魔王と側近の世界征服計画 (14)
・シンデレラガールズSS
・神崎蘭子とプロデューサーの十年後の話
・三人称地の文あり
よろしくお願いします。
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神崎蘭子、24歳。
職業、アーティスト。
14歳でアイドルデビューするや否やカリスマ的存在として注目を浴びる。
二代目『シンデレラガール』であり、その人気については今さら語るものでもないだろう。
18歳を期にアイドル部門からアーティスト部門へと籍を移し、以降はデザイナー、作詞家、モデルと活躍の場を広げて行った。
一方でライブ活動は現在も続けており、独自の世界観を表現したライブパフォーマンスには熱狂的なファンが多い。
年齢を重ねるにつれて身体的にも成長し(本人曰く、それまでインドア派だったがレッスンによって運動する機会ができたからとのこと)、『可愛さ』『カリスマ性』に加え、『美しさ』『気品』を得て、ライブ姿はまさに本人が目指した『魔王』たる風格を備えていた。
因みに既婚者である。
22歳で結婚し、相手はアイドル時代のプロデューサー。
現役のアイドルプロデューサーと元担当アイドルの結婚ということで騒動になるかと思いきや、日高舞などの前例があったためか、むしろ二人の結婚はファンからも大いに祝福された。
ちなみにプロデューサーは、神崎蘭子ファンクラブ『魔王軍』構成員からは、『側近』の肩書きで呼ばれている。
※ ※ ※ ※
「ただいま」
プロデューサーは根城へと帰還する。
都内に借りたマンションの一室は蘭子とプロデューサーが生活を営むには十分な広さであり、そもそも多忙な二人は家にいることが少ない。
ゆとりあるシステムキッチンを覗けば、エプロン姿の蘭子が夕食の準備をしている。
「お帰りなさい、プロ……じゃない、あなた」
「どうした、その言い間違えするのも久し振りだな」
蘭子はアイドル部門を離れた後も、さらには結婚してからもプロデューサーのことを『プロデューサー』と呼ぶ習慣がしばらく抜けなかった。
しかしそれは時が解決していった。
また、プロデューサーと結婚後は、難解な言葉を介さなくても会話ができるようになっていった。
今ではライブや仕事での『カッコいいパフォーマンス』として使い分けている。
このように、人の世との折り合いをつけていった蘭子であるが、今現在は少女に戻ったように、少し頬を染めて微笑んでいる。
可憐なアイドルの面影は、今も残っている。
「だって今日は、私達にとって思い出の日だから、つい……」
「そうだな。この日に仕事で申し訳ない」
「いいの。私も午前は撮影があったし、あなたが仕事ばかりなのは昔から」
「返す言葉もないよ」
プロデューサーが苦笑していると、鼻腔に肉の焼ける芳ばしい匂いが届く。
「美味しそうだな、ハンバーグ」
「もちろん!」
蘭子は調理をしながら、アイドル時代からよく見せていたドヤ顔を相手に向ける。
「あの日から……シンデレラガールに選ばれた年から、毎年作ってるもん」
初めはほんのお礼のつもりだった。
神崎蘭子を見つけてくれた人へ、感謝を伝えるために選んだ行動。
凝り性の蘭子はみく、李衣菜、美波に意見をもらいながら改良を重ねた。
そして、シンデレラガールの称号を得た日に手作りハンバーグを振る舞うのが毎年恒例になっていた。
それは十年という節目の年でも同じである。
どんな高級店だって、二人で作り上げたこの味には敵わない。
※ ※ ※ ※
「そうか、蘭子がシンデレラガールになってからもう十年か」
夕食を食べ終わり、椅子の背もたれに寄りかかったプロデューサーはポツリと呟く。
蘭子も回想をするように、部屋の中を見渡す。
飾ってあるのは自身のCDやDVD、『シンデレラガール』受賞トロフィー、新婚旅行での記念写真などなど。
どれも二人を形作る大切な思い出だ。
「十年かぁ……。受賞式でのライブのときも『アイドル楽しいっ!』って思ったけど、やっぱり私、今が一番楽しい。もっと冒険がしたい。新しいことにもっと挑戦したい」
そう言いながら見せた純粋な笑みは、昔からの彼女の武器だ。
それを今はただ一人だけに向けられていることに、プロデューサーはむず痒くも、誇らしくなった。
「でも、私が挑戦を続けられているのは、あなたのおかげ」
「そう言ってもらえると、俺も嬉しいよ。ありがとう」
蘭子の緋色の瞳は、人生の伴侶を真っ直ぐに捉えている。
「私は私でいいんだって、教えてくれたから。だから私は一歩踏み出せた。自分の夢を叶えることができた」
他人を怖れ、自分の殻に閉じこもっていた少女は、もうそこにはいない。
今はもう、天使あるいは堕天使の翼で、どこまでも飛んでいける。
「あなたが魔法をかけてくれて、トップアイドルになれた。あなたの夢も叶えることができた」
「蘭子は花嫁になるって夢も叶ったしな」
「そ、それは……」
「アイドルの仕事で、花嫁衣装の撮影のときは可愛かったなー。恥ずかしい台詞を言うのに苦労してたっけ」
「い、今は言えるから!」
茶化さないでよ、と蘭子は顔を背けてしまった。機嫌を損ねてしまったらしい。
「ごめんごめん。でも、そういう苦労を一つ一つ重ねて、トップアイドルになったんだ。日本全国、蘭子を知らない人はいないくらいに」
「『ククク……覚醒せし魔王は世界を征服した!』って感じだね」
「じゃあ今度は文字通り、世界進出と行きますか」
「そうだね、もっとたくさんの人に私を知ってもらいたいし、笑顔になってほしい。でも世界は広いからね。私もまだまだ……」
蘭子は両手を組み、その指はもぞもぞとしている。
「蘭子、どうかしたか?」
これは蘭子が言い淀んでいるときの癖だ。
昔から変わらない。
プロデューサーの問いかけに、蘭子は意を決したようにガタンと立ち上がる。
足を肩幅に開き、右手を額にかざす。
幼き日から研究し続けてきた『カッコいいポーズ』だ
「人間界は広大であり、我が覇道は険しい棘の道!」
続けて、ビシッとプロデューサーを指差す。
「故に、我らには更なる『力』が必要!」
勢いよく右腕を振り上げる!
「例えばそう、求めたるは新たなる倦属! 魂を共鳴させ闇の力を増大させれば、我らはさらなる高みへと舞い上がれるだろう!」
ナァーハッハッハ、と芝居がかった高笑いをしながら踵を返し、蘭子はその場を去ろうとする。
「蘭子っ!」
プロデューサーは蘭子を後ろから抱き締める。
「ぴゃ!? ちょ、ちょっと……!」
予定と違ったのか狼狽する蘭子に、プロデューサーは耳元で優しく声をかける。
「蘭子なりに、頑張って伝えようとしてくれたんだよな。ありがとう」
「……うん」
近すぎる距離。
互いの体温と心音がひとつに混ざっていく。
「俺は『瞳』を持つ者なんだから、そのくらいわかるぞ」
「えと……その……」
蘭子も意味もなく難解な言い回しをしているのではない。
齟齬をきたすかもしれないリスクを踏んだ上で、恥ずかしくてなかなか言えないことを伝えるための、代替的手段。
「蘭子、今のはさ……『子供が欲しい』って意味?」
囁きが鼓膜を震わせ、耳の先が痺れる感覚。
蘭子は一瞬で顔を真っ赤にして、小さく頷く。
「あ、あぅ……そろそろ、かなって、思って」
「そっか……。じゃあ俺も、挑戦、しなくちゃな」
よっ、と声で気合いを入れると、蘭子を抱え上げた。
俗に言う『お姫様だっこ』である。
「ひゃ!?」
「参りましょうか、魔王様?」
「い、今から!? す、崇高なる儀式のためには、まず身を清める必要が……」
「じゃあ、まずは一緒にお風呂入ろうか」
蘭子は腕の中で、無言で頷く。
とてもじゃないが顔を合わせられない。
しかし、何か思い付いたように顔を上げ、相手を見つめる。
かつて練習では上手く言えなかった。
だけどあの時とは違う。
冒険をして、経験をして、沢山のものを得た。
これは挑戦の結果だと、身に付けた自信と妖艶さを以て。
「ならば……この身が現世より失われないようもっと……きつく私を抱き締めて……?」
魔王とその側近は身を寄せ合い、新たなる力を得るべく、浄化の地へと赴くのであった。
おわり
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