[プロローグ]
英霊になれば、全てを救えると思っていた。
故に、私は世界と契約を交わした。
しかし、その後に私を待っていたのは、己の理想とは程遠い、「霊長の守護者」という現実だった。
私に課せられた使命は、「人を救う」ことではなく、「人類」の救済だ。
人類という種の滅亡を回避するためならば、その原因となりうる全てを抹殺し、起きた事をなかった事にさえする、言わば地球の掃除屋。
信じ続けた唯一の理想にすら裏切られ、拒絶する事も許されず殺戮を続けた末、私はかつての理想に絶望していた。
以来、過去の英霊になる以前の自分――、すなわち「衛宮士郎」を自らの手で殺すことで、自分は消滅できるのではないかという考えに至り、その希望だけを胸に抱きながら、守護者の役割に徹してきた。
そう思っていたある時、私は、とある一つの世界に思わぬ形で召喚された。
「エミヤ」ではなく、「マクシミリアン・テルミドール」、またの名を「オッツダルヴァ」という、仮初めの肉体を得て――。
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[Chapter 0] LAST DUTY ―最終任務― (エグザウィル破壊)
「総員退避、退避しろ! エグザウィルが崩壊するぞ!」
薄暗い脱出路を駆けながら、社員の一人が叫んだ。
「ちくしょう…相手はたった一機なのに」
「あいつだ、あのアスピナの傭兵の仕業か!」
「違う、あの機体は間違いない、アナトリアの…!」
レイレナード本社施設――、通称「エグザウィル」が一機のネクストによる攻撃を受けてから、およそ10分。
その10分間で、世界に名だたる新興エネルギー企業の牙城は、一気に崩れ去ろうとしている。
「アナトリアの傭兵……!」
男は、その姿も見たこともない者の名を、不意に口にした。
きっと忘れないであろう、まだ見ぬ敵の名を刻み込む。
この男こそ、後に「オッツダルヴァ」と呼ばれるリンクスだということは、まだ誰も知る者はいなかった。
[Chapter 1] 旧チャイニーズ・上海海域掃討
ミッションを説明しましょう
依頼主はオーメル・サイエンス社
目的は、旧チャイニーズ・上海海域に停泊中の、敵艦隊の排除となります
敵艦隊は、GA社とBFF社の混成となり
最新の半砲台型ノーマルの展開が確認されています
とはいえ、所詮は旧い発想の兵器にすぎませんが
また、依頼主は協力機との協働をご希望です
最終的にはそちらの判断ですが、無理はしない方がよいのでは?
説明は以上です
オーメル・サイエンス社との繋がりを強くする好機です
そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが
本当の名前など、とうの昔に忘れている。
とは言え、自分が何者であるかはわかる。
カラードランク1、オッツダルヴァだ。
オッツダルヴァ「いけるな? 貴様」
回線を開き、僚機のネクストに呼びかけてみる。
返事はないが、先行する「ステイシス」よりも先に敵の艦船とノーマルACを撃破していくのが見えた。
新参のリンクスとは聞いていたが、思ったほど未熟でもないらしい。
オッツダルヴァ「まあ、せいぜい気張ることだな」
回線を切り、オーバードブーストで一気に敵艦隊へ接近、障害を排除していく。
ランク1の腕を必要とするほどの作戦内容には思えなかったが、先方の依頼なので致し方ない。
旧レイレナード出身者を取り込んだオーメル・サイエンスとの距離は置いているが、契約は守るのがカラードの一員としての務めだ。
ただそれだけを頭の中に念じ、オッツダルヴァは手足の如く己のネクストを動かしていた。
***
依頼は無事完遂した。
以前と変わらない、戦いに明け暮れる日々。
変わったことと言えば、戦う術が「アーマードコア(AC)・ネクスト」と呼ばれる機械仕掛けの人形へと変わっていたことぐらいだろう。
この世界に魔術という存在はなく、自分もまた、固有結界を使えない。
今の自分にあるのは、ネクストを動かせる才能のみ。
それも、ランク1の座に登りつめるほどの適性を携えて――。
オッツダルヴァ「……」
世界の設定がどうなろうと、自分に与えられた使命は今までと変わらない。
「人類」を破滅から救い、そのための清算を行う。
それが、私の役割――。
オッツダルヴァ「……私だ。メルツェルに繋いでくれ」
「守護者」としての使命と、「エミヤ」としての人格が、この男を企業への反逆へと突き動かしていた。
[Chapter 2] ホワイト・グリント撃破
ミッションを連絡します
ラインアークの主戦力、ホワイト・グリントを排除してください
ホワイト・グリントのランクは9ですが、実際には、その数字よりも遥かに強力なネクストです
そうでなければ、現状況は生まれていません
たとえあなたであっても、1対1の戦いは危険です
ランク1、ステイシスと協働して、ミッションにあたってください
唯一の拠りどころたるホワイト・グリントが失われれば、ラインアークの抵抗の意志は、脆くも崩れ去るでしょう
そうなれば、クレイドルの憂患は一気に解決されます
我々は、このミッションに最高の戦力を用意しました
あとはあなたにお任せします
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