加代「(息子が…未来が小学生になった)」

　　「(毎日が凄く充実していてとても満足してる)」

　　「(ヒロミともすごくうまくいってるしすごく幸せ)」

　　「(……でも、最近凄く辛い夢を見る)」

　　「(あの人から…お母さんから解放されなくて…ずっとずっと虐待されて…)」

　　「(サトルも…誰も助けてくれないまま苦しくて死んでしまう夢…)」

　　「(…なんでサトルの名前が出て来たのかな)」

加代「(どうしてこんな夢を見るのか分からない…)」

　　「(昨日ヒロミに電話で相談してみたけど、仕事が忙しいらしくてあまり話せなかった…)」

　　「(なんでも急ぎの患者がいるらしい…どうでもいいけど)」

　　「(気づかない内にストレスとか感じてたのかな…)」

　　「(気をつけないと…あの人みたいにはなりたくない…)」

　　「(……)」

加代「(買い物行かなくちゃ…)」

　　「(今日は鶏肉が安いんだっけ…)」

　　「(あ…)」

　　「(あの小さい子…自転車で随分スピード出してる)」

　　「(…！　車が出てきて！　ぶつかった！)」

　　「(事故だ！どうしよう…？)」

　　「(血が出て…ど、どうすればいいのかな…？)」

　　「(とりあえず救急車を…)」

　　「(っ！？)」

　　「(…頭が凄く痛い、なに…これ…)」

ー




ーーー

ーーー





ー

加代「(……今、一瞬意識が…)」

　　「(…そうだ、事故！)」

　　「(あれ…？　何も起きてない)」

　　「(そんな筈ない…確かに目の前で子供が車にはねられて…)」

　　「(あれ、あそこにいるのって…さっきと同じ子…？)」

　　「(また猛スピードで突っ込んで来る…)」

　　「(車が来る…止めなきゃ…！)」

加代「君！そんなにスピード出したら危ないよー！！」

子供「え！？何！？」ｷｷｨｰ!!

子供「く、車！スレスレだ…声聞かないでブレーキしてなかったらぶつかってた…あっぶねー！！」

車の主「前見ろバカヤロー！」

子供「ごめんなさーい！」

加代「(今の…何？)」

加代「(私は…自転車と車がぶつかるところを見て…)」

　　「(それから…)」

　　「(それから…？)」

　　「(…過去に戻った…？)」

　　「(…そんなことあるわけない、タイムトラベルとかあり得ない話だし…)」

　　「(じゃあ…今のはなんだったの…？)」

　　「(…まあいいよね、たまたまだよ…)」

　　「(買い物行かなくちゃ…)」

加代「(その日の夜…とても奇妙な夢を見た…)」

　　「(小学校の頃の夢…)」

　　「(でも…私の思い出とは違う夢…ずっと私はひとりぼっちで…助けて欲しいのに誰も助けてくれない)」

　　「(泣いても叫んでも誰も助けてくれなくて…寒くて凍えて…)」

　　「(…私はどうやってみんなと仲良くなったんだっけ…)」

　　「(…サトルのおかげ…？)」

　　「(そういえば…サトルと仲良くなって…そしたらいつからみんなとよく遊ぶようになって…)」

　　「(バスの中に泊まったりもしたなぁ…)」

　　「(そういえばサトルがあの時はずっと助けてくれたんだ…)」

　　「(手を引っ張ってくれて…)」

　　「(何考えてるの…私…)」

　　「(ヒロミ…最近帰り遅いな…)」

加代「(今日もまだヒロミが帰って来ない…)」

　　「(昨日遅かったから今日は早く帰るって言ってたのに…)」

　　「(もうすぐ結婚記念日だし休みを取るために忙しいのは分かるけど…)」

　　「(馬鹿なの？　無理して体壊しても知らないからね…)」

　　「(未来も寂しそうにしてるし…)」

　　「(…本当に仕事なのかな？)」

　　「(…考え過ぎだよね、ごめんねヒロミ)」

　　「(ヒロミが好きなもの沢山作って待ってるからね…)」

　　「(早く帰って来ないかな…)」

加代「(……)」

　　「(帰って来ない…)」

　　「(今日は連絡もないし…何かがおかしい)」

　　「(一昨日も昨日も朝帰り…)」

　　「(ご飯は食べてきたって言うし…)」

　　「(……)」

　　「(仕事が忙しいんだよね…)」

　　「(ヒロミは愛してるって言ってくれたし…)」

　　「(……)」

　　「(…今日も好きなもの作って待ってるから)」

　「(今日こそ早く、帰って来て)」

加代「……」

加代「(ヒロミが朝帰りをするようになってから一週間たった…)」

　　「(もう…遅くなる連絡すら来なくなった)」

　　「(家に帰って来たら寝て…起きてご飯を食べて仕事に行く…)」

　　「(いつも土日は未来と遊んでいてくれたのに今週はずっと寝室で寝ていた…)」

　　「(不況だって言ってたけど…こんなに急に忙しくなるのかな？)」

　　「(最近…ここ一週間だけど毎日悪夢を見てる…)」

　　「(忘れたと思ってたこととか…覚えがないことも…嫌なことを沢山夢に見る…)」

　　「(…そう言えばあの予知夢)」

　　「(ヒロミがいつ帰って来るかとか分からないのかな…)」

　　「(ご飯が冷めないうちに帰ってきてくれるといいんだけど…)」

加代「……」

加代「(私…朝鏡で見たら酷い顔してたな)」

　　「(くまも濃かったし…髪もボサボサだし…)」

　　「(ヒロミ…何してるんだろう…)」

　　「(昔は良かったな…)」

　　「(昔に戻るのは嫌…！)」ｿﾞｸｯ

　　「(…あれ？なんで…昔ってそうじゃなくて…)」

　　「(…ダメ、頭の中に…嫌な記憶しか…出て、こない…)」

　　「(嫌だ…助けて…助けてよ…)」

　　「(……)」

　　「(…そろそろ未来が、帰ってくる)」

　　「(夕飯…作ってあげなきゃ…私みたいに…死んじゃ…)」

　　「(死ん…？　なんで、私…)」

　　「(疲れてるんだよね…そうだよね…)」

　　「(どうすればいいんだろう…)」

加代「(ヒロミが久しぶりに早く帰って来た)」

　　「(記念日はどうしても外せない用事が出来て朝から出かけるらしい)」

　　「(夕ご飯を食べてすぐヒロミは寝てしまった)」

　　「(……)」

　　「(そう言えば今日久しぶりにサトルに会った)」

　　「(身体に不自由はなく健康に暮らせているらしい)」

　　「(私も頑張らなきゃ)」

　　「(…夢にもサトルが出てきてくれたら嬉しいのに)」

　　「(ヒロミが帰って来てくれたらもっと嬉しいけど…)」

　　「(…最近未来が騒がしく感じる様になってきた)」

　　「(元気過ぎるのも考えものかな…なんて)」

　　「(よし、頑張ろう)」

加代「(夢にサトルが出てきた…)」

　　「(私に一生懸命話しかけてくれて…それから私を気使ってくれて)」

　　「(夢なのに私にそこまでするなんて…馬鹿なの？)」

　　「(……)」

　　「(おかげで少し元気が出たけど…)」

　　「(今日は久しぶりにお洒落をしてみた)」

　　「(ヒロミも早めに帰ってきたし…すごく嬉しい)」

　　「(きっと、ヒロミ…お洒落してるの気付くよね…)」

　　「(記念日の埋め合わせはきちんとするって言ってくれたし…)」

　　「(今日してくれてもいいんだけど…)」

　　「(未来が起きると困るし…やめにしておいた)」

　　「(また元の生活に戻れそう…なのかな)」

　　「(……)」

　　「(サトル…ありがとうね…)」

加代「(悪夢はサトルが出てくる様になってからそういう…嫌なことには到っていない)」

　　「(だけど…)」

　　「(見間違いだよね…)」

　　「(夢だよね)」

　　「……」

　　「(今日…サトルが未来と遊んでくれるって言ってくれて…それで遊びに行ってた未来を迎えに行ったとき…)」

　　「(ううん、見間違いだよ…)」

　　「(…ヒロミが浮気なんて)」

　　「(嘘だよね？)」

　　「(……)」

　　「(帰ってきたら…聞いてみよう)」

　　「(信じてるよ…ヒロミ)」