【モバマスSS】八神マキノと二人だけの暗号 (11)

モバマスSSです。

書き溜めあります。

八神マキノのSSです。

PはモバPです。省略してます。

劇中の10年後の物語を書いてみました。

よろしくお願いします。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1453210841




窓から入る風が気持ちよく、まだ冷房は必要ない、そんな季節の昼下がり、八神マキノは事務所の会議室でモバPを待っていた。

『新しい仕事の打ち合わせがしたい』

時間と場所、そしてその簡単なメッセージを添えただけのメール。

いつもながら味気ない、とマキノは思う。

ずいぶんと昔に、メールはシンプルで必要なことだけ伝えてくれればいい、と言ったことがある。

その方が効率的だわ、と。

以降、Pはこういったメールをマキノに送り続けている。それをマキノ自身も快く思っていた。

ある時、諜報活動と称して、Pの話をほかのアイドルから聞いていると、どうやら他の子にはもう少し言葉を添えてメールを送っているようだとわかった。

私だけ特別

良い意味で? 悪い意味で?

私の有望通りにしてくれている。

私だけ味気ないメールになっている。

思えば、これがすべてのきっかけだったのかもしれない。

自分の中に芽生えている、論理的でない感情に気付き、歩み始めた……

結局、マキノはメールのことをPに言うことはなかった。だからメールは今もずっとシンプルなままだ。




昔の初々しい気持ちを思い出してしまった。

今の自分なら、もう少し素直になれるだろうか。

時計を見る。Pとの約束の時間まではあと15分ある。

とすると、彼はきっとあそこにいる。

マキノは立ち上がり、部屋を後にする。予想の場所にいなくても、時間前に戻ればいい。

でも、そんな心配はいらない。Pのことは誰よりも知っている、そんな自信がマキノにはあった。




「やっぱりここにいたわね」

事務所の屋上に設けられた喫煙所。マキノが思った通り、Pはそこにいた。

「おっと、もう時間だったか」

Pはくわえていたタバコを手に取り、言った。

「いいえ、まだよ。でも貴方ならここにいるだろうと思ったのよ」

さすが諜報員、にやりと笑いながらPはまたタバコをくわえる。

「何度目の指摘か忘れたけれど、タバコは健康に悪いわよ」

「わかった上で吸ってる」

Pの言葉に、やれやれ、とマキノはかぶり振る。

「わかった上で吸うなんて、論理的ではないわ」

マキノの言葉に、Pはふむ、とうなずく。

「好きな人に看取られて死にたいからな。先に逝くための準備、なら論理的か」

「あなたの調査書に、自己中心的と付け加えた方がいいかしら」

呆れたマキノの視線に、Pは苦笑いする。

「それはあまり好ましくないな」

そう言いながらも、やめようという色をPは出さない。そんな様子にマキノは改めてあきれる。

「世の中、論理だけじゃないってこと、マキノもわかってるだろ?」

マキノに何か言われる前に、とPは口を開く。理屈合戦になればマキノには敵わない。長い付き合いの中で、Pが学んだことの1つだ。

「論理じゃ説明つかないことがたくさんあることは、確かに貴方が教えてくれたわ」

そう言ってマキノはPがくわえていたタバコを取り上げる。

そして背伸びをして、キスをする。

「タバコくさいキスは好きじゃないの」

「……それは初耳だな」

まだ火が付いたままのタバコをスタンド灰皿に投げ入れると、ジュッと音がした。

「今日は素直になった方がいい。貴方を待っている間にそう思ったのよ」

くるりと踵を返しながら、マキノは続けた。

「先に会議室に行ってる。あと一本吸ってからでもいいわ。もちろん、吸わずに来てくれた方がうれしいけれど」




去っていくマキノの背中と、タバコの箱を交互に見ながらPはため息をついた。

これを最後の一本にしよう。

この仕事が終わったら禁煙しよう。

最後の一本が何度あったことか。

この仕事が何個あったことか。

好きな人ができたら、タバコを止めよう。

付き合い始めたら、吸わないようにしよう。

マキノへの恋心に気付いても、そして恋が成就して付き合い始めても、結局やめられなかった。

タバコの箱を見つめる。

ギュッと手を握り締めると、グシャリ、とタバコの箱が潰れた。

最後のきっかけで失敗しないために、今から始めよう。

ゴミ箱にタバコの箱を投げ捨て、Pはマキノの後を追った。




「……思ったより早かったわね」

会議室にPが入ると、マキノはそう言って出迎えた。

いつになく大胆なことをしたあとだったからか、冷静になって恥ずかしくなったからか、ほんのり頬が赤くなっている。

「約束の時間が近かったから、かな」

面白くない回答ね、とむすっとした表情をマキノは作る。

「代わりに面白い仕事を持ってきた。デビュー10周年記念ライブだ」

ふぅん、とあごに手をあて、マキノは2、3度うなずく。

「節目を大事にするというのは、良いことね」

論理的と言うより、倫理的ね、とマキノは続けた。

「大きな仕事になる。しばらくはレッスンを増やし、少し前辺りからバラエティ含め告知祭りだ」

Pは大まかな活動予定表をマキノに手渡し、ざっくりとした説明をする。

マキノは予定表を上へ下へと目を通し、なかなかヘビーね、とポツリとつぶやく。

「いけそうか?」

Pの言葉に、マキノは即答する。

「もちろん」

ただ、と一言付け加える。

「一段落したら、温泉にでも連れていってもらおうかしら」

「もちろん」

Pも即答した。




「光陰矢の如し、というけれど、今日まであっという間だったわね」

ライブ直前、舞台袖でマキノがつぶやく。

「10年前はまさかアイドルになるなんて思いもしなかったし、10年も続けるなんて夢にも思わなかったわ」

「でもまだ川島さんがアイドルになった年齢だ。これからまだまだ輝けるさ」

はあ、とわかりやすくマキノはため息をつく。

「先が思いやられるわね」

「楽しみと言ってくれ」

そう言いながらPはマキノの隣に並んだ。

そして、肩に手を乗せる。

「ちょっと……私たち以外にもたくさん人がいるのだけれど」

「いいから、少し」

マキノは何を考えているの、といった表情で斜め上を見上げる。そこには、まっすぐ真剣な顔をして、ステージを見つめるPの顔があった。

今度は少し違う意味で、何を考えているの、という表情をして、マキノもステージを見つめる。

トン、とPが短く肩を指先で叩いた。続けてトーン、とゆっくりと肩を指先で叩く。

違いを示すような、そんな叩き方……

トーン トン トーン

トン トーン トン トン

トーン トン トーン トーン トン

トン トーン トン トン

ハッとして、マキノは小さくうなずく。




トーン トーン トン トーン トーン

トン トーン

トーン トーン トン トーン トン

トン トーン トン トーン トーン

トーン トン トーン トーン トン

目頭が熱くなるのをマキノは感じた。

トーン トン トーン トーン

トン トーン トーン トン

トーン トーン トーン トーン

トン トーン トン トーン トン

トーン トーン トン トーン トン

トーン トーン

トン トン トーン

マキノは肩に乗せられたPの手に、自分の手を重ねた。

トーン トン トン トン

トン トーン

そして、震える手で、答えた。




伝わらなかったらどうするつもりだったの。

どうして今だったの。

おかげで最初からクライマックスみたいじゃない。

言いたいことは山ほどあった。

でも、つきとめるのは全部終わってからだ。

真っ赤になりながら、マキノは走り出した。



おしまい。

トン ツー
の方が本当はわかりやすいところですね

http://www.benricho.org/symbol/morse.html

ありがとうございました。

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