由暉子「夢を見たんです」 (45)

このSSは次の要素を含みます。
・百合
・モブキャラ(少しだけ)

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爽「ロン」パラッ

誓子「あー、また振り込んじゃった」

揺杏「チカセーン、今のは私でも危ないってわかったよ」

誓子「しょうがないじゃない! こっちだってラス目でツッパるしかなかったの」

成香「爽さん怖いです……」

爽「ははは、チカもまだまだ修行が足りないな」

誓子「うるさいったら」

揺杏「ふー、この半荘もやーっと終わりか、しんどかったー」

誓子「今日はちょっとキツかったわね」

爽「おいおいまだ半荘3回しか打ってないぞ? もうバテたのか」

誓子「爽が能力使いまくるからでしょ! 対応するの大変だったんだから」

爽「これも練習だって! 全国には能力持ちの選手なんてごまんといるんだぞ?」

揺杏「でも全部の半荘でソレは正直きっちーわ」

成香「疲れました……」ゲッソリ

爽「まー確かにちょっとやりすぎたかな。
  よーし、じゃあ今日はこの辺で解散にするか!
  あとは各自勉強するなりネト麻なりに励むように」

誓子「それ私のセリフ」

爽「いいだろ別に。
  あ、ユキ」

由暉子「はい」

爽「ちょっと話あるから残ってくれないか。
  他のヤツは帰っていいぞ」

由暉子「わかりました」

誓子「帰っていいっていうか、帰ってくれたほうがいいんでしょ」

揺杏「何? まさかユキボコボコにシメ上げる気じゃないだろーね」

爽「ちげえよ! 真面目な話があんだって」

成香「では、私たちはおいとまします」

揺杏「お疲れー」

誓子「お疲れ」


爽「……さてユキ」

由暉子「はい」

爽「ユキがここに来始めてからそろそろ1週間だな。
  もう慣れたか?」

由暉子「それはだいぶ」

爽「そうかよかった。
  先輩達の印象はどうだ?」

由暉子「いい人達ばかりで、安心しています」

爽「なるほどな」

由暉子「それで話というのは」

爽「ああ。
  ……私の方から見たユキの印象なんだけど」

由暉子「え、はい」

爽「はっきり言うぞ。
  
  私な、お前のこと嫌いだ」

由暉子「……え」

爽「お前さ、先輩に対しても遠慮なく物言うよな?
  お前まだ高校にも入ってないって立場わかってる?」

由暉子「……」

爽「他のヤツは知らねえけど、私お前のそういうとこ腹立つんだよな。
  もっと先輩に敬意払えよ」

由暉子「……」

爽「つーわけで明日から言動には気をつけろよ。
  態度が直ってなかったら出入り禁止にするからな」

由暉子「あ……」

爽「『はい』は?」

由暉子「は……」





由暉子「い……」


チュンチュン


由暉子「……」

由暉子「あれ?」

由暉子「……今の夢だったんだ」

由暉子「……」

由暉子「……なんて夢見ちゃったんだろ。
    先輩があんなに威圧してくるなんて」

由暉子「先輩あんな人じゃないのに……
    あんまり違和感はなかったけど」

由暉子「というか、なんでまだ私が中学生のときの光景だったんだろ。
    もうとっくに入学して高校生になってるのに……」

由暉子「……私心の中で爽先輩のことひどい人だと思ってるのかな。
    そんなこと思ってないはずなんだけど」

由暉子「……考えてもしかたないか。
    支度して学校に行かないと」


『えー、次の文ですねえ、
 Some psychologists claim that a dream reflects one's ……』

由暉子「……」

由暉子(今朝の夢が気になって集中できない)

由暉子(……『先輩には敬意を払え』、か。
    敬意を払っているつもりではあるけど、ひょっとして生意気だと思われてるのかな……)

『subconsciousness、はい新しい単語出ましたよー。えーではこれの意味を……』

由暉子(……)

由暉子(……いや、いやいや、あれは夢だから。
    実際の爽先輩がそう思ってるわけじゃ……
    何考えてるんだろ……)

『はい、じゃあ前田さん』

由暉子「! あ、はい」

『え?』

由暉子「あ! すみません間違えました……」


 \ハハハハハ/
 
 \前田が2人に増えたー/


由暉子(『マエダ』と『マヤ』を聞き間違えて返事しちゃった……
    恥ずかしい……)

由暉子(この集中力のなさはまずいかも。
    部活の時にこんな状態になってたら……)


誓子「ロン」パラッ

由暉子「あっ」

誓子「ホンイツ發ドラ3、12000ね」

揺杏「やっべ助かった、北がアタリかー」

誓子「見え見えのホンイツだし字牌警戒されると思ってたんだけどね」

成香「ユキちゃんにしては珍しいですね」

由暉子「はい……」ジャラ

誓子「でも字牌とはいえユキが無警戒に出すなんて……ハってた?」

由暉子「いえ、テンパイではありませんでした。完全にミスです……」

誓子「ふーん」

揺杏「お、もしかして今日ユキ不調?
   これは今日は私の時代来ちゃうかもなー」

誓子「爽がいないからね」

成香「爽さん、遅いですね」

誓子「どうせまた呼び出しでも食らってるのよ」


ガチャ


由暉子「!」

爽「いやーすまん、遅れた」

成香「噂をすればですね」

揺杏「うーっす、遅かったね」

誓子「どうしたの? もう半荘一回終わっちゃってるわよ」


爽「いやー宿題サボってたのバレてさ、説教食らってた」

誓子「また」

揺杏「懲りないねー」

成香「確か爽さん、今学期入って3回目ぐらいでは……マークされてるんじゃないですか?」

爽「大丈夫! 3回とも違う教科だからな」

誓子「そういう問題じゃないわよ」

爽「ははは、ごーめんごめん」

揺杏「でもなんでバレたん?
   手ー抜くにしてもうまくやりゃやり過ごせるのに」

爽「まあちょっとやり方がザツすぎたかな、
  模範解答そのまま写してたらバレちった」

誓子「それは100%バレるわね」

成香「バレますね」

揺杏「そりゃーザツすぎるって。せめてちょっと文章変えるとかさ」

爽「それをやる時間もなかったんだよなー」

誓子「時間がないって、最初からちゃんと宿題に時間あててれば普通に解けたでしょうに」

爽「ははは、次回から気を付けるわ」

由暉子「……」


爽「それで、今どんな感じ?
  ……お、チカリードしてんじゃん」

誓子「ユキが珍しく振り込んでくれたから」

爽「ほー、なるほど北単騎か。
  ユキの手牌は?」タッタッ

由暉子「……」

爽「あんれ、テンパイだから勝負したのかと思ったらハってないじゃん。
  シャンテンから押したのか?
  ユキにしちゃ珍しいな」

由暉子「……」

爽「ひょっとしてチカに負けるのが嫌だから焦っちゃった?」

由暉子「いえ……」

誓子「もう! そんな基準で考えるわけないでしょユキが」

爽「わからないぞー、
  実は心の中で『この先輩自分より弱いくせに部長やりやがって』とか
  思ってるかもしれないぞ?」

誓子「あり得ないわよ! ねえユキ」

由暉子「……はい」

揺杏「お? なんか今日リアクション薄いねーユキ」

誓子「というか、なんか急におとなしくなったような」

成香「大丈夫ですか?」

由暉子「いえ、大丈夫です……」

誓子「ふーん?
   まあとにかく、続けましょうか」

揺杏「よーし、次は私の親番だ。
   ユキー、ボーっとしてたら点棒持ってっちゃうよー?」

由暉子「はい……」

爽「……?」



爽『お前さ、なんで人の顔色ばっか窺ってんの? 主体性がねえよな』

爽『お前さ、顔と胸以外に何かいいとこないの? 中身スカスカかよ』

爽『もうお前付きまとってくるな。気持ち悪りぃ』


由暉子「……」

由暉子「ここ数日ひどい夢ばかり見る……」

由暉子「しかも時々、的確に急所を突いてくるのが……」

由暉子「私の中の爽先輩って、
    どこまでひどい人なんだろう……」

由暉子「……」

由暉子「いや違う。
    多分これは爽先輩をひどいと思ってるんじゃなくて、自分が自分を卑下してるだけなんだ。
    爽先輩はただの代弁者で……」

由暉子「……」

由暉子「でもなんで、言ってくるのがいつも爽先輩なんだろう……」

由暉子「……」

由暉子「……まあいっか」

由暉子「深く考えないようにしよう。
    あまり余計なこと考えてると学校に遅れちゃう」



『はーいそこまで』

ガヤガヤ

『じゃあ後ろから回収しろー』

由暉子「……ふう」

由暉子(さっぱり、解けなかったな……)

由暉子(最近勉強が身に入らない……
    勉強だけじゃないけど…… 集中できてない……)

由暉子(もともと成績はそこまでいい方じゃないから、
    先生に余計な心配されることはないと思うけど……)

由暉子(麻雀が身に入らないのは致命的かも……)

『おいおい、なんだー? いつもより点数が低いヤツが多いなー。
 5月になったからって気ぃ抜いてんじゃないのか?
 いいか、5月になったからって気を抜く奴なんてな、社会では……』

由暉子(……)

由暉子(なんだかあの先生のしゃべり方、爽先輩に似てるかも。
    男の先生だけど)

由暉子(そういえば爽先輩って、ちょっと男の人っぽい雰囲気あるなあ……)

由暉子(……)

由暉子(今日の部活こそ、集中しないと)



トンッ

トンッ

揺杏「チー」カシャ

誓子「おっと」

由暉子(……揺杏先輩がチー)

由暉子(四伍六萬のシュンツが確定。タンヤオにしては捨て牌に中張牌が多い……)

由暉子(役牌バックと見るべきかな)

由暉子(役牌バックだとすれば牌の切れ具合から見てありえるのは東か白……
    2枚見えの中はとりあえず通るかな)トンッ

由暉子(……あ!!)

揺杏「それだよーん、ロン」パタッ

由暉子(しまった……)

成香「ドラの中単騎……」

揺杏「喰いイッツードラドラ、3900ね」

由暉子(中がドラなの忘れてた……
    そしてイッツーの読みの抜け……
    またもイージーミスを)

由暉子「はい……」ジャラ

誓子「どうしたのユキ、最近らしくない振り込み多いじゃない」

成香「なんだかボーっとしていませんか?」

由暉子「いえ……大丈夫です」


揺杏「でもちょーっと心配だね。
   体調でも悪い?」

誓子「風邪気味だったり? そんな季節でもないか」

由暉子「いえ……大丈夫です」

揺杏「まーいっか。
   でもつれーこと我慢してるとどんどんつらくなるから、何かあったときは早く言いなよ」

由暉子「はい、ありがとうございます」

成香「ところで今日も爽さん遅いですね」

揺杏「あー、爽は今日来ないよ」

由暉子「!」

誓子「え、どうして?」

揺杏「昨日から熱が出てダウン気味なんだってさ。
   しばらく休むって。朝連絡来た」

誓子「へー……またどうしてこんな時期に。爽が風邪って珍しいわね」

揺杏「まーね。
   でもあいつのことだから明日には治してくるよきっと」

誓子「カムイとか呼んで治すのね」

成香「それはそれで怖いです……」

由暉子「……」ホッ

由暉子「!」

由暉子(今私、爽先輩が来ないと聞いてホッとした……)

由暉子(別に私、爽先輩が嫌いなわけじゃないはずなのに……
    夢の中でひどいこと言われたからって
    現実の本人を避けるようになっちゃったのかな)

由暉子(そんなの、どう考えてもおかしいのに……)

揺杏「よーしとにかく次行こっかー」

成香「はいっ」

誓子「さっき実はハネ満一向聴だったんだよね……今度こそアガりたいわ」

揺杏「……ん、ユキー? 次行くよー?」

由暉子「あ……はい」

由暉子(……本当にどうしたんだろう、私)



由暉子「……」カチカチ

トンッ

由暉子「……」

トンッ

ロン!

由暉子「あ、上家の人ハってたんだ……」

由暉子「運良く対面の人が振り込んでくれて助かった。
    一応安全そうな牌切っといて正解だったな……」

由暉子「……」

由暉子「家で一人で打ってる時は、まだ集中できてるかな……
    少なくとも部活のときよりは」

由暉子「……」

由暉子「でも、このままじゃ部活の時ずっと集中できないかも……」

由暉子「……どうしたらいいんだろ」


 『お前本当いいとこねえよな。
  主体性はないし、責任感はないし、生意気な態度はとるし。
  金輪際私に近づいてくんな』


由暉子「……」

由暉子「なんだか元の記憶よりひどいことになってるような……」


由暉子「ひどいことばかり言われるのは、
    私の自己評価が低さが現れてるのかな、と思うし、納得できるけど」

由暉子「どうしていつも爽先輩なんだろう……」

由暉子「……」

由暉子「私爽先輩に何か歪んだ感情抱いてるのかな」

由暉子「でも別に、爽先輩を恨んだりとかはしてないはずだし、
    爽先輩のせいでひどい目にあったとか、そういうこともないし……」

由暉子「……」

由暉子「爽先輩に拒絶されてるように感じてるのかな」

由暉子「……」

由暉子「……わからない」

由暉子「今は気にしないようにしよう……時間が解決してくれるかもしれないし」

由暉子「きっといつか、救世主(メシア)が現れてくれるよね」



誓子「リーチッ」

揺杏「うお、チカセン早っえ」

誓子「ふふん、せいぜいあがき苦しむのね」

成香「うう……安牌がない……困りました……」

由暉子「……」

由暉子(今日は爽先輩の夢を見なかった……)

由暉子(昨日よりは集中できてる気がする。
    誓子先輩のリーチ、何とか凌いでみます)

由暉子「チー」

揺杏「お、ユキが仕掛けた」

トンッ

トンッ

トンッ

誓子「んー、来ないか」トンッ

由暉子「……」

トンッ

トンッ

トンッ

由暉子「ツモです」パタッ


誓子「うわ、やられた」

由暉子「タンヤオドラ1、500と1000の一本付けでお願いします」

揺杏「一発消しからのタンヤオか、やるねー」

成香「素敵です」

誓子「うーん、早巡リーチとはいえ愚形じゃ負けちゃうか。
   ダマってたほうが良かった? こんな手だったんだけど」パラッ

由暉子「いえ、それなら打点も十分ですしリーチで良いと思います。
    私もツモが良かったので、たまたまアガれただけです」

誓子「そっかー。うーん、やっぱり麻雀って難しいわ」

揺杏「難しーねー。人生より難しい」

誓子「それはさすがに人生のほうが難しいんじゃ」

成香「でも今日はユキちゃん、不調ではなさそうですね」

由暉子「はい」

揺杏「はー、私の天下も昨日までだったかー。救世主(メシア)ユキの復活だね」

由暉子「そんな大仰なものでは」


誓子「はいはい。で、爽は今日も遅刻?」

揺杏「今日は何も聞いてないけどね、どーだろ」

成香「風邪を引いたって言ってませんでしたか?」

揺杏「あー、なんか治ったらしいよ」

由暉子「!」

誓子「もう?」

揺杏「今朝LINE来て、『治ったから大丈夫。これで免疫力100倍にはなったね(キリッ 』だってよ」

成香「1日で治っちゃうなんてすごい治癒力です」

誓子「やっぱりカムイ使ったのよ」

揺杏「チカセンのカムイ説、現実味帯びてきたね」

由暉子(……
    やっぱり爽先輩が来るとわかると緊張度が上がる……
    どうしてだろう)

誓子「冗談半分で言ったけど、なんか私も本当にカムイ使ってる気がしてきたわ」

揺杏「麻雀もカムイだし、テストもカムイとか呼んで点数取ってんじゃねーの?」

誓子「どこまでもカムイね……」

成香「あの、そろそろ次の局に……」


タッタッタッタッ

ガララッ


爽「うぃーーーっす!!」ハァハァ

由暉子「!」

誓子「遅い爽、どうしたのよ」

揺杏「思いっきり息上がってんね」

爽「ちょっとクラスのヤツに呼び止められてて遅れた。ごめんごめん」ハァハァ

誓子「先生からのお咎めじゃなくて?」

爽「違うって! 私も毎日呼び出されるほどやらかさないよ」

揺杏「んで何の用だったの、そのクラスメート」

爽「ノート写さしてた。それが結構かかったんだ」

誓子「え、写させてた? 写させてもらったじゃなくて?」

爽「いや本当はな、今日の授業で出た宿題の問題がわかんないから
  教えてほしいーってそいつに頼まれたんだよ。
  でも私も早く部活行きたかったし、とりあえず既に解いたやつ見せて写させたワケ」

成香「授業中に解いちゃったんですか」

爽「ん、まあ私にとってはそれほど難問でもなかったらな。
  先生が与太話してる間に解いてやった」

揺杏「すっげ」

誓子「頭はいいのよね、爽は」

成香「昨日休んでるにもかかわらず……すごいです」


爽「昨日休んだ分のノートはまあテスト前にでもそいつに写させてもらおうかな。
  今は部活大事だしね」

揺杏「まー爽なら写さなくてもテストはラクショーだろうけどね」

誓子「っていうか部活が大事なら先生に呼び出されたりして時間無駄にしないでよ」

爽「……善処する」

揺杏「出たー、直す気ないヤツの言い草だ」

爽「いいだろ! さあそんなことより麻雀だ、今どうなってる?」

誓子「今東4局でユキがアガったわ。今から南入するところ」

爽「ふーん」テクテク

由暉子(う……爽先輩が私の後ろ見に……
    いや、平常心平常心。今日は割と調子もいいし、気にしないようにしないと)

ジャラジャラ

由暉子(南1局……揺杏先輩の親番。私は西家)

由暉子(ドラは七萬か)

由暉子(この配牌、タンヤオも遠いし役牌も1枚だけ……
    アガリは難しい……
    ソーズが5枚あるし、ドラ色じゃないけど無理やりホンイツ行ってみようかな)

爽「……」


トンッ

トンッ

由暉子(オタ風が重なった。これでだいぶ牌姿が良くなった)

トンッ

トンッ

由暉子(……役牌も重なった。打点も速度も十分。
    でもちょっと巡目が経っちゃったかな)

トンッ

揺杏「うっし、リーチ!」カシャン

誓子「来たわね」

由暉子(……親リー)

トンッ

トンッ

由暉子(こっちはホンイツ役牌1の二向聴……
    形は悪くないけど真っ直ぐ行くのは得策じゃない気がする)

トンッ

トンッ

トンッ


由暉子(……ドラを引いちゃった。ベタオリかな……)

由暉子(いや、役牌ドラ1コースに変えてみよう。
    1枚切れのオタ風くらいなら押せるし、形テンくらいは取れるかも)

由暉子(ツモさえ良ければ、できるはず……)

トンッ

トンッ

揺杏「出ないねー」トンッ

トンッ

トンッ

由暉子(……あ)

由暉子(ドラに両面くっつき……六七萬……
    八萬は揺杏先輩の現物だから上家から出てくれるかも)

トンッ

トンッ

揺杏「んー」トンッ

由暉子(あ、七索が通った。運がいい。これで孤立してる不要牌をうまく処理できる)

トンッ

由暉子(役牌ドラ1の一向聴……
    上家の誓子先輩から八萬が出ればテンパイ。出してくれないかな)

トンッ

由暉子(……出ないか)


成香「うう……これは通るでしょうか……」トンッ

由暉子「! ポン!」カシャッ

成香「ひっ」

トンッ

揺杏「お、ユキ攻めるねー」

誓子「アグレッシブね」

由暉子(役牌が確定した。これで伍八萬待ちのテンパイ)

トンッ

トンッ

由暉子(……あ)

由暉子「ツモです。役牌ドラ1は500・1000」パタッ

揺杏「げっろ」

誓子「またユキが流したわね」

成香「今のでテンパイだったんですね……」

由暉子(親リー相手に危ない賭けだったけど、何とかアガれた……)

爽「……」


誓子「どーだった? 爽。後ろから見てて」

爽「ん? ああ。なかなかいい打ち回しだったな」

揺杏「なんか流れるようにアガってったよね。神の手さばきだ」

成香「芸術的です」

爽「ああ、確かに芸術的な打ち回しだった。さすがユキ、うまいなー」

揺杏「やー、やっぱ上手いね。私もそういう打ち回しできるようになりてー」

誓子「やってみればいいじゃない」

揺杏「できそーな場面が来ればね」

由暉子「……」

由暉子(爽先輩が褒めてくれた……)

由暉子(いつもなら嬉しい……はずなのに、
    なぜかあんまり素直に喜べない……
    別のモヤモヤした気持ちが浮かんでしまう……)

由暉子(なんでかな……
    って夢の中でひどいこと言われたせいだよね……)

由暉子(! ダメだ、今はあの夢のことを思い出してる場合じゃない……
    あれを思い出すとまた麻雀が崩れる……
    今はあの爽先輩のことは頭から追い出さないと)ブンブン

爽「? どうしたんだユキ、急に首なんか振って」


由暉子「え! あ……なんでも……」

誓子「もう、大丈夫?」

揺杏「爽に変なカムイでも使われた?」

爽「ちげえよ! 私は何もやってないって」

由暉子「……すみません、大丈夫です」

由暉子(……ふう。先輩達が声をかけてくれたおかげでちょっと落ち着いた……
    とにかく集中しないと)

揺杏「まーいっか。次行くよー」

成香「はい」

由暉子「はい」

爽「……」



由暉子「ロン」パタッ

揺杏「やっべ、そこだったか」

由暉子「イッツーのみ1000点です」

誓子「一索待ち……てっきりタンヤオだと思ってたわ」

成香「私も同じくです……」

由暉子「運良くこうなりました」

誓子「えっと、これで終局。トップはユキね」

成香「チカちゃんが2着、私が3着で揺杏ちゃんはラスですね」

揺杏「やー今回はさっぱりアガれなかったわ」

誓子「私ももうちょっとアガりたかったけど。まあユキがツイてたし仕方ないわ」

成香「私はアガれたのにユキちゃんに親満振り込んじゃったのが響きました……」

爽「まーそういうこともあるさ。ドンマイドンマイ」

誓子「さあてと。
   今日はだいぶ打ったし、そろそろお開きにする?」

揺杏「おー、そうしよ」

誓子「じゃあそうしましょ。
   あとは各自勉強なりネト麻なりに励むように。
   というわけで今日は解散ね。 お疲れ様!」

成香「はーい」

由暉子「お疲れ様でした」

爽「あ、ユキ。ちょっと残ってくれないか?」


由暉子「!」

誓子「え、どうしたの急に」

揺杏「何? まさかユキにヤキでも入れる気?」

爽「ちげえよ! ちょっと真面目な話があんだって」

誓子「はいはい、じゃあ私たちは帰った方がいいってことね」

成香「では、私たちはおいとましますね」

揺杏「何の話か知らねーけどムチャすんなよー」

爽「しないって!」

由暉子(え、この展開……
    最初に見た夢と一緒……
    
    まさか?)


バチィン!


爽「!?」

誓子「え、ちょ、どうしたのよユキ?
   急に自分の頬ひっぱたいて」

由暉子「あ……いえ、疲れてきたので気合を入れようと」ヒリヒリ

成香「え、今からですか?」

揺杏「もう気合入れるようなことないっしょ」

由暉子「いえ、これから爽先輩が話があるそうなので……」

誓子「え、それだけのために?」

成香「色々とびっくりです……」

揺杏「おっかねー。びっくりだ」


爽「……」

誓子「ホント最近のユキは奇想天外ねえ……
   まあとにかく、帰るわよ。お疲れ。ユキも無理しちゃダメよ」

揺杏「お疲れー」

成香「お疲れ様です」


バタン


由暉子「……」

由暉子(爽先輩と2人になった……
    やっぱり緊張する…… 逃げたいけど、逃げるのはマズいし)

由暉子(夢の時みたいに、思いっきり暴言吐かれたりして……
    そんなわけないか)

由暉子(いったい、何の話だろ……)

爽「……」ジー

由暉子「……なぜ外を見ているんですか?」

爽「いや、あいつらが完全に帰っていくのを待ってんだよ。
  帰ったフリしてここで聞き耳立ててたりしかねないからな」

由暉子「はあ」

爽「……よし、完全に行ったな。OK。本題に入ろう」

由暉子「……はい」


爽「んーとな、話ってのは、つまりこうだ」

由暉子「……」

爽「ずばり、その……
  
  最近のユキの態度なんだけど」

由暉子「!」

爽「最近ユキ、妙におとなしくなったよな? ビミョーに麻雀も調子悪いっぽいし」

由暉子「……」

爽「チカと揺杏も私が来ると無口になるって言ってたしさ。
  言われてみりゃ確かに私への態度ヘンっていうか」

由暉子「……」

爽「それでさ、ちょっと聞きたいんだ。
  ユキさ、私のこと何か怒ってる? 私何かユキにしちゃった?」

由暉子「!」

爽「なあ、正直でいい。
  本当に思ってることを言ってくれ。
  私のこと嫌いになったとか、それでもいいから」

由暉子「……」

由暉子(夢のときと逆だ……
    爽先輩のほうが私に嫌われてないか心配してる)

由暉子(爽先輩が嫌いかどうか……うーん……
    少なくとも嫌いとかじゃないはず……)

由暉子(んー、でもわからない……
    確かに最近私、爽先輩のこと心理的に避けてたような……)


爽「いやまあ、私もさんざユキに嫌がられるようなことしたって自覚はあるんだ。
  勝手にアイドルにしようなんて担ぎ上げたりしたし、ここにもほぼ無理やり連れて来たし」

由暉子「いえ、それは特に嫌では……」

爽「でもユキって頼まれたことは嫌って言えない性格してるし、
  もしかして無理してるってことは」

由暉子「そんなことないです。嫌なことは嫌とはっきり言います」

爽「うおう……そうか。なら良かったけど」

由暉子(うん……本当に嫌なことなら嫌って言える。
    だから爽先輩が嫌い、っていうことは多分ない)

爽「でもさ、やっぱ最近のユキの態度ヘンだよ。
  何もないってことはないだろ?」

由暉子「それは……」

爽「うん」

由暉子(正直に話すべきなんだろうか……
    今は他の先輩達もいない……
    話すなら今しか……)

由暉子「……変な話なんですけど」

爽「うん?」


由暉子「私最近、夢を見たんです」

爽「どんな?」

由暉子「最初に見たのは、こう、……
    部活が終わって爽先輩に呼び出されるところから始まって……」

爽「え、それってまさに今みたいな状況?」

由暉子「はい。
    それで呼びだされた後、爽先輩にすごくひどいことを言われるんです」

爽「……何つったの、夢の中の私」

由暉子「……
    『主体性がないクズ』とか、
    『容姿だけで他に取り柄がない』とか、
    『ついてくるな』とか……」

由暉子(なんか若干盛ったような気がするけど、だいたい合ってるよね)

爽「うわなんだそりゃ!
  ひどすぎるだろその私」

由暉子「あくまで夢の中の話ですが」

爽「そりゃもちろんそうだよ!
  私そんなこと全く思ってないもん!
  でも何だそれ、なんでそんな夢見たんだ」

由暉子「それがわからないので困ってます」

爽「んー……」

由暉子(考えてみたら、私最近こんな夢をもう1週間は見続けてる……
    これってよく考えなくても異常だなあ)


爽「……夢って潜在意識を反映するって言うよな。
  ユキが普段密かに思ってることがそういう形で夢に出てるってことだろ」

由暉子「はい。でも別に私、爽先輩にいじめられてるとか、
    そういう風に思ってるわけじゃなくて」

爽「んー。
  でも多分ユキが私に対して何か特別な感情を持ってるってのは確かなんだよな」

由暉子「ですよね……でもそれがどういう感情なのか……」

由暉子(結局、なんで出てくるのが爽先輩なのかはわからなかった。
    私が爽先輩に持っている感情……うーん……)

爽「あるいはユキ、本当に私がそういうひどい先輩だと思ってたり?」

由暉子「いえ違います! 実際の先輩はそんな……」

由暉子(……あれ? 自信を持ってそう言えない……
    夢の中の先輩もけっこうリアルだったし……)

由暉子「ええと……」

爽「おいおい、そこ言いよどむなよ!
  本物の私は絶対そんなこと言わないって」

由暉子「はい……」

爽「まったくちょっとヘコんじゃったじゃん……
  私もだいぶまともになったつもりなのに」

由暉子(自信がなくなってきた……
    今目の前にいる先輩と夢の中の先輩どっちが本当か……)



バチィン!


爽「!?」

由暉子「……やっぱり夢じゃないです」

爽「……またかよびっくりした~。
  さっきもやってたけど、何なんだよそれ」

由暉子「夢か現実かを確かめました。
    やっぱり今の先輩が本物です」

爽「……
  
  あっはっはっはっは!!」パンパンパン

由暉子「……」

爽「やっぱユキ面白れーわ、フツーそんな確かめ方する奴いないって!」ケラケラ

由暉子「……普通はどうするものなんですか?」

爽「普通はこうだろ、こう指で頬をつねって」グイグイ

由暉子「こうですか」グイッ

爽「そうそう。よくあるじゃん、マンガとかでもさ」

由暉子「はあ。ひっぱたくのとあまり変わらない気がします」

爽「いやいや全然違うだろ!
  ダメージの入り方とか」

由暉子「ダメージですか?」

爽「そうだよ、あんまやるとアザができるぞ? せっかくのかわいい顔に」

由暉子「アザができるほど強く叩いてるつもりは」

爽「いやいやいい音してたって!
  とにかくやめとけよ、アイドルは顔が資本なんだからさ」ギュッ

由暉子「!」

由暉子(先輩が私の顔を両手で……包むように……)

由暉子(顔が近い……)

由暉子(……)



スッ


爽「うわっ!!」バッ

由暉子「?」

爽「ちょ、ユキ、なんでお前目ぇ閉じてんだよ!?
  びっくりした~!」

由暉子「え、私目を閉じてましたか?」

爽「閉じてたって!
  マジビクった、キスでもおっ始めんのかと思ったよ」

由暉子「キス……」

爽「ふぃー、やっぱユキは油断もスキもねえな……
  天然が度を超えすぎてるわ……」

由暉子「……」

由暉子「……」カァァァ

爽「……ん?
  どうした急に赤くなって」

由暉子「……いえ、さっき私キスをしかけたんだと思って」

爽「今更かよ! そうだよ!
  あわやキス成立しかけたよ!」

由暉子「はい……すみません」

爽「や……まあいいけどさ……」

由暉子(私とんでもないことしようとしてた……
    顔が近づいたから無意識に目を閉じちゃって……)

由暉子(爽先輩女の人なのに、変だよね……)


爽「なんか私まで恥ずかしくなってきたぞ……やべえ……」カァァ

由暉子(あ、でも爽先輩ってちょっと男の人っぽいって思ったことあったような……
    だったらいいのかな)

由暉子(というか、そもそもどうして目なんか閉じちゃったんだろ。
    それも無意識に……)

由暉子(……あ、そっか。
    無意識ってことはそこに自分の本来の心が現れてるってことか)

由暉子(つまり私は本当は……キスをしたかった……?
    それって……)

爽「……なあ、なんか喋ってよ。
  無言でいられたらひたすら恥ずかしいんだけど」

由暉子(そっか……そっか!
    全部つながった!
    爽先輩に罵られたのも、自己評価の低さも、
    先輩を避けようとしたのも、
    目を閉じたのも……)

爽「おーい聞いてるー?」

由暉子「爽先輩、私気付きました」

爽「……え、何?」

由暉子「私きっと、爽先輩のこと好きなんです」

爽「……」

由暉子「なんとなく爽先輩を避けてたのもきっとそのせいです。今わかりました」


爽「……」

爽「お、おお……お?」

由暉子「……」

爽「おおおおおおおおおおお?」

由暉子「……」

爽「……」


グイッ


爽「……夢じゃねえな」

由暉子「はい、現実です」

爽「えーと……
  念のため聞くけどさ」

由暉子「はい」

爽「それってそういう意味で捉えていいの?」

由暉子「はい、そういう意味です」

爽「そっか……」

由暉子「……」

爽「おおおおおお……おおおおおおおおお……」


由暉子「あの、狼狽してるようですが大丈夫ですか?」

爽「い、いや、いや、私も動揺してんだって。
  昂ぶる感情を抑えられなくなってんだよ」

由暉子「……」

爽「え、本当? マジ? リアリー?
  ユーラブミー?」

由暉子「どうして英語なんですか」

爽「ノリだってノリ!
  あーでもそうか、うーん、あー、完全に予想外ー」ウロウロ

由暉子(先輩がふらつきながら動きまわってる……あ、頭抱えだした)

爽「んあーユキが私のことを……
  うおおおお……あおおおお……」

由暉子「あの、迷惑でしたら、すみません」

爽「いやいや!
  ちょっと待って深呼吸さして、一旦落ち着く落ち着く」


スゥー


由暉子「……」


ハァー……


爽「ふう………… よし」


由暉子「……」

爽「えーと……言うぞ」

由暉子「はい」

爽「はっきり言うぞ。

  私な、お前のこと大好きだ」

由暉子「……え」

爽「こっちからもよろしく。以上だ」

由暉子「あ、あの。ちょっと待ってください」

爽「……え。
  あれ? もしかして私勘違いしちゃった?」

由暉子「いえ、そうじゃないです。突然だったので……
    本当にいいんですか?」

爽「いやいや突然なのはどう考えてもユキの方だろ! ……まあそれはいいや。
  私の言ったことは本当だ」

由暉子「では、……お付き合いしてもいいということですか?」

爽「ん、まあね」

由暉子「……ありがとうございます」

爽「どういたしまして。こっちこそよろしくなっ」ニコッ

由暉子「……」



グイッ


由暉子「……やっぱり夢じゃないんですね」

爽「あっれー、普通のフォームに変えちゃったのか。つまんないの」

由暉子「これが普通と聞いたので」

爽「むー、教えなきゃ良かったかな。
  いちいちバチィン! って頬叩くの面白かったのに」

由暉子「そうですか。
    でも言われてみたら顔に良くない気がしたので、あれはやっぱりやめておきます」

爽「言われなくてもわかるだろ!
  ホンット面白いなお前」ケラケラ

由暉子「それとも戻したほうがいいですか?」

爽「……いや、やっぱり戻さないほうがいいな」

由暉子「そうですか」

爽「だってさ」


グッ


爽「このかわいい顔が傷ついちゃ困るじゃん」

由暉子「……」


スッ




    チュッ




誓子「ロンッ」パタッ

由暉子「あっ」

誓子「リーチ一発チートイドラドラ、18000ね」

由暉子「……はい」ジャラ

揺杏「ふー助かった、実は安牌全然なかったんだよねぃ」

成香「スジ引っ掛けの九萬……ユキちゃんが出さなかったら私が出しちゃってました」

誓子「ベタオリの時は完全安牌から切らないとダメよ?
   相手が親リーのときは特にね」

成香「はい……」

揺杏「しかしユキから甘ーい牌がポロっとねえ。
   なーんか昨日あたり同じような光景見た気がすんよ?」

誓子「というか、今日いつにも増してボーっとしてない? 大丈夫?」

由暉子「はい……実はちょっと眠いです」

誓子「あらまあ」

揺杏「どしたの、寝不足?」

由暉子「はい……少し」


成香「確かにユキちゃん、部室に来た時からちょっと元気なさそうでしたね」

誓子「あ、もしかして昨日爽に何か言われたんじゃない?
   それで落ち込んでるとか」

揺杏「え、まさかホントにヤキ入れられた?」

成香「怖いです……」

由暉子「いえ、決してそういうことじゃないです。たまたま今日寝不足なだけなので」

由暉子(まあ、夢の中ではさんざんひどいことを言われましたが)

誓子「ふーん、ならいいけど。抱え込んじゃダメよ?」

揺杏「悩みがあるときゃ先輩達に言うんだよー?」

由暉子「はい…… ファ」

成香「そういえば爽さん、まだ来ませんね」

揺杏「何だろーね。今日も何も聞いてないけど」

誓子「ていうかここ最近遅刻欠席多すぎよ。
   まーた宿題サボって怒られてるんじゃないでしょうね、承知しないわよそうだったら」

揺杏「おっ怖いねー、チカセンの雷。チカセンでんきタイプだから威力1.5倍だ」

誓子「何の話よ」

成香「ポケモンですか。確かにチカちゃん、でんきタイプっぽいです」

誓子「もう、なるかまで……どの辺が電気なの」

揺杏「まーそれはさておいて、次の局……」


タッタッタッ


ガララッ


爽「うーっす、お待たせ!!」ハァハァ

誓子「もう、また遅れたの? どうしたのよ今日は」

爽「いやー、ちょっと先生に呼び出しくらってた。
  授業中寝るなって」

揺杏「あっはは、あるあるー」

誓子「あるあるじゃないから」

成香「でも居眠りで呼び出されるって、相当じゃないですか?
   常習犯じゃないとそこまでは……」

爽「いやーそれがさ、今日ほぼ全部の授業で寝てたんだよな。
  そしたら担任に放課後来いって呼び出されて、行ってみたら先生勢揃い」

揺杏「やっべ」

成香「それは怖いです……」

誓子「寝るほうが悪いからしょうがないわよ。
   でも何、そんなに疲れてたわけ?」

爽「それが実は昨日全然眠れなかったんだよ。
  多分1時間ぐらいしかまともに寝てないな。
  しかも体育もあったし、寝ないほうがおかしいっていう」

揺杏「それはきっついね。確かに全部寝ても不思議じゃねーわ」

誓子「なんで昨日そんな眠れなかったの」

爽「ちょっと考え事してたんだよ。
  そしたら止まらなくなった」

誓子「何考えたらそうなるの」

爽「まあちょっと人間の幸せについてとか、恐竜はなぜ滅んだかとか、
  宇宙のこととか、ベートーベンとか」

誓子「何それ、ことごとく意味分かんない」

成香「意味不明で怖いです……」

揺杏「相変わらず爽の脳内はカオスだね」

誓子「だからカムイとかも呼べるのかしら」


爽「まーそれはさておいてだ! 今どんな……
  
  ってあれ、もしかしてユキ寝ちゃってんのか」

誓子「あ、ホントだ。完全に寝てる」

成香「爽さんが来る前あたりからこっくりしてましたよ」

揺杏「寝不足なんだってさ」

爽「なーんだユキもか。まったくしょうがないヤツだなー」


タッタッ


爽「おーいユキー!!
  起きろ、まだお前の出番は終わってないぞー!」グイグイッ

由暉子「……ん」

誓子「お目覚めになったわね」

由暉子「……あ! すみません、対局の途中で寝ちゃうなんて……」

揺杏「局の合間だから良かったけどね」

成香「大丈夫ですか?」

由暉子「はい、大丈夫です。申し訳ありませんでした」

誓子「いいのよ、疲れてるみたいだし。続けましょ」

爽「おいおい何この扱いの差。私には厳しいのにさー」

誓子「何よ今更。日頃の行いの差でしょ」

爽「はいはい、善処しますよーだ」ブー

由暉子「……ふふっ」

揺杏「あっれ、なんかユキがニヤニヤしてる」

誓子「あ、ホントだ」

由暉子「え! いえそんなことは……」

成香「何かいいことでもあったんですか?」

誓子「夢でも見たの?」

由暉子「……はい、とってもいい夢を」


カン!



以上です。
有珠山初めて書きました。
稚拙な点も多いですが楽しんでいただけたら嬉しいです。

爽っていいキャラしてますね。好きです。

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