伊織「バレンタイン」 (27)
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都内スタジオ
P「お疲れさま、伊織! 今日も絶好調だったな!」
伊織「ふんっ、当然じゃない!」
P「よし、それじゃあ事務所に戻るか!」
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───
車内
P「街もすっかりバレンタインムードだなぁ……」
伊織「チョコレート業界に乗せられちゃって、バカみたい」
P「ははっ、うちの業界はイベントとかで大助かりだけどな」
伊織「……ねぇ?」
P「ん? どうした?」
伊織「やっぱりアンタも……その……チョコレートが欲しかったりするの?」
P「う~ん、そりゃ貰えたら嬉しいんだろうけど……」
伊織「?」
P「今まで母親からしか貰ったことないんだよなぁ……特に上京してからなんて一度も……」
伊織「……ふ~ん」
P「あっ! もしかして伊織がくれるのか?」
伊織「ば、バカ! なんで私がアンタなんかにチョコをあげなきゃいけないのよ! それに明日はオフなんだから、アンタとは会わないじゃない! 」
P「す、すいません」
伊織「ったく……」
伊織「……まぁ、気が向いたら今度、アンタが見たこともないような高級チョコレートあげるわよ」
P「おお! 楽しみだなぁ!」
伊織「気が向いたらって言ったでしょ!」
伊織「あっ、ちょっとそこの本屋の前で降ろしてくれる?」
P「ん? なんか欲しいものでもあるのか?」
伊織「そ、その……参考書を買うだけよ」
───
P「本当に待ってなくていいのか?」
伊織「新堂を迎えにこさせるから平気よ」
P「そうか。じゃあ、一応バレないように気をつけてな」
伊織「わかったわ」
P「それじゃあ、また明後日」
伊織「ええ。気をつけてね」
P「ははっ、ありがとう」
伊織「行ったわね……」
伊織「えっと……料理コーナーはどこかしら?」
───
─
水瀬邸 厨房
伊織「えーと……まずはチョコを刻んで湯煎に……」
伊織「きゃあ! み、水が中に!」
伊織「ど、どうすれば!」
パティシエ「お嬢様! 大丈夫ですか!?」
伊織「だ、大丈夫よ! 私ひとりでやるから下がってなさい!」
パティシエ「しかし……」
伊織「うるさいわね! いいからここから出てって!」
パティシエ「は、はい!」
伊織「…………」
伊織「よし、もう一度チャレンジよ!」
伊織「今度は丁寧に湯煎を……」
伊織「温度を計りながらゴムベラで……」
伊織「あぁ! 今度は温度が上がり過ぎたわ!」
パティシエ「お嬢様!」
伊織「だから大丈夫よ!」
伊織「次は温度を下げて……」
パティシエ「お嬢様!!」
伊織「しつこいわね!!!!」
───
伊織「はぁ……はぁ……で、出来たわ!」
伊織「見た目は……い、一応ハートに見えるわよね……」
伊織「あとはラッピングをして……リボンをかけて……」
伊織「……♪」
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765プロ
P「よし、これで一段落かな」
小鳥「お疲れさまです、プロデューサーさん。 コーヒー淹れたので良かったらどうぞ」
P「ありがとうございます、音無さん」
小鳥「いえいえ。 あと良かったらこれもどうぞ」
P「え? これって」
小鳥「本命ですよ、本命!」
小鳥「……ってのは冗談で、義理チョコなんですが、これが結構な有名店のやつで」
ガチャ!! バタンッ!!
P「ん? 今のって」
小鳥(あっ、不味ったかも……)
─
──
伊織「シャラララ 素敵にキッス♪」
伊織「ふふっ、アイツどんな顔をするのかしら?」
伊織「お母様からしか貰ったことないって言ってたけど……」
伊織「もしかしたら、びっくりして倒れちゃったりして」
伊織「なーんてね!」
……ガチャ
伊織(なぜかこっそり入っちゃったけど……アイツはどこに……いた!)
伊織(小鳥? 何してるのかしら? よく聞き取れないわね)
伊織(あれ? 小鳥が持ってるのって……もしかして……)
『本命ですよ、本命 !』
伊織「……え?」
───
─
───
公園
伊織「はぁ……はぁ……」
伊織「はぁ……」
伊織「ちょっと待って……なんで私が走ってんのよ……」
伊織「別にアイツが本命チョコを貰ってるからって、私には関係ないじゃないの……」
伊織「そもそも、バレンタインなんてバカらしいって言ったのは私じゃない……」
伊織「そうよ……バカみたい……」
伊織「なにひとりで浮かれてたのかしら……」
伊織「…………」
伊織「帰りましょう……」
「──おり」
伊織「…………」
「伊織っ!!」
伊織「え?」
P「はぁ……はぁ……探したよ」
伊織「アンタ……なんでここに……」
P「そりゃあ……伊織が事務所を飛び出していくのが見えたからな」
伊織「ふ、ふんっ、アンタには関係ないことよ!」
P「そ、そうか……ははっ……」
伊織「…………」
P「少し暖かくなったとはいえ、まだまだ寒いな。このままじゃ風邪引くし事務所に行こうか」
伊織「……そうね」
P「伊織」
伊織「なによ」
P「その手に持ってるのってさ」
伊織「チョコ」
P「もしかして俺に?」
伊織「そうよ。文句ある?」
P「あるわけないだろ。嬉しいよ」
伊織「ふんっ」
P「食べてもいいか?」
伊織「勝手にすれば? って言いたいところだけど、小鳥に本命チョコを貰ってたじゃない。そっちから食べなさいよ」
P「え? あれは義理って言ってたぞ?」
伊織「へ?」
P「なんか有名店のって言ってた気がするけど」
伊織「ちょっと、今なんて」
P「だから義理だって」
伊織「本当に?」
P「本当だよ」
伊織(わ、私としたことが早とちりを……)
P「おお! 手作りか!」
伊織「そ、そうだけど。やっぱり高級店のチョコの方がよかったかしら?」
P「そんなわけないだろ! ってハート型じゃないか! まさかこれって本め……」
伊織「ば、バカな事を言ってんじゃないわよ! こ、これも義理よ! 義理チョコ!」
P「それでは、いただきます!」
伊織「ど、どうかしら?」
P「うん! めちゃくちゃ美味い!」
伊織「本当?」
P「嘘をつく意味がないだろ? 本当に美味しいよ」
伊織「ま、まあ伊織ちゃんの腕にかかれば当然よね!」
P「わざわざ俺の為に作ってくれたんだろ? 嬉しいよ」
伊織「べ、別にアンタの為に作ったわけじゃないわよ! アンタの驚く顔が見たかったというか、喜んだ顔が見たかったというか。……じゃなくて! くしゅんっ 」
P「っとそうだった! 早く戻らないと本当に風邪引いちゃうな! ほら、このジャケット羽織って」
伊織「あ、ありがと」
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765プロ
P「……へっくしゅん!」
伊織「結局アンタが風邪を引くなんてね。体調管理がなってないのよ」
P「な!? 元はと言えば伊織が!」
小鳥「ふふっ♪」
伊織「なに笑ってるのよ小鳥! 大体アンタの余計な一言のせいで!」
P「へっくしゅん!! へっくしゅん!!」
伊織「あーもう!! うるさいわよ!!」
伊織(でも案外バレンタインも悪くないかもしれないわね! にひひ♪)
終わり
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