鷺沢文香「海外の方、ですか……?」 ミザエル「真のドラゴン使いだ」 (86)

・遊戯王ゼアル×モバマスのクロス
・モバマスはアニメ時空(22話より後)
・ゼアルは最終回の遊馬VSアストラルからエピローグまでの間のどこか


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ミザエル「………」

ミザエル「………」


パシュッ


カイト「ミザエル、入るぞ」

ミザエル「ああ」

カイト「まだ作業を続けていたのか……コーヒー、飲むか」スッ

ミザエル「衣食住をお前の父親にまかなってもらっている身分だからな……すまない、いただく」

ミザエル「それに、アストラル世界をはじめとする異世界に関する研究には、私自身興味がある」

カイト「そうか」

カイト「だが、少しは他のことに目を向けてみたらどうだ。学校に通っている間以外はほとんどそうしているだろう」

ミザエル「問題はなかろう。心配せずとも、デュエルなら学校で行っているから腕は落ちていない」

カイト「誰がデュエルの実力の話をしている」

カイト「俺はただ、休養をとったほうがいいと忠告しているだけだ」

ミザエル「休養だと? そんなもの私には必要」

トンッ

ミザエル「うおっ……と」フラフラッ

カイト「軽く押しただけでこれだ。精神が疲れずとも、同じ作業を続けていれば身体に疲労が蓄積していく」

カイト「バリアンは知らんが、人間の身体とはそういうものだ」

ミザエル「むぅ……不便だな、人間は」

カイト「そうだな。だが慣れろ」

カイト「明日は日曜だ。学校もないし、たまには外に出てゆっくりしてこい」

ミザエル「外……外で何をすればいい」

カイト「適当に羽を伸ばせと言っているんだ」

ミザエル「適当、ではわからん。私は人間社会のなんたるかをまったく理解していない」

ミザエル「ましてや、休日の羽の伸ばし方など」

カイト「……わかった。付き添いを用意する」

ミザエル「付き添い?」

翌日


ハルト「じゃあ、いこうか。ミザエルさん」

ミザエル「ああ……行先はお前に任せる」

カイト「頼んだぞ、ハルト。俺は少し片付けなければならない仕事が残っている」

ハルト「かしこまり、兄さん!」



ハルト「とりあえず、街をいろいろ案内するよ」

ミザエル「頼む。……ハルトは、羽の伸ばし方、に詳しいのか?」

ハルト「そんなにあれこれ知ってるわけじゃないけど……まあ、兄さんや父さんよりは詳しいかな」

ハルト「二人とも、基本的には仕事人間だし。僕は学校通わせてもらってるから、友達と一緒に遊んだりとか、そういうので」

ミザエル「前々から思っていたのだが、カイトは学校には行かないのか?」

ハルト「父さんやクリスさんは行かせたがってるんだけど、兄さんは『今さら行く理由もあるまい』ってさ」

ミザエル「……うまいな。カイトの真似」

ハルト「すごいでしょ。僕の特技のひとつなんだ」ニコニコ

ハルト「でも、実は父さんも諦めてなくて。大学で講義する仕事とかが来ると、兄さんにまわして行かせているんだ」

ハルト「そこで学校の空気に触れて、行きたくならないかなって算段」

ミザエル「ずいぶんと遠回りな作戦だな。効果は薄いのではないか?」

ハルト「あはは、多分ね」

ハルト「とりあえず、駅から近いところというと……」

ミザエル「ハルト。そこにカードショップがあるぞ」

ハルト「うーん……あそこのデパートかな」

ミザエル「ハルト。そこにカードショップがあるぞ」ウズウズ

ハルト「ダメです」

ミザエル「なぜだ!」

ハルト「今日はデュエル関連以外を頼むって、兄さんに言われてるんだ」

ハルト「じゃないとミザエルさん、カードショップだけで時間つぶしそうだからって」

ミザエル「それの何が問題だというのだ」

ハルト「研究とデュエル以外の楽しみを見つけろってことだと思う。見聞を広めてほしいんだよ」

ミザエル「そういうあいつ自身は研究とデュエル以外何かやっているのか」

ハルト「兄さんは一応、機械いじりが趣味だから。今でもたまにオービタル達の改造してるでしょ?」

ハルト「たまに変な機能つけようとして、本人が嫌がったりするんだけどね」

ミザエル「時折オービタルの悲鳴が聞こえてくるやつか」

ミザエル「以前いきなり私の部屋に来て、かくまってくれと言い出した時は何事かと思ったぞ」

ハルト「あはは」

ハルト「というわけで、兄さんはミザエルさんに、もっとこの世界についてたくさん知ってほしいんだよ」

ミザエル「なるほど……奴はおせっかいだな」

ハルト「不器用だけど、優しい僕の兄さんだから」

ミザエル「……優しいのは、お前相手だけではないのか?」

ハルト「そんなことないよ。きっとね」

ミザエル「……よくわからん。難しいな、人間というのは」

ハルト「今はミザエルさんも、その人間でしょ?」

ミザエル「……ふっ、そうだな」

ミザエル「さらに言えば、はるか昔の私も……」

1時間後


ハルト「うーん。本屋もあんまり興味が湧かなかったみたいだね」

ミザエル「ああ。身を惹かれるような書物は見当たらなかった」

ミザエル「他の客は、女の写真が表紙のものに群がっていたりもしたが」

ハルト「アイドルの写真集とかだね。ギラグさんは、ああいうのよく読むって言ってたよ」

ミザエル「そういえば、アイドルがいいとかモエとか言っていたな。話の一割も理解できなかったが」

ハルト「僕は結構アイドルに詳しいから、そのあたりは話が合うんだ」

ミザエル「ほう。お前とギラグにそんな縁があったとは」

ハルト「うん。でも、ミザエルさんには合わなかったみたいだし……あ」

ミザエル「どうした」

ハルト「近くにもうひとつ本屋さんがあるんだ。そっちは、さっきのところよりも専門的な本をたくさん置いていて……もしかしたら、ミザエルさんが気に入るものがあるかも」

ミザエル「本屋とは本を売っているだけで、すべて同じではないのか」

ハルト「お店ごとに特徴があるんだよ。トラップカードだって、カードのカテゴリーは同じでも、効果は一枚一枚違うでしょ?」

ミザエル「なるほどそういうことか。よくわかった」

ハルト「カードでたとえると理解が速いね」ハハ

ハルト「あった。ここだよ」

ミザエル「確かに、外装からして地味だな」

ミザエル「客も少ない」

ハルト「そ、そういうことは口に出しちゃだめだよ」

ミザエル「そういうものか」

ハルト「そういうものだよ」

ミザエル「……先ほどの店と比べて、厚い本が多いな。それに見たところ古そうだ」

ハルト「古本も取り扱ってるお店だから。とりあえず、一通り見てみようよ」

ミザエル「ああ」

15分後


ミザエル「『ドラゴンの歴史』か……ほう」

ハルト「………」ソワソワ

ミザエル「……どうした、ハルト。先ほどから落ち着きがないが」

ハルト「あ、あはは……実は、さっきの本屋にあった本で、ちょっと気になるものがあって」

ミザエル「なに? ならなぜ出る前に言わなかった」

ハルト「今日はミザエルさんのために来たんだし、と思って」

ミザエル「……今から戻ればいい。いくらか後で待ち合わせをすればいいだろう」

ハルト「いいの?」

ミザエル「私はひとりで買い物もできない子供ではないのだぞ」

ハルト「……それなら、少しだけ。ありがとう」

ミザエル「礼などいらん。もともとお前は、カイトに言われて私の付き添いをしているだけだ」

ハルト「それでもだよ。ありがとう」

その後


ミザエル「ドラゴンに関する書物……なかなか興味深いな」

ミザエル「他にはないのか」

ミザエル「……こういう場合、店の者に尋ねるのだったな」


店員「………」

ミザエル「おい、女」

店員「」ビクッ

店員「……は、はい。なんでしょう……」

ミザエル「ドラゴンの書物を探している。そこの棚にある物以外、何かないか」

店員「ドラゴン……竜、ですか」

店員「それでしたら……こちらの棚にも……」スタスタ

ミザエル「おおっ! 『世界各国のドラゴンの伝承』『ドラゴンの生態』……他にもあるな」ワクワク

店員「……あの……あまり、立ち読みは……」オドオド

ミザエル「なんだ?」パラパラ

店員「……いえ。なんでも、ありません」

店員(海外の人とは、接し方がわからない……怒らせてしまうと怖いし……)

20分後


ミザエル「女! ひとまず今日は3冊買うぞ」

店員「は、はい……合計で、4532円になります」

ミザエル「私は5000円札をコストにする」キリッ

店員(コスト……?)

店員「……468円のお返しです……ありがとう、ございました」

ミザエル「ああ」

ミザエル「お前のおかげでいい書物に巡り合えた。礼を言うぞ」

ミザエル「また来るが、かまわないな」

店員「ええ……ここは、書店なので……」

ミザエル「そうか。これでカイトに小言も言われまい」ククッ

店員「は、はあ………」

ミザエル「……女。名はなんと言う」

店員「え?」

ミザエル「名だ。ないわけではあるまい」

店員「あ……その……」

店員「文香……鷺沢、文香です」

文香(反射的に答えてしまった……)

ミザエル「文香か。覚えておくぞ」

ミザエル「またドラゴンの書物を仕入れてくれるな?」

文香「機会があれば……」

ミザエル「よし」

ミザエル「ではまたな。私はハルトのもとへ行かねばならない」

スタスタスタ……


文香「……ありがとう、ございました……」

文香「………」

文香「不思議な人……日本語、流暢だったし……」

ハルト「へえ。それじゃあ、あそこの本屋気に入ったんだ」

ミザエル「ああ。また休みの日には足を運ぶつもりだ」

ハルト「そっか、よかった。兄さんも喜ぶよ」

ミザエル「喜ぶのか」

ハルト「そう、喜ぶよ」

ミザエル「そうなのか……?」


ミザエル(まあいい。カイトの意図がどうであれ、あの店に出会えたのは得だった)

ミザエル(また文香に面白い書物を紹介してもらおう)

とりあえず今日はここまで
ふみふみよりハルトのほうがセリフが多い? 知らん、そんなことは俺の管轄外だ

次からは文香の出番も増えます

翌週


カイト「ミザエルは今日もその古書店に行っているのか」

ハルト「うん。もう付き添いは必要ないって」

カイト「そうか」


ギラグ「見てみろハルト。この子なんてかわいいだろ」

ハルト「うーん。僕はこっちの子のほうが」

ギラグ「あー、なるほど。お前の好みがだんだんわかってきたぜ」

カイト「……ところで、お前達はさっきから何をしている」

ギラグ「見りゃわかるだろ。アイドルトークだよ」

ハルト「兄さんもどう?」

カイト「……遠慮しておく」

ギラグ「どうも俺の周りはこういうの興味ない奴が多くてな。一緒に語れるハルトは貴重な仲間だ」

ハルト「えへへ」

カイト「……そんなに夢中になれるものなのか」

ギラグ「おう! たとえば、俺の今の注目株……この子なんてどうだ!」

カイト「………」

カイト「気の弱そうな女だな。俺は好かん」

アリト「だよな! やっぱり男も女も度胸がねえとな!」

カイト「お前、いつからいた」

ギラグ「わかってねえなあ。こういうのがいいんだ」

ハルト「鷺沢文香さんか……綺麗な目、してるよね」

ギラグ「一度お話ししてみたいぜ」

アリト「お前みたいなコワモテが近づいたらビビっちまいそうだけどな」

ギラグ「なんだとぉ!」


カイト「………」

カイト「いつの間にか、ここも騒がしくなったな」フッ

同時刻


文香「ドラゴンと竜。同じものとして扱われることもありますが……西洋と東洋では、その姿かたちが大きく異なることもあります」

文香「手足がしっかりとしており、屈強に描かれるものもあれば」

ミザエル「これはタキオンドラゴンやフォトンドラゴンに似ているな」

文香「蛇のように細長い胴体が主で、四肢は小さく描かれる竜もいます」

ミザエル「これは……あの竜に似ている」

文香「……あの竜?」

ミザエル「……こちらの話だ。気にするな」

文香「は、はい……」

ミザエル「しかし、文香はドラゴンに詳しいな」

文香「その……創作の世界に浸るのは好きなので……」

文香「ドラゴンや竜も……その一環で……」

ミザエル「創作、か」

文香「………?」

ミザエル「ドラゴンは力強く、そして美しい。文香が惹かれたのも当然だ」ハハハ

文香「は、はあ……」

文香(ところで、私はなぜこの人とずっと話しているのだろう……)

文香(来店するなり、一直線にカウンターまでやってきて……椅子に座って、当然のように語りかけてきて……)

文香「あ、あの……」

ミザエル「なんだ」

文香「その……あの……私はあまり……話すのが……」

ミザエル「……ああ、そういうことか」

文香「は、はい」

文香(わ、わかってくれましたか)

ミザエル「文香に名乗らせておいて、私の名を教えていなかったな」

文香(ち、違う……私の言いたいことはそれではなくて)オロオロ

ミザエル「私はミザエルだ。覚えておくがいい」

文香「み、ミザエルさん……やはり、海外の方ですか」

ミザエル「真のドラゴン使いだ」ドヤ

文香「………」

文香(おじさん、助けてください……)

40分後


ミザエル「今日もいい買い物ができた」

ミザエル「興味深い話も聞けた。有意義な時間だったぞ、文香」

文香「は、はい……お買い上げ、ありがとうございます」


スタスタスタ……


文香「………」

文香「つ、疲れた……周子さんや、フレデリカさんとお話しする時よりも、ずっと……」グッタリ

文香(ミザエルさん……悪い人ではないことは、わかるけれど)

文香(親しくない男の人との会話は、やはり……)

文香「………はぁ」

文香(アイドルを始めても、なかなか変われない……こういうところは)

文香「………」


文香「……変わって、いいのでしょうか」

翌週


ハルト「僕は島村卯月さんみたいな、笑顔が素敵な人がいいかな」

Ⅲ「確かに、いいね。ちょっと遊馬の笑顔に似てるかも」

Ⅳ「俺はもっと従わせがいのある女だな。この雑誌の中なら……この渋谷凛って奴だ」

V「この双葉杏という少女……動くべき時のみ動く、泰然自若とした雰囲気を纏っている」

トロン「僕は赤城みりあちゃんだね」

Ⅳ「ロリコンかよ。家族ながら引くぞ」

トロン「ロリコンじゃないさ。僕は子どもなんだから子どもが好きなのは当然じゃないか」

Ⅳ「都合のいい時だけ子どもに戻るんじゃねえよ」


カイト「………」

カイト「なぜ一家勢ぞろいでここにいる?」

Ⅳ「兄貴と親父が昼飯を持って行き忘れたもんでね。こうして研究所まで届けにきてやったのさ」

Ⅲ「こっちに来て、一緒に見ませんか? アイドルの写真集」

カイト「興味がない」

V「カイト。お前もいい年だ。そろそろ異性に関心を持っても」

カイト「それはあんたに恋人ができてからだ。クリス」

V「……そう言われると、何も返せないな」

Ⅳ「相手なら紹介してやるぜ? なにせ俺は何百通もファンレターをもらう身だからな。ハハハッ!」

カイト「凌牙にでも紹介しておけ」

同時刻


ミザエル「なるほど。この国ではそのようなドラゴンの歴史があったのか」

文香「……ミザエルさんは、本当にドラゴンがお好きなんですね」

ミザエル「……ああ」

ミザエル「ドラゴンは、私のすべてだったからな」

文香「すべて……だった?」

ミザエル「そうだ。『だった』」

ミザエル「今は、大事なものが他にいくつか増えた」

ミザエル「だがそれでも……ドラゴンは、我が魂だ」フッ

文香「………」

文香(とても、不思議な表情だった)

文香(寂しさと誇らしさ。哀しさと嬉しさ。その他たくさんの感情が、いくつもない交ぜになったような、そんな顔つき)

文香(私は彼の整った顔立ちを、しばし惹きこまれるように見つめていた)

文香(自然と、そうしてしまっていた)

文香(彼の……ミザエルさんの表情に、関心を抱いていた)




ミザエル「また来よう。今度は手土産のひとつでも持ってくる」

ミザエル「世話になった相手への礼儀……それが人間のルールだそうだからな」

文香「は、はあ……お買い上げ、ありがとうございました」

さらに翌週


カイト「ハルト? どこへ行った?」

カイト「………む?」

カイト「雑誌が落ちてある……これは、アイドルの写真集、か」

カイト「それなりの人数が興味を抱いていたようだが……」

カイト「………」パラパラ




ハルト「あ、兄さん読み始めた」←物陰に隠れている

遊馬「カイトってアイドルに興味持つのかな?」←物陰

凌牙「なんで俺までこんなことに付き合わなきゃならねえんだ」←物陰

凌牙「Ⅳが女をファンサービスだのなんだのうるさくて、元をたどればカイトに原因があるらしいから文句言いに来ただけだってのに」

遊馬「いいじゃねえかよ。シャークだって気になるだろ? あのカイトがアイドル好きになるかどうか!」

凌牙「………」

凌牙「まあ……気にならないと言えば、嘘だな」

同時刻


ミザエル「手土産だ」バサッ

文香「これは……デュエルモンスターズのカードパック?」

ミザエル「先ほどショップで買ってきた」

文香「そ、そうですか……」

ミザエル「案ずるな。引きの強さには自信がある」

文香「そこは、別に気にしていないのですが……」

文香「私は、あまりデュエルはやらないので……」

ミザエル「なに!? デュエリストではないのか!?」

文香「そ、そこまで驚くほどのことでしょうか……」

ミザエル「……考えてみれば、私のクラスにもデュエルをしない人間はいくらかいたな。少数派ではあったが」

ミザエル「なに? ARビジョンが怖いだと?」

文香「か、かわいいモンスターが飛んだり跳ねたりするのは問題ないのですが……ど、ドラゴンの咆哮とか、バトルとかを見るのは……びくっとなります」メソラシ

文香「あ、あと……大声で効果やフェイズの宣言をするのも……苦手です」

ミザエル「なんだそれは……呆れた奴だな」

文香「なので……デュエルをする時は、机の上で行います」

ミザエル「机の上でデュエルだと!?」

文香「っ」ビクッ

ミザエル「………」

ミザエル「なるほど、そういうやり方もあるのか」

文香(か、感心している?)

ミザエル「………」

ミザエル「文香」

文香「はい」

ミザエル「お前の瞳は美しい」

文香「………」

文香「………!?」

ミザエル「どうした、慌てて」

文香「い、いえ……なにも」

ミザエル「まあいい」

ミザエル「話を戻すが……お前の瞳は美しいが、ドラゴンのような力強さが感じられない」

ミザエル「惜しいな」

文香「……力強さ、ですか」

ミザエル「何ひとつ強い意思が見えないわけではないが……足りないな」

文香「足りない……」

ミザエル「迷いや悩みがあるのなら、振り切ることだ」

ミザエル「そうすれば、お前は強くなれる」

文香「……強く」






ミザエル「ではな。また来る」

文香「ありがとうございました……」



文香「………」

文香「強く……」

その日の夜


文香「………」

文香(オータムフェス……私が本番直前に体調を崩したせいで、皆さんに迷惑をかけてしまった)

文香(あの時、怖気づいてしまったせいで……)

文香(最終的にステージに上がることはできた。ありすさん達も、気にしなくていいと言ってくれた)

文香(けれど……今度は、あんなことがないようにしないと)

文香(………)


文香(違う)

文香(本当に悩んでいるのは……迷っているのは、そのことじゃない)

文香(もちろんそのことも悩んでいるけど……私は、本当は……)

文香(ああ……やっぱり、私は弱い)

文香(もっと、皆さんのように心が強ければ……)

文香(強ければ……)


文香「……あ」

文香「どうして、本棚にカードが……」

文香「見たことのないカード……」



文香「……ナンバー、ズ?」スッ



グワッ

文香「っ!?」

文香「な、なにが……うっ」

文香(あ、頭が………!!)

今日はここまで。続きは明日にできたらいいなってくらいです

翌日 学校


ドルべ「それは、まずかったのではないか?」

ミザエル「私は間違ったことを言ったつもりはないぞ」

ドルべ「たとえそうだとしても、さほど親しくない者に説教のようなものをされては、相手もいい気はしないだろう」

ドルべ「しかもお前は年下だ」

ミザエル「何を言う。私はドラゴンの友として、バリアンとして」

ドルべ「前世でそうだったとしても、今の我々は一学生にすぎない」

ドルべ「違うか?」クイッ

ミザエル「………違わんな」

ドルべ「その店員と今後も良好な関係を築きたいのであれば、今日あたり謝りにでも行っておけ」

ミザエル「……そうしておこう」

ミザエル「やはりドルべは頼りになるな」

ドルべ「フッ、よせ。おだてても何も出ん」

放課後


ミザエル「さて、もうすぐ文香の店だが……む?」


文香「………」フラフラ


ミザエル「文香ではないか。今日は店の中にはいないのか」

文香「………」

ミザエル「……文香?」

文香「ミザエルさん……私……強くなりたいんです」

ミザエル「強く? ………っ!?」

ミザエル(なんだこれは。いつもの文香と気配が異なる)

文香「強くなるためには……強い人を、倒さなければ……」

文香「うっ……違う、私はそんなこと……」

ミザエル「おい文香! しっかりしろ!」

ミザエル(文香の懐から、ただならぬ力を感じる……これは、まるで)

文香「………」

文香「ミザエルさん」


文香「デュエル、しましょう?」ニタァ

文香「私の、ナンバーズと」

ミザエル(やはり、ナンバーズ……!)

ミザエル「………」

ミザエル「いいだろう」

ミザエル「貴様の挑戦、受けて立つ」

文香「ああ……やはりあなたは強い人なんですね……ふふっ」

文香「……それでこそ、倒す価値があります」

ミザエル「随分直情的な言葉を使うな。すぐに元に戻してやる」

文香「……元に……戻る」

文香「いいえ。私は戻りません……私は、変わったんです」

ミザエル「………」

ミザエル「Dゲイザー、オン!」

文香「デュエルディスク、セット」

ミザエル「デュエルターゲット、ロックオン!」



ミザエル・文香「デュエル!」

ミザエル(LP4000)VS鷺沢文香(LP4000)

※ゼアル次元なので先行ドローあり


ミザエル「先行はくれてやる。お前の力を見せてみろ」

文香「余裕、ですね」

ミザエル「癪だというのなら、私の余裕をなくしてみせることだな」

文香「………」ムッ

ミザエル「フン。そういう顔もできるのだな」

文香「……私のターン。ドロー」

文香「私の新しい力……見せてあげます」

文香「私の、ナンバーズ……!」

ミザエル「来るか……!」


文香「………」

ミザエル「………」

文香「………あの」

ミザエル「………?」

文香「よくよく考えてみると……」


文香「私のデッキ……このナンバーズを召喚するための、素材がいません……」

ミザエル「………」



ドガーン!
ドゴーン!
グオオオン!


文香「きゃっ」LP1800→0

ミザエル WIN!

ミザエル「フン。馬鹿らしい……」

ミザエル「馬鹿か貴様は。エースモンスターの召喚がままならないようなデッキを組むデュエリストがどこの世界にいる」

文香「そ、そう言われましても……このカードを拾ったの、つい昨晩のことですし……」オロオロ

文香「そこから先の記憶が曖昧で……熱に浮かされていたような……」

ミザエル「とにかく、このカードは私がもらう」ピッ

ミザエル「……よりにもよって、このナンバーズとはな」

文香「あの、ナンバーズとはいったい」

ミザエル「お前が知る必要はない」

文香「は、はい……すみません」シュン

ミザエル(そもそもナンバーズとはアストラルの記憶のピースのはず。そのアストラルはアストラル世界へ帰還したと聞いた……ならば、この人間界にナンバーズが存在する理由がない)

ミザエル(何が起きている……?)

文香「………」シュン

文香「……すみません。私、あなたにひどいことを言ってしまったような……そんな記憶が、おぼろげながら残っています」

ミザエル「………」

ミザエル「謝るな。並みの人間では、ナンバーズの力に耐えられないのは当然だ」

ミザエル「私ですら、人間の身体では、気を抜けば飲みこまれてしまいそうな――」



「それをこちらに渡してもらおう」

ミザエル「!」

文香「……っ」ビクッ

文香(いつの間にか、他の人がいなくなっている……?)

ミザエル「……何者だ、貴様」

フードを被った男「我ら、混沌を……カオスをもたらす者」

男「我らの目的を果たすため、ナンバーズの力が必要なのだ」

ミザエル「カオスだと……貴様、バリアンか?」

男「バリアンなどという下等な存在とは違う」

ミザエル「なに?」

男「さあ、無駄話は終わりだ。そのナンバーズを渡せ」

ミザエル「断る」

男「フン……ならば、実力行使に出るまでだ」

文香「み、ミザエルさん……この人は、いったい」

ミザエル「お前は下がっていろ。こいつは私が倒す」

文香「でも……なにか、とても嫌な感じが」

ミザエル「文香」

文香「は、はい」

ミザエル「私は誰が相手だろうと負けはしない。心配するな」

文香「………わかりました」

男「命乞いなら今のうちだぞ」

ミザエル「フン、戯言を」


ミザエル・男「デュエル!」


ミザエル(LP4000)VS謎の男(LP4000)


ミザエル「先行は私だ。ドロー!」

ミザエル「仮面竜を攻撃表示で召喚。ターンエンドだ」

仮面竜 レベル3 ATK1400


男「それだけか? 随分とおとなしいな」

ミザエル「本番はこれからだ」

男「その虚勢、いつまでもつかな」

男「私のターン、ドロー」

男「私は幻木龍を召喚」

幻木龍 レベル4 ATK100

男「自分フィールド場に地属性モンスターがいる時、幻水龍を手札から特殊召喚することができる」

幻水龍 レベル8 ATK1000

男「さらに幻木龍の効果発動。1ターンに1度、自分フィールド上のドラゴン族・水属性モンスター1体を選択し、そのモンスターと同じレベルになる」

男「私は幻水龍を選択」

幻木龍 レベル4→レベル8

ミザエル「レベル8のモンスターが2体……」

文香「……同じレベルのモンスターが揃えば」

男「私は2体のレベル8モンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚」

男「顕現せよ、銀河の竜。ナンバーズ107」

ミザエル「!? 107だと!」

男「フッ……現れろ! 銀河眼の時空竜!」

タキオン「ギャオオオン!!」

銀河眼の時空竜(ギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン) ランク8 ATK3000


ミザエル「馬鹿な……タキオンドラゴンだと!?」

ミザエル「なぜ貴様がそのカードを持っている! 答えろ!」

男「ほう? このカードを知っているのか……だが無駄話は終わりだと言ったはずだ」

男「タキオンドラゴンの効果を発動。オーバーレイユニットをひとつ取り除くことで、このカード以外のすべてのモンスターの効果は無効となり、攻撃力・守備力は元の数値に戻る」

男「さあ、銀河眼の時空竜。仮面竜を攻撃しろ」

ミザエル「くっ……私の前に立ちはだかるか、タキオン!」

男「仮面竜には破壊された時、デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスターを特殊召喚する効果がある。だがそれも無効だ」

タキオン「ギャオオオン!!」

ミザエル「ぐっ……あああっ!!」LP4000→2400


文香「ミザエルさん……!」

文香(ARデュエルでは、どれだけ派手なエフェクトでも実際の痛みは生じないはず……)

文香(なのに、あれは……明らかに、苦しんでいる)

男「言い忘れていたが、我々とのデュエルでは、ライフへのダメージがそのままプレイヤーの身体へのダメージとなる」

ミザエル「くっ………」ヨロヨロ

男「私はカードを1枚伏せ、ターンエンド。どうした、怖気づいたか」

文香「ミザエルさん……」

ミザエル「………ふっ」

ミザエル「怖気づくだと? ハハハ……ありえんな」

ミザエル「人間世界でのデュエルも悪くないとは思っていたが……やはり、こういう形のほうが私の性に合っている!」カッ

ミザエル「私のターン、ドロー!」

文香(怖がるどころか……あの人の瞳は、さらに力強さを増している)

文香(それこそ、目の前の大きなドラゴンのそれに、負けないほどに……)


ミザエル(私の知るタキオンとは、少々効果が変わっているようだが……その美しさは変わらんな)

ミザエル(アストラル世界に何が起こったのかはわからないが……まずはお前を、私のもとに取り戻す!)

ミザエル「相手フィールド上にモンスターエクシーズが存在する時、手札よりこのカードを特殊召喚することができる」

ミザエル「現れろ、半月竜ラディウス」

半月竜ラディウス レベル4 ATK1400

ミザエル「さらにこの効果で特殊召喚した時、このモンスターのレベルは8になる」

半月竜ラディウス レベル4→レベル8

ミザエル「続けて私は、星間竜パーセクを召喚!」

ミザエル「このカードは、自分の場にレベル8モンスターが存在する時、リリースなしでの召喚が可能!」

星間竜パーセク レベル8 ATK800

男「レベル8のモンスターが2体。お前もエクシーズ召喚か」

ミザエル「その通り。だが、ただのレベル8ではない」

ミザエル「レベル8の、ドラゴンが2体だ!」

ミザエル(先ほど手に入れたこの力、早速使わせてもらうぞ!)

ミザエル「私は半月竜ラディウスと星間竜パーセクでオーバーレイ!」

ミザエル「2体のドラゴン族モンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!!」

ミザエル「現れろ、ナンバーズ46!」

文香「あれは、私が拾ったカード……!」


ミザエル「雷鳴よとどろけ。稲光よきらめけ。顕現せよ、我が金色の龍!」

ミザエル「神影龍ドラッグルーオン!!」

神影龍ドラッグルーオン ランク8 ATK3000

ミザエル「………」

ジンロン「久しいのう。こうして話すのはいつぶりじゃろうか」

ミザエル「……お前が、かつて私とともに生きたドラゴンなのだな」

ジンロン「まだはっきりとは思い出せんか」

ミザエル「そうだな。本当の己の記憶なのかどうか、いまひとつ定着しない」

ジンロン「これから慣れていけばよい」

ミザエル「ああ……だがその前に、お前の力を借りるぞ」

ジンロン「わかっておるのか? 今のおぬしはバリアンの力を持っておらん。その状態でナンバーズを複数従えれば」

ミザエル「わかっている。だが、私は負けん」

ジンロン「……ならば、好きにするがいい」

ミザエル「………」

ミザエル「ドラッグルーオンのオーバーレイユニットをひとつ取り除き、効果発動!」

ミザエル「相手フィールド上のドラゴン族モンスターを1体選択し、そのモンスターのコントロールを得る!」

ミザエル「私が選ぶのは、当然銀河眼の時空竜!」

男「なんだと!?」

ミザエル「来い、タキオンドラゴン!」

銀河眼の時空竜 ランク8 ATK3000

タキオン「ギャオオオオン!!」

ドクンッ

ミザエル「がっ……!」

ドクンッ

男「馬鹿め。人間がナンバーズを複数使って正気を保てるはずがない!」

ミザエル「くっ……!」

ミザエル(頭の中で、負の感情が増大していく!)



文香(ミザエルさん……さっきの私と同じように……)

文香「………!」ダッ!

『憎め』

ミザエル(やめろ)

『奪え』

ミザエル(私はもう)

『倒せ』

ミザエル(何かに操られるのは御免だ!)

『憎め、奪え、倒せ』

ミザエル「あ、ぐっ……!」

ミザエル(い、意識が……)


文香「ミザエルさん!」

ぎゅっ

ミザエル「………ふ、みか?」

文香「負けないでください……!」

ミザエル(文香が、私の手を強く握りしめていた)

ミザエル(ARビジョンを恐れていた女が、迷うことなく戦場に駆け寄っていた)

文香「私、よくわかりませんが……あなたなら、きっと」

ミザエル「………」

ミザエル「温かいな、お前の手は」

文香「え……」

ミザエル「案ずるな」


ミザエル「人間であろうが、バリアンであろうが関係ない」

ミザエル「私は常に、誇り高き戦士でありデュエリスト!」

ミザエル「真のドラゴン使い、ミザエルだ!!」カーン!

文香「ミザエルさん……!」

男「……抑え込んだ? 人間ごときが、ナンバーズ2体分の力を?」

ミザエル「私の力を、意思の強さを侮るな!」

ミザエル「タキオンドラゴンの効果発動! オーバーレイユニットをひとつ取り除き、このカード以外のモンスターすべての効果を無効にする!」

ミザエル「バトルだ! まずは神影龍ドラッグルーオンの攻撃!」

ミザエル「火炎神激!」

男「ぐわあああ!!」LP4000→1000

ミザエル「続けて、銀河眼の時空竜で攻撃だ!」

男「くっ……トラップ発動! くず鉄のかかし!」

男「タキオンドラゴンの攻撃を無効にする! これでこのターンはしのげ――」

ミザエル「フン……自らのカードの効果くらい、把握しておくことだな!」

男「なに?」

ミザエル「タキオンドラゴンのさらなる効果。このターンのバトルフェイズ中、相手カードの効果が発動するたびに、攻撃力が1000ポイントアップし、2回攻撃が可能となる」

ミザエル「タキオン・トランスミグレイション!」

銀河眼の時空竜 ATK3000→4000

男「………!?」

ミザエル「終わりだ! タキオンドラゴンでプレイヤーにダイレクトアタック!」

ミザエル「殲滅のタキオン・スパイラル!」

タキオン「ギャオオオオオオン!!」

男「ぐっ……あああああっ!!」LP1000→0


ミザエル WIN!

男「馬鹿な……私が、敗れるだと?」

ミザエル「いくらカードが強力でも、使い手の実力が伴わなければ意味がない」

ミザエル「貴様より強いデュエリストを、私は何人も知っている」

男「くっ……まあいい。ここで私が破れようとも、いずれアストラル世界は必ず」

ミザエル「アストラル世界だと? おい貴様、どういう意味だ!」

男「さらばだ」スゥ……

ミザエル「待て!」

文香「き、消えてしまいました……」

ミザエル「何か聞き出せればと思っていたが……仕方がないか」

文香「……でも、よかったです。ミザエルさんが、ご無事で」

ミザエル「文香……」

ミザエル「……ところで、いつまで私の手を握っているのだ?」

文香「………あ」

文香「す、すみませんっ……」カアァ

ミザエル「………」

ミザエル「助かった」

文香「え?」

ミザエル「お前のおかげで、私は私を失わずにすんだ」

ミザエル「我が友、タキオンドラゴンを取り戻すこともできた。礼を言う」

文香「い、いえ……私はなにも」

ミザエル「しかし不思議だ。なぜ文香が手を握っただけで……もしかすると、お前の身体に何か秘密があるのかもしれんな」ピトッ

文香「!?」

ミザエル「どうした」

文香「あ、あの……いきなり頬を触られると、びっくりします……」

ミザエル「ああ、すまない」

ミザエル「……とりあえず、ついてこい」

文香「はい……?」

その日の夜


カイト「検査の結果、彼女の身体に異常は見受けられなかった」

ミザエル「そうか……となると、謎は深まるな。文香の手にはどんな仕掛けが――」

カイト(仕掛けもなにもあったものではないと思うが……精神的なものだということを、どう伝えたものか)

カイト「とにかく、アストラル世界で何が起きているか、早急に調べる必要があるな」

カイト「場合によれば、俺達が再び戦うことになるかもしれん」




文香「ナンバーズ……そのような危険なカードがあるなんて、知りませんでした」

ハルト「はい。でも、ナンバーズのおかげで生まれた絆もあるんです」

文香「絆、ですか」

ハルト「はいっ。……あの、ところで。鷺沢文香さん、ですよね?」

文香「はい……そうですが」

ハルト「サイン、もらってもいいですか?」ニコニコ

文香「……はい?」キョトン

ミザエル「文香はアイドルだったのだな」

文香「はい……デビューしてから、それほど時間は経っていませんが」

ミザエル「確かに、その美しい顔立ちなら人気も出るのかもしれんな」

文香「………」

ミザエル「どうした、黙りこんで」

文香「ミザエルさんの言葉……直球すぎて………なんでもありません」

ミザエル「今後、不審なカードを見つけたら、手に取る前に私に伝えろ」

文香「わかりました」

文香「あの……これまでも、今日のような戦いを?」

ミザエル「ああ……といっても、立場は違ったが」

ミザエル「命のやり取りをしてきたことには、変わりない」

文香「強い方、なんですね……」

文香「……あの。少し、私の話を聞いてもらえませんか」

ミザエル「?」

文香「アイドルになってから、私の生活は一変しました」

文香「大学で勉強をして、家に帰って本を読むだけだった人生……それが、レッスンや撮影、ライブといったものに置き換わっていったんです」

文香「それらは、とても素晴らしい物でした。今まで経験したことのない輝きを、私は一身に浴びるようになりました」

ミザエル「よいことではないか」

文香「そうですね……きっと、それはとてもよいことです」

文香「ですが……だからこそ、私は自分自身の形というものが、わからなくなってきているんです」

ミザエル「自分自身の、形?」

文香「はい」

文香「アイドルが見せてくれる世界は、魅力的で……でも私にとっては、これまでの、静かに本を読んでいた時間も大切なんです」

文香「部屋にこもって、他のことを気にせず一日中本を読んでいるような時間が……」

文香「けれど……それは、アイドルらしくないのかな、と」

文香「ファンの方々が求めるのであれば、変わらなければならないのかと。昔の自分を、捨てなければならないのかと」

ミザエル「文香……」

文香「ずっと、後ろ向きな自分を変えたいと思っていました。でも、いざそうなると……怖いんです」

ミザエル「………」

文香「……すみません。こんなこと、あなたに伝えても仕方がないのに」

ミザエル「………」

ミザエル「かつて私も、自分が何者なのかわからなくなったことがあった」

文香「えっ……?」

ミザエル「相反する二つの記憶に苛まれ、自らの存在意義が揺らいだ」

ミザエル「だがその時、私は我がライバルの言葉に救われたのだ」


『最強のドラゴン使いはお前だ』

『お前に何があったか、聞かせてくれないか』

『ミザエル……行け。自分の信じる道を』


ミザエル「奴は私を肯定してくれた。おかげで私は、どちらの自分も受け入れることができた」

ミザエル「私は文香のことをよくは知らない。だがきっと同じだ」

ミザエル「アイドルになる前の自分と、なった後の自分。どちらかを否定する必要はない」

文香「………」

『人間であろうが、バリアンであろうが関係ない』

『私は常に、誇り高き戦士でありデュエリスト!』


文香「……私にも、できるでしょうか」

ミザエル「それはお前次第だ」

文香「ふふっ……そうですね」

文香「……ミザエルさん。お願いがあります」

ミザエル「お願い?」

文香「年末に、私達のプロダクションが主催する大きなライブがあるんです。私も、参加します」

文香「私、その日までに答えを出します……だから」

文香「見に来て、いただけませんか?」

ミザエル「……いいだろう。お前には、これからもドラゴンの話を聞かせてもらわねばならんからな」

文香「……ありがとうございます」

1ヶ月後

シンデレラの舞踏会、当日


観客『ワアアアァ!!』


ミザエル「騒がしいな」

ハルト「これだけ大きな規模のライブなら、当然だよ」

ギラグ「うおおおおお!!」

アリト「よくわからんが燃えろーー!!」

ミザエル「まあ、身内も騒がしいからな……」

カイト「………」

ミザエル「しかしカイト。お前が来るとは予想外だった」

カイト「ハルトの付き添いだ。それ以上の意味はない」

ハルト(その割には、熱心にステージを見てる気がするけど)

ミザエル「………」


文香「皆さん……今日は寒い中お越しいただき、ありがとうございます」

『うおーーー!』
『ふみふみー! ふみふみしてくれー!!』

文香「一生懸命歌うので……聞いてください。皆さんに、贈る歌です」


ミザエル「……なかなか様になっているではないか」フッ

そして


ギラグ「いやー、満足ビングだぜ!」

アリト「熱かったな! ライブってのも悪くねえ」

ハルト「兄さん、楽しかった?」

カイト「……それなりにはな」

ミザエル「………」



文香「ミザエルさんっ」タタタッ


ミザエル「文香」

ギラグ「うおおっ! リアル文香ちゃんだぜ! 俺サインもらって」

カイト「俺達は先に行くぞ」グイッ

ギラグ「ぬおっ!?」

ミザエル「カイト……」

カイト「明日にはアストラル世界へ向かう準備が整う。しばらく戻れなくなるだろう」

カイト「挨拶くらいはしておけ」

ミザエル「……そうしておこう」

ハルト「じゃあ、僕たちは帰るね!」

文香「……すみません。わざわざ時間をとっていただいて」

ミザエル「かまわん。それより、私に話があるから呼び止めたのではないのか」

文香「あ、はい……」

文香「今日の私……どうだったでしょうか」

ミザエル「………」

ミザエル「私の言った通りだった」

ミザエル「書店で私に案内をする文香も、ステージで踊る文香も、同じだ」

ミザエル「今日はなかなか華やかだったがな」

文香「……そうですね」

文香「同じなんです。私は……本好きで、アイドルの鷺沢文香ですから」

ミザエル「……いい目つきになったな」

文香「はい……あなたのおかげで、迷いを断ち切ることができました」

文香「ありがとうございます」

ミザエル「ああ」

ミザエル「とはいえ、私の愛するドラゴンの瞳には遠く及ばないが」

文香「き、厳しいですね……」

文香「――では、しばらくここには戻ってこられないんですね」

ミザエル「アストラルには借りがある。我らの力を集結させ、戦う時なのだ」

文香「……無事で、いてください」

ミザエル「当然だ。私も私の仲間も、強者ばかりだ」

文香「それは、わかっています。でも、やはり心配なものは心配で……」

ミザエル「………」

ミザエル「これをやる」

文香「えっ……これは」

ミザエル「キャラメルだ。ハルトいわく、元気が出る魔法の菓子らしい」

ミザエル「アストラル世界の危機を救ったら、またお前の話を聞きに行く。それまで待っていろ」

文香「………」

文香「はい。頑張って、ください」ニコッ

ミザエル「お前も、強くなれ」

文香「帰ってきたら……私と、デュエルをしてくれますか」

ミザエル「それまでに、せいぜい腕を磨いておくことだ」

ミザエル「せめてエクシーズ召喚くらいはできるようにしておけ」

文香「ふふ……頑張ります」

翌日


凌牙「遊馬! いつまでしょぼくれていやがる。さあ、行くぞ!」

カイト「アストラル世界に新たな危機が迫っている」

小鳥「さあ、取り戻しに行くんでしょ! 一番大事なものを」

遊馬「かっとビングだ! 俺ーっ!」

文香「……かっとビング」

ありす「……なんですか? その変な言葉」

文香「私のお知り合いのご友人の、座右の銘だそうです……」



文香『ミザエルさん……私の世界は、広がるでしょうか』

ミザエル『いくらでも広がる。私など、すでに3度目の生を受けているほどだが、それでもまだ、未知のものとばかり巡り合う』

ミザエル『だからこそ、こう言える。自らの知らない世界へ踏み込むことなど、ほんの少しの勇気があれば容易く行えるのだとな』

文香『勇気……』

ミザエル『それを、かっとビングと言うらしい』



文香「勇気をもって一歩踏み出すこと。 どんなピンチでも決して諦めないこと。 あらゆる困難にチャレンジすること」

ありす「……ネーミングはともかくとして、立派な考えですね」

文香「そうですね……私も、そう思います」

文香(ミザエルさん……私も、私なりに戦います)

文香(……お互い、頑張りましょう)


文香「……ふふっ」

周子「あれ、なんか文香ちゃん機嫌イイね」

奏「素敵な出会いでもあったのかしら?」

フレデリカ「気になるな~♪」

文香「な、なんでもありません……そういうのでは、ないですから」プイ

奏「あら。その反応、図星? まさか男?」

周子「よけい気になってきたね」

フレデリカ「吐いちゃったほうが楽だよー?」

文香「う、うう……」



ありす「ご愁傷様です、文香さん」


おしまい

読んでくれた方はありがとうございます。思ったより長くなったけどこれで終わりです
アニデレとゼアル、両方のラストシーンまでの間に挿入されるこぼれ話的な感じで書きました

人間になった七皇がどれだけの力を持っているかとかよくわからないので、とりあえずミザエルには人間用のDゲイザーとかデュエルディスクとかつけてもらいました
キャラのやりとりを中心に書きたかったのでデュエルはあっさり気味です。ミザちゃんにNo.46使わせたかっただけです

文香みたいな寡黙な子がドラゴンでパワー押しするスタイルだとなんか萌える

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