海未「ゴースト?」 (52)
高校生になったのだから、とスマートフォンを買い与えられたのがつい先週のこと。
いつまでも二つ折りでは体が悪かろうとは母の言。
余計なお世話、などとは口が裂けてもいえないけれど、しかし海未としては母のいう二つ折りで十分だと思っている。
スマートフォンは雑多に過ぎる。何かにつけて情報量が多いのだ。それが利点でもあるのだろうけれど。
それでもこの一週間、マニュアルを読み、実際に操作してみればいやがおうにも慣れてくる。
使う予定のないラインとやらと、テレビでウンザリするほどCMが流れているゲームをインストールする。
大して面白いとは思わなかったものの、なるほど。操作に慣れるためのものと考えれば良くできている。多くの人がこういったものでスマートフォンの操作に習熟していくのだろう。
それにしたって、無料をうたいながらお金を払わなければ満足にプレイできないのはどうかと思う。
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操作に慣れたはいいが、今度は慣れたが故の弊害が出てくる。
例えばちょっとした調べものをするときに、誤って変な広告を開いてしまったりとか。
インターネットにはどうしてか如何わしい広告が多く、そういったものが苦手なほとほと困っている。
「あっ」
と気づいた時にはもう遅い。すでに新しいWebページが開かれ、なにやら変なアプリのダウンロードページへと飛ばされる。
どうにもならない煩わしさを覚えながら、ページを閉じる。その直前、ふとある文字列が目に留まった。
「ゴースト……?」
何故、それが気になったのかというのは海未自身にもわからない。
幽霊などという最近ではめっきり聞かなくなった言葉のせいかもしれない。
気づけばページを閉じるどころかアプリの説明文を真剣に読み始めていた。
――ゴースト。
恐怖感を煽るような名称をしているが、つまるところはただのキャラクターらしい。
スマートフォンの一部機能を占有し、キャラクターとコミュニケーションが取れるとかなんとか。
なるほど、確かにゴーストだ。
そしてこのアプリで生み出されるゴーストは『高坂穂乃果』という女の子。
生年月日からスリーサイズ、家の設定に食べ物の好き嫌い。こと細かく設定されているようだ。
わずかばかりの逡巡をし、海未は対ウィルスソフトを起動する。ページとアプリケーションとをスキャンし、何もでないことを確かめる。
インストールしよう。そう思ったのは、このゴーストがどんな存在なのか気になってしまったからだ。
どんな姿で、どんなことをしてくれるのか。
想像を掻きたてながらインストールの完了を待つ。容量がそれなりに大きいようで数分ほど時間がかかった。
ホーム画面に一つのアイコンが追加される。幼児がクレヨンで描いたような太陽マーク。その下には『ほのか』の文字が。
アイコンをタッチ。幾つかの設定を終えると、ぽんと二頭身のキャラクターがディスプレイに現れた。
それはきょろきょろと周囲を見渡す仕草をしたあと、にっこりと笑う。
……気のせいだけれど、目があったような。そんな気がした。
「こんにちは! 私、高坂穂乃果です!」
「えぁっ……と。そ、園田海未と申します」
スピーカーから突如として流れ出した快活な声。不意をつかれ思わず名乗り返す。
「へぇ。海未ちゃんっていうんだ。とっても美人だし、運がよかったかも!」
「き、聞こえているのですかっ? それに、美人って……」
「うん? そりゃあスマートフォンにはカメラもマイクも、スピーカーだってあるでしょ?」
そういう問題なのだろうか。
いや、というか。
「随分と賢いというか、人間的なのですね……」
「凄いでしょー? 穂乃果は超高性能なゴーストなんだよっ」
いくらなんでも高性能すぎなのではないだろうか。これでは人間と喋っているのとそん色ない。
「え、えーっと」
あまりの出来事に思考が追いつかない。思い描いていた事態とはおよそかけ離れたことが起きている。
まぁ、とりあえず。
「これからよろしくお願いします、穂乃果」
「うん! よろしくね、海未ちゃん」
※アニメ準拠
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