提督「艦娘殺処分計画!?」(468)
ザァアアアアアアア… ビュォォオオオオオオオ…
大本営海軍部 とある一室
海相「…今夜の嵐は格別な強さですな」
元帥「…これでは海も大荒れだろうな」
海相「…やはり陸に上がっても、どうにも潮っ気が抜けませんか?」
元帥「互いにな…」
海相「…」
元帥「…」
海相「いよいよ最終決戦も近づいております」
元帥「ああ。私もその準備にもっぱら忙しい」
海相「国内雇用も、国民の生活水準も回復しました。もう戦の幕を引くときでしょう」
元帥「そうだな」
海相「…」
元帥「…」
海相「…例の件、やはり処分という形での結末をお考えですか?」
元帥「……仕方なかろう。戦いが終われば、消えてもらわねばならない存在なのだよ。あれらは…始めから、な」
元帥「…やはり気が乗らないかな?」
海相「…理屈は分かります。そうした方が天下国家百年の計にとって良策だとも…」
海相「…ただ、私は、情において………どうにも…」
元帥「君は軍人であると同時にすぐれた政治家だと思っている」
海相「…」
元帥「迷いは分かる。だが、目的を見失っては元も子もない」
元帥「…この戦争の目的は?我々は何のために存在している?」
海相「…国民の生命・財産を守るためです」
元帥「そうだ。迷うことは…ない。迷いが生じたらこの目的に立ち返ればいい」
海相「…そうですな」
元帥「全ての責任は私が取る。君にも、財界にも…そして陛下にも類は及ばせん。君らはただ、この秘密を一生胸にしまい、墓場にまで持っていってくれればいい…それだけでいい」
海相「…分かりました。……もし陛下がお知りになれば、激怒なさるでしょうな」
元帥「…それほど自分のしたことが…そしてこれからしようとしていることが罪深いものだという自覚は私にもある。海相、我々は貝にならねばならんのだ」
海相「ええ……。お任せください、私の目の黒い限り、財界と政界の連中の口は開かせません。あとは、元帥閣下の幕引きをお願いするだけです…!」
元帥「ああ…!」
翌日 海の上
翔鶴「風向き北西4ノット。針路0-1-0へ!」
瑞鶴「戦闘機隊、発艦!」シュバッ!!
ゴォォォォォォォォ…
天龍「おお、見事なもんじゃねえか」
伊勢「台風一過の空に日の丸が映えるねぇ」
榛名「さすがです!」
瑞鶴「ふふん、当然よ。私の手にかかれば、短時間での発艦なんて楽勝よ!」
天龍「だってさ。提督?」
提督「瑞鶴、慢心は禁物だぞ」チャプチャプ
瑞鶴「…ってなんで提督がここにいるのよ!」
提督「陸の執務室で座ってるだけじゃなく、こうして自分の艦娘の練度を自分の目で確認するのも大事だと思ってさ」チャプチャプ
伊勢「まあ言ってることは間違ってないけどね…」
提督「深海棲艦との戦争が始まってもう数年。当初は苦しかった戦況は、いまや完全に俺たちの流れだ。敵戦力はここ最近で質・量ともに落ち込み、かつての勢いはとうに失われてる」
提督「それもこれもお前たちが頑張ってくれたからだ。だからこそ俺も非武装のボートで安心して海に出られる」
提督「それにせっかくの演習だ。最終決戦も近いだろうし、たまには実地で監督してみたい」
翔鶴「だからってバス釣り用の小さなモーターボートで付いてこなくても…」
瑞鶴「もし今の私たちが鋼鉄時代の身体だったら、そんなボートすぐにひっくり返しちゃいそうね」
榛名「ははは…」
翔鶴「あ……水平線上に艦影1、発見!」
天龍「何だって?」
伊勢「…ほんとだ。すごーく遠くに、艦影が見えるね。あれは民間船じゃないよ」
翔鶴「提督、この近くで訓練を行っている戦隊は他にいますか?」
提督「いや、我が横須賀鎮守府にはいないな。他の鎮守府か?…それとも敵か?」
提督「天龍、発火で誰何信号を送ってみてくれ」
天龍「うっしゃ!」カシャ カシャ
天龍「…返答はねぇな」
提督「榛名、無電で誰何及び警告だ。『当海域は横須賀鎮守府の訓練海域である。直ちに針路を変更せよ』と送れ」
榛名「はい!」トンツー
伊勢「…返答なし、だね」
提督「…瑞鶴、彩雲と戦闘機小隊を出してくれ。艦影の所属を確かめる」
瑞鶴「分かったわ!」シュバッ
提督「……よし、同時に警告射撃をしよう。伊勢、あの艦影の目前に主砲弾二発を撃ち込んでくれ」
伊勢「は、はいっ!」
提督「間違っても直撃さすなよ?」
伊勢「…もう!そんなこと言われたら怖いじゃない!」
榛名「……榛名が替わりましょうか?」
伊勢「だ、大丈夫だって!第一砲塔、主砲弾装填よし!指向よし、仰角よーし…」
提督「撃ち方はじめ」
伊勢「射ぇ!」ズドォォォォンン!!
ザバーン…
提督「おお、狙ったところにいったじゃないか。偉いぞ」ヨシヨシ
伊勢「え、えへへ…」
榛名「むぅ…」プクー
天龍「…艦影に動きなし、だ」
翔鶴「というか、さっきからあの艦影まったく動いてない気がするんですが…」
榛名「もしかして、漂流中…とか?」
提督「気になるな。だが敵の罠かもしれん。皆、気を抜かず…」
瑞鶴「彩雲より入電!『艦影は味方艦娘なり!艦種は戦艦!大破状態にて漂流中!』」
提督「何っ!?」
天龍「艦娘だったのか…!!」
提督「こうしちゃいられない!演習中止!あの艦娘を保護するぞ!俺に続け!」ブォォオオオンン
伊勢「え、ちょっと待って!」
天龍「提督を独りで行かせるな!俺たちも行くぞ!敵、とくに敵機と敵潜に注意!!」
数時間後 横須賀鎮守府
提督「例の艦娘の様子はどうだい?」
工作妖精「昏睡状態だよ。身体的にかなり弱ってるね。そして炎天下と疲労で脱水を起こしかけてたよ」
提督「くっ…」
工作妖精「だからすぐに補液に入ったよ。パラプラス点滴を二本入れてる」
工作妖精「でも血液とCRPは問題なさそう。鼻注も必要なし。あとは経口で栄養が取れるまで、しばらく安静が必要なだけさ」
提督「そうか…。それにしても、超弩級戦艦ともあろう彼女がいったいどうしてあんな海域で漂流を…」
工作妖精「…それがね。どうも燃料が十分に入ってなかったっぽいの。恐らく出撃したときは半分くらいしかもらってなかったんじゃないかな…」
提督「燃料が半分だけ…!?」
工作妖精「うん…。弾薬の残りも少なかったみたいだし…。あれじゃ、わざと大破させるつもりで出撃させたとしか思えないよ…」
工作妖精「ひどいよ…艦娘だって、生体は普通の人間とまったくおんなじなのにさ…」
提督「…」
提督「………」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
提督「おい…おい!!!」
大和「ぅ……ここ…は…?」
提督「しっかりしろ!気を確かに持つんだ!」
大和「……重い…痛い…寒い…」ガチガチ
天龍「こりゃひでえ…波浪と敵の銃爆撃に晒されて、ボロボロじゃねえか…」
提督「くそ、こんなガタガタな状態になっちまって…!」
榛名「た、確か隣の駿河鎮守府所属の大和型戦艦…の大和さん、ですね…!!」
伊勢「あわわ…」
提督「おい、大和!!構わないから武装を捨てるんだ!!」
大和「…」フルフル
提督「…?」
大和「ダメです…陛下から預かった艤装を捨てたら…提督に………お仕置きされる…」ガタガタガタッ
提督「っ…!!??」
瑞鶴「お仕置き…!??」
提督「…バカを言うな!お前の艤装は替えが効くが、お前自身の替えはいないんだぞ!!!!!」
大和「…いいん…ですか…?」
提督「俺が責任を取ってやる!大丈夫だ!」
大和「…」ガシャ ザバン…
大和「…」フラッ
提督「おい!しっかりしろ!」
提督「みんな聞け!!これより大和を鎮守府まで回航する!翔鶴に瑞鶴!大和を曳航だ!曳航索、用意!」
翔鶴「はい!」
瑞鶴「16万馬力の底力、見せてあげるわ!」
提督「天龍、鎮守府に打電だ!大和の曳航と手当の準備の報せを!大本営にも現状を打電しろ!!」
天龍「おう!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
提督「…どうにも解せない。駿河の提督は何を考えてるんだ?」
大淀「……提督のような方には、想像が及ばないことかもしれませんね」
提督「え…?」
大淀「その…艦娘をわざと大破させて、そのあられもない姿を楽しむ嗜虐的な司令官が、どうも少なからず出現しているみたいです…」
提督「何だと…?」
提督「ふざけやがって!戦争はゲームじゃねえんだぞ!!!」バァン!
大淀「そうですね。おっしゃる通りです。私も腸が煮えくり返る思いです」
提督「だよなぁ!」
大淀「ですが…そうしたモラルのない提督が出現するのも、状況としては致し方ないのかもしれません…」
提督「何…?」
大淀「私たち艦娘は…身体は普通の少女ですし…」
大淀「加えて最近の優勢な戦況では、もはや海戦はゲーム感覚レベルのものになっているのも事実です」
大淀「そんな状況で片道燃料で近海に出撃させたところで、艦娘が沈められる心配はほぼありませんから…」
提督「だ、だからって…」
大淀「…」
提督「大淀。聞いていいか」
大淀「はい」
提督「お前たちから見て、俺は信頼に足る司令官か?」
大淀「信頼できない司令官と、艦娘がこうして親しくお話するとお思いですか?」
提督「…!」
プルルッ プルルッ
大淀「あ、内線ですね。出ます」
大淀「提督、門衛の憲兵さんからです。駿河鎮守府の提督が、『俺の大和を返せ』と押しかけて来てるそうです」
提督「…!」
提督「……どの面下げて…よし、見てろ…!!」プチッ
駿河提督「大和は俺の鎮守府の艦娘だ!それを横取りしやがって!」
憲兵「うるさい。大人しく待ってろ。人の鎮守府の門前で騒がないでもらおうか」
駿河提督「何だと!?貴様、陸軍の分際で海軍提督に偉そうな口を聞くな!」
憲兵「…」
駿河提督「まったく、台風さえ来なければ、わざと出撃大破させたあいつの痴態を楽しむことが出来たのに…」
駿河提督「海上のうねりが取れてやっと捜索に入れるかと思ったら、横須賀なんぞに横取りされて…」ブツブツ
憲兵「はい、こちら門衛」
憲兵「うん…うん。いいんだな?分かりました。了解」
憲兵「おいあんた」
駿河提督「なんだ!さっさと大和を返せ!」
憲兵「横鎮司令官からの伝言だ。お前に大和を返す意思はない」
駿河提督「何だと!?ふざけるな!」
憲兵「それともう一つ伝言がある」
駿河提督「あ!?」
憲兵「お前を海軍刑法第18条の3、艦娘の扱い義務違反疑いにより拘束する」ニヤリ
駿河提督「」
医務室
コンコンコン
提督「入るぞ」
大和「はい…どうぞ」ムクリ
提督「お、おい無理するな。横になったままでいい」
大和「で、でも…」
提督「構わない」
大和「あ…ありがとうございます…」
提督「もうだいぶいいみたいだな。どうだ?」
大和「…私は、駿河鎮守府所属の大和型戦艦一番艦の大和と申します」
提督「ああ。知っている」
大和「まずは…他の鎮守府であるにもかかわらず、大和を曳航修理してくださって、本当にありがとうございます…」
提督「礼には及ばない。当然のことだよ。それで…体調は?」
大和「…身体は良くなりましたが…気は晴れません」
提督「どうしてだ?」
大和「大和、身体が治ったら…また駿河鎮守府に戻らなくちゃいけません…」
提督「…駿河に戻るのが…嫌なんだな?」
大和「……っ」ガクガクッ
大和「大和っ…艦娘に生まれ変われて、今度こそみんなのために頑張ろうって…!!」
大和「なのに…」
提督「うん…」
大和「なのに…まるで前世の頃みたいに、なかなか戦いにも出してもらえず、それどころか…提督から…色々と…さ、触られたり…卑猥な言葉をかけられたり……」ガクガクッ
提督「…いやな目に遭わされてきたわけだな?」
大和「そして…今回みたいに少ない燃料と弾薬で出撃させられたり…!!!」
提督「うん……辛かったな…」
大和「大和は、…いずれ提督の慰み者にされてしまうかもしれません…!!!!!」ガクガクッ
提督「もういい…もういいんだ…」
大和「せっかく冷たい海の底から生まれ変われたのに!今度こそはみんなのために平和な世界を勝ち取ろうって思ったのに…!!!」
大和「うううううっ…!!!」グスッ
提督「もういいんだよ…大和…」
提督「……駿河に戻る必要はなくなった。お前はこれからこの横須賀鎮守府の一員だ」
大和「え…??」
提督「駿河のクソ提督は海軍法廷行きになった。そしてお前は、我が横須賀鎮守府に転属となった」
提督「もちろん、軍令部の辞令ももらってる」
大和「そ、それじゃ…」
提督「まずは横鎮の提督として、同じ海軍将校の愚行を詫びたい。本当に済まなかった!!」ザッ
大和「あ、頭を上げてください!!そんな、大和なんかに…」
提督「…会ったばかりだというのに、俺の事は信頼してくれなんて言えるわけはない」
提督「だが、それでも信頼してほしい。これでも帝都防衛を任された鎮守府の提督だ。俺は自分の艦娘に非道な扱いは絶対にしない」
提督「だから…転属辞令、受け取ってくれないか?」
提督「俺は、前世でもっとも悲惨な運命を背負わされて沈められた大和にこそ、一緒に頑張ってほしいんだ!!」
提督「連合艦隊の象徴である大和にこそ…来たるべき決戦ではその威力をぞんぶんに発揮してほしいと思ってる…!」
大和「…!!!!!」
大和「はい…!もちろん…喜んで…!!」グスッ
提督「ありがとう…!!」ホッ
大和「ありがとうございます…!ああ、これで大和の魂はまた救われました…!」ダキッ
提督「お、おい…」ドギマギ
大和「…」ギュウウウ
提督「お、落ち着け。まずはベッドに戻ろうか」
大和「提督は…大和がお嫌いですか?」
提督「そ、そんなわけあるか!」
提督「お前みたいな美人にいきなり抱き着かれて、混乱しただけだ…」
大和「…」カァア
提督「…」カァア
コンコン ガチャ
武蔵「まったく、見せつけてくれるものだな」ヤレヤレ
大和「武蔵…!?」
提督「そうだ、言い忘れてたが武蔵も横鎮所属の艦娘だ。今は俺の秘書艦をしてもらってる」
提督「姉妹として会うのは久しぶりだろう?」
大和「ええ…!!もう70数年ぶりになります…!!!」
提督「」
武蔵「姉さん…再会できて本当に嬉しいよ…!!!」ダキッ
大和「武蔵っ…!!!ああ、貴女とこうして出会えるなんて…!!!」ダキッ
武蔵「温かい…今の姉さんの身体は、こんなに柔らかくて優しいんだな…」
大和「武蔵こそ…!!!」
武蔵「提督よ、心の底から礼を言う。…私のたった一人の姉さんを助けてくれて、ありがとう」
提督「よかったな。これからは姉妹一緒に過ごせるぞ」
大和「嬉しい…大和、本当に嬉しいです…!!」
提督「さあ、今はしっかり身体を休めるんだ。まずはそこからだ!」
大和「はい!」
大淀「お疲れ様です。大和さんはどうでしたか?」
提督「ああ。もう大丈夫だ。大丈夫だが俺の腹の虫が大丈夫じゃない」
提督「ったく、艦娘をホステスか何かみてぇに私物化しやがって!!それで艦娘の心を破壊しちまいやがって…!!!軍人の風上にも置けない非国民め!!」
提督「大本営はこの事実を認識してるのか?こうなったら俺が直訴して軍令部に調査を…」
大淀「提督、その大本営から通達です」スッ
提督「通達?」
大淀「先ほど電送されてきたものです。読み上げます」
『 海軍元帥告示 第3092983号
戦時再編成ニヨリ各鎮守府ヲ以下ノ五鎮守府ニ統合セントス
詳細ハ別紙ノ通リトス
・横須賀鎮守府
・舞鶴鎮守府
・呉鎮守府
・佐世保鎮守府
・那覇鎮守府
以上 』
大淀「…これで問題は解決ですね」ニコリ
提督「……そうだな。舞鶴・呉・佐世保・那覇の提督は俺の旧知の信頼できる連中だ。心配はない…」
提督「それより、この戦時再編成、これは間違いなく大本営が最終決戦に備えてるってことだぞ!」
大淀「…そうですね。各地の鎮守府を集約して統合する…」
大淀「間違いなく最終決戦の予感ですね」
提督「ああ。大本営さまさまだ!これで粗悪な提督どもを一掃し、効率よく敵と戦えるってもんだ」
武蔵「いよいよ深海棲艦どもと決着をつけられるのか…!!楽しみだな…!!!」
提督(…そして戦争が終われば、お前たちも普通の少女として生きるんだ!)
その頃 南方・パラオ
パラオ提督「…以上の理由で、当鎮守府は解散する」
パラオ提督「秘書艦のお前には、本当に世話になった」
木曾「…そんな。俺はこれからどうすればいいんだよ」
パラオ提督「お前には新たな辞令が出ている。内地の横須賀鎮守府に栄転だ」
木曾「…何だよそれ。何が栄転だよ。俺はずっとこの鎮守府にいたいんだよ…」
パラオ提督「…」
木曾「…お前はどうなるんだよ」
パラオ提督「俺も内地に栄転だ。本土に帰る」
木曾「それって、俺と同じ鎮守府に…」
パラオ提督「…違う。俺は提督職から外された。くそっ…あの元帥め…!!!!!」
木曾「っ!!!!」
パラオ提督「お前とは会えなくなる…だがいるのは同じ空の下だ。寂しいことはない」
木曾「そんなふざけた話があるかよ!!練度だって頑張って上げてきたのに!!ケッコンするって約束したじゃないか!!」
パラオ提督「…」
木曾「…俺は艦だ。空を飛んでお前のところに行くことなんか、出来るわけないじゃないか…」
パラオ提督「っ…」
木曾「お前は、俺を捨てるのかよ」
パラオ提督「そ、それは違う…。戦争が終われば、また…」
木曾「栄転して出世する代わりにこの鎮守府と俺を捨てるんだろ!?」
パラオ提督「違う…」
木曾「どこが違うんだよ!!どうせお前は、最初から俺の事なんか」
パラオ提督「これは軍命だっ!!!!!いった俺にどうしろと言うんだ!?」
木曾「…」
パラオ提督「…3日後にはここを引き払う。お前は皆を率いて横須賀へ向かえ。燃料の都合と帰還の詳細については追って指示を出す。俺は、零式輸送機で本土に帰る」
木曾「…」
パラオ提督「…お前も栄えある最終決戦に参加するんだ。しっかり戦ってこい」
木曾「…他の奴の下でかよ」
パラオ提督「……これをお前にやる。俺だと思って持ってろ」スッ
木曾「…!!!!」ジャラ
パラオ提督「…さよならだ。終戦まで、達者でいろよ」
パラオ提督「……俺みたいな男をこれまで支えてくれて、ありがとう」
バタン
木曾「…」ヘタッ
木曾「うぅっ…くっ…」グスッ
大本営海軍部
元帥「再編は順調に進んでいるか?」
副官「は。元帥閣下が指定された五鎮守府に、各戦線から艦娘たちが続々集結しています」
元帥「…この戦争のフィナーレの役者と舞台は揃ったわけだな」
副官「ええ。あとは準備ができしだい、作戦を発動していただくだけです」
元帥「…“特殊物資”は用意できているな?」
副官「艦政本部がすべて手はず通りに整えてくれています。あとは役者の手に渡るだけです」
元帥「よし。…すべて問題なし、だ」
元帥「すべては、終戦後の日本のために…!!」
副官「はい…!!」ザッ!
また後日
ちょっとだけ投下
そして2週間後 横須賀鎮守府 食堂
武蔵「総員、司令官に対し!敬礼っ!」
ザッ!
提督「晩飯前に皆に集まってもらったのは他でもない」
提督「ついに先ほど、大本営海軍部は最終決戦を決意し、作戦要綱を通達してきた!」
ドヨッ オオオ…
提督「我々日本海軍連合艦隊は、来たるX月X日、深海棲艦に対し殲滅作戦を実行する!」
提督「作戦名は“決号作戦”だ!!…では概要を説明する!」
提督「本作戦に参加する戦力は我が横須賀鎮守府を筆頭に、舞鶴、呉、佐世保、那覇の各鎮守府の艦娘艦隊だ」
提督「敵の残存棲地は、小笠原近くの海域であると予想されている」
提督「まずは各鎮守府から高速駆逐艦による小規模な陽動艦隊を編成、敵を刺激する」
提督「我が鎮守府からは…そうだな、島風型・吹雪型の皆にこの役目を任せたい」
島風「おうっ!!!!」ピョコピョコ
白雪「やったね、吹雪ちゃん!」
吹雪「はいっ!特型駆逐艦の真価を発揮してみせましょう!」
提督「敵を我が近海に誘い出したところで、展開する友軍艦隊と俺たちとで、敵を包囲…」
提督「完膚なきまでこれを殲滅する」
提督「その初めの段階でまず活躍してもらいたのが空母だ」
提督「鍛え抜かれた航空戦力で、存分に敵を叩いてもらいたい」
翔鶴「はい…!」
瑞鶴「アウトレンジで…決めたいわね!」
加賀「…七面鳥」ボソッ
赤城「ちょっと、加賀さんったら…」
ギャーギャー
提督「ええい静まれ!まだ話は終わってないぞ!」
金剛「そうデース!で、最終的には私たち戦艦が敵をドカーンと残らず吹っ飛ばすんデスねー!?」
足柄「ちょっと!私たち重巡を忘れてもらっちゃ困るわよ!」
天龍「俺たち軽巡主体の水雷戦隊がこの海戦の要に決まってるじゃねえか!!」
ワーワー ギャーギャー
提督「うるせえなぁもう!ああそうだよ結局は砲雷爆混合で敵をぶっ潰すんだよ!」
提督「いいか!?よーく聞け!」
提督「皆、艦種は違うが、同じ艦隊の一員だ。艦種が違うということは、みなそれぞれ出来ること、得意なことが違うということだ」
シーン…
提督「皆が自分の出来ることをしっかり認識し、自分の役割と今すべきことを実行してこそ、艦隊の強さは発揮されるんだ。自分に与えられた責任の重さを今こそ実感してほしい」
提督「…そして、自分に与えられた生命と魂の重さも、だ」
提督「お前たちには釈迦に説法かも知れないが…一旦海に出れば、何事も一人だけでできるわけじゃない。常に規律ある行動を共にして、何かが分かったらすぐに僚艦に情報を回し、みんなで戦闘に対処すること」
提督「どんな状況でも、全体のために自分がどのように行動すればいいかを考えながら行動し、最良の結果を導くことこそ…自分だけでなく艦隊全体を意識し、その一部のために何ができるのかを考えて行動することこそ、我が横須賀鎮守府の艦隊の持つべき行動思想だ」
提督「そして、艦隊は欠けることなく戦闘目的を遂行せねばならない。それが本来の意味での滅私奉公だ」
提督「もちろん、俺も艦隊の構成員の一部として、その命題を片時も忘れずに皆を指揮命令する」
提督「ここで敢えて言おう。日本国の、いや人類の興廃はこの一戦にあり、だ!」
提督「思えばこの戦争も始まってはや数年…」
提督「海運大国である日本の生命線たるシーレーンが突如として深海棲艦に襲われ、タンカーを中心とする民間船が次々と犠牲になった。イージス艦などの通常艦艇は、神出鬼没の有機的存在である敵に対し、何ら有効な対抗策とはなりえなかった…」
提督「長年の不況にあえいでいた我が国の経済もまた、国際貿易という大動脈を失い破綻しかけた」
提督「…が、その危機ももはや過去のものとなった」
提督「…かつての戦いで冷たい海の底で戦いを終えたお前たちが蘇ってくれたおかげで、人類は深海棲艦という脅威に勝利するまで、あと一歩のところまで来ている」
提督「今度の終戦は、誰一人欠けることなく、勝利の栄光とともに迎えよう!!」
オオオオオオオオオオオオオオオオ パチパチパチ
提督「ああ…それと、もう一つ報告がある」
提督「本日付で我が鎮守府の秘書艦を戦艦大和とする」
大和「よ、よろしくお願いします!!」
武蔵「ついに私はお払い箱になってしまったな」
大和「もう、そんな風に言わないでよ…心苦しいじゃない」
武蔵「だがまぁ私より姉さんのほうが間違いなくお似合いだな。もちろん二重の意味で、だ」
提督「…///」
大和「…///」
天龍「へん…お熱いこって…」ムスッ
龍田「もう天龍ちゃんったら、拗ねないの。ほら、私がいるじゃない」フフ
矢矧「大和さんっ!!」
矢矧「ああ…大和さん!貴女と再会できるなんて!!」ウルウル
大和「矢矧さん…!」
矢矧「最終決戦、こんどは一緒に勝ちましょう!」
雪風「大和さん、雪風もいますよ!!」フンス
大和「まあ、雪風ちゃん!」
日向「あれが…超弩級戦艦か…」
伊勢「おっきいねぇ…」
電「いろんなところの大きさが私たちと全然違うのです…」
榛名「ちょっと口惜しいですね」
那智「しかし私たちの鎮守府にも大和型が二杯とも揃ったか。頼もしい限りだな」
羽黒「心強いですね!」
提督「すごいな…大和が来てくれただけで、皆の士気がまた一段と上がった…」
武蔵「やはり大和型一番戦艦の名は伊達じゃないということだ。さすが私の姉さんだ」
武蔵「…妬けるけどな」
提督「そんな武蔵も可愛いな」ヨシヨシ
武蔵「ばっ…こら!気やすく頭をなでるんじゃない!」ピコピコピコ
また数日のうちに
今夜も投下
武蔵「あ…そうだ提督、例のものを忘れちゃいないか?」
提督「おお、そうだった。大淀、頼む」
大淀「はい、用意してます」ゴト
武蔵「ほら、秘書艦さま」
大和「み、皆さん静かにしてくださーい!!」
提督「よし、今から皆に、今日届いたばかりの“イイもの”を配布する」
日向「イイもの…?」
神通「何なんでしょう…?」
瑞鶴「翔鶴姉ぇは何か知ってる?」
翔鶴「さぁ…」
提督「みんな見て驚くなよ。これだ」ガチャッ
雷「あ、嘘…」
那珂「わぁ…箱の中に指輪がぎっしり詰まってる…」
川内「ええっ…すごい…、これ、全部ケッコン指輪…???」
提督「残念ながらこれはケッコン指輪じゃない。だが、ケッコン指輪には及ばないが、この指輪には練度及びその上限を数パーセント上げる力が備わってるんだ」
提督「これは最終決戦を控えて、艦政本部が製造したものだ。練度の不安な皆も、憂いなく決戦を迎えて欲しいからな!」
提督「ちゃんとこの艦隊の全員分そろってる。鎮守府再編のために我が横鎮もずいぶん大所帯になったが、みんなに行き渡るだけの分はあるぞ!!」
オオオオオオオオオオオ ドヨッ
提督「今から一人づつ渡していくから、みんな一列に並べ!」
伊勢「うそぉ…この手に指輪が嵌められるなんて…」キラキラ
暁「べ、別に嬉しくなんてないんだから!!」キラキラ
響「暁、顔が緩んでるよ」キラキラ
金剛「ケッコン指輪じゃないとしても、嬉しいデス…」キラキラ
霧島「…」ウットリ
赤城「…嬉しいですね、加賀さん」キラキラ
加賀「…」コクン
榛名「本当のケッコン指輪は大和さんのもの、ですか?」キラキラ
大和「…ま、まだどうなるかは…」カァア
榛名(…可愛い)
天龍「わぁ…」キラキラキラ
龍田「嬉しそうね、天龍ちゃん」キラキラ
天龍「ち、ちげーし!別に喜んでなんかねーし!」キラキラキラキラ
大井「…へぇ。ありがたく受け取るわ」キラキラ
北上「これでちょっとでもレベルが上がるんならいいねー」キラキラ
まるゆ「ま、まるゆも頂けるんですか!?」キラキラ
提督「もちろんだ。俺の艦娘には一人残らず支給する。他の四鎮守府でも同じはずだ」
提督「…だれ一人、最終決戦で失いたくはないからな。そして無事に戦勝…終戦を迎えられれば、お前たちは…」
木曾「…司令官。一つ質問しても?」
提督「おう木曾。何だ?」
木曾「…この指輪の装着は命令なんすか?」
大和「え…?」
木曾「強制でないんなら…俺はこの指輪は要らない」
天龍「…おい。聞き捨てならねぇな。提督からの指輪を受け取れねえってのか?」
まるゆ「き、木曾さん…」ハラハラ
提督「天龍、落ち着け」
天龍「けどよ…」
提督「…木曾。これはお前たちの生存率を高めるためのものだ。装備は軍命だ」
木曾「…分かりました」
天龍「ちっ…うだうだ言ってねえで最初から素直に受け取っときゃいいんだよ!」
木曾「…受領はします。けど最終決戦の出撃まで、つけるつもりはありません」
天龍「んだと…てめぇ!何だぁそりゃ…」
提督「…天龍」
提督「ここで怒鳴るのはよせ。皆がいぶかしむ」
龍田「天龍ちゃん、提督のおっしゃる通りよ。落ち着いて…ね?」
天龍「…」
木曾「…それじゃ」スッ
大和「木曾さん…」
北上「木曾っち…」
大井「…ごめんなさい。木曾ったら、本当はあんな娘じゃないんだけど…」
天龍「…ったく、転入組はこれだから…」
提督「天龍」
天龍「…」
提督(…木曾、か。…気になるな)
大和(木曾さん…どうして…??)
その頃 小笠原近海 海上
ザパン…チャプ…
ヲ級『ねえ見て、夜空の天の川が綺麗だね』
リ級『…そうね』
ヲ級『…』
リ級『…』
リ級『…また私たち、出撃命令が出たわね』
ヲ級『うん…明日だね…』
リ級『どうしたの、元気ないじゃない』
ヲ級『…』
リ級『…もしかして、こないだの敵戦艦を仕留めそこなったこと、まだ気にしてるの?』
ヲ級『…うん、それもある。私のカタパルトが不調じゃなかったらって思うと…』
ヲ級『私のせいで、今後またみんなが危険にさらされるかもしれないんだよ…?』
リ級『…済んだことは仕方ないわよ。それもこれもロクな物資が入って来なくなったからよ』
ヲ級『…あの戦艦を攻撃してる間、なんか変な気持ちだったの』
リ級『?』
ヲ級『…どうして、あの艦娘は単艦であんな嵐の夜に出撃したんだろう…』
リ級『日本軍の考えることなんてわかんないわ。…ま、単艦で出てきたってことは、どうせ劣勢な私たちのことを舐めてたんでしょうけど』
ヲ級『そうかなぁ…私にはそうは思えなかったけど』
ヲ級『あのヤマト型、寂しそうだったの。とても私たちを舐めてかかってきたとは思えないの』
リ級『…』
リ級『やっぱり貴女は優しい娘ね。私が命を懸けてでも守りたいと思うだけはあるわ』
ヲ級『ノーちゃん…』
ヲ級『私たち、もう勝てないよね』
ヲ級『ねえ…一緒に、日本軍に降伏しない?』
リ級『ホーちゃん!貴女何を言ってるの…!』
ヲ級『ノーちゃんは勝てると思ってるの?』
リ級『…まだ分かんないじゃない』
ヲ級『分かるよ。私たちの役目は、もう終わったんじゃないかなって思うの』
リ級『役目…??』
ヲ級『私たち、どうして生まれてきたんだろう…』
リ級『え…?』
ヲ級『正確には、どうして“生まれ変わってきた”んだろう…』
リ級『…』
ヲ級『ねえノーちゃん。私たちの存在意義って何?私たちは、今度は何のために戦ってるの?』
リ級『…』
リ級『…私は、ホーちゃんを守るために戦ってるわ』
リ級『だから、降伏するとか言わないで。貴女は…私が守るから…』
ヲ級『…』
ヲ級『ずるいよ、ノーちゃん』
横鎮食堂
大和「提督…木曾さんの事ですけど…」ゴチソウサマ
提督「…大和も気になるか?」ズズッ
大和「ええ。だって…」
提督「木曾は他鎮守府からの転入組だったな。実は俺もまだよく話したこともないんだ」
大和「そうだったんですね…」
提督「ああ…大井はあれが本当の木曾じゃないって言ってたし、俺も腰を据えて向き合ってみたいってのはあるんだけどさ…」
提督「なにぶん最終決戦前でそんな時間もなくてな…」
大和「…どこか投げやりなところが気になりますね。まるで自分なんかもうどうなってもいい、みたいな感じが…」
提督「だよなぁ…。何なんだろうな…、危なかっしくてしょうがないよ」
大和「…提督、明日の哨戒出撃に大和と木曾さんを一緒に出してはもらえませんか?」
提督「え…?」
大和「そこで何か話したり…様子を見たりできれば、木曾さんのことをもっと理解できるかもしれません。そうすれば…」
提督「そうだな…。分かった。手配してやる」
大和「よろしいんですか…?」
提督「ああ。気兼ねするな。…それと、燃料弾薬の心配だったらしなくていいぞ」
大和「…!!」
提督「いい機会だ。リハビリだと思って存分に身体を動かしてこい」
大和「あ…ありがとうございます…!」
提督「当然のことだ」
提督「最終決戦は文字通り皆で戦うからな。もちろん大和にも活躍してほしいし、木曾みたいな優秀な重雷装巡洋艦は、天龍に任せてる水雷戦隊の要になってほしいしな」
提督「…木曾に対して、皆と仲良くするよう押し付けるわけじゃないが、それでも他の僚艦と背中を預けられる関係にはなってほしい」
提督「…頼むぞ、大和。秘書艦として意識が高いのを嬉しく思うよ」
大和「…はい!大和、頑張ります!」
提督「おお」
ワイワイ ガヤガヤ
提督「ん?あれは何をしてるんだ?」
大和「七夕ですよ。みんなで短冊を書いてるんです。この戦争が終わったら、何をしたいとか、どうなりたいとか…」
提督「そっか…そういえば今日だったな……。大和は何か書いたのか?」
大和「え、私ですか?」
提督「大和の願い事ってどんなんだろうな。後で見せてもらおう」
大和「え」
赤城『制海権を奪還したあかつきには、加賀さんと国内外のグルメを制覇できますように』
加賀『赤城さんの願いが叶いますように』
龍驤『大きくなりますように』
金剛『テートクのハートをシスターと仲良くシェアしたいデース!』
榛名『みんな仲良く過ごせますように』
比叡『気合!入れて!生きます!』
霧島『コンタクトにしたいです』
大淀『ずっと誰かの支えでありたい』
暁『一人前のレディになれますように』
雷・電『背が伸びますように』
響『Будьте всеми сестрами вместе мирно навсегда』
羽黒『しっかり者になれますように』
那智『不撓不屈』
足柄『いい男を見つけられますように』
大井『ずっと一緒に居られますように』
北上『平穏無事に過ごしたい』
まるゆ『皆さんの力になれますように』
武蔵『女を磨く』
吹雪『普通の女の子として楽しく生きられますように』
大和『皆が笑顔で平和に過ごせるようになりますように』
木曾『 』
今日はここまで
ゆるゆると投下
翌日 横須賀近海 哨戒出撃
ザザザザザザザ
天龍「この指輪、すっげえな!確かに、いつも以上の力が湧いてくるぜ」
電「身体の動きがいつもよりいいのです!!」
雷「これなら最終決戦も怖いものなしだわ!」
木曾「…」
天龍「…おい木曾…てめぇは何か思うところはねえのかよ?」
木曾「最終決戦を前にして、てめぇみたいに能天気にはしゃぐ余裕はねぇな」
天龍「んだとてめぇ!黙って聞いてりゃ重雷装巡洋艦だからって調子に乗りやがって、新入りの癖に…!」
木曾「ぁあ!?」
大和「二人とも、止めてください」ガシッ
天龍「いててててて」ミシッ
木曾「ぐっ…」ミシッ
大和「駆逐艦の子たちの見てる前で、恥ずかしいとは思わないんですか?」
大和「天龍さん、いくら鎮守府の古参だからって、後から配属された艦娘を見下すのはよくありませんよ?」
天龍「べ、別に俺は…」
大和「木曾さんも、どうしてわざわざ人の感情を逆なでするようなことを言うんですか?」
木曾「…」
大和「最終決戦を前にして、艦隊の中核となるべき水雷戦隊のお二人がそんな様子じゃ…」
雷「水平線上に敵艦隊発見!艦影6!」
電「編成はヲ級1、リ級1、ロ級4なのです!」
大和「!!」
木曾「…ヲ級が艦載機を発艦させてるぞ」
大和「いいでしょう。これより我が艦隊は敵艦隊を攻撃します」
大和「艦載機は大和が遠距離から叩きます。皆さんは水雷戦闘に移行してください!」
天龍「了解。水雷戦隊の指揮は俺が執るぞ。いいな?」
雷・電「はい!」
木曾「…悪ぃが俺は勝手にやらせてもらうぜ」ザザザッ
天龍「おいってめぇ!勝手に突撃すんなって…おい!」
大和「対空戦闘。全46センチ主砲、三式弾装填…調定よし。指向よし」ゴゴゴゴ…
大和「…横鎮に来て初めての実戦ですね。大和、やります…!」
大和「撃ち方はじめ!射ぇっ!!!!」ズドォォォォォオオオオオンン!!
ヒルルルルル… パパパッ ズバァアアアアアアアン!!
電「すごい…一撃で敵機の数個編隊が蒸発したのです!」
ドドドドドドッ
雷「電、前見て!!敵も砲撃を開始したわよ!」
天龍「ちっ…一斉回避だ!」ザザザッ
ヒルルルルル…バシャーン!ザバーン!
木曾「…ヲ級の奴、カタパルトの調子が悪いらしいな?発艦が上手くいってねぇな」
木曾「こっちにとっちゃ好都合だ。20センチ連装砲、用意…射ぇっ!!」ドゴォン!!!
ヒルルルル… ズズン!
ヲ級「!!!」
雷「木曾さんの第一斉射、ヲ級カタパルトに直撃!」
天龍「ちっ…先走ったにしてはやるじぇねえか…これで敵艦載機の発艦は不可能ってわけか…」
天龍「残りの艦は俺らでやるぞ!針路1-8-2へ抜けながら魚雷散布!しっかりついて来い!」
天龍「時間差雷撃だ!1秒毎に各管発射用意…射ぇっ!!!」
バシュッ!!!!ズズーン…
雷「ロ級すべてに命中!1杯轟沈、3杯大破!」
電「リ級、全魚雷を回避!木曾さんに向かっていくのです!」
天龍「ちっ…お前たちはロ級に止めを刺せ!俺はリ級を叩く!」
天龍「おい木曾っ!重雷装艦が聞いてあきれるぜ!いつまで手こずってやがんだ!?」ザザッ
リ級「…」ザザザ
木曾(くっ…こいつは相当の手練れだ…かなり海戦慣れしてやがる…!)
天龍「聞いてんのか木曾!てめぇと俺とでリ級の野郎を魚雷挟撃だ!てめぇは針路2-3-0に取れ!」
木曾「ちっ…了解!」
木曾「…全発射管、再装填よし!」
天龍「射ぇっ!!」
バシューッ!!!ザバババババン
天龍「くっ…木曾の奴、さすがに見事な雷撃じゃねえか…」
木曾「この雷数を回避できるかってんだ…!」
シャアアアアアアア…
リ級「…」ジャキッ ドドドッ!
スバァアアアン!!!
木曾「なっ!?」
天龍「し、主砲弾で魚雷を迎撃しやがった…!!!」
リ級「…」ゴゴゴゴゴゴ
天龍「ちきしょう…あんな高速艦にまとわりつかれたら大和に支援砲撃を頼むわけにもいかねぇ…下手すりゃこっちの数が仇になって、駆逐艦のガキどもが喰われる可能性も…」
天龍「くそっ…どうする…」
木曾「…おい」
天龍「んだよ!人が作戦考えてるときに話しかけんな!」
木曾「てめぇの作戦なんかどうでもいい。それより、気づいた事がある」
天龍「ぁあ!?」
木曾「あのリ級、立ち往生してるヲ級のことを気にしてるみてぇだ」
天龍「…確かに、そんな様子があるな。こっちを叩いて、あわよくば曳航して脱出しようって肚か?」
木曾「かもな。だったらそれを逆に利用してやればいい」
天龍「あん?」
木曾「俺があのヲ級をすぐそばで吹っ飛ばす構えを見せる。恐らくリ級は血相を変えるか混乱するかするだろう。それに乗じて、あとはお前らが奴を叩けばいい」
天龍「…却下だ」
木曾「ぁあ!?」
天龍「それだと………てめぇが危険だ。リ級がヲ級もろともてめぇをふっ飛ばさねえ保障はどこにもねえんだぞ」
木曾「…いつまで俺たちがたった一杯の敵に振り回されるなんて茶番を続けるつもりだ?ぁあ?」
天龍「…」
木曾「考えてる暇はねぇぞ。さっさと展開しろ」ザザッ
天龍「ちっ…!二人とも聞いてたな?行くぞ!」
雷「は、はい!」
電「了解なのです!」
ヲ級「…」ブルブル
木曾「よう深海野郎。気分はどうだ?」ジャキン
ヲ級「!!」
リ級「っ!!!」ザザッ
天龍「…木曾の野郎の言ったとおりだ。リ級め、わき目もふらずに向かって来やがった!」
木曾「そうだ…来い!てめぇの相手はこの俺だ!」
木曾「…」
リ級「…!」ジャキン!!!!
木曾(…いっそ、このまま)
天龍「今だっ!全主砲・全魚雷、斉射ぁっ!!!」ズドッ!
雷「ぜぇんぶ喰らいなさいっ!!」ドゴォン!
電「電の本気を見るのです!!」バシューッ!
シュルルルルルルルル… ドゴォォォォオオオオオオオオオオオオン!!!
バシャシャ…ザバ…チャプ…
電「…敵リ級、視界より消失、なのです」
天龍「…鎮守府に戦闘終了を打電。帰るぞ」
天龍「おい木曾…囮役ご苦労だったな。…ま、てめぇが無事で…」
木曾「ちっ……」ギリッ…
天龍「…!?」
天龍(…今のは…?????????????)
木曾「…」
大和「皆さん、大丈夫ですか!?」ザザザ
電「大和さんのおかげで、艦載機の攻撃を受けずに済んだのです!」
ヲ級「…」ブルブル
木曾「てめぇの役目は終わりだ。さっさとあいつの後を追うんだな」ジャキッ!
ヲ級「!!」ビクッ
天龍「ちょ、ちょっと待てよ」
木曾「あ?」
天龍「こいつからこっちに有益な情報が取れるかもしれねえだろ。せっかく無傷で拿捕できたんだ。無為に沈めるのは割に合わねえ」
木曾「劣勢のこいつらからこれ以上どんな情報が必要だってんだ。こいつは用無しだ」
天龍「待てよおい!だいたいこの艦隊の旗艦はてめぇじゃねえだろうがよ!」
木曾「…」
天龍「…どうする、大和?」
大和「…曳航して帰りましょう。もうこのヲ級は戦意を喪失してます」
大和「天龍さんの言う通り、もし何か情報が引き出せるなら…決号作戦をより戦いやすくできるかもしれません」
大和「それに…提督なら、無慈悲にこの娘を処分するようなことはされないでしょうし」
天龍「ああ、そうだな」
電「ヲ級さん、よかったのです!」
雷「貴女は私たちのゲストよ!」
ヲ級「…guest?」
木曾「ちっ…」
天龍「おいてめぇ…いいかげんそんな態度やめろってんだ…」
木曾「…帰るぞ」スッ
天龍「っの野郎…!!鼻持ちならねぇ…!!」プンスカ
大和「木曾さん…」ボソッ
木曾「…なんだ?」
大和「…どうして、死に急ぐような真似をしたんですか?」
木曾「っ…!」
大和「大和の目はごまかせませんよ。単独で敵に向かっていったのもそうですし、…何より、リ級が向かってきたとき、貴女にはまるで応戦しようとする意志が見られませんでした」
木曾「…」
大和「木曾さん。大和は、貴女の事が心p…」
木曾「何が…」
大和「え…?」
木曾「…大和に俺の何が分かるってんだ。すでに“手に入れてる”やつなんかに、俺の何がっ…!」ギリッ…
大和「…!?」ゾクッ
木曾「…俺の事を詮索するのは止めてくれ。…心配しなくても、自分の務めは果たすさ」ザザッ
大和「…」ザザザ
大本営海軍部
元帥「決号の作戦発動日が決まった。…この戦争の終幕だ」
副官「元帥閣下の描かれる形での終戦が、ついに実現するわけですね」
元帥「ああ」
副官「いよいよですね…!」
元帥「…君は、1970年には生まれていたかね?」
副官「は…???いえ、その頃はまだ…」
元帥「…私は、まだ佐官になりたての頃だった」
元帥「秋も深まってきたある午後の事だ…私はその日非番でな、たまたま中央線に乗っておった」
元帥「そうするとな、市ヶ谷の方角からおびただしい数のサイレン音とヘリのローター音が聞こえてきた」
元帥「もしや左翼のテロかクーデターかと思い慌てて駆けつけてみると、…市ヶ谷の陸軍駐屯地のバルコニーから、ある作家が日の丸の鉢巻きを締めて演説をぶっていた」
副官「それは…まさか、あの…」
元帥「数人の同志と共に駐屯地を襲撃し、陸軍参謀長を人質にした作家の弁はまさに霊気がかっていた」
元帥「…彼はこう言っていた。このままでは日本はなくなってしまう。なくなって、その代わりにこの国土には、無機的で灰色でカネだけはあって抜け目のない経済的大国が残るだけになってしまう。諸君らはそれでいいのか、決して短くない伝統に彩られた我々の祖国が喪われてもいいのか…とな」
副官「…」
元帥「周りで聞いていた将官たちは嘲笑しながら見物しているだけだった。…私は、哀れな作家の問いかけに答えることが出来なかった」
元帥「…そうして、作家は割腹した」
副官「…」
元帥「…あれからもう半世紀近く経とうとしている。今度の決号作戦を控えて…私は最近立て続けに二つの悪夢を見るのだ」
副官「悪夢…でありますか?」
元帥「一つは幼い頃の悪夢だ。そしてもう一つは…あれからもう半世紀も経とうとしているのに、いまだにあの作家の問いに誠意をもって答えることができず、それどころか彼の憂いていた未来を加速させようとしている私を、あの作家が斬ろうとしている夢をな」
副官「っ…」
元帥「…年を取ると、どうも感傷深くなっていかんな」
副官「その通りであります。どのような形であれ、閣下が日本のために尽くされてようとしているのは副官たる自分が誰よりも存じております。日本海軍は、まさにそのために今存在しているのです」
副官「…悔いることはさらさらありません。自分は、…自分だけでも、ルビコン渡河をご一緒させていただきたいものであります」
元帥「…ひょっとしたら、渡るのは三途の川かも知れんぞ」
副官「覚悟は出来ております。遅いか早いかだけと思えば、これほど楽なことはありません」
元帥「…そうか。分かった、頼むぞ」
副官「は。何ものであろうと、閣下の邪魔はさせません…!!」ザッ!
横須賀鎮守府
大淀「大和さん率いる哨戒艦隊から打電です。1300時に小規模な敵機動部隊に遭遇」
大淀「うち五杯を撃沈、ヲ級型空母一杯を拿捕しました。我が方に損害はないとのことです」
提督「そうか!大和も頑張ってくれたな…」
大淀「調子はいいみたいですね。それで、拿捕したヲ級についてですが…」
提督「…状況はよく分からないが、まあ一応はこちらで保護しようか」
提督「取り扱いについてはまた考えよう。とりあえず、無用な殺生は寝覚めが悪い」
大淀「はい!」
大淀「それと、先ほど軍令部から外線が入りました。提督に出頭命令です」
提督「軍令部から出頭命令…?どこの部局からだ?」
大淀「第一部です」
提督「第一部…ってことは作戦担当部局から?」
大淀「恐らく、今度の決戦の打ち合わせじゃないでしょうか?」
提督「たぶんそうだろうけど…分かった。行ってくる」
その後 深海
ル級『…本日の戦闘も、私たちの一方的な敗北でした』
戦姫『…』
ル級『今年に入ってからというもの、私たちの損亡率は日々うなぎ上りです』
ル級『それに、ろくに燃料も弾薬も廻ってこないんじゃ、練度も上がりません!』
ル級『しかも弾薬自体の質も落ちてます。先日の戦いでは私たちの魚雷の実に68%が不発でした!』
戦姫『…』
ル級『……それでも、近いうちに私たちの残存兵力を挙げた攻勢をかけるつもりですか?』
戦姫『…仕方ない。それが“上”からの命令だ』
ル級『“上”…ですか。その上が出してくる命令も、果たして当てにならないものばっかりですよ…今年になってからは特にです』
戦姫『…それでも従わなければならないのが私たちだ』
ル級『…今度、もし大攻勢をかけようものなら、私たちは間違いなく全滅しますよ』
リ級『…』フフッ
ル級『何がおかしいの?』
リ級『だとしたら因果なものね』フン
ル級『…何よその言い方。真面目に聞いてるの?』
リ級『…』
戦姫『よく無事で帰ってきたな…傷はどうだ?』
リ級『私の傷はどうってことありません。もう修復してます』
リ級『…私が怒ってるのは、あの娘のカタパルトが明らかにまだ不調だったにもかかわらず出撃を強行させたことです』
戦姫『…このじり貧の状況では仕方ない。出せる戦力は出し切らなけばならないのだ』
リ級『そうね。それで、あの娘がみすみす敵の手に落ちて捕虜になってしまったのも仕方ないってわけですね。そういうことなのね』
ル級『いい加減になさいよ!終わってしまったことをいつまでもぐちぐちぐちぐちと!!!戦姫様に失礼でしょう!?』
戦姫『…捕虜になった、というのはどういうことだ?お前はそれを見ていたのか?』
リ級『…そうじゃありません。日本軍が去った後、あの海にあの娘の残骸は欠片も見つかりませんでした。ですから状況からみて、あの娘は…敵のヨコスカ鎮守府に拿捕されていったんだと思います』
戦姫『…』
ル級『…へえ。それで?』
リ級『…それで?って何よ…!?』
ル級『だから、そうだとして一体貴女は何を期待してるの?戦力を編成して敵の本拠地に乗り込んで、あの娘の救出作戦でもしたいの?』
リ級『…何なのよそれ。じゃあ貴女はあの娘が日本軍から情報を搾り取られた挙句、嬲り殺されてもいいって言うの!?』
ル級『現状がそれを許さないってことくらい貴女にも分かるでしょう!?』
戦姫『二人ともいい加減にしろ!!』
ネ級『…』シクシク
ル級『…』
リ級『…』
リ級『分かりました。なら、私一人で行きます』
ル級『なっ…!貴女、一人で敵地に乗り込む気!?』
リ級『そうよ。それなら文句ないでしょう?』
ル級『…貴女だって大切な戦力なのよ!?そんなことで命を危険にさらすような…』
戦姫『…待て』
リ級『…』
戦姫『…私たちを、見捨てないでくれよ』
リ級『…』スッ
大本営海軍部・軍令部第一部 部長室
提督「失礼いたします!」
参謀「入れ」
提督「…あ、あなたは…!!!」
参謀「…久しぶりだな。海大卒業以来か?」
提督「…先輩…だったんですか」
参謀「…このたびパラオ鎮守府から異動となり、新たに軍令部第一部長職を拝命した。貴様も将官なら海軍官報にはきちんと目を通しておくんだな」
提督「…」イラッ
提督「…相変わらず辛辣ですね」
参謀「…」
提督「ともあれ、まずはご栄転おめでとうございます」
参謀「………一体どこがめでたいというんだ」ボソッ
提督「?」
参謀「ところでだ。例の作戦…貴様は『決号作戦』の詳細については聞いているな?」
提督「はい」
参謀「…」
参謀「貴様、作戦について何か思うところはないか?」
提督「…お話の意味がよくわかりませんが?」
参謀「…」
参謀「率直に言う。軍令第一部としては、この作戦には反対だ」
提督「…は?」
提督「どうしてですか。敵の残存兵力を我が近海に引き寄せ、それを自分の艦隊を主幹とする友軍が全力をもって迎撃、これを殲滅せんとする…」
提督「この作戦のどこに反論の余地があるんです?自分には分かりかねます」
提督「敵兵力が質量ともに著しく低下し、彼我の優劣が明確となった今こそ、今次作戦を成功させれば人類の悲願である深海棲艦の完全な壊滅を…」
参謀「敵の残存兵力が雁首並べておめおめ我が制海圏下にやってきてくれるという根拠はどこにある?」
提督「…」
参謀「貴様が敵の司令官なら、貴重な兵力をむざむざと敵の膝元に差し出す真似をするか?そう聞いているんだ」
提督「っ…」
提督「ですが、作戦要綱の通りに、小規模な囮艦隊で刺激すれば、敵はこれまでのデータから鑑みても間違いなく…」
参謀「ふん。…司令官としては愚の骨頂だな」フン
提督「…何ですって?」ムカッ
参謀「俺が敵司令官なら、これ以上無理はせず深海棲艦の特徴を生かした海上ゲリラ戦を採る。先の大戦で敵ガトー級潜水艦が我が国に対してやったようにだ」
参謀「その上で人類側に再び損失を強い、こちらは戦力を温存・再編させて再起を図る」
参謀「それが常識的なセオリーの一つだ。どうだ?」
提督「…」
参謀「人類の思惑通りに敵が動いてくれるなどとはおめでたいにも程がある」
提督「そ、それは…」
参謀「作戦意思の決定にあたり希望的観測を持ち込むのはタブーだと海大で教わったはずだ。忘れたか?」
提督「陛下が裁可された作戦に対し横槍を入れることは言語道断だとも教わりましたが?」
参謀「…何だと?」
提督「…今次作戦に不満があるのなら、なぜはっきり異議申し立てをなさらないんですか…??」
参謀「…」
提督「今次作戦は大本営統帥部が正式に決定した作戦です」
提督「ということは、この作戦には陛下のご裁可もあるということです」
提督「…にもかかわらず、先輩は今次作戦の発動に批判的でいらっしゃる」
提督「しかもその発動の阻止を、大本営に対してではなく一鎮守府に対して行った…」
提督「これは明らかに、軍の統率を無視した統帥権干犯ではありませんか!!!」
参謀「っ!」
提督「…」
参謀「大本営が来ると言ったら来る、だと?」
参謀「ふふん。唾棄すべき精神主義だな。貴様の言いよう、まるで神風は必ず吹くと言わんばかりだ」
提督「何ですって?」
参謀「我々の先輩の中に、そうした空疎な精神主義に冒され、若く有望な将兵を、あたら無為に自爆攻撃に至らしめた愚か者どもがかつて存在したことを思い出しただけだ」
提督「…」
提督(…大本営が来ると言ったら敵は実際に来るんだ。敵の行動分析の結果からしても、今までずっとそうだったじゃないか!!!)
提督「先輩は敵に勝ちたくないんですか?」
提督「ただでさえ不況と震災に苦しんでいた日本に降ってわいた深海棲艦という脅威」
提督「いっとき我が国は完全に崩壊してしまう一歩前まで追いやられました」
提督「しかし、過去からよみがえってきた艦娘たちのおかげで、今や彼我の優劣は逆転したんです」
提督「あと少し…あと少しで、日本は…いえ人類は深海棲艦を壊滅させ、海上交通の安全を手に入れることができるんです!」
提督「ひいては、それが人々の生活と未来のためになるんです!」
参謀「戦争に勝ちたいのは俺も同じだ…!だがな…!」
提督「だが何なんです?」
参謀「…いいか、俺は命令しているんじゃない。ただ艦隊司令である貴様に、今作戦への盲従は決して将来のためにならないということを強く言っておきたいのだ」
提督「その将来とは一体誰の将来ですか?」
提督「国家ですか?海軍ですか?…それとも先輩ご自身ですか?」
参謀「…その全ては言うに及ばない。それだけではない」
参謀「貴様の将来も含まれているのだ」
提督「俺の…?」
参謀「貴様…艦娘とのケッコンはまだだったな?」
提督「…そうですが?いきなり何の話を…」
参謀「ケッコンしないまま戦争を終えるつもりか?」
提督「あり得ません。決号の発動前にはケッコン指輪を渡したいと考えています」
参謀「それはめでたいことだ。相手がどの艦であろうとな」
提督「…??」
参謀「だが…貴様が相手に選ぶ艦娘も…いや、貴様が指揮下に置いているすべての艦娘も、決号を強行すれば失われるかもしれんのだぞ」
提督「どういうことですか!?まるで自分の指揮では艦隊が海の藻屑になってしまうみたいな言い方じゃないですか!」
提督「…確かに軍事作戦ですから、こちらにも損害は出るでしょう」
提督「しかし、自分は信頼する艦娘達と一心同体で戦い、必ず全員そろって勝利の時を迎えてみせますよ…!!!」
参謀「…貴様は腐っても俺の後輩だ。敵に勝利するのは間違いないだろう」
提督「…」
提督「…???」
提督「何を言ってるんです…?」
提督「敵には勝てる、しかし艦娘も失う…?」
提督「特攻作戦でもないのに、どうしてそんな矛盾したことを…??」
参謀「…作戦にあたって特殊物資が手元に届かなかったか?」
提督「特殊物資…ああ、決号のために艦娘全員に配布される指輪のことですか?」
参謀「そうだ」
提督「はい。受領しています」
参謀「…貴様はその物資がどういった性質のものかは知っているのか?」
提督「艦娘達の練度をいくばくかアップする指輪でしょう?」
提督「ケッコン指輪ほどの能力はありませんが、それでも艦娘全員の練度が多少なりとも上がるのであれば…」
参謀「そうか。では、その特別物資は俺によこしてくれ」
提督「…は?」
参謀「そんな小細工に頼るのは日本海軍の名折れだ。この戦いには必要なかろう」
提督「指輪を全部寄越せですって!?それは明らかに利敵行為です!先輩、あんたは深海棲艦のスパイですか!?」
提督「その指輪は艦隊全体の練度を底上げするために使う画期的なものです!それがないばかりに轟沈艦が出たらどうするんですか!陛下があんたを許そうとも俺は許さないぞ!」
参謀「貴様はバカか!そんな指輪がどうしてこのタイミングで出てきたのか少しは頭を使って考えてみろ!」
提督「バカはあんたでしょう!!どうせあんたはパラオでもその仏頂面で通してきたんでしょう!!どうせあんたは艦娘を兵器としか考えられないんだろ!!」
参謀「もう一度言ってみろ貴様!」ガタッ
提督「ああ何度でも言ってやる!この金づち野郎!!艦娘を道具としか思ってないこの人非人!」
参謀「貴様ぁああああ!!」ボカッ!
提督「ぐっ…」ヨロ
参謀「…」ハァハァ
提督「…帰ります。上官侮辱罪で告訴なさりたいなら、どうぞご自由にされてください」
ガチャ バタン
参謀「……くそっ!!!!」
夜 横鎮防波堤
ザパーン… パシャ… ザパァアアアン…
木曾「…」カチャ…
木曾「…」パタン…
木曾「…」カチャ…
ザッ
木曾「!!」
木曾「だ、誰だ…?」
大井「…やっぱりここにいたのね、木曾」
木曾「お…大井姉さんか…」
大井「…それ、“提督”からもらったものよね?」
木曾「…」パタン
木曾「…夜遅くに何だよ。まだ起きてたのかよ」
大井「誰のおかげで遅くまで悩んでたと思ってるの?」
木曾「…」
大井「ねえ木曾…貴女、いつまで他の娘たちとの間に壁を作るつもりなの?」
木曾「…」
大井「…ここに私たちと転属してきてこのかた、貴女、ずっと周囲に素っ気ないまま来てるじゃない」
木曾「…」
大井「言いたかないけど、貴女、一部の艦娘たちから敬遠されてるわよ」
木曾「…だろうな」
大井「北上さんも、多摩姉さんや球磨姉さんも心配してるのよ?まるゆだって…」
木曾「…俺のせいで姉さんたちにまで迷惑かけちまってるのは申し訳ねえな」
大井「そんなことはいいの!」
木曾「!?」
大井「…まあ、貴女が北上さんの心痛の原因になってることに腹が立たないと言えば嘘だけどね」クスッ
木曾「…」
大井「ねえ、木曾?貴女…」
大井「忘れられないんでしょう、あのパラオ鎮守府にいたころの事が」
木曾「っ…」
大井「気持ちは…分からなくもないわ。けど、もう終わってしまったことなのよ」
木曾「…分からなくもないって何だよ」
大井「…」
木曾「…大井姉さんには北上姉さんがいるじゃねえか。そして球磨姉さんには多摩姉さんがいる」
大井「…」
木曾「俺は…ずっと独りぼっちだった」
大井「木曾、…」
木曾「だけどな姉さん、俺にはその寂しさから逃れることができた日々が、あの時、確かに存在したんだよ!」
大井「っ…!」
木曾「…結局、短い幻みてぇに終わっち まったけどさ」
大井「…」
木曾「姉さん…お願いだよ。こんな俺にだって、すがり付きてぇ過去の幻があるんだ。それを…邪魔しないでくれよ…」
大井「…」
大井「…ごめんなさい。遅くに押しかけて悪かったわね」スッ
大井「…けど約束して。作戦中に死に急ぐようなことはもう絶対にしないで」
木曾「!!」
大井「…大和さんから聞いたわよ。今日の戦闘のこと」
木曾「…もしかして、大和に…喋っちゃいないだろうな…?姉さん…」
大井「“提督”との事?…もちろん、言わないわ」
木曾「…すまねえ。ありがとな」
大井「…貴女は、私たちの大切な妹なんだから。…それだけは忘れないでね。それと、せめて同じ戦隊の娘たちには笑顔を見せてあげて」
木曾「…」
大井「じゃあね…おやすみ、木曾」ザッ
木曾「…」
バシャーン… ザパァアアン…
また今度ね
仕事前に投下
次の日
横須賀鎮守府 倉庫の一角
提督「これが、拿捕したヲ級か…」
大和「はい。他の艦娘たちには伏せたうえで、ここに拘束しています」
天龍「カタパルトと砲塔は取っ払って海に沈めた。こいつに残ってるのは推進系だけだ」
提督「…」
提督「………」
ヲ級「…」ションボリ
大淀「ともあれ、この戦争で敵深海棲艦を無傷で拿捕した艦隊司令は提督が初めてのはずです。おめでとうございます」
提督「…めでたいんだろうか」
大淀「提督…このヲ級の処遇については、もうお決めになってますか?」
提督「…そこなんだよ。迷いどころは…」
提督「なぁ大和…お前はどう思う?」
大和「私は、提督がどう判断されようとも、その決断に従います」
天龍「俺らもだ」
大淀「ええ」
雷「そうね」
電「なのです!」
提督「……………お前らにとっては…深海棲艦は憎むべき敵だろう?」
天龍「…かも知れねぇな。けど、正直ここまで近くで向き合ったことはねぇからな…」
大和「…まるで、私たち艦娘と生き写しですね。このヲ級…」
提督「お前たちと同じ人間の少女、だ。紛れもなく…」
提督「…人型の深海棲艦の素顔ってのは…まさしく人そのものだな…」
提督「…俺は、正直なところこのヲ級を殺処分したくはない」
大和「…」
提督「もちろん、深海棲艦どもには俺だって辛い思いをさせられた。開戦初期には罪もないタンカーや輸送船を沈められ…」
提督「……同じ釜の飯を食ってきた同期や先輩達も、イージス艦と共に海に散っていったし…」
提督「艦娘艦隊の司令官となってからは…沈めてしまった艦娘も、一人や二人じゃ……」
大和「っ…」
提督「…しかし…ふっ…、まさかこうもあどけない少女だったとはな…。神様も残酷だよ、見るんじゃなかったかも知れないな…」
提督「……笑ってくれ。無線越しじゃなく、こうして…それも無抵抗の敵を目の当たりにしてしまった以上、俺は非情にはなり切れない」
提督「甘いと思うか?」
大和「…提督の危惧されているところは理解できます。確かに、深海棲艦を沈めず拿捕したという事実は、他の皆の士気にも関わるかもしれません。二重の意味で」
大和「躊躇いを覚える娘と、一層の憎悪を募らせる娘とが出てくるかもしれません…というか、きっとそうなるでしょう」
大淀「艦娘は日々敵と命を的に砲火を交えているんですし、実際に僚艦や姉妹艦を沈められた娘もいますから…」
提督「…」
大和「…でも、無抵抗の敵を害するのは、やはり私たちの誇りに反すると思います。かつて帝海の軍艦だった私たちの誇りに…」
天龍「ああ。シーマンシップってやつだ」
提督「だが…そんな甘さがお前たちを決号作戦で殺してしまうかもしれないぞ…?」
大和「私たちが、提督の甘さを補えないほどに弱いとお思いですか?」
提督「………!」
提督「…そうか。分かった。俺の腹は決まった」
提督「このヲ級はこのまま、終戦までここに拘束・秘匿する。他の艦娘たち、大本営やマスコミにはもちろん伏せておこう」
提督「戦争が終わって、大本営の戦時体制が解除され、報道体制も平時状態に戻ってから、改めてこのヲ級の存在は公にしよう」
提督「…その方が、今このヲ級の存在を明らかにするよりも幾分状況がいいに決まってる。…あとは戦後の情勢がどう判断するかだな」
提督「…俺にできることは、これくらいだ」
提督「だがこれだけは約束する。人類のためにも、そしてお前たちのためにも…その生存のために、来たる決号作戦では敵に容赦はしない…!」
雷「…」ホッ
電「司令官さん、ありがとうなのです!」
天龍「よかったな、チビ空母」ツンツン
ヲ級「…???」
提督「ところで、このヲ級には何か食事を与えてるか?」
大淀「それが…彼らがどういったものを摂取しているのか分からないので、とりあえずゼリー状のレーションを与えてみたのですが…」
天龍「そこそこ食べるんだな、これが」
提督「…食べるのか。やっぱり…俺らと一緒なんだな…」
大和「…分からないことばかりですね」
提督「ではこの件は、ここにいる皆だけの秘密だぞ」
大淀「それと木曾さんも、ですね」
天龍「大丈夫だろ。あのヤロー、そもそも他の奴と話したりしてる様子もねぇし」
提督「…そうか」
提督「では俺は執務に戻る。お前たちも決戦準備のほうを頼むぞ。もう日がないからな」
大淀「はい!」
雷「でも元気ないね、このヲ級」
電「…虜囚は心細いと思うのです」
ヲ級(…)
ヲ級(ノーちゃん…)
ヲ級(私なんかを助けるために、沈められちゃうなんて…そして、私だけ生き残っちゃうなんて…!)
ヲ級(…)グスン
大淀「ではしばらくは、私達で交代でヲ級の様子を見に来ましょう。他の娘たちには見つからないようにね」
天龍「ああ」
大和「…」
大和「やはり…このヲ級を拿捕して帰ってしまったことが、結果的に提督を悩ませてしまいました…」
大淀「気にしなくていいと思いますよ」
大和「え…?」
大淀「大和さんがこのヲ級を冷徹に沈めることが出来る方だったとしたら…提督はそもそも大和さんに想いを寄せなかったでしょう」
大淀「いいんです。そうやって迷うということは、私たちがとりもなおさず魂と心を宿した人という存在であることの何よりの証明なんですから」
大和「…!」
横鎮 敷地内ベンチ
チュンチュン
武蔵「ふぅ…いい天気だな…」
まるゆ「…あ、あの…」オズオズ
武蔵「ん?お前は…?」
まるゆ「ご、ご挨拶が遅れました!今次再編でこちらに配属された、陸軍潜水艦のまるゆです!」
武蔵「おお、そういえばそうだったな。陸軍の可愛いチビっこだったな」ヨシヨシ
まるゆ「な!チビっこじゃありません!」
武蔵「はっはっは、かわいい奴め」
まるゆ「むぅ…」
まるゆ(武蔵さん、おっきい戦艦だから怖いと思ってたけど、人当たりがいいなぁ)
まるゆ「武蔵さん、いまお忙しくはなかったですか?」
武蔵「別に。見ての通り、ただ海を見ながらボーっとしてただけさ」
武蔵「…大和姉さんに秘書艦の任を譲ったからな。引継ぎも終わったし、やることが少し減ったのさ」
まるゆ「…なんか複雑ですね」
武蔵「複雑?…ああ、確かに秘書艦を降りることにはなったが、それより姉さんと再会できた方がずっと嬉しいよ」
武蔵「それに、別に私は姉さんみたいに提督に熱を上げてるわけでもないからな」
まるゆ「そうなんですか?」
武蔵「ああ」
まるゆ「ということは、他にだれかいい人がいるんですか?」
武蔵「…///」
まるゆ(あ、赤くなった)
武蔵「…私はな、ここに来る前は佐世保鎮守府にいたんだ」
まるゆ「佐世保って、九州は長崎の佐世保ですか?」
武蔵「ああ。私はそこで秘書艦をしてたんだよ」
まるゆ「へえ、佐世保でも…」
まるゆ「つまり、武蔵さんは佐世保の司令官さんの事が好きっていうことなんですね」
武蔵「…///」
まるゆ(あ、かわいい)
武蔵「…まぁ、私を初めて拾ってくれた男だからな」
まるゆ「おぉぅ」
武蔵「転属となってしまって、今はもう1000キロ以上も離れてしまったが…彼は約束してくれたんだ」
まるゆ「あ、彼氏なんですね」
武蔵「この戦争が終わったら、必ず迎えに来てくれるとな」
まるゆ「ごちそうさまです」
武蔵「だから私は戦えるんだ。待っててくれる人がいる、というその事実だけで…」
まるゆ「幸せですねぇ」
武蔵「戦争が終わればまるゆにもいい男が見つかるさ」
まるゆ「…」
まるゆ「……………」
まるゆ「…武蔵さんなら、ぜひ分かってくださると思います」
武蔵「ん?何か言ったか?」
まるゆ「武蔵さんに、お話しておきたいことがあるんです」
武蔵「話?何の話だ?」
まるゆ「…木曾さんのことです」
武蔵「木曾…ああ、姉さんが心配してるあの重雷装巡洋艦か…」
武蔵「様子はだいたい見聞きしてるから分かる。ずいぶんと尖ってるらしいな」
まるゆ「…この話をしたこと、木曾さんには内緒ですよ?」
武蔵「ああ。分かった」
まるゆ「…木曾さん、ここに来る前はパラオ鎮守府にいたんです」
武蔵「パラオ?ああ、南洋庁のあるパラオか」
まるゆ「はい。球磨型のみなさんやまるゆも一緒でした」
武蔵「そうだったのか…私はそこまで南洋に行ったことはないな。パラオはどうだった?」
まるゆ「…」
武蔵「…まるゆ?」
まるゆ「…最初は、あんまりいいところじゃありませんでした」
武蔵「?」
まるゆ「最初の隊長さん…司令官さんが怖い方だったんです」
武蔵「…」
まるゆ「とにかく、何かにつけて艦娘をひどく扱う人だったんです。…陸軍出身のまるゆなんかは、特にそうでした」
武蔵「…そうだったのか」
まるゆ「木曾さんは、そんなまるゆを気にかけてくれました。もちろん大井さんたちもそうでしたけど、とりわけ木曾さんはよくしてくれました」
まるゆ「そんなことをすれば、自分だって余計に司令官からいびられるのに…」
武蔵「…優しい姉貴分なんだな」
まるゆ「そうです、そうなんです」
まるゆ「でも、そのうち司令官さんが替わって、パラオ鎮守府はとってもいい鎮守府になりました」
武蔵「ほう、それはよかったな」
まるゆ「はい。…一番嬉しかったのは木曾さんだと思います」
横鎮司令官執務室
ガチャ ジーコジーコ
提督「もしもーし。横鎮だ。佐世保か?」
佐世保提督「ももしし。誰かと思えば貴様か」
提督「もうすぐ例の作戦発動だな。準備はどうだ?」
佐世保提督「ああ、順調だ。おかげさまで、皆元気でやってるよ。そっちは?」
提督「こっちもさ。色々あるが、皆張り切ってる。そっちも元気で何よりだ」
佐世保提督「そうか。ところで…貰った電話で悪いが、その、あいつは…元気にしてるか?」
提督「武蔵か?もちろん、元気にしてるよ」
佐世保提督「そ、そうか」ホッ
提督「妬けるねぇ」
佐世保提督「何言ってんだ。お前も大和といい感じなんだろ?水交社で噂になってるぞ」
提督「ははっ。お互い戦後が楽しみだなぁ。ええ?」
佐世保提督「まあな。半年前、武蔵がうちから転属になると知った時は目の前が真っ暗になったが…」
提督「悪いが今回、武蔵を秘書艦から外させてもらったぞ」
佐世保提督「構わん。貴様の手から少しでも遠ざかるんなら安心だ」
提督「何言ってやがる。俺を信頼してなかったのか」
佐世保提督「冗談だよ。同期の貴様の鎮守府が武蔵の転属先だったことは幸運だと思ってる」
提督「そうかそうか。心配するな、俺のハートを撃ち抜いたのは大和のほうだ」
佐世保提督「大和といえば…話は聞いたぞ。酷ぇハラスメント野郎もいたもんだな。例の馬鹿野郎、駿河の司令官だったっけか?海軍将校の風上にも置けない奴だな」
提督「同感だ。一生営倉から出られんようにしてほしいくらいだ」
提督「そういや、今度の軍令部人事でめんどくさいのが軍令第一部部長になったぞ」
佐世保提督「ああ、俺らの二期上の先輩だろ?あんな理屈屋がすぐそばにいるなんて、横須賀も大変だなぁ」
提督「人ごとみたいに言うなよこの田舎者ww」
佐世保提督「まあせいぜいがんばらんばwww」
提督「方言は分かりませんバイwwwバイバイww」
佐世保提督「泣くぞww」
提督「冗談はさておきだ。ところで…貴様、そっちに特殊物資…の指輪は送られてきたか?」
佐世保提督「ああ、届いたよ。うちの艦娘たちに配布して演習させてみたが、確かに練度が向上してる」
提督「やっぱりか。すごいよなぁ。これで決号も…」
佐世保提督「…だが、ヘンだとは思わないか?」
提督「…」
佐世保提督「こんなブツがあるんなら、どうしてもっと早いうちに実戦配備されなかったんだ?」
提督「…開発が遅れてたんだろ」
佐世保提督「だとしても、それならこの指輪についての前情報とか噂が出ててもおかしくないじゃないか」
佐世保提督「ついに最終決戦と言うこの時期になって唐突に出てきたんだぞ、あの指輪。貴様だって前もってそんな話、聞いてなかっただろ?」
提督「…軍機だからだろ。何せ開発元は民間じゃない、艦政本部だからな」
佐世保提督「にしてもどうも引っ掛かるな…。なんだろう、これ」
提督「心配すんな。現にその指輪で艦娘の練度が向上してる。その事実を前に、他に何が要るってんだ?」
佐世保提督「…まあ、そうだな」
提督「さっさとこの戦争に片をつけて、早いとこ武蔵を佐世保に帰してやるよ。そしたら結婚するんだろ?ケッコンじゃなくて、結婚のほうだ」
佐世保提督「ああ。うちの親も最初は渋ってたが、とうとう納得させてやったよ。今や逆に式を楽しみにしてるくらいだ。あとは戦後に武蔵を落とすだけさ」
提督「万々歳じゃないか。よく説得できたな」
佐世保提督「艦娘だって普通の少女と何ら変わらんことを一番よく知ってるのは俺たちだろ?」
提督「ああ。その通りだ」
佐世保提督「じゃあ、武蔵をよろしく頼む。貴様らも仲良くやれよ。そして決戦のほうも頼むぞ」
提督「ああ、絶対に誰も沈めないぞ。戦争が終わればダブルデートしようぜ」
佐世保提督「楽しみだ。その時はぜひ佐世保に来い。いい街だから案内してやる。じゃあまたな、しっかりやれよ。海兵128期、万歳」
提督「達者でな。海兵128期、万歳」
ガチャ チーン
提督「…」
提督「………特殊物資の件、不信を抱いてたのは俺だけじゃなかった、か」フゥ
まるゆ「…木曾さんは、本当に幸福だったんです。新しい司令官さんと巡り合えて…」
武蔵「…!!!!」
武蔵「…それは、…」
まるゆ「…木曾さんはあの時、艦娘じゃなく、…一人の恋する少女だったんです。武蔵さんと同じように」
武蔵「…」
まるゆ「でも、今度の鎮守府再編で、パラオ鎮守府は解散してしまいました。…木曾さんは、司令官さんと離れ離れになっちゃったんです」
まるゆ「それは、誰よりも木曾さんにとって、とってもとってもつらいことだったんです」
まるゆ「…その後、司令官さんからの手紙や連絡なんかも全くないみたいですし…」
武蔵「…」
まるゆ「とにかく…それ以来、木曾さんは自分を封じ込めてしまいました」
まるゆ「それだけじゃありません…まるゆにはわかるんです。木曾さんは自分を消してしまおうとすらしてる…」
武蔵「…!」
武蔵「そこまで…思い詰めているのか?」
まるゆ「それは不思議な事じゃありません」
まるゆ「木曾さんは…まるゆの知ってる誰よりも優しく、そして誰よりも清純な人ですから…」
まるゆ「このままじゃ…木曾さん、あんまりにも可哀想です…」
武蔵「案ずるな。この戦争が終われば、二人はまた会えるさ。うん、探して会いに行けるさ」
まるゆ「本当、ですか…?」
武蔵「そうだろ。そうは思えないか?」
まるゆ「…本当に、会えるんでしょうか…」
武蔵「え…?」
今日はここまで
亀更新スマソ
日曜なのでゆっくり投下
まるゆ「武蔵さん、この戦争が終わったら、艦娘はどうなるんですか?」
まるゆ「…大本営は、統帥部は…皆さんが言っているように、本当に艦娘を普通の生活に解き放ってくれるんですか…?」
武蔵「…??」
まるゆ「皆さん、そのつもりで最終決戦を頑張って勝利しようとしてるんです。その希望は…本当にかなえられるんでしょうか…?」
武蔵「…提督たちだってそう言っている。戦争が終わったら、私たちは普通の少女として生きられるんだ、とな」
武蔵「私たちは昔みたいな鋼鉄の兵器じゃないんだ。こうして、互いに言葉を交わし、喜怒哀楽を抱きながら生きてる少女だ」
武蔵「そんな私たちを、戦争が終わったからと言って処分がなされるわけがないだろう?」
まるゆ「それは…そうかもしれません…けど…」
武蔵「心配する必要はないと思うぞ?」
まるゆ「武蔵さんがそうおっしゃるんなら…そうなんでしょうね…」
武蔵「ああ。というかそんなこと、私は気に掛けたこともなかった」
まるゆ「量産型だったまるゆと、大和型戦艦の武蔵さんの違いでしょうかね」
武蔵「ま、そんなことよりも今は目の前の作戦の準備だ。まるゆはどんな役回りを与えられてるんだ?」
まるゆ「まるゆは補給物資を抱えて戦闘海域に沈底待機してます。もし敵潜が出てきたら、その時は艦首魚雷で…!!」
武蔵「おお、その意気だ。補給も大切な任務だ、しっかり私たちを助けてくれ」
まるゆ「は、はいっ!!まるゆ、がんばります!」
武蔵「話してたら小腹がすいたな。よし、間宮にでも行くか!」
まるゆ「はい!」
まるゆ(…よかった。武蔵さんと話せて、少しは気が楽になりました…)
まるゆ(…木曾さんとも、またお茶しに行きたいな…昔みたいに…)
同じ頃
提督「…」テクテク
提督(…とりあえず、ヲ級の件はあれでよし、と…)
提督(それより、集中すべきは目の前の決号作戦だな…)
提督「…」
参謀『貴様はバカか!そんな指輪がどうしてこのタイミングで出てきたのか少しは頭を使って考えてみろ!』
提督「………………………………………くそっ…!先輩が余計なこと言うから、あれ以来心のどっかにモヤモヤが巣食っちまったじゃないか…!」
佐世保提督『…ヘンだとは思わないか?こんなブツがあるんなら、どうしてもっと早いうちに実戦配備されなかったんだ?ついに最終決戦と言うこの時期になって唐突に出てきたんだぞ、あの指輪。どうも引っ掛かるな…。なんだろう、これ』
提督「しかも同期だって、俺よりもまともに思考を働かせてやがった…!」
提督「…大本営に何か他意があるのか…?くそっ、海軍そのものに疑心暗鬼を抱いてちゃ、決号作戦に艦娘たちを送り出せねえ…!!」
<キュィーン カンカンカン
提督「…あ、ここは…」
工廠
工作妖精「…」トンテンカン トンテンカン
提督「……邪魔するよ」
工作妖精「あ、提督さん!」
提督「ご苦労さん。忙しそうだな」
工作妖精「何と言っても最終決戦前だからね。弾薬の増産で朝から晩までフル稼働だよ!」
提督「ありがとう。あまり根を詰め過ぎないようにな」
工作妖精「えへへ」
提督「…そこに並んでる弾薬は?」
工作妖精「ああこれ?大和さんから頼まれてたものの試作だよ。その名も新型三式弾!」
提督「新型三式弾??」
工作妖精「うん。大和さん、とっても張り切ってるみたいだよ。愛しの提督さんのお役に立とうって!」
提督「よ、よせよ」カァ
工作妖精「幸せ者だなぁ」コノコノ
提督「…そうそう。こんなに忙しいときに悪いんだが、時間に空きがあればこれを分析してもらいたいんだ」スッ
工作妖精「これは…ケッコン指輪?」
提督「いや、これはこないだ艦娘全員に配った練度向上用の指輪だ」
工作妖精「なんだ、ケッコン指輪に大和さんの名前入れるんじゃないんだね」
提督「このクソ忙しいときに優秀な妖精さんの手をそんなことで煩わせられるか…まあそれは今度お願いするよ」
工作妖精「えへへ、りょーかい……で、この指輪を…分析するって?これ、艦政本部直送ものでしょ?」
提督「…いやなに、初めて使うものだから、もし万が一不具合でもあれば困るなーって思っただけだよ。頼めるか?」
工作妖精「うん、分かった。まったく提督さんの艦隊の娘たちは幸せだね。ここまで気にかけてもらって」
提督「まあ、当然のことさ」
工作妖精「とにかく、急ぎでないんなら何とか時間見つけて分析してみるよ」
提督「忙しいのに済まないな」
工作妖精「いつもお世話になってるからねっ!」
吹雪「で、決号作戦序盤での私たちの艦隊の動きはこうこうこうで…」
叢雲「ふんふんふん」
白雪「なるほど…あっ!島風ちゃん!!島風ちゃーーん!!!」」
島風「えっ…何??」テクテク
白雪「ねえ、島風ちゃんも作戦会議に出てよ!」
島風「え~、だって私たちのやることは要するに囮戦闘でしょ?」
白雪「そうだけど、でも艦隊内での打ち合わせをしとかなくちゃ…」
島風「いいもん。私一人だって十分な作戦なんだし」
白雪「えっ…」
深雪「おいおい…そりゃないだろ…」
島風「と、とにかく、私はいいから!じゃあね!」ダッ
白雪「あっ…行っちゃった…」
吹雪「…困ったなぁ…」
島風「…ふんだ。作戦会議なんて、私には意味ないよ」
島風「…だって協同戦闘なんて退屈で非効率なんだもん。みんな私よりおそいし」
島風「ね、そう思うでしょ?連装砲ちゃん」
連装砲ちゃんA「キュイ」
連装砲ちゃんB「………」
島風「あ~あ、つまんない。潮風でも浴びに行こっと」タッ
防波堤
島風「あ…」
木曾「…」
島風「…ちょっと、ここは私の特等席なんだから。あっち行ってよ」
木曾「…俺が先客だ。生憎だったな」
島風「…このぼっち軽巡」ボソッ
木曾「…てめぇが言える立場か。それに俺は雷巡だ。ぼっち駆逐め」
島風「…」グッ
島風「た、大正生まれの鈍足のくせに!」
木曾「…」ハァ
島風「せ、せいぜい決号作戦では私の足引っ張らないでよね!それじゃ!」ダッ
木曾「…」アキレ
木曾「…ふん………」
昼 飯
同じ頃 敷地内
大和「…」テクテク
榛名「あ、大和さん!」タッ
大和「は、榛名さん、こんにちは」
榛名「大和さん、どちらかに行かれるんですか?」
大和「ええ…今回せっかく横須賀鎮守府に来たのですから、せめて鎮守府の周りの地理をお勉強したいと思って…お散歩です!」
榛名「そうですか…なら不肖、この榛名がご案内しましょう!」
大和「いいんですか…?」
榛名「ええ。私のほうは決号作戦の準備もだいたい終わってますから。大和さんは?」
大和「はい、大和も妖精さんに新型砲弾の製作をお願いしてます。今のところは秘書艦業務も一段落しましたので…」
榛名「へぇ…。まあ何にしろ、今は一息つけそうってことですね!」
大和「すみません、お世話をおかけします」
榛名「何言ってるんですか、同じ戦艦じゃないですか」
憲兵「行ってらっしゃい」
大和「…♪」テクテク
榛名「大和さん、楽しそうですね」クス
大和「あ…つい浮かれちゃって…」
榛名「いいんですよ?」
大和「大和は…70年近くも冷たい海の底で眠っていました。陽も当たらず、風もそよがず、花も咲かない寂しい海の底で…」
榛名「…」
大和「…だから大和はこうして陸をお散歩するのが大好きなんです。とっても幸せです」
榛名「ええ、榛名もです。過去の自分では決して見ることのできなかった陸からの海景…榛名は大好きです」
大和「ええ、分かります」
榛名「…あれ?」
ゴホッ ゲホゲホッ
榛名「お婆さん!お婆さんじゃないですか!」
婆ちゃん「おや…はるなちゃんじゃないの」
大和「お知り合いの方なんですか?」
榛名「顔見知りのお婆さんです。横須賀鎮守府は地域交流のために清掃や高齢者施設の慰問のボランティアもしていますから」
大和「へぇ…。それはいいことですね!」
榛名「ちなみにこのお婆さんは近くのデイサービスに通われてる方です」
大和「でい…さーびす?」
榛名「ご自宅での生活が難しい高齢の方が、日中だけ通いで利用される生活施設です」
大和「なるほど…そういった施設があるんですね…」
榛名「お婆さん、大丈夫ですか?」
婆ちゃん「大丈夫だよ。昔、若いころに喉をやられてしまってねぇ…」
榛名「…」
大和「…???」
婆ちゃん「勤労動員って知ってるかい?」
大和「ええ。大戦後期に、銃後の学生さんたちが農作業や工場での作業に動員されたことですよね?」
婆ちゃん「あら、若いのによう知ってるねぇ」
婆ちゃん「あたしゃこの近くの工場で、軍艦用の滑り止め塗料の配合作業をさせられてたんだよ」
婆ちゃん「その時、配合するシンナーのせいで喉が悪くなってしまってねぇ」
大和「っ…」
婆ちゃん「戦争は嫌だよ。どんな理由があったとしても、必ず誰かが命を奪われて、傷ついて、不幸になってしまうんだ」
婆ちゃん「何より平和が一番だよ…」
婆ちゃん「この歌を知ってるかね?」
婆ちゃん「若き 血潮の 予科練の…」
大和・榛名「七つボタンは 桜に錨…」
婆ちゃん「今日も飛ぶ飛ぶ 霞ヶ浦にゃ…」
大和・榛名「でっかい希望の 雲が湧く…」
婆ちゃん「あたしの最初の旦那が教えてくれた歌だよ。予科練にいたのさ」
婆ちゃん「…そして特攻で死んでしまったよ。短い新婚生活だったよ…」
大和・榛名「…」
婆ちゃん「綺麗な子だねぇ。名前は?」
大和「大和、って言います」
婆ちゃん「やまと、ちゃんね…。まつ毛が長くて綺麗な顔をしてるねぇ」
大和「そ、そんな…」カァア
婆ちゃん「お世辞じゃないよ。はるなちゃん、やまとちゃんに薄化粧のやり方を教えてあげたらどうだい?」
榛名「そうですね。それよりお婆さんに教えてもらったほうが綺麗だと思いますよ?」
大和「ひょっとしたら、半世紀以上前にお婆さんが必死に作ってくれたお化粧品のお世話になってたかもしれませんし…」
榛名「ね」
婆ちゃん「??」
???「あ、見つけたっ!!!」
大和・榛名「???」
介護職員「はぁはぁ…お婆さん、こんなところにいらっしゃったんですか…」ハァハァ
婆ちゃん「あれ、見つかっちゃったかね」
介護職員「見つかっちゃったじゃないですよ!もう、勝手にデイを抜け出したりして!あたし達がどれだけ心配して探したか…」
婆ちゃん「塗り絵をしたり唱歌を歌ったりだなんて退屈なもんさ。抜け出して何が悪いもんかね」
介護職員「はぁ…。もういいから戻りましょう?ほら、所長もハイエースで迎えに来てますから」
介護職員「あ、ハルナさんもいらっしゃったんですね!」
榛名「お久しぶりです。お仕事ご苦労様ですね」クスッ
介護職員「ほんとですよ…もう、このお婆さんには鍛えられっぱなしです…」ハァ
介護職員「そちらの方は?」
大和「大和です。はじめまして」
介護職員「あ、はじめまして!ヤマトさんもお仕事頑張ってくださいね!」
大和「…!」
大和「はい!ありがとうございm…」
???「おい」
介護職員「あ、所長…」
デイ相談員「…お婆さん、探しましたよ」
婆ちゃん「あれ、所長さんまで来てるのかね」
相談員「さ、帰りますよ。乗って乗って」
婆ちゃん「やれやれ、捕まっちまったねぇ。じゃあまたね、はるなちゃん、やまとちゃん」
介護職員「し、失礼します…」
バタン ブロロロロ…
介護職員「すみません、所長。お待たせしました」
介護職員「申し訳ありません。利用者を行方不明にさせてしまって…」
相談員「……まあしょうがない。エスケープは困るが、一人で外出しようとされるのは、それだけお元気な証拠ってもんさ。ま、これからは見守りをより徹底してくれ」
介護職員「ええ…」
相談員「それより…お婆さんを艦娘と会わせたのか?」
介護職員「あ、会わせたというより、偶然出会ったみたいで…」
相談員「ちっ…困るよ…うちの利用者さんを不必要に艦娘なんかと接触させるなんて」
介護職員「…」
相談員「上は高齢者と艦娘の交流機会をぜひ取れって言うけどさ、俺自身は嫌なんだよな」
相談員「あいつら、殺人兵器だろ?」
介護職員「!?」
相談員「介護現場にロボットなんかを導入しようって言うのと同じで、不気味さしか感じないよ」
介護職員「所長、艦娘さんはロボットじゃ…」
相談員「じゃああいつらは人間か?」
介護職員「でも艦娘さんたちがボランティアでデイに来てくれたら利用者さんたちや、そのご家族も喜んでくださってるじゃないですか…」
相談員「…」
介護職員「私たちだって業務が軽減されて助かってるっていうのに、そんな言い方って…!」
相談員「だとしてもあいつらが兵器であることに違いはないだろう!」
介護職員「…」
介護職員「所長、お言葉ですが、人間だって完全じゃありません。そうでなければ、夜勤中に入居者を建物から突き落す事件が起こるでしょうか?」
介護職員「そんな人の皮を被ったような悪魔より、ハルナさんたち艦娘さんたちのほうが、どれほど人間らしいか…」
相談員「周囲の環境に左右されうる人間と、存在そのものが何かを破壊するためにある艦娘を一緒にするのか!?」
介護職員「…」
相談員「そうでなくても今度の制度改定でうちみたいな小規模通所型は経営が大変なんだ」
相談員「完全に法人内の特養とかSS(ショートステイ…短期通所)の収益に助けられてる状況さ」
相談員「その特養やSSのベッド稼働率も大変なことになってるんだ。待機者が50人いようが100人いようが、特養はホテルとは違うからな…」
相談員「ったく…。それもこれも政権が軍事に…艦娘なんかにカネを使いまくるからだ。肝心な社会福祉はなおざりにしちまいやがって…!!」
介護職員「…今度の介護保険制度改定で、レセプトの中で介護職員処遇改善加算を取れるようにもなったのに、ですか?」
相談員「…マイナンバーとかいう面倒で煩雑な制度を持ち込まれて、介護現場の仕事を無駄に増やされているにもかかわらず、そう言えるのか?」
介護職員「…」
相談員「…もういい。早く戻ろう」
介護職員「…はい」
婆ちゃん「zzz」
榛名「…榛名は、あのお婆さんとお話しするたびに、いつも複雑な思いになります」
大和「…分かります」
大和「でも決して、あのお婆さんは大和たちのことを嫌ったり、傷つけたりしようとしてああ言ってるんじゃないと思います」
榛名「ええ。その通りです」
大和「ただ…大和たちの本来の存在理由が求められる状況というのは、同時にいろいろな人たちの幸せをも奪い去ってしまう状況でもあるということなんですね」
榛名「…皮肉でもあり悲しいことでもありますけど、そうですよね」
榛名「…だから榛名は、この戦争が終わって、早く普通の女の子としてお姉さまたちや他の娘たちと幸せに、そして平和に過ごせる時が来るのを心待ちにしてます」
大和「それは…いいですね…!」
榛名「何を言ってるんですか?」
大和「?」
榛名「人ごとじゃありません。大和さんも一緒に普通の女の子として幸せになるんです。…提督と」
大和「!!?」
榛名「大和さんが提督のことをお慕いしているのは周知の事実じゃないですか。提督も大和さんに同じ想いを持たれてるようですし…」
榛名「…ちょっと妬いちゃいますけどね」ボソ
大和「…大和が、そんなに幸せになってもいいんでしょうか?」
榛名「え…???」
大和「…」
榛名「…どうして……そんなことを言うんです?……ご自分に自信を持てないんですか?」
大和「…」
榛名「榛名には不思議です。私たちの象徴たる大和さんともあろう方が…」
大和「でも…大和は…」
憲兵「おうお帰り」
榛名「あ、憲兵さん」
大和「戦艦大和と戦艦榛名、ただ今帰投しました!」
憲兵「そうそう、提督が大和ちゃんのこと探してたよ。頼みたいことがあるから帰ったら執務室に来てくれってさ」
大和「…?」
榛名「あらあら」クスッ
司令官執務室
提督「おう大和、お帰り。散歩はどうだった?」
大和「はい、榛名さんとご一緒出来て、楽しかったです!」
提督「そうか、そりゃよかった」
大和「それで、ご用件は?」
提督「ああ。明日だけどな、大本営に行ってもらいたいんだ」
大和「大本営…軍令部にですか?」
提督「そうだ。決号作戦の物資絡みの稟議書を出してもらいたくてさ」スッ
大和「提督印、秘書艦印、各戦隊旗艦印…全部揃ってますね」パラ
提督「ああ。あとは軍令部のお偉方に査収してもらうだけだ。決戦前に書類関係は片しときたいしな」
大和「はい、分かりました」
大和(提督もお忙しいですもんね。これくらいの事はお役に立たなくちゃ)フンス
提督(…俺が出向いてまた先輩に鉢合わせしたら…気まずいしな…)
コンコンコン
天龍「邪魔するぜ。今日の演習の結果を…って取り込み中か。何かあったのか?」
大和「ええ。明日、大和は軍令部におつかいに行くよう命ぜられました」
天龍「あ、提督!!俺も大本営行きたい!!」ピョンピョン
提督「え?ったく、遊びに行くんじゃないんだぞ…」
天龍「コーガクのためだよ。いいだろ?」
提督「わかった。なら木曾も随員として一緒に連れて行け」
天龍「えーーーー!?やだよ、せっかくの外出なのに、なんであんな野郎と…」
提督「その“あんな野郎”と背中を守り合いながら戦うんだぞ。水雷戦隊の面倒見のいい姉貴分の言葉とは思えないなぁ」
天龍「ちっ…分かったよ」
提督「おお。それでこそ我らが天龍だ。期待してるぞ」
天龍「けっ…褒めても何も出ねえよ」ピコピコピコ
大和(提督、天龍さんの扱いがうまいなぁ)
提督「まあ、暑いから麦茶でも飲んでけよ」コポポ
天龍「お、サンキュ」クピ
大和「も、申し訳ありません。頂きます」
提督「決号前に脱水症状にでもなってしまったら事だからな。水分補給はしっかり…痛っ…!」
大和「て、提督?どうされました??」
提督「…何でもない。麦茶が染みただけだ…つっ…」
天龍「お?虫歯か?」
提督「いや…大丈夫だって。問題ない…」
大和「…???」
その夜
コンコンコン
まるゆ「木曾さん、入りますよ」
木曾「…どうした、まるゆ」
まるゆ「秘書艦の大和さんから伝言です…明日1000、大和さんと天龍さんの随員として、軍令部へ同道するように、とのことです」
木曾「っ…」
木曾「…分かった。すまねえな、ありがとう」
まるゆ「…木曾さん、あの、まるゆ…」
木曾「…」
まるゆ「…決号ではあまりお役に立てないかもしれませんけど、もし…魚雷が切れたら呼んでください。すぐ、駆け付けますから」
木曾「…ああ。頼りにしてるぜ」ワシャワシャ
まるゆ「…」
木曾「…じゃあな、俺もう寝るからさ」
まるゆ「…はい。おやすみなさい」
バタン
まるゆ(木曾さん…)
大井「…どうだった?」
まるゆ「あ、大井さん…北上さん…。別に、いつもの感じでした…」
北上「…私達、決号を前にして、敵よりも木曾っちのほうが気に掛かっててさ…」
まるゆ「…明日、木曾さんは大和さんと天龍さんと一緒に軍令部におつかいに行くよう命令が出たんです」
大井「…そうなんだ。でも、よりによって天龍とね…」
北上「…ま、外出で多少は気がまぎれるかもだけどね」
まるゆ「そうなってくれれば、いいんですけど…」
大井「あんたにも心配かけて、すまないわね…」
また夜に再開します
その頃 倉庫
???「…」ゴソゴソ
ヲ級「…??」ムクリ
ヲ級『誰?誰かいるの?』
???「!!!」
ヲ級『ああっ!!!ノーちゃん!!』ガバッ
リ級『ホーちゃん!!ああ、無事で良かった!!』ギュッ
ヲ級『ノーちゃんこそ!!あの時、沈められたと思ってた…!!』ギュッ
リ級『けっこう喰らいはしたけど、あれぐらいで轟沈させられてたまるものかってもんよ!』
ヲ級『でも、よくここまで…』
リ級『日本軍のレーダーに引っ掛からないように、武装も艤装も全部近くの島に置いて、あとは泳いで来たのよ!』
ヲ級『そ、そこまでしてきてくれたの…!ありがとう!よくここが分かったね!』
リ級『拿捕されたからにはたぶんこんな倉庫じゃないかなって思ったの!』フンス
リ級『それもこれも、貴女を助けるためよ!他は薄情な娘たちでも、私はちゃんと貴女を連れ戻しにここまで来たんだから!』
ヲ級『…』
リ級『さ、ぐずぐずしてちゃいられないわ。急いで逃げましょう!』
ヲ級『…ノーちゃん』
リ級『え、何?』
ヲ級『一緒に、ここにいよう?』
リ級『…何を言ってるの?』
ヲ級『前にも言ったでしょ?私たちは、もう日本軍には勝てないって…』
リ級『…』
ヲ級『ほら、私はこうして何とか日本軍の庇護を受けて生きてるわ。ここの司令官クラスの将校も私を見に来たけど、別に取って食べられるわけでもなくそのままにされてるの』
リ級『そんなの、この先どうなるかは分かんないじゃない!』
ヲ級『見てよ、あれを』
リ級『あれ…?』
ヲ級『ここ数日で、ここの工場が増産してる弾薬よ。見てよ、いろんな砲弾や魚雷、機銃弾、挙句の果てには新しい砲身まで揃ってる』
リ級『…』
ヲ級『日本軍は間違いなく私たちへの大攻勢を企図してるわ。それも遠からず。そして間違いなく、あの大量の弾薬は私たちに飛んでくるはずよ』
ヲ級『…ここから逃げ出して本隊に戻って戦線復帰したところで、私たちの運命はもう決まったようなものなの!』
リ級『…だったら、今ここの弾薬を爆破して逃げ出せば…』
ヲ級『どうやって?よしんば爆破できても、そんな状況で脱出できるわけがないじゃない。それに日本軍の鎮守府はここだけじゃないんだよ?』
リ級『…』
ヲ級『…私だって、他のみんなのことは気がかりよ。あの砲弾がみんなの身体をいずれ貫いてくって考えたら…』
リ級『…』
ヲ級『けど、確実に死ぬ運命に向かっていくよりは、何とか生き残る道を探した方がいいに決まってるよ!いくらそれが利己的って言われても!そうでしょう!?』
リ級『っ…』
ヲ級『だってせっかく生まれ変わってきたのに!今度こそはノーちゃんと平和に生きられるって思ったのにっ!!!』
ヲ級『だったら…虜囚の辱めを受けても、一日でも長く生きてられたほうがいいじゃない…』
リ級『ホーちゃんは…』
ヲ級『…?』
リ級『貴女は私たちを…いいえ、私を捨てるのね!?』
ヲ級『そういうことを言ってるんじゃないの!ねぇ、お願いだから一緒にここで生き残ろうよ!』
ヲ級『もしそれが嫌だっていうのなら、私が戦線復帰する代わりにノーちゃんがここに残って!最悪でもそのほうがいいよ!』
リ級『ふざけないでっ!!』
ヲ級『…!!』
リ級『…せっかく生まれ変われたのに!今度こそは貴女を守ってみせるって誓ったのに!!』ブルブル
ヲ級『っ…!』
リ級『ねぇ、こんな悔しいことってある…!?私じゃ、貴女を守りきれないって言うの…??』
ヲ級『ノーちゃんの分からず屋!!それが叶わないから私はここにいるんじゃない!!』
リ級『っ…』ポロポロッ
ヲ級『ノーちゃん…』
リ級『…』グシッ
リ級『…さようなら、ホーちゃん』ダッ
ヲ級『あっ!待ってノーちゃん!行かないでっ!!!』
リ級『~~~っ!!!』
リ級『許せない…!!ヨコスカ鎮守府の日本軍だけは絶対に許せない…!!!!!!!』
翌日 1000時
憲兵「みんな乗ったか?よし、海軍軍令部へ出発するぞ」ブロロロロ
天龍「…」ツーン
木曾「…」ツーン
大和「…」オロオロ
大和「あの…何か話しませんか…?」
天龍「…俺が?誰と?」
木曾「…」
大和「三人一緒にですよ」
天龍「…大和と二人ならいいけどよ」チラ
木曾「…そりゃこっちのセリフだ。大体、なんで俺がてめぇなんかと仲良く外出なんかしなくちゃいけねぇんだよ」チラ
天龍「あんだとぉ!?」
木曾「ぁあ!?」
大和「…いい加減にしなさい」ポン ギュッ
木曾「ぐ…」ミシ・・・
天龍「ぎ…」メキ…
大和「…もう、お二人とも。友軍艦どうしで仲違いするなんて、どうかしてます!!」
大和「艦隊は連携してこそ本来の力を発揮できるんです。それが上手くできなかったから、私たちは前世で屈辱を味わったんじゃありませんか」
木曾「…」
天龍「…」
天龍「あ~あ。大和はいいよなぁ。正妻戦艦だもんなぁ。羨ましいぜ」
大和「えっ…///」
大和「その…ごめんなさい…」
天龍「何言ってんだよ。別に俺は提督一筋ってわけじゃねえ」
天龍「戦争が終わったら、普通の女としていい男を見つけるさ」
木曾(…戦争が終わったら、か……)
木曾(………普通……)
木曾(………ダメだ。俺には、やっぱりアイツしか…)
天龍「でもやっぱり大和が羨ましいよ。武装もスタイルも連合艦隊の中じゃ悔しいけどピカ一だしさ」
天龍「まぁ提督に見初められるのも無理はねえな」
大和「…大和自身は、そんなことはまったく思ってません」
大和「…大和は、ただ大きいだけの役立たずです」
天龍「お、おいおい、そんな風に自分を卑下すんなよ」
大和「実際そうです。…大和は、いままでいろいろな鎮守府を巡ってきました」
大和「最初はどの司令官も歓迎してくれるんです。大日本帝国海軍の象徴だった大和の着任を」
大和「…でも、すぐに気づくんです。大和がただの大喰らいの低速戦艦だってことに」
大和「…最終的に大和は鎮守府のお人形さんになるか、司令官たちの下卑た目に晒されるか…」
大和「…そして挙句の果てには維持しきれなくなって放り出され…その繰り返しでした」
天龍「…」
木曾「…」
大和「だから、大和はほとんど出撃させてもらえることもなく、各地の鎮守府を転々とすることになったんです」
大和「…それでも、大和はこの戦いで、一度だけでもいいから人々のお役に立ちたかった」
大和「そうでなければ、大和はまた無念だけを背負って朽ちていくことになるでしょうから…」
木曾「…?」
天龍「“また”……?」
大和「前世の大和が、………たくさんの命を巻き添えに、そして見殺しにした無念です」
木曾「…」
天龍「…」
大和「大和たちを作り出した大日本帝国が滅びるきっかけとなった、あの大東亜戦争…」
大和「あの戦争の最期で…戦禍に苦しんでいる沖縄の…日本中の人々を守れなかったことが、大和にとってはあまりにも無念でした」
大和「それだけだったんです。それだけの思いがあって、大和は沈んでも沈みきれなかった…!!!」
大和「昭和20年3月、大和たち聯合第二艦隊は、沖縄方面への特攻出撃命令を受けました。地上戦が始まっていた沖縄本島に向けて、生還を期さない出撃を…」
大和「…結果は、お二人もご存知の通りですが」
木曾「…」
大和「もし…もしもの話です。大和が沖縄にたどり着き…いいえ、せめて主砲の射程距離内にまで近づけていたとしたら…」
大和「この大和は、46センチ砲の主砲弾を沖縄の米軍陣地に無慈悲に叩き込んだことでしょう。南北に分断され、米軍に蹂躙された沖縄本島の中央地帯の敵制圧下の地域に、です」
天龍「…着弾観測機がない状況でも…か?」
大和「だとしても、沖縄には太田海軍少将率いる海軍陸戦隊が上陸していました。通信機器も充実し、しかも硫黄島とは違い、現地の陸軍第32軍司令部と良好な関係を築いていた太田少将の陸戦隊との通信さえ繋がれば…」
大和「せめて嘉手納湾の敵橋頭保と物資集積地だけでもピンポイントで砲撃できたかもしれません。ややもすれば、米軍占領下の北飛行場及び中飛行場をかなりの期間にわたり使用不能にできるまでに破壊し尽くすことができたかもしれないんですっ!!!」
大和「持てる弾薬をすべて撃ち尽くして…いいえ、撃ち尽くす前に敵の艦載機に沈められたとしても…もしそれだけのことが実行できていたら…」
大和「沖縄の陸軍第32軍は戦線を一気に取り戻し、飛行場も奪還して…そうでなくても史実のような自殺的反攻作戦を強行し、その後南部撤退で住民まで巻き込むことは避けられたかもしれません」
大和「それどころか、飛行場を使用不能にすれば、迎撃される危険が少なくなって味方特攻機の突入可能性が高まり、米太平洋艦隊への打撃も期待できたでしょう」
大和「正規であろうと軽空母であろうと、敵空母をせめて発着艦できない状況に追い込めば、沖縄はもちろん日本本土各地への艦載機による機銃掃射攻撃も防ぐことができました」
大和「…そして、原爆投下機の緊急不時着飛行場としてのオキナワが使えないとなれば、米軍は原子爆弾で重鈍になったB29による本土への核攻撃を躊躇し、米世論も好戦的気運を薄れさせたでしょう」
大和「そうなれば…鈴木内閣は米トルーマン政権と、もっと穏やかな形での…講和を…」
大和「もし…もし大和さえ使命を全うできていれば…この国は、もっと多くの命とともに終戦を迎えられたかもしれないんですっ!!!!!」
天龍「っ…」
大和「……恐らく、あの時大和と共に沈んだ娘たちも、大和と運命を共にされた司令長官も艦長も、乗組員の皆さんも…似たような思いを持たれていたんじゃないでしょうか」
大和「大和は、そんな数多の願いを無にしてしまいました」
大和「大和のいままでの提督は、大和のそうした無念さを理解してくれませんでした」
大和「でも…提督は、大和に言ってくれたんです」
大和「俺は、前世でもっとも悲惨な運命を背負わされて沈められた大和にこそ、一緒に頑張ってほしい、と…!」
大和「…戦艦…いいえ、艦娘として、大和はこの方のためならもう一度沈められたっていいと思いました」
大和「そう思わせてくれるあの方のために、あの方の望む平和のために……大和は…すべてを捧げるつもりです…」
木曾「…」
天龍「…ああ。俺もさ」
天龍「手の付けられねえ腕白で、あっちこっちの鎮守府からつまみ出されてた俺を、あの提督は拾ってくれた」
天龍「他の司令官どもみたいに兵器やオナペットとしてじゃなく、艦娘として俺に向き合ってくれたんだ」
木曾「…」
天龍「そういうことだな。…なあ木曾」
木曾「んだよ」
天龍「横鎮に来て日が浅いてめぇにはうっとおしいかも知れねえけどさ、俺らや古くから横鎮にいる艦娘達には、俺らの提督は実の家族みてぇな大切な存在なんだよ…」
木曾「…そりゃ分かるさ」
天龍「ならちったあ敬えってもんだろ?違うか?」
木曾「…ふん。非礼は働いてる覚えはねぇぜ」
天龍「ったく…相も変わらずいけすかねえ野郎だ…昔っから全然変わんねえな…」
木曾「その言葉、そっくりてめぇに返す」
大和「昔?」
大和「…お二人は以前からご一緒だったんですか?」
天龍「…違う。木曾の野郎が前の鎮守府にいたとき、一度だけ俺たちと演習を組んだことがあったんだ」
大和「まぁ、そんなことがあったんですか」
天龍「ああ…くっそ面白くもなかったけどさ」
天龍「演習開始前のことだ。双方が向かい合ったとき、木曾の野郎がいきなり叫んだんだ」
大和「叫んだ…?」
天龍「こいつ何て言ったと思う?『お前らの指揮官は無能だな!』って抜かしやがったんだ!」
大和「ま、まぁ…」
木曾「……あれは景気づけみてぇなもんだって。別に本気でお前らの提督を愚弄するつもりだったわけじゃねえ」
天龍「何が“お前らの提督”だ!今やそれがてめぇの提督なんだぞ」
大和「…その演習の結果はどうなったんですか?」
天龍「…」
天龍「…引き分けだよ。格上のはずだった俺たち横鎮第一水雷戦隊は、こいつらと刺し違えなきゃならねぇ状態まで追い込まれた」
大和「まぁ…」
天龍「………俺は、木曾の野郎と相討ちだった」
天龍「誰かはよく覚えてねえけど、無名の鎮守府の提督にしちゃあ、こいつらの提督は優秀な司令官だったんだろうよ」
大和「へぇ…そんな方ならぜひお会いしてみたいものですね」
木曾(…もし、アイツともう一度会えたら…どんなに幸せだろうな…)
木曾(…くそっ!)
海軍軍令部
憲兵「着いたぞ。海軍軍令部だ」キキッ
大和「ありがとうございます」バタム
天龍「へぇ~、ここが軍令部か…」
木曾「…」
大和「それじゃ、大和は書類を提出してきます。皆さんは軍令部内でゆっくり見学などされていて下さい」スッ
憲兵「お、俺は車で待ってるよ。憲兵腕章をつけたまま海軍軍令部に入るなんて気が引ける」
天龍「なに言ってんだよ。いいから来いって!」
憲兵「あ!引っ張るなって…」ヨロ
天龍「なぁ、ちょっと早いけどここの食堂でメシ食おうぜ!」
憲兵「え…いいのか?」
天龍「何遠慮してんだよ!ほら!」グイグイ
憲兵「俺だけ昭5式軍服だよ…浮きまくりだよ…」
木曾「…俺は適当にうろついてるからいいよ」
憲兵「え…?」
木曾「じゃあな。30分くらいしたら車んとこに戻る」スッ
憲兵「あ、待ちなよ、一緒に…」
天龍「放っとけって。気ぃ使ってくれてんだよ」
憲兵「気を遣う…?誰にだ?」
天龍「…ちっ」
憲兵「??」
木曾(…これが海軍軍令部か)テクテク
木曾(重厚だな。日本海軍の歴史がそのまま建物の貫禄になって息づいてる)
木曾(まるで…アイツが言ってた、江田島兵学校の校舎みたいだな)
カッ… カッ…
木曾(あ、将官がいる)
木曾(ちっ…こっちから敬礼しなきゃいけねえだろうな…)
木曾(あっ、なんだ、こっちには気づいてねえか…)
木曾(…)
木曾(………っ!!!!!!!!!!!!!!!)
ギィィ…バタン
木曾「~っ!!!!」ダッ
木曾「ま、待って…!!」
軍令部食堂
天龍「海軍カレー二つ」
烹炊長「へいお待ち」ドン
天龍「ほら、海軍カレーだぞ」
憲兵「おお、早いな。あ、水持ってきた」コト
天龍「おっ、気が利くな。じゃあ食おうぜ」
憲兵「いただきます」モグ
憲兵「…うまいな」
天龍「だろ?」
天龍「海軍のカレーは天下一品だぜ」モグモグモグ
憲兵「…」ボー
天龍「…ぁ?どうした、俺の顔になんかついてるか?」
憲兵「…いや、すまない。ただ…」
天龍「…?」
憲兵「…艦娘もこうして俺らと同じように元気に食事するんだなって…」
天龍「…」
憲兵「す、すまん。気を悪くしたか?」
天龍「んなわけねーだろ。いや…そうだよな、俺らって、そんなに理解されてるわけでもないもんな」
憲兵「…俺は、お前らには偏見なんか持ちたくはないと思ってるよ」
天龍「そっか…。だったら俺らのこと、少しずつ理解してけってぇの…これからのためにさ」
憲兵「これから…?」
天龍「…!」ハッ
天龍「な、なんでもねえ!ほ、ほら早く食えよ冷めちまうぞ!!」
軍令部第一部長室
参謀(…もう決号作戦の発動まで日がない)
参謀(果たして、あの指輪は信頼に足るものなのか?)
参謀(くそっ…こればかりは分からん…!艦政本部の管轄に第一部が介入するわけにも…)
参謀(……すべて、俺の杞憂であってくれればいいんだが…!)
ガチャ!
木曾「ハァ…ハァ…」
参謀「…誰だ?ノックもせずに入室とは…」
参謀「ぁ……!!!」
木曾「…“提督”っ!!!」
参謀「き…木曾…っ!!!」
木曾「ぁあ…!!!」ダッ
ダキッ
木曾「嘘…そんな、……わ、私…俺…ああ、!!!逢いたかった…逢いたかった…!!!!」
参謀「ああ…お、俺に会いに来てくれたのか…!!木曾っ………!!!!」
木曾「ああ…嘘だ…嘘だろ…嬉しい…軍令部に栄転してたのかよ、お前…!!」ポロポロ
参謀「お前と離ればなれになって何が栄転だというんだっ…!馬鹿馬鹿しい…!!!」
木曾「どうして、あの時、“戦争が終わったらまた会おう”と一言、言ってくれなかったんだよっ…!!!」
参謀「そうじゃない…ああ赦してくれ、赦してくれ、俺は…俺が…あまりにも…」
参謀「俺は…俺自身のあのパラオでの日々の幸福が、俺自身で心の底から信じられなかったから…!俺は卑劣な人間だ…!だから…!」
木曾「へっ…何を小難しいこと言ってやがる…!変わんねえな、お前…!」グシッ
参謀「そう簡単に変わってたまるものか、俺みたいな偏屈な男が…んぐっ…?」チュ
木曾「ん…」チュパ
参謀「…」プハ
参謀「…攻めてくれるじゃないか。ん?」
木曾「俺を雷巡にしたのはお前だぞ。忘れたのか?」
参謀「違いないな…ふふっ…」
木曾「あはは…!」
参謀「はは…ん?」
木曾「?」
参謀「…その指輪は?」
木曾「っ…!ち、違うんだ、これは決号作戦前に鎮守府の全員に配られた指輪で、決してケッコン指輪なんかじゃ…」アセアセ
参謀「…外せっ!!すぐに外せっ!!」
木曾「え…でも、横鎮の提督が軍命だからって…」
参謀「あの馬鹿野郎が…!いいから外すんだ!!」
コンコンコン
参謀「!?」バッ
木曾「!!」バッ
大和「失礼いたします。アポも取らず押しかけまして申し訳ありません。横須賀鎮守府秘書艦の戦艦大和です」
大和「…木曾さん?」
参謀「あ…いや、この雷巡には書類運びを手伝ってもらっただけだ」
大和「…?」
参謀「それで、何の用だ?」
大和「単刀直入に申し上げます。参謀殿は先日、私たちの艦隊司令に暴行をはたらかれましたね?」ギラッ
木曾「!?」
木曾「…待てよ。一体何の話だ?」
大和「提督は先日、口の中を切るケガをされてたんです。不思議に思って大淀さんに確認したら、数日前に提督は参謀殿に出頭を命じられていました。その場で、提督は参謀殿に…」
参謀「…」
大和「…提督は、私たちに心配をかけまいとその件については黙っておられたんです…」
木曾「…!」
参謀「…」
大和「無言は言外の肯定、と解釈してよろしいでしょうか?」
参謀「…」
大和「何とか言ってくださいっ!!!」
大和「よくも…よくも私たちの司令官に、酷い真似を…!!」
参謀「…貴様の知ったことではない。将官では将官の間でのやり取りというものがあるのだ」
大和「よくも…よくも私たちの大切な提督に、そんな酷い真似をっ…!!!」バンッ!
参謀「…貴様も、特殊物資…の指輪をしてるのか」
大和「ええ。それが?」
参謀「悪いことは言わん。外せ!」
大和「…よほど大和を怒らせたいようですね。いきなり何の話ですか!?これは提督と私たち横鎮艦隊の絆ですっ!絶対に外しません!」
参謀「外せ!軍令部将校の言うことが聞けないのか!?」
大和「いくら軍令部付であろうと、艦隊司令ではない将校の命令に従う義理はありませんっ!!」
参謀「大和…!!」
大和「…参謀殿、今から横鎮司令官に電話で謝罪してください。そうすれば大和も矛を収めましょう」
参謀「…」
木曾「…おい大和。軍令部将校を恐喝する気か?」
大和「…恐喝?大和はただ、正当な要求をしているだけです。それのどこが恐喝ですか?」
木曾「将校の間には俺らの理解の及ばないやり取りだってあるだろ。そこに首を突っ込みたいのか?」
大和「木曾さん…貴女はいったい、誰の艦娘ですか?」
木曾「…」
大和「…この参謀が貴女の過去の提督だというのは分かりました。ですが、それだけで貴女がこの方をなお庇いだてするというのなら捨ておくわけにはいきません。…口出ししないでください」スッ
木曾「…」バッ
参謀「き、木曾…」
大和「…どいて下さい」
木曾「…お断りだ。大和こそ下がれ」
大和「木曾さんっ!」
木曾「大和…!」ガシッ
大和「邪魔立てするつもりですか…?」ガシッ グググ
木曾「ぐっ…!」ズズッ
大和「…」グググ
木曾「っ…!」
参謀「…もういい、止めてくれ。木曾、大和、俺は…」
ガチャ
元帥「何の騒ぎかね…?」
参謀「元帥…!」
木曾「…!」ザッ
大和「!」ザッ
元帥「表を通りかかってみれば作戦部長室の中からこの騒ぎ声だ」
元帥「一体何事かね?」
参謀「…」
元帥「君は戦艦大和…か」
大和「はっ!」
元帥「横鎮司令官から話は聞いている。駿河の司令官が君に愚かな振る舞いをしたということ、元帥たる私としても慙愧に堪えない」
大和「そ、そんな…」
元帥「ちょうどよかった、君とは話をしたいと思っていた。先に私の執務室に行って待っていたまえ。最上階だ」
大和「で、でも…大和は今…」
元帥「行きたまえ」
大和「…はい」
バタン
元帥「…どういうことかね、参謀。説明してもらおうか」
参謀「…」
元帥「指輪の話をしていたのだろう?」
参謀「!!」
元帥「…話は部屋の外であらかた聞かせてもらった」
参謀「…悪い噂を耳にしました」
元帥「ほう?」
参謀「大本営統帥部は、決号作戦が終結すれば、艦娘を“処分”するつもりらしい、と…」
木曾「えっ…!?」
元帥「…まさか、その件でお前は横鎮の提督と何か話した…のか…?」
参謀「…」
元帥「…だんまりか」
参謀「…この際はっきりおっしゃってください。統帥部は…元帥閣下は、よもやそのようなお考えはお持ちではありませんよね?」
元帥「…くだらん。そもそもその話と指輪と、一体何のかかわりがあるのかね?」
参謀「艦娘のレベルを一定程度上げることのできる指輪…なぜ今になってそんなものが?」
元帥「…」
参謀「しかもあれは元帥直々のご命令で艦政本部が製造に着手したものと聞いております」
木曾「!!」
元帥「…」
元帥「…要するにお前は、私が小細工を弄して艦娘達を処分しようと考えているというのかね?」
参謀「…そうでないというのならば、いま私が電話を取って、決号に参加する各鎮守府の提督に、指輪を工廠にて精査するように命令しても差し支えないということですね?」
元帥「…」
参謀「…お答え頂けないのであれば、そのようにいたします」ガチャ ピポパ
元帥「…仕方がない」ジャキッ
参謀「…!?」
木曾「え…!?」
ズダァーーーーーーーーーーーン!
ガチャ!
副官「げ、元帥閣下!?」
元帥「…私なら大丈夫だ。それより………」
元帥「横須賀鎮守府を制圧し、艦隊司令を拘束せよ。要するに理由は何でもいい、陸戦隊を出してただちに横鎮提督を捕まえろ!」
副官「はっ!」ダッ
今日はここまで おやすみなさい
>>201
訂正
大和「…この参謀が貴女の過去の提督だというのは分かりました。ですが、それだけで貴女がこの方をなお庇いだてするというのなら捨ておくわけにはいきません。…口出ししないでください」スッ
↓
大和「…この参謀が貴女の過去の提督だろうというのはなんとなく分かりました。ですが、それだけで貴女がこの方をなお庇いだてするというのなら捨ておくわけにはいきません。…口出ししないでください」スッ
少し投下
横鎮 司令官執務室
コンコンコン
大淀「失礼いたします。お茶をお持ちしました」ガチャ
提督「お、サンキュ」
提督「…大和たち、もう軍令部に着いてるかなぁ」
大淀「ええ、もうとっくにその時間だと思いますよ」コト
提督「…天龍と木曾、半ば強引に一緒に外出させたけど、大丈夫かな…」
大淀「…あの二人については、大和さんも一緒ですし大丈夫でしょう。それを承知で、提督もあのメンバーで外出させたんじゃないですか?」
提督「ま、まあそうだけどさ。荒療治かもしれないけど」
大淀「…むしろ心配なのは、大和さんです」
提督「大和が…?」
大淀「…提督、大変申し訳ございません」スッ
提督「お、おい、いきなり何だよ」
大淀「…先日の軍令部での件、大和さんに問い詰められて…私、話してしまいました」
提督「軍令部の件……ぁああああああっ!!!」
提督「お、俺が参謀に…先輩に一発喰らった件か…!!???…ええええ…大和には余計な心配掛けたくなかったのに…」
大淀「提督が口腔内を切られていたことを不審に思っていたみたいで…面目次第もございません…」
提督「…まあ、さすがに大和が先輩にお礼参りをするとは思えないけどな」
大淀「…私に詰問してきたときの大和さんの鬼気迫る様子を見れば、提督もひょっとしたらそのお考えを改めるかもしれません」
提督「…大和に何か乱暴されたりしたのか?」
大淀「そ、そんなことは決してありません!するもんですか!」
大淀「…ただ、もし大和さんが軍令部で本当に参謀にお礼参りに行ったとしたとしても、怒らないであげてください」
提督「…」
大淀「戦艦大和は世界最高の戦艦です。かつて大日本帝国がその威信と技術力を結集した、芸術的ともいうべき艦艇兵器です」
提督「…それはそうだ」
大淀「その芸術性ゆえに、大和さんの魂は繊細で深いんだと思います。もちろんそれは姉妹艦の武蔵さんにも受け継がれていると思いますが」
提督「…うん、そうだな」
大淀「巨大な46センチ三連装砲や、世界無比の機銃群、分厚い装甲は大和さんの本質なんかじゃありません。あの当時の日本をその鋼鉄の身に気高く背負おうとした、哀しいまでに一途で純真な魂こそが、艦娘に生まれ変わった大和さんそのものだと思うんです」
提督「…」
大淀「だから…大事にしてあげてください。70年前に冷たい海の底へ葬られた彼女の魂を…愛おしんで、癒してあげてくださいね」
提督「…分かった。大和が何か軍令部でやらかしたとしても、俺がきちんと守ってやるよ。後で俺が頭ぁ下げれば済むことさ」
大淀「さすがです、提督」
大淀「…ただ、もし大和さんが軍令部で本当に参謀にお礼参りに行ったとしたとしても、怒らないであげてください」
提督「…」
大淀「戦艦大和は世界最高の戦艦です。かつて大日本帝国がその威信と技術力を結集した、芸術的ともいうべき艦艇兵器です」
提督「…それはそうだ」
大淀「その芸術性ゆえに、大和さんの魂は繊細で深いんだと思います。もちろんそれは姉妹艦の武蔵さんにも受け継がれていると思いますが」
提督「…うん、そうだな」
大淀「巨大な46センチ三連装砲や、世界無比の機銃群、分厚い装甲は大和さんの本質なんかじゃありません。あの当時の日本をその鋼鉄の身に気高く背負おうとした、哀しいまでに一途で純真な魂こそが、艦娘に生まれ変わった大和さんそのものだと思うんです」
提督「…」
大淀「だから…大事にしてあげてください。70年前に冷たい海の底へ葬られた彼女の魂を…愛おしんで、癒してあげてくださいね」
提督「…分かった。大和が何か軍令部でやらかしたとしても、俺がきちんと守ってやるよ。後で俺が頭ぁ下げれば済むことさ」
大淀「さすがです、提督」
コンコンコン
赤城「失礼しますね。提督、妖精さんがお話があるって言ってますよ」
工作妖精「…」ヒョコ
大淀「あら、妖精さん、お顔の色がすぐれないですね?」
工作妖精「ち、ちょっと疲れちゃっただけです…それより、提督…」
提督「…すまん、大淀と赤城は外してくれないか?」
大淀「…??分かりました、それでは…」
赤城「失礼しました~」
バタン
提督「…で、どうだった?何かわかったのか!?」
工作妖精「…」
工作妖精「提督さん…いったいどうやってこの事に気づいたの…?」
軍令部 食堂
天龍「~♪」パクパク
憲兵(…男勝りに見えて、可愛いところもあるんだな)モグモグ
バターン!ドカドカッ
憲兵「な、何だ?」
衛兵A「いたぞ!艦娘だ!」ダッ
衛兵B「拘束しろ!!!」
憲兵「な…こ、拘束だと!?」
天龍「きゃっ…!おいてめぇ!いきなり何すんだよっ!!」ジタバタ
衛兵A「黙れっ!大人しくついて来い!」ガシッ
衛兵B「暴れるな!!」パシィン
天龍「痛っ!!!!」
憲兵「貴様ぁあああっ!何をするか!!」ボカッ
衛兵B「ぐはっ!」ズデェン
衛兵A「何だ貴様ぁ…」
憲兵「横須賀憲兵隊だ!!その艦娘…天龍は自分の護衛対象だ。それ以上天龍に触れるな!」
衛兵B「こいつは海軍の艦娘だ。陸軍憲兵が余計な口出しをするな!」
憲兵「ふざけるな!俺は憲兵師団から彼女の護衛任務を拝領してる。いくら海軍関係者でも、これ以上は指一本触れさせないぞ!」
天龍「け、憲兵さん…」
衛兵A「くそっ…面倒なのがくっついてきたな…!」
衛兵B「しかたない、こいつも一緒に拘束するぞ!」ガシッ
憲兵「あ、こらっ!離せっ!」ジタバタ
天龍「くっ!ちきしょう!」ジタバタ
元帥「…さて、お前は何とも余計なことをしてくれるものだな」
参謀「…これが、元帥閣下の本音でありますかっ…!」
元帥「私が撃ち抜いたのがお前の頭蓋でなく、電話機だったことに感謝してもらわねばな」
参謀「やはり、思った通りあんたは艦娘を殺処分するつもりだったのか…!」
元帥「今は多くは語らん。いずれ説明の機会は設けてやる。さて…」
木曾「…っ…」ガクガクッ
元帥「そこの雷巡。腰の剣を捨てろ。さもないとお前の頭部を、そこでバラバラに弾け飛んだ電話機のようにしてやる」チャッ
参謀「や…やめろ!!木曾、剣を捨てるな!!」
元帥「捨てろ。それとも、兵器の分際で、日本海軍の最高指揮官の命に背くというのか?」
木曾「……っ!」
元帥「捨てろと言っている。参謀には情けを掛けたが、お前などにははなから容赦するつもりはない。武器を捨てろ!!!」
木曾「…」
木曾「…」スッ
ガチャッ
参謀「き、木曾…」
元帥「…それでいい。兵器が人に反抗しようなど、あってはならんことだ」
元帥「なあ木曾?」ブンッ
ゴッ!!
木曾「ぐっ…!!」ドサッ
参謀「木曾っ!!!やめろ、やめてくれ!!!」ガシッ
元帥「黙って見ておれ!!」ガッ
参謀「ぐは!」メキャ
元帥「…人のかたちをしておると、さすがにどうもやりづらいな。顔は遠慮して腹にしてやろう」ケリッ
木曾「ぅあっ!!!」ボグッ
元帥「ふっ!」ケリッ
木曾「ぎっ…!」ボグッ
元帥「このっ…!このっ…!!」ケリッ
木曾「ぅ………」ボグッ
参謀「や…やめろ…俺の木曾に…何を…」ヨロッ
元帥「何が俺の木曾かぁっ!!!」ゴチン
参謀「うぐっ!!」ドサッ
元帥「この…兵器の分際でっ!軍将校を…っ!!たぶらかしおって……!!!!」ケリッ
木曾「が…がはっ……」ボグッ
衛兵A「失礼いたします。食堂にて軽巡・天龍と、護衛の憲兵一名を拘束いたしました!」
元帥「留置室にぶち込んでおけ。それと、参謀と木曾も別々に入れておくように」
衛兵B「はっ!!」
元帥「さて…残るは…」
提督「よ、妖精さん…?」
工作妖精「…あのね、提督」
工作妖精「あの指輪…特殊物資…、………あああ、信じらんない!!!」
提督「…え?」
工作妖精「あの指輪ね…ある信号を受信すると、艦娘の指に毒針を打ち込む仕掛けになってるの!」
提督「なん…だと…!?」ガタン
提督「それは…本当か…?」
工作妖精「本当だよ!…間違いないよ!」
提督「もし…その毒針が艦娘に打ち込まれたら…?」
工作妖精「終わりさ。毒針を打ち込まれた艦娘の生体は眠るようにその機能を奪われるの」
工作妖精「…そして二度と目は覚まさない。聞くも恐ろしい現代の毒林檎だよ…!」
提督「…!!!」ギリッ
とりあえず今日はここまで
少し投下
佐世保鎮守府 司令官執務室
佐世保提督「…で、敵の殲滅を確認でき次第、横須賀鎮守府の司令官が大本営に向けてシ連送を打電して、決号作戦は…この戦争は終わるって流れだ」
摩耶「なぁんだ。おいしいところを持ってかれちまってんじゃないか。文字通り最後決戦だって言うのによ」
佐世保提督「横須賀は主幹鎮守府だからな。まあ俺たち佐世保より責任ある位置にあるんだ。二重の意味でな」
摩耶「横須賀の司令官とは同期なんだろ?鳥海が言ってたぜ」
佐世保提督「ああ。海兵128期の腐れ縁だ。…この戦争の初めには、同じイージス艦に乗り組んでいた」
摩耶「…」
佐世保提督「…あれからもう、何年たつんだろう」
佐世保提督「………ある日の事だ。ある海域で、我が大型タンカーが深海棲艦の攻撃を受けたと緊急電が入った。艦は緊急出撃、俺と奴はCICで固唾を飲んで戦いの時を待った」
摩耶「…聞くまでもねえとは思うけど…その戦闘の結果は…」
佐世保提督「…ダメだったんだ!同時に複数目標を探知できるはずのシステムが、神出鬼没のあいつらを完全には捕捉できなかったんだ」
佐世保提督「…スクリーンに、まるで無数の夜光虫のように突如浮かび上がっては消える、こっちを嘲笑うような深海棲艦たちの反射波の数を見たとき、CICは驚愕と絶望に包まれたよ」
摩耶「…」
佐世保提督「砲雷長が悲壮な叫び声で飽和攻撃を下令した。復唱も忘れて、俺たちは艦の振動に無様に震えていた」
佐世保提督「…果たせるかな、ハープーンもアスロックも、変化自在に海上を滑り、艦に肉薄してくるあいつらに追いすがることすら出来なかった。唯一効果があったのは二門のCIWS…ガトリング砲だった」
佐世保提督「だが…たちどころに弾が尽き、砲身も灼けた。CICに赤く響き渡る警告音が、艦の終わりを告げた…給弾も虚しく間に合わず、CIWSは破壊され、身を守ることすらできなくなった艦は、やがて沈められた」
佐世保提督「…海に投げ出された俺はな、疲れ果てて海中に沈んじまう前に見たんだ。深海棲艦…もうはっきりとは覚えてないが、人型をしたやつが、俺の事を見ていた」
佐世保提督「…不可解なことに、奴らは漂流している俺たちをそれ以上攻撃してくることはなかった。タンカーの乗組員たちも生き残りは漂流してたが、彼らにもそれ以上の危害はなかった。そのうち、やつらは去っていった」
佐世保提督「沈みかけた俺を、内火艇に引っ張り上げてくれたのが、同期の…あの横須賀の司令官だった」
摩耶「…命の恩人、だったんだな」
佐世保提督「ただ…今もってわからない。なぜあの時、深海棲艦は俺たちに止めを刺さなかったのか…」
摩耶「…初めて聞いたよ。提督も、奴らとの戦いで傷ついてたんだな」
佐世保提督「…内火艇の揺れに吐きながら、俺たちは無様に泣いてたよ。俺たちはもうダメだ、あいつらから日本を、人類を守ることは出来ないってな…」
摩耶「っ…」
佐世保提督「だが…お前たち艦娘は、俺たちを絶望から救い上げてくれた。勝利はもう目の前だ」
摩耶「…へっ」
佐世保提督「なあ、お前らも戦争が終わったら色々したいことをしろよ。俺たちはお前たちのおかげで、今を生き長らえてるんだからな…」
摩耶「ああ。言われるまでもねえよ!」
横須賀鎮守府 正門近く
ブォォォオオオオオオオン
加賀「…?なんでしょう、鎮守府の表通りから装甲車が…??」
赤城「こっちに来ますね?」
キキキッ ガチャ!
陸戦隊員1「全員下車っ!打ち合わせ通りに制圧行動に入れ!散開っ!行けっ行けっ行け!!!」ダッ
赤城「あっ!!あれは海軍の…陸戦隊……!!!」
加賀「嘘…でしょう?これは…」
陸戦隊員2「動くなっ!両手を上げろ!」ジャキッ!
日向「…!!!」
伊勢「え、何?なんなのコレ…」
陸戦隊員4「大人しく指示に従え!あの倉庫の裏まで歩け!!」
提督「そんな…一体、どういうことだよ…大本営は…艦娘たちを殺処分する気なのか!?」
工作妖精「…だろうね。恐らく、決号作戦が終了したのを見計らって…」
提督「どうしてだよ…どうして艦娘にこんな酷えことをっ…!」
提督「艦政本部は…いや、大本営は一体何を考えてこんな…」
提督「…まさか…参謀は、先輩はこの事を薄々感づいていた…から、俺からあの指輪を回収しようとしたのか…!?」
工作妖精「…戦争が終わってしまえば、艦娘たちはもう要らないから消えてもらおうってことなのかもね…!」
提督「!!!!!!!!!!!!!」
提督「この事に感づいたから…先輩は俺に…!!」
提督「くそっ!!どうする…どうすれば…」
バタバタバタ
霧島「たっ大変です司令!武装した海軍陸戦隊が鎮守府内に突入してきましたっ!」
武蔵「まるまる一個中隊規模だっ!こっちにも向かってくるぞ!」
提督「何だと!!!!」
工作妖精「だ…大本営は…本気だね…!」
霧島「司令、指示を!私たちはどう対応すればいいですか!?」
提督「っ…と、とにかくこちらから先に手向かいはするな!妖精さん、君は隠れろっ!」
提督「それより、決号作戦に参加する他の鎮守府司令官にこの事を伝えなきゃ!外線で電話だ!」ガチャ
陸戦隊員1「門を閉めろ。外部からの目をシャットアウトだ」
陸戦隊員1「…各班の浸透状況は?」
陸戦隊員3「順調です!一班が本館1階に到達しました!」
陸戦隊員1「…5秒遅れだな。よし、榴弾にて狙撃用意。信管はオフ。射撃位置は車両の陰だ」
陸戦隊員5「は!」ジャキッ!
陸戦隊員1「目標、鎮守府本館上の通信アンテナ基盤。狙え」
提督「出てくれ、佐世保…!!」ガチャ ジーコ ジーコ
陸戦隊員1「撃て」
バスッ
長崎・佐世保鎮守府
ジリリリーン
佐世保提督「はい、佐世保司令官」ガチャ
佐世保提督「…??」
佐世保提督「もしもし?もしも~し!!」
佐世保提督「変だな。切れちまった」チン
摩耶「どこからだ?」
佐世保提督「履歴はっと……横須賀…?」ピピッ
佐世保提督「かけ直してみるか…?」ガチャ…
コンコンコン
佐世保提督「入れ」
ガチャ
鳥海「はぁ…はぁ…」
摩耶「おう、どうしたよ鳥海」
鳥海「失礼いたします!!提督、たった今大本営より入電しました。緊急電です!」スッ
食堂
暁「やったわ!今日のお昼はハンバーグよ!」
響「暁、慌てなくてもハンバーグは逃げないから安心して」
愛宕「あらあら、うふふっ」
電「…少し余らせて、あとでヲ級ちゃんにこっそり持っていってあげるのです」ボソボソ
雷「そうね。みんなにばれないようにするわよ」ボソボソ
ズダァーン!
キャァアアアアーーーーー!
暁「え、じゅ、銃声!?」
副官「次はここを制圧するぞ!」ドカドカッ
北上「嘘でしょ…これ、なんかの演習…?」
大井「そ、そんな話、聞いてないわ!」
副官「全員その場から動くなっ!!両手を上げろ!」ジャキッ
龍田「何なんですか!?あなたたちは一体…」ズイッ
副官「黙れっ!」ブンッ
龍田「きゃあ!」パシィン
山城「た、龍田ちゃん!」
白雪「ぁ…ぁぁ…」ガクガク
扶桑「ど、どういう事なの…ふ、ふk」
副官「喋るなっ!黙って外に出ろ!急げっ!」
出撃施設
吹雪「こ、こっちにも銃を持った兵隊さんが来ます!!」
大淀「早く、海上に退避を!あの陸戦隊の意図は分からないけど、黙って従うのも恐らく危険だわ!」
大淀(大和さん…もしかして、軍令部で何かとんでもないことでもしたのかしら…!?だから陸戦隊が…!?)
高雄「だ、ダメ…!出撃コードが変えられてる…!これじゃ出港できません!」
大淀「何ですって…!?」
陸戦隊員6「う、動くなっ!」ジャキッ!
大淀「っ!」
高雄「あああ…」
陸戦隊員6「…手を上げて出てこい。歩くんだ。倉庫裏まで来い」
吹雪「大淀、さん…」
大淀「…仕方、ありません…言われたとおりにしましょう…」
ドカドカドカッ バタァーン!
陸戦隊員2「全員動くなっ!!」ジャキッ
提督「っ…!」
霧島「う、嘘…」
陸戦隊員2「あんたが横鎮司令官か!?」チャッ
提督「…なんだ貴様は。ここは海軍横須賀鎮守府だぞ。許可もなく武装し突入してくるとはどういう事だ!?」
陸戦隊員2「腰の拳銃をゆっくり床に置け」
提督「質問に答えろ!」
陸戦隊員2「答える必要はない。置け!」チャッ!
武蔵「く…」ジリッ
陸戦隊員2「そこの艦娘!動くなと言っている!」チャッ!
武蔵「う…」
陸戦隊員2「司令官、銃を置け。我々は必要な際には発砲を許可されている」
提督「…」スッ ガチャ
陸戦隊員2「こちら02、司令官室を制圧した。艦娘2人の移送に誰かよこしてくれ」ピッ
武蔵「おい、いったいこれは何だ。いったい私たちが何を…」
陸戦隊員2「……さあな?」
倉庫裏
副官「全員、壁に向かって立て!両手を頭の後ろで組んで跪け!!」ジャキッ!
川内「い、痛いよ!髪引っ張らないで!」
副官「兵器の分際で、ギャーギャー騒ぐな!」ブン
川内「あっ!」バシッ
神通「ね、姉さん!」
副官「これで全員か?」
陸戦隊員1「は。めぼしいところにいた艦娘はあらかた連行しました」
副官「よし。では大尉、このリストとエンピツを持ってついて来い」
陸戦隊員1「これは?」
副官「横須賀鎮守府に所属する艦娘のリストだ。今から全員がここにいるかどうかチェックする」
佐世保提督「大本営から緊急電…???開封はしたか?」ペラ
鳥海「いえ、まずは提督にと…」
佐世保提督「…」ガサ
佐世保提督「…!?!?!?!?」
佐世保提督「な、なんだこれは?」
摩耶「…?」
佐世保提督「『別命あるまで決号作戦の発動を延期す。なお敵防諜の為各鎮守府間のいかなる交信も禁ず』」
鳥海「えっ??」
佐世保提督「どういうことだ!?作戦決行を前に、こんな急な延期って…」
鳥海「命令の発信者は誰になっていますか?」
佐世保提督「…元帥閣下、だ。わざわざ“厳命”の文句もついてる」
摩耶「おいおい…嘘だろ…?」
鳥海「…」
鳥海「…中央で、何かが起きているんじゃないでしょうか…!?」
佐世保提督「…!!!????」
副官「巡洋艦はすべてそろっているな?」
陸戦隊員1「いえ…木曾と天龍がいないようですが」
副官「問題ない。そいつらは今軍令部だ」
副官「さて…次は駆逐艦だな。おい、お前の名前は?」
不知火「…」
副官「…聞こえないのか?名乗れと言ってるんだ!顔を背けるな!」
不知火「…っ」
副官「兵器風情が、強情を張るなっ!!」ブン
不知火「っ!」パシィン
白雪「ひっ!」
暁「ぁ…ああ…」ガクガク
不知火「…」ギロッ
副官「何だその目はぁあああ!!兵器の分際でっ!!!」ブンッ
不知火「うっ!」パシィン!
陽炎「や、やめて!この娘は不知火よ!陽炎型駆逐艦二番艦の、不知火よっ!もう…やめて…!」
不知火「…」ポロポロッ
榛名「し、不知火ちゃん…!」ギュゥ
副官「まったく、手を焼かせやがって…!」
陸戦隊員1「………」
日向「何なんだこれは…私は悪夢を見ているのか…???」
伊勢「…夢だったら、いいのに…!!」
吹雪「教えてください。いったいこれはどういうことですか?なぜ私たちが拘束されなければならないんですか!?」
副官「誰が質問を許可した!?」ズダァーン!
チューン
吹雪「っ…!!」
副官「次に余計な口を開いたら、次は耳を吹き飛ばすぞ」
副官(ちっ…実際の艦娘というものはもっと従順で大人しいものかと思ったが…くそ、認識を改めなければいけないな…)
副官(ここの提督は、艦娘を好きにさせ過ぎていたようだな…!)
副官(…ここまで意思を持って突っかかってくるとは…くそ、なんとかこいつらを納得させる根拠材料の足らないままここまで来てしまったのはまずかったか…)
副官「おい、大尉」
陸戦隊員1「は」
副官「…確認するが、艤装を着けない艦娘に対し、我々の89式小銃でこれを無力化することは可能だな?」
陸戦隊員1「…それは問題ありません。艤装さえなければ、拳銃弾でも十分…」
副官「分かった。もういい」
陸戦隊員4「大佐、驚くべきものを発見しました。ちょっと来てください」
副官「何だ?」
陸戦隊員2「これです。倉庫の隅に繋がれていました。こいつは…紛れもなく…」
ヲ級「…」ブルブル
副官「ほう…上出来だ。いいネタを見つけてくれたじゃないか」ニヤリ
ヲ級「…!?」ブルッ
副官「ただちに軍令部に報告。急げ」
陸戦隊員3「は!」
副官「…さて、と」
副官「全員聞け!!!!自分は大本営海軍部スタッフであり、軍令部副官部所属の…大佐である!!」
ザワッ…!
霧島「ぐ、軍令部…!?」
副官「我々はかねてより身内の不審を内偵してきた」
副官「その調査の結果、恐るべきことが判明したっ!」
副官「貴様らの提督は、こともあろうに深海棲艦と内通していたのだっ!!!」
ザワッ…
武蔵「な、何だと…!?」
愛宕「あ、あり得ないわ!」
龍驤「せや!そないなアホなこと、あってたまるかい!どうしてもと言い張るんなら、証拠出せや!」
副官「黙れ。兵器風情が口の利き方に気を付けんか!」チャッ
龍驤「…!!」ブルッ
副官「…だが、一理ある。確たる証拠を見せてやろう。そらっ!」
副官「これが貴様らの提督が匿っていた敵だ!」ドン
ヲ級『っ…!』ドサッ
副官「こいつが何だか分からん奴はいるか?」
副官「いったいこれは何だ!?おいそこの艦娘、答えろ」
雷「し、深海棲艦…の、ヲ級…型、空母です…」
副官「声を出さんかぁあああっ!!!」
雷「お、ヲ級型空母ですっ!」
副官「こいつは敵か!?味方か!」
雷「て、敵です!!」
副官「ぁあ!?」
雷「敵です!!」
副官「叫ばんかぁぁぁ!」
雷「敵ですっ!!」
副官「そうだ!!貴様らに言われるまでもなく、こいつは間違いなく深海棲艦であり、人類の敵だ!!」
副官「その敵がなぜここにいる!?なぜここで処分されることなく生きている!?」
副官「なぜだ!?どうしてだ!?」
副官「答えは明白だ!!貴様らの提督が敵と内通していたからだっ!!!」
武蔵「っ…!?」
副官「貴様らの提督は貴様らをたばかり、こうして敵に情けをかけていたのだ!」
ザワ…ザワ…
ホ、ホントニシンカイセイカンヨ
ヲキュウダワ ドウシテココニ…?? マサカ…テイトクガ…ホントウニ…??
睦月「あれが…如月ちゃんの…仇…!!!」
夕立「む、睦月ちゃん…」
ヲ級「ヲ…」ブルブル
副官「さあ艦娘ども、この憎むべき敵に石を投げつけろっ!」
ザワ・・・
副官「さっさと投げんかぁ!こいつは世界平和の敵なんだぞっ!!」
副官「人類の敵なんだぞっ!こいつは!」ブンッ
ヲ級「!!!」ドガッ ドサッ
副官「このっ!!!」ケリッ
ヲ級「グッ…!!」グモッ
副官「いいか、こいつらは鬼畜なんだぞ!」ケリッ
ヲ級「ギャッ…!!」グモッ
副官「こいつらは我々の無辜の同胞たちを殺戮してきたのだ!こいつらのせいで、いったい何隻の輸送船が、タンカーが、艦船が喪われた!?何人の民間人が死んだ!?思い起こせ!!どうだ、憎いだろう!?」ケリッ
ヲ級「ゥ…!」ガハッ
副官「ほら、立てっ!!立つんだ!!」グイッ
ヲ級「…」ハァハァ
副官「立たんかこの鬼畜がぁああっ!!」ブンッ
バキッ ドカッ
ヲ級「~~!!!」
ヲ級「ウッ…ヒグッ…」ポロポロ
武蔵「っ…」
白雪「…」
電「…」シクシク
副官「一丁前に人に情けを乞うかこの化け物がっ!!!」ハァハァ
ヲ級「…」ポロポロ
副官「さあ艦娘ども、こいつに石を投げろ!」
副官「遠慮はいらん。さぁ!これはお前たちの敵だぞ!!」
副官「…何をしている!!さっさと投げろ!!」
ビュッ
ヲ級「!!」ヒッ
ゴッ ボトン
副官「…いま私に石を投げたのはどいつだ!?」
副官「出てこい!誰だ!?」
武蔵「私だ」ズイッ
武蔵「…尻の青い若造が、よくも私たちをここまで侮辱してくれたものだな…!!国をこの身体で守ってきた私たちに対して、海軍軍服を着た者からの扱いがこれか…!」
副官「う…動くな!!」チャッ
日向「…私たちを舐めるなっ!!」ヒュン
榛名「勝手は…榛名が許しません!!」ヒュン
電「電の本気を見るのです!!」ヒュン
瑞鶴「降参してる相手に、さらにムチ打つようなことなんかできるわけないじゃない!!」ヒュン
不知火「…外道がっ!」ヒュン
副官「ぐあっ!止めろっ!」
陸戦隊員1「……」
睦月「…」ギュッ
睦月「えいっ!」ビュン
副官「ぐあっ!目がぁ!!」ゴン
夕立「ぽいぽいぽい!」ヒュヒュヒュ
吹雪「それっ!」ヒュン
副官「ぐああああああ!!痛ぁあああああ!!」
副官「やめろ!やめんか!!」ズダァーン!
副官「艦娘の分際で!!こいつら全員を講堂へ連行しろ!!」
陸戦隊員1「…は」
陸戦隊員3「石投げを止めろっ!!」ズダダダダダッ!
キャー!
陸戦隊員4「大人しくしろ!全員両手を上げたまま講堂へ歩け!!」
副官「くそっ…!艦娘どもめ…!」
陸戦隊員1「……」
副官「何だ大尉。何かおかしいか?」
陸戦隊員1「いいえ。………このヲ級はどうされますか?」
副官「…元のように拘束しておけ。歩哨も立てておけ」
陸戦隊員1「は」
副官「それより、司令官はどこに拘束している?」
陸戦隊員1「1号車の中です」
副官「装甲車か。分かった、今から行く」
今日はここまで おやすみなさい
今夜も投下します
佐世保提督「…中央で、何かが起きてる…!?」
鳥海「…作戦延期だけならまだしも、深海棲艦相手に敵防諜なんて話はおかしすぎます。しかも鎮守府間の合同作戦を前に、どうしてその連絡が禁止になるんですか?」
摩耶「そ、そうだよな…ヘンだぜ、これ」
佐世保提督「…」
佐世保提督「…と、とにかく総員に通達。決号作戦の延期のみ皆に伝えてくれ」
鳥海「よ、よろしいんですか?」
佐世保提督「…軍命だ。無視するわけにはいかない」
鳥海「は、はい…」
摩耶「…」
佐世保提督「あ…そうだ。横須賀から電話が掛かってきてたんだった。この件の確認も含めてかけ直さなきゃ…」ガチャ
鳥海「て、提督!?」
佐世保提督「なんだ鳥海…………ぁ…っ!?!」
『鎮守府間ノ如何ナル交信モ禁ズ』
佐世保提督「…」
佐世保提督「…」チン
陸戦隊装甲車 1号車内
提督「…貴様、いったいこれはどういうことだ…!?」
副官「これはこれは提督殿。何をそんなにお怒りですかな?」
提督「ざけるなっ!貴様、たしか元帥閣下の副官だったな!?」
副官「そうだ。私は元帥閣下のご意思のもと、日本の…いや人類の平和のために戦っている」
提督「何が人類の平和だっ!俺は知っているんだぞ、あの“特殊物資”には毒針が仕込んであるってことを!」
提督「せいぜい…艦娘の身体に多少何らかの害のあるドーピング薬もどきかと思ったが…、まさか毒薬だったとはな…!!!」
副官「…それが?いったい何だというのだ?」フン
提督「な、何だと…!?」
副官「まずは順を追って話をしようか。司令官、あんたは軍令部に…いや人類に対し、重大な背信行為を働いていたな?」
提督「何を言ってる!背信行為を働いているのはお前らのほうじゃないか!姑息な手段で艦娘たちを殺そうとs」
副官「なぜヲ級型空母が無傷で横須賀鎮守府内に隠匿されていた?」
提督「…っ!」
副官「答えろ。深海棲艦は我々日本海軍の、いな世界人類の敵だ。それをなぜ雷撃処分もせず拿捕し、のうのうと養っている?」
提督「…○月○日の哨戒出撃での戦果だ。ヲ級はすでに装備も戦意も喪失している状態だった。だから俺の判断で、処分ではなく拿捕させた」
副官「司令官、あんたは馬鹿か?」
提督「…」
副官「まずあんたの敢闘精神の欠如については呆れかえって何も言えないので置いておく」
副官「一番の問題は、なぜ連れて帰ったかということだ。いくら非武装だとて、連れて帰れば何らかの脅威に転じ得る可能性がゼロではないことが分からないのか?あまつさえそれをなぜすぐ大本営に報告しなかった!?」
提督「…」
副官「ともかく、ヲ級の拿捕はあんたの命令によると言うことで差し支えないということだな?艦娘どもが勝手に拿捕してきたというバカな話はないな?」
提督「そ、そうだ。それは間違いない」
副官「…ほぉ」ニヤリ
副官「聞いた通りだ。今の内容をただちに元帥閣下に報告しろ。当該出撃時の艦隊編成のデータも探して添付するように」
陸戦隊員3「は!」
提督「…?」
副官「さてさて…なぁ司令官。日本海軍も先は暗いな」
提督「なに…!?」
副官「ヒトと深海棲艦の区別もつかん馬鹿が、日本海軍の主幹鎮守府の司令官をしている。実に恐るべき話ではないか!」
副官「あんたに聞きたい。深海棲艦はヒトか?」
提督「…」
副官「答えは否だ。深海棲艦はヒトではない。駆逐級などの化け物は言うに及ばず、人型をしたものもいたところで、そいつらが即ヒトであるなどと断じる、そこにあんたの愚かさがある」
副官「あいつらはあくまでヒトの形をした化け物に過ぎん。サルがヒトでないのと同じように、そして…」
副官「艦娘が我々ヒトでないのと同じようにな」
提督「なんだと…?」
副官「司令官、逆に教えてほしい。いつから艦娘は我々ヒトと同じ権利を有するようになったのだ?」
提督「何を言ってる……艦娘…は、俺らと同じ…だろ?」
副官「…」ハァ
副官「もう一度、今の質問を違う言い方で問いかけよう。いつから艦娘は、法律上の人権享有主体となったんだ???」
提督「……………我が海軍刑法には艦娘の保護条項があるじゃないか。これはすなわち、艦娘が人権享有主体であるが故の法的規定だろう?」
副官「……」ハァ…
副官「確かに海軍刑法には艦娘の保護条項はある。保護条項はな。だが…はぁ、あんたみたいなアホの相手をするのは疲れるよ…」
提督「なに…?」
副官「なぁ司令官、本来ならば釈迦に説法と言いたいところだが、あんたには再度手取り足取り説明してやる必要がありそうだ」
副官「そもそも艦娘とは何か、だ。艦娘は、△年前に出現した深海棲艦…有機的な兵器存在であり、既存の艦艇では無力化できなかった人類の仇敵に対して、同じく有機的兵器として、我が国の理化学研究所が艦政本部と合同で開発した“兵器”だ」
提督「…その話は今までに何度も聞いてきた。だがな、艦娘は俺たちと同じように泣き、笑い、痛み、苦しむ、何も変わるところのない存在じゃないか…!!」
副官「話に水を差すな。私はそんな些末な外見的特徴を論じているんじゃない」
提督「なに…」
副官「ともかく、艦娘の生い立ちとはそういうことだ。人間の少女が艦娘として生まれ変わったんじゃない。あいつらは生まれながらにして兵器なんだ。それ以外の何物でもない」
提督「…」
副官「今度はあんたに聞きたい。元々艦娘は兵器として生まれてきた。その前提は天地がひっくり返ってもあり得ない。にもかかわらず、誰がそもそも“艦娘はヒトである”と言い出した?」
提督「え……?」
副官「答えろ。今の今まで、どこの研究所が、どこの省庁が、どこの政治家が、どこの軍部局が、どこの法律条例が、『艦娘はヒトである』などと規定した!?」
提督「……………」
副官「言ってないんだよ、誰もそんなこと。勝手にそう思い込んでいたのはあんたらのような馬鹿だけだ」
提督「っ…!!!!!」
副官「…海軍刑法における艦娘の保護条項だと?そんなもの、民法上の善管注意義務の延長に過ぎん。艦娘にかかわる法的関係は人権ではない、あくまで物権だ。すなわち、日本海軍が艦娘に対して持つ、絶対的な支配権であり、処分権だ。財産権と言い換えてもいい。ともかく…」
副官「大本営や国はな、最初から艦娘をヒトとして認識したことなどないんだよ。連中はあくまで“兵器”だ。そこをあんたら現場司令官はみんな誤解している。一部の国民すらそうかもしれん。まあ、今回は我々もそこに付け込んだのだがな」
提督「…外道どもめ…!貴様ら、はなっから戦争が終われば艦娘を亡きものにするつもりだったのか!指輪に憧れを持つ艦娘たちの純情を逆手に、よくも貴様らは…!!」
副官「なぁ、司令官。我々を失望させないでくれよ」
副官「あんたら海兵128期は、開戦初期に散々艱難辛苦を耐えてきた、いわば海軍の至宝じゃないか。元帥閣下もそうおっしゃっておられる」
副官「そして今や艦娘たちを操り、敵に完全勝利しようとしている。もうこの戦争の幕引きは目の前なんだ。そうすれば世界の平和はすぐそこだ。そんな平和な世界に、果たして艦娘どもは必要か??」
提督「どうあっても艦娘たちを…殺すって言うのか…!!」
副官「戦争が終わってなお、兵器を野放しにしておこうとでも言うのか?」
提督「野放しだと!?核兵器を田舎の倉庫に放置していた旧ソ連じゃあるまいし…」
副官「…なんにも分かっていないな。だいたい、艦娘一隻を維持するのに、年間どれだけの費用がかさんでいるか…」
提督「それは武装させた場合の話だろう!?戦争が終わり、軍籍から外して一般人として生きていくことさえできれば…」
副官「黙れっ!!!絵空事を言うなっ!!」ダンッ
提督「っ!?」
副官「…どうせあんたら現場司令官には分からん問題だ。裏方の事情をあんたらなんかが分かってたまるか…!」グッ
提督「…」
副官「なあ司令官。あんたはどうか知らんが、私は世界平和のためにこの戦争を戦っているんだ」
提督「それは俺だって同じだ!」
副官「ならまだやり直せる。では司令官、多少延期する形とはなるが、最終決戦の主幹鎮守府司令官として、決号作戦を発動してもらいたい。粛々と、なんのためらいもなく、だ」
提督「…断るっ!いずれにしろ貴様らはその後艦娘たちを殺す気だろうが!」
副官「貴様、それでも日本海軍の軍人か!?」
提督「その言葉そっくり貴様に返してやる!」
副官「…話は平行線のようだな」
提督「当たり前だっ!!俺の艦娘たちを解放しろ!!俺をここから出せっ!!艦娘たちのところに…」
副官「もういい、黙れ」ブン
提督「えっ…?」
ドスッ
提督「」ドサッ
副官「…しばらくは目を覚まさんだろう。この男を軍令部に移送しろ」
陸戦隊員3「は!」
副官「やれやれ…。まったくこの鎮守府は、どいつもこいつも…!!」
訂正>>260
副官「今度はあんたに聞きたい。元々艦娘は兵器として生まれてきた。その前提は天地がひっくり返ってもあり得ない。にもかかわらず、誰がそもそも“艦娘はヒトである”と言い出した?」
↓
副官「今度はあんたに聞きたい。元々艦娘は兵器として生まれてきた。その前提は天地がひっくり返っても変わらない。にもかかわらず、誰がそもそも“艦娘はヒトである”と言い出した?」
軍令部 元帥執務室
大和「結局…提督のケガの件、中途半端に終わらせられちゃったな…」グッ
大和「…ずっと待ってるけど、元帥閣下はまだ来ないのかなぁ」
ガチャ
元帥「待たせたな」
大和「閣下…」ザッ
大和「…先ほどから、階下が騒がしいようですが。何かあったんですか?」
元帥「……まあ座れ」
大和「え、えと…」
衛兵A・B「…」
大和「そ、そちらは…?」
元帥「…必要だからここに呼んでいる」
大和「…どういうことですか。これじゃまるで取り調べではありませんか。大和がいったい何をしたと…」
元帥「黙れ」ギロ
大和「え…?」ゾクッ
元帥「…お前には問いたいことがある。まず…」
元帥「戦艦大和。お前は、我々の味方か?」
大和「ど…どういうことですか?」
元帥「聞いた通りだ。答えろ」
大和「…我々、とは?海軍のことですか?日本のことですか?人類ですか?」
元帥「その全てだ」
大和「言うまでもありません。大和は日本の、人類の味方です」
元帥「世界平和のために犠牲になる覚悟はあるか?」
大和「もちろんです」
元帥「…そうか。わかった。では、今の答えを踏まえて聞きたいことがある」
大和「…?」
元帥「…お前の提督は、深海棲艦と内通していたことが判明した」
大和「何ですって…!?そんな馬鹿な!信じられません!」
元帥「だが真実だ」
大和「嘘です!」
元帥「そうか。ならばお前が去る○月○日の哨戒出撃において旗艦をつとめた戦いで、敵ヲ級型空母を処分せず拿捕し連れ帰ったことをどう説明するのだ!?」
大和「っ…!」
元帥「お前の言うことが正しいとすれば、お前は艦隊司令の許可なく勝手に敵を捕虜にして鎮守府に連れ帰り、我々大本営はおろか艦隊司令にもそれを報告せず、鎮守府を、いな本土を危険に晒したという訳か。これがどれほど重大なことか、お前には分からなかったのか!?」
大和(…そんな、まさか…もう見つかってしまったなんて…)
元帥「…大和。本当の事を言え。ヲ級の拿捕は、艦隊司令の…横鎮提督の命令によるものだな?」
大和「ち、違いますっ!!!」
元帥「ならばお前にすべての責任があるということか!?」
大和「そうです…!!」
元帥「話にならん」
大和「え…?」
元帥「ただの兵器が責任能力など負えるわけがなかろう。責任の所在を問うとなれば、それはひっきょうお前たち艦娘を管理する艦隊司令に対して、ということになる。違うか?」
大和「そ、そんな…!」
元帥「何が納得できんのだ?自分がただの兵器と呼称されたことか?それとも、責任の所在がお前の艦隊司令にあるということがか?」
大和「………っ!」
元帥「…ともあれ、お前たちの提督は大罪人だ。現在我々はあの男を拘束しているが、軍籍を剥奪せねばならん」
大和「えええっ!!!!????」
元帥「それだけではない。あの男は刑法上の外患誘致罪も問われることとなる。いずれにしろ、刑は免れん」
大和「そんなっ…!!!!!!」
大和「違うんです!提督は何も悪くありません!ヲ級の拿捕を決定したのは私です、大和です!!」
元帥「世迷い言を言うな!兵器がみずから何かを決めて行動できるはずがなかろうが!思いあがるなっ!!」
大和「っ…!!!!!」
大和「…」
大和「………おかしなこと、言わないでください」
元帥「なんだと?」
大和「…おかしいじゃないですか。提督がヲ級を保護したからと言って、どうしてそれが即内通になるんですか」
大和「ヲ級は人型なんですよ!それをつぶさに見た提督が情けをかけられたところで、なぜそれが人類への裏切りとまで飛躍させられてしまうんですか!!」
元帥「黙れぇえええええっ!!!」バン!
大和「っ!」
元帥「もう我慢ならん。身の程をわきまえん兵器めが!許さんぞ!…服をすべて脱げ!」
大和「な…!?」
元帥「脱げと言っておるのだ!早くしろ!…さもなければ、お前の提督にはもっと苛烈な対応をすることとなる」
大和「そ、そんな…!」
元帥「それが嫌なら、脱げ。脱ぐのだ!!」
大和「っ………」
大和「…」プチ ハラリ
大和「…」パチン ファサッ
大和「…」ブルブル
元帥「よし。では大和を両側から拘束しろ」
衛兵A・B「はっ」
ガシッ
大和「何を…なさるんですか…」
元帥「何を?決まっておるだろう」カチャカチャ シュルッ
大和「っ…!?!?!?!?!?」
元帥「ひざまずかせろ」
衛兵A・B「はい」
大和「元帥閣下…!あなたは、今まで私に様々な性的嫌がらせをしてきたどの提督よりも…下劣ですっ!!」ギロッ
元帥「…」スッ
バシィーンン!!!
大和「ぁあああああああっ!!!」
元帥「…」スッ
バシィィーン!!!!!!!!!
大和「ぃ、痛いっ!!止めて下さい!やめ…」
バシィィーン!!!!!!!!!
大和「ぅぁああっ!!!」
バシィィーン!!!!!!!!!
大和「ひぎぃっ…!!」
バシィィーン!!!!!!!!!
大和「ぃ…っ、ひぃ…」ガクガク
バシィィーン!!!!!!!!!
バシィィーン!!!!!!!!!
バシィィーン!!!!!!!!!
バシィィーン!!!!!!!!!
大和「ぃ…痛い……っ…ょ…」ポロポロッ
元帥「…何だと???」
大和「ぅぅ…」ポロポロ
元帥「…ふざけたことを言うなっ!!!…先の大戦でお前に見捨てられた人々の苦しみや痛みはこんなものではないっ!!!!!!お前などに分かってたまるものかぁあああああ!!!!!」スッ
大和「…ぇ…?」
バシィィィィィィィィーンンンンン!!!!!!!!!
大和「ぁ…………」ガクッ
ドサッ…
大和「」
元帥「…」ハァハァ
元帥「…手足に手錠をかけて転がしておけ」カチャカチャ
衛兵A・B「…は!」
元帥「それで、副官からその後の連絡は?」
衛兵A「特にありません。横鎮司令官を今こちらに移送させているとのことです」
元帥「…ということは、やはり特殊物資の事は勘づかれていたわけで、しかもその上での協力を拒んだということか。………そもそも参謀めが余計なことをしなければ…!」
元帥「…頭が痛いな」
今日はここまで おやすみなさい
こんばんは
講堂
ドンドンドン
夕立「開けて!開けてっぽい!!」
吹雪「…ダメです。外側から施錠されてます…」
伊勢「なぜ…こんなことに…!!」
愛宕「青天の霹靂にもほどがあるわ!」
龍驤「もうウチの頭じゃ何が何だか分からんわ…」
榛名「要するに、この鎮守府内に深海棲艦がいたこと、それを大本営…軍令部が察して見つけて咎めだてたってことですね…」
吹雪「………」
比叡「提督も身柄を拘束されて、どこかに連れていかれてしまいました…」
大淀「…軍令部に行った大和さんたちも…拘束されちゃったのかしら…?」
龍田「…」
川内「ねぇ、そもそもどういうこと!?どうしてこの横鎮に深海棲艦なんかがいたの!?」
青葉「そ、そうです!!少なくとも青葉は知りませんでした!!」
吹雪「青葉さんも…?」
日向「武蔵は…知ってたか?」
武蔵「…いや、知らなかった」
夕立「まさか…本当に提督が…深海棲艦と内通を…」
暁「そ、そんなわけないじゃん!」
高雄「そうよ!提督がそんなことするはずがないわ!」
金剛「でも、そうだとしたら話は振り出しに戻りますネ…」
加賀「…いずれにしろ、私たちの中の誰かが知ってるはずね。どうして深海棲艦がこの鎮守府内にいたのかを」
大淀「…っ」
大淀(…い、言わなきゃ…!事情を知ってる私が言わないと…!)
大淀(でも…皆がそれを聞いて…誤解されてしまったら…私…こ、怖い…!)
電「い、…電が連れて帰ってきたのです!あのヲ級ちゃんは先月の哨戒出撃のときに、電達が拿捕したのです!!」
雷「わ、私も一緒よ!」
大淀「!!」
武蔵「な…」
暁「どうしてそんなことしたのよっ!!あんたたちのせいで司令官が捕まっちゃったんじゃない!!!!」
響「暁、落ち着いて」ガシッ
暁「だ、だって!」
響「いま二人を責めるのは間違ってる。まずは二人の話を聞こう?」
武蔵「…雷、電、話してみてくれ」
大淀「…私から説明します。…私も共犯なんです」
ザワッ…
大淀「先月の哨戒出撃で、雷ちゃんや電ちゃんたちが連れて帰ってきたヲ級型空母を、提督はこっそり保護なさることになったんです」
大淀「提督は、無抵抗のヲ級を処分するのは情において忍びないと思われ、終戦までここに隠しておくことに決められました」
大淀「平和が来れば、ヲ級も命を奪われずに済むだろうって…」
武蔵「…そうだったのか。なるほど、提督らしいな」
加賀「確かに…そうですね」
赤城「提督ならそうお考えになっても不自然じゃないですもんね」
日向「それが私たちの提督だろうな」
榛名「はい…!」
不知火「まったく…世話の焼ける…!」
大井「…分からなくもないけど、提督のその判断は思慮深さに欠けるわね。ここには、深海棲艦との姉妹を失った艦娘だっているのに」
大淀「…」
吹雪「…睦月ちゃん?」
睦月「…確かに、深海棲艦は如月ちゃんたちの仇です」
睦月「けど…あの素顔を見ちゃったら…そして、あんなふうにされて苦しんでる姿なんか見ちゃったら…もう憎いなんて思えないよ…!」
睦月「まるで…まるで、自分のことが蹴られたり殴られたりしてるみたいで…」
武蔵「してるみたいで、じゃない。実際に私たちは辱められたんだ。提督などの足元にも及ばない、野蛮で無教養な将校面した青二才にな…!」
武蔵「ああ。提督は何も間違っちゃいない。雷や電も、大淀も、睦月も、みんなだ」
川内「武蔵さん、私ね、スッとしたんだ。武蔵さんがあの軍令部のクソ佐官に石をぶつけたときにさ」
青葉「だよね。今まで戦ってきたどんな砲雷撃戦より気持ちよかったよ!」
龍田「待って」
龍田「…問題はそこじゃないでしょ」
榛名「?」
龍田「どうして、ヲ級のことを大本営が…軍令部が知ってるのよ」
一同「………」シーン
龍田「大淀さん、ヲ級のことは貴女達と提督以外には誰も知らないはずでしょう?」
大淀「え、ええ…」
龍田「ひとつだけ教えてください。その哨戒出撃の艦隊編成は?」
大淀「…旗艦が大和さん、巡洋艦が天龍さん、木曾さん、そして駆逐艦が雷ちゃんと電ちゃんです」
龍田「…ほぉら、やっぱり」フフン
北上「な、何なの…」
龍田「中に明らかに怪しい娘がいるじゃない」
武蔵「怪しい娘?」
龍田「そう。密告者と言い換えてもいいかも。提督や横須賀鎮守府を陥れるためのね」
日向「密告者…だと?」
龍田「そう。それは木曾よ」
北上「っ…!」
大井「ちょ、ちょっと待ってよ!木曾がそんなことするわけが…」
龍田「大和さんは秘書艦、天龍ちゃんは横鎮の古参じゃない。あの二人が提督を裏切るとは思えないわ。正直に真相を話した雷ちゃんと電ちゃんもそう。となると、一番の容疑者はどうしても木曾になるじゃないの」
龍田「…横鎮の皆と協調しようとせず、特殊物資の実装すら一度は拒否したあのいけすかない娘。内地の鎮守府に栄転してきたにもかかわらず、頑なに周りを拒絶している木曾こそ一番の容疑者じゃない」
龍田「…おおかた転任前の鎮守府の司令官のほうがお気に入りだったんでしょう。だからあの娘は、鎮守府再編で心ならずも配属されたこの横鎮の私たちの提督を逆恨みにして…!」
大井「ふざけないで。私達の妹を侮辱するつもりなら許さないわよ」スッ
龍田「ふざけてなんかいないわ、大真面目よ」
大井「木曾はそんな卑怯で浅はかな娘じゃないわ。濡れ衣を着せるのもいい加減にしなさい」
龍田「濡れ衣?違うわ。だってあの娘、夜な夜なこそこそと岸壁のほうに行って何かしてたじゃない。深海棲艦と密通してたのは果たして提督かしら?木曾のほうじゃないの?ヲ級を鎮守府内に手引きしたのは…」
北上「…木曾っちのことなんかよく知りもしないあんたが、よくもそんなことを言えるね」
龍田「はぁ?そんなことはどうだっていいの。いま一番大切なのは、提督や天龍ちゃんたちの冤罪を晴らすことよ」
龍田「木曾にとってはいい機会だったはずよね。大本営におつかいに行って、おおかたそのまま軍令部に嘘の報告をして、天龍ちゃんや大和さんの身柄を拘束させたに決まってるわ!そしてここ横鎮には陸戦隊が攻め寄せてきたって寸法よ」
大井「だから木曾がそんなこと望んでたわけがないって言ってるじゃない!いい加減にしなさいよ!!」
龍田「じゃあ誰がこんなことを望んだって言うのよ!!どうして私たちの提督が冤罪を掛けられなきゃいけないの!!木曾よ、木曾が仕組んだに決まってるじゃない!!」
パシィン
龍田「痛っ…!」
大井「…」ハァ…ハァ…
大井「…それ以上言うと、もう本当に許さないわよ…!!」
龍田「…」ブン
パシィン
大井「くっ…!」
龍田「…………返してよ!天龍ちゃんを返してよっ!!提督や大和さんを返してっ!!!」ガシッ
大井「このっ…!」ガシッ
高雄「ふ、二人とも落ち着いて!!」
伊勢「ちょっとお互い離れなよ!!やめなって!!」
雷「もうやめてぇぇぇえええっ!!!」
シーン…
雷「ひぐっ…」ポロポロ
武蔵「雷…」
電「もう嫌なのですっ!!!せっかく人のかたちをして生まれ変わってきたのに!!」
電「…前世でも、そしてこの戦いでも、一緒に頑張って戦ってきた仲間なのに!!」
電「こんな…こんなふうに艦娘どうしで傷つけあうなんて…もう…嫌なのです!!!」
暁「提督、もう帰って来ないのかな…?」
ザワッ…
夕立「私たち、捨てられちゃったっぽい…?」
伊勢「やだ…捨てられるなんて、もうやだよ…!」グスッ
日向「伊勢…」
武蔵「そんなことがあってたまるか…提督が…提督が帰らない…なんて…」ウルッ
榛名「提督…!大和さん…!」グスッ
金剛「榛名…泣いちゃダメ…デス…」ウルッ
愛宕「提督が…もうお戻りにならない…の…!?」グスッ
高雄「愛宕…!そんなことあるわけ…」グスッ
不知火「…」ポロッ
ウワーン グスッ ヒグッ エーン アーン
まるゆ「…」
まるゆ(…嫌な予感が当たりました。事情はよく分からないけど、やっぱり、大本営は艦娘を何らかの形で処分しようとしてる…!)
まるゆ(……まるゆが、なんとかしなくちゃ…!)グッ
吹雪「…」
吹雪(…おかしい。何かがひっかかる………)
吹雪(いったい何が…ひっかかるんだろう………)
ドンドンドンドン
陸戦隊員6「…なんだ」ガチャ
龍驤「なぁ…兵隊さん、水をくれや」
陸戦隊員6「水…?」
龍驤「講堂の中、ごっつう暑いねん。7月の真昼間からこげなところに閉じ込められる身にもなってや」
青葉「気分が悪くなってる娘が何人かいるんです。逃げ出したりなんかしませんから、ここから出してください」
陸戦隊員6「…駄目だ。お前らをここから出すわけにはいかない」
青葉「そ、それならせめて飲み水を…」
陸戦隊員6「…」
陸戦隊員6「…ほら。少ししかないけど」パチン チャポ
青葉「あ、ありがとうございま…」
陸戦隊員2「おい、何してる」
龍驤「!!」
陸戦隊員6「あ…いえ、こいつらが水が欲しいと言うので…自分の水筒を…」
陸戦隊員2「誰がそんな許可を出した?ぁあ?」
陸戦隊員6「…」
龍驤「おいあんた!!あんたには血も涙もあらへんのか!?」
陸戦隊員2「ぁあ!?水なら講堂内にもトイレがあんだろうが!そこの水でもすくって飲んでろ」
青葉「そ、そんな…!」
陸戦隊員1「……どうした?」ザッ
青葉「ま、また兵隊さんが増えた…」
陸戦隊員2「…」
陸戦隊員6「…」チャポ
陸戦隊員1「…大まかな事情はわかった。水くらい与えてやれ」
陸戦隊員2「中隊長!しかし…」
陸戦隊員1「…我々は艦娘を熱中症にするよう命令を受けているわけではない。兵曹長、そこは大目に見ろ」
陸戦隊員2「…はい」
陸戦隊員6「…ほら」チャポ
青葉「…どうも」
龍驤「…」
装甲車内
陸戦隊員1「大佐殿、艦娘たちが水と食料を希望しております。蒸し暑い講堂に数時間閉じ込められて、熱中症になりかけている者も…」
副官「何だと?あいつらは艦娘のくせにそんなにひ弱なのか?」
陸戦隊員1「…生体は我々と何ら変わりません」
副官「…ちっ。分かった。今あいつらに倒れられるのも考え物だからな。貴様に任せる。だがいいか大尉、生かさず殺さずだ。そこが肝要だ」
陸戦隊員1「…しかし、隊員の一部には艦娘に同情的な者もおります」
陸戦隊員1「そもそも、国民の戦意高揚のために艦娘の存在を公にするようにしてきたのは大本営ではありませんか。今になってどうしてこのような…」
副官「大尉、二度は言わんぞ。あいつらは人ではない、兵器なのだ。本来ならば、兵器にどうして食料などくれてやる必要がある?」
陸戦隊員1「…我々の任務の目的は何なんです?まさか、噂通り、軍令部は艦娘を全員…」
副官「大尉」
陸戦隊員1「…」
副官「貴様の任務は陸戦隊を指揮し、ここの艦娘どもを制圧下に置き管理することだ」
陸戦隊員1「…」
副官「それ以上は高度に政治的な問題だ。貴様が口を出すことではない」
陸戦隊員1「…分かりました。では」クルッ
副官「…」
副官「…待て、大尉」
陸戦隊員1「まだ何か?」
副官「米海兵隊にも、北朝鮮武力偵察局の特殊部隊にもひけを取らんという日本海軍陸戦隊の精鋭としての自覚は…忘れないでくれ」
陸戦隊員1「…」
副官「…元帥閣下は、いたずらに陸戦隊を動かしたのではない、ということは理解しておくように」
陸戦隊員1「何ですって!?今回の我々の出動命令は…元帥閣下が自ら…!?」
副官「…」フゥ
副官「言っただろう、これは高度に政治的な問題であると。分かったら行け」
陸戦隊員1「…は」
バタン
副官「…」ガチャ ピポパ
副官「…私だ。元帥閣下はお手すきか…?……よし繋いでくれ」
元帥「まずは横鎮の制圧に成功したようだな。ご苦労だった」
副官「ありがとうございます。ですが…司令官はどうあっても決号の発動には応じないとのことでした。艦娘どもも司令官以外の命では動かない様子でしたし…」
元帥「…ああ。彼の身柄は先ほどこちらに届いた。今は留置室にぶち込んでいる」
元帥「…急いたのは失敗だったかもしれんな」
副官「このまま決号作戦に横須賀が動かないとなれば、舞鶴・呉・佐世保・那覇鎮守府も不審に思うでしょう」
副官「そうなってしまえば…下手をすれば、事が明るみになってしまう可能性も…」
元帥「…そうだな。ただでさえ決号作戦の決行日はあらかじめ防災庁を含め各省庁にも通達してしまっていたからな。これ以上無為に延期となれば、さすがに何かあったかと訝しまれるな…」
副官「…」
元帥「…だが心配するな。我々には切り札がある」
副官「切り札…でありますか??」
元帥「そうだ。…我らが世界最強戦艦の一番艦だよ」ニヤリ
きょうはここまで おやすみなさい
こんばんは
軍令部 留置室
提督「…」パチリ
提督「いてて…ここはどこだ?」ムクリ
参謀「…貴様も、ここに入る羽目になったか」
提督「先輩…!ここは…」
参謀「軍令部だ。…そこの留置室だ。俺たちは賊軍にされてしまったということだ」
提督「…なんてことだ」
参謀「…貴様も知ってしまったようだな。元帥の許すまじき企みを」
提督「ええ…例の特殊物資、調べたら毒針が仕込んでありました。遠隔で作動するものらしいです。時を同じくして、横須賀は陸戦隊に制圧されました…」
参謀「そうか…やはりそうだったか!!」
提督「すみません…俺がもっと素直に、先輩の言うことに耳を傾けていれば…」
参謀「…俺だって確信を持ってたわけじゃなかった。貴様を説得できるだけの確証もな」
提督「…いずれにしろ、もう艦娘達は」
参謀「まだ処分はされないだろう」
提督「え…」
参謀「深海棲艦はまだ殲滅されたわけじゃない。そのための決号作戦だ。だから艦娘がすぐにどうこうされる心配はない…とは思うが…」
提督「……その深海棲艦だって、意味不明な存在です」
参謀「まるで見てきたような物言いだな」
提督「見たんです。先日、うちの艦隊が拿捕してきたんです。ヲ級型でした」
参謀「…」
提督「まるで、艦娘でした。というか、まるで普通の少女でした。金髪隻眼の…」
参謀「…」
提督「解せないことはまだあります。そもそもどうして陸戦隊が攻めてきたのか…」
参謀「…それは俺と貴様が先日にやりあった件が元帥に知れてしまったからだ。俺の不手際だ…」
提督「そうだったんですか…」
提督「今後、どうなるんでしょう…」
参謀「それは俺たちの事か?それとも艦娘達のことか?」
提督「艦娘達です」
参謀「…分からん。すぐに処分されることはないと思うが…別の誰かが貴様の替わりに艦隊司令となって決号を発動するかもしれん」
参謀「…もっとも、貴様の艦娘達がそれで唯々諾々と動くとは思えないがな」
提督「…そうだとしたら、提督冥利ですよ」
提督「…陸戦隊を指揮していた奴は元帥の副官でした。あいつから決号を発動するように言われましたよ…むろん断りましたが」
参謀「…そうか」
参謀「ともかく、今の俺たちにできることは何一つない。しばらくは軍令部の出方を待つしかないな」
別の留置室
大和「ぅ…ぅぅ…」
大和「…ここは?」ムクリ
木曾「…やっと起きたか、大和」
大和「き、木曾さん!」
木曾「ここは…軍令部内の留置所かなんからしい」
大和「留置所…!?」
木曾「…まぁ、早い話が牢屋だってことだ。小さな事務室かなんかを装っちゃいるが、頑丈そうなドアには鍵が掛かってるし窓には鉄格子だ。ご丁寧にトイレもついちゃいるがな。恐らく天龍の奴も、どこか別の部屋に…」
大和「…どうして、どうして大和たちが…痛っ…!」ズキン
木曾「…おい、腰がどうかしたのか?…ま、まさか大和、お前…何か性的な暴行を…」
大和「いいえ…お尻をベルトで滅多打ちにされたんです…」ヒリヒリ
木曾「…」
大和「そういう木曾さんだって、お腹に痣が…」
木曾「…大したことねぇよ…痛っ…」ズキン
大和「でもどうして…どうして大和たちがこんな目に遭わされなきゃいけないんですか!」
木曾「元帥は戦争が終われば俺たち艦娘を殺処分するつもりらしい。あいつが…参謀がそう言ってた」
木曾「…元帥は否定しなかったよ。そして、参謀と俺に暴行を加えやがった…」
大和「なぜ…どうして…」
木曾「…この戦争が終わっちまえば、“兵器”はもう用済みなんだろうさ」
大和「…ほんとうにごめんなさい。木曾さんまで巻き込んでしまって…」
木曾「え…?」
大和「あの時拿捕したヲ級のこと…大本営にバレちゃってました…」
木曾「!!!」
大和「ごめんなさい…!大和のせいで、皆が…!」
木曾「…大和のせいじゃねえよ。違うんだ。言ったろう?大本営は…元帥は、この戦争が終わればどのみち俺たち艦娘を処分する計画を立ててたんだ」
大和「…」
木曾「…ヲ級のことは体よく横須賀を締め上げる口実さ、どうせな」
大和「元帥が…」
木曾「ああ…ちくしょう…!」
大和「この身体で生まれ変わってきたとき、大和は、本当に嬉しかったんです」
木曾「…」
大和「だから、戦争が終われば、この少女の身体で生きていけるとばかり思ってました」
木曾「…大和だけじゃないさ。俺だってそう思ってた。他の奴らだって、たぶん…」
大和「けど…こんな…こんなことになる位だったら…!艦娘なんかに…生まれ変わるんじゃなかった!!」
木曾「っ…」
大和「もう何も感じることなく、それこそ本当にただの兵器の慣れの果てとして、無機質な鉄板と鉄管の集合体…屑鉄として、光の当たらない海底で眠っていればよかった…!」
大和「残酷です…あんまりにも残酷です!!」
さらに別の留置室
衛兵A「オラ入れ!」ドン
天龍「痛っ!」ドサッ
憲兵「ぐっ…」ドサッ
ガシャーン…
天龍「おいてめぇ!何しやがる!俺たちをこっから出せ!」
憲兵「…行っちまいやがったか」
天龍「くそっ…一体何があったってんだよ!!どうして俺が…俺たちが…こんな目に…」
憲兵「ちくしょう、拳銃も携帯も取り上げられちまった…」
天龍「…ごめんな、憲兵さん」
憲兵「え…?何がだよ」
天龍「…俺のせいで、憲兵さんまでこんな目に遭わせちまって」
憲兵「何言ってんだよ。何でそれがお前のせいになるんだ」
天龍「あいつら、言ってたじゃないか。艦娘だ、拘束しろって…。あんたが俺と一緒にいなかったら、こんな目には…」
憲兵「だから何言ってんだよ。俺は今日お前らの提督から命じられてお前たちの護衛をしてたんだよ。つまり俺には命に代えてもお前たち艦娘を護る義務があるってことだ」
天龍「…」ポロッ
憲兵「お、おい泣くなよ…」
天龍「だって…」グスッ
憲兵「…だよな。訳分かんないままこんな目に遭っちまったんだもんな」
憲兵「俺だって何がどうしてこうなっちまったのか、見当も付かない」
憲兵「…なんか本当に申し訳ないな。同じ軍人…いや人間として、ここの軍令部の連中のやり方は本当に卑劣だ」
憲兵「…けど、中には俺みたいなお人よしもいるってことは忘れないでくれ」
天龍「…」コクン
??「けっ、泣かせるねぇ」
天龍「!?」
憲兵「だ、誰かいるのか!?」
??「うるせえなぁ。お前らが入ってくる前からずっとここにいたよ」ムクリ
憲兵「あ…き、貴様は…!」
駿河提督「けっけっけ、貴様らも営倉のお仲間入りか!!こりゃあ傑作だな!!」
天龍「…誰だこの海軍大尉は?」
憲兵「…大和にハラスメントをしてた駿河鎮守府のクソ提督だよ」
天龍「あ…」
駿河提督「その通り。俺はそこにいる憲兵にここにぶち込まれたんだよ。そして現在禁固中って寸法さ」
憲兵「まさか貴様と同じ牢に入れられるとはな…」
駿河提督「だよな。傑作だぜ。諸行無常ったあまさにこのことだな!いったい何をやらかしたんだ!?ヒヒヒ!」
天龍「…このクソ提督が」
駿河提督「ぁあん?」
憲兵「貴様の事だよ。よくも女の子に対してあんな酷いことができたもんだな」
駿河提督「酷い…?」
天龍「そうだろーが!てめぇは俺たちの提督の風上にも…」
駿河提督「だったらそもそも年端も行かない女に武器持たせて戦場にやることは非道っては思わねえのか?」
憲兵「…」
駿河提督「おいおい、黙るなよ。俺は何か間違ったこと言ってるか?艦娘の尻を触るのと、艦娘に弾雨をくぐらせて殺すのと、いったいどっちが非道だって聞いてんだ」
憲兵「それは…」
天龍「弾雨の中を敵と戦うのが俺たち艦娘の仕事だ。別にそれを俺たち自身は疑問に思っちゃいねえ」
憲兵「…!」
駿河提督「そうかそうか。そりゃご立派だな。要するにお前は自分たちのことを兵器だと認識してるんだな」
天龍「っ…」
憲兵「おい。さっきから黙って聞いてりゃ極論ばかり言いやがって。いずれにせよ貴様が艦娘にセクハラしたことは言い逃れできない事実だろうが!」
駿河提督「ああ、そうだよ」
憲兵「…」
駿河提督「…俺はそもそも、提督になんてなりたくなかったんだ」
憲兵「…あ?」
駿河提督「聞こえなかったか?俺はなぁ、そもそも軍人なんかにはなりたくなかったんだ」
こんばんは
憲兵「…」
駿河提督「俺は元々ただの大学生だったんだよ。在学中にこの戦争の開戦を迎えてしまった哀れな学生君だよ」
駿河提督「…俺は、ただ普通に大学に行って勉強して卒業したかった」
駿河提督「それがこの戦争のせいで、卒業間際に動員にあってにわか司令官だ!」
憲兵「…お前も学徒兵だったのか」
駿河提督「そんな俺に何が出来る?立派な戦績が残せるか?他の海大出の連中よりうまい指揮が執れるとでも!?」
駿河提督「…何が提督だ。俺ら学徒動員の急造提督はしょせんは尉官、よくて佐官レベルの地方基地司令に過ぎなかった」
駿河提督「…俺の鎮守府は目立った戦績も出せなかった。そんな鎮守府にできることっつったら、近海警備と資源集め以外に何かあったとでも?」
憲兵「…」
駿河提督「俺は俺なりに自分のできることをして、大型鎮守府の援護をしたつもりだったんだ。知ってたか、横須賀鎮守府が消費する燃料の三分の一はウチが廻してたんだぞ」
天龍「…!」
駿河提督「…けど戦争が終わって用済みになれば、どうせ俺はさっさとクビだ。正式な将校教育を受けていないからな。せいぜい雀の涙ほどの報奨っつう手切れ金を握らされてね…」
駿河提督「…大和が俺なんかの鎮守府に着任したのだって、どうせゆくゆくは主要鎮守府に上がる前の試験運用の橋渡し役に使われただけなんだ。どのみちあいつはいずれ横鎮に行くことになってたんだよ」
駿河提督「………だったら俺の存在、いったい何なんだよって話だよ」
憲兵「…」
天龍「…」
憲兵「…何を勝手に一人で絶望してやがる」
駿河提督「あ?」
憲兵「…俺だって、大学には入ったけどリーマンショックのせいで内定が取れなかった。だから陸軍の一般曹試験を受けた…」
憲兵「別に入りたくて陸軍に入ったわけじゃないし、憲兵にされたのも法学部出身だからってだけで、こっちから希望を出してたわけでもない」
憲兵「…けどまぁ、なんかの縁で、こうして可愛い女の子の近くで勤務してる」
憲兵「…結果論だが、まぁ悪くない人生だよ………って俺は思うけどな」
天龍「…!!!!!」
駿河提督「けっ…!こんなクソ狭ぇところで熱くなってんじゃねえよ!見せつけやがって、畜生!」ゴロン
憲兵「そう不貞腐れんなよ…」
駿河提督「…ふん。時代と政体に振り回されるだけの人生がそんなに面白いか」
憲兵「自分の不幸を他人のせいにして女の子に八つ当たりしてるだけの人生こそ、俺には可哀想に思えるけどな」
天龍「…つうことは、俺は鋼鉄だった自分がいま人間の女に姿を変えて生まれ変わってきたことに絶望しなくていいんだよな…?」
憲兵「そう思うよ。少なくとも、俺はね」
天龍「…ありがとな、憲兵さん」
憲兵「…うん」
駿河提督「ちっ…!なんでよりにもよってこいつらと…!」ゴロ
その頃
佐世保提督「もしもし、佐世保司令官だ」
副官「これはこれは。自分は元帥副官の…大佐です」
佐世保提督「…軍令部第一部長に電話したつもりだが、あちこち電話口を廻されて繋がったのが貴官とはどういうことだ?しかもえらく声が遠いな」
副官「こちらもいろいろと忙しくしておりましてね。それで?ご用件は?」
佐世保提督「…本来であれば3日後に発動されるはずだった、今回の決号作戦の不可解な延期について理由を照会したい」
副官「お答えする必要はない。あれは元帥閣下直々の命令です。いちいち事情の説明などしている暇はない」
佐世保提督「何だと?」
副官「何も問題はないと申し上げているのです」
佐世保提督「問題はない?問題だらけだ。理由の分からない作戦の延期は艦娘達の士気にも関わる」
副官「その艦娘どもを管理するのが司令官の仕事でしょう。泣き言は慎んでください」
佐世保提督「…」ムカ
佐世保提督「ふざけるな!!現場の娘達の苦労や心労も知らんで、この事務屋が!!」
副官「…」
佐世保提督「だいたい、敵防諜とはどういう意味だ!?どうして他の鎮守府と連絡を取り合っちゃいけないんだ!?」
副官「すべては命令電文の通りです。お答えすることはありません」
佐世保提督「こうしている間にも敵が戦力を編成し北上して来たらどうするつもりだ!?大本営はその危険性を認識しているのか!?」
副官「その心配はありません」
佐世保提督「…何で断言できるんだ!?事務屋がどうしてそんなことを言い切れる!?」
副官「心配はないと申し上げております。司令官殿はただ、ご自分の艦娘のお守をしておけばよろしい」
佐世保提督「…」ブチッ
佐世保提督「貴様ぁ!佐官の分際で将官に対して何ば言いよっとか!!!」
副官「…地方基地の艦隊司令のご身分で、軍令部の作戦指導に対し不服を言われるとはどういう了見ですか?」
佐世保提督「…その軍令部の意思のよう分からんけん聞きよるんやろうが!」
副官「…新たな作戦発動日程はまた追って通達します。それまではお待ち願いたい」
佐世保提督「…そうか。せいぜい特殊物資が無駄にならなければいいな」ガチャ
ツー ツー
副官「…」
今日はここまで おやすみなさい
こんにちは
大和「あの方…木曾さんの前の提督さんですよね?」
木曾「…ああ。大和に隠しおおせることはできなかったな」
木曾「横須賀に来る前、俺はパラオにいた。あいつはパラオ鎮守府の最後の提督だ」
大和「…やっぱり。お話に聞いてたみたいに、頭の良さそうな方でしたね」
木曾「…堅物だ。じれったいほどにな」
大和「でも、好きなんでしょう?」
木曾「…」
木曾「…あいつはな、頭だけはいいからちゃんと察してたんだよ。特殊物資は怪しい、大本営は何かを企んでるってな」
大和「…」
木曾「だからあいつは横須賀の…俺たちの提督を呼び出し、ゆめゆめ決号作戦では俺たちに特殊物資を装備させないように言いつけたらしい」
木曾「…だがまさかその本当の理由なんかは言えようもないから、あいつ…参謀と提督は衝突しちまったってのがどうも真相らしいな」
大和「…そうだったんですか。お二人とも、私たちのことを思うがゆえに、そんな…」
木曾「…あいつ、俺が言うのもなんだけどある意味コミュ障だからな。伝えるべきことをうまく伝えられなかったんだろ」
大和「…ごめんなさい。そうとは知らず、大和は木曾さんに掴みかかったりして…」
木曾「軽巡あがりの雷巡に15万馬力はないだろ」
大和「…」
木曾「いいって。気にするなよ。別にどこもイカれちゃいない」ヒラヒラ
大和「ごめんなさい…」
大和「私たち、どうなるんでしょう…。ひょっとして、解体…悪ければ殺処分になるんでしょうね…」
木曾「まだどうなるか分からないぞ。何より決号はまだ発動していないんだ。となると深海棲艦もまだ脅威はゼロじゃない」
木曾「横須賀抜きで発動される可能性があるが、それだとさすがに他鎮守府が不審に思うだろうしな…」
大和「その鎮守府はどうなるったんでしょう…」
木曾「…陸戦隊が動いているらしい。今頃…鎮守府は陸戦隊の管理下に置かれてるんだろう」
大和「っ…!!」
大和「だとしたら…皆は、提督は…拘束されてるってことですね…」
木曾「…だろうな」
大和「皆は…無事でしょうか…」
木曾「…」
翌日朝 横須賀鎮守府 講堂
卯月「はぁ…はぁ…」
弥生「卯月ちゃん、しっかりして…」
明石「…軽い熱中症が続いてますね。額と腋下をクーリングしましょう。高雄さん、濡れタオルを」
高雄「は、はい」
睦月「…閉じ込められて、一晩越しちゃったね」
吹雪「ええ…」
夕立「私たち、どうなるっぽい…?」
睦月「…よく分からないけど、水と食料の差し入れはあるし…軍令部も、私たちをすぐどうこうするつもりはないみたいだけど…」
白雪「けど司令官は連れてかれたままだよ…」
睦月「…どうしてこうなっちゃったんだろう。確かに司令官がヲ級のことを軍令部に黙ってたのは悪かったかもしれないけど…ここまでの対応は常軌を逸してるよ…」
夕立「…」
まるゆ「武蔵さん」
武蔵「…まるゆか」
まるゆ「…おはようございます」
武蔵「…なあ、まるゆ」
まるゆ「はい」
武蔵「…お前はここから出ていけ」
まるゆ「なっ…何でそんなこと言うんですか!!まるゆだって、皆さんの仲間で…」
武蔵「お前は陸軍の所属だ」
まるゆ「だ、だからって…」
武蔵「恐らく、今回の事は海軍軍令部が主導しての出来事だ」
まるゆ「…」
武蔵「海軍軍令部も、正面切って陸軍と対決しようなんて考えちゃいないさ」
武蔵「だからまるゆ、お前は陸戦隊と交渉してここから出ていけ。自分には陸軍参謀本部がついてるって言ってな。…そうすれば、お前だけでも…」
まるゆ「お断りします」
武蔵「…」
まるゆ「まるゆは、横須賀鎮守府所属の艦娘です」
武蔵「だがお前は陸軍の…」
まるゆ「…横須賀の皆さんを見捨てていくことは、それこそ陸軍の名折れです」
武蔵「…ははっ。見かけに似合わず、強情なやつだなお前は」ヨシヨシ
まるゆ「見かけに似合わず、は余計です!」プンプン
武蔵「…だが、私たちといてもこれからどうなるかは本当に分からんぞ。それでもいいのか?」
まるゆ「…こんな事、許されるわけがありません。提督さんが言いがかりのような形で連行され、艦娘もこんな扱いを受けるなんて…」
武蔵「だが、これが現実だ。この事件の根っこがどこにあるのか、私にはよく分からないが…」
まるゆ「…」
武蔵「よくは分からないが、結局のところまるゆの言うことが正しかったということだな。要するに、私たち艦娘はどのみちこんな扱いを受けて…最後には…」
まるゆ「…」
武蔵「…愉快な結末が待っているとは、どうしても思えない」
まるゆ「…でも、信じましょう」
武蔵「何を?」
まるゆ「誰かが助けに来てくれますよ!こんなこと、絶対長くは続きませんから!信じましょう!」
武蔵「誰かって…誰だ?」
まるゆ「…」
まるゆ「…佐世保の司令官さんとか?」
武蔵「…」
武蔵「…本当にそうしてくれるんなら、嬉しいけどな」
まるゆ「武蔵さん…」
ガチャ ガラガラガラ
まるゆ「あ…扉が開いた…」
副官「…おい艦娘ども、きょう一日の食事と水だ。取りに来い」ドサ
吹雪「…質問してもいいですか」
副官「………何だ」
吹雪「決号作戦はどうなるんですか?」
副官「…むろん発動する。しかし発動するのは貴様らの提督ではない」
吹雪「…だれが発動するんですか?」
副官「誰であろうと関係ない。お前たちは命令に従えばいいだけだ」
吹雪「…お断りします」
副官「…何だと!?」
吹雪「…私たちの提督が自ら私たちに下令しないかぎり、そうでなければ陛下が直接命令を下賜されないかぎり…私たちは決号作戦を開始しません」
夕立「ふ、吹雪ちゃん…!そんなこと言ったら…」ハラハラ
副官「…そうか。よく分かった」バターン ガチャ
夕立「…あ、あれれ?」
吹雪「…」フゥ
不知火「…ずいぶん、勇気のいることをしましたね」
伊勢「もう、聞いてて心臓が止まりそうになったよ…」
吹雪「大丈夫です。ほら、あの人水も食料も置いていきましたよ」
金剛「ブッキー…あまり無茶はしないほうがいいネ」
吹雪「…皆さんにもご心配をおかけしました。けど、今ので分かったことがあります」
夕立「ぽい?」
吹雪「私たち艦娘がいないかぎり、決号作戦は実行できないし、深海棲艦を殲滅させることも出来ないんだよ」
吹雪「あの副官は、私たちに確固たる“意思”があることに気づいたんだよ…。やっと、ね」
その頃 軍令部
パッパカパー
提督「ん…起床ラッパか」ムクリ
参謀「…そのようだな」ムクリ
提督「あ…おはようございます。眠れましたか?」
参謀「床で寝るのは涼しいが、ぶちのめされた身体には酷だな。兵学校のハンモックが懐かしい」
提督「ですね。言えてます」
参謀「…」ゴソゴソ
提督「…何してるんです?」
参謀「…扉のところにエビアンとカロリーメイトが転がってた。最低限の栄養は与えられるみたいだな。お前も食うか?」ガサガサ
提督「もちろんですよ。このまま気温が上がったら煮干しになっちまいます…」
提督「さて、軍令部…元帥はどう出てきますかね」
参謀「…分からん。各省庁にも作戦の通達をしていた以上、元帥どもにも時間がないことは確かだろうが…何より、艦娘がどうなるか、だ…」
提督「…そうだ、大和たちはここにいるんじゃないか…?昨日、俺は大和たちにここを…」
参謀「ああ、大和なら昨日来たぞ。自分たちの提督を殴ったのが俺だと知って、血相変えて殴りこんできた」
提督「…!」
参謀「…そして、木曾が健気にも俺を庇って掴みあいになった」
提督「あちゃぁ…」
参謀「さすがに6万トンと5千5百トンだぞ。俺の木曾は押されっぱなしだった」ククッ
提督「…」
参謀「…その後大和は、元帥に話があると連れていかれたが…」
提督「!!」
参謀「…恐らく、どこか別のところに拘束されてるんだろうな」
提督「っ…」
参謀「…だとしても、おそらく木曾と一緒だ。寂しくはないだろう…といっても慰めにはならないか…」
提督「…」
参謀「畜生…元帥め…!」グッ
提督「…しかし、謎ですね」
参謀「何がだ。どこにも謎なんかない。大本営はこの戦争が終わったら艦娘を殺処分する。そういうことだ」
提督「そっちじゃありません」
参謀「…?」
提督「先輩は兵学校時代にも海大時代にも、艦娘については確か否定的な発言ばかりされてたじゃないですか」
参謀「…」
提督「海大のディベートで、先輩は話してませんでしたか?『艦娘の保有により顕現する海軍の諸問題について』とかなんとか」
提督「当時聞いてて腹が立ちましたけどね、俺も同期も」
参謀「…」
提督「先輩みたいな捻くれ者が艦娘のことを大切に思うようになったという心境の変化が、謎だって言ったんですよ」
参謀「…」
参謀「…木曾は、貴様の鎮守府ではどんな艦娘だった?」
提督「…!!!」
提督「…やっと色々話が見えてきました。そうか、そういえば木曾は以前はパラオに…」
参謀「ああ、あいつは前任地のパラオで出会った艦娘だ。あいつはずっと俺の秘書艦をしてくれていた」
大和「おはようございます、木曾さん」
木曾「…ああ、おはよう」
大和「…眠れました?」
木曾「浅眠だよ…元帥に蹴られた腹が痛むからな…」ズキッ
大和「大和も…まだお尻が痛いです…」ヒリヒリ
木曾「…辛ぇよな」
大和「…」
木曾「…鋼鉄だったころは、どんなに敵の砲弾や機銃弾を受けても、痛みを感じる事はほとんどなかった」
木曾「それが…どうだよ、この姿で生まれ変わってきて…それで“お前らはただの兵器だ”って言われて足蹴にされたときにはさ…」
木曾「…っ、…ちょっともう…心がズタズタになっちまったよ…」
大和「木曾さんっ…」
木曾「なぁ大和…俺らはさ…人間の良心って奴を…信じていいのかな…?」
大和「良…心………」
木曾「俺は…艦娘になってから、一度それを間近で受け止める機会があったんだ」
大和「…」
木曾「それは、本当に幸せな出来事だったんだよ…」
木曾「…俺は以前、パラオ鎮守府にいたんだ」
大和「…」
木曾「規模は大きくなかった。俺ら軽巡が中核戦力の鎮守府だった」
木曾「…そこで、俺はあいつと出会ったんだ」
提督「…どうせ今できることもないですし、先輩と木曾との馴れ初めをきかせてはもらえませんかね?」
参謀「…」
参謀「…まだ俺が軍令部付の少佐だったころの事だ」
参謀「俺は新米だったにもかかわらず、恩賜の軍刀組だったがために軍令部から各地の鎮守府の指導監査を命ぜられ、あちこち飛び回ってた」
参謀「ある時、俺は南洋のパラオ鎮守府に向かった」
数年前 パラオ
木曾(軽巡)「…」グッ
木曾(軽巡)「…」スラリ
木曾(軽巡)「…」ギラッ
少佐(当時)「そこで何をしている?」ザッ
木曾「…誰だよあんた」
少佐「軍令部付の将校に対しあんた呼ばわりとは恐れ入るな」
木曾「…その将校さんがここに何をしに来たんだ?」
少佐「先に質問したのはこちらだ。木曾、お前はそこで何をしているんだ?」
木曾「…あんた、俺のことを知ってるのか?」
少佐「我が海軍の水雷戦力の要たる巡洋艦のシルエットと名前くらい、ちゃんと心得ている」
木曾「…」
少佐「それで、俺の質問の答えは?」
木曾「別に。自分の得物を抜いて切れ味を見ているだけさ」
少佐「ほう。それで誰かを斬るつもりか?」
木曾「あんたには関係ねえ」
少佐「関係ないことはない。それで誰か人を斬るつもりなら力づくでも止めるぞ」
木曾「…ふん。やっぱりか」
少佐「…何?」
木曾「あんたも俺らのことをただの兵器…モノとしか思ってねえんだろ?」
少佐「なんだと?」
木曾「…だよなぁ。兵器が人様に手ぇ上げちゃあ一大事だもんなぁ」
少佐「木曾…?」
木曾「てめぇらに何が分かるかってんだ!」
少佐「!」
木曾「確か聖書にあったよな。神は自らの姿に似せて人を作ったって。てめぇらは神にでもなったつもりか?ぁあ!?」
少佐「…?」
木曾「てめぇらが兵器を自分たちの姿に似せて作ったのは、尻や胸を触って喜ぶためか?」
少佐「なに…!?」
木曾「俺らにだって心はある」
少佐「…」
木曾「どけ。俺は俺らの提督を斬る。あの男はもう生かしておけない。放っておいたらここにいる艦娘たちは心まで殺される」
少佐「…さっきから何の話をしている。胸や尻を触るとか心が殺されるとか、いったい何の話だ?」
木曾「…へっ。中央の将官様はお上品だな。無知なボンボン将校か?それともてめぇだけは聖人君子のつもりか…?」
木曾「…見たいなら来い。見せてやる」グイ
少佐「お、おい…」ヨロ
パラオ鎮守府 司令官執務室 のドアの外
少佐「い、いったい何だ…」
木曾「静かにしろ」シッ
木曾「…黙って覗いてみろ」
少佐「…?」
まるゆ「…」
北上「…」
大井「…」
悪徳提督「…なんだ?お前たちの今日の演習の結果は」ペラ
悪徳提督「まずはおい、そこの陸軍」
まるゆ「!」ビクッ
悪徳提督「お前には目がついていないのか?というかそもそも見張りという概念を知ってるのか?」
悪徳提督「演習の序盤、お前は相手の先制攻撃を察知できる位置に居ながら相手を見つけられなかった」
悪徳提督「…今日の敗因はお前の責任だぞ」
まるゆ「す…すみません…」
悪徳提督「何がすみませんだ?」
まるゆ「…」
悪徳提督「だいたい、どうしてお前みたいな陸軍のもやしがここにいる?俺は要らんと言っているのにな」
まるゆ「…」
悪徳提督「はっきり言おうか。役立たずまで養う余裕はこのパラオにはないんだよ」
まるゆ「こ、これからはもっと頑張ります!」
悪徳提督「それ、お前今までに何べん言った?」
まるゆ「…っ」
悪徳提督「もうお前みたいなやつは何もしなくていい。知らんぞ。その代り食事もやらん」
まるゆ「そ、そんな!ご、ごめんなs…」
悪徳提督「黙れ」ブン
まるゆ「あっ!」バシッ
北上・大井「っ!!」
悪徳提督「もう言葉を発するな。お前の声は癇に障るんだよ」
まるゆ「…」シクシク
北上「提督…そもそもまるゆを通常戦闘に使おうという考え方が間違ってるんじゃ…」
悪徳提督「北上、間違っていたら教えてくれ。艦隊の用兵は提督がやるんじゃなかったか?」
北上「…」
悪徳提督「おい、黙るなよ。なあ、俺に意見したのはお前だろう?」
北上「そ、それは…」
悪徳提督「そもそもお前は他人を庇える立場か?今日は散々相手を討ち漏らしていたな。内地の軽巡ならまだマシな雷撃戦ができるぞ。ん?」
北上「くっ…」
悪徳提督「じゃあいっそ次回はお前だけで他鎮守府との演習を受けてみろ」
悪徳提督「なぁ、そもそもどうせお前たちは俺の事なんか眼中にも入れてないんだろう?」
悪徳提督「いいだろう、じゃあお前たちがこの鎮守府を自分たちで回してみろ」
悪徳提督「…けどな、どうせ最終的にお前たちは俺に頼ってくるんだろう?」
大井「…いい加減にしてください」
悪徳提督「ん?おい、今言ったのはお前か?ん?どうした?私めは何をいい加減にして差し上げればよろしいんでしょうか?ん?」
大井「そ、そうやって無理難題ばっかり吹っ掛けたり、艦娘達を苛めたり…!」
悪徳提督「…おい、大井」
大井「…」
悪徳提督「お前はいったいどこの所属の艦娘だ?」モミ
大井「ひっ…!」ゾワッ
北上「なっ…!」
まるゆ「ぁああ…!」
悪徳提督「…忘れないでくれよ。お前は俺の艦娘だろう?」モミモミ
大井「や、止めてください!」バッ
悪徳提督「調子に乗るなよ」ギュ
大井「痛っ!」
北上「大井っち!」
悪徳提督「お前は俺の艦娘だ。多少の私欲に付き合わせて何が悪い」ペロ
大井「嫌ぁ!」ポロポロ
北上「この…!」
悪徳提督「なあ大井。ここの鎮守府の艦娘どもはどうにも俺を敬遠しているようだな。ならこの際、俺が大井とどれだけ親密になれるかを皆に見せつけてみようじゃないか」カチャカチャ シュル
大井「や…やめて…」ポロポロ
悪徳提督「北上には最前列で見ていてもらおうか。その方がお互い燃えるだろう。なぁ、大井?」
北上「…っ!」ギリッ
木曾「…もう限界だ」スラリ
木曾「なあ少佐さん、止めるなよ。俺をふん捕まえるんなら後生だからあの男を斬ってからにしてもr…」
少佐「…」スッ
バタァーン!
少佐「…」
木曾「お、おい…」
悪徳提督「…何だ貴様は?」
少佐「軍令部付の…少佐だ。内地から抜き打ちの指導監査に来た」
悪徳提督「抜き打ちで監査だと!?監査日程は事前に決まっていただろう!?」
少佐「監査の抜き打ちにも対応できない男が実戦での奇襲に対応できるのか?聞いてあきれる話だ」
少佐「ずいぶんと騒がしくしているようだが、これは?」
木曾「ね、姉さん…!まるゆ!」
大井「…」シクシク
北上「大井っち…」シクシク
まるゆ「…」シクシク
少佐「…だいたいのところは外から見せてもらった。一つ聞きたい。今の貴官の振る舞い、これは果たして日本海軍将校に相応しいものだろうか?」
悪徳提督「…ふん。ここは私の城だ。つまりある程度の采配は私の当然の権利だ!!貴様のような若造の勝手にはさせん!!」
少佐「私の城…………………??」
少佐「くっ……あっはっはっはっはっはっは!!!!!!」
悪徳提督「!?」
少佐「これは異なことを言う!ここは貴官の城ではない。ここは…」
悪徳提督「私は陛下の親任でこの鎮守府に赴任しているのだぞ!貴様、畏れ多くも…」
少佐「この鎮守府は国民の血税でまかなわれたものだ。分かるか????つまりここは現憲法が定めたところの、畏れ多くも国民の象徴たる陛下の鎮守府だ!!!」
悪徳提督「っ…」
木曾「…!」
少佐「そして艦娘もまた陛下の名のもとに派遣されてきた存在だ。それを貴官は…」ギリッ
少佐「陛下の鎮守府と艦娘を私する貴様は、一体何様だああああっ!!!!!??」
木曾「…!!!」
少佐「もはや是非もない。監査以前の問題だ。貴官を海軍刑法第18条の3、艦娘の扱い義務違反の現行犯で拘束する!!…軍令部査察官たる自分にはその権限がある」
悪徳提督「ま、待てっ!!そ、そこまでするか…っ」
少佐「貴官の身柄については、刑事訴訟法に従いこれを処遇する。質問はあるか?」
悪徳提督「貴様ぁ…」
少佐「軽巡北上・大井・木曾。以下は海軍軍令部総長の特命である。この非国民を拘束しろ!!!」
北上「ほいっ!!」
大井「喜んで!!」
悪徳提督「くそぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!」バッ
北上「きゃっ!!」
大井「痛っ!!!」
悪徳提督「貴様ぁぁあああああああ!!!!!この若造がぁああああああ!!!!」ジャキッ
北上「け、拳銃をっ!!」
大井「危ないっ!!」
少佐「しまっ…」
ズダァーン!
少佐「…」
少佐「…???」
木曾「…前世で何千発も機銃弾を喰らってきた俺が、てめぇの小便弾ごときを斬り落とせねえとでも思ったか???」スラリ
悪徳提督「き、木曾…!!!」
木曾「ふっ!」シュバッ!
キィイイイン!! ゴトッ
悪徳提督「く、銃が…」
大井「このクソが!」バッ
北上「覚悟しな!」バッ
悪徳提督「は、離せ!貴様ら!!」ジタバタ
少佐「…パラオ憲兵分隊に引き渡せ。こいつはもう海軍軍属ではない。海軍法廷で存分に吊るしてもらおう」
北上「はいよー!」
悪徳提督「…この若造め、思い出したぞ。この親の七ひか…」
少佐「!」
北上「ちょっと黙れよ」ブン
悪徳提督「」ゴスッ
大井「よくも…よくも!」ブン
悪徳提督「」バキッ
バタン
少佐「…」
木曾「…」
少佐「…済まなかった。お前のおかげで助かった」
木曾「…礼を言われるほどのことじゃない」
少佐「そうか…」
木曾「…この鎮守府はどうなるんだ?」
少佐「事のあらましは軍令部に報告する。すぐに後任が派遣されてくるだろう」
少佐「ただ…それまでは自分がこの鎮守府の司令官を代行することになるな」
木曾「…!!!」
木曾「そうか…!」
少佐「短い間になるだろうが、お前には俺の秘書艦を頼みたい。いいか?」
木曾「…ああ。任せてくれ!!!!!」
提督「…そんなことがあったんですか」
参謀「ああ。数奇な出会いだった」
提督「…先輩にも熱いところがあったんですね」
参謀「………買いかぶるな。俺は理不尽と卑劣が何より嫌いなだけだ。その体質を海軍から一掃するのが俺の夢だ」
提督「なるほど…」
参謀「…話は戻る。俺はパラオ鎮守府司令官代行として、しばらく後任の着任を待っていた」
参謀「…ところが軍令部も忙しかったんだろう、後任はやって来ず、俺はそのままパラオ鎮守府の提督として居座り続けることになった」
参謀「……楽しかったよ」
提督「…!!!」
参謀「楽しかった。自分の机上の仕事のスキルを、実地で艦娘を運用しながら発揮できるんだ」
参謀「自分の今までの経験が、パラオ鎮守府で存分に活かせることが出来たんだ。そのための経験だったんだ、と思えて嬉しくてならなかった」
参謀「…手前味噌だが、所属する艦娘たちも喜んでくれた」
参謀「南洋の島が、本当に天国になったとな。……ありがたいことだ」
参謀「木曾は秘書艦としてよくやってくれた。提督として右も左もわからん俺を、時には厳しく、時にはいたわりながら…」
参謀「泳げない俺に泳ぎも教えてくれた」
提督「ああ…そういえば兵学校の遠泳も先輩は見学でしたもんね…」
参謀「親父が海には絶対に入るななどと訳の分からん教育を俺に施したからだ」ムスッ
提督「……………………………………」
参謀「ふふっ…」
提督「??」
参謀「…気丈にふるまう木曾がな…一度だけ泣きそうな顔をして俺のところに来たことがあった」
木曾「…なぁ、提督」
少佐「どうした?何かあったのか?」
木曾「…俺を本土の艦政本部に修理に出してくれないか?」
少佐「何だと?どういうことだ?どこか悪いのか?」
木曾「…分からない。分からないんだ」
少佐「…?」
木曾「なんだろう……最近、お前のことを思ったり…会ったりすると、胸が…なんとういうか、こう…熱くなるんだ」
少佐「…」
木曾「別にそれが不快とかじゃない。むしろ心地いいくらいだ。けど…」
木曾「…同時に、海戦に出て傷つくことを恐れるようになった俺自身に気づいちまったんだ」
少佐「………」
参謀「いくら俺だって、そこまで鈍感じゃない」
参謀「気づいたら、俺は木曾を抱きしめていた」
参謀「木曾は非常に驚いていた。…そして、涙した」
参謀「その後、俺は大井から多いにバカ呼ばわりされた」
参謀「同時に木曾は大井から、その感情の正体について教わった」
参謀「…俺が木曾にいつしか抱いていたそれと全く同じ感情、のな」
提督「…」ニコニコ
参謀「…そして、俺たちはケッコンする約束までしていた」
参謀「………なのに、あの異動だ。まるであのクソ元帥が謀ったように…」
提督「…」
参謀「俺は結果として、木曾の心を弄んだ。俺はある意味、パラオの前任者より大罪人だ」
参謀「…そして軍令部に赴任した時、俺は嫌な噂を聞いた」
参謀「大本営は終戦のあかつきには艦娘たちを殺処分するつもりらしい、とな」
提督「…!」
参謀「その妙なリアルさが俺をどうしようもなく不安にさせた」
参謀「……あわよくば終戦後に普通の少女となった木曾を、提督としてではなく一人の男として迎えに行きたいと考えていた情けない俺をな…」
参謀「そこに、わけのわからん指輪が不自然なタイミングで登場したというわけだ」
提督「だから、あの時先輩は俺に…」
参謀「…確固たる確信はなかった。だが、木曾たちの新任先の艦隊司令たる貴様には…いや、他の鎮守府の司令官達にも、絶対にそんな怪しいものは使ってほしくなかった」
参謀「結局、悪い予感は当たったと言うわけだがな」
木曾「…つまんねえ話だったろうけど、これが俺とあいつの馴れ初めだよ」
大和「木曾さん」
木曾「ん?」
大和「…今の木曾さん、とても女らしい顔をしてますよ」ニコ
木曾「ばっ…!からかうんじゃねえよ!」カァア
大和「…でも嬉しいです。木曾さんにも、そんな素晴らしい相手がいるなんて」
木曾「まあお前の彼氏をぶん殴った男だけどな」
大和「それはもう言いっこなしです」
木曾「…なあ、大和」
木曾「…お前、ここに来る車の中で言ってたよな。『あの方のために沈んだっていい、全てを捧げるつもりだ』って」
大和「ええ」
木曾「…俺だってそうだ。俺はあいつの為なら身を挺してもいい。それだけの想いを、俺はあいつから与えてもらった」
大和「…同志、というわけですね」
木曾「いや…なんとなく大和に張り合いたかっただけだ」
木曾「それと…横鎮に来てこの方ずっと不愛想にしてて悪かった。あいつと離れ離れになって、もう自暴自棄になっちまってたんだ…」
大和「…木曾さんって、可愛いですね。天龍さんにも見せてあげたい」
木曾「なっ…!この…」カァア
大和「…」ニコニコ
木曾「それより…問題は今後だ。これから奴らがどう出るか…だな…」
大和「ええ…!」
訂正
>>355の後に以下が入ります
木曾「入渠もしてみた。工作妖精さんにも見てもらった。でも分からないんだ」
木曾「なんか、俺が俺自身じゃなくなっちまうみたいで…怖いんだ…」
少佐「…大井や北上には相談してみたか?」
木曾「…いや。姉さんたちにまで心配はかけたくねぇから…」
木曾「…俺は、艦娘として欠陥品になっちまったのかもしれない…」グスッ
『いよいよこの島も決戦場となる日が近づいてきました。皆さんは海軍のお船で本土に疎開してもらいます』
『ええっ!?本土に行けるの!?』
『楽しみだなぁ!先生、疎開はいつですか!?』
『海軍のお船の用意が出来てからよ』
『海軍のお船って、軍艦に乗れるの!?』
『そうよ』ニコッ
『良かったね、兄ちゃん!本土だよ!』
『そうだな!本土に行ったら、雪を見てみたいな!』
『兄ちゃん、あれ、軍艦じゃないよ…』
『大きいけど古い船だなぁ。名前は…ええと、つし…ま…?』
元帥「やめろ、やめろ………………っ!!」ガバッ
元帥「…」
チュンチュン
元帥「…また、あの夢か」
佐世保鎮守府 司令官室
摩耶「失礼するぜ提督」ガチャ
佐世保提督「…おお、摩耶か、おはよう」
鳥海「姉さん…」
摩耶「鳥海も来てたのか…」
鳥海「…」コクン
摩耶「…で、どうなってんだ?例の件の話をしてたんだろ?」
佐世保提督「…軍令部から照会は得られなかった。にべもなく一蹴されたよ」
摩耶「なに…!?」
鳥海「やはり、中央でなにかが起きたとしか思えませんね…」
摩耶「他の娘たちもざわついてるぞ。事情ははっきりしないのか!?」
佐世保提督「…気になることがある」
摩耶「何だ?」
佐世保提督「あの緊急電が入るほんの少し前、横須賀からワンコールだけ電話があった」
摩耶「あ、ああ…」
佐世保提督「…こっちからかけ直せてない以上、何か用があるなら横須賀の司令官は必ずまた掛けてくる。奴はその辺しっかりしてるからな」
鳥海「…」
摩耶「ってことはだ。つまり、横須賀がらみで何かよからぬことがあったってんだな?」
佐世保提督「断定はできないが…」
摩耶「ならいっそ横須賀に掛けなおしてみろよ。そうすりゃはっきりするじゃねえか」
佐世保提督「それは出来ない。軍命だ」
摩耶「こんなおかしな軍命があるかよ!」
鳥海「いい加減にしてください姉さん。提督を困らせたいのですか?」
麻耶「だっておかしいだろこんなの!あたしは何か嫌な予感がするんだ。せっかくこうして特殊物資までもらったのに、作戦自体が延期になるなんてさ…!」キラッ
佐世保提督「っ…!!!!!!」
麻耶「…なあ、提督は何か心当たりはねぇのかよ!?」
鳥海「やめましょう、姉さん。提督が禁を破って横須賀と通信を取れば、明らかにこれは軍法会議ものですよ!」
麻耶「だったらどうするってんだよ!横須賀には愛宕や高雄たちもいるんだぞ!もし横須賀でなにか起きてたらどうすんだよ!鳥海はあいつらに何かあってもいいって言うのかよ!?」
鳥海「っ!!」
佐世保提督「摩耶、いい加減にしろ」
摩耶「…」ハァハァ
佐世保提督「鳥海だってそんなつもりで言ってるんじゃない。とにかく落ち着け」
摩耶「…」ウルッ
鳥海「姉さん…?」
摩耶「なぁ提督…ほんとに嫌な予感がするんだよ…!頼むよ、愛宕や高雄も、提督の武蔵だって、みんな横須賀にいるんだぞ…?もし…もしあいつらに何かあったらって思ったら…」グスッ
佐世保提督「摩耶…」
摩耶「…っ!」クルッ バタン
鳥海「姉さん…」
佐世保提督「…いい、そっとしておいてやろう」
鳥海「申し訳ありません提督、姉が…」
佐世保提督「…横須賀の姉妹たちが心配でたまらないのは鳥海だって同じだろう?」
鳥海「…」コクン
佐世保提督「…俺だってそうだ………同期だっているし………武蔵…だって………」
佐世保提督「武蔵…」
今日はここまで おやすみなさい
こんにちは
数年前
長崎・佐世保 弓取山展望台
佐世保提督「…」
ジャリッ
武蔵「…貴様が佐世保鎮守府の司令官か?」
佐世保提督「…ん?君は…」
武蔵「私は戦艦武蔵だ。長崎三菱造船所で艤装を完了し、さきほど佐世保鎮守府に着いたら、司令官はこちらにいると聞いたんでな」
佐世保提督「ああ…そうか、そういえば今日着任してくれる事になっていたな。俺が佐世保鎮守府の司令官だ、よろしく」スッ
武蔵「こちらこそ」スッ
佐世保提督「…鎮守府で待っていてくれたらよかったのに、わざわざこんな山の上まで来てくれたのか」
武蔵「待つのは性に合わなくてな…。まったく、新しい艦娘が着任するというのに外出とはな…」
佐世保提督「そ、そうだな。済まなかった」
武蔵「冗談だ。提督たるもの、そんなことで謝ることはない」
佐世保提督「お、おう」
武蔵「…それで、提督はここで何を?」
佐世保提督「…海を見ていた」
武蔵「海…」
佐世保提督「ああ。そうだ…ついこの間まで、俺が深海棲艦と戦っていた海だ」
武蔵「…」
佐世保提督「…どうだ、この展望台から見える景色は」
武蔵「ああ…素晴らしいな。まさに港町じゃないか」
佐世保提督「足元には佐世保の市街地が広がってて、その向こうに広がるのが…海だ」
佐世保提督「…俺の乗っていたイージス艦も、あの海で沈められた」
武蔵「…」
佐世保提督「…どうだ、佐世保の街は」
武蔵「…穏やかな街だな。少しづつ知って、好きになっていくよ」
佐世保提督「…本当に好きになれそうか?」
武蔵「…どういう意味だ?」
佐世保提督「…あれを見ろ」
武蔵「…」
佐世保提督「あれが俺たちの佐世保鎮守府だ。その横にあるのが…アメリカ海軍佐世保基地だ。もっとも、深海棲艦との戦争が始まってからは大人しくしてるようだけどな」
武蔵「…っ」
佐世保提督「…笑ってくれ。かつて鋼鉄だった武蔵が沈んだあの戦争で、日本は負けた。爾来この国は、実質的にアメリカの保護下にある」
武蔵「…」
佐世保提督「俺たち日本海軍は、この国を守ることが出来なかったんだよ。そして今、この国は新たな外患に直面している」
佐世保提督「情けないぜ。もし二度目の敗戦を迎えることになってしまえば、俺たち軍将校は、いったい何のために…」
武蔵「えい」パチン
佐世保提督「いてぇ!人が話してるときになんでデコピンしやがる!」
武蔵「がっかりさせないでくれ。私を使いこなそうとしている男が、そんな女々しい事を言うんじゃない」
佐世保提督「武蔵…」
武蔵「…そうか。大日本帝国は滅びたんだな」
佐世保提督「…そうだ」
武蔵「……………だが、貴様はこうして生きて、再び身体を与えられたこの私と今言葉を交わしている」
佐世保提督「…」
武蔵「…帝国は滅んでも、人びとは生き残った。そして街も生まれ変わった。…それでいいじゃないか。軍が敗北しても、国が喪われていないのであれば、それは敗北じゃない」
佐世保提督「………」
武蔵「…そして、その蘇った日本を守るのが、提督と私たち艦娘の役目だ。そうだろう?」
佐世保提督「…!」
武蔵「…私より先に着任した艦娘たちはどうだ?うまく戦えているか?」
佐世保提督「あ、ああ…敵を押し返すところまではいってないが…少なくとも、深海棲艦に対する力としては、通常艦艇よりもはるかに…」
武蔵「そうか。つまり私たちは提督の希望になり得る、ということだな?」ニコッ
佐世保提督「…!」ドキッ
武蔵「安心しろ。私が来た以上、もう深海棲艦どもの好きにはさせない。この街を、この国を守り切ってみせるさ。これでも私は、かつての聯合艦隊旗艦だからな」
佐世保提督「…そうだったな。そうだ、まだ俺たちは負けたわけじゃないもんな…!」
武蔵「ああ。これから共にこの国の未来のために戦おう。よろしくな、提督!」
佐世保提督「…おう!」
横須賀鎮守府 講堂
金剛「…また陽が昇ってきたデス」
白雪「暑いよう…」ハァハァ
武蔵「“提督”…」
武蔵「…再び、貴様と生きて会うことができるんだろうか」
武蔵「…」
武蔵「…しょせんは、儚い夢だったのか?」
武蔵「くっ…とんだお笑い草だったのか?…どうなんだろうな。なぁまるゆ…」
まるゆ「…あきらめちゃいけません、武蔵さん」
まるゆ「必ず、チャンスはありますから…!」
武蔵「チャンス、か……」
深海
戦姫『…いよいよ、最後の大攻勢をかける時が来た』
ル級『…最後、だなんておっしゃらないでください』
戦姫『だが…恐らく結果としてはそうなるだろう。兵力も燃料弾薬も尽きかけている私たちに、それ以上の…それ以外の結果が待っているとは思えない』
ル級『…』
戦姫『それでも、これは命令だ。私たちに与えられた…ラスト・オーダーだ』
戦姫『それで、私たちの攻撃目標だが…』
リ級『…提案してもいいですか?』
戦姫『…聞こうか』
リ級『敵ヨコスカ鎮守府を完膚なきまでに破壊しましょう』
戦姫『…ヨコスカに戦力を集中させるのか?』
リ級『そうです。私たちの総戦力では敵の有力鎮守府全てをつぶすことは出来ませんが、総力を結集して一つの敵に当たれば、刺し違えてもこれを壊滅させることができます…!』
ル級『それは貴女の私怨でしょう!?作戦の場にそんな…』
戦姫『…待て』スッ
ル級『…』
戦姫『…なるほど。確かにそうだな。発想の発端はどうでもいい。確かにその考え方は合理的ではある』
戦姫『…だが、もしあの娘が捕虜として生きていた場合、巻き添えになるかもしれないぞ。それは覚悟の上なのか?』
リ級『…』
リ級『…どのみち、死にゆく定めの私たちなら、できるだけ同じ時間と場所で消えたいと思います』
リ級『…私、狂ってますか?』
戦姫『…』
戦姫『…それでいい。お前の狂気は、私たちがただの兵器ではなかったことを再確認させてくれた』
ル級『戦姫さま…!』
戦姫『…いいじゃないか。最期くらい、自分たちの狂気で踊りあかしてから消えていこう。自分たちの選んだ時間に、自分たちの選んだ戦場で…!!!』
ル級『自分たちの選んだ時間…?待ってください、“上”は今回の攻勢の予定日時をしばらく延期するという命令通信を…』
リ級『…死にゆく私たちに誰が懲罰を与えるっていうの?死に際すら選べない死など誰が甘受してやるっていうの??』
ル級『………』
戦姫『今さら作戦発動日時の変更に従うつもりはない。これは私たちの最初で最後の意地のひとつだ。ル級、“上”への決別電文は以下の通りにしてくれないか?』
ル級『?』
戦姫『 Fuck you 』p
横須賀鎮守府 ゲート外
陸戦隊員6「…暑くなってきたなぁ」
婆ちゃん「ちょっと兵隊さん」ヨタヨタ
陸戦隊員6「ん?お婆さん、どうしました?」
婆ちゃん「あたしゃ時々ここを散歩してるんだけどね」
婆ちゃん「どうもここ2・3日、艦娘さんたちを見かけないねぇ」
陸戦隊員6「…」ギクッ
婆ちゃん「そういや顔なじみの憲兵さんもいないねぇ。替わりに怖そうな銃を持った兵隊さんがここに立つようになったじゃないか」
婆ちゃん「…ねぇ。艦娘さんたちゃどこに行ったの?」
陸戦隊員6「…!!!」ドキッ
陸戦隊員6「そ、それはねお婆さん…近々大きな作戦があるから、その準備のためだよ」
婆ちゃん「それにしたってまったく姿を見ないというのはおかしいさね」
婆ちゃん「見たところ鎮守府の中にあんたたち以外に誰もいないじゃないか。もちろん海の上にも」
陸戦隊員6「そ、そりゃ軍事機密の保持のためにね…」
婆ちゃん「…あんた、さっきあたしにもうすぐ大きな作戦が云々って言ったくせに、軍事機密も何もあったもんかね」
陸戦隊員6「…」ダラダラ
婆ちゃん「……あんた達、何か隠してるんじゃないかね?」ジロリ
陸戦隊員6「…」ダラダラダラダラ
陸戦隊員2「…というやり取りがあったそうです」
副官「…」
陸戦隊員6「も、申し訳ありません…」
副官「…その高齢者はどうした?」
陸戦隊員6「そ、それが…その後突然咳き込みだしたところを、近くの通所介護施設の職員が見つけて引き取っていきました…デイサービスの利用者だそうです…」
副官「…そうか」
陸戦隊員2「しかしそれにしても気の効かん奴だな。艦娘どもは研修ですとか慰安旅行に行ってますとか、上手い返しようがあっただろうが!?」
陸戦隊員6「…」シュン
副官「…困った事態になったな」
陸戦隊員2「まさか周辺の住民が騒ぎ出すとなれば、事は面倒です」
陸戦隊員2「その婆さんの口から騒ぎが広がれば…我々のミッションも遂行が困難になります」
副官「うむ…」
陸戦隊員2「それこそあとは、その婆さんの口を封じるしか…」
陸戦隊員6「!!」
副官「…兵曹長」
陸戦隊員2「は」
副官「冗談でも馬鹿なことを言うな。我々は誰のための軍隊だと思っている?」ギロ
陸戦隊員2「…申し訳ありません。口が過ぎました」
陸戦隊員6「…」ホッ
副官「…過ぎたことは仕方ない。艦娘の拘束を緩めよう。日中だけでも敷地内だけは出歩かせてやっておいたがいいな」
陸戦隊員2「よろしいんですか?」
副官「ただフェンスには決して近づけるなよ。もちろん出撃施設にもだ。いいな?この件は大尉…中隊長にも伝えておけ」
陸戦隊員2・6「はっ!」
とりあえずここまで
こんばんは
大本営海軍部
海相「…元帥閣下。おはようございます」
元帥「…君か」
海相「…寝覚めの悪いお顔をされていますな」
元帥「…悪い夢を見ていただけだ。それに、今の君の顔もとても朝の爽やかさからは程遠いぞ」
海相「…起きながら見る悪夢ほど忌むべきものはありません。本来であれば、今日が決号作戦の発動日だったのですから、なおさら…」」
元帥「…」
海相「…もう時間がありません」
元帥「…」
海相「あちこちから、決号作戦を延期などせずさっさと実行しろと突き上げが始まってます」
元帥「…」
海相「各省庁はともかく、経団連や族議員どもまで騒ぎ立てている始末です」
元帥「…」
海相「…一部のマスコミも騒ぎ始めています。“大本営発表はいつの時代も大本営発表だ”と」
元帥「…」
海相「…要するに、我が軍が優勢だという近況そのものが嘘ではないかと国民が訝しり始めているのです」
元帥「…」
海相「ともあれ、このままの状況が続けば、せっかく回復した経済がまた減速してしまいます。決号の発動スケジュールそのものが、精密な経済復興計画の精工なパーツの一部だったのですから…」
海相「無為に時が過ぎてしまい、悪くすれば、この戦争の意義そのものが…」
元帥「海相」
元帥「…君の言いたいことは分かった。その通りだ。確かに、これ以上我々は時間と言う血液を無駄に流すことは出来ない」
海相「…」
元帥「…だが君も現在の状況は知っているだろう。横須賀鎮守府で尋常ならざる事態が起きていることを」
海相「…ええ」
元帥「……全てが白日の下に漏れ出してしまえば、政権は確実に転覆する。政権だけではない。国家そのものがだ」
海相「…」
海相「閣下、どうにかならないでしょうか。我々に必要なのは、速やかな決号作戦の発動です。私の力でも、これ以上は時を稼げません。決号の発動さえ可能であれば…」
元帥「…」
元帥「…まだ、やりようはあるよ」
海相「え…?」
元帥「…私にあと少し、時間をくれ。たとえ規模が著しく小さくなろうと、決号作戦は必ず発動してみせる」
海相「ほ、本当ですか…?」
元帥「ただし、発動に前後して、各鎮守府周辺に対し戒厳令の布告をさせて欲しい。これは私よりむしろ君のほうの仕事となる。頼めるかな?」
海相「戒厳令…ですか」
元帥「そうだ。最悪の場合、それで全てを闇の中に葬るための準備だ」
海相「分かりました。私も肚をくくりましょう」
元帥「…済まない」
海相「…そう言わないでください」
元帥「…約束は守る。海相、我々はこの聖戦を完遂せねばならんのだ」
海相「ええ、かつて我々の先輩たちが大東亜戦争で完遂できなかった目的のために…!」
元帥「………大東亜戦争、か」
海相「…」
元帥「………私は、決して愚かな先達どもの轍は踏まん!」
そのころ 横須賀鎮守府 敷地内
榛名「ふぅ…」ノビー
金剛「…どういう風の吹き回しなんデスかね。外の空気を吸う程度であれば屋外に出ても構わない、って」
吹雪(…軍令部内で何かあったのかな。これが私たちにとっていい方向に向かってる…と考えたいけど…)
睦月「まぁ、とりあえずは風通しのいい日陰に行こうよ」
夕立「お風呂に入りたいっぽい…」
まるゆ「…」
まるゆ(表通り沿いのフェンス際に歩哨の陸戦隊員が等間隔に数人…)
まるゆ(武装は89式小銃とシグサワー拳銃ですね…)
まるゆ(…もともと、これだけの広さの対象を制圧するにしては、兵員数が少ないように思えたけど…)
まるゆ(…どこかに、絶対に警備の隙があるよね)
まるゆ(せっかく屋外に出ることができるようになったんだから、何としてもこのチャンスを生かさなきゃ…!)キョロキョロ
島風「…」キョロキョロ
まるゆ(あれは…確か、高速駆逐艦の…)
まるゆ(…何してるんだろう?)
軍令部 留置室
提督「くそ…暑い…!」パタパタ
参謀「また今日もこの蒸し風呂か…」ハァハァ
ガチャ
衛兵A「出ろ」ジャキ
提督「な…?」
参謀「…いつまで我々をこうして拘束するつもりだ?」
提督「まさか、今から口封じを…!?」
衛兵A「黙って部屋から出ろ。歩け」
衛兵A「…この部屋だ。入れ」ガチャ
提督「鏡の前に…椅子が二つだと?」
参謀「…」
衛兵A「両手を後ろ手に組んで椅子に座れ」
提督「…」スッ
参謀「…」スッ
ガシャン!ガチャ!
提督「あ!ちくしょう、足が!」
参謀「…ご丁寧なことだな。両足まで拘束するとは…」
衛兵A「そのまま座って待ってろ」
提督「待ってろだと、何を…」
バタン
提督「おい!待て!」
参謀「…言われたとおり待つしかなさそうだな」ギリッ
提督「いったい何なんですか、あの鏡は…?身動きできない俺たち自身を眺めてろってことですかね?」
参謀「…あれは鏡じゃないかもしれないぞ」
提督「え…?」
参謀「見ろ。両側にスピーカーが埋め込まれてる」
提督「ってことは…あれは何かの画面…??」
フッ
提督「あ!明かりが消えた!!」
『大和、木曾。そこへ座れ』
提督「あ!スクリーンに大和と木曾が!!」
参謀「…元帥もか」
提督「大和っ!」
参謀「木曾…!」
提督「大和、俺だっ!おーい!聞こえないのか!?」
参謀「…無駄だ、もうよせ」
提督「…」ハァハァ
参謀「あれは…恐らく…マジックミラー、だ。隣の部屋の様子がここから見えるようになっているってわけだ。向こうからこちらは見えないようだが…」
提督「マジックミラー!?」
元帥『戦艦大和、そして重雷装巡洋艦の木曾、か』
大和『…はい』
木曾『…』
提督「こ、声が…向こうの声が聞こえる…」
参謀「…音声も一方通行、という訳か。一体何を聞かせるつもりだ…!?」
大和「…元帥。私たちはこれからどうなるんですか?提督や参謀閣下はどうなっているんですか!?」
木曾「…天龍のやつもどこにいるんだよ」
元帥「天龍は付き添いの憲兵と一緒だ。心配はいらん。…それより、お前たちに聞きたいことがある」
元帥「お前たちは、おのおの自分の提督を助けたいとは思わんか?」
大和「…もちろんです。提督のためなら大和は…」
木曾「…俺もです」
元帥「…」フゥ
元帥「…お前たちには隠し立てしても始まらんだろうな。よし、これから真実を話す」
大和「し、真実…?」
元帥「ああ、その話を聞き、なおかつお前自身の敬愛する提督をどうしても救いたいというのなら…私はそれに応えてやってもいい」
木曾「…?」
元帥「なぜこの戦争がはじまったのか。そして、なぜお前たち艦娘が生み出されたか…」
元帥「…そして、今後お前たちがどうなるか、だ」
元帥「今からおよそ150年前、極東アジアの小国が近代国家としての産声を上げた」
大和・木曾「…???」
元帥「その小国は、内政・外政に大きな危機をいくつも抱えながら、2600年も続いてきた王朝を象徴として、次第に国家としての体裁を整え、数度の戦争を乗り越えて成長してきた」
大和・木曾「…」
元帥「…が、その国家自らの成長が自らの首を絞めることになろうとは誰が想像しただろうか」
元帥「小国は近代国として、国家経済を国際貿易の場にも広げることとなり、それは国家の経済規模を国土の倍近くにまで広げた」
元帥「そして、国際貿易による経済規模の拡大によって賄われる分の人口が、当然に増加した」
元帥「ところが…その国際経済がある木曜日に…はるか海の向こうで、突如として破たんした。国土経済だけで賄うには、国民全員を食べさせる力は小国にはなかった」
元帥「世界経済が等しく崩壊していく中、小国は慌てて中国大陸に傀儡国家を作り上げ、急場しのぎの市場を創出し、何とか国家規模の餓死を防いだ」
元帥「…その傀儡国家の権益をめぐり、新たな戦が起こされ…戦は戦を生み、その戦の果てに、大日本帝国は滅亡した」
大和「…」
元帥「…大日本帝国だけではない。似たような境遇の国家は当時他にもあった。…ドイツだ」
元帥「総統ヒトラー率いるドイツ国家社会主義労働者党…ナチスは、政権を執るや、先進的な経済政策をいくつも立ち上げ、実行に移した」
元帥「第一次大戦の多額の賠償金と世界恐慌のダブルパンチからドイツ経済を甦らせたのは、間違いなくナチスの功績だ」
元帥「失業率の低下・労働待遇の改善・公衆衛生の向上・新経済秩序の構想…」
元帥「少なくとも、ナチスが政権を獲得した1933年から、ベルリン・オリンピックが行われた1936年のある時期まで、ナチス・ドイツは間違いなく世界最高の福祉国家だったと言えよう」
元帥「だがヒトラーは、…ついに、かの内村鑑三の紹介したところの『デンマルク国の奇跡』を起こすことは出来なかったのだ」
元帥「…結局はナチスも、帳尻合わせのために戦争に突入せざるを得なくなったわけだ。そして狂気に走り、自ら滅亡していった…」
元帥「そして、我が国では、その戦争が終わって生まれた数多の出生者が、今や高齢者となり、近い将来の日本の経済活動を圧迫しようとしている…」
元帥「お前に分かるか?国家が扶養すべき人々が急増していき、それに比例するように経済の弱体化が進んでいる我が日本は、新たな“戦争”を必要としていたのだ」
提督「!!」
参謀「ま…まさか…」
元帥「何を言わんとしているか分かるか?」
大和「…過去の大東亜戦争は、経済…福祉事業としての役割を強く求められていた…ということですか?」
元帥「大東亜戦争…か」
元帥「その呼び方は忌むべきだが正しいかもしれんな。さよう、大日本帝国は確かに独自の経済圏の創設を目指していた。それが“大東亜共栄圏”だ」
元帥「これは単に領土獲得の野心によるものではない。世界恐慌後、列強が自国経済をブロック化していく中、日本が生存のためにどうしても必要とした円ブロック経済圏だ」
元帥「その意味で言えば太平洋戦争の戦争目的は決して不確かなものではない。むろん、帝国主義野心が大日本帝国になかったとは到底言い難いし、それでアジア各国に多大な影響を与えたことも否定しえない。善しにしろ悪しにしろ、だ」
元帥「だが…あの戦争で人類は決して開けてはならないパンドラの函を開けてしまった」
元帥「核兵器…の登場だ」
元帥「おおよそ兵器と言うものに人道的なものなどありはしない。だが…」
元帥「核、だけはどう言い繕ってもそこに人道的な存在意義を見出すことは出来ない」
元帥「ヒロシマ・ナガサキを焼いたその非人道的兵器が、皮肉にも東西冷戦という平和を創出したがな」
元帥「その後も兵器は進化を遂げた。クラスター爆弾・バンカーバスター爆弾・BC兵器…挙句の果てには感情を持たないドローンとかいう飛行体に銃を載せ、人殺しをさせる時代だ」
元帥「…戦争の形態が多様化していく今後、また人類間で戦争が起きてしまえば、もはや悲劇は軍民問わず襲い掛かるだろう。テロの戦争化という名の悲劇が否応なく始まるのだ」
大和「っ…」
元帥「…だが、戦争の根幹は変わりはしない。太平洋戦争に限らず、古今東西、戦争というものはただの二者間の憎しみ合いで起こされるような単純なものではなく…」
元帥「戦争という状況そのものが生み出す、経済的な効果を得るために起こされるものだったのだ」
元帥「翻って、この戦争前の日本はどうだったか?」
元帥「平成不況からはいつまで経っても抜け出せない。経済市場は縮小する一方だ。大震災の呪縛もまだ解けたわけではない。少子高齢化も進み、もはや経済成長の余地は限りなく小さくなってしまったのだ」
元帥「拡大が見込める市場と言えば我が国ではもはや高齢者福祉しかない。雇用がみこめるのも同じ分野だ」
元帥「…が、明治・大正世代がいなくなり、権利意識だけが肥大化した世代が主流になりつつある高齢者世代の介護など、はたしてどの程度の若者が手を上げてくれるか!?」
元帥「…上げるわけがあるまい。食事介助・入浴介助・排泄介助のいわゆる3K業界…要するに福祉市場は雇用の吸引力をほとんど持っていないのだ」
元帥「この戦争の前…政権の中では、本気で我が陸海軍を新たな戦場…イスラム世界か北朝鮮か…に送り出し、戦争景気を創出しようとする動きすらあった」
元帥「…これを安易に軍国主義化の再来と言うのは間違っている。…政治家も官僚も、他に日本経済を立ち直らせる方法を知らなかったのだ」
元帥「先の大戦の時と同じようにな」
元帥「しかし、私は情において反対した」
元帥「戦争が経済を活性化させ、雇用を創出しようとも、戦争そのものが敵味方に与える傷は大きい、と」
元帥「しかも21世紀の現代のハイテク兵器による戦争であれば、なおさら…」
元帥「…また日本の若い青年たちが、銃を持たされて戦線に立ち、おびただしい血を流して死んでいくのか…!」
元帥「…お前は想像できるか?お前たちの提督が、過去のお前たちのような艦に乗り、身を焼かれて死んでいく様を…」
大和「…っ!!!」ブンブン
元帥「そして、いずれにしろ、先の大戦の過剰なまでの反戦アレルギーで軍事力そのものに嫌悪感を覚える国民感情がある以上、徴兵による軍事力の復活はそもそも望むべくもなかった」
元帥「大空襲と原子爆弾の記憶に苛まれた日本人の誰が息子や夫や父親を再び戦場に送り出そうとする?」
元帥「…がしかし、経済的に鬱屈していた日本人が大きな変革を望んでいたのもまた事実だ。ナチスによる第三帝国の勃興を熱狂的に待ち望んでいた第一次大戦後のドイツ国民のように…」
参謀「…」
元帥「…今回、日本国民は心の底で希求していたのだよ。自分たちの代わりに戦って血を流して戦い、戦争景気を創出してくれる“誰か”の存在をな」
大和・木曾「……………………!?!」
元帥「言い換えれば、人間ではない“誰か”に、日本のために戦ってもらい、死んでもらうことだ」
参謀「…!」
大和「そ…それは……まさかっ…!!!」
提督「嘘だろ…!おいっ…!」
元帥「それが…艦娘だ」
その頃 横鎮 資材倉庫
まるゆ(…何とか誰の目にもつかずにここにたどり着きました)
まるゆ(万一のために隠してた拳銃も回収できました…!)カシャ ジャキン
まるゆ(あとは…隙を見て鎮守府から脱出を…!)
島風(…あれは、確か陸軍の…)
島風(…そっか。あの娘、ここから逃げる気なんだ)
島風(………私は、逃げないんだから!!)スッ
元帥「それが…艦娘だ」
大和「っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
木曾「………っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
参謀「…っ!!!!!」
木曾「…じゃあ、俺たちは…しょせん、ただの軍鶏だった……」
大和「戦闘…マシーン…ってこと………ですか…」
元帥「戦闘マシーンではない。自ら知能を持ち、戦ってもらわねばならない以上、お前たちは人造の人間もどきであることが求められた。どうしても魂の代用品は必要だった。よって、艦政本部と理研は考えた」
元帥「先の大戦時の我が海軍艦艇の魂をサルベージしてヒトの身体を与え、艤装を与えて戦わせるのだ。それが、艦娘というわけだ」
元帥「その“敵”の創出にも一工夫した」
元帥「艦娘らの敵は既存の国家ではない。突然海洋に降って湧いた“深海棲艦”だ!!」
元帥「深海のバケモノ相手なら、反戦運動など起こるはずもない。これを殲滅するために戦う我が日本海軍は、明らかに正義だ!」
提督「…!」
参謀「…敵役まで…お膳立てされていたのか…!」
大和「そんなっ!!」
元帥「我が海軍は“善戦”した。そして今や、敵を“殲滅”させる一歩前に来たというわけだ」
元帥「その間、我が国の各種産業は沸きに沸いた。お前たちが使う武装や艤装を提供する、軽・重工業がまず息を吹き返した。雇用は雇用を呼び、それが各産業に飛び火し、ついに国民の生活水準は改善し、雇用率も戦前レベルまで回復したのだ!!!」
元帥「この戦争は実に素晴らしい公共事業だった。ヒトラーのアウトバーンに並ぶと言っても過言ではない」
大和「そんな!では、この戦争は…生まれ変わった大和や艦娘たちが必死に戦った深海棲艦の戦争は…」
元帥「そう。すべては仕組まれていたことだ!!!」
大和「嘘っ…!!!!」
木曾「嘘だ…」
元帥「お前たちの役目はまだ終わっとらん。お前たちには…深海棲艦とのこの最後の決号作戦で、敵もろとも華々しく消えてもらいたい」
木曾「なっ…!!!!」
大和「……仕組まれた戦争の仕組まれた兵器たちは、もう必要ないということですか」
元帥「そうだ。平和が戻る以上、お前たちにもう用はない。国民の目もある。よって最後の戦闘で消えてくれるのが望ましい」
元帥「お前たちのその消え方こそが…この戦争の幕を閉じるには最高の舞台ではないか?」
木曾「俺たちは…また前世と同じ途を辿れということですか?」
元帥「…世界恒久平和のためだ。分かってくれそうすれば、お前達の提督は無事に済む」
大和「酷すぎます…!!大和は、…大和は、前世のように、嘘偽りなどではなく、消えるのであれば本当に誰かのためにこそ消えていきたかった…!!」
元帥「…ほう???大和…お前は、過去の自分が沖縄の人々を守るために途半ばで沈んだとでも思っているのか?」
大和「っ…!!」
元帥「本当は…お前も分かっているはずだろう??」
大和「やめて…!!!」
元帥「昭和20年の春、お前は沖縄を助けるために出撃したのではない!!お前は体よく捨てられたのだ!!坊ノ沖の冷たい海の底にな!!!」
大和「やめてぇえええええっ!!!!!!」
昭和20年3月 呉港 戦艦大和・艦橋
伊藤長官「…以上が、今次作戦の…天一号作戦の概要だ」
森下少将「航空戦力の援護なしで…沖縄方面に片道燃料で殴りこむ…?????」
森下少将「長官…!こんな馬鹿な作戦がありますか!」
伊藤長官「…大本営からはこう言われたよ。『一億特攻のさきがけとなれ』とな」
森下少将「狂ってる…!こんな運任せの行き当たりばったりの、成功可能性が万に一つもないこの大風呂敷を、軍令部が持ち出したんですか!?」」
伊藤長官「狂ってなどおらん。彼らは冷静だよ。冷静にこの大和を処分しようとしているのだ」
森下少将「大和を…処分ですって!?」
伊藤長官「…ここだけの話だ。GF(聯合艦隊司令部)はすでに敗戦を見越しているらしい」
森下少将「…」
※伊藤整一…聯合第二艦隊長官 森下信衛…聯合第二艦隊参謀(大和の前艦長)
伊藤長官「早期講和を秘密裏に求めている連中が考えていることは一つ…大日本帝国海軍の象徴・戦艦大和を華々しく沈めることだ」
森下少将「そんな…!!!!」
伊藤長官「…大和が健在なままでは、講和の邪魔になる徹底抗戦派を無駄に勢いづかせるだけだ、というのが彼らの言い分らしい。飛行機は特攻に駆り出されているのに大和が依然健在というのも、幕僚連中にとっては責任問題になりかねん憂鬱な事態なのだろう」
森下少将「…腐ってる!!」
森下少将「長官は…中将閣下はそれでいいんですか!?それだけのためにこの大和を、その乗組員3400人を、いや護衛艦隊も含めれば5000人にもなる兵たちを、こんな馬鹿げた“米軍との共同作戦で”無為に海没させていいんですか!?」
伊藤長官「…もうどうにも避けられん運命だ。聖上は早期講和をお望みである…その陛下のご善意を盾に、この不毛な出撃は決定されてしまった」
伊藤長官「卑怯な連中め…!何が天一号作戦だ!!敵上陸が間近の沖縄を救うとか敵艦隊に一矢報いるとか、そんなことは二の次にしか考えておらん!」ダンッ!
森下少将「…」
伊藤長官「…私の力が及ばず済まなかった。だが…私はこの大和を無為に沈めるつもりはない」
伊藤長官「森下君。君は以前にこの大和の艦長を務め、その類まれな操艦術で大和と乗組員たちを守った実績がある」
伊藤長官「…恐らくこの大和の最期の艦長となるであろう有賀君を、艦隊参謀として支えてやってくれ」
※有賀幸作…大和艦長
その夜 大和艦橋
森下少将「…」
森下少将「…なあ、大和よ」
森下少将「…こんなに美しいお前を、俺たちはこの手で沈めなくちゃならなくなった」
大和「…」
森下少将「お前が………もし人間の女だったら、どんなに美しいだろうな…」
森下少将「そして、今回の事でどれだけ腹を立てるだろうな…」
大和「…」
森下少将「…なあ大和。俺はお前を沈めたくない。絶対にそれは嫌だ」
森下少将「…俺はあきらめないぞ。大和、何としても俺たちを沖縄へ連れていってくれ」
森下少将「弾薬もありったけ積ませてやる。燃料だって満タンにしてやる。だから…」
森下少将「俺たちを…沖縄の同胞たちのところへ連れていってくれ…!!!」
大和「…」
そして 数時間後 横須賀鎮守府 講堂
ガチャ…
大和「…」
木曾「…」
睦月「…??」
龍驤「あ…!!!!」
矢矧「大和さん…」
武蔵「姉さん!」
大井「木曾!!」
北上「ぶ、無事だったんだね…」
龍田「て、天龍ちゃんは!?」
木曾「…後から憲兵さんと一緒に帰ってくるって。心配すんな」
龍田「………??」
吹雪「ぶ、無事に軍令部から帰ってきたんですね…お二人とも…」
大和「みなさん、ここに揃ってますか??」スッ
武蔵「ど、どうしたんだ、姉さん?」
大和「…聞いて下さい。もうご存知とは思いますが……提督は、敵との内通の嫌疑をかけられ、軍令部に拘束されています」
足柄「そんなの嘘よ!でっちあげだわ!」
大和「もちろんそうです。ですが、提督にかけられた有名無実の嫌疑を晴らす方法が一つだけあります」
大和「私たちが決号作戦を発動し、敵を殲滅させることです」
一同「…!?」ザワッ
大和「提督の薫陶を受けてきた私たちが深海棲艦を壊滅させたとなれば、大本営は提督に対する己の仕打ちが誤りだったと気づくでしょう。そうすれば提督は晴れて私たちのもとに戻って来られるんです」
吹雪「それは確かなんですか?大本営は間違いなくそうしてくれるんですか?」
大和「吹雪ちゃん、貴女は副官殿に対し、提督直々の下命がなければ横須賀は決号に参加しないと言ったそうですね」
大和「何を愚かなことを…」
吹雪「えっ…?」
大和「今更なんの命令がいるというのですか?深海棲艦を倒し、平和な海を取り戻すことが私たちの提督の願いであることは、他ならぬ私たちが一番知ってるはずじゃないですか」
大和「誰が深海棲艦の殲滅を下命するとかどうとか、そんなことは問題ではありません」
大和「大事なのは、私たちが私たち自身の意思で、提督のご意思を現実のものにするという決意と行動と結果です」
大和「今更大本営の命令を待つ意味はありません。すべては私たち次第なのです」
大和「そうでなければ、私たちが自ら提督の疑念を晴らすという意味がなくなってしまうじゃありませんか!」
大和「勝ってみせるんです。私たちが愚直に敵と戦ってこれを全滅させれば、提督や私たちにかけられていた内通の疑いは晴れます」
大和「そうすればおのずと提督にかけられた容疑は晴れ、私たちも戦争を勝利に導いた立役者ということで下手には扱われないでしょう…!!」
大淀「待ってください!鎮守府司令官が発動しない限り、決号作戦は開始できないんですよ!?」
大和「ですから、私たちがただの道具でないことを示すためにも、自発的に作戦を発動すべきだと言ってるんです」
大淀「そ、そんなことをしたら、それこそ大本営にどう受け取られるか…」
大和「では貴女はどうしたいんですか?このままなにもせず座っていて、提督の嫌疑が晴れるのを待つだけのつもりですか?」
大和「いずれにしろ現状打破には程遠いですね」
一同「…」シーン
大和「誰も動かないつもりですか!?提督と鎮守府の危機を前に、誰も立ち上がらないんですか!?」
大和「…それはとりもなおさず利敵行為でしょう。…むしろその行為こそが敵との内通とすら言えます」
吹雪「…っ!!!!」
霧島「私たちを…深海棲艦との内通者とでも言うつもりですか!?」
大和「戦いに参加することを尻込みする艦は、その疑いが濃厚ではないか…ということです」
武蔵「何だと…!?」
大和「ですからここで皆の力を合わせて証明しましょう!私たちは強いと!そして、その私たちが頂く提督は真の武人だと!」
吹雪「待ってください!」
大和「…何ですか?吹雪ちゃん」
吹雪「私も一体軍令部が何を考えているのか想像もつきません!ですけど…」
吹雪「…艦隊の仲間をそんな風に貶めるようにして、無理に海戦を決行させるのは許せないことだと思います」
大和「…!」
大和「吹雪ちゃん!貴女は提督にかけられた嫌疑と汚名を晴らしたいとは思わないの!?」
大和「私たちは提督の艦娘です!貴女も提督の艦娘なら、そう思って然るべきでしょう!?」
吹雪「勝手な事言わないでください!この艦隊は大和さんの艦隊じゃないんですよ!?」
大和「そうよ、この艦隊は提督の艦隊よ!その提督をお助けするためにも私は戦うべきだって言ってるの!」
吹雪「私たちが独断で出撃して決号作戦を成功させたとして、司令官が無事に戻って来られるとは限りません!」
吹雪「むしろ勝手な行動を大本営から咎められ、それこそ謀叛の罪で私たちはおろか司令官の立場までより危うくする可能性が大きいです!」
吹雪「…………………これは私たち艦娘の根幹の何かにかかわる重要事件な気がするんです」
大和「どこが?何が?はっきり言ってください。この件のいったいどこが私たち艦娘の根幹にかかわってると言うの???」
吹雪「そ、それは……」
大和「…」フン
吹雪「で、でも決して、私たちは軽挙妄動すべきではないと思います!」
大和「なら吹雪ちゃんは、私たちは座して提督の不在を耐えるべきだと言うんですか!?」
吹雪「他の皆さんだって思うところは大いにあるでしょう。けど今自分たちが何をすべきか、それが決定的に分からないから戸惑い迷ってるんじゃないですか!」
吹雪「そんなところに大和さんが言ったような過激な提案なんかしたら、それこそ収拾がつかなくなるとは思わないんですか?!」
吹雪「…大和さんの発言は旗艦としては軽率過ぎます!」
大和「っ!」
大和「…私たちはもうただの船じゃないのよ。艦娘なのよ!だったら自分たちでできることをするしかないじゃない!」
吹雪「だったら大和さんだけ出撃でもなんでもすればいいじゃないですか!」
吹雪「資源遠征には行けない、燃料弾薬の補給物資は大本営に止められている…」
吹雪「もう満足に出撃もできないような状況になってるんですよ!!」
吹雪「戦いのほとんどを後方で過ごしていた大和さんに何が分かるっていうんですか!」
大和「っ…!!!!」
夕立「ふ、吹雪ちゃん…」
大和「…」キッ
大和「陛下の御紋を頂いていない駆逐艦のくせに、偉そうなことを言わないで!」
吹雪「…っ!!」
吹雪「…私は、大和さんの考えには従いません」
吹雪「おそらく、他の駆逐艦たちも同じだと思いますよ」
その頃 小笠原近海
ル級『…いよいよ、出撃ですね』
戦姫『…ああ。皆、準備はいいな?』
リ級『…』
戦姫『作戦の概要は打ち合わせ通りだ。攻撃機の運用も…あの通りで良かったな?』
ル級『仕方ありませんよ。だって…私たちは…』
リ級『もう生還なんか望むべくもないんですから』
戦姫『…済まなかったな、みんな』
リ級『…貴女のもとで“また”戦うことができて、光栄でした』ボソッ
戦姫『…ありがとう』
ル級『…行きましょう』
戦姫『ああ。全艦、アンカー上げ!これより日本本土方面へ進攻する。GO AHEAD!!(出撃っ!!)』
大和「…もういいです。しょせん貧弱な武装しか持たない駆逐艦なんかを参加させたところで、勝利に貢献しないのは事実です」
一同「!?!?」
雪風「や、大和さん…!?」グスッ
日向「大和!貴女、言っていいことと悪いことが…」
愛宕「そうよ!大和さん、艦隊旗艦のくせに仲間をなんだと思って…」
大和「駆逐艦に毛が生えた程度の巡洋艦風情が、戦艦に意見するんですか?」ギロッ
矢矧「そっ…そんな…!!!!」
加賀「取り消しなさい。貴女の発言は艦娘として許せません」
大和「浮かぶ飛行場でしかない貴女達の、何に期待しろというのですか?」
赤城「!?」
加賀「なっ…!!!!!」
瑞鶴「ほ、…本気で言ってるの、大和さん!?」
翔鶴「酷い…!!」
金剛「あんまりデス。艦隊の皆をそこまで侮辱するデスか」
羽黒「…」シクシク
霧島「提督はおっしゃってました。艦種こそ違えど、皆で協力し合ってこそ艦隊は力を発揮すると」
大和「…」
金剛「どうせ大和だって、私たちのことを足の速いだけの老朽戦艦としか思ってないんでショ?」
大和「…そうよ…この艦隊には、役に立たない戦艦が多すぎます」
大和「生まれたときから存在そのものが不具合な、哀れな艦もいれば」
扶桑「っ…!」
山城「そ、そんな…!」
大和「戦艦なのかすら怪しい、出来損ないの艦もいるし」
伊勢「!!」
日向「それは、私たちのことか…!?」ギリッ
霧島「………とうとう本音を出しましたね。貴女は超弩級戦艦なことをかさに、私達を見下していたんですか…!!!」
大和「当然でしょう?だって、提督をお救いすることが出来るのは、提督に愛されたこの大和だけなんですからっ!!!!」
霧島「っ…!」
大和「貴女たちに私ほどの火力がありますか!?この私に許された46センチ三連装砲を凌ぐ兵装を、貴女たちは持っているとでも言うんですか!?」
大和「この鋼鉄の鎧が、絶対の注排水システムが、貴女たちに存在するんですか!?」
大和「美しくないものは愛されません。美しくないものは強くありません。強くないものは…愛されるはずがありません」
武蔵「姉さん、いい加減にしろ!!あまりにも見苦し過ぎる!」
大和「…だから?」
武蔵「だ、だからって…」
大和「私と同じ性能を与えられていながら、前世では武装の威力を発揮できず、ましてや短時間のうちに海の藻屑となった貴女に、私の妹を名乗る資格はありません」
武蔵「姉さん!」
大和「貴女は大和型戦艦の恥です。私から離れて下さい」ドン
武蔵「っ…」ヨロ
榛名「…せない」
榛名「…許せない」ユラッ…
金剛「…は、榛名??」
榛名「自分だけが強いんですか!?自分だけで華々しく戦えると思ってるんですか!?自分だけが悲劇のヒロインですか!?」
大和「…はぁ??」
榛名「榛名が…過去の“榛名”が、どんな思いで“大和”の最期の出撃を見守っていたかも知らないくせに…」ボソッ
大和「………………………………………………………………………………………五月蠅い。大正生まれのくせに、口だけは達者ね」ギラリ
榛名「このっ…!」ブン
パシーン!!
大和「っ…!」
榛名「そうやって他人を上から見下ろしてっ!!貴女は最初から、私たちのことなんか雑魚の群れぐらいにしか思ってなかったんでしょう!!」
大和「…掴み合いで大和に挑もうとは、良い度胸ですね」ググッ
榛名「くっ…痛っ………!!」
比叡「は、榛名っ!」
武蔵「姉さん、やめろっ!!」ガシッ
大和「…離しなさい、武蔵」グググ
武蔵「離してたまるかっ…!」グググ
大和「ちっ…誰もかれもが私の邪魔立てばかり…!!」バッ
武蔵「…」ハァハァ
武蔵「もう…止めてくれ!姉さんは…もう、姉さんじゃなくなってしまってる!!」
大和「私が…私じゃなくなってる…??」
大和「…ふふ。あははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
武蔵「!?」ビクッ
大和「あはは…ねぇ武蔵、一つ教えてあげましょうか」ボソッ
武蔵「な…??」
大和「私たちはねぇ…しょせんはただの兵器だったのよぉ。そう…最初っから…ねっ!!!!…うふふっ…!!!」ボソッ
武蔵「っ!?」ゾクッ
大和「うふふふっ!!!あっははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!」
ガチャ バタン
木曾「…ふふふっ」
ガチャ
大井「ま、待ってよ木曾!!貴女まで、どこに…」
木曾「…………」
大井「…木、曾…?」
木曾「…じゃあな」
バタン
シーン………
武蔵「姉さん…」
吹雪「武蔵さん…」
加賀「…どうします?大和は決号の自己発動に固執しているみたいですが…」
瑞鶴「…そんなこと、できるわけないじゃない!艦隊旗艦が…あんなんだったら…もう、誰もついていけないわよ!!!」
武蔵「…ああ…その通り………だな……」
今日はここまで おやすみなさい
このSSまとめへのコメント
続き待ち
艦これやってないにわかファンだけど
このssはとてもいい作品だと思う
できれば続きを読みたい
こんくらいダークな世界線ならバッドエンドが自然な流れだがどうなるか期待
バッドエンドでもいいけどどう逆転満塁ホームランするかも気になるね
物語の展開に無理がありすぎ
上層部の小物臭と頭悪い口調とかもっとどうにかならねえの?
バシィィーンwww
後半失速したな
たしかに後半失速した感あるな。
完結してねぇじゃねぇか
なんか違うなぁ
前半良かったんだけど
ただ、無駄に長いだけ
どーせなんやかんやで艦娘も深海もうまく講話できて、元帥たちが「私たちは間違っていた……許してくれ‼」「許す❗」ってなってハッピーエンドだからへーきへーき。
ssの常とはいえ、性格改変とオリキャラ無双が半端ないな。嫌いじゃないけど
うぽつ
このゴミスレを毎日ageてる輩はなんなんだ?
晒し? 自演?
こういうの書けるのほんとにすごいと思うわ、ただ説得力持たせようと色々絡めて話してるとこが少し長く感じた。