一方通行「ハァ!?」 (19)
照りつける真夏の日差しの下、オレはフードを被って、眩しすぎる光から逃げるように街の中を歩いていた。とは言っても実際に目を開くのが困難だとか暑くて死にそうだということはない。実際今の心地は最高と言っていい。
いや寧ろそうなるよう「設定」した。
学園都市の230万人の頂点にして、最強の能力者、『一方通行』であるオレの能力の一つ、『反射』によって生命活動に不必要な紫外線、可視光線、熱、そして人の口から発せられる雑音はすべてオレに届く直前で発せられた方向に返ってゆく。
「……ッあァ……だりィ……」
我ながらとても快適な環境に満足していたが、どうでもいい事でこんなところを歩かされていることがそこはかとなく不満だった。
ウィーン 「ヒィッ」
ン?雑音がフィルターをすり抜けてきたか。ふたつ目の雑音はあからさまに不機嫌な表情を貼り付けたままの顔でコンビニに入ったオレにビビった店員のものであるが、おそらくその悲鳴にはそれ以外のものも含まれていたと思う。
オレは「白い」。比喩的な表現でも何でもなく、体の色素が全くない。いわゆる「アルビノ」だ。本来色素とは日中野外で紫外線に晒されても体の内部にダメージが届かないよう、皮膚で食い止める目的で生み出される。しかしその機能を「反射」で代用している俺にとって色素は全く必要ないのだ。
そんな真っ白で目が赤い幽霊みたいな奴が穏やかではない顔で突然目の前に、しかもさっき出て行った筈なのに戻って来たとなれば、店員としては落ち着かないどころの話ではないだろう。
「……ッたく…なンで5分前に来たばっかりの店にまた来なくちゃいけないンですかねェ……」
ルームメイトに頼まれた日用品をバスケットに放り込みながら愚痴を零す。
赤い目をした白いうさぎやらホワイトタイガーだとかアルビノ自体は言う程珍しいわけでもないのだが、オレの場合は「反射」を乱用した末の副作用みたいなものである事を鑑みると、そういった「純」アルビノとも若干距離を感じる。能力で体を守れてしまうから体がそういった機能を手放したのだ。そんな怠惰を体が起こしてしまうような生物は全世界でオレだけだろう。
ア、アリガトウゴザイマシタッ
最後の方の声が130Hz程上ずっていたのも左頬が0.27秒間極端に引きつっていたのも聞き間違いでもなければ見間違いでもなかっただろう。そういった反応を目にすることはもはやオレにとって当たり前の日常であった。
寧ろ10031回に及ぶ殺人や連日不良たちを返り討ちにしていることが日常で、一般人が使うコンビニなんかに日用品を買いに来ることの方が非日常であり、冷たい反応をされる事はどこかしっくり来た。
あァ、憂鬱だ。
こんな中、オレはまたここ最近の、最も非日常的な空間に帰らなければならない。
そう。
こんな事が赦されるはずがないのだ。
ありえない。ありえなさすぎる。
オレの帰宅を待つ「家族」が居る。
何かの間違いかと思いたいが実際にこういう状況になってしまっているのだ。
「あンのバカ、あんなに手ェ振りやがって。落ちたらどォすンだ」
今まで誰の邪魔も入ることなく謳歌してきた人生にいきなり土足で入られたような感じだ。不法侵入、不法滞在にもほどがある。
「……チッ。いつまでこんなンに付き合わされなきゃいけねェんだか」
自分の顔の不自然な歪みにも気づかずに、オレはこの憂鬱さを心地よいと感じていた。本当にいつまで続いてくれるのだろうか。こんな非日常は。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1446491257
読んでくださってありがとうございます。
初めて投稿します。前から気になっていた小説を書くこと、というのに挑戦してみました。
いきなりプロットとか大それたことはできないのでSSの超短編をちょこっと書いてみました。
一方通行さんの心情ってやっぱりダークな深さというか、あたたかさ?があって味があると思うんです。自分の文章構成力じゃあ表現できる範囲は限られていると思うんですが、少しでも伝えられればなーと思います。
不定期ではありますがまた更新したいなと思ってます。小説の勝手というのが分からないので不快な気分にさせたりコイツ一方通行じゃねぇとかあったら本当にごめんなさい!
お目汚し失礼しました。
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