橘ありす「缶コーヒーも飲めるけど」 (15)
前作
橘ありす「缶コーヒーを飲んだから。」
橘ありす「缶コーヒーを飲んだから。」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1437840179/)
一応続きですが前作を読まなくても読めると思います。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1448114786
街を一人で歩いていました。これだけ人がいるのに本当の私を知っている人は一人としていません。
面白いですよね、おかしいですよね。
確かにアイドルとしての『橘ありす』を知っている人は何人かいるかもしれません。
でも少女としての、素の『橘ありす』を知っている人はいません。一人ぼっち。
「おーい、ありす。こんなところで何してるんだ?」
聞きなれた声が聞こえてました。私のプロデューサーです。
この人は私、『橘ありす』のことを知っているのでしょうか?
わかりません、多分知っていても知っていなくても知っている風に振舞うでしょう。
この人はそういう人です。私はそのことを知っています。
「橘と呼んでください」
「おうおう、最近聞かなくなったと思ってたセリフじゃないか。さてはお前、今日は機嫌悪いな。それで街を散歩でもしてたのか?」
うっ、言葉に詰まります。私の行動や思考が読まれています。
この人は何でも見透かすのでしょうか?
ただ厳密に言えば違うところもあります。私は散歩をしていたのではありません。
目的地もなくぶらぶら、ぶらぶら。どちらかといえば迷子です。
「……少し話をしないか?そこに公園があるんだが」
「はい。私も一人では少し行き詰っていて。話を聞いてもらいたいです」
そのとき、プロデューサーから手を差し伸べられました。
手をつなごうって意味なのでしょうか?
しかし、私はそれに気がつきながらスルーしました。
別にプロデューサーが嫌だとかそういうわけではありません。
むしろプロデューサーは信頼に足りる人だと思っています。
ほかの大人とは少し違う、そんな気がします。
……普通だったらまず相談に乗ってもらうことなんてありえないと思います。
それでも手をすり抜けました。
子ども扱いは嫌だとか、こんな人がいるところで恥ずかしいとか、素直になれないとか。
色々な感情が混ざり合い、溶け合って、それらを全て胸の奥にしまいこんで、しまいこんで。
なぜしまいこんだのでしょうか?自分でもわかりません。
ただ今の私にはこれが最適解のように思えたのです。
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「そこのベンチに座ろうか」
プロデューサーはさっきの出来事を気にはしていないようです。よかった。
公園にはあまり人影はありません。少しほっとしました。
悩み事を相談するということは弱みをさらすことと同義です。
だから多分誰も聞いていないだろうけど、それでも気にしてしまいます。
私は強くありません。弱みを隠して強がっているだけです。
今回のこともそれが原因で起こったのかもしれません。
「今日、クラスの男子に言われたんです。お前は一人でも平気そうだなって。そんなわけないじゃないですか。私だって一人は寂しいです」
「そうやって言い返したのか?」
「いえ、言い返しはしませんでした。でも周りから見たら私は心を閉ざしているように見えるのでしょうか?」
「そんなことないぞ。ただありすは少しだけ不器用だもんな」
「そうですか?手先は器用だと思うのですが?」
「そっちじゃないよ。ありすは人に甘えるのが苦手だろ?人を頼るのが苦手だろ?多分その子はありすが自分でなんでも出来るように見えてさびしかったんじゃないか?」
「そうなんでしょうか?でも、出来ることは自分でやるように教わってきましたから」
「もっと大人に甘えていいんだよ。子どもなんだから」
「またそれですか?私だって少し大人になったんです。缶コーヒーだって飲めるし」
「相対的に見ると大人びて見えるけど絶対的に見たらまだまだ子どもだ。この前もそういったろ?」
「そんな難しい言葉はつかってなかったとは思います。大体の意味はわかるけど……」
「大人になったら甘えたくても甘えられないからな。今のうちにしとくべきだよ」
「確かに甘えてくるプロデューサーは少し嫌ですね」
「俺もそれには同意するがそこまでしっかり言う必要はないんじゃないか?」
「私は子どもだから純粋なんです。素直な言葉を使っただけです。大人のプロデューサーなら許してくれますよね」
「これは、一本とられたな」
プロデューサーの言葉は私の中に染み込むように落ちていきました。
そして私の中にあった霧のような感情を全て吹き飛ばしていきます。
やっぱりプロデューサーは凄いと思いました。頼りになる大人です。
私の知らない私までプロデューサーは知っていました。
多分プロデューサーはたくさん人がいる街の中でも私を見つけてくれるでしょう。いやもう見つけてくれました。二回も」
スカウトされたとき、さっき迷子になっていた私を見つけてくれたとき。
私も同じようにたくさんの人の中でもプロデューサーを見つけられるようになりたいです。
……あれ?この気持ちはなんだろう?
「そういえばさ」
「は、はい!なんでしょうか?」
「どうした急にそんなに焦って?」
「い、いえ。なんでもありません」
「それならいいけど……さっきの話だが多分その男の子はありすに惚れてるよ?」
「……え?」
「だからありすに恋してるよ」
「言葉の意味がわからなかったのではありません。言葉の真意がわからなかったのです」
「その男の子はありすに頼ってもらいたかったんだよ。それに素直になればありすは自分に惚れてるんじゃないかって考えたんじゃないか?」
「論理的じゃありません」
「小学生の男子なんてみんなそんなものだ。全員自分に惚れていると思ってる」
「……子どもって言うよりガキですね」
「俺もそう思う。でも男はみんなガキなんだ。甘えたりはしないがな」
「気持ち悪いからですよね」
「だからそこまでしっかり言う必要ある?!」
「えへへ……お返しです」
「え?なんの?……でもやっと笑ったなありす。やっぱり笑顔のほうが可愛いぞ」
「……もう」
私を惑わせたお返しです。
会話の最中にわかりました。私がプロデューサーに抱いた気持ち。
恋です。
なんでかはわかりません。でもプロデューサーは特別な人なんです。
「話しつかれたな。なんか飲むか?」
「そうですね。今日はココアが飲みたいです」
「珍しいな」
「今日は子どもでいたい気分なんですよ。それと、子どもなんで甘えていいですよね?」
「もちろんだよ」
「じゃあ、私と手をつないでください」
今はこれだけだけど、やっと言えたよ。
以上短いけど終わりです。
In Fact いい曲なのでぜひ聴いてみてください。
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