・デレマスはゲーム版準拠設定、ライダー側はTV版最終回の内容を含んでいます
・1日1回まったり進行
・できれば来週の水曜日まで(5日間くらい)に完結させたい(希望的観測)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1452275703
<R← I>
雲を突き抜け、どこまでも広がる青空を行く。
「スカイライダー」の名を受けた彼にとって、空は珍しいものではない。
だが、今日のそれは命を賭けたフライトだった。
(成層圏まで来たか…!)
頭上には大怪獣、眼下には地球。
7人の先輩の力を借り、大気圏外で始末すべく空を超え宇宙を目指す。
生きて帰還できる保証のない決死行。だが、これしか手がなかった。
怪獣の手にある酸素破壊爆弾は、大気圏内で爆発すれば人類を絶滅させうる代物だった。
やがて成層圏すら抜けようかというその時、スカイライダーが動いた。
「スカイライダー!どうするつもりだ!」
「電離層より上でのダメ押しは、オレがやります!
先輩達を大気圏内へ帰す反動を使えば…!」
左手を掴むストロンガーの制止を振り切らんとするスカイライダーだが、
右手からも抑え込まれ抜け出すことはできなかった。
「そんなことをすれば、いくら重力低減装置があっても無事ではすまんぞ!」
「わかっています!それでも!」
大先輩たる1号ライダーの言葉に嘘はなかった。
スカイライダーは空を飛ぶ力を持つが、単身で宇宙を制するまでの能力はない。
今のところ安定して飛行できているのは、8人の力を合わせているからなのだ。
まして、単身でトドメを刺すとなれば爆発の煽りもただ1人で受け止めることになる。
それを知ってなお、スカイライダーは単独決着にこだわった。
わずかな間の後、彼に賛同する者が現れた。
「本郷、彼に任せよう」
「一文字!?彼を見殺しにするつもりか!?」
戦友の非難に、力の2号がゆっくりと首を横に振る。
そしてスカイライダーを見据える。
「…お母さんの仇討ちだな?」
スカイライダーの答えは肯定だった。
彼の母は、頭上の怪獣の従えた暗殺部隊により殺されている。
それは決戦の場にやって来たスカイライダーに、2号が真っ先に問うたことでもあった。
「その責任はオレにもある。オレが決着を急がずに残っていれば、お母さんの死は防げた…。
この決着がキミの望みなら、オレは力を貸す!」
沈黙。だが、それもまたわずか。
歴戦の戦士たる彼らの決断は早かった。
「そういうことなら、エネルギーを集中してスカイライダーを打ち上げる!岩石大首領の時と同じ要領だ!」
ストロンガーのその言葉に、6人の戦士が手を組む。
意図を察したスカイライダーは、重なった手の上に乗った。
「一文字先輩…ありがとうございます!」
「最後に言わせてくれ。生きることを諦めるな!
いつか、オレが教えたカメラの腕を見せに来い!」
「…わかりました!絶対、生きて帰ってきます!」
自らの肩を押してくれた2号に力強く応える。
生きて帰れる保証はなくとも、死にに行くと決まったわけではない。
死地から幾度も生還してきた先輩の励ましは、この状況では金言だった。
「むんッ!!」
直後、最後の1人であるストロンガーが手を乗せる。
やがて発生した莫大な力は、7人の戦士を大気圏内へ押し流すと同時に、
スカイライダーを最後の決戦の場へと導いていった。
「ネオショッカー大首領…お前の野望もここまでだ!」
「貴様!!そんなに両親の元へ行きたいかァ!!」
成層圏を完全に超え、その勢いで中間圏をも抜ける。
そこでようやく、支える者が8人ではなく1人だと気付いた怪獣-大首領は、拘束を抜けようともがいた。
だが、スカイライダーは不意を突いていきなりエネルギーの放出を止め、拘束を解く。
そして、残されたエネルギーを我が身に集中する。
「大・回・転!」
体勢の崩れた大首領めがけ、スカイライダーの身体が鮮やかな弧を描く。
同時に熱圏の大気分子が発光し、虹の如き輝きを纏わせた。
「スカァァアイ・キック!」
渾身の蹴りが、大首領の右足の裏に直撃する。
それは人間よりはるかに頑強な大首領にとって唯一の、そして致命的な弱点だった。
大首領の悲鳴が聞こえたように思えたが、それも一瞬のこと。
外気圏から漏れ出たわずかな酸素だけを巻き添えに、酸素破壊爆弾と大首領は散った。
同時にスカイライダーのエネルギーも底を突く。
重力低減装置の出力が、切れる。
生身でないが故に身体が燃え尽きることだけは避けられたものの、
大気圏突入の熱の責め苦は、消耗した精神力をあっという間に削っていく。
落ちていく。
重力に引かれ、どこまでも。
空の青が、海の青に変わったことを知覚した直後、
スカイライダーの意識もまた闇に落ちた。
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Sky Rider
-----------------→
アイ・キャン・フライ
←-----------------
The IdolM@ster Cinderella Girls
---------------------------------------------------
<R------→I>
「た、高いところは気分が良いですね! ハハ、ハハハハ……」
言葉とは裏腹に、少女の高笑いには勢いがなかった。
それもそのはず。ここは高度4,000m、富士山よりも高い超高空。
いきなりこんなところに来て、普段の調子を保てる方が稀である。
「いやぁ、キレーな空!天使が飛ぶには十分な高さだなコレ!」
ローター音をものともしない声量で、ヘリコプター内に豪快な声が響く。
この状況で怖気づくどころか、楽しんでいる稀なスーツ姿の男に、思わず少女が抗議する。
「ま、まさか本当に降りることになるとは、おお思いませんでしたよ!き、きき聞いてますかプロデューサーさん!」
「なんだぁ幸子、高所恐怖症か?」
「べ、べべ別に怖くはないですね!」
少女-幸子は必死で虚勢を張って見せたが、どこからどう見ても怯えは明確だ。
高度だけならさしたる怖さではないのだ。
問題は幸子が既にピンク色のジャンプスーツを着せられていることにある。
この状態でパラシュートまで背負わせられれば、誰だってこの先に何が待つか予想は付くだろう。
そしてそれは高高度の遊覧飛行と比べ物にならないほど、人によって極端に反応が違うものだ。
「よーし、怖くないならそろそろ飛ぼうか!」
「ヒ、ヒィッ!」
飛ぶ、という言葉に反応して幸子が身体をビクつかせる。
初の遊覧飛行の時点で既に足が震えている彼女には、もちろんスカイダイビングの経験などない。
悲鳴を上げるには十分過ぎる恐怖だ。
が、その直後にプロデューサーが出したのは幸子を突き出す一手ではなく、周囲のスタッフへの指示だった。
「…はいオッケー!カメラ止めるぞ!」
指示に従い、撮影スタッフが機材を片付ける。
その様子にわずかに拍子抜けしながら、幸子は再びプロデューサーに詰め寄った。
「びび、びっくりさせないでくださいよ!と、飛ばないならここ、こんなところに来る必要ないじゃないですか!」
「いや、飛ばすのは本気だぞ?ただ、すぐ単独飛行ってのはさすがに無理なんだわ。
細かいことは後で説明するけど、少なくともパラシュートの開き方知った程度じゃダメなの」
飛ばない、という選択肢がないことに焦りながらも、幸子は少しばかり安堵した。
今すぐ飛ぶ必要はないなら、このままヘリに乗ったまま帰れるのではないか。
が、そんな甘い希望は5秒ほどで打ち砕かれた。
「…ということで今からタンデム飛行な。すいません、準備お願いしまーす」
「ふ、ふへっ!?」
声にならない悲鳴を上げている間にも、単独飛行用パラシュートが手際よく外され、
同時にパラシュートを背負ったインストラクターがハーネスで幸子の背後から身体を固定し始めている。
いきなりこの場に連れてこられた幸子は、単独では無理でも2人セットなら即日でも飛べることを知らなかったのだ。
「ププ、プロデューサーさん!か、代わってあげてもいいんですよ!?ボクは優しいので!」
「いや、代わるもなんもオレも飛ぶぞ」
「へ…?」
「だって面白そうじゃん。そう簡単にできることでもないし」
平然と答える様に、幸子はみるみる内に顔を青ざめさせた。
その間にも、プロデューサーは幸子よりも先にタンデム飛行の準備を整え終えている。
「じゃ、準備できたら幸子も来いよ!幸子が飛ぶまでヘリ降ろさないから!」
「ちょ、あっ、プロデューサーああぁぁ…」
手を伸ばす幸子に手を振り、プロデューサーは先に機内から飛び降りていく。
同時に、最後の手段-インストラクター共々引きこもって降りるまで粘る-もポッキリ折られる。
もはや逃げ場などないことを悟った幸子は、意を決してヘリコプターの乗降口に自ら足を掛けた。
-輿水幸子、14歳。職業・アイドル。
これが人生初のスカイダイビングであった。
天候は恵まれた快晴だったが、この日の空の景色は後の記憶には残っていないという。
<R←------I>
志度ハングライダークラブ。
会長不在となって久しいにも関わらず、所属メンバー同士の協力で活動を続けている珍しいサークルに、
今日は一際珍しい光景が見られた。
プロ・グライダーになったOBと、彼の大学時代の先輩が空を飛ぶためにやってきたのだ。
「マスター、グライダー扱うの上手いじゃないですか!本当に初めてですか?」
「なぁに、洋ほどじゃないさ。空からあんな良い写真を撮っちまうんだからな。
…あと、俺はもうマスターじゃないぞ?」
「わかってますけど、やっぱりマスターって呼ぶのがしっくり来るんですよ」
その言葉に、谷源次郎は思わず苦笑した。
この後輩、筑波洋が日本を離れる前の谷は、たしかに「ブランカ」という喫茶店をやっていた。
だが、今となってはバイク屋である「谷モーターショップ」に鞍替えして久しい。
喫茶店をやめたのはチェーン店による追い込み以上に、洋が帰って来た時に彼の力になれるよう
先を見越したものだったが、その当人である洋が誰よりも喫茶店時代の谷を覚えているのは皮肉でしかなかった。
もっとも、店を変えようと人脈と経験は簡単に途切れるものではない。
谷と洋の再会した場所がハンググライダー場という変わった場所であるのも、そこに理由があった。
「頼まれた件な、ウチの客や知り合いにも聞いてみたが…空撮となるとやはりダイバーのイメージがかなり強いな。
どうも、カメラのフレーム内に色々と映り込みやすいのが、グライダーでの空撮が嫌われる原因らしい。
それにダイバーの方が空撮の文化が早くに根付いてたのも関係あると思うが、単純に撮影における有利不利が激し過ぎる。
正直言えば、相当厳しい話だ」
「やっぱりそうですか…すみません、無理にヒアリングをお願いして」
「なぁに、他ならぬ洋の頼みだ。このくらいなら楽なものさ。
あんまり良い話が出来ないのが残念だが、現状がわからないと動けないのは俺もわかるからな」
気落ちする後輩を励ますが、谷自身も苦い表情は隠せなかった。
空撮-「エアカメラマンによる空中撮影」という分野に筑波洋が足を踏み入れたのは、ずいぶん前だ。
元々ハンググライダーを大得意とする男だけに、敷居はないも同然だったのだろう。
谷が知る範囲でも、洋が一度日本に戻って来た頃には既に空撮をはじめていた覚えがある。
最初こそ手ブレがあったりしたが、旅先から送られる写真から確実に腕前が上がっているのは見てとれた。
だが、名が売れてきたにも関わらず空撮の依頼が一向に増えない。
そこで、ある事情で撮影業のセールスに時間を割けない洋の頼みから、谷が動いたのだ。
…結果は芳しくなかった。
撮影において両手を自由にできない。方向転換に時間がかかる。フレームにグライダーそのものや影が映り込む。
実情を探るほどグライダーでの空撮の難点ばかりが浮かび上がる。
もちろん難点だけでなく、並行移動や長時間撮影がしやすく、撮影時の安定性も高いという利点はあるのだ。
だが、現在の空撮ではそのような利点は訴求効果が薄過ぎた。
これでは洋がいくら素晴らしい写真を撮れるようになっても、需要の増えようがない。
「スカイダイビング…か」
ぽつりと呟く洋の顔は真剣だ。
ハンググライダーとスカイダイビング。同じスカイスポーツであっても、そこに接点はほとんどない。
だからこそ、両方に手を出す人間は多くない。
それでも、今回の結果を聞いた洋はダイビングにも手を出すのではないか、と谷は踏んでいた。
彼にはアドバンテージが2つもあるのだ。
空への恐怖心が全くないというプロ・グライダーとしての下地と、
谷を含むわずかな人間しか知らない、洋のもう1つの姿の経験。
それを知るからこそ、聞かずにはいられなかった。
「怖いか?」
谷の声に茶化すような色はない。
それは、この後輩に深い縁があることと無関係ではない。
今日もグライダーでの飛行中に、2人ほどスカイダイバーを見た。
その内の1人、年端もゆかぬ少女が落ちていく様に、谷は言いようのない既視感を覚えていた。
パラシュートが開くまでの間、全く動けずに真っすぐ落ちていく。
話に聞いただけの自分すらそう思うのだから、もし洋が見ていたのなら既視感はフラッシュバックに変わっていただろう。
洋は答えない。
逡巡しているのか、本当にフラッシュバックがあったのかはわからない。
ただ、足が止まったことだけはわかった。
言葉の代わりに谷が出したのは、数枚のチケット。
「これは?」
「近々、埼玉に面白いものができるらしい。既に海外で結構な評判があるって話だが、日本じゃこれが初上陸だ。
プレ・オープンの入場券だが、コイツをやるよ」
「いいんですか?これ、貴重なんじゃ…」
チケットに書かれた「関係者用」の文字を見て、洋がそう反応した。
実のところ、谷もこのチケットは近所のツテなどで簡単に手に入れたものではない。
国際宇宙開発研究所という、特殊な縁のある場所から送られてきたのだ。
オークションでも結構な値が付いているだけに、再入手はまず望めないだろう。
だが谷にとって、筑波洋という男はそれだけの代物を渡す価値のある男なのだ。
「あいにく、予定がカチ合っちまってな。それに今日誘ってくれた礼でもある。
なによりスカイダイビングを視野に入れるんなら、中々いい経験になるだろう」
「…ありがとうございます!」
丁寧に、深々と礼をする洋に谷もまた力強く頷く。
グライダーを片付けるべくサークルメンバーの元に向かう洋の背中に、谷は一人未来を思うのだった。
(がんばれよ、洋。大空の戦士が、空にトラウマ持ってるなんざ悲し過ぎるからな…)
<R------→I>
「フライステーション?」
「そうだ」
企画書に書かれた名前を訝しげに見る幸子に、プロデューサーは即答した。
が、名前が分かったところで何が分かるでもない。
「…って、なんなんですかコレ。プレステの偽物かなにかですか?」
「断じて違う。なんで施設単位でゲーム機のパチモン造るんだ。
ま、知名度的に説明は要るよな。なんたって日本初上陸だ」
「もったいぶらないで早く説明してください!ボクだってヒマじゃないんですよ!」
軽く机を叩いて抗議するも、プロデューサーに大して堪えた様子はない。
アイドルとしての仕事を管理してるのが当のプロデューサーであるという事実以上に、
会話のキャッチボールをわざわざ剛速球で楽しむ輩なのだ。
幸子もそれを知らないではないが、だからといって話が進まないのは困る。
「ヒマじゃない…そうだねえ、じゃあ『早く』説明しようか」
(…え?)
妙なところを強調したプロデューサーの言葉に、直感的に嫌な予感が走る。
それが錯覚でないことを、幸子はきっかり3秒後から思い知らされるハメになった。
「フライステーションにあるのは『ウィンドトンネル』ってデカい空調機だ。
床はメッシュ状のトランポリン、別室にある12ベーンモーターから流れる気流がコーナーベーンで屈折して、
下からフライトゾーンへ滑らかに入っていくことで専用スーツを着た内部の人間を疑似空中飛行させる。
中の温度は通年22度、気流の速度や密度は均一と管理は完璧、万が一モーターが止まっても
空気の流れは徐々に小さくなるからトランポリンに軟着陸確定。これにより時速約200キロでの落下を安全安心-」
「ちょ、ちょっと待って!今からノートに整理しますから…!」
唐突、かつ一向に止まる気配なくペラペラと続くプロデューサーの解説に、幸子は慌てて鞄からノートを取り出した。
勉強する時はとりあえずノートに全て書き、それを清書することできちんと理解するというのが幸子の学習プロセスである。
が、ようやくノートと筆記用具が準備できた直後、プロデューサーは少々意地の悪い笑みを浮かべて幸子の頭を撫でた。
「うーん、ドヤ顔もいいけど慌てる幸子もカワイイなー」
「ちょ、頭撫でないでください!たしかにボクは一番カワイイですけど!」
臆面なく愛でるプロデューサーも相当なものだが、憚ることなくカワイイを主張する幸子も幸子である。
嫌がっている風を装いながらもさして抵抗しない幸子の頭をひとしきり撫でると、一度プロデューサーが目を閉じる。
直後に目を開けたその顔は真っ当な仕事人のものだった。
「ま、細かいことはこっちの資料で読んでもらうとして…要は大空まで行かずしてスカイダイビングができる施設、ってことだ。
ガラス越しに飛んでる様子が全方位丸見えだから、正式オープン後は未経験者も経験者も重宝するんじゃないかな」
「経験者なら、実際に空を飛んだ方が良いんじゃないですか?」
「フォーム確認やフォーメーション調整に都合が良いんだ。世界選手権クラスのチームも調整に使ってるらしいからな。
それに、実際に飛ぶのとフライステーションでやるんじゃ手軽さが違い過ぎるだろ。
お財布的にもそうだが、何より時間的にな。ウチが今回目を付けたのもそこに理由がある」
ここに来て、幸子は今の話が先日のスカイダイビングに絡んだものであることを思い出した。
話している内に話題が頭から飛びやすくなるのが、このプロデューサーを相手にする時の難点だった。
「単独飛行を行うライセンスを取るためには、最低でも8回分のダイビング経験が必要だ。
だからこの間やった実地で1回分として、残りの7回分をここで消化する。
ライブのメイキング番組にかこつけて、開業前の施設を特別に使わせてもらう形だな」
「フフーン!ボクなら当然の扱いですね!」
曲がりなりにも自身の扱いが特別ということに、ひとまず幸子は満足した。
単独スカイダイビングの前提という部分は引っ掛かったが、それ以上に日本初上陸の施設に踏み込める好奇心が勝っている。
そしてそのドヤ顔に被せるが如く、プロデューサーが幸子の肩をポン、と叩く。
「それじゃ、駐車場行こうか!」
「え?…今からですか?」
「ライブまで日数がないからな。青木トレーナーと相談して、もうレッスンスケジュールにも織り込んである。
なぁに、1回の時間は短いし場所も近い。レッスン明けでも楽々通えるから負担増にはならないさ」
プロデューサーの言葉はたしかに理に適っている。
だが、幸子はまだその場を立たなかった。そしてわかりやすいほど不機嫌な表情。
それはスカイダイビングをしたくない、という単純な意思表示ではない。
「この間はヘリの構造上、同時に2人以上降りれないからしょうがなく先行ったけど…もうあんなことはしない。ごめん。
荷物持ちにしろカメラマンにしろ、今度は必ず一緒にいるから」
「…これからは勝手に行かないでくださいよ?」
両肩をがっちり掴み、目を見て真摯に謝罪する様にようやく機嫌を直す。
強引な部分も多々あれど、要所できちんと自分の意を汲んでくれるプロデューサーのやり方を、幸子は嫌いになれなかった。
事務所の契約する月極駐車場に2人が到着したのは、それから30分後のことである。
<R←------I>
国内でも国外でも、筑波洋は日常的にバイクを使う男である。
だから電車移動の乗換駅として栄える新越谷駅前も、当然のように電車ではなくバイクで疾走した。
愛車のスズキ・ハスラーも使い込まれたもののはずだが、街道を駆け抜ける様は快調そのものだ。
(フライステーション…間違いない、これだな)
谷源次郎からもらったチケット、その裏に記された小地図通りの場所に目的地はあった。
都市部というほど駅から近くはなかったが、郊外というほど離れてもいない。
加えて大型ショッピングモールと隣接してることから、相互に人の行き来が期待できる。
上手い場所を選んだものだ、と洋は素直に感心した。
併設された駐車場にバイクを停め、早速フライステーションに向かう。
正面入口に立つ係員にチケットを渡すと、何の問題もなく入場できた。
順調。しかし、本題はここからである。
(よし、行くか!)
自動扉を抜ける前に、白いウィンドブレーカーを腕まくりする。
それは気合いを入れる時の洋の癖だった。
…が、踏み込んだ先ですぐに腕の力を抜くハメになった。
従業員以外の人の姿がほとんどなかったのである。
まだ世間的な知名度の低いこの施設へ、オープン時刻にやってくるのはやり過ぎだった。
「すいません、ウィンド・トンネルってもう動いてますか?」
正面の案内窓口で、気軽に尋ねる。
施設と同じ、新品同然の衣装をまとった案内嬢の答えは明快だった。
「先行来場の方ですね?はい、マシンの方は既に稼働しております」
「よかった。人が少ない気がしたから、まだ開ける前かと思ってね。
ダイビング体験はどこで受けられるのかな?」
「この受付から見て右手に見えます、カウンター2番にて受け付けております。
本当は両側に1台ずつ設置されていますが、プレ・オープン中は1台のみで交互に動かしております。
ただ本日は初回に貸切利用が入ってますので、次回のご案内まで少々お待ちいただきますが…」
「貸切?」
思わずオウム返しに聞く。
自分以上に早く来る奇特な人間、という以上に貸切利用が気になった。
限られた関係者に向けた先行公開となれば、普通は貸切など通さない。
それができるということは大層な影響力を持っているということだ。
(変なタイミングで来ちゃったか…?)
ベンチに座り、軽く頭をかく。
出鼻を挫かれるというのは、あまり良い気のするものではない。
とはいえ考えてどうとなるわけでなし、待ち時間もさしてあるわけではない。
そう気持ちを切り替えて待ちに入ろうとした時、先ほどの案内嬢が洋に声を掛けてきた。
「あの、貸切利用のお客様から一緒に参加されてはどうかとご連絡いただいてますが…」
「え!?…いいんですか?」
「自分達のグループ外の方が全くいなくて、逆に困っていたとのことです」
またもや洋の頭に疑問符が浮かぶ。
このタイミングでの心変わり、貸切を掛けた利用者は何を求めているのだろう。
考えられる原因は、この早過ぎる来場時間が不都合だったというくらいか。
俄然、その謎に興味が湧く。
「わかりました。それじゃ、一緒にお願いします」
洋はそう応えると、案内嬢の後を追って2番カウンターへの道を進んでいった。
<R------→I>
「プロデューサーさん、ずいぶん人が少なくないですか?」
「少ないこと自体は想定内なんだけどな。だが…ここまで行くと、な」
こめかみを指でぐりぐりしながら、歯切れの悪い言葉を漏らす。
そんなプロデューサーの様子に思わず幸子も嘆息した。
フライステーションでの飛行は安全・安心なものだが、それも危険行為をしないという前提にある。
そしてそのための説明は、主に映像資料で行われていた。百聞は一見に如かず、というワケである。
…が、輿水幸子と一緒に多目的室にいるのはプロデューサーと一般参加者が1人のみ。
プレ・オープンではあるし、あまり人がいると練習に支障が出るとはいえ、こうも人がいないと不安になる。
「台の貸切に回した警戒を逆に向けるべきだったか。国内と国外での温度差があり過ぎる」
「貸切?じゃあ、あの人は誰なんです?」
細々と続くプロデューサーの分析を無視し、幸子は同室している一般参加者の青年に目を向けた。
白いウィンドブレーカーに黒いインナーと服装はシンプルだが、それだけに精悍さが際立つ。
いかにもスポーツ好きな明るい兄ちゃん、というそのイメージは、ユニットで組んでいる姫川友紀ならともかく、
幸子の琴線には響かない。ただ、一緒にカメラ映りしても問題はなさそうとは感じていた。
「次の回でやる予定だったお客さんだよ。あんまり人がいないんで、本人承諾の上で一緒に参加してもらうことにした。
この状況でえらくやる気出してたから、なんか待たせるのも悪い気がしてね」
プロジェクターに映る解説映像を眺めながら、プロデューサーがそう説明する。
嘘を付いている風には聞こえないその口ぶりに、幸子は内心の警戒を解く。
事情が確かなら、あの青年はやたらと被害に遭うドッキリの仕掛け人の類ではないだろう。
…そもそもドッキリならば、スカイダイビングをした時点で既にかかっているようなものだ。
ここで今更になって小ドッキリをされても反応に困る。
そうこうしている内に、映像は終わった。
幸子よりも先に席を立ったプロデューサーは、青年の元へ向かっていた。
「すみません、貸切だなんだでゴタゴタさせてしまいまして。ご迷惑をおかけしました」
「いえ、オレはちょっと飛んでみたいだけですから。空は好きだけど、スカイダイビングは未経験なんで。
貸切のところにお邪魔させてもらって大丈夫なんですか?」
「カメラ撮影が入るんですよ。なので混乱を防ぐために貸切にしたんですが、何分この状況ですから。
あ、公共の電波に載る予定があるので、目線入れるかどうかもここで確認したいんですが」
「…そういうことなら、すいませんが目線入れてもらえますか?
仕事サボって来ちゃったんで、バレるとマズいんです」
後々トラブルにならないよう、青年とやり取りをするプロデューサーの声。
それを聞き流しながら走り書きしたノートを読み返す。
とりあえず映像で出た範囲での飛行体勢維持のコツはまとめられた。
清書するには時間がないが、それでも読み直す。
時間と回数に限りがあることは、どう文句を付けても変わらない。
「話もまとまったし、そろそろフライトのお時間だ。行けるか、お姫様?」
「当然です。ボクを誰だと思ってるんですか?」
「だって、足…」
「え?…な、なんですか!これは部屋が寒いだけです!」
迷いなく言い返したまでは良かったが、プロデューサーの指した自分の足はぷるぷる震えている。
記憶にあまり残っていなくとも、スカイダイビングの感覚は身体が覚えてしまっていた。
「…まぁ、あと7回ありゃあなんとかなるだろ」
「ボクにかかれば余裕です!!」
気力で震えを押さえこんだ幸子は、プロデューサーを追って多目的室を出た。
…数分後。
幸子は遅れてウィンド・トンネルの前にやって来た。
口頭説明までは一緒だったが、もこもこした専用スーツを着るのに手間取ってしまったのだ。
結果、幸子とプロデューサーより先に例の青年がウィンド・トンネルの中に入っている。
もっとも、どのような感じで飛べるのかを知っておけるのは、悪いことではない。
(さて、お手並み拝見ですね)
輿水幸子に他人を下に見る趣味は一切ない。
自分に確たる自信がある以上、わざわざ他人の足を引っ張るようなことをする必要がないのである。
半端であれば自惚れと言えるそのスタンスも、徹底すれば一つの才能だ。
だからこそ、メッシュ状のトランポリンの上に立つこの青年のことも、全く偏見なく評価できる。
ガラス壁に包まれた青年は、インストラクターを付けず一人で立っていた。自信があるのか、あるいは無謀か。
やがて、空調機の音が響くと同時に装置内に空気の流れが生まれ、そして-
「すごいな…」
傍らにいるプロデューサーの漏らした呟きは、幸子の心象をも代弁していた。
スカイダイビングははじめて、と語った青年の空中姿勢は全く非の打ち所のない代物だったのだ。
姿勢維持から高度調整、さらにはアクロバット飛行まで見せている。
ガラス壁越しの光景は、それがたった2分で終わるものとは思えない充実したパフォーマンスだった。
「…素人技じゃねえぞコレ」
プロデューサーがまた賞賛の言葉を続ける。
だが、その瞬間に幸子は違和感を感じた。
(ん…今のは?)
2分の稼働時間が終わり、静かにトランポリンへと降下していくその時。
青年の表情が一瞬、しかし相当に険しい表情になっていたのだ。
直後に青年が無事着地する。起き上がった時に険しさはなくなっていたが、妙なしこりは残る。
「…あそこまで無理する必要ないからな」
「今は無理でも、あのレベルまで行きます!だってボクですから!」
目の前の光景を重荷にしないようにと、プロデューサーがフォローしてくる。
どうもプロデューサーは、あの表情が見えていなかったらしい。
だが幸子はそれを逆に制し、自分も高みを目指すと宣言した。
それは元より幸子のスタンスではあったが、いつも以上にその語気が強い。
「ボクのカワイイ姿をしっかり目に焼き付けてくださいね!」
もやもやした心の内を振り切るが如く、意図的にテンションを高める。
青年の出てきたトンネル内に入る覚悟はできていた。
そして1分後。
「おー、中々上手く体勢取れたな」
「ボ、ボクにかかれば余裕ですよ!」
一緒に飛ぶプロデューサーより低い高度で、幸子はやや不格好ながら安定姿勢を取っていた。
…ただし、インストラクターの手に掴まれながら。
曲がりなりにもスカイダイビング経験があるとはいえ、まだタンデム飛行が1回だけ。
しかも、半分目をつぶっているような状態でのことだ。
自力での姿勢制御ははじめて同然である以上、ノートでまとめた内容程度では限界はある。
ガラス壁の向こうに目を向けると、あの青年がプロデューサーの持っていたビデオカメラでこちらを撮っている。
おそらく、一緒に飛んでいる姿を撮るために頼んだのだろう。
爽やかな笑顔に嘲りの色はないが、それでもあのようなパフォーマンスした相手にこんな飛び方しか見せられないのが悔しい。
「はーい、手を離しますよー」
「え?ちょっ…フギャー!?」
トランポリン上に立つインストラクターの声に焦り、思わず身をよじる。
そして手を離した瞬間、体勢の崩れた幸子の身体は天井寸前まですっ飛んで行った。
これが本当の空だったら大変なことになっただろう。
そして、それ以上にこの光景をカメラに撮られている事実が、幸子の心に火を点けた。
失敗を後悔する気はないが、それでも失敗を塗り替えるなら、最終的に成功させてしまうしかない。
(こうなったら絶対、空から舞い降りる演出を成功させますからね!!)
飛行時間の2分を終え、空気の流れが弱まる。
ノートの走り書きのおかげか、着地は無様にならずに済んだが、
体勢が違うことから青年が何を見て表情を変えたかはわからなかった。
だが今はそれ以上に、本番での成功に向け新たな熱意が幸子に宿っていた。
…スカイダイビング本番まで、あと3週間。
-本文と関係ない業務連絡-
私事多忙につき、更新頻度落とします
完結目標時期も今月末までに大幅延長
申し訳ない…orz
<R←------I>
今の筑波洋は少々日本の流行に疎い。
元々、流行りものより釣りや将棋に手を出すなど趣味は渋めの上、ネオショッカー壊滅の時期以降、
海外を転々とするようになったことがその傾向に拍車を掛けていた。
だからこそ、流行に敏感な知人との交流は重要なのだが…
「え~!?輿水幸子っていやぁ、今をときめく人気アイドルじゃないですか!
ほら、この雑誌にもババーンと出てますよ!」
「そ、そうなのか…」
その知人の男・沼が思いきり付きつけた雑誌を見て、洋は少々バツが悪そうな顔をしながらコーヒーを啜った。
そこには、見覚えのある顔が巻頭カラーでバッチリ載っている。
たしかに気の強さと品の良さの混ざった雰囲気は、普通の少女にはそう感じられないものだったが、
それは洋がかつて出会った羅門博士の助手と同じように、世俗から離れ気味なせいかと考えていた。
連れの男性から彼女がアイドルだと聞いてはいたから、相手を良く知らないのも失礼と思って沼を頼ったのだが、
ここまで大層な相手だと露ほどにも思っていなかったのである。
だからこそ、空撮の仕事も軽く引き受けてしまった。
スカイダイビング慣れを進めるついでに、知り合いの娘さんを撮るくらいのつもりが大事になるとは。
「でも洋さんもすごいじゃないですか、そんな有名人から仕事取ってくるなんて。
ホント、隅に置けないんだからもう」
「ただの偶然だよ。あっちから持ち掛けてきたことだし」
「ならもっとスゴイってことじゃないか!黙ってたって仕事来るんだもの」
褒められるのは嫌いではないが、こうベタ褒めされても話が進まない。
洋は話題の矛先をあえて沼に向けた。
「それは沼さんもだろ?チェーン店でも、長持ちさせるのは簡単じゃないって聞いたぜ」
「はは、その通り。黙ってても仕事が来るのは、きちんと仕事してる場合に限ったことだな」
きらりと白い歯を見せながら、沼はやや暑苦しげな笑顔を見せた。
かつて喫茶店「ブランカ」の雇われバーテンダーだった沼は、谷が鞍替えした後も喫茶人として活動を続け、
今ではフランチャイズながら喫茶店主として一人立ちしている。
醸し出す雰囲気は昔と変わらず軽かったが、さすがにリーゼントは鳴りを潜めた。
自分が店を持つ身になってから、少しは我が身を省みたらしい。
そんな沼の気分が良くなったところを見計らって、洋は本題を切り出した。
「そういや沼さん、マスターが店を空ける用事が何かって聞いたか?
オレは細かく聞けなかったんだけど、今になって気になってな」
「ああ、たしかジュニアライダー隊を連れて2週間くらい海外行っちゃうんだってよ。
国際宇宙なんとかってとこだったっけか」
一瞬、洋の眉間に力が入る。
国際宇宙開発研究所。沼はいい加減に覚えていたが、おそらく谷からも聞いた名前と同じだろう。
チケットを提供しておきながら、そのタイミングで谷達を招待するとはどういうことなのか。
それも谷の元を自分が訪れるのと前後する時期に。
これではまるで、自分にチケットが渡るように仕向けているようではないか。
-あのタイミングで、狙い澄ましたかのように来場者が自分と輿水幸子、その連れしかいなかった。
正式オープンではないとはいえ、そんな偶然が簡単に起こるものだろうか-
洋にはそれが引っ掛かっていた。
輿水幸子の撮影に最適な人員を秘密裏に頼む。たしかにそうするには、うってつけの状況ではあった。
だがそれは「輿水幸子がスカイダイビングをする」「筑波洋がスカイダイビングでの空撮に手を出す」という事実を、
双方が早期に知り合えた時にのみ成立する。そうでないなら他の選択肢はいくらでもあるのだ。
作為的な話に警戒するのは、洋の人生経験からすれば当然の習性だった。
…しかし同時に、その作為の裏に何があるか読めていないのも事実である。
施設の話題作りになるという益はあれど、誰も被害を被っていない。
美談に仕立てたいなら、施設側が自分に直接オファーをかけてこないのも-手段の是非は別として-筋は通る。
水面下で何かが動いてる可能性は否定できないが、同時にやはりただの偶然である可能性も否定はできないのだ。
(今は様子を見るしかない、か)
判断を決めた洋は眉間から力を抜く。表情もリラックスしたものに戻っていた。
「海外か。マスターのことだから、土産とか期待できそうだな」
「宇宙体験の方がメインらしいから、フツーの海外土産じゃないかもしれないけどね。
洋さんにグライダー習ったの、宇宙体験に向けて気合い入れる意味もあったんだろ?」
「元々いつかグライダーやってみたいとは言ってたから、意味というよりきっかけだな。
にしても、初飛びとは思えない飛び方だったよ。さすがマスターだな」
「へえ…オレも飛びたくなってきたかもなー。だってマスターも飛べたんだろ?」
「はは、時間が合えばそうしようか。
でもそう簡単なもんじゃないぜ?人によって向き不向きが激しいんだ、グライダーって」
さわやかな笑顔もそのまま、洋は腰を上げた。
まだ話したいのは山々だが、だからといって用事も外せない。
「もう行くのかい?」
「ああ。沼さん…店、繁盛させるんだぜ?」
「言われなくとも。洋さんこそ、輿水幸子の空撮きっちりやってよ!」
コーヒー代の会計を終えた後に、がっちりと握手する。
「ブランカ」がなくなっても、洋と沼は間違いなく親友だった。
喫茶店を出て、愛車のバイクを飛ばす。目指すはフライ・ステーション。
そこには今や仕事相手である、輿水幸子が待っている。
<R------→I>
幸子はレッスンの合間にフライステーションに向かう日々を送っていた。
単独飛行までのノルマは7回。しかもただ飛ぶ経験を積めば良いのではない。
2回目からは座学も行わなければならないのだ。
まだ14歳の幸子にとっても難しい内容ではないのが幸いだった。
「よぉ!宿題はやったかい?」
真新しい机に向かっていると、不意にそんな声が掛かる。
振り返ればそこにはあの筑波洋がいた。
接し方はずいぶんとラフだが、幸子は動じない。
それは多目的室内に彼ら以外にもプレ・オープンの利用客がいるというだけでなく、関係が変わったことも原因だった。
今の彼は、もはやただの一般人ではなくライブの関係者なのだ。
「当然ですよ。カワイイボクに隙なんてありません!」
「カワイイ、か。真面目なのはよくわかってるけどな」
爽やかな笑顔で答える洋の姿は、プロデューサーとはまた違う印象を幸子に抱かせた。
会話のキャッチボールで剛速球を投げるピッチャーがプロデューサーなら、
この洋という男はいかなる暴投でも真っ向受け止めるキャッチャーのようだった。
幸子を引っ張るパワーはなくとも、素を出して問題ない相手なのは気が楽なものである。
だが、今日だけは少し事情が違った。
「ん…今日はプロデューサー、いないのか」
「今日だけですよ。都合が合わなかったんです」
冷静を保ったつもりが、かえって硬い言い方になっていたと気付く。
慣れない変装用のメガネのせいだと、幸子は内心でだけ責任転嫁した。
輿水幸子のプロデューサーは、彼女の専任というワケではない。
彼も単独スカイダイビングを目指しているので、基本的には連れ立ってやってくるのだが、
今日は浜口あやめの舞台演出調整について、どうしても立ち会う必要があったのだ。
あやめの演出は幸子と同じステージで行われるものだし、今日以外はスケジュールを調整して欠かさず同行しているとはいえ、
「必ず一緒にいる」と彼が言った手前、1日でも一緒に来てくれない事実に幸子はもやもやしたものを感じていた。
「ま、あの人なら追いつけるだろうし大丈夫か。気を引き締めて、元気に行こうぜ」
心中を察したかのような言葉を残し、洋は少し離れた席に座った。
気を遣われているのはわかったが、あまり良い気はしない。
いや、普通なら安定した良い対応なのだろう。
そう感じられないのは、プロデューサーの剛速球に慣れ過ぎたせいなのかもしれない。
やがて始まった座学の講習は、そんな精神状態でも問題なくノートにまとめられる程度には今日も簡単だった。
講習が終わり、今日も実地の時間が来る。
混乱を避けるために、他のプレ・オープン来場者が来るようになって以降、幸子は最後に飛ぶようになっていた。
いつもはプロデューサーがその調整を行うのだが、今日はプロデューサーが不在であることから、
代わりに洋に調整を頼むつもりでいた。
自分以外の来場者がほとんどいなくなった多目的室内で、うっかり消しゴムを落としたことに気付く。
前の席に落ちたそれを拾おうと屈んだところで、机越しの頭上近くで話声が聞こえた。
1人は筑波洋。もう1人はたしか、この施設の責任者として紹介されたスーツ姿の男性だった。
自分が頼む前にもう調整に関わる話をまとめているのか、と感心した幸子だったが、
次の瞬間には机の下から動けなくなってしまっていた。
盗み聞きをするのは本意ではないし、得意でもない。
それでも聞き耳を立て続けたのは、会話に混じる妙な単語のせいだった。
(スカイライダー?それにネオショッカーって…)
<R←------I>
「他の者は行ったようだな。そろそろ本題に入ろうか。
筑波洋…いや、スカイライダー」
その言葉に、身体が無意識の内に臨戦態勢に入るのを洋は感じた。
目の前の男は、普通の人間なら知らぬはずの自分のもう1つの姿を知っている。
小奇麗なスーツに肩まで伸ばした黒い髪という姿は、施設責任者としては実にらしいものだが、
その顔は洋にとって見覚えのあるものではない。
だが良きにしろ悪しにしろ、只者でないことだけははっきりと感じていた。
守谷、と名乗るこの男に声を掛けられたのは、座学講習が終わって間もなくのことだ。
フライステーション・ジャパンの責任者と自己紹介した彼は、最初は空撮について尋ねてきた。
グライダーでの空撮に多少なりとも自信のある洋も、それに快く答えていた。
…スカイライダーの名が出たのは、多目的室から洋と守谷以外の姿がなくなった直後のことだった。
「どこでその名を?」
聞き返しながら、洋も辺りを確認した。
同室していたプレ・オープン来場者の姿はない。そこにはもちろん、輿水幸子も含まれる。
プロデューサーが来ていないというのは心配だが、今日の座学で正体がバレないよう変装してきているくらいである。
おそらく他の参加者に気付かれないようにしつつ、先に部屋を出たのだと納得した。
間違っても、まだ部屋の中-たとえばすぐ近くの机の下とか-にいるということはあるまい。
「簡単なことだよ。私はかつてネオショッカーにいたからな」
「キサマ…どういうつもりだ!」
ネオショッカー。
そう聞いた直後、反射的に洋は語気を強めた。
だが、対する守谷はすぐさま降参の意を示すかのように両手を軽く上げた。
「勘違いされるとマズイから先に言おう。組織の再興だの世界征服だのは考えていない」
「なら何故、今更ネオショッカーの名を出した?」
「後で話がこじれると思ったからだ。君のことだ、遅かれ早かれこの施設に絡む事情を調べるだろう。
そこでこちらも望まぬ問題に発展させたくない、と言うワケだ」
「事情…どういうつもりか知らないが、聞かせてもらえるか」
「元よりそのつもりだよ。君がそう言ってくれると、こちらも気兼ねなく昔話が出来て助かる」
守谷は軽く笑ったが、洋は警戒を解かなかった。
口ぶりでは敵意がないようだが、それが真意とは限らないのだ。
もちろんネオショッカーの残党だからといって敵と決まったわけではないが、
フライステーションに関連した『偶然』を鑑みれば、やはり何がしかの意図があるには違いない。
その心中を知ってか知らずか、守谷は過去のことを話し始めた。
「私はかつてネオショッカーの科学班にいたんだ。
食糧危機に備えて、どんな汚名を被ろうと人口調整に乗り出す…という理念を信じてね。
やがて、それがただのお題目であることに気付いたがその頃には組織から出れなくなっていた。
私と同じ状態の構成員は、当時のネオショッカーに少なからずいた。
…その状況を撃ち破ったのが、君だったというワケだ」
「大首領の死亡、か」
洋はそう言葉を差し込んだ。
大首領撃破後に、残っていたネオショッカーの構成員がどうなったかは判然としていない。
離反のタイミングがあるならそこしかない。ネオショッカーを追っていた洋は半ば確信していた。
「ほぼ合っているが、正確にはその少し前だな。
酸素破壊爆弾を持ち出した時点で、集団離反の流れは既に固まっていた。
そうして逃げ出した人々を私が連れ出して導き、今のこの施設に至っている」
「ここの施設関係者が全員ネオショッカーの元構成員だというのか!?」
「そうだ。入口にいる案内嬢は、大首領の召使いの1人だったそうだ」
さすがに洋も驚きを隠せなかった。
フライステーションに数回通った上で元ネオショッカーだと気付かなかったのもそうだが、
大首領の召使いという立場は、今は亡き洋の母と同じものだ。
母はネオショッカーの暗殺部隊にかかり亡くなったが、もし自分が母を無理に救出しなければ、
あの場所に生きて立っていたのは母だったかもしれない。
もちろん守谷の言葉が真実ならば、という前提だが。
「すまない。後悔をさせるつもりで言ったのではないんだ。
ただ、彼女と話して直接聞くよりは衝撃が軽かろうとね」
「そうか。だが、もし元ネオショッカーだろうと全員更生してるのなら、別にオレに話す必要はないだろう。
何故、わざわざオレにバラしたんだ?」
「言ったろう、要らぬ誤解を与えたくないからだと。
…つまりこれから私が言うことに、この施設の他の人達は全く関係ないということだ」
「何?」
思わず訝しげに聞き返すと、守谷がスーツの襟を正し、軽く目を伏せる。
おそらく、それが彼なりの気合いの入れ方なのだろう。
そして目を見開くと同時に発せられた言葉は、洋の想像を超えていた。
「スカイライダー、お前に決闘を申し込む。一介の元アリコマンドとして、だ」
…決闘。それも一戦闘員として。
その裏にどんな意があろうと、洋としては受けるつもりはなかった。
怪人ならともかく、アリコマンド相手で負ける道理はないし、
そんな戦いに意味があると思えない。
「受けるつもりはない、という顔をしているな」
「ああ。意味がないからな」
「意味、か。ならば少しだけ私自身の話をしよう。
私のかつての上司の名は…アブンガーと言う。覚えているか?」
少しだけ、洋は首を縦に振った。たしかに覚えている。
スカイライダー最大の弱点を突いてきた相手だからだ。
そして何より、この怪人は―
「アブンガーは、君の必殺技であるスカイキックを体得した。
それも改良したり、他人に習得するノウハウを伝授できるレベルで…だ。
そして私も、スカイキックを放つことができる」
「本気か…?」
「どうしてもというなら、ここでお見せしても良いが」
洋を真正面から見据える守谷の目に、冗談の色は全くない。どこまでも本気だ。
そしてかつてアブンガーが実際にスカイキックを放ってきたという事実が、
守谷の言葉を嘘と思わせない最大の裏付けになっていた。
「戦いに意味が必要なら…盟友の仇討ちを忘れられない、といったところか。
私もスカイキックを武器にできる以上、まったく戦いにならんということはなかろう」
「…行かなくてもいいんだろ?」
「無論だ。あくまで選ぶのは君自身だよ。かつて敵同士とはいえ、とんだ迷惑だと思う。
だが、もし受けて立つというなら…来週の朝6時、この場所で待っている」
差し出された名刺大の紙には、簡素ながら時刻と場所がわかりやすく記されていた。
その日は輿水幸子を撮影する当日。だが、バイク移動なら撮影場所まで現実的な時間で往復できる。
おそらくこの男は、それを知っていて指定している。
「時間を取ってすまなかった。では、私はこれで失礼するよ」
多目的室を去りゆく守谷の背中を、洋は目で追っていた。
…なぜ、彼が今更になって洋との戦いを望むのか。
他の元構成員は無関係と前置きしてまで事を運ぼうとする理由が、本当に仇討ちだけなのか。
谷を国外に誘導し、幸子との遭遇を仕掛けた真意やからくりもわかっていない。
いつしか洋にとっても、この決闘は意味を持ってしまっている。
そう気付くのにさしたる時間はかからなかった。
<R------→I>
(まったく、なんてタイミングを指定するんですかあの人は!)
内心で憤りながらも、輿水幸子は動けないでいた。
ここまで盗み聞きしておいて、今さらはほいほい出て行くのは非常に気まずい。
だが、そろそろ腰が痛んできた。
スクワットの途中のような状態で止まっていては無理もない。
いっそのこと思い切って体育座りしてしまえば良かったと、今更になって幸子は後悔していた。
…その後悔は間もなく断ち切られた。
「よぅ!かくれんぼなら、付き合うぜ」
「うわぁ!?」
思わず幸子は声を上げて驚いていた。
それまで机越しに話していた筑波洋の顔が、いきなり目前にやってきている。
洋が自分のことに気付いている可能性を考えなかったわけではないが、それでも不意を突かれれば心臓に悪い。
「気付いてたんですか!?」
「話してる途中にほんの少しだけど音がしたからね。そんな体勢で、物音が全くしないワケないってことさ。
それにオレの耳は良い方だし…耳の良さは幸子ちゃんも同じようだけど」
幸子は頬が引きつる感覚を感じていた。
盗み聞きしていたこともバレている。これは下手な言い逃れをしても無駄だろう。
だから、開き直ってあえて上から目線に切り替えた。
「き、聞かなかったことにしてもいいんですよ!ボクは寛大ですから!」
「はは、そうしてくれると助かるよ」
反感を買うかと思ったが、想像以上に洋はあっさり引き下がった。
あの決闘にまつわる会話を口外してほしくないのか、それとも冗談に過ぎないからか。
それは定かでないが、たしかに黙っていればこれで終わることなのだろう。
幸子からすればあの話が真実であろうとなかろうと、筑波洋が空撮の仕事をきちんとして、
自分のライブ成功に貢献してくれれば特に問題ないのである。
…ならば確実にライブを成功させる術くらい、聞かせてもらっても良いだろう。
「さっきのを黙ってる代わりに、1つだけ教えてほしいんです」
「お、なんだい?」
「空への恐怖心を消す方法です」
そう尋ねる幸子の顔に、いつものドヤ顔は窺えない。真剣そのものだ。
一度やると決めたことは退かない幸子だが、ライブのスタートを彩るスカイダイビングにまだ不安はある。
実際に飛んだ空より危険度の少ないウィンド・トンネルでなお、幸子は滞空途中でバランスを失うことがあったのだ。
飛びながら考えた結果、それが「身体が空に浮く不安定さへの恐怖」だと思い当たったものの、出来たのはそこまで。
今のままではよしんば着地まで成功したとして、その後に待つライブに影響が出かねない。
「なるほど、そういうことか。
たしかに企画先行でダイビング始めたら、キツイよな」
ひとしきり洋が納得する。
元々気の良い男である洋なら、こんなことはタダでも教えてくれただろう。
そうできなかったのは幸子のプライドの高さに他ならなかった。
「いいかい?まず、空を飛ぶってのは普通は怖くて当然のものなんだ。
特にダイビングとなると、何もしなければ大地に叩きつけられるんだからね。
そこに恐怖心を感じない人間なんていない」
幸子は軽く首を縦に振って、同意の意を示した。
空を飛ぶ前に足が震えた実体験は、いくらトレーニングを積んでも覆せない。
首尾よく理解したのを確認してから、洋は先を続けた。
「だけど、英知の力で安全に着地できる…という前提があれば、コレはひっくり返る」
「ひっくり返る?」
「ああ。死傷するかもしれない恐怖がなくなれば、そこにあるのは自由な感覚だ。
オレの好きなパラグライダーでも相当だけど、手に枷の付かないスカイダイビングともなれば完全な非日常さ。
だから楽しくて、素晴らしい。空で何を見出すかは人それぞれだけど、どれも地上で感じられないものなのは確かだからね」
「でも、安全に着地できなかったら?」
「そこだ」
右手の人差指をピッと立て、洋は部屋の出口を指差した。
「外にあるウィンド・トンネルも、下にネットがあってどう転んだって安全に降りられるからこそ、
老人や幼児でも楽しく飛べるんだ。この大前提が崩れたら、空は怖い場所に逆戻りする。
…大事なのは安全に降りる術を理解して、使いこなして、信じることだ。そうすれば恐怖心は超えられる。
実際、オレの知り合いもこれを聞いたら一発でグライダー使いこなしたよ」
なるほど、と幸子は納得した。
複雑な技術論でも、抽象的な精神論でもない確かな感覚。
ダイビングではなくグライダーとはいえ、経験者だけあって筑波洋の話には説得力があった。
ただ同時に、彼の言った通りだとするなら引っ掛かることがある。
それは自分のことではない。
―大地を真正面に捉えて降りる時、必ず一瞬だけ見せる険しい表情。
空を飛ぶことを素晴らしいと思うなら、なぜあんな顔をするだろうか―
「なんで洋さんは…」
言い淀む。
ここで洋に問うことは本当に正解なのか。
ただの自分の好奇心が、彼を空から引き摺り降ろす結果になるのではないか。
そして聞いて自分はどうしたいのか。お節介?自己満足?それとも、何?
「…なんでもないです。お話、ありがとうございました」
結局、幸子は自ら引き下がった。
仕事さえこなしてくれるなら、洋がどうだろうと気にしないと割り切る。
それに、自分がスカイダイビングを成功させるために聞いたことなのだ。
他人のことを気にしている時間があるなら、今の話をどう活かすか考えようと、幸子は思考の矛先を変えた。
…その日、幸子ははじめて最後まで安定姿勢を保ち、実地訓練を終えることができた。
<R←------I>
フライステーションでの最後の調整日。
既にグライダーで空を舞う洋にとっては、座学も実地も全く苦にならない。
単独スカイダイビングのライセンスはほぼ取ったも同然だ。
だからこそ、さらに先を目指す。
ウィンド・トンネル内に空撮用ビデオカメラを持ち込んでの飛行は、
本番に向けたリハーサルさながらであった。
これで撮影も上手くいけば、文句の付けようはないのだが―
(フォローする手段は立てられたけど、やっぱり気になるか)
自室のモニタを前に、洋は渋い顔をしていた。
映っているのは昨日の最終調整で撮影した、ビデオカメラの空撮映像。
それは手ブレや露光調整も考慮したハイレベルなものだったが、ある問題が残っている。
地上に張られた着地用ネットを撮った時にそれははっきり見て取れた。
ネットの中央を真正面に捉えたカットが一切ない。
ローリングするようにカメラアングルを動かしている時も、真正面だけ自然と外れるようになっていた。
撮影上で致命的なものとは言えないが、それでも問題には違いない。
結局、アングル調整という次善策は体得したものの、最後の調整でもこの問題を根治することはできなかった。
(気付いてたと見るのが妥当、かな)
ふと、輿水幸子が不自然に言葉を飲み込んだ瞬間を思い出す。
仮に彼女が洋自身の問題に気付いていたとして、もし問われたらどう答えるつもりだったのか。
適当な嘘を押し付けることはできるだろうが、それで納得するような子とも思えない。
だからといって、語るにはまだ彼女は若過ぎる。
それ以上に、あくまで仕事上のクライアントである彼女に、あの谷源次郎にすら
語るのを躊躇したようなことをほいほい話すのは、距離感としても少々問題がある。
…英知の力が途切れた瞬間の恐怖を語るには、まだ早い。
映像が終わる。
レコーダーに接続したカメラを回収し、明日の撮影に向けた出発準備に戻る。
その中で思い返すのは、やはり決闘のことだった。
結局、今日に至るまで守谷の狙いはわからなかった。
施設の人間は彼の言葉通りなら元ネオショッカーのはずだが、
洋への敵意も何も感じなかったし、施設営業はつつがなく行われている。
プレ・オープン来場者を人質にするということもなかった。
今日まで来場者に危害を与えられる事態はなく、明後日のグランドオープン前に最終点検に入る以上、
明日の決闘中に人質を使ってくることも考えられない。
ならば、本当に仇討ちなのか。
たしかにスカイライダーとしてアブンガーを倒し、ネオショッカーそのものも崩壊させたが、
それから結構な時間が経っている。
洋のコンディションが特に悪化していない以上、好機を見て襲ってきたのでもない。
むしろ他の施設関係者に累が及ばぬよう明言するあたり、あまりにも正々堂々としている。
自殺願望でもあるのか、とも疑ったがグランドオープンのセレモニーに出席することを今日確認した。
全てをはっきりさせるには、決闘に応じる他ない。
健康センターあたりを宿に見積もる目算で、洋はバイクを飛ばした。
<R------→I>
ライブを前日に控えた夜。
一介のカメラマンと違い、出演者と舞台関係者総出で移動した輿水幸子は、
富士山の見える小奇麗なホテルで前日泊していた。
明日のライブに向けたコンディション調整という理由もあるが、それだけではない。
「お湯もしたたるカワイイ幸子!うーん、けだし名言ですね!」
「悪いなー、明日が本番ってところにまでスケジュール入れちゃって」
「タイミングはキツイですけど、宿まで来なきゃできない仕事なんですからしょうがないですね!
…でもプロデューサーさん、またタイアップってなんか多くありませんか?」
「そりゃあ、オレがタイアップ拒まない方針で進めてるからな。だって相性良いんだもの」
「ま、カワイイボクにかかればなんだってイメージ上がりますからね!」
そう。前日泊の宿にある温泉でも、幸子は撮影の仕事をしていた。
今回はライブで共にステージに立つ他のアイドルも参加したものだったが、
フライステーションの件も含め、幸子は企業タイアップの仕事が特に多い。
実際にクライアントからの受けも上々なので、多少天狗になろうと幸子をプロデューサーが諌めることはなかった。
「…それで結局、あの話はなにかわかりましたか?」
ややあって、上機嫌な幸子が表情を引き締め、自ら話を変えた。
プロデューサー用に取った宿の一室に幸子がわざわざ乗り込んできたのは、
別に撮影の成功を報告したりドヤ顔するのが目的ではないのだ。
聞かなかったことにする、と洋には言ったものの、万が一洋が決闘に応じて、そして到着が遅れるようではかなわない。
そこでプロデューサーにだけは先日盗み聞きした話を伝えておいたのである。
とはいえ、いたずらに口外することは避けた。
今回はやむを得なかったが、基本的に幸子は前言を翻さない少女なのである。
そのポリシーを曲げてまで伝えた甲斐は、あった。
「ああ、面白いことがわかったよ。幸子が細かい単語まできちんと覚えていたおかげでね。
…キーワードは『酸素破壊爆弾』だ」
言いながら、机の上にプロデューサーが数枚の写真を並べた。
画質の劣化具合から時間が経ったものであることは幸子にもわかる。
だが、それ以上に写真に映っているものが気になった。
「これは一体?なんか、怪獣みたいなの映ってますけど」
「そいつがネオショッカーの大首領、らしい。本人がネオショッカーなる組織の者と名乗った上で、
『大首領』と呼びかけた人間の声に応えて堂々と姿を現したことから、そう認識されている。
で、頭上にあるのが酸素破壊爆弾。幸子が聞いた話にも出てきたものだな。
コレの開発が原因で守谷氏は仲間を伴って反旗を翻し、ネオショッカーを離脱したことになるワケだ」
「えーっと…公演の企画の話なら、後にしませんか?」
あまりに突飛な話に理解を拒みかけた幸子だったが、プロデューサーは冗談を言ったのではなかった。
「これが困ったことに、現実に起こったのは確かなんだよ。
報道部に当時ニュース対応した人間がいたから、言質も取ってある。
信じ難いのはよくわかるけどね」
「ま、まぁそれが事実として…それと洋さんがどうつながるんです?」
プロデューサーの口調から、ドッキリの類でないことを察した幸子は話を先に進めた。
守谷氏のバックボーンはわかっても、筑波洋のそれにまでは辿りついていない。
「大首領が現れて言ったのは、『仮面ライダー』とやらへの最後通告だったんだよ。
そんでもって、これが最後の写真だが…大首領は8人の何者かによって空輸されて、危機は去った。
普通に考えればこの8人が『仮面ライダー』ってことなんだろうさ。
で、空を飛ぶ『仮面ライダー』がいるなら…『スカイライダー』って呼ばれても不思議じゃないだろ?」
「じゃあ、この8人のどれかが洋さんなんですか?」
「多分ね。さすがに特定はできないけど」
言われて、幸子は怪獣を浮かせる8人の戦士を見直した。
もっとも『仮面ライダー』という名の通り頭部に、8人全員がマスクを被っているので顔がわからないのだが。
それに空を飛ぶ、と言っても写真に映っている状態では8人全員が飛行している。
これでは特定のしようはないだろう。
「この後、洋さんはどうなったんですか?」
「さぁな…写真より先の記録がないから、彼が生きてこの場にいるという事実しか手掛かりがないんだよ」
頭を軽く掻きながら、プロデューサーは申し訳なさそうにそう言う。
報道関係者との縁が浅からずあるプロデューサーで無理なら、幸子にはどうしようもない。
一時の沈黙の後、プロデューサーが口を開く。
「ただ…守谷氏は何かを洋君に伝えたいんじゃないかね、コレ」
「どういうことですか?」
「幸子の話通りなら、予防線張りまくってる上に仇討ちってのも筋が通らないんだよ。
なんか決闘を経ないと伝えられない何かがあるんじゃない?何伝えたいのかはさっぱりわからないけど」
「そんなの、決闘しないで伝えればいいじゃないですか」
「かつての敵味方じゃやりにくいのかもしれんね。ま、これも推測の域を出ないけど」
また、沈黙。
今度は手詰まりではなく、思案するため。
そして再び口を開いたのは幸子の方であった。
「…プロデューサーさん。明日は、早く出ましょうか」
「お姫様の望みならば。行くんだろ?」
プロデューサーの言葉に無言で頷くと、幸子は自分の部屋へと戻っていく。
その背中が視界から外れると、プロデューサーは机の上に並べたネオショッカー大首領の写真と共に、
右手に持っていた名刺大の紙を重ねて片付けはじめた。
<R←------I>
早朝の富士に朝日が差す。
太陽の光が降り注ぐのは、富士山麓に広がる荒野も例外ではない。
そこへ一台のバイクが爆音を上げてやって来た。
荒野を疾走する中でマシンを停め、降りる。
そしてモスグリーンのジャケットを腕まくりした。
バイクを降りた男の視線の先には、また一人の男。
小高い岡の上に立つシルエットは逆行越しだったが、目をこらせば姿は見える。
全身を黒の戦闘服で身を包んだその様は、かつてのネオショッカー戦闘員・アリコマンドのものであった。
「来たか…筑波洋」
岡から響く声は、間違いなく守谷のものだ。
そして、それに応えるのもたしかに筑波洋であった。
「守谷、この決闘の意味はなんだ?
仇討ちならこんなに時間が経ってから行う必要などなかったはずだ」
「仇討ちは残された者の意志によるもの、という問答を期待しているワケではなさそうだな。
それに今になって、というのは間違いだ。今だからこそ意味があるのさ。
…こんなことをせずに済むならと思ったが、そうもいかないらしい」
(何?…なんだ、この音は!?)
守谷の言葉を訝しむ間もなく、耳触りな金属音が荒野に響いた。
直後、守谷のシルエットが巨大な何かに塗り替えられる。
変身?いや、違う―
「せっかくの戦いだ。少々趣向を凝らさせていただくよ」
守谷の背後に現れたのは、大型の車両。
強固な装甲、旋回式の機銃、そして突き出た砲塔。
「あの戦車は!」
「覚えはあるだろう。アルマジーグがここで中破させた車両をレストアさせてもらった。
君にもスカイターボがあるのだ、このくらいはさせてもらう」
搭乗者が剥き出しになる黒塗りの軽戦車に、守谷が立つ。
だが攻撃はしてこない。
守谷は仁王立ちして、洋を待っていた。
「さぁ、変身したまえ筑波洋。言っておくが無粋な真似はしない。
生身の君を戦車で撃つようなことはね」
「いいだろう…この決闘の先にあるものを見せてもらう!」
覚悟を決めた洋は、両拳を引き手にし一気に腰に落とした。
そして左手を広げた状態で前に突き出し、下から大きく一回転させる。
「スカイ!」
叫びと共に左手を引き、そして右手を左上へ伸ばす。
「変身!!」
直後、洋の腰にベルトが現れた。
中央に内蔵された風車が猛烈な勢いで回転すると同時に、洋は大きく飛び上がった。
空中で一回転する内に、そのシルエットが瞬時に変わる。
着地したその姿にモスグリーンのジャケットはない。
緑のボディ、赤い眼。そして赤いマフラー。
これこそが筑波洋のもう1つの姿、スカイライダーである。
洋の変身完了と同時に、キャタピラの走行音が再び響く。
スカイライダーもまた、変化した自らの愛車・スカイターボに飛び乗り荒野を疾走する。
直後、スカイターボのあった場所に砲撃が着弾する。
(あの破壊力…でも懐に飛び込めば!)
砲撃を受けては、スカイライダーとて無事では済まない。狙いも正確だ。
しかし戦車としては比較的身軽な軽戦車とはいえ、バイクと比べれば機動力は相当の差がある。
旋回式の機銃があれど乗り込むのは容易だ。
―そのはずだった。
「直伝・大車輪突き!」
「くっ!?」
砲撃と機銃をくぐり抜けて接近するスカイライダーを襲ったのは、守谷の放つ槍の一撃だった。
これも洋には覚えがあった。黄金ジャガーという、武人肌の怪人が得意としていた技だ。
そして腕力では怪人とアリコマンドでは差があっても、技量でカバーしている。
強化された身体でも無傷で耐え凌げる保証はない。
「馬上の不利、ならぬ車上の不利ならわかっているさ。
それに私の趣向というのはただ車両差を埋めるということではない。君に戦いを想起させるということだ!」
槍の間一髪で逃れ、一旦距離を大きく空けたスカイターボを襲ったのは爆ぜる大地だった。
地雷を思わせる爆発をかろうじて避けたものの、戦車砲とは別に爆発性の武器が放たれていては機動力を殺がれてしまう。
しかし、それでもこの決闘を罠だと疑わなかった。爆発の原因は地雷などではない。
地雷感知用レーダーに掛からぬ爆発兵器の正体にも、やはり覚えがあった。
「爆弾ゴキブリ…!」
「そう、ゴキブリジンの置き土産だ。戦闘開始と同時に戦車より放たせてもらった。
いたずらに逃げ回られても仕方ないのでな」
「ネオショッカーの亡霊というわけか!」
仮面の下で歯噛みするも、自らが追い詰められている事実は変わらない。
荒野に散る爆弾ゴキブリの居場所を見切れない以上、機動力で消耗を誘う手段は危険を伴う。
かといって、下手に中距離を維持すれば高精度の戦車砲が飛んでくる。
接近するなら今度は槍を捌かねばならない。
(3つに1つ…なら、これだ!)
愛車を旋回させるのをやめ、スカイライダーは戦車に向けて突撃した。
再び、戦車砲を機動力で抜ける。途中で爆弾ゴキブリが爆発したがアクセルは手放さなかった。
そして、そのまま全速力でウィリー走行させる。
―スカイターボが戦車にぶつかる!
「ライダーブレイク!!」
「甘い、大車輪突きぃ!」
守谷の槍の一撃が放たれるのと、スカイライダーがバイクから飛び上がるのは同時であった。
そして、スカイライダーが降り立ったのは槍の上。
槍渡り陽炎の術―自らの体重を無と化す軽功術により、相手の槍を封じる技である。
かつて黄金ジャガーの槍を封じたのも、この技だった。
そして、無人走行のままスカイターボが戦車に激突する。
硬化した前輪が戦車の装甲を砕き、砲塔と機銃を叩き割る。
槍より降りたスカイライダーは再びスカイターボの座上へ戻り、戦車を離れた。
ややあって、砲塔が爆発する。
キャタピラこそ無事だが、攻撃手段を失ってはただの移動車両に過ぎない。
もはや脅威とならぬことを悟ってか、守谷もまた戦車を降りた。
「さすが…見事な腕前だ」
スカイライダーを真正面に見据えて誉めたたえながら、守谷は拳法のような構えを取り始めた。
元より格闘戦での切り札を用意している彼は、戦車を失ってもまだ戦意を維持している。
応じて、スカイライダーも愛車を降りて構える。
砲撃で爆弾ゴキブリが一掃されたこの戦車前なら、存分に格闘戦ができるだろう。
決闘はまだ、終わりそうにない。
<R------→I>
「あんなうろ覚えでも、要点をきちんと押さえてれば来れるものですね!」
荒野からわずかに距離を開けた場所に、幸子とプロデューサーは立っていた。
乗ってきた社用のバンは近くに停めてある。
通常なら、ライブの当日にこんな単独行動は難しいのだが、スカイダイビングでライブの壇上に降り立つ都合上、
幸子と他の出演者は最初から別行動を取っているのが幸いした。
「ま、この地図だけで来たワケじゃないんだけどな。ヒントは幾つか転がってた」
「ヒント?」
「幸子の聞いた守谷氏の発言だよ。決闘という体ではあるけど、事を荒立てる気が見られないんだよ。
決闘の累がフライステーションの人に及ばないよう明言してるし、洋君の事情も可能な限り汲んでいる。
なら人目に付かない場所を選ぶと踏んだ。それも幸子を空撮するのに間に合うような場所という条件付きでね。
…調べたらここらへん、守谷氏の私有地なんだよ。うってつけだろ?」
幸子の書いた名刺大の地図を手に、プロデューサーはそう語った。
洋の手にわずかに見えた地図を、うろ覚えで書き写しただけの代物だけではさすがに正確な場所はわからなかっただろう。
だが情報を精査すれば、うろ覚えの地図を決定打に動くこともできる。
そういった情報固めに強い男だからこそ、大胆不敵な輿水幸子のプロデューサーも務まっていた。
「そういや、最後の練習の時には飛行姿勢の維持がかなり安定してたよな。何かアドバイスでも貰ったか?」
不意にプロデューサーが話を変えてきた。
思わぬ寄り道をしてはいるが、あと少しすれば実際に飛ぶ時間である。
スカイダイビングの話になるのも不思議ではない。
「洋さんにアドバイスもらったんですよ。
『安全に降りられる方法を使いこなして、それを信じろ』って。そしたら落ち着いて飛べるようになったんです」
「なるほどねえ」
「…なにか言いたそうですね」
「お、わかる?」
「ボクはカワイイだけじゃなくて、観察力もありますからね!」
盛大なドヤ顔と共に、幸子は満足げにそう言う。
実際、プロデューサーの表情にわずかだが煮え切らないものがあった。
「ハンググライダーのインストラクターとしての癖なんだろうな、洋君の指導は万人向けでわかりやすい形にまとめてられてる。
…留めてる、とも言えるか」
「留めてる?」
「そうそう。論理的というか、アタマだけでわかるから即席でも問題ない。
ただ、実際にはその一つ先がある。幸子ならそこまで行けるはずだし、オレとしては実際に進んでほしい」
「なんで知っていて教えないんですか?洋さんだけじゃなくて、プロデューサーさんもですけど」
「最大の理由は実地で知るのが一番だから、ってところか。話しても実感伴わないとあんま効果ないんだ。
あと、オレの場合は幸子なら直に自分で気付くと思って言わなかった。
オレの見立てじゃあ、洋君の場合は原因はそれ以外にありそうだけど…」
そこで言い淀んだプロデューサーは、そのまま先を言わずに口を閉ざした。
そして幸子から視線を外し、正面に広がる光景を見やる。
「なんにしろ、今から良い手本を見せてくれるだろうさ。他ならぬ洋君自身がね」
プロデューサーの言わんとするところは判然としなかったが、そんなことを言われては気にならないワケがない。
だから幸子も視線を戻した。
筑波洋-スカイライダーの決闘、その先へ。
<R←------I>
「スカイ卍固め!」
「甘いぞ、スカイライダー!」
守谷を絞め上げようとしたスカイライダーは、逆に投げ飛ばされていた。
柔軟性を高めた腕をひねり、卍固めの要である右腕のロックを瞬時に外されていたのである。
すぐさま間合いを離され、イーブンの状況に戻ってしまう。
…強い。
そう思わざるを得ないほど、戦車を降りた守谷は強敵だった。
守谷の研究はスカイキックのみならず、7人ライダーとの特訓で得た99の技にまで及んでいた。
十分な対策がされているだけでなく、一部は体得にまで至っている。
こうなればスカイキックを放てるのも間違いなく事実だろう。疑う余地はない。
ネオショッカーを壊滅に至らしめたスカイライダーからしても、これほどまでに自らを徹底分析してきた敵は、
それこそ守谷の上司であったアブンガーしかいなかった。
「何故だ!何故そこまでして戦う!」
「ここで明かすようなら最初から決闘など申し込まん!」
問答を即座に叩き折った守谷が、再び迫る。
迎撃しようとしたスカイライダーの拳に触れたのは守谷の拳であった。
「スカイ…」
「ドリル!」
錐揉み回転を加えたストレートパンチが、真っ向からぶつかる。
分厚い壁を素手で破壊する一撃同士が互いを弾いた。
スカイライダーがわずかな距離を飛び退くと同時に、大きく吹き飛んだ守谷も受け身を取ってすぐさま体勢を立て直した。
「そんなことより、技をそんなに使って良いのかね?
このままでは私を倒すどころか、ろくなダメージを与えられずに終わるぞ」
埃を払いながら放たれた守谷の言葉に、スカイライダーは一瞬だけ身体を硬直させた。
スカイライダーのパワーは無限ではない。
風力による回収ができないなら、10万キロカロリー相当のエネルギー上限で戦わなければならない。
ましてスカイキックのような大技ならその2割もの消耗を強いられる。
それを守谷は知った上で指摘しているのだ。
かつてアブンガーが突いてきた弱点もまた、その消耗とスカイキックそのものの隙だった。知らないはずがない。
打撃で攻めるなら、もはやスカイキックに賭ける他ない。
しかし多大な消耗を伴うスカイキックは、出すからには必殺が求められる。
かといって99の技で生み出された、多彩な投げで勝負を決めるのは難しい。
なにせ卍固めを平然と抜けてくる手合いである。投げの入り方の甘い他の技はもっと早く抜けてくるだろう。
人体二つ折りのような力技なら抵抗を無視できるだろうが、それでは守谷氏を確実に殺すことになる。
(これで勝負を決める…読まれて通じなければそれまで!)
覚悟を決めたスカイライダーの構えと、守谷のそれは同じだった。
「大・回・転!」
「アブンガァァ!」
空中回転の激しさを増すスカイライダー、蹴り足にスカイドリルと同じ錐揉み回転を掛ける守谷。
そのシルエットが、空中で接近する。
「「スカイ・キック!!」」
直後、2人のキックが正面から激突した。
大回転スカイキックとアブンガースカイドリルキック、その威力は全くの互角。
それを最初からわかっていたかのように、2人は同時に相手の脚を蹴り、背面へ飛ぶ。
そして再び飛び蹴りの体勢を取った。
「スカイ…」
「ダブルキック!」
2度目の激突。
スカイダブルキック。かつてアブンガースカイキックを破った技。
守谷がこの技の対策をしないわけがない。
体得まで至っているのが何よりの証拠。
しかし、技と研究は万能の魔法ではない。
ダブルキックの押し合いに、スカイライダーは勝っていた。
正式な改造人間と一戦闘員のスペック差は絶対に覆らない。
だからこそ技がぶつかった後の反動は、どう転んだって守谷の方が大きくなる。
打撃で守谷に決定打を与えるのは難しいが、それでも体勢を崩すには投げよりはるかに有効だった。
スカイライダーが先に着地したその時にも、守谷はまだ宙を舞っている。
空中で受け身を取って復帰しようとしているが、今この瞬間は明確な隙に他ならない。
(今だ!)
勝負を決めるべく、スカイライダーは地を蹴って飛び、浮いたままの守谷の身体を捕えた。
改造人間としての脚力でゆける限界高度まで到達すると、海老反りの状態に固め、さらに両手両足をそれぞれ掴んだ。
そして、押し出すかのように背中を足で押さえつける。
一度極まってしまえば、ネオショッカー最大級のパワーを持つグランバザーミーすら逃さなかったこの技なら、
さしもの守谷も抜けようはない。
「三!点!ドロオォップ!!」
渾身の投げを仕掛けた直後、スカイライダーは気付いた。
この体勢では、否応なく自分は天より大地を見下ろすことになる。
色は違えど、空より真下を見るのは変わらない。
…ネオショッカー首領にトドメを刺したあの日と。
重力に抗えず、海面へ落ちて行った光景がフラッシュバックする。
大気圏突入の高熱すら蘇る錯覚を感じた。
重力低減装置という英知を殺された記憶は忘れられるものではない。
思わず、右手の力が抜ける。
恐怖を自覚し乗り越えようとしても、そう簡単に覆りはしなかった。
それができるならばこんなに苦しめられなどしない。
―だが、スカイライダーの手は思わぬ形でホールドされた。
「恐れるな!お前は…飛べるだろうに!」
守谷の声。
自らが技をかけられ、このままでは大地に激突するとわかっていながら、
守谷はスカイライダーの右手を自らの両足に挟んで固定していた。
「たとえ落ちる瞬間であろうと空はお前の味方だ!
空を愛し、空に救われた…お前自身を信じろ!!」
守谷の凄絶な覚悟が、スカイライダーの右手に力を取り戻させる。
そして、落ちる。真下に広がる大地から目を逸らさず、まっすぐに。
荒野に落ちゆくその姿は、一筋の流星のようだった。
「そうだ…オレは、スカイライダーだ!!」
三点ドロップの体勢を崩さぬまま、2人は大地に激突していく。
直後、時限爆弾のリミットの来た爆弾ゴキブリの爆発が、その姿を覆い隠していた。
やがて煙が晴れる。
横たわる守谷の傍らに立つスカイライダー。
そして―
「そこまでです!」
少女の声が、荒野に響いた。
<R------→I>
1台のバンが、荒野を抜けてヘリコプターの発着場を目指していた。
朝6時という早い時間だったため移動に余裕はあるが、寄り道にも限度はある。
ことが済んだならば本来の目的地に向かうのは当然と言えた。
「まさか、君達が来ていようとはな」
「ご冗談を。ウチの幸子が洋君のトラウマに気付いたの、見てたんでしょう?
ならば目前でそのトラウマを打ち消して差し上げよう、というワケだ。
決闘の言い回しからして、どうにも貴方は気を回し過ぎるようですからね」
「…お見通しというわけか。いい目をしている」
「これぐらい気付けなきゃアイドルのプロデューサーなんてやってけませんよ。
にしても無茶をしたものだ。いくら鍛えてようと、あんな戦いやったら身体にガタが来るに決まってる」
バンの後部座席には、守谷が横たわっている。
ミラー越しに見る姿は思いの外元気であるが、話によれば怪獣のような相手にトドメを刺すほどの威力を持つ、
スカイライダーの技をあれだけ受けたのである。全身に及んだダメージは計り知れないものがある。
だが、幸いにして命に関わるような外傷は見られなかった。
「筑波洋を救うつもりが、逆に救われたか…」
自嘲気味に軽く笑いながら、守谷はそう漏らした。
三点ドロップを掛け直す直前、スカイライダーは重力低減装置の出力を限界まで上げていた。
そのおかげで、守谷のダメージは動きを大いに鈍らせるに留まっている。
本来なら人間の背骨を粉砕して余りある威力の技を受けて生還したのは、ひとえにスカイライダーの手心であった。
「必然ですよ。貴方の発した叱咤があればこそ、彼も技を寸前で止めることができた」
「それだけではなかろう。幸子君のおかげでもある」
「ボクを目の前に不幸な真似させませんからね!止めに入って正解です!
カワイイは世界を救います!」
「フッ…やはり面白い子だ。真に『次代の子』と呼ばれるべきなのは、案外君なのかもかもしれん」
ミラー越しにドヤ顔を見せる幸子の姿に守谷は軽く笑う。
知ってか知らずか、そこから次第に自嘲の色が抜けていっていた。
「キレイにまとまったところで、良ければ今回のいきさつについて説明願えますかね?
一応オレ達も当事者ですし、事と次第によっては情報規制も必要かもしれない。
発着場まで軽く30分はかかることですし、話すネタにはちょうど良いかと」
「そうだな。少しだけ、昔話をさせてもらうか」
プロデューサーの言葉に応じ、守谷は決闘までにあったことを話し出した。
かつてネオショッカーにいた頃、守谷はアブンガーと共に1年間スカイライダーの戦いを観察していた。
それは表向き「打倒スカイライダー」のためのものであったが、実際は違った。
守谷達は、仇敵であるはずのスカイライダーにこそ、人類が生きる希望を見出したのである。
しかし、スカイライダーにも弱点はある。希望たる彼が負けてしまってはどうにもならない。
ならばこそ、守谷達はその弱点を突くように見せかけて克服させようとしたのだ。
スカイキックやエネルギー上限の弱点を突きながらも、故意に爆発を起こしスカイライダーの逆転を許したのは、
ひとえに数少ない弱点を知らしめ、対策させるためだった。
かくしてスカイライダーはネオショッカーを壊滅させ、人類の希望として戦い続けることとなった。
―そのスカイライダーに、間もなく新たな弱点が出来たことを守谷は偶然知った。
それはネオショッカー基地の跡地を引き継いで得た富士山麓の広大な敷地の一部を、
国際宇宙開発研究所に提供した際に聞いたことだった。
「ドグマ」なる組織に壊滅させられた旧研究所に代わる日本の研究拠点開設を手伝う中、
研究所のスタッフから守谷は偶然スカイライダーの名を聞いたのだ。
問うと、ネオショッカー首領を倒した後に落下してきた彼は、偶然にもスペースシャトル着水予定地に落ちたため、
国際宇宙開発研究所が一時保護していたのだという。
そして救われた当事者である筑波洋からの申し出もあり、大気圏突入に耐えた改造人間として、
惑星開発用改造人間「スーパー1」に必要なデータを検証する中で、それは判明した。
「空から真下に落ちる」という行為に、空から海中に叩き落とされた際の光景がフラッシュバックする。
大空を舞う戦士としては、致命的な弱点になり得るトラウマだった。
このトラウマを解消する方法として目を付けたのが、あのフライステーションだった。
元々、無重力体験の一環として国際宇宙開発研究所の範疇にある施設だったことも幸いした。
そして信用されないのを覚悟で、スカイライダー最大の理解者・谷源次郎にも協力を仰いだ。
筑波洋を施設に連れ出すには、どうしても谷の力が必要だったのだ。そして谷はあっさりと協力に応じた。
谷もまた、落着したスカイライダーの様子を見た志度博士からトラウマの存在に気付いていたのである。
輿水幸子を呼んだのは、筑波洋の「子供に弱い」という性質を見抜いてのものだったが、
同時に双方にとって仕事のキャリアになればよかろう、という配慮でもあった。
…アイドル広しと言えどスカイダイビングをするような無茶は幸子くらいしかしないので、
人選はある意味必然だった。
全てが計画通り進み、筑波洋は単独ダイビングに向けた教習課程に入っていた。
だが過程の半分を超えても、未だトラウマが治っていないことは見るだけでわかっていた。
そして、覚悟を決め―
「決闘に至る、と。最後の最後でなんとも危ない橋を渡るものだ。
そもそも、あのスゴイ投げ技もらうまで耐え切れる保証からしてないでしょうに…冗談抜きで命を賭けた勝負だった」
「対価が命でもそれで彼が救われたのなら、私がどうこう言うことなどなかったさ。谷氏は怒ったろうがね。
まぁ、正直言えば最後に決闘という形を取ったのは、アブンガーと研究した技の数々を披露したかったのもある。
真意を隠すために、彼は魔神提督という幹部にもスカイキック対策の話以外は一切しなかったからな」
「あれだけ強かったら、施設に強盗とか来ても守谷さんがいれば撃退できそうですね!」
「手加減しないと危険だがね。スカイドリルを人間相手に全力で出せば、彼でなく私の腕であっても内蔵破裂は逃れられまい」
エグい表現ながらも冗談めかして答える守谷の声に、もう遺恨や自嘲の色はなかった。
世界を救うかはともかく、幸子のカワイさが彼と筑波洋を救ったのは確かだと、プロデューサーは感じていた。
あの決闘に確実な終止符を打ったのは、空気をあえて読まなかった幸子の声なのだから。
そしてバンが停車する。
幸子にも、戦いの時が来たのだ。
<R←------I>
スカイターボからスズキ・ハスラーへと姿を戻した愛車を飛ばし、筑波洋は飛行場に到着していた。
そして先んじてジャンプスーツに着替えつつ、段取りを改めて確認する。
たとえ輿水幸子の空撮自体が成功しても、着地点を間違えれば後が面倒なことになる。
飛ぶのは3人。洋自身と輿水幸子、そして彼女のプロデューサーである。
その内、プロデューサーは着地点の誘導目的で飛ぶので、演出上の要はやはり洋と幸子になる。
業務用ハンディカムを手にした洋が先に降り、下から撮影した後に減速して幸子に追い抜かれ、今度は上から撮る。
今の筑波洋なら、真上から見下ろす視点を回避する必要はどこにもない。
そして、肝心の着地点は野外ライブステージ近くの臨時降着場だ。
さすがにステージ上に直接降り立つのは危険が過ぎる、という判断からだった。
それこそステージセットに突き刺さったら大変なことになるだろう。
一通りの確認が終わった頃、見慣れたバンが飛行場に入ってきた。
後部座席から降ろされた守谷が救護スペースに搬送されるのを見送っていると、
着替えを終えた輿水幸子とプロデューサーがやってきた。
洋とプロデューサーはフライステーションでも着たジャンプスーツだが、幸子だけは違う。
もっとも、スタッフジャンパーを上から羽織っているために全容はわからないのだが。
「幸子ちゃん」
「なんですか?こんな直前に」
「オレはもう、大丈夫だから」
飛ぶ前に言わねばならない言葉。
心配をかけ、決闘にも巻き込んだ形になった彼女に、それらが終わったことは伝えたかった。
だが、幸子は怒るでも呆れるでもなく、ただただ自分を貫いていた。
「当然です!ボクのプロデューサーが見込んだ人なんですから。
それにさっきの戦いの最後の言葉、ボクにも『良い手本』になりましたから。
あとは本番でモノにしてみせます」
一瞬だけ面くらうも、すぐに洋は幸子の言葉に笑顔で返した。
ここまで来ているなら、もう他人の心配はいらない。あとはやり切るのみ。
「幸子、洋君…いよいよ本番だ。準備はいいかい!!」
「任せてください!とびきりの映像、撮ってみせますよ!」
プロデューサーの声に、筑波洋は全力で応えた。
仮面ライダーではなく、一人の空撮技術者として。
<R------→I>
高度4,000m、富士山よりも高い超高空。
かつてこの場所を訪れた際は、幸子の心中の8割を恐怖が占めていたが、今は冷静に状況を見て取れる。
足の震えもない。少なくとも、恐怖が理由の震えは。
「…話には聞いてたけど、実際見るとスゴイな」
「フフーン!もっと褒めてもいいんですよ!」
洋の反応に幸子はいつものドヤ顔で応えた。
ジャンパーの下にあったのは、紛れもないステージ衣装そのものだったのである。
空の明るさに合わせた軽快な色合いもあってか、どことなく品の良さを感じる代物であったが、
モチーフが天使なだけに少々露出が目立つ。肩やヘソの露出をしていると、この高高度では普通に寒い。
そんな状況でジャンパーを脱いだ以上、もはやスカイダイビングまで秒読み段階であった。
「よぉし幸子ォ!天使らしく空から会場入りだ!」
「まかせてください!プロデューサーも洋さんも、一緒に飛びますよ!」
「ああ、元気いっぱい行こうぜ!」
直後、あの日に乗ったものより大型のヘリから、3人のスカイダイバーが飛び出していった。
幸子を中心に手を繋いで降りた3人だったが、まずプロデューサーが先行して高度を落としていく。
打ち合わせ通り、落着点への案内を行うためである。彼を追いさえすればステージに立てる。
さらに、洋も幸子より先行して高度を下げた。幸子を下から撮るためだ。
残された幸子は、これまで学んだ全てを動員して空を飛ぶ。
手足を広げ、安定姿勢を保つ。ただダイビングを成功させるだけならこれだけでも十分だ。
しかし、幸子はそこに留まらない。
「天使だから空から舞い降りる」というのは、ライブの演出なのだ。
ただ降りるのではなく自在に飛べなくては。
その境地、そしてそこへ至るヒントは幸運にも目の前にあった。
そう―筑波洋。
あくまでヒントであって、答えまで同じではない。
筑波洋は誰よりも空を愛する者であり、そして仮面ライダーだ。
ならば、輿水幸子はどうなのだ?
「やっぱりそうですね…ボクは…ボクは…!」
眼下には洋の持つカメラが見える。
そして、その下にはプロデューサーの背中。
さらに下に小さく見えるのは、目指すライブ会場。
実地で知るのが一番で、幸子なら自分で気付く可能性のある道。
プロデューサーの言っていたことは嘘ではなかった。
空から見えるこの光景から、幸子は自ら答えを掴み取ったのだから。
「ボクは天使で、ファンが待つアイドルで、そして…大空でも一番カワイイ子に決まってます!!」
瞬間、幸子は―弾けた。
それまでの安定姿勢から、一瞬にして錐揉み回転を加えながらのアクロバット飛行に転じた幸子は、
大きく弧を描きながら筑波洋を追い抜いた。
そこには3週間前、ただ浮くだけで必死になっていた少女の面影はない。
今や輿水幸子は、完全に空を制していた。
幸子の変化を理解した洋もすぐさま彼女の動きに追従する。
ただ落ちるだけではない、完全に手足の動きを空中で御した幸子の姿をカメラからフレームアウトさせない。
天使と戦士は、どこまでも自由に空を舞っていた。
…時間は想像以上に早く来た。パラシュートを開くタイミングが近い。
プロデューサーの姿を見ると落着方向から少しズレていることはわかったが、それすらも今の幸子には些細な問題でしかない。
なにせ見栄えある空中移動の切り札も、筑波洋が見せてくれたのだから。
(たしか…こう!)
空中でキレイに体を丸めて一回転する。
それはまさしく、大回転スカイキックの肝である空中前転だった。
その一発で軌道を修正し、パラシュートを展開する。
迫る大地。そして、足が付く―。
こうして富士の大地に天使が舞い降り、ライブもまた無事成功に終わった。
その成功と、幸子が得たものに比べれば些細なものだったのだろう。
空撮で幸子が大胆にパンチラしていた…なんて事実は。
<R←------I>
「洋さん、まーた日本出るんだって?」
「ああ。仕事が海外からも来てね」
「まったく、幸子ちゃんと一緒で洋さんも売れっ子なんだからもー!」
沼の勤める喫茶店に、洋は顔を出していた。
なんだかんだ言って、昔馴染みがやっている店というのは入りやすいものである。
谷モーターショップの方は別口―具体的には「仮面ライダーの後輩」―の知人がいるためか、
もっぱら洋は沼を頼ることの方が多くなっていた。
…あのライブ空撮を成功させてから、半年後。
パンチラというかパンモロの件は別として、その凄まじいレベルの空撮映像は瞬く間に話題となり、
「あれだけの空撮ができる新進気鋭カメラマン」として、筑波洋の元には
スカイダイビング空撮の仕事がバンバン飛んで来ている。
元々のハンググライダー空撮の方も評価が上がり、そちらの仕事も増えた。
これも自らのために尽力した守谷氏や、仕事を快く任せてくれたプロデューサー氏、
そして何より輿水幸子の力の賜物である。
もっとも、フライステーションが盛況な守谷氏-身体のダメージも癒え壮健の身だ-はともかく、
肝心の輿水幸子とはライブ当日後の打ち上げ以降会ったことはない。
しかし、洋は心配していなかった。
「せっかくだからこれ持ってきなって」
沼の手には、いつか見たタイトルの雑誌の最新号があった。
その表紙に見えるのは、やはり輿水幸子のドヤ顔。
「はは、あの子も元気でやってるみたいだな」
雑誌に書かれた文言に苦笑しながらも、筑波洋は安心していた。
彼女もまた順風満帆なのだ。それがどんな道だろうと、道を進んでいるには違いない。
…願わくば、自分のようなトラウマが彼女に起きないことを。
<R------→I>
「ぷ、プロデューサーさん!なんで毎回こうなるんですか!」
洋の願いもむなしく、うっかりするとトラウマになりかねないような場所に幸子はいた。
といっても、ここは空を飛ぶヘリの中ではない。
…サファリパークの園内である。
「いやー、だって『ボクは妖精だから猛獣もトリコにしないと』だろ?
そりゃあお姫様の要望に応えて、サファリバスから降りるくらいするってもんだよ。
それに空を制して、泳げないのも一応克服したんだから、もう陸も制覇して三界の覇者目指そうかと」
「も、もう少しマイルドにしてもいいんですよ!ボクはカワイイので!!」
問答をしながらも、幸子とプロデューサーは全力疾走している。
なにせ後ろには猛獣の王たるライオンが迫っているのだ。
サファリバスに戻るまでは全く安心できない。
「幸子ォ!飛べ!」
先にサファリバスの後部ドアを開いたプロデューサーが叫ぶ。
ライオンとの距離が縮む中、幸子も叫ぶ。扉まで飛ぶために。
「アイ・キャン・フラァァァイ!!」
…一風変わった体当たりなライブアイドル道は、まだ当面続くだろう。
だが幸子はプロデューサーと共にどこまでも進んでいく。
空を制した日に見つけた、「カワイイは世界を救う」という真理を目指して。
[END]
これにて終了となります。お目汚し失礼いたしました。
…というより想定をはるかに超える長期化・長期時間空きで本当に申し訳ありませんでした。すんません!orz
元々は「幸子のスカイダイビングネタにスカイライダーの補完」程度だったのですが、
書いてる内に「戦闘シーン一切皆無でライマスと言って良いのコレ?」という疑問が出て、
私事で忙しくなったタイミングの間にオリジナルである守谷氏の登場と相成ったワケです。
最初の構成が甘いのも色々問題だったかと…いやはや、ご迷惑おかけしました。でも終わったよ…!
今回も少しだけ本編内小ネタに触れておこうかと。もちろんネタバレなので注意。
・フライ・ステーション
今回の舞台となった施設「フライ・ステーション」ですが、これは実在する設備で構造も作中通りのものです。
2016年度末の日本進出予定が越谷というあたりも本当らしい(あくまで予定ですけど)ので、
場所を「新越谷駅からバイク移動なら楽に行ける距離にあるモール併設」としています。
当たり前ですがバックにネオショッカー残党とか国際宇宙開発研究所がいたりするのは創作です。
・空より落ちるスカイライダー
スカイライダーは最終回で「大首領を大気圏外まで輸送して8人ライダー全員消息不明」という状態で終わってしまいます。
後続作品で無事登場した理由は「宇宙で人工衛星に取りついて生存、同衛星を基地および修復部品(!)として用いて
地球へ帰還した」とされていますが、これだとライダーマン生存に疑問符がつくこともあり今回却下しました。
代わりに私が答えとして出したのが冒頭および守谷氏の語った部分で、「最終話で洋の母のことを一文字が気に掛けている」
「スカイとスーパー1の間の技術的なつながり」という部分を意識して創作しました。
なお、真下に落ちる行為をトラウマに選んだのは、『ディケイド完結編』でFARくらって撃墜されたシーンがまさにそうだから。
・守谷氏関連
最終決戦でとかく技と装備を見せた彼ですが、戦車は劇場版でアルマジーグが乗っていたもの。
槍は黄金ジャガー、爆弾ゴキブリはもちろんゴキブリジン由来です。
アブンガースカイキックとスカイライダーのエネルギー上限狙いは当然アブンガーから。
原作では「10万カロリー」とか出てますが、それだと超ヘルシー野郎ということになる
(ご飯を茶碗半分くらいで100キロカロリー=10万カロリー)ので、「キロ」が抜けたとして進行させました。
国際宇宙開発研究所との接点関係は、劇場版のネオショッカー基地が富士山麓、
「スーパー1」終盤で再建された研究所が富士の樹海にあることから調整した形です。
・果てしなき大空に誓う
輿水幸子空を飛ぶ、はもちろん[自称・天使]輿水幸子の特訓前後、および劇場48話「イン・ザ・スカイ」から。
共演者にあやめ殿の名があるのはこのため。かつては幸子の定番イメージだったコレも、今となっては懐かしい…。
実際にはいきなり単独ダイビングするのは無理で、単独に至るには8回分の教習が必要、ということで今回の流れとなりました。
「飛行中に着替え」「ライブステージに直に降り立つ」のも無理なので、そこら辺はちょっと調整しました。
ただし水着にパラシュートで飛ぶような方がいる以上、「ステージ衣装でそのままダイビング」は敢行。
・堂々と姿晒した大首領
今回、幸子のプロデューサーが割とあっさりネオショッカーの情報に行き着いてますが、
それは全部スカイライダー最終回で大首領が都心にあの大怪獣姿を堂々と晒して、
ライダーに最期通告出したり宇宙まで輸送されたせいです。
あんなクソ目立つ出現の仕方をしている以上、報道メディアに残存データが残らないワケがないかと…。
・次週はこれだ!
幸子と会った時に「よぉ!」とか呼びかける洋さんですが、これはスカイライダー次週予告から。
次週予告で筑波洋自らが語りかけてくるのはかなり印象的です。
…後半はスーアクと食事中のところとかフリーダムな状況でも語りかけてくるのでちょっとカオスでしたけど。
…ということで、今回はこれまでになります。
お付き合いいただき本当にありがとうございました。
それでは、また大空の片隅で。
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