歌姫「こんばんは、私だけの騎士様」 鉄の鎧「…」 (24)


歌姫「今夜も良い月が出ているわ」

歌姫「とりあえず空気の入れ換えに窓でも開けましょうか」カタンッ

歌姫「……」

歌姫「風は無いみたいね」

歌姫「残念ね、貴方は風が好きそうなのに」コツンッ


刃の鎧「…」


歌姫「……」

歌姫「さ、皆を綺麗にするとしましょうか」



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歌姫「はい、これでおしまい」キュッ


鋼の鎧「…」


歌姫「そっちのお二人さんはいつも通り、汚れないみたいだからいいよね」


黒い鎧「…」

青い鎧「…」


歌姫「ふぅ、今日は少し疲れちゃった」ストンッ

歌姫「……この古城に来てから、もう一年経つのよね」

歌姫「持ち主不在だし、近場の領主の物でもない」

歌姫「だからずっとこのお城に私達劇団は住んでる訳だけど」

歌姫「どうしてこんな部屋が隠されてるのかしらね?」コツンッ


魔法の鎧「…」



歌姫「私の部屋にあった隠し階段の下にいた貴方達、計六体ね」

歌姫「最初はてっきりお宝かなーと思ったものだけど、ここの書庫を調べて分かった事があるわ」

歌姫「貴方達は誰もが凄い騎士様だった、或いは凄い呪いのある鎧だった」


青い鎧「…」

黒い鎧「…」


歌姫「そんな貴方達を騎士様って呼んでた私の目に狂いはなかったわけね」エッヘン

歌姫「それに、この隠し部屋は落ち着く……」

歌姫「……」

歌姫「……明日も早いし、今夜はこの辺で寝るわね」

歌姫「おやすみなさい私だけの騎士様達」ニコッ


鎧達「「……」」




< ゴゴゴゴ……ガコォンッ


歌姫(……ふぅ、冷えてきたわね)

歌姫(気づかなかった、一階の隠し部屋は暖かいのね)

歌姫(あの部屋は不思議……鎧達に囲まれてると安心する)

歌姫(ふふ、明日は隣町の領主が来るみたいだし鎧の手入れに必要な物を貰おうかしら)


歌姫(あー、明日も楽しみ…♪)




「それでは我が劇団の看板娘にして、ここアレフガルド地方最高の歌姫の登場だ!」

「皆さん耳に音色を焼きつける準備は良いかなぁ?」

「さぁ! 歌姫!」


< バサッ


歌姫「……」ペコリ

歌姫(結構人が集まったわね、ざっと二百……かしら)

歌姫(貴族は領主の御家族以外はいないのね)



歌姫「……スゥ……」


歌姫「 ─────♪───── 」


歌姫「 ─────────♪────────── 」






< 「 ──────────・・・♪ 」



鎧達「「……」」


< ギシッ……



鉄の鎧「…」

鋼の鎧「…」

魔法の鎧「…」

刃の鎧「…」

黒い鎧「…」

青い鎧「…」



< 「 ──────────・・・♪ 」

< 「 ───────・・・♪ 」




< バサッ


歌姫「……ふぅ」


団長「お疲れ姫さんよ、良い歌声だったぜ」

団員「団長もフルートの音色が今日はいつもより良かったッスよ!」

団長「るせぇ! 悪かったないつもは微妙で!」


歌姫「……」くすっ

歌姫「ちょっと領主の御家族に挨拶してくるわね」




領主「やぁ歌姫殿、今宵も良い夜を過ごさせて貰ったよ」

夫人「私もよ、綺麗な歌声だったわぁ」


歌姫「ありがとう」ニコッ


領主「して、今日は約束通り私兵を何人か連れてきたが……」


歌姫「会わせて貰える?」


領主「勿論だとも、おい!」パチンッ

私兵「はっ」

私兵B「……」ザッ

私兵C「……」ザッ



歌姫「ねぇ兵士様、鎧の手入れはどうされてるの?」

私兵「む、自分か」

私兵「自分はレザーアーマーだから、特には手入れしていないな」

私兵C「臭ったら捨てるスタイルだもんな」

歌姫「えぇ……」


私兵C「俺は今は着てないが、鉄の鎧だからなぁ」

歌姫「手入れはなさらないの?」

私兵C「錆が出そうなら磨き上げる位だな、後は間接部の点検か」

私兵C「基本的にはやはり買い換える物だしな」


歌姫(……そういう物なのかしら)


夫人「ごめんなさいね、私達の領内は基本的に下位のモンスターしか出ないから……」

領主「そうなんだ、我々の中でマトモに兵士をやっていたとなると今日は来てないかもしれないな」

歌姫「そう……残念ね」


私兵B「どんな鎧の手入れをするつもりなんです?」


歌姫「えっと……鉄の鎧とか、綺麗な鎧とか……かしら」


私兵B「鉄の鎧はともかく後は分からないな」

私兵B「でも、誰かが装備するわけじゃないなら話は別です」

私兵B「便利な物がありましてね、次の満月に持ってきますとも」


領主「歌姫殿に良い格好を見せるつもりだな?」くくっ

夫人「若いって良いですねぇ」


歌姫「?…… ありがとうございます、兵士様」


領主「そうそう歌姫殿、実は『本土』の方でも貴女の事が噂になっていましてな」

領主「十日後に此方へ来るかもしれないので、そのように団長殿へ伝えるといい」


歌姫「まぁ、本土の?」


領主「うむ! 話に寄ればどうもサマルトリアの王族が一人と、ロンダルキア辺境伯がいらっしゃるそうだ」


歌姫「お、王族…? こんな孤島に来て貰えるのかしら…?」


領主「来るのではないかな、歌姫殿の美貌と美声は本土でも話題になっているのだからね」


歌姫「……」




歌姫「…………自信ない……」



黒い鎧「…」

歌姫「貴方はいつも自信に満ちてそうで、羨ましい」

歌姫「こうして毎日この城で歌を奏でる事が出来るのは、来る人達が落ち着いて聴いてくれるからなのに」

歌姫「偉い人とか、目や耳の肥えた人達に聴かれるって落ち着かない事なのよ」

黒い鎧「…」

歌姫「だから私は名前の無い小さな劇団のキャラバンに入って、今までの生活を捨てたのにね」

歌姫「……私は静かに歌いたい……って言ったら我が儘なのかしら…?」



歌姫「それはそうと、このお城って昔は王様が住んでたのよね」

歌姫「ラダトームって国と手を取り合って、大昔に起きた大災害を戦い抜いたってお話」

歌姫「貴方達はその時代を生きていたの?」


鎧達「「……」」


歌姫「……」

歌姫「まだまだ書庫の本は読んでないし、これから分かると良いけど」

歌姫「いつか、貴方達の事を知りたいわね」



歌姫「私に手紙?」


団員「らしいっすよ、これなんすけど」

< カサッ


歌姫「この封印は……」

歌姫「ありがとう、後で団長さんの所に行ってみて」

団員「へ?」

歌姫「何か小道具の相談があったみたいなの」

団員「なるほど、りょーかいっす」


歌姫(……手紙を持ってきたのは誰かしら、こんな孤島まで)ビリビリッ



団娘「あ、姫様おはよー」

歌姫「おはよう、今日も読みに来たのね」

団娘「うん! パパみたいな団長になるにはお勉強が必要なんだってー」

歌姫「そうなの?」

団娘「そうだよ、モンスターの事も知っとかないと逃げる時の判断が鈍くなったりもするんだって言ってたもん」

歌姫「ああ、なるほどね」ニコッ


歌姫(それで昨日や数日前からモンスター大全なんてものを読んでたのね……)


歌姫(さて、と)

歌姫(一般閲覧用の棚じゃあまり分からないのよね、この城に関する事が)

歌姫(だから当然、奥の禁書なんかを読み漁るわけなのだけど)

< ガチャッ

< ボフゥンッ

歌姫「ぅぐ!? けほっ! けほっ……あぁ、もうやだ」


歌姫(一体どれだけ放置されていたのかしら、風化した書物や溜まったチリのせいで酷い煙……)




歌姫「こんばんは、私だけの騎士様」


刃の鎧「…」


歌姫「今夜は風があるの、気持ちいいわよ」カタンッ

< ヒュオオオオ

歌姫「今日は書庫での収穫は無し、残念」

歌姫「でもね?」

歌姫「書庫の奥で凄いのを見つけたのよ、待ってて」


鉄の鎧「…」


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