卯月「合わせ鏡の殺意」 【モバマスSS】 (39)
最初は、クラスメイトの友達に「アイドルの島村卯月に声が似てるね」って言われたのが始まり。
自分では気づかなかったんだけど、友達と一緒に行ったカラオケでアイドルの島村卯月ちゃんの歌を歌ってみたら、
そっくりって褒められた。
スマホで録音して聞いてみたら自分でもビックリした。自分の声ってこんなんだったんだって。
正直嬉しかった。アタシは勉強も運動も出来ないし、顔も全然イケてない。
なんの取り柄もないアタシが、あんな可愛いトップアイドルと同じだなんてサイコーの気分じゃん。
それからアタシはボックス通いが日課になった。
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学校が終わると毎日日付が変わるくらいまで。 朝までだって珍しくないよ。
だって、声が似てるだけのアタシじゃ全然卯月ちゃんには及ばない。
声量も足りないし、感情の込め方もまだまだだ。
少しでも卯月ちゃんに近づきたいから。そんな努力も苦じゃなかった。
ん?両親は何も言わないのかって?? 大丈夫。アタシの親、家に居ないから。
ママが外資のバリキャリでね、海外の支店をいくつか任されてて、飛び回ってて滅多に日本に帰ってこないよ。
パパはそんなママに愛想つかして、私が小さい時に女作って出て行っちゃった。
もう何年も会ってないかな。
そんな訳で、別にアタシが朝帰りしようと誰からもお咎めナシって訳。
お小遣いも一杯貰ってるから、ボックスも行き放題だったんだけど、困った事に学校の成績が下がってきちゃった。
当然だよね、学校からボックス直行。朝まで歌ってシャワー浴びて学校。
授業中に居眠りで、学校終わったらボックス。 成績下がらない訳ないよ。
親に報告されたらウザいから学校はヤメる事にした。 夜遊びで知り合った人に教えてもらったんだけど、
お金さえ払えば親のフリしてくれる業者が居てね? 20も出せば手続きまで向こうでやってくれたよ。
これでアタシは自由、ずっとボックス居ても誰にも怒られないし、サイコーだよね。
んで、ずっと歌の練習してたんだけど、自信出てくると、誰かに聞いて貰いたくなるじゃない??
学校は辞めたからクラスメイトは誘いづらいしさ、
動画サイトに動画上げてみたんだ。
知ってる? 歌い手ってヤツ。
最初はすげー評判良かったんだよ?? 本人?なんて言われちゃってさ。 アタシもチヤホヤされて調子に乗ってたんだと思う。
顔出し、しちゃってさ。
晒されて叩かれたよー、ブサイクwwwとか、恵まれた声から残念な容姿wwwwwとかさ。
囲いのリスナーも激減しちゃった。
ショックだったよねー。
自分で言うのもなんだけど、卯月ちゃんと声はそっくりでさ。 体形もそれほど変わらないのに、
卯月ちゃんはトップアイドルでアタシはブサイクで晒された歌い手。
容姿が違うと、こうも違うのか、って。
惨めだったよね、アタシは卯月ちゃんにはなれないのかって。
でさ、この顔にした訳。そっくりでしょ?卯月ちゃんに。
腕利きで口の堅い整形外科医に大金積んだからね。寸分違わぬ出来だって太鼓判押してくれたよ。
ママ、帰ってきたらビックリすると思うよ。娘の顔が変わってるのもそうだけど、
老後の為に積み立ててる貯金、通帳一つ丸ごとなくなってるからw
あんまり似てるもんだからめんどくさい事になりそうだし、
動画サイトに顔は出せなくなったけど、別にそれはいいんだ。
この顔になってから男の子には困らなくなったからさ。
島村卯月に似てるって合コンに引っ張りだこになったし、
みんなチヤホヤしてくれるし、やっぱ世の中、全ては外見だよね。
ホント、この顔にして良かったと思ったよ。
そんな訳で、結構楽しくやってたんだけど、ある追っかけしてるバンドが参加してるフェスの会場に行ったらさ、
スーツ姿のイケメンがヤケに慣れ慣れしく話しかけてくんの。
「こんな所に居たのか、あんまり遠くに行くなよって言ったろ? 先方に挨拶に行くぞ、凛達も待ってる」
なんて言いながらさ。
古いタイプのナンパだよね、顔見知り装うなんてさ。
正直好みだったんで、ドキドキしてたんだけど、すぐ喰いついてガッついてると思われるのもヤなんで
最初はハイハイって適当にあしらってたんだけどさ、何かヤケにしつこいんだ。
「どうしたんだ??俺なんかしたか??」って戸惑い顔でね。
あれ?ホントに知り合いだっけ??って記憶を探ってるとさ、
「プロデューサーさん、ごめんなさい!!飲み物を買いに行ってて…」
って言いながら、一人の女の子が走り寄ってきた。
そこに居たのはアタシ。
アタシと同じ顔をしたアタシがそこに居た。
正確に言うとアタシが真似をした顔の人が。
それが、アイドル島村卯月ちゃんとアタシの出会いだった。
「それでね、未央ちゃんが言うんだよ、しまむーだから仕方ないね、って。酷いですよね??」
スタバでアタシの向かいに座った卯月ちゃんは、輝くような笑顔でアタシに話しかけてくれる。
あの後、人違いを丁寧にお詫びしてきた人、アタシに声を掛けてきたイケメンは
ナンパでは無く、はぐれた卯月ちゃんを探してたプロデューサーの人だったみたい。
少しガッカリ。
ま、本人の関係者にも間違われたのは少し嬉しいかな??
でも、卯月ちゃんのプロデューサー、
「人違い、か。申し訳ない。そうだね、よく見れば大分違う。君の方が随分大人っぽいよね」
とか、適当な事言ってたケド。
同じ顔だっつーの。
そりゃ髪も盛ってるし、メイクも濃くしてるから、インショーは大分違うだろうけどさ。
その後、卯月ちゃんとは何か他人に会った気がしないって言われて、アド交換して連絡を取り合う仲になった。
メールしてお互いに有った事報告しあって、卯月ちゃんのオフに偶にこうして一緒に遊んでる。
…卯月ちゃんは凄くカワイイ。 キラキラ輝いてて眩しいくらい。
これがトップアイドルのカリスマってヤツなんだろうか。
声が似てて、顔も変えたら少しは近づけるかと思ったら全然違う。オーラ半端無いよ。
でも、卯月ちゃんと一緒に歩いてると、姉妹に間違われたりしてとても楽しい。
卯月ちゃんは一人っ子らしく、お姉ちゃんか妹が欲しかったから嬉しいって言ってくれる。
アタシも嬉しいよ。卯月ちゃん大好き。
一緒にボックス行って歌も歌った。
卯月ちゃんアタシの歌にビックリしてた。へへ、これだけは自信あるんだ。
一緒にS(mile)ING!をデュエットしたよ。すごく楽しかった。
そんな楽しい時間をブチ壊しにする出来事が有った。家に帰ったらママが居たのだ。
どうやら学校の方から連絡があって退学したのがバレたようだ。。流石に飛んで帰ってきたみたい。
ちぇっ、連絡は家にするように学校に伝えておいたのにさ。
ママもビックリしたと思うよ、娘が帰ってきたと思ったらトップアイドルの島村卯月が居るんだもの。
まあ、声は変わってないから、すぐにアタシって気づいたみたいだケド。
最初は、勝手に整形したコト愕然と聞いてたみたいだけど、
話が手術費の事になると気が付いたのか、慌てて通帳が置いてある寝室に駆け込んでった。
その慌て様ったらなかったよねw 今思い出しても笑えちゃうよ。
でも、寝室から通帳片手に戻って来たママはまさに鬼の形相だった。顔真っ赤でね。
信じられないよね、何度も何度も私の顔叩くんだよ、何だこんな顔、何だこんな顔ってね。
トップアイドルの島村卯月の顔だよ。私の可愛い卯月ちゃんの顔に暴力振るうなんて許せない。
抵抗したよ、全力で。
取っ組み合いになってさ、テーブルまで突き飛ばしてやったよ。
そしたら鬼婆ァ逆上しやがってね、馬乗りになって首絞めてくるんだよ、力いっぱい。
だから仕方ないよね、セートーボーエーだよ、取っ組み合ってる最中に床に落ちてたクリスタルの灰皿でさ、思いっきり鬼婆ァ
の頭引っ叩いてやったんだ。
噴水みたいに血が出てさ、面白かったよww
そのまま床に倒れこんだから、今度はこっちが馬乗りになって動かなくなるまで何度も何度も灰皿で殴りつけてやった。
…やっちゃった。
ピクリとも動かなくなったママだったモノを見下ろすと、少し冷静になってきた。
息を整えると、心を落ち着かせて、スマホで【正当防衛 殺人】ってワードで検索してみる。
……過剰防衛ってコトバが出てきた…。
なにコレ、有り得なくない?? 最低でも懲役五年って、こ、こっちは殺されかけたんだよっ!!??
アタシが今、18だから23まで塀の中…??
ヤダヤダヤダヤダ!!人生で一番楽しい時間なのに、そんな時間の浪費、我慢できない!!
頑張って歌上手くなって、顔だって変えてやっと人生アガって来たんだよ!? こんな事で台無しにされるなんて!!
折角卯月ちゃんとも友達になれたのに………。
………卯月……ちゃん??
部屋の片隅に置いてある姿見には、血塗れの灰皿を持って顔に返り血を浴びた島村卯月が映ってる。
姿見の傍まで歩いて行ったアタシはニッコリと笑ってみた。
鏡に映ってる笑顔は、浴びた返り血を除けば百点満点の花丸笑顔。
……うん、大丈夫。
卯月ちゃんは笑顔が認められてアイドルになったんだって。アイドル雑誌で何度も見た有名なエピソード。
アタシならイケる。 この笑顔ならヤレる。
自分の笑顔に絶対の自信を持てたアタシは、スマホを操作して卯月ちゃんの電話番号を呼び出した。
お姉ちゃんからメールが来たのはダンスレッスン開始の一時間前、
とても大事な話があるので少し時間とれないか、との事でした。
何があったんだろう…??
心配になった私は、一緒にレッスンを受ける為に移動してた凛ちゃんと未央ちゃんに、
少し遅れますと、トレーナーさんに伝言を頼み、呼び出されたお姉ちゃんの家に駆け付けました。
お姉ちゃんって言っても本当のお姉ちゃんじゃないんですよ?
お仕事の挨拶に行った先で偶然出会ったんですけど、
私と本当にそっくりなんです! 初めて見た時ビックリしちゃいました。
私よりちょっと大人っぽいんですけどね。
えへへ、私、子供っぽいって言われるから、そこはちょっと羨ましいな。
それで私、一人っ子で昔からお姉ちゃんか妹が欲しかったので、お姉ちゃんって呼んでいいですか?
って聞いてみたんです。
そしたら、いいよ、って言って貰えたんです。
だからお姉ちゃんって呼んでます。
嬉しいな。本当にお姉ちゃんが出来たみたいで。
メールで教えて貰ったお姉ちゃんの家の前に着くと、それを待っていたかのように
「鍵開けてるから入ってきて」
とメールが届きました。
お邪魔しまーす、と一声掛けて入ると、廊下の向こうの部屋から歌が聞こえてきました。
きっと主役を掴むよ
チャンスにウィンクをして
お姉ちゃんの声だ。
あ、お姉ちゃん、歌もとっても上手いんですよ?
一緒にカラオケボックス行った時にビックリしちゃいました。
部屋に入ると、カーテンを閉めた薄暗いリビングのソファーに腰掛けてたお姉ちゃんが
ゆっくり立ち上がって私の方に振り向きました。
その姿を見て私は思わず息を飲みました。
お姉ちゃんの姿が全く今の私と同じだったんです。 そっくりなんて次元では無く、正に瓜二つ。
いつもは盛ってる髪も、今は全く私と一緒。
いつもはもっと大人っぽいメイクですが、ナチュラルにするとこんなにも同じ顔だったなんて…。
服装まで私が何時も着てる制服のブレザーです。 今ここに大きな鏡が有ったと言っても私は信じたでしょう。
それくらい何もかも同じ。
私が思いがけない驚きに目を丸くしていると、お姉ちゃんは、
「驚いたでしょ?? いつもはメイクとか違うけど、合わせるとこんなに似るんだね、自分でも驚いたよ」
と、薄く笑って、
「喉渇いてない? お茶入れてくるから、座って少し待っててよ」
と、部屋の出口に向かって歩いて行きました。
言われたとおりにソファーの方に歩いて行くと、
向かい側のソファーの端に何か黒いものが置いてあるのが目に入りました。
薄暗いので何が置いてあるかは解らないんですけど…。
カーテン開けるか電気付けるかしないのかな??
と、思いながらソファーに腰掛けて待っていると、入口の方から鍵とチェーンを掛ける音がしました。
…大事な話だからかな??
他の人に聞かれちゃダメな話なんでしょうか。なんだか緊張してきました。
しばらくするとお姉ちゃんが紅茶を入れて持ってきてくれました。
口に運ぶといい香りがしてとても美味しい…、そんな私の様子を見てお姉ちゃんがニッコリ笑ったように見えました。
部屋が暗いので表情は良く見えないんですけど。。
そのまま紅茶を飲んでいると、お姉ちゃんは運んできた紅茶にも手を付けず、俯いたままでした。
居心地の悪さに耐えきれなかった私が、その沈黙を破る様に、
「それで、一体どうしたんですか…?? メールだととても大事な話がある、との事でしたけど…」
と、話を向けるとお姉ちゃんは、
「それにしても、こう見るとアタシたち全く一緒だよねぇ」
と、言葉を返してきました。
「…はい? そうですね…??」
繋がらない話に内心首を傾げて聞いていると、
「でもさ、見た目は一緒でも置かれてる環境大分違うよねぇ、
卯月ちゃんはトップアイドルで、アタシはそこら辺のパンピー…」
「アタシには誰も傍に居ないけど、卯月ちゃんにはあのイケメンのプロデューサーまで居るよね…、羨ましいな…」
ブツブツと呟く様に話すお姉ちゃんは、俯いてて表情は良く見えませんが、何だかいつもと少し様子が違います。
一体どうしたんでしょうか??
「それだけならまあ、我慢も出来るんだけどさ…アタシ犯罪者になっちゃった…」
急に告げられた衝撃的な告白に、思わず声が裏返りました。
「は、犯罪者っ??」
「うん…帰って来たママとちょっとモメてね…アタシのコト叩いて来てさ……、
ちょっと抵抗して殴り返したら動かなくなっちゃった…。アタシ、人殺しになっちゃったよ…」
「そんな…」
思わず絶句してると、お姉ちゃんは、
「ねえ…卯月ちゃん…アタシどうすればいいのかな…??」
と、両手で顔を覆い、涙声で訪ねてきました。
お姉ちゃんは激しく混乱しているようです。 わ、私がしっかりしないと!!
「け、警察に行きましょう!大丈夫、私も一緒に付いて行きますから!! 大丈夫ですよ、ねっ!?」
そういうとお姉ちゃんはため息をついて、
「うん…そうだよね…卯月ちゃんはそういうと思ったよ…」
と薄く笑って、
「でもね?? 殺人罪って正当防衛でも五年は牢屋に入れられるんだって…アタシ18歳だしさ…未成年じゃないから…」
と、震えながら、とても悲しそうに言いました。
「そんな……で、でも、罪は償わなきゃ…」
と、私がおずおずと告げると、お姉ちゃんは激高して、
「卯月ちゃんはカンケーないからそんな事言えんだよ!!」
と、バァンと両手でテーブルを叩きつけました。
「!!」
そのあまりの剣幕の鋭さ思わずに私が絶句していると、お姉ちゃんは、
「…でさ、アタシ気づいたんだ。こんな何もないアタシは何もかも捨てちゃってさ。卯月ちゃんになればいいや、って」
と、焦点の合わない眼差しで、訳の分からない事を呟きました。
「な、何を言って……?」
その真意を問いただそうとすると、その瞬間目も眩む様な眠気が私を襲い、思わずその場に倒れこんでしまいました。
「ああ、やっと効いて来たんだね、眠り薬。 さっき、紅茶に入れておいたんだよね」
倒れこむ私を見下ろし、愉快そうに嗤うお姉ちゃん。
憧れじゃ終わらせない
一歩 近づくんだ さあ
今
唄いながら近づいて来るお姉ちゃんの気配に、このままだととても良くない予感を感じた私は、
頭の眠気を振り払いながら、必死に出口に向かって床を這い進みました。
その途中に有った黒い障害物、それを乗り越えようと手を掛けた時、私は初めて気づきました。
それが血を流して倒れている女の人の死体だと言う事に。
そのあまりの衝撃と恐怖に気を失う寸前、頭の上の方からとてもとても暗いトーンの声が、
最期に聞こえた様な気がしました……。
「後は上手くやるから安心してね、卯月ちゃん…」
…プロデューサーさん……助けて…。
「先日、都内のマンションの五階に入居する○○さん宅から出火がありました。
火はすぐにヒーターの燃料と見られる物に燃え広がり炎上。
両隣と上の部屋を焼く大火事となりました。
焼け跡からは、このマンションの部屋の住人と思われる十代少女の遺体を収容しました。
なお、火元の部屋の住人と思われる会社経営の中年女性が、ほぼ同時刻にマンションの屋上から
身投げしており、警察では事件との関連性を調べています。
少女の遺体は損傷が激しく、頭部を原型が留めないほど殴打された跡があり、
周囲の証言では、女性の娘さんが学校関係でのトラブルを抱えていたとの情報もあり、
警察ではそれが原因で無理心中に繋がったのではないかと見て、出火原因と共に慎重に捜査している模様です」
事務所のテレビで流れているそんな物騒なニュースを何気なく聞いていると、
入口から松葉杖をついた卯月がひょこひょこと歩き辛そうに入って来た。
「おう、卯月。どうだ、怪我の具合は??」
卯月は先日、レッスン場に向かう途中に階段の踊り場から転落して、病院に運ばれた。
足を激しく挫き、頭も打ち、一時は記憶に混濁が見られたようだが、容体はそれほど悪くは無い様で、
松葉杖なら歩いて事務所に来れてるようで、ほっと胸を撫で下ろした。
「あ、プロデューサーさん、すいません。私、うっかりしてて…」
卯月が申し訳なさそうに、顔を俯かせる。
「ははは、まあ、大事なさそうでなによりだ。…心配したんだぞ?
卯月が階段から落ちたって救急車に担ぎ込まれたと聞いた時は…」
「はい…レッスンに遅刻しそうだったので急いでたみたいで…、よく覚えてないんですけど…。
ご迷惑お掛けして申し訳ありません、プロデューサーさん……」
足にギプスを嵌めて、頭に包帯、頬に湿布を貼った痛々しい様子の卯月が、
申し訳なさそうに深々と頭を下げる。
「いや、リハビリの具合によっては歩くのは問題ないどころか、
ダンスだって出来る様になるって医者も言ってたろ??心配するな、すぐ復帰できるさ」
ポンと頭に手を置き慰める様に撫でると、卯月は頬を赤らめ、くすぐったそうに目を細めた。
「まあ、靭帯を痛めたそうだから、しばらくステージには出れそうにないが、ラジオとか他の仕事を入れて行くから頑張ろうな!」
そう励ますと、卯月は満面の笑顔でこう答えてくれた。
「はい!島村卯月頑張ります!!」
「よし、いい笑顔だ!!」
俺はそう答えると、その卯月の手を取り、共に事務所の室内に入っていった。
傍に居る少女の暗い微笑と、最期に助けを求めた少女の叫びに、永遠に気付く事無く…。
(了)
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