ほうける矢部を置いて、会計場所へと向かった。
そして、だ。
少々ばかり焦ったような顔をして、矢部は遅れて付いて来た。
国見って聞くとアイツしか思い付かない
なんというか集中して読んでしまうな
どうなるか楽しみ
>>12,13
サンクス
2-2/slugger.
(4/18)
端的に言えば、最悪だった。
呼吸を乱さず一定のリズムで走るつもりが、常にペースは乱調気味だった。
ランニングの最中、息苦しさに、何度か足を止めてしまった。
一時間ほど走ろうと思っていただけなのに、長いこと足を動かしてしまった。
都内に引っ越してまだ数日ばかりなのに、随分と遠いとこに来てしまった
本能は思考/理性に反発して闇雲に身体を働かせる。
まあ、ケータイのマップ機能を使えば帰れるだろうが。
……ああ、本当に最悪だ。
■■■
「――――――、」
桜並木が映える、河原の近くにて。現在、俺はそこで腰を降ろして休憩を取っていた。
力の抜けた瞳は遥か先の景色を映し、俺は短く息を吐く。それからは重度の疲労の色が伺えた。
しかし体力的にはそこまで問題はない。
問題は、精神的なものだった。
酷く、それは酷く疲れた。
その原因は、既に見当はついている。
こんなにも心を乱されたのは―――きっと、今日見た夢が原因なのだろう。
シャワーを浴びてすっきりした気持ちになっていたが、どうやら心境は切り替えていなかったらしい。
女々しいほど引きずっていて、結果がこれだ。
俺は、呆れたようにもう一度溜息を零した。
そして立ち上がると、スウェットのポケットに手を突っ込んだ。
硬貨が二枚ほど指先を触れた。どちらも五百円玉だった。
どうやら、ランニングの最中に落ちることはなかったらしい。
俺は確認を終えると、ポケットに硬貨を入れたまま歩き始めた。
目的地は、どこかの自販機。
その辺りを歩いていれば見つかるだろう。
……そう思っていたが。
どうやら今日という日が、ツキがない日だということを。
強く思い知らされるのは、これから数時間後のことだった。
2-3/slugger.
(4/18)
才能とは、誰しもが持ち得るモノではない。
凡人と天才の確立。生まれ持った能力の差。先天的なセンスの有無。
だからこそ個人の差は生まれ、目立つ者と目立たない者の二種類の人間が存在する。
『K.Kコンビ』と呼ばれたとある二人は、前者の立場にいたことは確かなことで。
当然ながら将来を有望視され、中学生ながらプロという言葉を周囲に意識させるような人物だった。
そんな二人の行く末、つまり高校進学は各方面の関係者としては非常に気になるものだった。
二人共同じ高校に進学するならば、きっと選抜を沸かすだろうと噂され。
例え別離を歩むとしても、それでも野球界の顔として騒がれるだろうとも言われた。
が。
中学三年生の秋だった。
ここで事態は急変することになる。
『K.Kコンビ』の傍らは、スターとしての道から外れたのだ。
理由は簡単なもので、肘の故障。
ただ一つついたそのバツ印が、コンビの終幕となった。
そして残った一人は、今もなお道を走り続ける。
―――名は、清本和重。
高校野球の舞台にはまだ立ったばかりだが、既に強豪校で四番としての地位を確立している。
身内には、同学年に競い合えるだけの好敵手達もいる。その他の選手の能力も非常に高く、洗練されている。
高校に設置された施設も勿論のこと、充実している。監督は人心掌握、指導力共に長けている。
あとはその豪腕を持ってして、甲子園の歴史に名を刻むだけである。
――――――shukan.ura-bunshun.nettoukousien.jp/パワプロ通信
相棒は清本かよ!
こら益々あの漫画ですなぁ…
楽しみだわ
読みづらい
話が一向に進まない
文も冗長
これはクソスレですわ
幕間/L.L.L
理想は遥か遠く、
漸く手にしたと思えば泡沫のごとく消え去る。
あの日にて瞳孔に焼き付いた姿/景色は、
これから先、二度とはない。
蝉(なつ)の声も、空(ゆめ)の眩しさも、影(ひと)の温もりも、
全て、失ってしまった。
それでもなお、思い描くというならば、
道無き道を歩むのならば、
その先に待つのは―――修羅か。
―――それとも、楽園か
2-3/S.VS.S-1
(4/18)
珍しい試合だった。
あれだけ安打を積み重ねながら、一の数字が続くとは。
結局のところ試合は大差で終えたが、今思い出してみても不思議な心持ちになる。
―――そのようなことを、ふと思った。
そして即座に頭を切り替えると、眼前の敵へと集中する。
敵と言えど、ただのバッティングマシンだが。
「――――――」
隣から響く打球音を耳にしながら、憮然と無言で構える。
無機質なパノラマとの睨み合い。
時間にしておよそ二秒ほど。
投手の姿をした動く画像は、間を置いてモーションに入る。
ぎこちなさを感じるその動きは非常に単純なもので。
1、2、3と簡単なリズムだった。
所詮は機械なのだろう。
コンマ数秒が過ぎ去ると、
―――甲高い金属音と共に、白い軌跡が描かれた。
それの終着点は真っ赤な色をした円形状の的だった。
直撃音の後に、ポップなサウンドが鳴る。
ホームランを報せる音だった。
近くのネットには子供がいて、何やら驚いていた。
きっと聞こえてきたその音に心を擽られたのだろう。
しかし残念なことに、打った本人には感慨深いものなど微塵もなかった。
聞き慣れてしまったその音に、今更ながらはしゃぐような戦歴ではない。
が。
驚きも喜びもないにしても、スカッとした気分になったのは確かなこと。
なにしろ、今日の試合は出場することが出来なかったのだ。
実力不足というわけではない。その言葉を否定する証拠はちゃんとある。
一年にして西強高校で四番を務め、直近の試合でも抜き出た成績を収めているのだ。
監督の信頼も既に厚い。では、なぜ今日は出場できなかったのか?
清本和重と、とある人物達を除いた一年防の実力を確認するためと監督は言っていた。
それに、清本は納得していないわけじゃない。
ただ、試合を見ているだけというのは溜まるものがある。
その溜飲を下げるため今こうしているのだ。
『……すげぇ』
幼い声が響いた。
心底、その声は驚き、感心していた。
その最中、豪快なスイングと共に、心地よいインパクト音が連続する。
生きた動物のように空を走る白球の姿があった。
惚れ惚れするような光景が、少年の脳髄に刻まれる。
対して清本は少年からの熱視線を受けながら、気にもすることなく黙々と打ち続けた。
―――かつて見た、理想を追い求めながら。
■■■
二十球の戦いが、二度行われた。その全打席から目が離せなかった。
少年にとって、そこに立っていた青年はテレビに映るヒーローのようにも見えた。
見よう見まねで青年と同じようなフォームで打ってみようと思うも。
ボールは掠りもせず、バットは空を切る。
背後からは、ボールがゴム板を叩く音が聞こえた。
悔しさを抱き、今一度、バットを振ってみるものの。
キンッ、と擦れる音が聞こえた。
その、瞬間のことだった。
角度を変えた白球が向かう先は、残念なことに少年の下だった。
脛の辺りから、鈍い痛みが走る。軟球故に、痛みはそれなりだが、痛いものは痛い。
痛覚を刺激される当時に、再び悔しさが募る。
―――そして、だ。
もう一度だけ、もう一度だけ―――と。
青年が魅せた、あの姿を見てみたいと思った。
が。
ちらりと後ろを見てみれば、缶ジュース片手にベンチで寛いでる姿が見える。
もう終わりだよ、と告げられているようで。
ゴム板を叩く音と共に、小さな溜息が溢れた。
―――とある一人の青年がやって来たのは、その時だった。
その人物は疲れたような顔をしていて、気力というものが感じられなかった。
そのせいか、背丈はかなりあるのだが、それにしては小さく見えた。
また、彼はさっさとメダルの購入をすませると、先程もう一人の青年が立っていた場所へと赴く。
当然だが、少年の隣からは錆び付いた扉が開く音が聞こえる。
誰だろう、と少年は思った。当然知っているわけはないのだが。
そんな疑問を抱いている間に、青年はさっさとメダルを突っ込む。
そして、彼は構えた。
その構えは嫌に落ち着いていた。
まるで何度も同じことを繰り返してきたかのように。
悠然と、あるいは自然と。
とにかく、青年が野球というスポーツの経験者であることが伝わってくる。
……もう一度、あの人が打ってくれないかと思いながらも
少年も少しだけ期待をした。
■■■
―――そうして、ささやかに短し時は過ぎ。
パノラマに映る機械人形は、無骨なモーションを終え。
其は確かに放たれ―――た。
■■■
その影が横を通り過ぎたとき。
あるいは面立ちが視界に映ったとき。
そうではないのか、と思った。
しかし思い違いでははないのかという気持ちもあった。
が、それは杞憂だった。
無駄ない構えから走る金属のそれは滑るように空を切ると。
心地よい快音と共に、すぐにでも鋭い打球が飛んだ。
グンっと伸びる白い球は一直線に上へと向かう。
翼が生えたかのように、どこまでも遠くへ行ってしまうかのように。
ただ、ただ空を駆ける。
その美しい軌道に、そして清と佇むスイング後の脱力した姿には。
思わず見惚れてしまいそうで。
過去の断層に飲み込まれてしまいそうだった。
……ああ、そうだ。
確かにこれは間違いではない。
たった今、バッターボックスに構える人影に確信を持った。
―――ではどうするのか?
はっきり言ってしまえば、よく分かっていなかった。
ただ、椅子から立ち上がり。その足は本能的に進んでいた。
……ああ、自分の意志があやふやなまま進む。
結局、どうしたかったのか。
それを理解できたのは、その男の前に立ってからようやく理解できた。
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