鷺沢文香「私……少しは変われたのでしょうか?」 (28)

モバマスssです

鷺沢さんの誕生日が近いということで書いてみることにしました

ss書くの初めてです

地の文あり

スローペースですがなんとか鷺沢さんの誕生日までには終わらせたいと思います

それではどうぞよろしくお願いします

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1445187723

プロデューサーを名乗るあの人にあってから、いったい幾程の時が流れたのでしょう。

長いとも短いともいえるような時を過ごして……私は…鷺沢文香は少しは変われたのでしょうか?

アイドルとして活動し、その……恥ずかしながら私のファンというものができ、
そしてその人たちの前で歌を歌うなど…あの当時の私には到底想像もつかない世界でした。

波として押し寄せる彼らの歓声、星のきらめきのようなまぶしさに包まれたステージ…………そして、私とともに隣にいてくれたPさんと仲間たち。

そのどれ一つとってもかつての私には……テレビの中の偶像にすぎませんでした。

そんな私がこうしてアイドルとして活躍しているということは……確かに私は変わったのでしょう。

少なくとも…ただの学生からアイドルになったということに関しては。

ですが今も……ライトに照らされながらマイクを掲げ、舞台上で歌っている今でも……私は…こう思ってしまいます。

私…鷺沢文香は……少しは変われたのでしょうか?

──346プロダクション事務所──

P「そりゃあ文香は変わったさ、少なくとも俺や周りのみんなが驚くくらいにはさ」

文香「そう……なんでしょうか…」

P「どうした? 急にそんなこと言い出して。なんか今の状況に不安でもあるのか? 俺でよければ相談に乗るぞ」

文香「い、いえ……そういうわけでは……」

冬のある日の事務所内。

私はそこでPさんに相談を受けていました。

といっても…いつもは本を読んでいる私がじっと考え事をしていたのを……その…Pさんが心配に思ったらしく
…半ば無理やり相談にのせられたようなものなのですが……。

P「自分では変わったことを自覚できない、か……。そしてそれを文香は本に集中できなくなるほど気になっていると」

文香「はい………私としても…このようなことは初めてで…その……すみません、変なこと聞いてしまって」

P「いやなに、アイドルのそういった相談に乗るのもプロデューサーの仕事のうちだしな」

P「特に文香は一人で抱え込みがちというか……自分から相談に来るのは滅多にないからな。だからこうして聞き出したわけだし」

文香「本当に、すみません……そこまで心配させてしまって」

P「いやだから謝る必要はないって。……しかしなんだ、それは今すぐ答えを出さなくちゃいけない問題なのか?」

腕を組み悩むそぶりをみせるPさん。
  
P「変わったか変わっていないかなんて問題は、当事者にとっちゃあ後から分かるもんだろうに」

文香「それは私も分かっているのですが……自分でもなぜだかふんぎりがつかなくて…」

段々としりつぼみになっていく私の言葉。

そういえば…このはっきりとしない口調は……アイドルになる前と比べても変わっていませんね。

……アイドルになる前………確かあの時私は──

文香「………Pさんは…私がアイドルを目指した理由を覚えていますか?」

P「ん? あれか、内気な自分をなんとかしたいってやつか? もしかしてそのことを考えてこんなことを言い出したわけか?」

文香「はい……多分…そうだと思います」

P「そっか……そういや、文香はそれが目的でアイドルになったんだったな…」

そこで……ふと窓の外へと視線をやるPさん。

つられるように視線をそちらに移す私。

彼と私が覗く外の世界は、とても静かな雪景色が広がっていて……部屋のなかには私たちの息遣いだけが聞こえます。

まるで、私たちだけがこの白い世界に取り残されたよう……そう錯覚させてしまうくらいに人の気配がなく、
私は少しだけ……Pさんを独り占めできているこの状況を……その…心地よいと思ってしまいました。

P「そういえば、あの時もこんな雪が降っていたな」

懐かしむようにポツリと……自然と心のうちから出てきたようにPさんはつぶやきました。

文香「そう…ですね。思えばもう……遠い昔のように思えます」

奇遇にも私とPさんが考えていたことは同じでした。

そう、それは…私とPさんが始めて出会ったときのこと………私がまだ普通の古書店員だったときのこと。

そして……一人の女の子が、シンデレラの魔法にかかり始めたときのこと。

P「せっかくだ。変わったかどうか確かめるためにも、俺たちが出会ってからここ一年のことでも今から振り返ってみるか?」

文香「……そう…ですね……ぜひ、お願いします」

こうして私たちは……私たちが最初に出会ったあの時…およそ一年前のあの日のことを振り返ることにしました。

まだ私が…アイドルをテレビの中の存在と思っていたころ。

そしてPさんが……まだこの346プロダクションの新人だったころ。

──1年前──

私……鷺沢文香は普通の女子学生でした。

叔父の経営する小さな古書店でバイトをし、大学と自宅を行き来する日々。

引っ込み思案な私はサークルやクラスの人たちと仲良く交流など出来るはずもなく……唯一の友達は常にかばんに携帯している小説のみ。

そんな自分を変えなくてはいけないとは……常々思ってはいましたが、残念ながらこの年になるまでそのきっかけとなるようなことは起きませんでした。

いえ……きっかけは起きるものではなく、起こすものですよね。

今でこそそれを理解しているのですが……あのときの私はまるで…小説の中の主人公のように
……なんらかの劇的な出来事が起こることを期待していたのだと思います。

当然ながらそのようなことは起こるはずもなく……そこに気づかなかった私は
…きっかけが起こることを期待しながらも……やはりこれからもこうして書を読みながら……静かに生きていくのだと思っていました。

ですが…唐突に、そしてなんの脈絡もなく彼はやってきました。

黒く…特に飾り気のないスーツに身を包んだ……私たちの魔法使いさん。

彼は、暗い場所で本という城壁に囲まれた私を……明るく…そして華やかなステージへと連れて行ってくれました。

人は…必ず人生の転換点と呼べるような……そんな大きな選択を目の当たりすることがあると言います。

私にとってそれは…やわらかな粉雪の降る……何の変哲もない日に舞い降りたのでした。

文香「…………はい? …アイドルを…お探しですか? …当店は…アイドル雑誌などのお取り扱いはございませんが」

本に夢中になっていた私は……最初彼がなんと言ったのかよく聞いておらず
…その……恥ずかしながら彼がアイドルものの雑誌を探しているものと思ったのです。

P「え? ああいや違うんだ。……ええと、やっぱり最初に名刺を渡したほうが良かったかな」

文香「…違うのですか? でしたらご用件はいったいどのような……」

P「あ、うん。とりあえず名刺を出してから話すので……あれ? 名刺どこやったかな? あれ? あれ?」

そう言って自分のスーツを慌てて探し出す男。

……あまり…悪い人ではなさそう。

見た目はしっかりとした真面目な社会人風なのですが……まだどこか青臭さが抜けていない彼の行動は
……あのときの私になにか安心感と呼べるようなものをもたらしてくれました。

というのも…やはり私は人と接するのが苦手なので……見知らぬ他人と会話するときは極度に緊張してしまいがちですから。

だから…あのときのPさんの様子は……私にとって緊張を和らげる…とてもありがたいものでした。

……思えば……このときから…私はこの人に惹かれていたのかもしれません。

P「ああ良かった……ようやく見つかった。ふう……とりあえず、俺はこういうものです」

http://i.imgur.com/nRnj08i.png

差し出された名刺を見て…私はけっして少なくない戸惑いを覚えました。

文香「…………ええと…あの、お話がよく飲み込めないのですが」

名刺には芸能界に疎い私でも知っているような…大きな芸能プロダクションの名前。

それが…こんな地味で根暗な私と何のつながりがあるのか……このときの私にはとんと検討がつきませんでした。

P「そうですね……先ほどはあわただしく言ってしまったので、改めて申し上げます」

彼は…きらきらと少年のような輝きを持った目をして……そして…これからの私の人生を劇的に変えてしまうであろう言葉を私に告げました。

P「あなたに……アイドルになってほしいのです。346プロの、一員として」

これが……私の人生の転換点であり……そして、きっかけであったと思います。

というわけで今日はここまでです
それでは……

文香「……私を、アイドルに……ですか? ……………………あの、やはりお話がよく飲み込めないのですが」

このときの私は、こう言葉を搾り出すのが精一杯でした。

まさか私をアイドルにしようなどという人が現れるとは……誰が想像をしていたでしょうか。

彼が提示した話は…完全に私の理解の枠を超えていました。

P「いや、まあそうだね。確かにいきなりこんな話を振られたら戸惑って当然だと思う」

P「とりあえず大事なことだからもう一度言うけど……君にアイドルになってほしいんだ。346で……俺と一緒に」

……わけが…わかりません。

なぜこのタイミングで……とか、どうしてこんな小さな古書店にアイドルのスカウトさんが……とか、様々な疑問が私の頭の中をぐるぐると回ります。

でも口下手な私ですから、そんなに多くのことは一度に出てきません。

ですから……一言だけ、私は彼に言いました。

文香「どうして…………私、なのでしょうか?」

P「え?」

文香「どうして……その、特に可愛げのないの私なんかを…選んだのでしょうか?」

P「どうして、か。いや、俺は君のこと可愛いと思ったけど……あー、そうだなぁ………………強いて言うなら、一目ぼれって奴かなぁ」

文香「一目ぼれ……ですか?」

P「いや、最初はこの書店に入ったのも偶然だったんだ。たまたまそこを通りかかったとき、この書店になにか勉強になるような古いアイドルものの写真集や雑誌が置いていないかなと思ってね」

P「そしたらさ、そんな本とは比べ物にならないほどの逸材が店の置くのレジに座っているじゃないか! 見た瞬間分かった気がしたね、あぁ……この子と一緒なら、トップアイドルへの道も難しくないなって」

次第に熱が入ってくる彼のセリフ。そんな彼にあてられたのか、私の頬もこころなしか熱くなってきた気がします。

……この人は、どうしていきなり初対面の人に…思い切ってこのような恥ずかしげなことをいえるのでしょう。

私は少し俯きました。そうすると…長い私の髪がちょうどよく顔を隠してくれるから。赤くなった顔を、彼に見られなくてすむから。

文香「あの……///」

P「あ、ああ、ごめんごめん。また一人で暴走してしまった。ごほん…………で、どうかな? ええっと……あれ? そういえばまだ名前も聞いていなかったっけ」

文香「文香です…………鷺沢……文香。文章の文に……香ると書いて、文香」

P「鷺沢…文香さんね……よし分かった。鷺沢さん、改めてもう一度言うけど、どうかなアイドルは? 君さえよければ俺はいつでも大歓迎なんだが」

文香「………………………」

無理だ──このとき私は即座にそう思いました。

人前に出ることも苦手で、運動も得意でない。笑うことすら上手に出来ず、特に秀でた才能もない。

……そんな浅学菲才な私が…いかようにして憧れの極致であるアイドルになどなれるでしょうか。

文香(……でも……もしかしたら)

もしかしたら、そんな私でも…………本の中の輝く世界……そんな心躍る感覚を味わえるかもしれない。

それは幼少の頃から物語を嗜んできた私にとって……麻薬とも悪魔のささやきともいえるような響きでした。

文香「…………あの……少し………考えさせてもらってもよろしいでしょうか」

そんな私が選んだのは、はいでもいいえでもない……保留という第三の選択でした。

P「ああ、もちろんいいよ。というよりやっぱりこういう話は一朝一夕ですぐに決められる話じゃないからな。……まあでも、なかにはすぐに決める奴もいるか」

城ヶ咲妹とかな……とひとりごちる彼。なにか……彼の知り合いに心当たりでいたのでしょうか。

P「まあ、そうだな。とりあえず返事はいつでもいいとして、俺はだいたい346プロにいるから、○○をお願いしますと受付に言ってもらえば会えると思う。それと、もし会社までこられないんだったらメールや電話だけでもいいから。常に電話に出られるようにはしておく」

文香「すみません……私も…いきなりこういう話を振られて、少々混乱しているので……」

P「いやいや、こちらこそほんといきなりで申し訳なかった。じゃあそういうことで……鷺沢さん」

彼は真剣な顔をして改めて私のほうを向くと、

P「もし……君がアイドルになることを決意して、その道を進むことになったら……俺は全力でサポートするから。そのときはよろしくな」

最後にそれだけを言って……そっと雪の降る町へと消えていきました。

残されたのは……彼のスーツからふり落ちた溶けかかった雪のみで、まるで彼がいなくなったあとも…魔法にかかったように私の身体は動きませんでした。

これが……私とPさんとの最初の出会い。

世界が銀色に覆われていた……そんな静寂なある日の話。

もしかしたら今日はこれ以上更新できないかもしれません

待っていてくださる方や応援してくださっている方、どうもありがとうございます

つたないながらも最後まで書かせていただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします

次に彼と出会ったのは、思いのほかあれからすぐのことでした。

街のカフェで私が読書していたところをPさんが発見し……声をかけてきたのです。

そのときは別段私を探していたというわけではなく……彼のとある担当アイドルとそこで待ち合わせをしていたとのことらしいのですが……。

P「いや、こんなところでまた偶然会えるとはね。……覚えているかな? この前君をアイドルとしてスカウトしたものだけれど」

文香「…………はい。覚えて……います。…先日、書店に入らした方、ですね? 確か、名前は…………」

P「○○です。まあ俺の担当しているアイドルたちにはPとか呼ばれることが多いけど」

文香「…………? P…ですか? …………あ、プロデューサーだから、ですか」

P「そうそう。まあ俺もそう呼ばれることに慣れているから別に構わないんだけどね。ただ他の部署のプロデューサーさんたちも、同じように346ではPさんって呼ばれている人もいるから、ちょっと紛らわしいときもあるんだよねこれが」

あははは、と、気さくに笑う彼。

その笑顔はとても自然なもので、彼の人の良さがよく伝わってきました。

正直……うらやましいほどに。

文香「……とても……慕われているんですね。その………アイドルの方々に」

P「ん? 慕われているか……まあ半分あいつらのおもちゃみたいになっている気もするが……」

文香「ですが……やはりなんとも思っていない人には……そう気軽に接することはできないと……思います」

P「そ、そうか。まあさすがに嫌われているとは思わないけどな……まあそうだとしたら、あいつらの面倒も見てきた甲斐があったというもんだな。どうもありがとな、ええと……鷺沢さん、でしたよね?」

文香「はい……鷺沢、文香です」

P「正直こういう話は俺がせかしたりするもんじゃないから、なんとなくフェアじゃない気もするけど……でもせっかくこうして出会えたわけだし言うね」

文香「……………………はい」

P「あれから考えてみてどうかな? うちのプロダクションに入ってみる気は起きた?」

文香「…………………………」

P「ああいや、すまない。やっぱりこういう言い方は卑怯だったな。なんか強制しているみたいで」

文香「……あれから」

P「ん?」

文香「あれから……自分なりに考えてみました。……アイドルというものが、どういう存在で……どのように世間やファンの方々から思われているのか」

P「………………」

文香「ですが……やはり自分ひとりでは答えが出ませんでした。……やはり、どうして私なんかを○○さんがスカウトしたのか……そこがどうしても気になってしまって」

P「それは前にも言ったけど、君を一目見て一目ぼれしたって……」

文香「いえ、それは分かっているのですが……どうやっても私がアイドルをしている場面が想像つかないんです。……こんな、いつも本を読んでいて日陰者の私が……」

P「自信が……ないのかな?」

文香「………………そうですね…おそらく、そうかもしれません。……自信があったとしても、アイドルになるかどうかはわかりませんが」

P「ふむ……なるほど、ね」

彼はそう呟くと、何か考え事を始めたかのように腕を組み、うんうんうなり始めました。

……そういえば、彼は彼の担当アイドルと待ち合わせと聞きましたが……私とこんなに話していて大丈夫なのでしょうか。

文香「あの……そういえば○○さん誰かと待ち合わせとか……」

P「ん? ああ……まあそのことは、な…………って、ん? ……そうか、その手があったか。鷺沢さん!」

文香「! …………は、はい。なんでしょうか」

P「今から時間とかってあります? 少しだけ俺に付き合ってほしいところがあるんですが」

文香「え? …………ま、まあ少しだけなら」

P「よし! そうと決まれば善は急げだ! ……そしてあとはだ……ほら、そこに隠れていることはずっと前から知っているから、出て来い。お前にも付き合ってもらうぞ」

文香「え…………?」

Pさんが声をかけたのは、私の後ろのもっと奥のほう……ちょうどテーブルを分けるしきりに隠れて見えづらくなっている場所。

??「ふふ…………やはりばれていましたか。さすがは私たちのプロデューサーですね」

P「そらお前の姿は昔から見ているし、ここんとこも毎日見ているからな。それで気づかなかったらプロデューサーとしてやっていけん」

??「ふふ……ですが、半分内心ドキドキしていたんですよ? プロデューサーがちゃんと私をみつけてくれるかどうか」

P「でもちゃんとこうして見つけたわけだぞ。これでよかったのか?」

??「はい、それでこそ私の信頼するプロデューサーです。……それでこの娘かしら? プロデューサーの新しいアイドル候補というのは?」

P「ああ、この前お前にも話した鷺沢文香さんだ」

??「よろしくお願いしますね、鷺沢さん。プロデューサーから話は以前から聞いていたわ。ここでこうして会うとは思っていなかったけれど、これも何かの縁ね」

突然の女性の登場に、私の心が騒ぎ出す。

……でも、この高揚はただそれだけが理由じゃなくて……。

文香「……あの、あなたは…………もしかして」

??「あら? 私のことを知っていらっしゃるのかしら? そうだとしたらとても光栄だわ。それだったらもう自己紹介はいらないかしら」

P「まあ一応言っておいたらどうだ? お互い会うのは初めてだろうし」

??「ふふ、そうね。では改めて自己紹介。鷺沢さん……私の名前は──」

──高垣楓です、これからよろしくお願いしますわ。

これがPさんとの二度目の出会いであり……そして…楓さんとの出会いでもありました。

今日はここまで

遅筆なのでほんと進むのが遅くすみません

なるべく毎日更新するよう心がけていく所存です

コメント本当に励みになっています。どうもありがとうございます。

昨日は更新できなくてすみませんでした
今日は帰ったらちゃんと更新します

今見直したら文章がひどいことひどいこと……orz
やはり校正は必要ですね

文香「ここは…………」

P「ああ、俺たちが使っている346のレッスン室だ。ちょうど今から楓のレッスンの時間でな、その様子を鷺沢さんにも見てもらおうと思ってな」

カフェからPさんの運転する車にのって10分ほど。

私は…あの芸能界の大御所である、346プロダクションの本社にいました。

彼はどうやら先ほどのカフェで、午前にオフだった楓さんを落ち合う予定だったようです。

道中その話をPさんから聞かされたのですが、私の隣に楓さんが座っていて、そのせいで私は緊張のあまり固まったいたのですが……。

文香「はあ……」

P「うん? やっぱりこういうのは面白くはなかったか? すまんな、半ば無理やり連れてきた感じになってしまって」

文香「あ、い、いえ……その、そういうわけではなくて………初めてTVの中の人と間近で接したものですから……」

P「あ、楓のことか? そういや確かにあいつも有名人だったか。いつも一緒にいるからそういう感覚麻痺していたな……」

はっはっはと気楽そうに笑う彼。

そんな…能天気な感じでいいんでしょうか…………相手は、あの高垣、楓さんだというのに………。

高垣楓──当時私が彼女に持っていたイメージは………その、たとえは陳腐なのですが、本の中から出てきたお姫様そのもの……といった具合でした。

数年前、同346プロにてモデルとして芸能界デビューを果たし、そのミステリアスかつ独特な雰囲気と172cmという高身長もあいまり、あらゆる女性向けモデル雑誌を席巻した彼女。

そんな彼女の突然のモデル引退とアイドル業界への移転のニュースは…………そういった世界に詳しくない私の耳にも……入ってくるほどでした。

私が彼女のことを知るようになったのもその頃だったと思います。

元モデルということでアイドルのイメージとはかけ離れていた楓さんは、しかしその心配をどこ吹く風という具合にその後も順調にアイドルとしての地位を築き上げていき、今では346どころか日本のトップアイドルの一人……。

そんな彼女が今日突然……あのようにして目の前に現れたのですから…………私があがって道中彼女に話しかけられても答えられなかったのは……当然のことでした。

楓「おまたせしました。プロデューサー、鷺沢さん」

文香 ビクッ

P「おー、いやに着替えに手間取ったな。遅かったじゃないか」

楓「ふふ、今日は私の後輩となるかもしれないゲストがいらっしゃいますから、念入りに準備をしてきました」

(上の酉つけるの忘れていました)

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