旧版【オリジナル】乙女合体ガチユリダー【完結編】 (11)

このスレは、以前設定の見直しにより中断した旧版ガチユリダーの続きとなります。
新版は前後に別のストーリーが絡むため、大分設定やキャラクターを見直す事になってしまったので
ここはきっちり旧版は旧版で完結させようと決めた次第です。
だいぶ間を開けてしまいました。
百合が世界を救う悪ふざけのような物語、よろしければ最後までお付き合いください。

[1スレ目]
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1380257006


[あらすじ]トドジャン!!
西暦2038年、ジオイドという正体不明のウィルスによる災害で全生命の半数が死滅した。

その五年後、海上に築かれた城塞都市『島京(とうきょう)』にて義体技術によって生き延びた子供たちの一人──琴主交(ことぬしまじる)
そして可能性を司る仮想粒子『詩実体』を研究し世界を救おうとする怪しい科学者の女性──彩乃清泉(あやのきよみ)
その二人が出会ったことから物語は始まった。

先の災害により産み出された怪獣と原因たるガイアの悪意に対抗できる力『S.N.W.適性』を持っていた交は、運命に導かれるように彩乃の作り出した神性機械兵器──『乙女合体ガチユリダー』のパイロットとして戦う事になる。

ガチユリダーに搭載されたウラノスエンジンは意思を持ち、正純まつり、愛糸はじめ、根本さいかを含めたパイロット達のイチャイチャ……即ち百合を拝むことで無限の可能性エネルギー『ヘーメラー因子』を産み出し怪獣を正常なガイアの人格へと還すことができるのだ。

ガチユリダーはジオイドから産まれた怪獣達との戦いに勝ち進んでいった。
しかし戦いの内に、ガイアを狂わせた『ニュクス因子』を仲間の一人である筈のはじめ自身が放っている事が発覚する。
真実を欲した交たちは30年前から始まる科学と魔法、生者と死者、過去と現在の因縁が交わる地、奈良へと旅立った。
そして明かされるはじめの正体、突然の怪獣の襲撃。
突如現れた魔法使い──アベルベータに浚われたはじめは、クローンたる己のオリジナル──燕糸八重架の意識を目覚めさせられてしまう。
世界にすら干渉する強力なS.N.W.保持者である八重架は、アベルに従い彼に従うリリー戦闘機アダマスの半身を召喚。
ついにガチユリダーの前にニュクス因子を産み出した総ての黒幕にしてアベルと八重架の操る破械神──クロノスが立ちはだかる!



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1457976799



登場人物紹介

ガチユリダーパイロット

琴主交:後悔しないことと後悔を無意味にしないことを信条とし、だれとも明るく接し惹き付ける明朗快活な少女。
ウィルス災害によって廃墟のジャングルと化した東京で暮らし続けたため運動神経と野生染みた直感力に優れている。
可能性を操作するため通常倒せないジオイドや怪獣を観測することで固定化し倒すことのできるS.N.W.適正の持ち主。
かつて妹が居たが姉妹揃ってジオイドに感染し、妹の義体化が間に合わず一人生き延びてしまった。
その末シスコンを拗らせてロリコンになった。

正純まつり:可愛らしくおしとやかで、いざと言う時には誰にも譲らない意思の強さを感じさせる少女。
ウィルス災害の中、命を賭して義体技術を完成させた技術者正純厳の娘。
そのため義体の人々を守るという使命感が強く、ガチユリダーの訓練からプログラム・ハッキングの資格まで身に付けている。
しかしその使命感は根強いコンプレックスにも繋がっておりジオイドにその弱点を突かれるが、それすら彼女の強固な意思を止めることは出来なかった。

愛糸はじめ:失った記憶と過去に小さな体を縛られたくノ一ボディーガード。
ウィルス災害当時特に深刻な被害が出た地域で唯一生き延びた代わりに、総ての記憶を失っていた。
蜘糸商会に預けられ、学校での苛めから庇ってくれた姉代わりともいえるまつりに憧れ、彼女を護れるようになるため育ての親から忍術……もといごく普通の護身術を学ぶ。
戦闘能力は高いが、意外なことによく泣いてしまう生粋の小動物体質。
ボディーガードとして、そして誰よりも近くにいる親友としてまつりが好きであることを認め、出生に関わる真実を受け入れる覚悟を決め奈良へと旅立った。
その正体は……

根本さいか:ニュクス因子に犯され暴走するガイアから逃れ顕現した化身の少女。
元が地母神たる地球意思だからか女の子大好きのガチ百合娘。
ガチユリダーのパイロットを探るために交と同じクラスに転入してきたが自身が誰よりも年上と自覚しており、なにかと格好つけようとしてはスペックの低さを露呈する残念なポンコツ元女神。
スタイルも良いし背も高いため黙っていればそのままハーレムを築ける程完璧なのにそれには気付かず、寧ろそのダメさが可愛いとファンクラブでは専らの噂。
こめかみから延びる二房の長髪がジオイドの触手となっておりハッキングから戦闘までこなすことができるが、それ以外は普通の人間の女の子。
ジオイド災害の最中に顕現し、ウィルスの侵食で苦しむ人々を目の当たりにして罪悪感を抱え過ごしてきた。

P.A.U.R.

彩乃清泉:未だ謎の多い黒尽くめの怪しい女科学者。
常に人を喰ったような軽い口調と笑みを浮かべ、パイロット達の成長を見守っている。
30年前、『魔法』という後に詩実体論の基礎理論となる異端技術を使い世界を破壊しようとした。
それも死んだ恋人や八重架のような不幸を無かったことにするための暴挙だったのだが、容呼達によって妨害され失敗。
魔法に携わった五年間の記憶を失い、肉体の成長も止まってしまった。
自分の罪を思い出すために資料から20年かけて詩実体論を組み上げ、ウィルス災害の予知から義体の製作に関わり、そしてガイアに対抗するためガチユリダーを完成し迎撃の準備を整えた。
ガラケー愛好家で色々改造して最新の通信機器は勿論本部のコンピュータすら凌駕するオーバースペックのガラケーを持ち歩いている。


蜘糸商会/燕糸家

燕糸容呼:白い髪の外見と年齢が一致しない似非関西弁の少女(?)にして、大財閥蜘糸商会グループの会長。
無邪気な子供らしい外見とは裏腹に、30年間のうちに蜘糸商会を大財閥にまで成長させた。
正純厳亡き後正純重工を合併し、まつりを養母として養っている。
その正体は30年前八重架が五次元世界から呼び出し固定化した名もなき神格。
八重架の死から総てを破壊しようとした彩乃を止めるため、自らも神の力を手放し食い止めた。
そんな過去の経験から一時期でも家族であった者達は大切にする性分、故に彩乃が記憶を取り戻し暴走したら互いの命を賭けてでも止める覚悟をしている。
セクハラ魔神。

燕糸八尾:蜘糸商会の現社長にして会長秘書。
黒スーツにサンバイザーが似合う完璧超人で八尾の育ての親。
表向きは容呼の妹ということになっているが、本当は燕糸家に仕える忍の末裔。
八重架が死んだ後、姉代わりになった容呼と共に彩乃を止めた一人。
つまりついに護身術が忍術であることが判明した。

燕糸八重架(死亡)
30年前、恋人の蘇生を諦め失意のそこに沈んでいた彩乃とともにいた燕糸神社の巫女。
若いながらも分裂しかけていた家の将来のため、そして彩乃への憧れで魔法を研究に協力していた。
五次元世界に直接干渉するほどの強力なS.N.W.保持者であり、彩乃の術とあわせて神である容呼をこの世界に固定化してしまった。
皮肉なことに、それが燕糸家における内部分裂を激化させ
逆上した身内の凶行によって命を落としてしまう。
その悲劇が、この物語に関わる総ての人物の運命を狂わせた。

???

アベルβ:黒いリリーブレード、アダマスを駆る黒幕の一人。
その正体は彩乃にかつて魔法を伝授した恋人のクローン。
病弱らしくすぐ吐血する問題を除けば普段は好青年なのだが何らかの拍子でその人格は豹変する。
目的のためなら手段を選ばず、生命の根絶こそが救いとなると考えているなど狂気を覗かせている。
はじめと同じように感情の起伏でニュクス因子を放出している。

八重架(?)=愛糸はじめ
はじめの正体、そして死んだ燕糸八重架のクローンである本来の人格。
必要なときにのみ解凍される形ではじめと入れ替わり、クロノスの半身であるウェヌスをオリジナル譲りの強力なS.N.W.によって召喚した。
そして解凍された今、はじめの意識は彼女に飲み込まれようとしている。

明日から本編の投稿を開始します。

前スレ>>203から

[2005年 ある夏の日]
 私は、ブランコに一人座っていた。
 家に帰っても、待っているのは両親の怒声と物を投げる音だけだった。
 だから私は帰りたくなかった、でも帰る場所はあそこしかなかった。
 だから、それは私に出来るささやかな抵抗だった。

 消えたかったのか

 何かに連れていって欲しかったのか

 どちらにしてもなんて浅はかな子供の夢だろう。
 でも、その日私は……

「君に、現実を壊す覚悟があるかね?」

 差しのべられた手を、掴んでしまったのだ。

第8話『そして来るは罪の残滓(後編)』


[奈良の某山中]

 それは、異様な光景だった。
 片や燃えるような赤い翼の巨神、片や光を飲み込むような漆黒の巨神
 似ているようで、全く違う姿。
 しかし、交には何故かわかってしまう
 あれは、あの漆黒の巨神は自分達と同じものだと……その身に纏う想いが、愛か憎しみかの違いだと。
 黒い巨神、クロノスの纏う最早ニュクス因子などという名すら冠せない程強烈な憎しみ。
 赤い翼の巨神、ガチユリダールベリムスタイルのコックピットで、交はごくりと息を飲む。
 だが、彼女には聞かなければならないことがあった。

 何故ニュクス因子を放つのか……違う
 ウィルス災害を起こしたのはお前なのか……違う
 お前は何者なのか……違う
 息を吸って、交は目の前の巨神を繰る男──アベルに向けて声を出して訪ねた。

琴主「…あんたは…それでいいの?」・

 交の問に、クロノスに乗るアベルは少しの間をおいて訪ね返した。

アベル『……どういう事かね?』・

琴主「あんたははじめちゃんの事、『妹』って呼んでた……でもその妹を苦しめるようなまねをして、あんたはそれで良いのかってきいてるんだ」・

 交の声は、次第に震えていく。
 交にはわかるのだ、ガチユリダーを通してはじめの身に何が起こっているのか。
 感覚的にでしかない、だがしかし……はじめは明らかにクロノスの中で苦しんでいると。

アベル『……成る程、確かに今のはじめという人格も確かに肉体的には地続きの僕の妹だね』・

琴主「……」・ギュゥ

アベル『全てを思い出せばきっと彼女は僕に賛同するだろう…いずれ僕諸共消えて、物質として永遠の安寧を得るんだ。過程には何の意味もないね?』・

琴主「………そうか、わかったよ」グ グ グ グ・ン

 交は強く操舵を握り、一気に振りかぶる。・

 その緑色の瞳には、燃えるような怒りが灯っていた!!

琴主「あんたは……ただの馬鹿野郎だ!!!!」ゴガアアアアアァァァァァン!!!!・


 ガチユリダーはクロノスの顔面をフルスイングで殴りつけた!・
 インパクトの直前間接部から紅色の風が吹き出しガチユリダーの拳を強く押し出し・、衝撃が大気と大地を大きく揺らした。
 衝撃波が空間を歪め、木々が円形に薙ぎ倒される。・

アベル『ああ、そうかね!!』ギュロッ ギョン

 一瞬だけクロノスのアイカメラの中に血走った瞳が揺れた気がした。
 咄嗟に拳を離したガチユリダーはテンタクルウィップを両手に構え反撃に備える……だが
 交の後ろで翼と鞭の制御をするさいかの体が突然跳ねた。

根本「……っぎ!!いぃっ!?」ビクン ガチン

琴主「!!さいか、大丈夫!?」ギギギ……ギギ……ギ

 さいかと共に、ガチユリダーそのものも空気が見えないコンクリートになってしまったかのように動きを止めてしまった。

[caution!!]
[ Interference by S.N.W. force field ]
[ Please refer to the resistance due to S.N.W. ability ]

交「S.N.W.でガチユリダーを止めた……!?」

根本「ふぅん、同じことが出来るってわけ。でもね、それ何度もやられてる私を……な、め、る……!!」ギギギ……バキン

ガチユリダー『なぁぁぁあああ!!』バギィイン

 さいかの気合いで、ガチユリダーはS.N.W.の結界を引きちぎった。
 しかしその時にはすでに、クロノスが眼前に迫っていた。
 オーガススタイルの鬼面のような機械の口が、嘲笑うかのように歪んだのを見た交とさいかは反射的に後じさるが……

アベル『あまいねぇ』ガシッ……メキメキメキメキ

根本「うぁっ、ああああああ!!!!」

琴主「ぐぅっぅぅぅぅぅっ!!?」

 クロノスがガチユリダーの翼を掴むと、そこから血管のように黒い触手が伸びて潜り込み、胴体へと侵食する。
 二人は腕の中をかき毟られるような激痛に悲鳴をあげた。
 だが交の怒りはこの程度でかき消されはしなかった。

琴主「こんのぉぉぉぉぉ!!」ガッ ブォン

 ガチユリダーはクロノスの腕をつかみ、背負い投げの要領で投げ飛ばすと……

琴主「はじめちゃんを……かえせえええええ!!!!」ブァ……ゴガアアアァァァァァ

 その頭部目掛けて、渾身の回し蹴りを放った!

アベル『ガッハ……ァ!?』ゴシャァァァァ

 アベルの短い悲鳴と共に、クロノスは地に落ちる。
 その姿を見て、交とガチユリダーはガッツポーズをとって啖呵を切った。

琴主「見たか!!」ガッ

根本「ふふふ……まじるの根性、甘く見るからそうなるの……よ……」ヨロッ

琴主「さいか?……!!」

 交は振り向くと目を見開いた。
 寒そうに両肩を押さえて震えるさいかの頭から生えた触手が、毛先から黒く染まっていく……!

 交がうろたえている間にクロノスは立ち上がった。

アベル『やれやれ、八重架も乗っているのに無茶をするね……』

根本「やられたわ……っ、あいつ……私なんか触れるだけで、怪獣に出来たんだ……っあ」ガクガク

琴主「怪獣……!?まさか、ニュクス因子!?」

容呼『まじるさん、今すぐさいかさんとまつりさんを入れ換えますえ!!……まつりさん!!』

正純『はいっ!!』

[ Pilot exchange preparation ...... OK ]
[ Frame change - Normal style ]

 どこからか延びたタキオンパルスの光線がさいかの胸に刺さる。
 するとさいかは光の中に消え、代わりにまつりが現れた。

ガチユリダー『!!』ガゴォン!!……ガチィン!!

 それと同時にガチユリダーの翼が分解して舞い飛び、磁石のように本来の位置へと組み合わさっていく。

正純「はじめちゃんだけでなく、さいかさんまで……もう、堪忍袋の緒が切れました!!」

 交だけでなくまつりの怒りも受けて、ガチユリダーのカメラアイが光り、ピンク色の装甲が青く染まっていく。

正純『ガチユリダー、ノーマルスタイル!!』ガシィィィン

アベル『ならばどうするね!!』ガシュゥン ゴコン ガシッ

 挑発するような声と共に、クロノスはバックパックから武骨な鉈のような機械を手に取った。
 いや、鉈ではない……その先端に空いた孔は剣銃……リリーランチャーのそれだった。

交「ぶっ壊してでも……」

正純「取り戻します!!コール!!」

[ call the Lily Liberty ]
[ And it emits a Sword Gun]

ガッギィィィィン!!!!

 クロノスが振り下ろす鉈銃を、上空を旋回するリリーリバディから射出されたガチユリダーのリリーランチャーが防ぐ!

正純「まじるさん!!」

琴主「わかった!!」ガッ ガッギィィィィン

アベル『……ッ!!』

 ガチユリダーが掴み取り、勢いのままに鉈銃を弾きあげる。
 そして、ガチユリダーはリリーランチャーをを振り上げ……

[Change complete]

正純「これで……」キィィィィン

琴主「終わりだああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」ブォ

 振り下ろした!!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今回はここまで
この手の引きは『やったか!?』とほぼ同じ効果があると思う


[燕糸神社 境内]
容呼「さいかさん!!さいかさん!!」ユサユサ

根本「はぁっ……はぁっ……」ズズズズ

 容呼は必死にさいかを揺り起こそうとするが、触手は既に根本まで真っ黒に染まり髪の一部を黒く染めていた。

容呼「……っ、こうなったら!」バッ

 容呼が髪留めに手をだしたその時だった。

根本「貴女の核を……私にいれるとかやめてよ?」

容呼「っ」ビクッ

 さいかは、息を荒げながらもなんとか上半身を起こす。

根本「ふぅん……その髪留めがあるから、貴女はこの世界に固定できてるんでしょ?」

容呼「……そうや、これは私を召喚した八重架の物。せやからこれを貴女に」

 そこまで言ったところで、さいかは容呼の手を押し除けた。

根本「いつか、こうなる覚悟はできてんのよ……でも、今はまだ……治療だけ、お願い」

容呼「なんでや……私にまた、子供を犠牲にしろいうんか!!」

 容呼は叫ぶ、しかしさいかは自分の手で起き上がった。

根本「だから私は子供じゃないっての……ガイアの化身よ。下手な神様よりよっぽど世界を見てきたわよ……でもね、触れあったのは初めてなのよ」グググ

根本「だから、けじめは付けないといけない。あの男に、一発くらい見舞ってからガイアに還ってやる!」

容呼「そんな……あかん、さいかさん!それは……!?」

ドクン

根本「!?」

 話が唐突に途切れた。
 さいかと容呼は戦いの場に目を向ける。
 そのとき、丁度ガチユリダーの剣銃がクロノス目掛けて振り上げられていた。

容呼「まさか……っ」ドクン

 だが、二人には見えていた。

根本「うそ……冗談でしょう?」ドクン

 クロノスの機体から溢れている、総てを飲み込むほどの黒い力が。

 リリーランチャーが、振り下ろされる!!


ドクン!!


アベル『あ、は、は、ハ、ハ、ハ、ハハハハハハハ!!!!』ゴバアアアァァァァ

 その時、アベルの高笑いと共にクロノスから黒い光が溢れだした。

琴主「なっ……うあっ!?」ゴバアアアァァァァ

正純「まさか……きゃあっ!?」ゴバアアアァァァァ

 黒い光の奔流にリリーランチャーは弾かれ、それどころかガチユリダーすら大きく後退させられてしまった。
 そして、ガチユリダーが再び顔をあげる……そして二人は、言葉を失った。

琴主「…………な」ドクン

正純「そんな……まさか……」ドクン

 それは確かに、ガチユリダーと同じもの
だ っ た 。
 しかし、それは最早ガチユリダーとすら呼べないものだった。

 流線形で生物的だったフォルムは、内側からはち切れんばかりの触手の塊によって盛り上がっていた。
 破けた部位は覆うかのように虹色に輝く新しい装甲と触手で包まれ、必然的にその全体的な質量は大きく増していた。
 そして機械として整っていた鬼面は、高笑いする地獄の亡者のように歪みその異常な『成長』を物語っていた。

 そして異常はそれだけではなかった……

琴主「なんだよ……なんだよこれ!!」ギギギ……ギギギィィィィィ

 世界にノイズが走ったかのように、空が、景色が、『ぶれ』始める。
 ぶれた景色から交は、無意識に目をそらした。 

琴主「……っ」

正純「まじるさん……?」

琴主「あれは……わかる、あれは私が見ちゃいけないものだ……っ!!」ブルッ

 先程まで怒りに震えていた筈の操舵を握る交の手が、今は恐怖に震えていた。

琴主「熱いような、寒いような……違う、『あっち』は……何もないんだ!」

正純「まさか……はじめちゃんの力!? はじめちゃんは!?」


アベル『もう、遅いよ』


 アベルの言葉と同時に、ぐばぉと粘着質な音をたてて、かつてクロノスだったものの腹が開いた。
 そこには、嘗ての巫女服に身を包んだはじめの……八重架の姿があった。
 しかし、もうその瞳はこの世界のなにも写していない。

アベル『理解るかい審神者、その瞳は五次元を挟んだ数多の世界の向こうを映し、その先に待つ世界を引き寄せるための装置。
 僕らの望む世界……『死の世界』で、この世界を踏み潰せ!』

八重架『生命に汚され、終わりを約束された世界に……はぁ、今こそ真の世界を呼び起こし悪夢の終焉を』

琴主「はじめ……ちゃん……」

 それは、はじめからあった可能性。
 この世界に、はじめから誰もいなかった世界。
 手を伸ばすはじめは、まるで恋い焦がれるように目を細めてその『死の世界』を招き寄せる。

アベル『ようやく、ようやく来るんだ。可能性の果ての果て、最悪を回避する最良の世界……これで地球(ガイア)は救われる!これで地球は救われる!!』

クロノス『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!』

琴主「っ、させるかぁぁぁ!!」キィィィィ……ゴバアアアァァァァ!!

 その真意を感じ取った交は、最大チャージしたリリーランチャーを巨大化したクロノスに向けて放つ。
 希望を込めた黄金色の光は闇色の光を一瞬だけかき消した……だが、すぐまた沸き出した黒い光に包まれる。
 結果として、クロノスは無傷のままだった。

正純「そん……な……」シュォォォ……

琴主「最大出力の、リリーインパクトも……届かないなんて……っまだまだぁ!!」グァッ

 ガチユリダーは尚もリリーランチャーを振り上げてクロノスに切りかかった!


[燕糸神社 境内]

根本「そんなっ……ガチユリダーでさえ、まるで歯が立たないなんて……」ガクッ

容呼「はじめさんが、取り込まれた……止める方法はもう……」

 さいかを抱き上げる容呼が、力なく肩を落としたその時だった。
 容呼の携帯端末から、さいかにも聞こえるように声が漏れる。

綾乃『あらあら……私を止めた神様が、ずいぶん弱気じゃないねぇ?』

容呼「……!! 綾乃、大丈夫なんか!?」

綾乃『いひひ、正直きついわね……っ、でも……諦める訳にはいかないでしょう?容呼、あれを見ちゃったら……』

 綾乃の言葉に、容呼とさいかは戦場を見る。

ガチユリダー『うぉぉぉぉおおおお!!!!!』ガシュン!! ズバァ

 ガチユリダーは交の雄叫びを発しながら、リリーランチャーで微動だにしないクロノスを切り続けていた。
 しかし、幾ら切ってもその身を包む莫大なニュクス因子の壁に遮られ……しかも反撃するように吹き出したそれに弾き飛ばされる。
 その力はノーマルスタイルの装甲を容易く弾き飛ばし、感覚器機を焼いていく。
 もはや森には飛び散ったガチユリダーの装甲の破片があちこちに散乱していた。

ガチユリダー『ぐあぁぁぁっ!?くっ、こんのぉぉぉぉ!!』

 それでも、交は、まつりは……ガチユリダーは諦めない。

容呼「ガチユリダーが……諦めてない!?」

綾乃『ウラノスエンジンは、嘗て如何なる干渉にも沈黙していたわ。
 あらゆる刺激はその鋼の神に何も与えることは叶わず、唯一与えられた刺激がパイロット達の『愛』だった』

根本「……」///

綾乃『でも見て、『あの子』はあんなにも頑張っているじゃない……審神者だからじゃない、巫女たるパイロットでもない……他でもない彼女達だからこそガチユリダーは力を貸してくれている』

綾乃『嘗て存在を賭けてこの世界を救った何処かの誰かのように……』

 綾乃の言葉に、容呼はさいかの手を強く握る。

綾乃『子供達が頑張っているのよ、大人が立って意地を見せないでどうするのよ、ねぇ!!』ダン!!

[ The second combined sequence prototype ]
[ Ignition command receipt ]

[ This program is likely to leave a serious failure in the GYD]
[ Do you want to run? ......_[Y/N] ]

 容呼の端末に、プログラムの羅列が表示される。

容呼「これは……!!」

根本「えっと、らいくりー……」

綾乃『こんなこともあろうかと、ねぇ♪

さぁさいかちゃん、容呼、大人の意地を見せるときが来たわよん♪』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
こんなこともあろうかと、は科学者が一生に一度は言っておきたい言葉

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