まゆり「もうセミいないねぇ」(24)
夏休みが終わった
かつてはよく訪れていた公園でまゆりが呟く
「もうセミいないねぇ」
「この公園も久しぶりだな」
「オカリン夏休みが終わって忙しそうだったもんね」
夏休みが終わってから大学生活は急に忙しくなっていった
新しく友人も出来、電車で少し離れた所に遊びに行き、講義を受け飯を食べに行く・・・
「ふっ、この前初めて合コンに行って来たんだぞ」
「そっかぁ~」
こちらを振り向いて嬉しそうに表情を浮かべるまゆり
こうしてまゆりと話すのも久しぶりだった
と、話していると胸ポケットの携帯が鳴る。
「っと噂をすれば…はいもしもし」
大学の友人からだ。
夏休みが終わってからよくつるむようになった所謂リア充とやらだ。
以前の俺では考えられないことだが。
「おお、どした…あぁ?明日?急だな…どうせ数合わせなんだろう?」
どうやら急に人数が合わなくなったそうだ
特に予定も無かった為、行くことにした。
「え?…ははっ…………まいいや、いくよ、あぁ、それじゃ」
「・・・」
「大学生って思っていた以上に忙しいな」
「ふふっ」
まゆしぃは、オカリンに久しぶりに会えて、まゆしぃは嬉しいのです。
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セミはもういなくなってしまったが、未だに夏の暑さは残っている
少し涼しく風通りの良い線路橋の下を歩いていると、まゆりが尋ねてきた
「ねえオカリン、ラボには寄っていかないの?」
「最近オカリンが来ないから、ラボがすごく静かで・・・」
「・・・わかった」
「きっとだよ、オカリン」
「ああ、じゃあまたな」
俺は持っていたバッグをまゆりに返して歩き始める
まゆりは、俺の姿が見えなくなるまで手を振っていた。
セミの声はもうしない
季節は夏から、秋になろうとしていた
「じゃあまず自己紹介から、俺は田中剛っていいますーーーーーーーー」
今回は近くの短大に通う女子との合同コンパだった
それにしてもお互い1年生で殆どが未成年だというのに・・・これが大学生というものなのだろう。
「私は○○短大の佐藤佐奈っていいます。趣味はピアノで・・・」
「私も同じ短大に通う1年の鈴木鈴っていいます」
「俺は武田岳っていいます!趣味はーーーーーーーーー」
だがこういうのも悪くない。様々な人と関わるというのは少なからず自分にメリットがある。
自分の世界を広げてくれることもある
「岡部倫太郎です。よろしく」
「それじゃお互いの名前もわかったことだし、とりあえず乾杯しよう!」
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「岡部お前さぁ、昨日の電話でも言ったけどそれなりにモテるんだから彼女早く作れって」
「おいおい…始まって早々連れションかと思ったら、なんだよ急に」
「この前の初合コンだってさ、結構お前ウケよかったんだぜ?まぁお前はガチガチだったからな、気付かなかったかもしれないけどよ」
「はは、まぁ初めてだったからな」
「服装だってよ、個性的だが清潔感はあるし、話も面白いしな」
「そんな褒めても何も出ないぞ?今日は男3人で仲良く割り勘だ」
「いや今日はなー?スッゲー美人揃いだからよ、お前にも一人くらい良い出会いがあればと思ってな、ははは」
「ま、確かに今日はレベルが高いな、俺らの学歴じゃ見合わない清楚系だらけだ」
「それを言うなよ~凹むぜマジで」
「だが俺が来ることなかったんじゃ無いか?人数合ってないぞ」
「ああ、一人遅れてくるんだと」
「そういうことか」
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「遅れてごめんなさーい」
「あっちょっと真理!遅いじゃんもー!」
「おっ噂をすれば!これで丁度3-3だな!」
「遅れて本当にごめんなさい、私木瀬っていいます」
木瀬真理。遅れて来た女はそう言った。
黒髪のロングヘアで少し緩めの薄い白いニットに丈長めのタックスカート。
Vネックの露出具合は男の視線を集める為だろうか
ゆったりした服装ではあるが線の細さとそこそこ大きな胸が目立つファッションだ。スラリとした身体、身長は165cm強といったところだろうか
「なんか、スゲー狙ってるって感じだな・・・スタイルもいいし」
武田がボソっと呟く
「ああ、まぁそこがいいんだよなぁ・・・こういうのは」
二人はその後も何か喋っていたが俺はそれどころではなかった
スタイルも服装もどこも似ている要素はなかった。強いて言えば髪の長さと線の細さくらいだろう。
だが彼女は、どことなく『彼女』を彷彿とさせた
「木瀬・・・?」
「はい、木瀬でも真理でも、好きに呼んでくださいねー」
「へー!なんか正に美人って感じだなー」
「ちょいちょい、あたし達はどうなのよー」
「えー勿論二人も可愛いっつーの!」
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「はい!じゃあ自己紹介も全員終わったし、席移動しよっか!」
「ほいほーい、じゃああたしは武田くんの隣に座ろっかな」
鈴木が武田の隣に移動する
「じゃー俺は木瀬・・・」
俺は田中に被せるようにして口を開いた
「木瀬さん、隣いいですか?」
「・・・んだよ、岡部狙ってたのか・・・じゃあ俺は佐藤さんの隣いこっかなー」
「いいよーほらおいでー」
「えーと岡部さん、ですよね、改めてよろしくお願いしまーす」
「あぁそんな固くならなくていいって。同年代なんだからもっと気楽で」
「そ、そう?じゃあ岡部」
「…」
「・・・は流石にあれだよね、あは」
「・・・じゃあ倫太郎くんって呼ぼうかなあ」
「じゃあ俺は木瀬で」
「えーっ!ちょっとそれ酷くない!?」
「ははは、冗談だよ」
彼女は話してみるといかにも男が好きになりそうな女だった
精神的にも身体的にも、かなりフランクに近しく感じるかのように人と接する
加えてこの容姿と警戒心の薄そうなこの服装だ。男受けはかなり良いだろう
「え、倫太郎くんって彼女いないの?」
「いないいない。というか、いたらこんなのに参加してないだろ」
「ホント?いてもおかしくないと思うのに…ほら、背も高いし顔も悪くはないんじゃない?」
そう言うと身体をピタリとくっ付けて俺の頭の上に掌を載せる。
それ、座高を計ってるだけで実際の身長差は分からないぞ・・・
「はは、自慢じゃないがこれでも彼女は一度も出来たことがない」
「へーっそうなんだぁ」
「木瀬は・・・あははごめんごめん、真理は短大で何を学んでるんだ?」
「もうわざとでしょ~!・・・一応ね、保育系の仕事につきたいなーって思って、今の短大に進学したの」
「保育か・・・確かに面倒見は良さそうだ、ただお前のその適当加減が子供にも伝染りそうだ」
「何なのさっきからー!あたしなんでこんなキャラにされちゃってるわけ!?」
『彼女』とは何もかもが違う女だった。
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2時間程飲んだ後、幹事の田中が言った。
「そんじゃ、時間も時間だし、一旦退店しますか!」
武田もそれに乗る。ひとまずは店を出てから二次会をするか決める、という流れだろう
「そうだな、とりあえずさっさと外出るか。女子組は終電大丈夫?」
「私はだいじょうぶ~」
「あ~~~・・・・・・・ごめん、あたし帰るわ・・・明日提出する課題あったの忘れてた」
「マジかよやべーじゃん」
「じゃあ俺はコイツ駅まで送ってくわ、俺も明日早えーし。そんじゃーな」
武田と鈴木がいなくなり、4人が残る
「4人か~・・・いっそ解散しちゃう?」
「それある・・・うっぷ」
田中の提案に酒で潰れ気味の佐藤が乗っかる。
「おいおいお前大丈夫かよ・・・悪いなー岡部と木瀬ちゃん、俺コイツ家までタクシーで送ってくからさ、二人で帰ってもらっちゃってい?」
「大丈夫か?」
「心配すんなって、ごめんなー木瀬ちゃん、コイツは責任持って俺が送ってくから」
「ううん、気にしなくていいよー…ちゃんと最後まで面倒見るんだよー?」
木瀬がニヤニヤと意味深な笑みを浮かべながら言う
「わーってるって!じゃあ岡部、また!」
またってなんだ。また明日ってことか?
「おぉ、また」
そして最終的に残ったのは俺と彼女の二人だけだった。
「じゃあ倫太郎くん、いこっか」
「だな」
もう大体の店の灯りは消え、人通りが少なくなり始めている夜の街を歩く
恐らく今走っているサラリーマンは終電間際なのだろう。
そう考えている内に気付けば駅の前に着いていた
「・・・そういえば真理は家どっち方面なんだ?」
「私?私はもう終電とっくに無くなってる」
「はぁ?」
「いやーまさかここまで盛り上がるとは思ってなくてさー・・・」
「おいおい・・・ちゃんと終電の時間くらい気にしておけよ」
「いいじゃん、楽しかったんだから」
「あのなぁ・・・それで?お前、どうするんだよこの後」
「・・・」
「おい・・・」
彼女は少し間を溜めると、口を開いた
「あのさ、今日、帰りたくないんだよね・・・」
「・・・」
木瀬真理は、『彼女』とは、全く違う女だった
『彼女』は理系で脳科学専攻。大学を飛び級で出ている天才。性格は少しキツイ。
が、仲間思いで、俺は『彼女』の優しさに何度も救われてきた。
木瀬真理は短大で保育士を目指している。
性格は大らか。少し適当だが、男女分け隔てなく接する。
服装も性格も容姿も何もかも、違う筈なのに
「そうか」
何故俺は、こんなにも面影を重ねてしまうのだろう
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朝、目が覚めると彼女は居なかった。
手探りで放り投げられているケータイを見ると、不在着信が数件残っていた。
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「お、もしもし?岡部、お前昨日どうだった?お持ち帰り出来たかぁ?」
「・・・ああ・・・今ちょっと気分が悪い・・・」
「あの後2軒目にでも行ったのか?今どこだよ、もう3限始まってんぞ」
「・・・マジか・・・」
「で、どうだったんだよ!俺らはもう思いっきり楽しんだぜ!お前も二人っきりにしてやったんだから勿論…お楽しみだっただろ?」
「あ、あぁ・・・」
昨夜の事はよく覚えていない。
ただ、夢中で『彼女』と身体を重ねていた。
何度も何度も。その度に彼女は俺の全てを受け止めてくれた。
「そう・・・だな・・・」
あの時あの瞬間、確かに『彼女』はそこにいた。
何度も愛した彼女が。俺が好きだった『彼女』が。
嗚咽の音しか聞こえない、静かな部屋の窓からは、真昼の明るい陽射しが差し込んでいた
もう、隣には誰もいなかった
シュタゲロはやってないから既にやってる人でイメージ違うじゃねえかって人いたらすみません
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