【ガルパンSS】 「そんなものはない」 (23)
・ガルパンのSS
・百合
・みほゆか
・地の文あり
・エイプリルフールなので書きました
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1459452982
失礼します。お悩み相談部というのはこちらでありますか?
生徒の悩みならどんなことでも、秘密厳守で答えてくれるっていう……あ、こちらでいいんですね、良かったです。
すみません、座らせていただいてもよろしいでしょうか。ちょっと疲れておりまして。
え、目の下にクマが? はい、まあ、ちょっと事情がありまして……ご相談させていただきたいことがあるんです。
H型仕様と申しましても実際にはD型をベースに改造しておりますので、実際のスペックとは異なりましてですね……あ、はい、すみません。本題に入りますね。
まずは、そもそもの事の起こりからご説明させてもらってもよろしいでしょうか?
あの、私、恥ずかしながらですね……今まで友達、というものを持ったことが無かったのであります。
子供のころから戦車にばかり夢中になってたせいなのか、他の同年代の子の話とかについていけなくて……気がつくといつも一人ぼっちで戦車のプラモデルで遊んだりとか、戦車が出てくる映画みたりとか、自衛隊の公開演習や戦車道の試合を見に行ったりとか……
あっ、そんな憐みの目で見ないでほしいであります! こんな私でも、今は立派な友達がいるんですから!
何と言っても、一番仲良くさせてもらってるのは、あんこうチームの皆さんですね。先ほどのⅣ号のチームクルーであります。
明るくて女子力抜群、チームのムードメーカーの武部殿、ちょっと遅刻が多いですけどいつでも沈着冷静で、超絶技巧の操縦技術をお持ちの冷泉殿、おっとりした美人さんなのにときどきお茶目で、レティクルに向かうとすごい集中力を発揮される五十鈴殿……皆さん私なんかにはもったいないような素敵な方たちばかりです。
その中でも、あの……私がその、仲良くというか、尊敬しているというか……とにかくいつでも一番気になってしまう方が、西住みほ殿なんです!
もちろんご存じですよね。我が校の廃校を(それも2度も!)救った英雄にして、高校戦車道のニュースを席巻したスーパーエース、奇跡の立役者、無敵の指揮官、西住流の系譜を受け継ぐ軍神……もうものすごくきらびやかな二つ名をたくさんお持ちの方です
から。
でも、その、僭越ながら、一番近くで西住殿のお姿を見させていただいていた身としてはですね……西住殿はなんといっても、西住殿なんです。
あ、何を言ってるのかわかんないですよね。ええと、つまり……天才的な軍略とか、果断な指揮とか……戦車道選手としての資質や能力も、もちろん尊敬の対象ではあるんですけど。
私が一番憧れてるのはですね……友情に厚くて、どんな時にも一生懸命で、誰にでも優しくて……そういう一人の女の子としての、西住みほ殿なんです。
おどおどしていた私に、一緒に探そう? って声をかけてくれた優しい笑顔とか、微妙にあやふやなあんこう踊りでみんなを勇気づけてくれたプラウダ戦での姿とか、敵集団が迫るなか、毅然として味方の救出に向かう決意を秘めた背中とか。
後ですね後ですね、これはもちろんあんこうチームの皆さんへ言ってくれたってことはわかってるんですけど、みんなのことが大好きって言ってくれた、照れた顔が可愛かったりですね!
それから戦車に乗ってるときは私のポジションからだと、走行中とかは西住殿の短いスカートがひらひら踊るのが見えてしまって……下手をすると綺麗で柔らかそうな脚だけじゃなくて、もっとその奥の、際どいところまで……!
はっ。私今、変な事を言っていませんでしたか? すみません、子供のころから好きなもののことになると我を忘れてしまう癖があって……どうか忘れて頂けるとありがたいであります。
とにかくですね、そんな素敵な西住殿に仲良くしていただいて、本当に幸運な私なんですけど……もっともっと仲良くなれたらなぁ、なんて欲張りな事を考えてしまう自分もいるんです。
そこで、エイプリル・フール、でありますよ。
4月バカとも言われるこの日に、西住殿をお茶目な嘘で驚かせて、あはは実はウソだったんですぅ~って言ったら西住殿はやだなぁ優花里さんたらビックリしちゃったよ私、なんて優しく笑ってくれたりして、どうですかどうですか!
ひやっほー、最高だぜぇぇーっ!って、なりませんか!?
はっ。またやってしまいましたか、申し訳ありません。
ええと、で、結局ですね。そんなこんなで、4月1日に西住殿にどんなウソをつくのか?ってことが、次の問題になりました。
誰かがケガをしたとか不幸になったとか、そんなのはウソでも言いたくありません。
戦車に関するウソもダメです。私の戦車マニアとしてのプライドが許しません。
そこで考えたのが……その……私が西住殿に、ウソの愛の告白をするって計画だったんですよ。
あっ、そんな目で見ないでください。考えたときにはすごくいいアイデアだと思ってたんです。
何せ、あの素敵な西住殿ですよ。女の子同士だってことを差し引いても、その方に私みたいな地味で変な女の子が告白なんてしたら、すごいギャップじゃないですか。
西住殿も、最初は驚いちゃうかもですけど、ネタバラシしたら笑ってくれるんじゃないかなぁって……その時はそう思ってたんです。
そこで、金曜日。
練習の後、私は決行しました。
これはちょっとしたイタズラなんだからって言い聞かせても、もう練習の途中からものすごく胸がドキドキしてしまって、集中できなくって……もうとにかく早く何とかしなくちゃいけないと、解散になった途端に西住殿に声をかけたんです。
「西住殿っ! あの、ちょっと、お話が!」
「うん。何かな? 優花里さん」
西住殿は振り返って、にこっと微笑んでくれました。
ああ、もう、それだけで。その可愛らしい仕草を見て、柔らかい声を聞いただけで……
さっきまでの胸の鼓動が、ドキドキ、だとしたら、その瞬間にはドキドキドキドキドキドキーン! ぐらいの機関銃掃射みたいな勢いになってしまって……
このままでは死んでしまうんじゃないか。そんな不安に駆られた私は、必死で用意していたはずの言葉を口に出しました。
「お、お慕い申し上げておりますっ! 好きです! わ、私の、彼女さんになってほしいでありますっ!」
言い過ぎです、私。
もうちょっと軽く、好きです西住殿ぉ~、ぐらいにしておくつもりだったのに。
あまりに緊張しすぎて、何だか重い感じになってしまいました。
マズイことは、それ以外にもあってですね……
「「……」」
それまで騒がしかったはずの格納庫が一気にシーンとなって、戦車道クラス、みんなの視線が一斉に私たち二人に痛いほどに突き刺さってきていたんです。
私、そんなに大きな声出しちゃってましたか……?
いけません、このままでは西住殿に迷惑がかかってしまうでしょうか。
で、でも大丈夫です。ちゃんとウソだってことをバラせばみんな、なーんだって笑ってくれるでしょう。
そのためには、リアクションを待たないとなりません。
みんなが驚いたりざわめいたり、とかしたところでネタバラシにしないといけません。じゃないとせっかくのネタがすべってしまいますからね。
ところが……いつになっても、そのリアクションが返って来なかったんです。
「はいはーい、んじゃみんな自車点検終わったらさっさと撤収ね~」
「聞いただろうおまえたち、は、早くしろっ」
生徒会の皆さんが何事もなかったかのように撤収をせかします。河嶋殿はちょっとだけ顔を赤くしてますが、それだけです。
「ほらほら桂利奈、行くよっ」
「えっ、でもぉ……」
いつもは好奇心旺盛なウサギさんチームの皆さんも、ちらちらこちらを振り返ってる桂利奈殿をみんなで押して去って行ってしまいます。
「見事な先制攻撃だ、グデーリアン。武運を祈るぞ!」
どんなときでも薀蓄豊富なカバさんチームも、エルヴィン殿のそんな言葉とドイツ式の敬礼だけを残してさっさといなくなってしまいました。
残ったのはあんこうチームだけです。ところがその皆さんまで……
「ついにこの時が来たんだね……ゆかりんが勇気を出す時が。感慨深いなぁ、うんうん」
「優花里さんのアクティブさ、ぜひ見習いたいです」
「一瞬さすがに目が覚めたぞ……」
武部殿に五十鈴殿に冷泉殿まで、雑談しながら出て行ってしまうではありませんか。
格納庫には私と西住殿、二人だけになってしまいました。
困ったことになったであります……
皆さんにネタバレする暇すらないだなんて、想像もしていませんでした。
こうなってしまっては、しかたありません。皆さんに説明するのは明日にして、とりあえず西住殿にエイプリルフールネタであることを告げてしまいましょう。
きっと戦車を降りた後のいつもの西住殿らしく、わたわたと動揺されてるんじゃないでしょうか。すごく嫌がられてたりしたら、さすがに悲しいですけど。
と思って顔を上げたんですが、私の予想は完全に外れました。
格納庫の扉から差し込む夕日を横顔に受けながら、西住殿は真剣な視線を私に向けていたんです。
もしかしたら、試合の時ですら見たことがないくらいの、真っ直ぐな視線を。
「あぅ、あの……す、すみませ……!」
てっきり私がウソをついたのが見抜かれてしまって、それで怒ってらっしゃるんだと思った私は、必死で謝罪を口にしようとしましたが……
西住殿の口から出てきたのはあまりにも意外な言葉でした。
「ありがとう、優花里さん」
気が付いたら、一歩歩み寄った西住殿に、私は抱きしめられていて……
鉄と油の匂いに混じって、西住殿自身の甘い香りが鼻に届いて……
「私も、優花里さんのことが大好き。ごめんね、先に言わせちゃって」
西住殿がそう言ってくれたような気がするんですが、もうここからは私の妄想なんでしょうか?
ふわっふわと、熱に浮かされたような状態で家に帰った記憶しかありません。
道中ずっと握っててくれていた西住殿の手の温かさだけは、どうにか覚えてるんですが。
翌日、土曜日の朝。果たして昨日の出来事はどこまでが現実だったのでしょうか、と首を捻りながら玄関を出ましたところ。
「おはよう、優花里さん♪」
に、西住殿が、わざわざお迎えに……
一緒に登校しながら、いくらなんでもこれは恐れ多いですぅと抗議したのですが、そうしたら「じゃあ、明日からはかわりばんこにお迎えに行くことにしよう?」と言われてしまって。
しかも、折角だからと西住殿が強硬に主張されるので、結局学校までまた手を繋いで行くことに……
私はもう、何が何だかわけがわかりませんでした。
これではまるで、私と西住殿が、その……まるで、本当に付き合ってるみたいじゃないですか!?
練習の時は、みんな全く変わった様子はありませんでした。
唯一武部殿だけが、
「ゆかりーん、昨日はどうだったの~うりうり!」
と肘で攻撃してきたのがちょっと痛かったぐらいで、それも冷泉殿が、
「おまえは自分の焦りを人様に向けるな」
と怒ってくれたので止みました。
皆さん全く自然な様子で、全然その……私たち二人の様子に、ツッコミを入れてくれないのであります。
でも、それでようやく逆に気づくことができました。
つまり、これはいわゆる、”逆ドッキリ”というものなんだってことに。
今回のエイプリルフールのいたずらは私が勝手に考えたものなので、他の皆さんにどの時点で見抜かれてしまったのかはわかりませんが……
西住殿を含めた皆さんが、私のウソに乗ることで逆に、サプライズを仕掛けてきているんですよ、要するに!
こうなるともう、私にはウソを告白することすら許されなくなってしまいました。
だって西住殿が、あんなに楽しそうにしてるんですもん。「ふんふふ~ん♪」とボコの歌を鼻歌で歌ったり、私がぼうっと見つめていると振り返って、「なになに、優花里さん?」とにっこり笑ってくれたり……
こんな西住殿を見たのは、あのボコミュージアムに行ったとき以来です。そんなに逆ドッキリが楽しいんでしょうか?
何にしてもですね、とても私には、それをぶちこわしにすることなんてできっこありませんでした。
とにかくこれはそもそも、私が始めてしまったイタズラなのです。西住殿が満足してくださるまでお付き合いするしかないとこの秋山優花里、覚悟を決めたのであります。
まあ、せいぜい半日か、長くて1日ぐらいのことだと思ってたのですが……
翌日の日曜日は、二人でボコミュージアムにお出かけしました。
私にはその、ボコ殿の戦術規範はちょっと、理解しがたいところもあるんですけれど……
何といっても楽しそうな西住殿と一緒にいられるだけで、私まで楽しくて仕方ありません。結局朝から晩まで遊んでしまいました。
月曜日は、朝は私が西住殿をお迎えに行く番です。練習の後の放課後は、二人で戦車喫茶に行きました。
戦車トークで盛り上がってしまって、帰るのがすっかり遅くなってしまいました。
あんこうチームの皆さんとは、よく遊びに行くことがありますけど……こんな風に西住殿と二人っきりでなんて初めてです。
火曜日は、私の母が作ったⅣ号のキャラ弁を、西住殿にもおすそ分けしました。いや、母が二人分勝手に作ってしまったもので……
困ったことに、どうやら私の両親までも逆ドッキリに参加しているようなんですよぉ。
もう完全に、私と西住殿が交際しているものだと決めつけてしまっているんです。困りました。
水曜日は、武部殿たちと一緒に帰ったんですが。
皆さんの後ろに続きながら、一体この逆ドッキリはいつまで続くのでありましょうか、なんて考えながら西住殿の横顔を見つめていたときです。
急に西住殿に腕を引っ張られて、物陰に連れ込まれてしまったんです。皆さんは気づかずに先に行ってしまいます。
そこで、あの、ええと……急に抱きしめられて……目を閉じた西住殿の顔が迫ったと思ったら、唇にふにゅっと柔らかい感触が……
その瞬間の私の頭からは、シュポッ!と勢いよく白旗が上がっていたと思います。
不肖秋山優花里、人生初めての被撃破……じゃなくて、ファ、ファーストキスでありました……
あまりに突然だったので、ちゃんと感触も覚えていないのが心残りです。
「に、にに、にしずみ、どの……?」
と慌てふためいていると、
「優花里さん。そんなに見つめられると私、止まれなくなっちゃうよ? これからは気を付けてください」
と怒られてしまいました。
ええと、申し訳ありません……あれ? 私が悪かったんでしょうか。
木曜日の練習の時は困りました。
だって何かというとその、西住殿が私の髪を触ったり、背中を撫でて来たりされるので……
いや、他の皆さんの注意が向いていない絶妙なタイミングで実行するところは、さすがと感心したのでありますが。
とにかく砲弾を扱っているんですし、練習中とはいえ何かあったら大変です。いくら西住殿でもダメですよぉと抗議すると、ごめんね、これからはしないからとすぐ謝ってくださったんですが。
その代わりにということで、何故かその日はお部屋にお泊りすることになってしまいました。その理屈はよくわからなかったんですが。
いや、もちろん私としては願ったりかなったりなんですよ?
お気に入りの寝袋を持ち込んで、西住殿と二人っきりで思う存分戦車について語り合える! こんな機会、そうそうあるものじゃありませんから。
でも……寝袋の使用は許可されませんでした。
ついでに言いますと、戦車についてのお話も、ほとんどできませんでした。
え? じゃあずっと寝ちゃってたのかって?
うぅ、えっと……そうじゃないんです……
むしろ、二人とも、全く寝ていないというか……その……
西住流の体術のものすごさを思い知ったといいますか……
「にっ西住っ殿っ、どこでこんな、たた卓越した技術をお習いになったので、ありますかっ……!?」
ひたすら翻弄されながらの私の必死の質問に、
「んー? 別に習ったりとか、してないよ? ただ優花里さんが可愛いなーって思ったら、自然に♪」
なんてお答えになる西住殿は……今まで見たことも無いような、いたずらっぽい笑顔をしてました。
先週のエイプリルフール以来、今まで知らなかった西住殿の表情をたくさん発見している気がします。その時は喜んでいる余裕もありませんでしたが。
そして、金曜日の今日です。
西住殿も全く寝ていないはずなんですが、何故か元気はつらつという感じで……武部殿からは、
「みぽりん、やったらとお肌つやつやだけど、どんな化粧水使ってるの!?」
って詰問されていたぐらいです。
困ることはまだまだあります。
昨日までにもまして、何かというと手を繋いだり、髪をわしゃわしゃされたり……人目がないとみるや、その、お尻や太腿をなでなでしたり……されるので……
いえ、もちろん嫌じゃないんですよ!? 西住殿にスキンシップしてもらえて嫌だなんてことは絶対あり得ません。
でもさすがにその、周りが気になるといいますか……恥ずかしいといいますか……
それよりなにより、一番気になっているのはですね。
そんなこんなで、あのエイプリルフールの日からもう、1週間も経ってしまったってことなんです。
未だに全然全く、ドッキリ大成功~!みたいなネタバラシが行われる気配もありません。
あの、ここから先、一体私はどうしたらいいんでしょうか?
あっ、そんな呆れた顔で出ていこうとしないでください! 何でも相談に乗ってくださるんじゃなかったんですか!?
お願いです、私あんまり時間が無いんです。
何でかというとですね、その……最近西住殿、私がおそばを離れることに大変になんというか、敏感といいますか、厳しくなられたといいますか……
今日ここに来るのもですね、「どこに行くの?」「誰に会うの?」「浮気は絶対ダメだからね、優花里さん」とか言われて大変だったんです。
笑顔ではありましたけど、あの目つきは冗談で言ってるようには見えませんでした。
全く、冤罪もいいところでありますよ! 私が西住殿以外の方になんて、馬鹿馬鹿しくって笑っちゃいます。
それこそエイプリルフールです。たとえ相手が7TP双砲塔型でもあり得ません。
まあいくら7TPがかっこよくても、浮気するとか物理的に無理なんですけど。
なんですけど結局、西住殿に完全に納得していただくことはできなくて……今も、この部室のすぐ外でずっと待ってらっしゃるという状況でして……
だから、どうか早く質問に答えていただけませんでしょうか。
この逆ドッキリ企画は、いつまで続くんでしょうか。
エイプリル・フールの有効期間って……一体いつまでなのでありますかっ──?
・終わりであります
・安易なウソは身を滅ぼしますので皆様もお気をつけください
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません