駆け出しな武内Pのパラレル日記 (87)

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○月△日 洗濯物が乾かない日

記念だ。特に意味はない。
今日は忙しいから明日から書き始める。

今更気づいたが、書くことがないならそもそも書く必要がなかったような気がする。

 ◇

○月△日 曇り空の日

346プロに入社してプロデューサーを始めたはよいものの、いまいち振るわない。
振るわないというのも、なんというべきか。

……なにが悪いのかが分からない。なにが良いのかも分からない。
ただ流されるままに雑務やヘルプに腕を振るっている日々だ。

○月△日 コンビニの前に座り込む若者に視線を向けたら逃げられた日 

今西部長は人のいい方だ。
入社当初から私のなにかを買ってくれているのか、なにかと優遇されている気がする。

もしかしたら、気のせいかもしれない。
今時の若者には、「へへっ、あの娘俺に気があるんだぜ」というものがテンプレートとして存在するらしいが、遅れてきたその類のものかもしれない。

変な意味ではない。

 ◇

○月△日 癖で首に手をやろうと腕を上げたら女性に悲鳴をあげられた日

経験を積むために今勢いのある子役の子のプロデューサーもどきをしてみてはどうかと今西部長に提案された。
どうやらその子はモデル部門所属の今西部長の知人らしく、紹介してくれるとのこと。

二つ返事でお願いした。

○月△日 髭剃りに失敗して顎から流血した日

子役の子と会った。
どちらかというと冷たい相貌というか。年齢不相応な中身をしている気がした。

年齢的に子役というには丁度よく、女優と呼ぶには幼すぎる。
そんな印象を感じた。

 ◇

○月△日 情けない日

元来のスペックが高い。彼女、岡崎泰葉は非情に優秀だった。
同時に一人きりで完結し得る人材だ。

……今西部長は私になにを求めているのだろうか。

○月△日 とても情けない日

「今更貴方に教えてもらうことなんてない」
そう言われた時、私の中のなにかを粉々に砕かれた気がした。

私は教授される側で岡崎さんは教授する側。
そんなことはとっくに分かっていたはずなのに、どこかで驕っていた。
所詮は年端もいかぬ子供だと。

 ◇

○月△日 清々しい日

一日経って、なぜか体が軽くなっていることに気づいた。
心の中にあったわだかまりを打ち砕かれた気分だ。

それを岡崎さんに打ち明けると、それは『どえむ』というのだと教授された。
なるほど、わたしは『どえむ』だったらしい。

一人、言葉にしながら納得していると、岡崎さんがきょとん、とした表情の後にお腹を押さえながら笑いだした。

瞳の端に涙を溜めながら笑う姿がなぜか瞼に焼き付いて離れない。

○月△日 不思議な日

岡崎さんの私に対しての態度が和らいだ気がする。
多分気のせいだろう。

 ◇

○月△日 趣味が増えた日

ボトルシップなう
続きは後で書く。

-追記-
後で書こうと思ったが、日にちが変わったので明日書く。

-追記2-
明日は今日だった。今日書く。

○月△日 時代の波に乗る日

数日日記を書くのを忘れていた。
纏めて書くと、岡崎さんはドールハウスを作るのが趣味らしい。

岡崎さん曰く、コミュニケーションの円滑化は必須らしい。
……ので、趣味を理解をするのもプロデューサーの職務と心得た。
流石にこの歳と見た目でドールハウスを買うのも憚れたので、ボトルシップの制作キットを買ってきた。

一回集中して作り始めると存外に楽しい。
ちなみに、今の若者の間ではなう、と語尾に付けるのが流行っているそうだ。岡崎さんにそう教授された。

ボトルシップなう。

○月△日 親愛度が上がった気がする日

前日の日記で記したことを岡崎さんに伝える。
岡崎さんは途端に下を向き、ふるふると震えていた。

今日は岡崎さんが笑顔を向けてくれることが五度もあった。記録更新だ。
理由に心当たりはない。

 ◇

○月△日 指先にキレがない日

こう、指の調子が良くない。ボトルシップに食指が伸びない。
理由は分かっている。今日は余り岡崎さんにとって好ましい現場ではなく、機嫌が芳しくなかったからだろう。

ただ、最後に言っていた「この世界は華やかなだけじゃありませんよ?」というセリフが耳を離れない。

そんなことは分かっている。ただ、薄っぺらな私の言葉とは重みが違ったことだけも分かってしまうのだ。

○月△日 若干アンニュイな日

なぜ私はプロデューサーを志したのだったか。
ただ、笑顔とは素敵なものだと思う。

正確には最近になって思うようになった。
仕事で笑わない彼女の日々の笑顔が評価されないのはおかしい。

叶うならば、この少女の自然な笑顔をもっと見てみたいものだ。
なんともなしに、PCに中身のない無題のドキュメントを一つ作ってその日の業務を終了させた。

 ◇

○月△日 小雨が降った日 

岡崎さんの仕事が好調だ。
仕事は次から次へと舞い込んでくる。

やはり、彼女は本物だ。
ただ、忙しくなればなるほどに彼女が笑顔を見せることが少なくなっている気がする。
それだけが気がかりだ。

そういえば、最近美城常務が一人のアイドルのプロデュースを始めたという。

先輩プロデューサーたちは現場を知らない人間のお遊びと鼻で笑っていた。

○月△日 空が灰色な日

岡崎さんが熱を出した。
38℃超え。当然仕事など出来るものではない。
恥ずかしながら、おろおろとしていた私を手で制して岡崎さんは仕事に出ようとしていた。

当然止めた。

 ◇

○月△日 雨音がうるさい日

今西部長と少し話をした。
私は勘違いをしていた。彼女を有り余る才持つ才女として見るあまり、岡崎泰葉という一人の少女として見れていなかった。

彼女と共に歩むには無機物ではいられない。
変えなくては、私を車輪からプロデューサーへ。
歯車はやめよう。だが、役目を終えれば消えるだけの魔法使いでもいたくない気がする。
もっと――、もっと―――。

私はどうなりたいのだろう。

○月△日 水たまりで少年少女が跳ねる日、ただし私が視線を向けると逃げる

「人間でいいじゃないですか」
岡崎さんを見舞った際にそう言われ、心臓を鷲掴みされたような気分になった。

それでいいのだろうか。それで、許されるだろうか。
そう問う私にまだ熱で辛いだろうに、瞳を潤ませて笑ってみせた岡崎さんに酷く救われた気がする。
 
 ◇

○月△日 久しぶりに布団を干した日

熱が下がった後も岡崎さんの躍進は止まることはない。
そして、調整も仕事の内容も私が調整することに変わりはない。

もう二度と失敗などしない。無機質な歯車では彼女の隣には立てないのだから。

ただ、終わりの日は近い。
その時までに決断しなければ。

○月△日 人生に数度レベルで驚いた日

気づいたら私の所属がアイドル部門のプロデューサーからモデル部門のプロデューサーに変わっていた。

そして、呆然とする私に岡崎さんは笑いかけたのだ。
「どうしても欲しいから貰っちゃいました。生まれて始めてのわがままかもしれませんね」、と。

ベテラン大人気モデルと新米の域を出ないプロデューサーの権力の差は山より高く、海より深かった。

だが、冷静になって考えてみればやっていることは変わらない
大丈夫だ。まだ私のアイドルプロデュースは始まったばかりだ。修正が効く。
そもそも、アイドルプロデュースも今やってることもそんなに変わらない気がする。
ヴィジュアル系アイドル。これでいいじゃないか。

……これは妥協ではない。

○月△日 微糖コーヒーを買ったら甘すぎた日。これは詐欺だ

世間ではメイド喫茶とやらが流行っていると岡崎さんに教えてもらった。
使用人に扮した非正規雇用の女性が消費者に奉仕する、という体の喫茶店らしい。

我々プロデューサーという職業は時代の波に右往左往される職業だ。
ならば、表面だけでも理解しておく必要があるだろう。

今度、時間のある時に一度向かってみるという話を伝えると、私の顔を凝視してから、岡崎さんに慌てたようについていく旨を伝えられた。
なぜ岡崎さんがこんなに焦っているのかよく理解出来なかった。

ただ、「……一人だと、捕まりそう」という呟きがやけに耳に残った。

一旦ここまで
次回もがんばり村

○月△日 鶏卵の可能性を再認識した日

最近になって、日下部若葉という名前をアイドル部門の方から良く聞く。
どうやら美城常務のプロデュースしているアイドルが順調に伸びているらしい。

スター性と別次元の物語性を提唱する美城常務の理念に反発する者は多い。
なぜなら、それを備えていないアイドルが殆どだからである。

物語性というのは難しいもので、イメージの固定化に繋がる。
例えば日下部若葉なら最近こなしたらしい大きな仕事で言えば、ローゼスゴシックの日下部若葉なのだ。仕事の幅は当然ながら狭まる。それだけ世界観を保つのに難儀するからだ。

茨の道ではあるだろうが、興味がないかと言えば嘘になる。
だが、少なくとも私の口出すことではない気もする。
そういえば、お昼に岡崎さんと食べた親子丼は絶品だった。また食べに行きたい。

○月△日 悩ましい日

仕事について考え事をしながら自動販売機で飲み物でも買って一息入れようと思っていると、廊下で日下部若葉にぶつかってしまった。

慌てて抱き起こすが、倒れた際にウェアが捲れ上がり、足首が濃い紫に変色していることに気づいた。
少なくともぶつかっただけで出来る有様ではない。服装もウェアであり、レッスンの帰りだったらしい。

目の色を変えて立ち上がった日下部さんは私に口止めをして立ち去った。
……申し訳ないが、そんな口止め出来るような内容ではなかったので美城常務に急ぎのアポを取った。

○月△日 きつねうどんの油揚げを岡崎さんに奪われた日

あっと言う間だった。
日下部さんの状態を伝えると、美城常務は事実確認に向かい、日下部さんは病院行きになった。

感謝する。と端的に私に伝えてこの日の美城常務は姿を消した。
その横顔には隠し切れない心配の色が浮かんでいた。

この人のことが少しだけ分かった気がする。
二人がどのような関係なのかは分からないが、少なくとも悪いものや冷えきったものではないのだろう。

帰りに油揚げを十枚ほど買って帰ったがこんなに要らないと帰ってから気づいた。
うどんに使う以外には味噌汁に入れるくらいしか活用法が浮かばない。
悩ましい。

○月△日 作りかけのボトルシップを棚の上から落として壊した日

今日はもう寝る。
なにもやる気が起きなくて少しイライラしながら、コンビニに夕食を買いに行くといつもコンビニの前に座り込んでいる若者たちがなぜか殺されるだのなんだのと悲鳴をあげながら逃げていった。
……解せない。

 ◇

○月△日 卵の黄身が二つ入っていた日

朝からお得感のある卵黄二つの目玉焼きに微妙に調子が上がった。
仕事は順調だ。
しかし、暫く飲んでいなかったインスタントコーヒーを久しぶりに飲もうとしたら中身が酸化していた。……試しに一口飲んでみたがもう飲まない。

最近のコンビニコーヒーのレベルは高い。

○月△日 丸一日うどんの日

大量の油揚げを消費しなくては、と朝からきつねうどんを食べた。
自作のきつねうどんは味が果てしなく微妙だった。
やはりつゆか、つゆが違うのか。
麺も違うのだろうが、素人で改善出来るのはつゆか。

一日を仕事をしながらきつねうどんのつゆに対する考察に費やしてしまった。
岡崎さんにいつにも増して真剣な顔と言われた。
……褒められたはずが不思議と嬉しくはなかった。

 ◇

○月△日 メイドを学んだ日

岡崎さんとメイド喫茶に行って近々辞めて実家に帰るというメイドを一人テイクアウトしてきた。
疲れたので明日また続きを書くと思う。

一旦ここまで。
イヴしゃんがクリスマスにデレステに来るのは確定事項だろと思ってたけど不安になってきた今日このごろ

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