ある風俗嬢の願い (22)

ある風俗嬢の思考を書き綴っただけの短編

二次創作ではないが、風俗嬢の容姿は『アイドルマスター』の萩原雪歩に似ているという設定

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ハァハァ、と荒い息遣いが聞こえる。

男が私に覆い被さって、滑稽なほど必死に腰を振っている。
正常位なのに私の顔を見る余裕もないみたいだ。頭を垂れて目を閉じて、私の中だけを感じようとしているのかな。

見てくれていないと特に演じる必要もなくて楽だけど、なんとなく面白くない。
私は手持ち無沙汰なのでホテルの一室の天井を見上げた。
模様なのか短長様々な線が不規則に描かれていて、なんだか子供が落書きで書いた顔がたくさんあるように見えなくもない。

特に面白くもないのに少し笑ってしまう。

あっと、いけないいけない。仕事の最中なんだからできる限りのサービスはしないと。

意識的に喘ぎ声を出す。
いかにも『声を出すのは恥ずかしいけど、あなたの◯◯◯が凄いから思わず漏れてしまう』とでもいうように。


彼はそれを聞いて、ようやく私の顔を見た。

私は口元に手をやって、切なそうな表情を作る。適当にやってるからそれが本当に「切なそうな表情」に見えるのかどうかは知らない。

彼には効果があったみたいだ。さっきよりもより密着度を高めて、激しく動き出した。

私もその動きに合わせて声の色に強弱をつける。

早めにイッてくれないと後々面倒な事になるから、そのためには私も多少の努力はしよう。


彼がキスを求めてくる。私はそれに応える。「舌を吸われるのが好き」とさっき言っていたから、してあげる。

目を薄く開くと、目を閉じた男の顔が間近に見えた。

この男はどんな顔だったかな…。たしか良くも悪くもない、印象に残りにくい顔だったような気がする。

社会人になって何年だとか、昔は文化系のクラブに所属していただとか、お風呂の中で話していたっけ。

瑣末なことだから細かい部分は記憶に残っていない。


そういえば服を脱ぐ前に言ってたね、「僕みたいなブサイクでも大丈夫ですか?」って。
私は「ブサイクなんて、そんなことないですよぉ」と微笑みを浮かべて答えながらも、苦笑したい気持ちを表面に出さないように注意しなきゃいけなかった。
ブサイクと言うほど顔が悪いわけじゃないのは本当だけど、「カッコいいですよ」とでも言われたかったんだろうか?もし「ブサイクは嫌いなんで帰ってもらっていいですか?」と言ったらどんな顔をしたんだろう?

こんな事を考えてしまう私は嫌な人間なんだろうな、と考えながら思い出したように再度舌を絡ませる。


私はする相手がカッコよくてもブサイクでもどうでもよかった。結局やる事は同じだからだ。
肌と肌、粘膜と粘膜を擦り付け合わせる。それが仕事。たった1時間程度の付き合いだから容姿なんて気にするほどでもない。
誰も彼も、一旦行為が始まってしまえばバカみたいに腰を振るだけなのだから。唾液も精液も、誰だって似た様な味なのだから。

よっぽど体臭が臭いとかなら嫌だけど、私の勤めているお店は少し高級志向だからなのかそんな変な客はほとんど来ない。その点はありがたいと思う。


「ユキホちゃん、お腹の上に出しても良いかな?」

男が息を弾ませながら喋りかけてくる。

ゴムの中に出してくれた方が処理が楽なんだけどなぁ。

「いいですよ。」

私と密着するようにして動く男の耳元に口を寄せて、息を吹きかけるように、囁く。

「たくさん、かけて下さいね。」

男はその言葉を気に入ったみたいで、興奮気味に動きを速めた。


男の人はどうして体にかけたがるんだろう。何か意味はあるんだろうけど、尋ねてみたことはない。
犬のマーキングのようなものなのかな。自分のものだ、と示したいのかな。
私は彼の名前も知らないのに。彼だって、そう。「ユキホ」は本当の名前じゃないと知りながらも、気にする風でもなく体を重ねている。相手の名前すら知らないのに「自分のもの」も何もないだろう。
わからないな…やっぱり深い意味はないのかもしれない。尋ねるつもりはない。知っても意味はないから。


無為な思考に耽る間に彼は苦しげな声を出していて、数秒後に果てた。ゴムを外すのに手間取りながらもなんとか精液を私にかける事に成功する。
おへその周りを白濁した粘液が彩る。いつも思うのは、精液の熱さ。体から出るものなのに、その温もりとは別の熱さを持っているのは不思議だ。

二本の指で精液を掬い取る。彼に声をかけながら、指の間でその粘性を確かめるように弄ぶ。
以前他の男にそうしてほしいと頼まれた事があるからだ。


そのやりとりも一段落すると、仕事の終わりが近づいた事を知らせる耳障りなタイマー音が鳴り響いた。


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「今日は良かったよ、ありがとう。それじゃあ。」

ホテルの前で彼と別れる。彼が曲がり角を曲がるまでその場で見送る。
一度彼が振り返ってこちらを見たから、笑顔を作って胸の前で手を振ってあげた。彼は軽く手を振り返して、夜の街の中に消えていった。


今日の仕事も彼で終わり。
私は気が抜けたせいで出そうになったあくびを噛み殺した。誰が見ているわけでもないのに。
お店でお金を受け取って家路に着く。


「気持ち良かった」と、男の人はいつも言ってくれる。射精しているのだから、多分嘘ではないんだろう。私もそれなりには努力してるつもりだし。

……私は、セックスを気持ちいいと感じた事なんて一度もない。お店でのセックスは男の人本位のものだから当然だけど、プライベートでも同じ。
初めての彼氏とセックスする時、私はいつも感じている演技をしなきゃいけなかった。元々、友人の紹介で成り行きで付き合ったような人だったから、体を求められるのが億劫ですぐに別れてしまった。

それ以来、男の人にどうしても魅力を感じられなくて彼氏は作っていない。


友人の話を聞くと、セックスは気持ちいいと言う。「大好きな彼と一つになると、体も思考も溶けるみたいに気持ちいいよ」、と。
私はセックスをしていてもそんな風には思えない。男の人のどこが私のどこに触れている、としか感じられない。

セックスを尊いとも、汚らわしいとも感じられない。

容姿が重要でないなら風俗嬢の姿の脳内設定を出す必要なかったんじゃないかな。今はあれてないけど、荒れる人が出てもおかしくないメジャーな元キャラと題材だし
読者の理想の女性像でお楽しみくださいで良かったと思う


でも、だから風俗店なんかで働けるんだと思う。セックスは私にとって「どうでもいい」ものだから。
大多数の男の人に体を許す事で自分が穢れるとも思えないし、大切な人にだけ捧げるのが女性の価値に関係があるとも思えない。

この仕事を選んだ理由は一日に貰えるお金が多いから。同じような「どうでもいい」アルバイトをするなら、貰えるお金が多い方が得だ。
風俗店で働けばコンビニかなんかで働くより時給にして数十倍のお金が貰える。単純な話だった。大学の講義がある期間は働きたくないから、長期の休みの間だけ風俗で働いてお金を貯めている。


あぁ、そういえば、休みの間にレポートを書き上げなきゃいけないんだったっけ……。明日は大学に行こうかな。

「大好きな彼とすると……」
友人の言葉が思い浮かぶ。
私には大好きな人がいないからセックスが気持ちよくないのかな…。
成り行きで付き合った彼は見た目は良かったけど、本当の意味で好きにはなれなかった。私は恋人の雰囲気を経験してみたかっただけなのかもしれない。

本当に好きな人ができれば気持ちいいセックスができる…?とても信じられないけれど、もしそうならしてみたい。「体も心も溶けてしまう」ってどんな感覚なんだろう。


「ふわぁ……」
大きな欠伸が出る。悲しくもないのに涙で視界が滲む。夜の闇がそんな私の姿を覆い隠してくれる。

私はきっと退屈なんだ。この退屈を紛らわせてくれるなら、他には何もいらないのに。

夜が明ければ朝が来る。数えるのが面倒なほどの明日を、私はこれからも繰り返し迎える。
どうか、「明日」が来なくなる前に私を退屈から解放してください、神様。

ふと、視界の隅にキラリと光るものが見えた。夜空を見上げる。流れ星だったのだろうか。

願い事を聞き入れてくれたのかな。神様なんて信じていない私の願いを。

星が流れたはずの空は吸い込まれるような黒で塗りつぶされていた。輝く星なんて見えない。そこに間違いなくあるはずなのに。
光が届かないのはこの街の汚れた空気のせいなのか、それとも私が見ようとしていないだけなのか、私にはわからなかった。

終わりです。

初めて投稿したから至らない点があったら申し訳ない。

もし最後まで読んでくれた人がいたならありがとう。

>>15 確かにその通りですね。
自分がキャラクターの容姿が定まっている方が話を読みやすいタイプだったのでつい押しつけがましいことをしてしまった。

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