僧侶「勇者が純粋無垢で困る」 (753)



勇者「助けに来ました、大丈夫ですか?」

娘「この痣だらけの体を見なさいよ!大丈夫なわけないでしょ!!」

勇者「………」

娘「大体何で今頃助けになんて来たのよ!?もう何もかも諦めていたのに!!」

勇者「助けは必要なかったってこと?」


娘「そ、そうよっ!!」

娘「あんな辱めを受けて生き続けるくらいなら死んだ方が良かった!!」


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勇者「……そっか」

娘「な、なによ?」

グサッ…

娘「あぎっ!!?」

勇者「これで良い?死ぬまでの間は凄く痛いだろうけど我慢して」ズッ

娘「ガフッ…コヒュッ…コヒュー…」

勇者「自ら死を望む人もいるのか、これからは気を付けよう……」


ザッザッ…ガチャ…バタン…


娘「コヒュ……」


>>>>

勇者「町長、洞窟のならず者は全て殺しました」

町長「ありがとうございます!あの…ところで娘は?やはりもう……」

勇者「生きてました」

町長「え?」

勇者「でも辱めを受けて生き続けるくらいなら死んだ方が良いと言ったので、殺しました」

町長「……えっ?何を」


勇者「ですから、娘さんが死にたいと言うので殺したんです」



町長「………」

勇者「どうかしました?」

町長「……今の話しは…本当ですか?」

勇者「はい、全部本当です」

勇者「町長の望み通りならず者は皆殺し、娘さんは死を望んだので殺しました」

町長「………」フラッ

バタッ…


勇者「あ、倒れた…どうしよう」


ガチャッ!

???「勇者!!!」


勇者「あっ、僧侶。遅かったね」

僧侶「ッ…この大馬鹿野郎!!」

バキッ!

勇者「何で殴るの?」

僧侶「何でもクソもあるか!!死にたいって言う奴を本当に殺す馬鹿がいるか!!?」

勇者「……娘さんは嘘吐いてたってこと?」


僧侶「そういうことじゃねえ!」


勇者「じゃあ何?何で死にたいなんて言ったの?」

僧侶「あー、なんつーか……そう!強がりだ、強がり!」

僧侶「誰かに怒りをぶつけたかったんだろ!多分な!」


勇者「何で?」



僧侶「何でって……何日も監禁されて、複数の男に乱暴された痛みと恐怖…」

僧侶「溜まってたもんが一気に噴き出したんだろ。多分な」

勇者「…………」

町長「……うっ」ムクリ

僧侶「チッ…勇者、町長には俺が説明しとくから先に部屋に戻っててくれ」

勇者「分かった」

バタン…


僧侶「……はぁ、こりゃあ思ったより苦労しそうだな」


>>>>

僧侶「ほら、さっさと行くぞ」ガサゴソ

勇者「何で?」

僧侶「娘が起きたら十中八九、人殺しだの何だのと言われて騒ぎになるからだよ」

僧侶「ったく、町長に説明すんの大変だったんだぞ」

勇者「……ごめん。でも娘さんは僧侶が生き返らせたんじゃないの?」

僧侶「お前が殺したから生き返らせたんだ、普通にしてりゃあ生き返らせる必要もなかった」

勇者「普通って?」

僧侶「はぁ……いいか?今から芝居するから黙って見てろよ」


勇者「分かった」



僧侶「もう嫌、殺して!」

勇者「……」チャキ

僧侶「ちょっと待て」

勇者「だって僧侶が殺してって言うから」

僧侶「芝居するって言ったろ!!黙って動かず見てろ!!いいな!!」

勇者「分かった」


僧侶「もう嫌っ、殺して!」

僧侶「そんなこと言うもんじゃねえ、親父さんは今もお前を待ってるんだ」

僧侶「生きたいって気持ちが少しでもあるなら、どんなに辛くても生きられるんだ」


僧侶「さあ、親父さんが待ってる。行こう」

僧侶「はいっ…ありがとうございますっ」グスッ

僧侶「ってな感じで、オレだったらこうしてた」ウン


勇者「ちょっと分かんない」

僧侶「……どこら辺が分からねえんだ?」

勇者「助けて欲しいならそう言えば良い、何で逆のこと言うのか分かんない」

僧侶「あのなあ……いや、今すぐ分からなくてもいい、少しずつ色んなことを知ればいい」

勇者「分かった」


『人殺し!殺人鬼!化け物!さっさと町から出て行け!』


僧侶「チッ、早いとこ行かないとマズい、急ぐぞ」

勇者「娘を攫ったならず者を皆殺しにしてくれって言ったのは町長なのに……」ポツリ


僧侶「…………」


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ある日、ド田舎の教会にいきなり兵士が押し寄せて一人の僧侶が連行された。

質問しても完全無視、訳も分からぬ内に王の前に立たされた。

で、いきなり「彼と共に魔を討て」ときた。

よく分からんが最近何処かに大穴が空いたらしく、そっから化け物が出て来てるらしい。


ちなみに『彼』とは勇者のことで、魔を滅ぼすべく神が遣わした天使らしい。

オレが勇者について知っているのはこれだけ。

まったくふざけた話しだ。

結局何でオレが選ばれたのかも知らぬまま、終わりの見えない旅に出ることになった。

王直々に頼まれたと言えば聞こえは良いが、あんなのは脅しのようなもんだ。


しかし勇者がこんな赤ん坊みたいな奴だとは思わなかった。

戦うことに関して口出しすることは全くない。

魔を滅ぼすべく神が遣わした……というのも嘘ではないかもしれない。

しかし『こういう事』になると話しは別だ。

勇者は人の感情、心の動きってやつをまるで分かっていない。

旅が始まって1ヶ月も経っていないが、それは痛いほど理解した。


幸い話しは聞いてくれるし理解しようと努力はしてるようだ。

勇者に戦いの補助は必要ない、もしかすると王は勇者を教育する為にオレを選んだのか?

……いや、他に優秀な奴は大勢いただろうしそれはないか。


>>>>

で、現在。

宿から逃げたオレ達は何とか森に逃げ込んだ。


勇者「……僧侶、ごめんなさい」

僧侶「!!」

僧侶「……何で謝る?」

勇者「一人で町長の話しを聞いて、僧侶に相談せずに一人洞窟に行ったから」

僧侶「他にはあるか?」


勇者「無抵抗の人間を殺した。僧侶との約束を破った」


僧侶「無抵抗の人間……それは町長の娘のことか?」

勇者「……」コクン 

僧侶「何で約束を破ったんだ?」

勇者「少し前に僧侶に『望まれたことをしてやれ』って言われたから」


僧侶「……(オレが教えたことを守ってたのか)」

勇者「僧侶?」

僧侶「悪い、オレの言葉が足りなかった。望むことってのはその人が喜ぶことだ」

僧侶「だから次からは自分だけで答えを出さず、相手に聞け」

勇者「なんて?」

僧侶「目をじっと見て、それはお前が本当に望んでいることか?って訊くんだ」


勇者「目を見て訊く……分かった。次からそうする」




僧侶「……今日は野宿だな、取り敢えずテント張るか」

勇者「うん」

ガサゴソ…カンッカンッ…


僧侶「……なあ勇者」ゴロン

勇者「眠いなら寝て良い、僕は寝なくても平気」ウン

僧侶「違う、お前に聞きたいことがある」

勇者「なに?」

僧侶「この世界、どう思う?」

勇者「まだ分からない。でも、あんまり好きじゃないと思う」

僧侶「……そうか」

勇者「僧侶はどう?好き?」

僧侶「!!」


僧侶「オレもまだ分かんねえ、好きになりてえけど……難しいかもな…」

寝るやすたまた明日書く


勇者「あ、僧侶は何で僧侶になったの?」

僧侶「はあ?随分急だな、オレの話しなんざ聞いても面白くねえぞ」

勇者「面白くなくていいから聞きたい、気になる」

僧侶「(……他人を知りたいのか?)」



僧侶「……親に捨てられた子供を助けたかったんだ。治癒の法だけなら使えたしな」

勇者「何で子供を捨てるの?」


僧侶「さあな、オレには分からんし分かりたくもない」

僧侶「わざわざ田舎に来てまで子供捨てていく奴の気持ちなんて、分かりたくもねえ」

僧侶「……オレの話しはこれで終わりだ。勇者、お前も疲れてんだろ?たまには寝ろ」


勇者「僧侶のこと、また聞かせてくれる?」

僧侶「気が向いたら話す、だから寝ろ」

勇者「ありがとう。じゃあ寝る…おやすみ……」ゴロン


僧侶「……(そういや、こんな風に話したのは初めてだな)」


勇者「スー…スー…」

僧侶「……寝付き良すぎんだろ」

勇者「スー…スー…」

僧侶「男だか女だか分かんねえ上にまだ子供……」


つーか性別以前に人間かどうかすらも分かんねえんだよなあ

いや待て、確か天使って性別ないんだっけか?


両性具有ってのもあったな、まあいいや……

しかし虫も殺さなそうな顔してんのに、戦いになると丸っきり別人だ。

この細腕のどこにあんな力があるのか疑問でならねえ。


洞窟内にあったならず者共の遺体の損傷は激しかった……

あんな、獣に食い千切られたみてえな……うっ、ダメだ、気持ち悪くなってきた。


勇者「スー…スー…」

あんな残忍な殺し方したってのに当の本人はこれだもんな。


神により莫大な力を入れられただけの容器、天使という名の兵器……

人の感情、心ってもんがねえのか?

それとも、本当に何も知らないだけなのか?


だとしたらこいつは一体何なんだ?


>>>>

勇者「僧侶、起きて」ユサユサ

僧侶「……何だよ、まだ夜が明けてねえぞ」


勇者「近くに何かいる」

僧侶「はあ!?まさか町の連中が…」

勇者「空飛んでるから違うと思う」

僧侶「……は?」

勇者「あ、伏せないと」ガバッ

僧侶「おわっ!!」


ゴオォォォォッ!


僧侶「熱ッ!!?何だこりゃ!?一体何が…」

勇者「僧侶、あれ」スッ


炎龍「ゴアアアアアッ!!!」バサッバサッ


僧侶「……おいおいふざけんなよ?こんなの聞いてねえぞ!!」


勇者「このまま戦う」チャキ

僧侶「待て…お前火傷が…見せてみろ。っ、酷い……」


勇者「僕は何ともない、全然平気」ウン

僧侶「ふざけんな!平気なわけねえだろうが!!治すからじっとしてろ!」

勇者「じっとしてたらあれに焼かれるよ?」


炎龍「グオオオオオッ!!」


僧侶「くそったれが!取り敢えず森を抜けるぞ!このままじゃ森ごと焼かれちまう!」

僧侶「走りながらでも少しは治せる!身を隠せる場所に着くまで我慢してくれ!」

勇者「…………」ジー

僧侶「どうした!?さっさと逃げるぞ!!」グイッ


勇者「うん、分かった(テント、燃えちゃった……)」


森の洞穴

僧侶「ハァハァ…よし、治ったな……大丈夫か?」

勇者「うん」


『ゴアアアアアッ!!』


僧侶「あんなのを相手に二人で?ぶざけんなよ畜生…」

勇者「多分僕達を[ピーーー]まで出て行かないと思う。火傷治ったから行く」

僧侶「なっ!?止せ!死にに行くようなもんだ!」


勇者「じゃあどうするの?他に方法あるの?」


森の洞穴

僧侶「ハァハァ…よし、治ったな……大丈夫か?」

勇者「うん」


『ゴアアアアアッ!!』


僧侶「あんなのを相手に二人で?ぶざけんなよ畜生…」

勇者「多分僕達を殺すまで出て行かないと思う。火傷治ったから行ってくる」

僧侶「なっ!?止せ!死にに行くようなもんだ!」


勇者「じゃあどうするの?他に方法あるの?」



僧侶「それは……」

勇者「僕が洞穴から出てあれを引き付けるから僧侶はここで待ってて」

僧侶「お前、何をするつもりだ?」

勇者「取り敢えず木を沢山投げて、翼に孔開けて落とそうと思う」

僧侶「オレは…」


勇者「僧侶は『何もしなくていい』」


僧侶「……そう、か」ギリッ

勇者「じゃあ行ってくる」


ザッザッ…


僧侶「……勇者、待ってくれ!!」

勇者「なに?」クルッ

僧侶「無茶を承知で頼む、なるべく怪我するな、もう少し自分を大事にしてくれ……」

勇者「それは攻撃を避けながら戦えってこと?」

僧侶「……ああ、そうだ」

勇者「分かった、面倒くさいけどやってみる」


ザッザッ……


僧侶「何でだよ……何でオレなんだよ、何の役にも立たねえじゃねえか……」


>>>>

炎龍「グオオオオオッ!!」バサッバサッ

勇者「もう少し離れないと僧侶が危ないかな」


タタタッ…


勇者「ここら辺でいいかな、よいしょ」ズボッ

勇者「あれ?来ない」

勇者「少し離れすぎたみたいだ、でもこっちからは見える…よし……」ググッ


ブンッ!


炎龍『ギッ!ガアアアアアッッ!!?』

勇者「あっ、一回目で刺さった。僧侶の言う通りにして良かった」

ズズンッ…


勇者「……一応首斬っておこう」ダッ


炎龍「カヒュー…カヒュー…」

勇者「あ、胸に刺さってたのか。このままでも死にそうだけど念の為…」チャキ

炎龍「…カヒュー…ガフッ…」ジー

勇者「ねえ、その目はなに?何か言いたいの?」

炎龍「カヒュー…カヒュー…」


『相手に何を望んでいるか、目を見て聞くんだ』


勇者「……僕には分からないから僧侶を呼んでくる。だからちょっと待ってて」

勇者「あ、さっきみたいに火を吐いたり僧侶に何かしたら殺すからね?」

タタタッ…


>>>>

森の洞穴

僧侶「音が止んだ。本当に一人で倒しちまったのか……」


タタタッ…

僧侶「ははっ、凄えな。もう戻って来やがった」

勇者「僧侶、ちょっと来て」

僧侶「ん?どうした?何かあったのか?」

勇者「上手く言えない、取り敢えず来て」グイッ


僧侶「?ああ、分かった」


炎龍「…コヒュー…コヒュー…」

僧侶「………え、何これ?どうすりゃいいんだ?」


勇者「何か言いたそうだけど分からなくて、僧侶なら分かるかなと思った」

僧侶「分かるわけねえだろ……」

僧侶「でもまあ、何か伝えたそうな感じがしないでもねえけど」

勇者「どうすればいい?」


僧侶「!!(表情は変わってねえが、もしかして殺すのを躊躇ってるのか?)」


僧侶「勇者、お前はどうしたいんだ?」

勇者「何を望んでいるのか知りたい」

僧侶「他には何かないか?死にかけのこいつを見てどう思う?」

勇者「……僧侶は僕が火傷した時、治してくれた」

僧侶「?」


勇者「僧侶は龍も治すの?」


僧侶「……は?」

勇者「怪我してるのは同じだから龍も治すのかなと思ったけど、違うの?」


僧侶「……お前と龍は違うだろ」

勇者「なにが違うの?見た目?」

僧侶「いや、そうじゃねえ。なんつーか…その……難しい質問だな」

勇者「じゃあ治してみて欲しい」


僧侶「治す!?こいつを!?また襲ってきたらどうすんだ!!」



勇者「僕と龍の何が違うのか知りたい」

僧侶「(ダメだ、やっぱり何を考えてんのか分かんねえ)」


勇者「僕は……」

僧侶「?」

勇者「僕は僧侶が火傷を治してくれた時、テントで寝てる気分になった」

僧侶「(いまいち分かんねえ……安心したってことなのか?)」


勇者「この龍も同じ気分になったら、僕も龍も一緒だと思う」


僧侶「違ったらどうする?」

勇者「殺す」

僧侶「(そこは迷わねえんだな、やっぱり分かんねえ)」


僧侶「……だったら木を引き抜け」

勇者「いいの?」

僧侶「ああ、お前はもっと色んなことを知るべきだ」

僧侶「龍にとっちゃ堪ったもんじゃねえだろうが、これでお前が何か得られるならそれでいい」



勇者「…………」

僧侶「どうした?やるならさっさとしろ」


勇者「うん、分かった」タンッ

炎龍「……コヒュー…コヒュー…」

勇者「いくよ?」ガシッ

僧侶「ああ、お前が背中から木を引っこ抜いたらすぐに治癒させる」

勇者「よいしょ」ズボッ

炎龍「…ィギッ!」

僧侶「!!」スッ

シュゥゥゥ…


炎龍「!!……フーッフーッ…」


勇者「………」チャキ

僧侶「………どうだ?何か分かったか?」


勇者「まだ分かんない」

炎龍「…フーッ…フーッ…」ズイッ

僧侶「うおっ!?」

勇者「僧侶!!」グッ

ボフッ…

僧侶「待て大丈夫だ!胸に鼻をくっつけられただけだ!」


勇者「鼻?ここからじゃ見えない……それはどういう意味?」


僧侶「全然分かんねえ」

炎龍「………」クンクン

僧侶「敵意はないみてえだけど妙な感じだな…」

勇者「どんな感じ?」

僧侶「大人しくしてりゃあ案外…」

炎龍「……フーッ…グルルル…」カッ


僧侶「ん?光っ…がっはッ!!?」ドサッ


勇者「僧侶…起きて…僧侶…」ユサユサ

僧侶「…げほっ!げほっ!オレなら大丈夫だ、何なんだ今の…」


勇者「分かんない、僧侶が倒れてから龍も倒れた」

僧侶「龍も倒れた?なんだそりゃ?ますます分かんねえ」

勇者「立てる?」

僧侶「ああ、不思議と痛みはねえ」

勇者「……こんなの頼まなきゃ良かった、ごめん」


僧侶「喰われたわけじゃねえし気にすんな。で?何か感じたか?」



勇者「一瞬、同じ気分になれた気がした」

僧侶「!!ははっ、そうか…なら治した甲斐があったな」


勇者「怒らないの?町長の娘の時は怒ったのに」

僧侶「あの時とは全然違う、だから気にしなくていい」ポンッ

勇者「……分かった」


僧侶「それより龍はどこに行った?姿が見えねえけど?」

勇者「……さっきまでいたけどいなくなくなってる。飛んだりしたら気付かないわけない」

僧侶「まあいいや。何かもう…考えんのが面倒くせえや……」

僧侶「すっげー疲れたし夜明けまで少し休みてえ。取り敢えず洞穴に戻ろう」


勇者「……うん」


>>>>

森の洞穴

僧侶「…スー…スー…」

勇者「色んなことを知るべきだ……僧侶、色んなことってなに?」


ねえ僧侶、僕は何を知らないの?

僧侶は僕の知らないことを知ってるの?


でも一つだけ分かったことがあるよ?

僕は僧侶が倒れた時凄く嫌だった。


僧侶が痛いって言ったりすると嫌な気分になる。

怒られると……寂しい。

あと、僧侶はあの人達みたいな目で僕を見ないから好き。

分かるのは、知ってるのはこれくらい。


僧侶は僕のことをどう思ってるんだろう?

何だかムズムズするから今度聞いてみよう。


>>>>

森の洞穴

勇者「朝になった、起きて」ユサユサ

僧侶「……あー、まだ寝たりねえけど行くか」


勇者「どこに行くの?」

僧侶「それなんだけどな……オレ達、穴がどこにあるかも知らねえよな?」

勇者「うん」


僧侶「その時点でおかしいっつーの、なあ?」


勇者「見つかるまで歩けばいい」

僧侶「……それで行くしかねえか、グダグダ文句言っても仕方ねえしな」


僧侶「事実、龍に襲われたんだ。化け物がいるってことは本当だったわけだ」

勇者「……信じてなかったの?」

僧侶「この目で龍を見るまではな、今は信じてる……さて、そろそろ行くか」

僧侶「森を抜けた先に村があるって町長が言ってたから、そこを目指そう」

勇者「分かった」


ザッザッ…


勇者「僧侶」

僧侶「ん?どうした?」

勇者「村に着いたら話しがある」

僧侶「!!珍しいな、お前からそんなこと言うなんて」

勇者「ダメだった?」

僧侶「別にダメってわけじゃねえけど歩きながらじゃ話せないことなのか?」


勇者「……歩きながら話すことじゃない気がする」ウン


僧侶「ははっ、なんだそりゃ」

勇者「……僕にも分かんない」


僧侶「?」

勇者「あと、僧侶の話しも聞きたい」

僧侶「(こんなに積極的に話してくるとは……何かが芽生えたのか?)」

勇者「話したくない?」

僧侶「いや、そうじゃない。少し考え事してただけだ」

勇者「話してくれる?」

僧侶「そうだな……宿に着いたら、話すかもしれねえな……」


勇者「(少し痛い時の顔した、あんまり話したくないのかな……)」


>>>>

村の宿

僧侶「……疲れた。町長め、何が森を抜けたらすぐです、だよ」ボフッ

勇者「あの町長は嫌い」


僧侶「!!嫌いか……そりゃ何でだ?」

勇者「王とかと同じ、嫌な目をしてるから」

僧侶「嫌な目?」

勇者「泥みたいなぐちゃぐちゃした感じの目をしてる」

僧侶「!!」


僧侶「はははっ、そうか……確かにそうかもな」ウン


勇者「何で笑うの?」

僧侶「いや、そこら辺の大人よりお前の方が物事が見えてると思ってな」

勇者「どういうこと?」

僧侶「真っ直ぐな目、綺麗な目を持ってるってことだ。分かんねえか?」

勇者「ちょっとだけ分かった」

僧侶「……そうか」


僧侶「(人の本質を見抜く目はあるが、心の動きは分からない……のか?)」


勇者「…………」

僧侶「ん、どうした?」


勇者「なんでもない」

僧侶「?」

僧侶「ああそうだ、風呂あるみたいだから入ってくる。お前も後で入れよ?」

勇者「……あんまり好きじゃない」


僧侶「穴についての情報収集もするんだ、汚れたままだと相手にされねえ。身なりは大事だぞ?」



勇者「……じゃあ分かった、後で入ると思う」


僧侶「あ、酒場あたりで穴の話しを聞いてくるから遅れるかもしれねえ」

僧侶「先に寝ててもいいからな?変な奴には関わるなよ?」

僧侶「あとはそうだな……嫌なことされたら殴ったりせずに逃げろ」


勇者「……うん、そうする」

僧侶「じゃあまた後でな、無理するなよ?」


ガチャ…パタン…


勇者「僧侶、僕の言ったこと忘れてるのかな……何か、嫌だ…」


>>>>

酒場

僧侶「化け物が出てくる穴って知らねえか?」

店主「化け物?うーん、あっ!そういや前に来た……」


ーー勇者「お風呂入ったけど僧侶いない。遅くなるって言ってたし……待ってよう」


僧侶「ならこの先の町は無事なのか、この辺りに出没しないのか?」

店主「いやこの辺りでの目撃情報はまだないよ、聞いた話しによると……」



ーー勇者「……何かちょっと変な気がする。頭の中が僧侶でいっぱいだ」



酔っ払い「オイお前、勇者サマのお供だろ?」

酔っ払い「なあ、もう抱いたのか?へへっ、なあ教えてくれよ」


僧侶「…………」

酔っ払い「おいっ、答えろよ!」グイッ

僧侶「………」

酔っ払い「無視してんじゃねえぞ腰巾着が…」


ーー勇者「僧侶は僕のことが好き?って聞こう」


店主「ち、ちょっとお客さん、止めて下さいよ……」

僧侶「……店主、勘定」

店主「あの、申し訳ありません」


僧侶「あんたが謝る事ねえよ、またな」ザッ


酔っ払い「なあ待てよ、俺にも抱かせてくれよお、金なら払うからさあ」

僧侶「はははっ!!分かった分かった…」

酔っ払い「おっ、話しが分かるじゃ…」


僧侶「お前、殺されてえんだろ?」ズッ

酔っ払い「は?ぶげゃ!!?」

僧侶「テメエみてえな屑は何処にでもいるんだなあッ!!」


ーー勇者「ちゃんと言えるかな……ちょっと練習しよう」


酔っ払い「ガッ…ぶへっ…がふっ…やめ…」ピクピク

僧侶「死んでも生き返らせてまた殴り殺してやる!!オレが飽きるまで何度でもな!!」



ーー勇者「僧侶、まだ来ない……早く話したいけど情報収集とかあるから仕方ない……」


>>>>

村の宿

勇者「おかえり」

僧侶「まだ起きてたのか……寝てて良いって言ったろ?」


勇者「何か分かった?」

僧侶「明日話す、疲れてるから寝たいんだ。悪いな」

勇者「……僕が話したいことがあるって言ったの忘れた?」

僧侶「!!」


勇者「僧侶は僕のこと嫌い?僕は僧侶のこと好きだよ?」

勇者「僧侶は僕のことどう思ってるの?それだけ知りたい……」


僧侶「………」

勇者「……寝ちゃったの?僧侶、おやすみなさい……」


僧侶「大事だよ」

勇者「え?」

僧侶「男か女か天使か知らねえけどさ、お前のことは大切に思ってる」

僧侶「ごめんな、散々偉そうなこと言いながら酒場で喧嘩しちまった……」


勇者「なんで?」

僧侶「お前を酷く侮辱した奴がいた、それだけだ」

勇者「大切だから怒ったの?」

僧侶「ああ、かなりやり過ぎて出禁になった……益々評判が悪くなっちまった」

勇者「評判なんてどうでもいい。でも、僧侶が痛くなるならもう止めて欲しい」

僧侶「!!」


僧侶「分かった……」



勇者「今じゃなくていい。僧侶の話し、いつか聞かせて?」

僧侶「ああ…いつか話す。約束だ」

勇者「うん、約束。僧侶、おやすみなさい」


僧侶「……おやすみ、勇者」

ねるまた明日


>>>>

オレ達は夜明けを待たず逃げるように村を後にした。

オレの軽率な行動の所為で、再び昨晩のような事態が起きるのを防ぐ為だ。


酒場で聞いた話しでは北の町付近で人ではない何かが目撃されたらしい。

化け物が出てくる穴についての情報は得られなかった。

もう少し栄えた街や都に着けば、もっと多くの情報を掴めるだろう。


にしても情報が少なすぎる……


穴が本当にあるなら何故王は場所を教えなかった?

王が何も知らねえってことはまずあり得ない、何か隠しているのか?

しかし何故隠す必要が?

化け物は実在していて被害も出ているはずだ。

森に現れた龍のような奴が多数いるとするなら、既に壊滅した所も……


勇者「僧侶」

僧侶「…………」ウーン


勇者「僧侶?」クイッ

僧侶「ん?」


勇者「昨日の夜からずっと考えてたことがある」

僧侶「何でも言ってくれ、昨日はちゃんと聞いてやれかなったからな……」

勇者「僕が大切だから怒ったってなに?僕は何もされてない」


僧侶「あー、何て言えばいいかな……」


勇者「……」ジー

僧侶「……そうだな……お前の中にオレはいるか?」


勇者「!!」

勇者「いた。昨日の夜、僧侶が帰ってくる前も僧侶でいっぱいだった」

僧侶「……オレの中にもお前はいる、いなくてもいるんだ」

僧侶「だからお前がいなくても、お前を侮…えーっと何て言えば……そうだな…」

 
僧侶「オレの中のお前を汚すようなことをされたら怒る、分かるか?」


勇者「それはちょっと分かる気がする」

僧侶「!!」


僧侶「(少しずつだが確実に変わってきてる。自分で考えて、何かを理解し始めてる)」

勇者「どうしたの?」

僧侶「いや、お前も随分変わったと思ってな」 

勇者「僕が?何に変わったの?」

僧侶「いや、そういうことじゃねえんだけど……まっ、今は気にすんな」ポンッ


勇者「……分かった」


>>>>

北の街

警備兵「待て、そこで止まれ」

僧侶「ん?何かあったのか?」


警備兵「いいから髪を上げて耳を見せろ。余計な動きはするなよ」

僧侶「はあ?ふざけてんのか?何で耳なんか…」

警備兵「早くしろ!!出来ないのであれば拘束するぞ!!」


僧侶「(ふざけてるわけじゃねえ、兵の数もやたら多い。何かあったのか……)」


勇者「僧侶、なにこれ?なんで耳?」クイッ

僧侶「分かんねえ……」

僧侶「取り敢えず黙って見せよう。この妙な検査の理由はその後だ」


勇者「うん」スッ

僧侶「……これでいいか?」スッ

警備兵「ふーっ…済まなかったな、二人共街へ入っていいぞ」

僧侶「何があったんだ?今の検査に何の意味がある?」

警備兵「入るならさっさと入れ」


僧侶「オレ達は王の命で旅をしてる者だ、これを見せれば分かると言われたんだが……」スッ


警備兵「書状と王家の紋章……お前達が勇者と僧侶か……」

僧侶「その顔だとやっぱり良い印象はないみてえだな」

警備兵「無慈悲な天使と不良僧侶、俺はそう聞いたよ」

僧侶「ははっ、オレのことは間違っちゃいねえが……」チラッ

勇者「?」

僧侶「勇者は赤ん坊みたいなもんなんだ、そんなに怖がらないでくれ……」


警備兵「…………」

勇者「なに?」

警備兵「いや、何でもない。悪いが俺の口からは言えない」

警備兵「詳しい話しは領主様から聞いてくれ。話しは通しておくから」

僧侶「……そうか、よろしく頼む。勇者、行こう」

勇者「うん」

ザッザッ…


警備兵「……まだ子供じゃないか」ポツリ


>>>>

屋敷

領主「お待たせした。おや、勇者様は?」

僧侶「宿に待たせてる」


領主「それは何故かな?」

僧侶「何か裏があるんじゃねえかと思ってな。汚え話しは聞かせたくねえんだ」

領主「!!……裏だと?何が言いたい」

僧侶「『オレの口からは言えない』なんて言われりゃあそう思うさ」

僧侶「あんたが喋らせないようにしてんじゃねえの?」


領主「……噂通り素行も口も悪い男だな。しかし馬鹿ではないようだ」



僧侶「そりゃどうも、じゃあ話してくれ」

領主「……エルフだ」

僧侶「エルフ?何だそりゃ?」

領主「男女共に素晴らしい美貌を持つ種族だ。人間ではないが極めて人間に近い」

僧侶「ふーん、エルフってのは耳に特徴があんのか?」

領主「ああ、エルフの耳は長く尖っていてな、確実に見分けるにはそれが手っ取り早い」


僧侶「だからあんな妙な検査をしてんのか、兵が多いのは何故だ?」


領主「多くのエルフが捕らえられ奴隷のように扱われている……」

領主「とある場所から逃げ出したエルフがこの街の人間を襲っているのだ」

僧侶「とある場所ってのはこの街じゃねえの?」

領主「それは断じて違う。私は尻拭いをさせられているだけだ」

僧侶「尻拭い……」

僧侶「ってことはあんたより立場が上の人間……都住みの貴族か?」


領主「悪いがこれ以上は話せない。まだ死にたくはないからな」


僧侶「その割には正直に話したじゃねえか」

領主「私はさっさとこの問題を片付けたい。それだけだ」

僧侶「その問題はオレ達が解決してもいいのか?」

領主「出来れば捕らえろとのことだが、街の人々の不安の種を排除出来ればそれでいい」

僧侶「へー、じゃあ勝手にさせてもらう……あ、エルフってのは喋れんのか?」


領主「ああ、学習能力が高いらしく我々の言葉も問題なく話せるらしい」


僧侶「他に何か知ってることは?」

領主「森に潜んでいるようだが行かない方が良いだろう」

領主「どうやら弓が大の得意らしくてな、多くの兵士を失ったよ」

領主「それに言葉が通じるからといって話せるとは限らない」

僧侶「……よほど恨んでるみたいだな、人間のことを」

領主「それはそうだろう、妻や娘を奪われたのだからな。人間と言うだけで許せないのだ」


領主「まったく…面倒なことをしてくれたものだよ」


僧侶「色々教えてくれて礼を言う、勇者を待たせているのでそろそろ失礼する」

僧侶「……無礼な振る舞い、本当に済まなかった」

領主「そんな口の利き方が出来るのなら最初からそうした方が良い。印象が悪くなる一方だ」

僧侶「……礼儀正しくしてりゃあ真っ当な人間だと?そんな考えは間違ってる」

僧侶「優しいふり賢いふり、そんな奴等ばっかりだろ?顔色窺ったりさ……」

僧侶「だったら最初から腹の内を見せた方が楽だろ?オレと話した時、あんたはどうだった?」

領主「!!」

僧侶「じゃあな」

ガチャ…パタン…


領主「……………」


>>>>>

僧侶「あー、どうすっかなぁ」

エルフってのがどうやってこの世界に現れたのか……

それを直接聞くことが出来れば世界で何が起きてるのか多少分かる。

他にも色々と聞きてえけど、さっきの話しを聞く限りかなり難しそうだ。

領主の言葉を鵜呑みにするわけにもいかねえし、出来ればエルフってのに直接聞きてえ。

交渉や駆け引きなんて勇者にはまだ無理だ。

こうなったら一人で行くしかねえか……


勇者「……僧侶」クイッ

僧侶「勇者!!?何で?部屋で待ってろって言っただろ?」


勇者「遅いから迎えに来た」

勇者「あと、ずっと一人で待ってるのはなんか嫌だ」

僧侶「!!」

僧侶「……そうか、そうだよな。迎えに来てくれてありがとな」ポンッ

勇者「怒らないの?」

僧侶「怒るもんか、ほら行くぞ」

勇者「うん」


僧侶「つーか、よく道が分かったな?」

勇者「人に聞いたから分かった」

僧侶「はあ!?」

勇者「……ダメだった?」

僧侶「いや全然ダメじゃねえ、びっくりしただけだ……」

勇者「なんで?僕は僧侶の真似しただけだよ?」


僧侶「オレの?」

勇者「うん、どうやって行けばいい?って」

僧侶「(思ったよりオレのこと見てんだな、つーか成長したなぁ……)」

勇者「大丈夫?また喧嘩した?痛いの?」

僧侶「してねえよ、大丈夫だ」

勇者「……良かった」


僧侶「(いつまでも子供扱いしてらんねえな…エルフのこと、きちんと話すか……)」

>>>>>

北の街 宿

僧侶「……意味分かったか?」

勇者「何となく分かる、凄く嫌だ。なんでそんなことするの?」

僧侶「人には欲ってもんがある。心…目には見えない所にある汚い部分だ」

勇者「それは僧侶にもある?」

僧侶「勿論あるさ、人間なら誰にだってある」

勇者「僧侶は僕に酷いことしたい?」


僧侶「しない、例えしたくなってもしない」


勇者「なんで?」

僧侶「オレを慕ってくれる奴等がいる。あいつらに背くようなことはしたくない」

勇者「誰?僕の他にも大切がいるの?」

僧侶「ああ、沢山いる。身寄りのない……ひとりぼっちの子供達だ」

僧侶「お前を傷付けるってことはな、あいつらを傷付けることになるんだ」

僧侶「何としても守りたい大切な奴等だ……」

勇者「なんで大切なのに置いてきたの?」

僧侶「……………」


勇者「僧侶、僕は嫌なことでもいいから僧侶のことを知りたい、だから話して欲しい」


僧侶「簡単な話し、旅に出なけりゃ子供達を殺すって言われたのさ」

僧侶「はははっ、ふざけた話だろ?そんなこと言われりゃやるしかねえもんな」

勇者「…………」ギリッ

僧侶「勇者?」

勇者「誰に言われたの?」

僧侶「……それ知ってどうする」

勇者「僧侶にどうして欲しいか聞く」


僧侶「オレが殺せって言ったらどうする?殺すのか?」


勇者「うん、僧侶が望むことだから」

僧侶「そうか……」

僧侶「でも駄目だ、オレはお前にそんなことをして欲しくねえからな」

勇者「……なら、僕はどうしたらいいの?」


僧侶「!!」


勇者「僧侶が痛そうな顔してるのに僕は何も出来ないの?」

勇者「何をしたら僧侶は痛くなくなるの?僕には治せないの?」


僧侶「そんな顔すんな、嫌な話し聞かせて悪かったな」ポンッ


勇者「僧侶は悪くないっ!嫌だ!凄く嫌だ!!僕まで痛くなる!!」


僧侶「勇者…オレなら大丈夫だ」

勇者「大丈夫なわけない!!そんなに痛そうな顔してるのに!!」

僧侶「いいんだ…だから泣くな」ギュッ

勇者「よくない……僧侶は?僧侶は嫌じゃないの?」

僧侶「お前にそんな顔させたオレが嫌だな。まだ話すべきじゃなかった……」


僧侶「大丈夫か?」

勇者「……うん、もう少しこうしてれば治る」ギュッ

僧侶「そうか……」

勇者「明日、エルフのいる森に行くの?」

僧侶「ああ、そのつもりだ」

勇者「僕も行く」

僧侶「オレは一人で行きたいって言ったろ?」

勇者「違う、僕は僕が行きたいから行くだけ」

僧侶「……分かった、自分で決めたことならいい。明日は一緒に行こう」

勇者「うん、一緒に行く」ギュッ


僧侶「……オレはお前に守ってもらってばかりだな……」ポツリ

寝るまた明日高田

寝るまた明日書く思ったより長くなってきた


>>>>

僧侶「テント欲しいんだけど置いてるか?」

道具屋「ええ、ありますよ。少々お待ちください」

僧侶「おっ、あるってよ。良かったな?」

勇者「うん」

道具屋「お待たせしました、お会計こちらになります」

僧侶「結構高えな……じゃあこれで」

道具屋「はい、お買い上げありがとうございました」

道具屋「またのお越しをお待ちしております」


僧侶「うっし、じゃあ行くか」

勇者「早く行きたい、楽しみ」

僧侶「……これから何するか分かってるか?」

勇者「森に行ってエルフを黙らせる」

僧侶「いや、それは最悪の場合だからな?」

勇者「知ってる、僧侶がエルフにお願いしてもダメだったら静かにさせる」

僧侶「……お願いしてる間はオレに痛いことがあっても我慢するのを忘れるな」


勇者「我慢出来なかったら動いていい?」

僧侶「ああ、それはお前が決めていい。それに関して怒ったりはしない」

勇者「……本当?」

僧侶「ああ本当だ、オレだって死にたくねえしな……」

僧侶「なあ勇者、情けねえけど戦闘になればオレは足手まといだ。何もしてやれねえ」

僧侶「今までもずっとお前に頼りきりだ……ごめんな…」


勇者「僧侶は傷を治せる」

僧侶「?」

勇者「僕は戦えるけど僧侶を治せない、僧侶にしか出来ない」

勇者「僧侶が僧侶を治してるの見ると何か嫌な気分になる……」

勇者「それは多分、僧侶が言ったのと一緒の気分」ウン

僧侶「…………」

勇者「違った?」


僧侶「……違わない。そうだな、そうかもな…」


勇者「時々そういう顔する」

僧侶「ん?顔がどうした?」

勇者「違う所見てる目をして、ちょっとだけ笑う顔」

僧侶「……お前の成長には本当に驚かされる、やっぱり子供の成長は早いもんだな…」

勇者「?」

僧侶「ははっ、まだ分からねえならそれでいい。いつか分かる」ポンッ



勇者「なんでそれするの?頭に手を置くやつ」

僧侶「あぁ…子供達によくやってたんだ、クセみてえなもんだな……」

勇者「僕と子供達と……」

僧侶「ん?」

勇者「……やっぱりなんでもない」

僧侶「勇者」

勇者「……なに?」


僧侶「言いたいこと聞きたいことがあったら聞いた方がいい」

僧侶「自分で考えるのは大事だ、でも考え過ぎるのは良くねえ」

勇者「!!」

僧侶「お前が聞きたい時に言ってくれ、ちゃんと答えるから」

勇者「……うん、ありがとう」

僧侶「(大丈夫、お前が抱えてるもんは誰もが持ってる当たり前のもんだ……)」


ザッザッ…


警備兵「……ん?待て、何処に行くつもりだ」

僧侶「オレ達は今から森にいる化け物を殺しに行く、領主にも許可は取ってある」


警備兵「お前、その子を森に連れて行くつもりなのか……」

僧侶「何言ってんだあんた?そんなの当たり前だろ?」

警備兵「……何だと?」

僧侶「エルフだかなんだか知らねえが、人間のオレが化け物に勝てると思うか?」

僧侶「てめえら兵士が束になっても勝てねえような化け物相手に?無理に決まってんだろ」

警備兵「………だな」

バキッ!

僧侶「…ってえな、何しやがる」


警備兵「屑だな、お前…」

僧侶「あ?」

警備兵「こんな子供に殺しをさせるなんて不良なんて言葉じゃ足りない……」

警備兵「お前は男して人間として終わってる……人間の屑だ」

僧侶「へー、言うじゃねえか……」


僧侶「じゃあどうする?あんたが変わりに行ってくれんのかよ?」


警備兵「屑だな、お前…」

僧侶「あ?」

警備兵「こんな子供に殺しをさせるなんて不良なんて言葉じゃ足りない……」

警備兵「お前は男としても人間としても終わってる……人間の屑だ」

僧侶「へー、言うじゃねえか……」


僧侶「じゃあどうする?あんたが変わりに行ってくれんのかよ?」


警備兵「それは…」

僧侶「何も出来ねえだろうが!!!」

警備兵「!!」

僧侶「無慈悲な天使だの何だのと好き勝手に言っておきながら子供だから可哀相だってか!?」

僧侶「ふざけんのも大概にしろ……」

僧侶「子供に殺しをさせたくない?だったらてめえらが行って殺してこい!!」

僧侶「オレを屑って言ったよな!?ならてめえら大人も揃い揃って屑ばっかりだ!!」

僧侶「こんな子供に頼らなきゃ何も出来ねえんだからなあッ!!!」


警備兵達『………………』


僧侶「……この子が戦う意味を少しでも考えたことがあるか?」

僧侶「なら今からでもいい、この子のことを考えてくれ……」

警備兵「!!」

僧侶「さあ勇者、行こう」

勇者「……うん」


ザッザッザッ…


勇者「大丈夫?」

僧侶「思い切り殴りやがって…あー、いてえ…」

勇者「さっきのはなに?なんであんな嘘吐いたの?」


僧侶「エルフと話し合いたいなんて言えねえだろ?兵士は何人も殺されてんだから……」

僧侶「それに、あながち嘘でもねえさ…そうなる可能性もあるんだ」

僧侶「あー、でも殴ってくれてすっきりした……ああいう奴がいてくれて良かった」

勇者「僕は僧侶が殴られたの嫌だった」

僧侶「でも我慢出来たじゃねえか、ありがとな」

勇者「よくない、あれが矢だったら僧侶死んでた。僧侶も僕のこと考えて欲しい」


僧侶「!!」

僧侶「……そうだな、悪かった」

勇者「ああいうことするなら次から言って」

僧侶「分かった、約束する」
 
勇者「ならいい」

僧侶「(ん?これは怒ってんのか?そういや昨日から少し表情が…へえ……)」

勇者「僧侶、なんで笑ってるの」

僧侶「あー、いや…ごめんなさい」

勇者「……………」

僧侶「(これからは気を付けねえとな。でもまあ、真っ直ぐ成長してんなら良いか)」


>>122 ×僧侶「じゃあどうする?あんたが変わりに行ってくれんのかよ?」
○僧侶「じゃあどうする?あんたが代わりに行ってくれんのかよ?」
他にも誤字脱字あったらごめん


>>>>

東の森林

僧侶「……どうだ?」

勇者「見られてる感じはしない」

僧侶「そうか、ならもう少し進もう」

勇者「分かった」


ザッザッザッ…


僧侶「結構奥まで来たけどどうだ?」

勇者「……見てる」

僧侶「よし、じゃあここにテント張るぞ」

僧侶「幸いいきなり矢で射られることはなかったし、出方を見るか」

勇者「ねえ、早く入りたい」

僧侶「分かった分かった、少し待ってろ」

ガサゴソ…カンッカンッ…


勇者「やっぱりこれが一番いい」ウン

僧侶「テントか?」

勇者「うん、うるさくないから好き」

僧侶「うるさくない?鳥の鳴き声とか気にならねえのか?」

勇者「人の声聞くよりずっといい」

僧侶「……勇者は人間が嫌いか?」


勇者「あんまり好きじゃないと思う」

僧侶「……なあ勇者、お前はその…人間なのか?」

勇者「目が覚めた時に天使だって言われたけど僕には分かんない」

勇者「僕はこの体で生きてこの体で戦うだけ」

僧侶「……待て、戦うだけって何だ?それは誰に決められた?」

勇者「分かんない、最初からこうだから」


僧侶「(勇者自身が分からないなら知りようがねえ……)」

僧侶「(今でこそ違うが始めの頃は睡眠も食事も全く取らなかった)」

僧侶「(痛みも感じない、それ以前に当初はあるべき感情すら……)」

勇者「……僧侶、なにも分からなくてごめんなさい」

僧侶「!!」

僧侶「謝らなくていい、オレはお前が何者でも関係ない。少し気にしすぎてた」


勇者「じゃあなんで聞いたの?」

僧侶「……分からないのが怖かったんだ、知らないってことに怯えて囚われてた」

僧侶「だから知りたかったんだ。でも、もういい」

僧侶「お前が何者でも構わない、お前に対する気持ちは何一つ変わらねえ」

僧侶「勇者、妙なこと聞いて悪かった。済まない」


勇者「ううん、いい…嬉しかった……」


僧侶「…………」

勇者「どうしたの?」

僧侶「あ、いや…何でもない」

僧侶「(確かに笑ったよな?しかも嬉しかったなんて言ったの初めてじゃねえか?)」

勇者「……僧侶…僧侶?」クイッ

勇者「ああ悪い…何だ?動きがあったのか?」

勇者「うん、エルフが来るかもしれない。気配もさっきより強く感じる」

僧侶「そうか……どんな奴かも分からねえんだ、気合入れていかねえと……」


僧侶「…………」

勇者「どうしたの?」

僧侶「あ、いや…何でもない」

僧侶「(確かに笑ったよな?しかも嬉しかったなんて言ったの初めてじゃねえか?)」

勇者「……僧侶…僧侶?」クイッ

僧侶「ああ悪い…何だ?動きがあったのか?」

勇者「うん、エルフが来るかもしれない。気配もさっきより強く感じる」

僧侶「そうか……どんな奴かも分からねえんだ、気合入れていかねえと……」


僧侶「オレから出る、お前はまだ出るな」

勇者「……分かった」

ガサッ…

僧侶「そこにいるんだろ!オレはあんたと話しがしたい!」

僧侶「世界に何が起きているのか!エルフに何があったのか知りたい!」

僧侶「人間はあんた達に何をした!!」


ガサッ…


エルフ「動くな……」ギギッ

勇者「(こいつがエルフか、領主の言った通りだな。薄汚い奴等が執心するのも分かる)」


エルフ「その中にいるのは貴様の子か?」

僧侶「違う」

ヒュッ!

僧侶「ぐっ…気が済んだか?」

勇者「…………」

エルフ「黙れ、我々が受けた痛みはそんなものではない」

エルフ「我々が貴様等人間に何をされたか知りたいのなら、その身で知るがい」ギギッ


勇者「僧

僧侶「来るんじゃねえ!!」

勇者「!!」ビクッ

僧侶「はははっ、そうか……あんた人間が怖いんだろ?」

僧侶「殺すならちまちま殺さねえで都にでも行けばいいじゃねえか!!」

エルフ「黙れ」

僧侶「あんたがこんな森に隠れてる間に人間共はエルフ相手に好き勝手やってるぜ?」

僧侶「阿呆みてえに腰振って、馬鹿みてえに笑ってるに違いねえ」

>>137最後僧侶だよね?


エルフ「黙れッ!!」

僧侶「ってえな……おい、その自慢の弓で何人殺した!!なあ!教えてくれよ!?」

僧侶「そいつらにも帰る家があって!!子供や恋人がいたかもしれねえんだ!!」

エルフ「っ…人間が我々にした

僧侶「うるせえ!言い訳すんな!!」

僧侶「人間がやったことは絶対に消えねえだろうが、あんたがやったことも絶対に消えねえ!!」

僧侶「自分が奪った命から目を逸らすな!!このままじゃ誰も救えねえぞ!?それが分からねえのか!!」


僧侶「いい加減目ぇ覚ませよ……」

僧侶「あんた顔色悪りぃぞ?大丈夫だ、オレ達は敵じゃ…な…」フラッ

バタッ…

勇者「僧侶?僧侶!!」

エルフ「……無駄だ、鏃には毒を塗ってある」

勇者「……うるさい」

エルフ「!!」ゾクッ

勇者「殺そうと思えば殺せた、死にたくないなら言え」

勇者「死にたいなら死にたいって言え、殺してやる」


エルフ「……貴様は一体…」

勇者「話したくないし声も聞きたくない」

勇者「死にたいの?死にたくないの?」

エルフ「…………殺せ」

勇者「分かった」ダッ

僧侶「…げほっ…ぐっ…うぅっ…」スッ

シュゥゥゥ…

勇者「!!」ピタッ

エルフ「なっ!!」


僧侶「ふーっ、あっぶねえ……何とかなったな……」


勇者「………」

ゴンッ!

僧侶「いってえな!!何で殴るんだよ!?」

勇者「この大馬鹿野郎!!!何でもクソもあるか!!!」

僧侶「…あっ、それ前にオレが言った……」

勇者「…………」グスッ

エルフ「おい、僧侶とか言ったな、貴様は何だ?」

僧侶「はあ?ただの人間だろ?つーかオレと勇者に謝れ」

エルフ「………済まなかった」

勇者「僕は絶対に許さない、テントに戻る。話すなら二人で話せばいい」

>>137の最後
僧侶「(こいつがエルフか、領主の言った通りだな。薄汚い奴等が執心するのも分かる)」
>>140 ごめん間違えた


パチパチッ…

僧侶「界が繋がった?」

エルフ「そうだ、人界に吸い込まれるように全ての界が繋がった」

僧侶「それが穴か……」

エルフ「貴様は何の為に旅を?」

僧侶「教会で孤児の面倒見てんだけどよ、子供達を人質に取られたんだ」

エルフ「……そうか」

僧侶「エルフ達は何故?むざむざ捕らえられるとは思えねえ」


エルフ「同胞が裏切った。北の街の領主がそうだ」

僧侶「……なるほど、そういうことか。だから短期間で捕らえれたわけか……」

エルフ「奴が裏切らなければこうはならなかった」

僧侶「……保身か、エルフも人間もそこは変わらねえな」

エルフ「貴様は本当に人間か?」

僧侶「人間だよ、耳見るか?」スッ

エルフ「そうじゃない、あの毒矢を受けて助かった人間は貴様が初めてだ」


僧侶「体質とかじゃねえのか?」

エルフ「それはあり得ない、何か心当たりはないのか?内側から別の力を感じる」

僧侶「……龍を生き返らせた後に龍が光った」

エルフ「!!」

エルフ「生き返らせただと!?」

僧侶「……ああ」

エルフ「命を操るなど神しか許されぬ力、人間は誰でもその力を使えるのか?」


僧侶「………オレが知る限り、それを出来るのはオレだけだ」


エルフ「龍が光ったと言ったな」

僧侶「ああ、確かに光った」

エルフ「なら貴様は選ばれたのだ、おそらく他の龍にも伝わったはず」

僧侶「選ばれた?何に?」

エルフ「……それは分からない、だが貴様は選ばれた」

勇者「!!」


僧侶「あんまり考えたくねえな……龍ってどんくらいいるんだ?」


エルフ「炎龍、水龍、風龍、土龍の四体だ」

僧侶「火吐いてたから炎龍か…それよりあんたはどうする?領主を殺すのか?」

エルフ「ああ、裏切り者は許しては置けない」

僧侶「なら一緒に来い、話しを聞けば囚われたエルフを救えるかもしれねえ」


勇者「僕は嫌だ!!エルフなんかと一緒にいたくない!!」


僧侶「そうか、なら来なくてもいい」

勇者「………えっ?」

僧侶「今はお前の我が儘に振り回されてる暇はねえ、お前が来ないならそれでもいい」

寝るまた明日書く


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パチパチッ…

エルフ「いいのか、あんなことを言って?随分慕っているようだったが……」

僧侶「いいんだよ、いつまでも子供扱いしてらんねえからな」

僧侶「子供の成長は早い、今のあいつなら自分で答えを見つけることが出来るはずだ」

エルフ「……本当にあの子の父ではないのか?」

僧侶「違うって言ったろ?あの場で嘘なんか吐くかよ」

エルフ「……そうか、子を想う親の顔をしていたものだからな……」


僧侶「親の顔ね……旅を始めてまだ短いけど色々あったからな」

僧侶「あいつに教えられたことも沢山ある……」

エルフ「……子供とはそういうものだ」

エルフ「勇者と言っていたな、彼女は一体何者だ?」

僧侶「彼女?あんたにはそう見えるのか?」

エルフ「私にはそう見えたが……違うのか?」

僧侶「あー、なんつーか色々複雑でな。オレには分かんねえ」


エルフ「共に旅をしているのだろう?気にはならないのか?」

僧侶「そこら辺はもういいんだ。あいつはあいつだ」

僧侶「女でも男でも天使でもオレは気にしない。まっ、いつか分かんだろ」

エルフ「天使?」

僧侶「いや、深い意味はねえんだ。旅をする前にそう聞かされただけで」

エルフ「底知れぬ力を持っているのは対峙した時に分かったが……なるほど…」


僧侶「なるほどって何が?」

エルフ「感じたことのない未知の力、即ちこの界には存在しない力ということだ」

エルフ「天使というのもあながち間違ってはいないのかもしれん」

僧侶「へー、あんたそういうのに詳しいんだな。龍のこととか知ってたし」

エルフ「界が違えば知識の違いもあって当然だ」

僧侶「それもそうか……こことは異なる界か…不思議なもんだな」

エルフ「不思議なのは貴様の方だ、殺そうとした相手と焚き火をしながら話すとは…」


僧侶「けっ、二回も打ちやがって……すっげー痛かったんだぞ?」

エルフ「……本当に済まなかった」

僧侶「まあいいさ、こうして落ち着いて話せるなんて思わなかった」

僧侶「何よりあんたが冷静になってくれて助かった。お陰で色々分かったしな」

エルフ「……私の言葉を信じるのか?」

僧侶「あんたはどうなんだよ?オレを疑ってんのか?」

エルフ「いや、矢で射られてまで私を騙すとは思えない」


エルフ「一歩間違えれば毒で死んでいた。貴様が助かったのは偶然に過ぎない」

エルフ「文字通り命がけ、貴様の言葉に嘘はないと信じている」

僧侶「オレだってそうさ、妻と娘を奪われた男がこの場で嘘を吐くとは思えねえ」

僧侶「まったく、人間ってのは本当に罪深い生き物だよなあ?」

僧侶「平気で奪ったり殺したり、救いようのねえ馬鹿が多すぎるんだ……」

エルフ「……僧侶、貴様は人間が憎いのか?」

僧侶「憎くないとは言えねえな、短期間で色々と見せ付けられた」

僧侶「あいつにならず者を皆殺しにしろって依頼した馬鹿もいたからなぁ」


エルフ「!!あの子にか?」

僧侶「ああ、しかもオレがいないのを見計らってだぜ?どいつもこいつも……」

エルフ「!!?」ゾクッ

エルフ「(何だ今の気配は…まるで世界を憎んでいるようだ……まさか…)」

僧侶「ん?どうかしたのか?」

エルフ「……僧侶、龍と出逢ってから何か変わったことはあるか?」

僧侶「別にねえよ?それより明日どうするか考えようぜ?」

エルフ「……あ、ああ、そうだな」


>>>>

ガサッ…

僧侶「ん、もう寝てんのか?おやすみ、勇者」ゴロン

勇者「………」

僧侶「……明日、エルフと一緒に街へ行く。お前は好きにしろ」

勇者「…………」

僧侶「(ふて腐れるぐらいにはなったか、そこから先はお前が答えを…!?)」


ドクン…ドクン…ドクンッ!ドクンッ!


僧侶「…っ、はぁ…はぁっ…」

勇者「……僧侶?」

僧侶「っ、あれ?何だよ、本当は起きてたのか?」

勇者「…………違う、本当に寝てる」

僧侶「ははっ、そうか、おやすみ勇者」

勇者「……うん、おやすみなさい」

僧侶「(何なんだ今の……これ以上面倒が起きるのは御免だぜ)」


『……僧侶、龍と出逢ってから何か変わったことはあるか?』


僧侶「…………」

『死んでも生き返らせてまた殴り殺してやる!!オレが飽きるまで何度でもな!!」』

僧侶「(……違う、あれはオレの意思でやったことだ。龍なんざ関係ねえ……)」


>>>>

東の森林


エルフ「ありきたりな方法だが大丈夫なのか?」

僧侶「大丈夫だ、街を出る時に散々悪態ついたからな」

僧侶「それにエルフを殺すって息巻いて来たんだぜ?あんたと手を組んだなんて思わねえだろ」

勇者「…………」

僧侶「場合によっちゃ何発か殴られるかもしれねえ、それだけは覚悟しといてくれ」

エルフ「構わない、それで同胞を救えるのなら」

僧侶「その為には領主の協力が必要だ、頼むから抑えてくれよ?」


エルフ「分かっている、奴を裁くのは同胞を救った後だ……」

僧侶「勇者、お前はどうする?」

勇者「まだ分からない、でもエルフに聞きたいことがある」

エルフ「……何だ」

勇者「エルフは何の為に戦うの?」

エルフ「今も苦しんでいる同胞の為、何より愛する妻と娘の為だ」


勇者「愛するって大切ってこと?」

エルフ「そうだ、誰よりも大切な存在だ」

勇者「じゃあなんで?なんで僕の大切を傷付けたの?」

エルフ「!!『大切』とは僧侶のことか?」

勇者「うん。何で無抵抗な僧侶を殺そうとしたの?答えて」

エルフ「……それは…」


勇者「じゃあ僕がエルフの大切を目の前で傷付けたらどうする?」


エルフ「!!?」

勇者「僕はそれと同じことをされたんだよ!?凄く嫌だった!!分かる!?」

エルフ「……ッ!!」

エルフ「……ああ分かる、分かるとも……」

勇者「もうしないって約束するなら特別に許すかもしれない」

エルフ「勇者、約束する。この約束は決して破らない」

勇者「……僧侶、決めた」


僧侶「何をだ?」

勇者「僕も行く、大切を傷付けられるのは僕だって嫌だ……」

勇者「もし僧侶が違う場所で痛い思いをしてたら僕は我慢出来ない」

勇者「エルフもこんな気持ちなんでしょ?だから僕も行く」

僧侶「そうか、なら一緒に行こう。ほら、もう泣くな」ポンッ

勇者「……泣いてない」ギュッ

エルフ「……勇者、ありがとう」

勇者「別にいい、僕は僕の大切を守る為に行くだけ」

僧侶「(自分の痛みを通してエルフの痛みを知ったのか、初めて他人の痛みを……)」


僧侶「(それにしても守る、か。あの頃からしたら考えられねえ言葉だな)」


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北の街

僧侶「よお、出来れば捕獲した方がいいって言うから捕まえて来たぜ」

エルフ「…………」

警備兵「!!」

僧侶「耳の確認はいらねえだろ?さっさと通してくれよ」

警備兵「それは出来ない、まずはこちらに引き渡してくれ」

僧侶「何だよ、手柄を横取りするつもりじゃねえだろうな?」

警備兵「……それは違う、後できちんと領主様に報告する」


僧侶「そんなこと言って拷問でもする気じゃねえの?」

僧侶「聞いた話しじゃ仲間が随分殺されたらしいじゃねえか」

警備兵「!!」

僧侶「分かり易い奴等だ……子供に殺しをさせるなとか言ってたのになあ?」

勇者「………」

警備兵「っ、黙れ。それとこれとは話しが別だ。そのエルフに何人殺されたと

僧侶「分かった分かった…」スッ


警備兵「何だ…その手は?」


僧侶「いいから剣寄越せ、そしたらこいつを渡してやる」

エルフ「…………」

警備兵「……良いだろう」スッ

僧侶「ありがとな、じゃあ遠慮なく」クルッ


グサッ!


エルフ「うぐっ…」

警備兵「お前、何を!?」

僧侶「死体でいいならくれてやる、手柄にならねえならエルフなんざいらねえ」


警備兵「く、屑がっ……」

僧侶「ほら、剣返すよ。欲しいならさっさと持ってけよ」

エルフ「…ぐっ…うぅっ…」ガクンッ

警備兵「……もう行け、お前の顔は二度と見たくない」

僧侶「そうかい、じゃあエルフは貰ってくぜ?よっこいしょ…」グイッ

シュゥゥゥ…

僧侶「悪い、これしかなかった」ボソッ

エルフ「……いや、これで良かった…手を汚させて済まない…」


僧侶「勇者、行こう」

勇者「……うん(僧侶、痛い顔してる…)」


ザッザッザ…


警備兵「待て!!」

僧侶「(チッ、勘付かれたか……)」

警備兵「勇者、君はこんな奴と一緒に旅をして平気なのか?こんな悪党と…」

僧侶「!!」

勇者「全然平気、僕はなんでこんなことしたのか分かるから」ウン


勇者「あと、この前殴ってくれて良かったって言ってた。ああいう奴がいて良かったって」

警備兵「どういうことだ?」

警備兵「!!まさかお前、あの時わざとあんなことを…」

僧侶「勇者、その辺にしとけ。オレはさっさとこの死体とおさらばしてえんだ」

勇者「………」コクン


ザッザッザ…


警備兵「僧侶!!お前は俺達に何か伝えたかったんじゃないのか!?」

僧侶「買い被りだ、オレはあんたの言う通りの屑だよ」

警備兵「………………」


>>>>

僧侶「さて行くか、しばらくは背中で大人しくしててくれよ?」

エルフ「ああ、悪いが頼む……」

僧侶「つーか思ったり重いな、見た感じ細身なのに……」

勇者「僕がおぶろうか?」

僧侶「いやいや、お前がこんなでかい奴おぶったら怪しまれるだろ?」

勇者「じゃあ引きずればいい」

僧侶「……それはそれで危ないからダメだ」


勇者「そっか、分かった」

エルフ「ふふっ、仲が良いな。まるで親子のようだ」

勇者「僕と僧侶は仲よし?」

エルフ「ああ、私にはそう見えるよ」

僧侶「話すのはいいけど声抑えろよ?」

エルフ「しかし凄まじい力だ……」

エルフ「傷を塞ぐならまだ分かるが失った血液まで補給されている」


エルフ「その力があれば医師になれたのではないか?」

僧侶「行き過ぎた力だ、昔は色々と面倒な出来事に巻き込まれたりしたもんだ」

エルフ「……そうか…」

勇者「僧侶、そろそろ屋敷に着く。僕はどうしたらいい?」

僧侶「お前に任せる、お前が思うように動いていい」

勇者「!!」

勇者「分かった、頑張る」


僧侶「うっし、こっからが本番だ、気合入れて行くぞ」


>>>>

屋敷

領主「勇者様、お目にかかれて光栄です」

勇者「そんなのはいい、僕達はエルフを捕まえたから来た」

領主「!!?」

僧侶「ほら、お望みのエルフだ。生憎死んでるけどな」

ドサッ…

領主「!!ご苦労だった……」

領主「まさか二日と待たず捕らえるとは、君には驚かされたよ」


僧侶「単刀直入に訊く、あんた……人間が憎くはないか?」


領主「何を馬鹿なことを…」

僧侶「いいから答えろ、あんたがエルフだってのはもう分かってんだ」

領主「っ!?」

僧侶「身を隠すには都合の良い街だよな?栄えても廃れてもねえ、実にいい具合だ」

僧侶「で、仲間を売って得た椅子の座り心地はどうだ?」

僧侶「エルフでありながら醜い人間のふりをする気分は?」

僧侶「……答えろよ」

領主「……仕方ないだろう?家族の命が掛かっていたのだ。家族を守って何が悪い…」


エルフ「……他の家族を犠牲にしてもか?」ムクリ

エルフ「友を裏切ってでも得たかったのがその姿か?情けない……」

領主「!!」

エルフ「同胞の居場所を言え、裁くのはその後だ。裁きは同胞と共に下す」

領主「……裏切ってまで得た平穏を手放せと?無理だ」

領主「人間に何をされているか知らないわけではあるまい?あの地獄に戻りたいのか?」

エルフ「勿論知っている。この身で味わった屈辱は忘れはしない」

領主「なら止せ、悪いようには


エルフ「だがな……家族を取り戻す為ならば地獄だろうが構わない」


エルフ「貴様の正体を暴露するつもりはない、私は同胞を救えるならそれでいい」

領主「……断る」

勇者「ねえ、家族を殺されたら嫌?」

僧侶「(勇者?一体何を……)」

領主「……何を言いたい」

勇者「教えてくれないなら大切な家族を殺すぞ?あんたは殺さないけどな」

領主「!!」ゾクッ

勇者「あんたがやってるのはそれと同じだ、さっさと教えろ」

勇者「それとも苦しみながら死んでいく家族を見たいか」


領主「…ぐっ…悪魔め……」

僧侶「どっちが悪魔だ馬鹿野郎、てめえが何やったか忘れてんのか?」

僧侶「だとしたら救いようのねえ屑だな。あ、言っとくが勇者は容赦しねえぞ?」

僧侶「オレの言葉なんざ聞きやしないからな?」

領主「…私は…私には無理だ……」

僧侶「今も犯されてる女達、虐げられ殺される男達。これがあんたの創ったエルフの未来だ」

僧侶「団結して戦えばまだ目はあったはずだ。終わらせたのはお前なんだよ」


領主「………」ガクンッ

僧侶「今からでも遅くねえ、まだ救える可能性はある」

僧侶「オレ達を……人間を信じろとは言わねえ、目の前の同胞を信じろ」

領主「……同胞を…」

エルフ「……貴様は私を裏切ったが私は裏切らない。友を同胞を裏切らない」

エルフ「恐れるな、協力してくれれば必ず成功する」

エルフ「共に戦うのなら私の手を取ってくれ……友よ」スッ

領主「…うっ…うぅ……私を友と、まだそう言ってくれるのか……」

エルフ「過ちは正さねばならない、違うか?」


領主「…………ああ、そうだな、その通りだ…」ガシッ


>>>>

北の街 宿


僧侶「あー本当に疲れた。もう夜だぜ?どんだけ話したんだよ……」ボフッ

勇者「今までで一番かもしれない」

僧侶「だよなぁ……エルフは屋敷に残るってきかねえしさあ、罠だったらどーすんだ馬鹿野郎…」

勇者「心配なの?」

僧侶「まあな、やっぱり同族の繋がりが強えのか?これも界の違いってやつかもな……」

勇者「僕と僧侶は繋がりある?」

僧侶「……お前はどう思うんだ?」


勇者「僕は……あると思いたい」

僧侶「ならあるさ、相手を思い続ける限り繋がりは無くならねえよ」

勇者「そうなの?」

僧侶「オレは……そう思いたい」

勇者「僕の真似?」


僧侶「ははっ、お前も屋敷でオレの真似したじゃねえか」


勇者「分かったの?」

僧侶「当たり前だろ?似合わねえ台詞言いやがって、まったく……」

勇者「だっていつも僧侶ばっかり嫌われる、だったら僕も一緒でいい」

僧侶「……そうか、ありがとな」

勇者「僕は僧侶を愛してるの?」

僧侶「………あー、愛してると大切は別だぞ?」


勇者「愛すると大切どっちが強い?」

僧侶「愛じゃねえかな」

勇者「じゃあ愛してる」

僧侶「じゃあって何だよ……まあいいけどさ」

勇者「嬉しくない?」

僧侶「いや、んなことねえけど分かってねえだろ?」


勇者「なにを?」

僧侶「愛がどういうもんか分かんねえだろ?」

勇者「じゃあ僧侶は愛が分かる?説明出来る?」

僧侶「……出来ねえな」

勇者「じゃあ問題ない、僕は僧侶を愛してる」ウン

僧侶「はぁ…愛してるならあんまり口に出すな、愛が安くなる」

勇者「そうなの?」


僧侶「勇者を愛してる、勇者を愛してる、勇者を愛してる」


僧侶「どうだ?今の愛は嬉しいか?」

勇者「なんか、あんまり嬉しくない」

僧侶「だろ?だからあんまり口に出しちゃダメなんだ」

勇者「なるほど、分かった」

僧侶「(あっぶねえ、取り敢えず何とかなったな……)」

勇者「ねえ、森で言えなかったことがある」


僧侶「……僕と子供達どっちが大切ってか?」


勇者「なんで分かるの?」

僧侶「顔見れば分かるさ、でもオレは答えねえ」

勇者「なんで?聞いたら答えるって言ったのに……」

僧侶「『子供達よりも』勇者が大切だ、なんて言うオレをお前はどう思う?」

僧侶「そんな大切は嫌だろ?」

勇者「……うん、嫌だ」

僧侶「だったら比べるな、子供達は子供達、お前はお前だ」


勇者「じゃあ質問を変える」

僧侶「(……段々手強くなってきたな)」

勇者「僧侶は僕を愛してる?」

僧侶「……そうなると難しいな、男は女を、女は男を愛するもんなんだ」

勇者「そうなの?」

僧侶「この世界ではそうなんだ、第一オレはお前をそんな風に


勇者「分かった、じゃあ女になる」


僧侶「はあ?」

勇者「僕はそう出来てるから」

僧侶「!!(骨格が変わってる?身長も体型も?嘘だろ?)」

勇者「これでいい?」

僧侶「いやいやいや!?えっ、それ元に戻せんの?つーかこんな奴の為に性別決めんな!!」

僧侶「まだお前の知らないことは沢山あるんだ!体だけ成長してもダメなんだよ!!」


勇者「そうなの?」スラリ

僧侶「……はい、そうなんです」

勇者「僧侶はこういう体が好きなの?」

僧侶「うるさい、いいから戻れ、本当に怒るぞ」

勇者「……分かった」シュン

僧侶「ふー、あんまり急ぐな、少しずつでいいんだ」


勇者「だって僧侶が女がいいって言うから」

僧侶「男なら女を好きになるって言ったんだ、女好きみたいに言うな」

勇者「色んなこと知って成長したらさっきみたいな体になってもいい?」

僧侶「それはお前が決めろ、オレが決めることじゃねえ」

勇者「僕は僧侶しか好きにならないと思う」

僧侶「はいはい分かった分かった、期待して待ってる」

勇者「やっぱりさっきのが好きなんだ、顔が全然違う」

僧侶「待て、違う!そういう意味じゃねえよ!!」


コンコンッ…


エルフ「僧侶、お前に話しておきたいことがある」


>>>>

宿 屋根の上にて


僧侶「来てくれて助かった、最近の子供は成長が早いなんてもんじゃねえな」

僧侶「いきなり女になったんだぜ?信じられねえだろ?」

エルフ「どういうことだ?」

僧侶「性別に体型、骨格に身長、それを自分で決められるみたいなんだよ……」

エルフ「益々分からんな、私の知る限りどの界にもそんな者はいない」

エルフ「やはり天使か、もしくは神が創造した新たな何かか……」


僧侶「まあいいや、それで?オレに話したいことってのは?」


エルフ「数多の界が繋がった時、必ず混沌が訪れる」

エルフ「その時、四龍は数多の界の中から一人を選ぶ。器だ……」

僧侶「器を選ぶ?何の為に?」

エルフ「界を裁く者として選ぶのだ」

僧侶「界を……裁く?」


エルフ「そうだ。告発者、または裁定者とも言われている」

僧侶「それがオレだと?何故?」

エルフ「それは僧侶、貴様が誰よりも世界を憎んでいるからだ」

僧侶「……何言ってんだ?そんな馬鹿な話しがあるか?」

エルフ「これは我々にとっての常識だ」

僧侶「それが事実だとしてオレはどうすりゃいい?何か方法はあるのか?」


エルフ「ない、全ての界を始まりに戻すのが裁定者の役目だ」


僧侶「始まりに戻す?」

エルフ「ああ、全てを平等にな」

僧侶「……界が繋がったことと関係あるのか?」

エルフ「恐らく神が決めたことなのだろうな、界が繋がるなど本来ならあり得ない」

エルフ「誰かが意図してそうしない限り……」

僧侶「なら、裁定者になる前に界が戻ればいいんじゃねえの?」


エルフ「何?」

僧侶「だから、全ての界が混ざる前に問題を解決すればいいんじゃねえの?」

僧侶「もしかしたら、勇者はその為に現れたのかもしれねえだろ?」

エルフ「……確かに、滅ぼすだけなら彼女のような存在は邪魔になる……」

僧侶「どっちに転ぶかは分からねえけど、やるだけやるさ」

僧侶「話し聞いてもいまいち実感湧かねえし」


エルフ「……心を乱すようなことを言ってすまなかったな」

僧侶「いいって、色々分かってすっきりした。ありがとな」

エルフ「僧侶、龍は貴様を捜すだろう。選択を間違えるな」

僧侶「選択?」

エルフ「そうだ、今の世の存続かそれとも滅びか、そのどれとも違う世界か……」


僧侶「そんなに脅かすなよ、ようはあるべき界に戻せば解決すんだろ?」

エルフ「まあ……そうだな」

僧侶「だったらそうするさ、誰かを裁くなんて柄じゃねえし」

僧侶「それにな?あんたのような真っ直ぐな奴と出会えて嬉しいんだ」

僧侶「姿や種が違おうともこうやって話せる奴がいるってのは幸せだよ」

エルフ「…………」

僧侶「エルフ救出作戦、絶対に成功させようぜ」

エルフ「!!ああ、勿論だ」

寝るまた明日長くなってきたこんなはずじゃなかった

寝るまた明日書く、長くなってきたこんなはずじゃなかった


>>>>

宿 屋根の上

僧侶「オレが界を裁く者ね……」

人界に出来た界の穴、勇者が目覚めて、旅のお供にオレが選ばれて?

そんで全ての界の中からオレが『偶然』龍に選ばれた?

何がなんでも出来過ぎてんだろ……

まるで最初からこうなる予定だったみてえに事が運んでる。


『おそらく神が決めたことなのだろうな、界が繋がるなど本来ならあり得ない』

『誰かが意図してそうしない限り…… 』


なら、これは誰かが仕組んだことなのか?

界を繋げて裁きを執行させようとしてる奴がいる?

オレを指名したのは王、ってことは当然王は何かを知ってることになる。

つーかエルフのことも耳に入ってんだろ、なら何故動かねえんだ?

異界の種族が現れたんだぞ?何らかの処置を取って然るべきだろ王だったら。

こんな大事が起きてんのにまるで無関心……


僧侶「……無関心?」

違う、オレと勇者に旅させてる時点で無関心じゃねえ、魔を討てとも言った。

無関心ってわけじゃなく起きてる事柄全てを黙認してるとしたら……

ダメだ……黙認する意味が分かんねえ、黙認して何になる?

そうしなきゃならねえ理由でもあんのか?だとしてもまるで見当がつかねえ。


何もしなけりゃ次々と界が繋がっちまう、そんで最後は裁きが起きて終わり。

エルフに話しじゃ四龍に選ばれたオレが界の有り方を選択する羽目になる。


僧侶「……無関心?」

違う、オレと勇者に旅させてる時点で無関心じゃねえ、魔を討てとも言った。

無関心ってわけじゃなく起きてる事柄全てを黙認してるとしたら……

ダメだ……黙認する意味が分かんねえ、黙認して何になる?

そうしなきゃならねえ理由でもあんのか?だとしてもまるで見当がつかねえ。

何もしなけりゃ次々と界が繋がっちまう、そんで最後は裁きが起きて終わり。

エルフの話しじゃ四龍に選ばれたオレが界の有り方を選択する羽目になる。


『内側から別の力を感じる』

……本当にオレが選ぶのか?

エルフの言ったこと全てが真実だとは限らねえ、裁きとやらを体験した奴はいねんだ。

僧侶「……あーあ、もう何が何だか分かんねえな」

ファサッ…

僧侶「…毛布」クルッ


勇者「僧侶、あんまり考え過ぎるのはよくないよ?」


僧侶「!!そうだな、そうだった…」

勇者「一緒に毛布にくるまっていい?」

僧侶「……ほら、早く入れ」

勇者「うん」

僧侶「ありがとな、あのままじゃ朝までいたかも分かんねえ」

勇者「だったら朝まで一緒にいる」

僧侶「ははっ、もう大丈夫だ。もう少ししたら部屋に戻ろう」


勇者「エルフが帰ってからもずっと考えてたの?」

僧侶「……ああ、お前が来るまではな」

勇者「えっと…僧侶は僕が来て嬉しくなれた?」

僧侶「ああ、凄く嬉しくなった。ありがとな」

勇者「じゃあ僕も凄く嬉しい」ニコッ

僧侶「………」ポンッ

勇者「あっ…」


僧侶「勇者、嬉しい時は笑え、悲しい時は泣け」

僧侶「これから嫌なものを沢山見るかもしれねえけど……綺麗なものもきっとあるから」

僧侶「だからその……なんつーか、大丈夫だ」

勇者「……うん」ギュッ

僧侶「まったく……お前、意外と甘えん坊なんだな」

勇者「こうすると落ち着く、テントより落ち着く」

僧侶「本当にテント好きなんだな……」

勇者「もう少しこうしててもいい?」

僧侶「寒くなってきたしもう少しだけな?」ポンッ


勇者「うんっ!」


>>>>

では作戦内容の確認を始める。

この街より北東にある都、そこにエルフ収容所がある。

表向きは人々を襲う凶暴な種族の隔離を目的として作られたとされているが、その内情は君達の知っての通りだ。

収容所は都内に二ヶ所、この二つの収容所よりエルフの奪還救出がこの作戦の目的。

まず勇者と僧侶の二人がエルフ引き渡しを行い、彼が連行されるであろう収容所まで同行する。


恐らくそこが男性エルフの収容所だ。

早速その第一収容所を押さえてもらうが、看守や兵士の処遇は勇者と僧侶の判断に任せる。

僧侶は第二収容所の情報を聞き出すと共に傷付いたエルフの治療を行う。

治療が終われば彼等も作戦に加わるだろう、そうなれば大分楽になる。

それでも人手は足りないだろうが仕方あるまい。


貴族個人が所有しているエルフも多数いるとも聞く、騒ぎにならぬよう迅速な行動が求められる。

作戦内容はこんなものだがもう一つ……

都に住む人間達もいつまでも『凶暴な種族』を収容しておく貴族共に疑問を感じているはずだ。

私からは以上だ。


僧侶「……聞けば聞くほど無謀な気がしてくるな、大丈夫かこれ?」

エルフ「考えたのは僧侶、貴様だぞ。何を今更……」

僧侶「いや分かってるけどよ、一緒に戦う人間が一人もいねえってのはちょっとな」


僧侶「三人で都に突撃だろ?」

僧侶「狙う場所が決まってるとはいえ、もう少し人手が欲しい」

エルフ「真実を知っている人間は僅かだ、我々が実情を暴露すれば或いは…」

僧侶「それは救出後だ、今訴えたとして信じてくれるとは到底思えねえ」

僧侶「エルフは凶暴な種族ってのが人間の持つ印象だ……」

僧侶「例えそれが作られたものだとしてもな……まったく、これじゃどっちが化け物か分かんねえな」


エルフ「……僧侶、同族と戦うことに迷いはないのか?」

僧侶「ねえよ、これまでだって大なり小なり戦はあったからな」

エルフ「そうか……」

領主「……ところで勇者様はどうしたのだ?姿が見えないが?」

僧侶「多分長話しに飽きて先に行ったんだろ」

僧侶「……問題はねえと思うけどちょっと捜してくる、夜更けだし変な奴に絡まれてたら面倒だ」


エルフ「ならば私も行こう、そろそろ出発した方がいい」

領主「そうか……武運を祈っている」

僧侶「おう、この三日間書状やら何やら面倒な手続き済ませてくれてありがとな」

領主「礼など必要ない、私にはそれぐらいしか出来ない。後は君達に任せる他ないのだからな」

エルフ「……では行こう」

ガチャ…


領主「待ってくれ、君には話しておきたいことがある」


僧侶「……オレは先に行ってる、来るとき見付かるなよ?」

エルフ「ああ、分かっている」

バタンッ…

エルフ「……話しとは何だ?」

領主「私はどんな処罰をも甘んじて受ける、許しを請うつもりもない……」

領主「どの口がと言われても仕方ないが……囚われの同胞を頼む」

エルフ「言われずともそのつもりだ……」

ガチャ…

エルフ「家族を大事にしろ、我々が会うのはこれが最後になるだろう」

領主「!!」

エルフ「では領主殿、失礼する」

バタンッ…


領主「……ありがとう、友よ…」


>>>>

僧侶「ん?何で馬車の周りに……!!」

タタタッ…

勇者「あっ、僧侶来た」

警備兵「遅かったな」

僧侶「……は?」

警備兵「訳は全て聞いた、街の警備もあるから多くの人員は割けないが我々も同行する」


僧侶「聞いたって誰に……まさか…」

勇者「僕が話した、僧侶がずっと仲間が欲しいって言ってたから」ウン

僧侶「……ああ、確かに言ったな。話せとは言ってねえけど…」

警備兵「自分の大切な人が奪われて何処か遠い場所で痛みを受けていたら耐えられる?」

僧侶「……何?」

警備兵「勇者に言われた言葉だ、我々が同行する理由はそれだけで十分だった」

警備兵「仲間の死、その仇であるエルフ……今は何もかも忘れよう」

警備兵「原因を作ったのが人間だというのなら、それを正すのも人間であるべきだ」


僧侶「……信じるのか?」

警備兵「ああ、信じる。この子の言葉が嘘だとは思えない」

勇者「ダメだった?」

僧侶「……あのなあ、こんな馬鹿正直な熱血野郎じゃなかったら今頃大変だったぞ?」

僧侶「領主もエルフも殺されてたかもしれねえ、オレ達だって危なかった……」


僧侶「けどまあ、良くやった」

勇者「本当?」

僧侶「ああ、本当だ。助かったよ」ポンッ

勇者「良かった…怒られるかと思った……」

警備兵「馬鹿正直な熱血野郎か、言ってくれるな」

僧侶「だってそうだろ?死ぬかもしれねえんだぞ?」

僧侶「あんただけじゃない、あんたの部下だっているんだ。本当にいいのか?」


警備兵「勇者による所が大きいが、皆納得してくれた」

警備兵「エルフ迫害の事実を知るのは我々しかいないんだろう?なら我々がやるしかない」

僧侶「……あんた、案外人望あるんだな」

警備兵「いちいち一言多い奴だな、だがお前のお陰で皆の目が覚めた」

僧侶「………オレは何も…」

警備兵「この子が戦う意味を考えて欲しい、お前はそう言った」

警備兵「子供に戦わせるのは親として考えさせられた。戦うのは我々大人の役目だ」

警備兵「この子の力が如何に強大だとしても頼るべきではない、それが結論だ」


僧侶「……ありがとな、あんたのような人間がいて良かったよ」

警備兵「!!」

警備兵「お前からそんな言葉が出るとはな……むず痒くなるから止してくれ」

僧侶「うるせえ」

警備兵「……僧侶、お前はもう少し分かり合う努力をするべきだ。味方になる者さえ敵になるぞ」

僧侶「…………」

勇者「僧侶、エルフが来たよ?」


僧侶「!!」

エルフ「……………」ザッ

警備兵「……………」ザッ

僧侶「エルフ、大丈夫だ……こいつらは共に戦ってくれる仲間だ」

勇者「(僧侶、ちょっと嬉しそう)」

エルフ「……それは本当か……だが私は人間を…」

警備兵「今は何も言うな。その訳も全て勇者に聞いた、だからこそ共に戦う」


エルフ「!!」

エルフ「……同胞を救う為、家族を救う為、どうか力を貸してくれ」

警備兵「全ての人間が醜いものだと思わないでくれ、これは俺個人の願いだ……」

警備兵「さあ行くぞ、馬車に乗り込め」

部下『はっ!!』

ザッザッザ…


エルフ「……………」

僧侶「勇者のお陰で予定は変わっちまったが、オレ達も行こうぜ」

エルフ「ああ、そうだな……勇者」

勇者「なに?」

エルフ「ありがとう、心から礼を言う」

勇者「礼は終わってからにしてくれ、あんたの大切が待ってるぜ」

僧侶「……………」


エルフ「はははっ!そうか、そうだな。では行こう、大切を取り戻す為に!!」


>>>>

道中 馬車にて

ガラララッ

警備兵「いきなりで悪いが我々はどうすればいい?」

僧侶「仲間を殺した憎いエルフが収容所にぶち込まれるのを見ない内は帰れねえ」

僧侶「とか何とか言えば向こうの兵士も納得すんだろ」

エルフ「………」

警備兵「……お前は気配りとか考えないのか?もう少し言い方が…」

僧侶「馬鹿野郎、綺麗事ばっかじゃこの先やってけねえだろうが」

僧侶「つーか言い方変えても事実は変わらねえだろ」


警備兵「やはりお前を好きになれそうにないな。何せ口が悪い、それでも僧侶か」

僧侶「うるせえ、男に好かれても嬉しくねえよ。人を屑呼ばわりしといて良く言うぜ」

警備兵「ぐっ…それはお前が…いや、悪かった」

僧侶「別にいいさ、気にしてねえよ」

勇者「でもさっきは嬉しそうにしてた、仲間だって言った時に」ウン

僧侶「…………」

警備兵「分かるのか?」


勇者「分かる、僧侶が目を逸らして下向いた時は多分そんな感じ」

勇者「でも時々頭掻いたりもする、ちょっと横向いたりとか……こうやうって」フイッ

僧侶「…………」

警備兵「へえ…君は良く見ているんだな、彼のこと」

勇者「だって僕は僧侶を愛し

僧侶「エルフ、さっきは悪かったな」

エルフ「誤魔化す為に謝るとはな……貴様、こんな子供に何を…」


勇者「分かる、僧侶が目を逸らして下向いた時は多分そんな感じ」

勇者「でも時々頭掻いたりもする、ちょっと横向いたりとか……こうやって」フイッ

僧侶「…………」

警備兵「へえ…君は良く見ているんだな、彼のこと」

勇者「だって僕は僧侶を愛し

僧侶「エルフ、さっきは悪かったな」

エルフ「誤魔化す為に謝るとはな……貴様、こんな子供に何を…」


僧侶「止めろ、オレは何もやってねえ。分からずに言ってるだけだ」

僧侶「大体お前が家族を愛してるとか言うから憶えちまったんだ」

エルフ「事実だからな、何か問題でもあるのか?」

僧侶「……別にねえよ」

警備兵「なあ、娘がいると聞いたが幾つだ」

エルフ「……十五になる、背格好はちょうど勇者と同じくらいだ」

僧侶「(だからあの時オレの子かどうか聞いたのか……)」


警備兵「家のはまだ八歳だ、子育てってのは大変だな」

エルフ「男の子か?」

警備兵「ああそうだ、ん?何故分かったんだ?」

エルフ「何となくそう思った……男はどうだ?やはりやんちゃか?」

警備兵「ああ、窓を割ったり壁にいたずら書きしたり喧嘩したり、色々だ……」

エルフ「それは楽しそうだな」

警備兵「ああ楽しい、毎日救われてるよ。勿論妻にもな」


エルフ「良かったのか……本当に…」

警備兵「いいんだ、あの子に笑われるような父親にはなりたくないからな」

エルフ「……そうか」

警備兵「それにな」

エルフ「?」

警備兵「自分の子供が酷い目に遭ってると想像するだけでどうにかなりそうなんだ」

警備兵「……同じ親として気持ちは分かる」


エルフ「…………」

警備兵「……………」

勇者「子供を愛してる?」

警備兵「?ああ、勿論愛してる」

勇者「妻も?」

警備兵「勿論」

勇者「それは同じ愛してる?」

警備兵「それは……少しだけ違うかもしれないな、愛にも色々ある」


勇者「……難しい」

僧侶「へー、愛にも色々ねえ……」

警備兵「お前は結婚してないんだろ?」

僧侶「子供ならいるけどな」

警備兵「それは教会にいる子供達のことだろ」

僧侶「……お前、そこまで話したのか?」

勇者「僧侶を嫌われ者のままにするのは嫌だったから話した」

エルフ「愛されてるじゃないか」

僧侶「……もうそれでいい、オレは少し休むからな」


警備兵「……なあ僧侶、お前のことを話してくれないか」

僧侶「何だよ急に……」

警備兵「俺はお前のことを何も知らない、仲間だと言うなら教えてくれ」

エルフ「そう言えばそうだな、何も聞いたことがない」

勇者「僕も最近聞いてない」

僧侶「勇者、この話しは一回しか言わねえからな、二度と訊くなよ」

勇者「……分かった」


僧侶「……少しの間だが兵士だった、戦場で治癒の力は重宝されるからな」

僧侶「まして死んだ人間を蘇生出来るなんて知られたら引っ張りだこさ」

僧侶「兵士なんかじゃねえ、いかれた蘇生医師さ。自分は安全な場所にいて死体を待つだけ……」

僧侶「蘇生して、死んで、蘇生して……大勢の奴等に恨まれたよ、死なせてくれってな」

僧侶「でも段々麻痺してくる、死んでも大丈夫なんだってな。死は存在しないと思い込むのさ」

僧侶「皆、おかしくなっちまった……オレはそこから逃げた。怖くなったんだ……」


僧侶「蘇生の法で救われた奴はいない」

僧侶「心が壊れて……遂には自分が何者かさえ分からなくなる……」

僧侶「生を操作されて狂っていく仲間……人ではなくなっていくようで怖かった……」

僧侶「へらへらと笑って戦場に戻って行く姿……オレまで狂いそうになったよ」

僧侶「オレはそこから逃げたんだ……」

僧侶「身を隠して今までの人生を消して、旅の果てに辿り着いたのが田舎の町だ」

僧侶「そこには戦で親を失った子供達がいた……治癒の法では救えない子供達がな……」


僧侶「オレの話しはこれで終わりだ」


僧侶「……悪かったな、こんな話し聞かせて」

警備兵「……………」

エルフ「……………」

勇者「……大丈夫…」ギュッ

僧侶「何だ勇者、嫌いにならないのか?」

勇者「ならない、僕は僧侶を嫌いになんてならない」

僧侶「……………」

勇者「もう怖くない?」


僧侶「……ああ、怖くない。お前と……仲間がいるから」


警備兵「……僧侶、嫁が決まって良かったな」

エルフ「ああ、めでたいな」

勇者「嫁ってなに?」

警備兵「さっき話した愛する妻のことだ、結婚したらそうなる」

勇者「……なるほど」

僧侶「やめろ」

警備兵「辛気臭い面したって何もならないだろ?」


エルフ「(……世界を憎む理由はこれか?それとも……)」


僧侶「何だよ、人が真面目に話したってのに……」

警備兵「俺達も落ち込んだ方が良かったか?」

僧侶「そっちの方が御免だ、やめてくれ」

勇者「結婚ってなに?」

エルフ「愛する者が共にいることだ」

僧侶「おい、やめろって言ってんだろ」

警備兵「……僧侶、悪かったな」

僧侶「あ?オレは勇者に聞かせたんだよ」


警備兵「へえ…仲間がいて良かったとか言ってたけどな」


僧侶「うるせえ、もう少し緊張感持て馬鹿野郎」

警備兵「辺境の警備兵だからって嘗めるなよ、これでも

僧侶「エルフにやられたじゃねえか」

警備兵「……」

エルフ「…………」

僧侶「ぐっ…悪かった……」

勇者「僧侶は悪くない、僕は僧侶の味方」ウン

警備兵「出来た嫁だな、小悪魔的に心を掴みに来てる」

エルフ「子供に手は出すなよ」


僧侶「嫁じゃねえし手は出さねえよ!!」


警備兵「そろそろか……ん?降ってきたか?」

僧侶「好都合だ、外に出る民間人が減る」

僧侶「作戦変更、オレと勇者は引き渡した後に直接貴族に会いに行く」

警備兵「俺達は?」

僧侶「第一収容所の強襲と救出を頼む、なるべく派手に暴れてくれ」

警備兵「了解」

僧侶「なるべく早めに済ませる、それまで何とか耐えてくれ」

警備兵「任せろ、死ぬつもりはない、お前の手を煩わせるつもりもな」

僧侶「……ありがとよ」


エルフ「……勇者、これを頼む……」スッ


>>>>

ガラララッ…

警備兵「そろそろか……ん?降ってきたか?」

僧侶「好都合だ、外に出る民間人が減る」

僧侶「作戦変更、オレと勇者は引き渡した後に直接貴族に会いに行く」

警備兵「俺達は?」

僧侶「第一収容所の強襲と救出を頼む、なるべく派手に暴れてくれ」

警備兵「了解」

僧侶「貴族は早めに済ませる、それまで何とか耐えてくれ」

警備兵「任せろ、死ぬつもりはない、お前の手を煩わせるつもりもな」

僧侶「……ありがとよ」


エルフ「……勇者、これを頼む……」スッ

また明日書く


>>>>

北東の都

ザアァァァ…

僧侶「これを……領主様からの書状だ」スッ

門兵「はい、確かに……勇者様、僧侶様、お待ちしておりました」

門兵「ところでそちらの方々は?兵士のようですが」

僧侶「ああ、北の街の警備兵達だ。エルフに仲間を殺害されてな、どうしてもと言って着いてきた」

門兵「そうでしたか……しかしこの件に関しては勇者様と僧侶様のみと決められたはず」

門兵「皆様の心中は察しますが承諾出来ません」


警備兵「無理を承知で着いてきた、何とか頼む……」

警備兵「こいつが牢に入れられるのを見届けない内は帰れない」

重装兵「構わない、許可する」ザッ

門兵「ま、待ってください!!何を勝手なことを

重装兵「良いんだよ、エルフ一匹の引き渡しに時間なんぞ掛けれるか」

重装兵「エルフはこっちの馬車に移せ、来るならさっさとしろ」


警備兵「ああ、恩に着る」ザッ

警備兵「(重装兵……やはり警備は堅固、一筋縄では行かない)」

門兵「勇者様と僧侶様はどうなされるのです?」

門兵「本来であれば収容を見届けた後に貴族様とお会いになるはずでしたが……」

僧侶「見届けは奴等に任せる」チラッ

エルフ「…………」コクン

警備兵「…………」コクン


門兵「し、しかし…」

僧侶「重装兵もいるのだから不覚を取って再び逃げられることはないだろう?」

重装兵「……腰巾着の分際で偉ぶるなよ小僧」

僧侶「うるせえ!!てめえらが逃がした所為で何人の人間が死んだと思ってやがる!!!」

重装兵「ぐっ…」

僧侶「チッ…さっさと行け、エルフの顔など二度と見たくない」

勇者「よせ僧侶、たかがエルフ一匹の引き渡しで騒ぐな」


重装兵「ほう、貴方が話題の勇者様か?」

勇者「…………」

重装兵「なるほど、その目……無慈悲な天使とは良く言ったものだ」

勇者「慈悲?異種族であるエルフに慈悲など必要ない、違うか」

重装兵「ははっ、確かにその通りだ。ガキの癖に良く分かってるじゃないか、気に入った」

勇者「……護送は頼んだぞ」

重装兵「任せろ。おらっ、さっさと行くぞ!!」

重装兵隊『はっ!!』


警備兵「(確かに、確かにと言ったな。お陰で少し気が楽になったよ……)」スッ


ガラララッ…

僧侶「行ったか。では我々は貴族様の下へ行く、あまり待たせたくはないのでな」

門兵「了解しました、この先を曲がれば兵士がいますので道案内はそちらで…」

僧侶「そうか、騒がせて済まなかったな」

勇者「風邪引くなよ?」

門兵「は、はい!!ありがとうございます!!」

僧侶「………はぁ…」

ガラララッ…

勇者「何か間違えたの?変だった?」

僧侶「最初は良かったけど最後がな、あんまり喋り過ぎるとぼろが出るから気を付けろよ?」

勇者「うん、次から気を付ける」

僧侶「(しかし言葉を憶えるのが本当に早いな、オレも気を付けねえとな)」


>>>>

ガラララッ

エルフ「…………」

重装兵「何だ黙りか?収容所の中じゃ散々喚いてたのになあ?」

エルフ「…………」

重装兵「あ、そういやテメエの娘は貴族様のとこにいるんだったよな?良かったなあ、気に入られて」ポンッ

エルフ「………………」ギリッ

重装兵「で、嫁は収容所で今も看守共に…ぎひッ!?」ガクンッ

警備兵「装甲の隙間を狙え、なるべく一突きで息の根を止めろ」

重装兵隊『!!?』ガタッ


警備兵「見ろ、立ち上がりは遅い。収容所に到着する前に終わらせるぞ」スッ


重装兵隊「ガッ…」ガクンッ

警備兵「焦らず一人一人だ、自慢の装備もこの場では機能しない。恐れるな」

部下『了解』ザッ


ザクッ…ゴギンッ…グサッ…


運転士「どうした?少し揺れたが」クルッ

警備兵「今頃になってエルフが暴れた、往生際の悪い奴だ」

重装兵隊『……………』コクン

運転士「?面倒は御免だからな、しっかり頼むよ?」

警備兵「ああ、もう大丈夫だ。静かになったよ」


警備兵「ふーっ……待ってろ、今外す」ガチャ

エルフ「……助かった、あれ以上は耐えられそうになかった」

警備兵「気にするな、俺も耐えられなかった。それよりこれを…」スッ

エルフ「小型の弓……有難い」ガシッ

警備兵「収容所内では俺達の援護を頼みたい、ここなら狙えるだろう?」

エルフ「眼球か……問題ない、どこだろうと捉えてみせる」

警備兵「それと入り口が開いたら門番を片付けてくれ、俺達はそこから一気に雪崩れ込む」

エルフ「ああ、任せてくれ」

警備兵「皆、奴等が訳も分からぬ内に終わらせる。少しの躊躇いが死を招く、迷うなよ」

部下『はっ、了解しました、隊長』ザッ


>>>>

貴族の館

貴族「僧侶殿、今何と?」

僧侶「エルフは皆殺し、絶やしにすべきだと言ったのです」

貴族「な、何もそこまですることは……」

僧侶「……面倒くせえな、じゃあいつまで楽しむつもりだ!!あ?答えろよ!!」

貴族「なっ!!?」

僧侶「何やってるかなんてもう分かってんだよ!!」

僧侶「いつまで民を欺けると思ってる?馬鹿にするのもいい加減にしろよ?」

僧侶「飼い殺しにするつもりかどうか知らねえが、このままで済むと思ってんのか?」ドクン

ドクン…ドクン…ドクンッ!


貴族「貴様誰に向かって

僧侶「てめえに言ってんだよ!!!」ダッ

ドガッ!

貴族「ぶッは……え、衛兵!!」


ガチャ…ゾロゾロ…


貴族「早く、早く捕らえろ!!」

近衛兵「貴族様!!行くぞ、奴を捕らえろ!!」ダッ

勇者「……………」ザッ

近衛兵「其処を退け!!貴様等、一体何をしているのか分かっているのか!!」


僧侶「ははっ…はははっ!!!」

貴族「ヒッ!!?」

近衛兵「なっ…」

勇者「僧侶?」

僧侶「ハァ…ハァ…何が貴族だ屑野郎が!!てめえは百回殺しても足りねえ!!」

僧侶「何回犯した?大事なもんを壊すのはどんな気分だ!!?同じ分だけ殺してやるよ!!!」

僧侶「はははっ!安心して死んでいいぜ!!何度でも生き返らせてやるからよぉ!!!」

ドガッ…ドガッバキッ…グシャッ…


近衛兵「…く…狂ってる……」

僧侶「何だお前ら?あぁ…兵士か…」ユラァ

近衛兵「と、捕らえろ!!」ダッ

僧侶「…………」スッ

シュゥゥゥ…

貴族「……あ、あぁ?」

近衛兵「馬鹿な……」


僧侶「大丈夫だって……ほら、言ったろ?生き返らせるって」ニコッ


貴族「ひ、ヒヒッ…」

近衛兵「今すぐ貴族様を離せ!そうすれば

僧侶「……はぁ」ジャキ

勇者「僧侶、ダメだよ!もうやめて?ねえってば!!」

僧侶「………………」ググッ

勇者「僧侶!!」


ザクッ…


貴族「イギャアアアアッ!!」

僧侶「あー、うるせえなあ…もう一回殺すか」


貴族「頼む、罪は認める、だからもうやめてくれ…頼む」

僧侶「命乞いなんて必要ねえよ?オレがいれば死なねえんだから」

勇者「うっ…ううっ……」

グサッ…

貴族「カハッ…ヒュー…ヒュー…」

近衛兵「あ、悪魔だ……あんなのは人間じゃ…ない」

僧侶「黙って武器捨てて道空けろ、二度は言わねえぞ」

近衛兵「……………」


ガシャ…カラン…カラン…


僧侶「勇者、行くぞ。この館に囚われてるエルフを解放する」

勇者「…グスッ…うん……」


>>>>

僧侶「館の地下で間違いねえんだな?」

貴族「間違いありません、本当です!!」

僧侶「ふーん、じゃあ案内しろ」

貴族「あの、都のエルフを解放すれば許してくれますよね?」

僧侶「無駄口叩くな、さっさと歩け」

貴族「はいっ、歩きますっ歩きますから!!」

ザッザッザ…


僧侶「勇者、さっきは悪かったな」

勇者「……僧侶、怖かった…なんで?なんであんなことしたの?」

勇者「僕なら平気、殺せって言うなら殺すから……僧侶はやめてよ…」

勇者「僧侶はあんなことしなくていい、僕がする。だから……」

僧侶「……エルフを助けて館を出たら全て話す」

勇者「?」

僧侶「聞きたいことは沢山あるだろうが、それまでは我慢してくれ」

勇者「……分かった」


貴族「……この部屋です」

僧侶「兵士はいるのか?」

貴族「いません、その…私専用の部屋なので……」

僧侶「そうか、じゃあ開けろ」

貴族「は、はい」

ガチャ…ギィィィ…

僧侶「……っ…勇者、お前はここで待ってろ」

勇者「嫌だ、僕も行く。エルフから預かってる物もある、だから絶対一緒に行く」


ーー第一収容所が襲撃された!急げ!
ーー我々は貴族様を捜す、先に行ってくれ!

ーー敵の総数は!?
ーー分からん、エルフも加勢しているようだ


僧侶「……オレの所為で計画が台無しだな……勇者、お前は収容所に行け」

僧侶「兵士の後を付けて行けば収容所の場所も分かる」

勇者「嫌だ!一緒に行く!!助けてから一緒に行けばいはい!!」

僧侶「それじゃあ間に合わない、途中で必ず足止めを食っちまう」

僧侶「オレかお前なら、お前が行くべきだ。皆の助けになってくれ」



ーー第一収容所が襲撃された!急げ!
ーー我々は貴族様を捜す、先に行ってくれ!

ーー敵の総数は!?
ーー分からん、エルフも加勢しているようだ


僧侶「……オレの所為で計画が台無しだな……勇者、お前は収容所に行け」

僧侶「兵士の後を付けて行けば収容所の場所も分かる」

勇者「嫌だ!一緒に行く!!助けてから一緒に行けばいい!!」

僧侶「それじゃあ間に合わない、途中で必ず足止めを食っちまう」

僧侶「オレかお前なら、お前が行くべきだ。皆の助けになってくれ」


勇者「……でも僧侶がいなきゃ皆を治せないよ?」

僧侶「部屋の中にいる彼女達を解放したら追いかける、何とかするさ」

勇者「本当?約束だよ?」

僧侶「ああ、約束だ」ポンッ

勇者「……じゃあこれを渡す、エルフからの預かり物」スッ

僧侶「ペンダント……エルフの娘はここに?」

勇者「うん、エルフはそう言ってた」


ーー行くぞ!急げ!

ーー勇者だろうがこの際殺しても構わん!
ーー貴族様を救うのだ!

僧侶「……勇者、行くんだ。時間がない」

勇者「………」

僧侶「早く行け!!!皆死ぬぞ!!」

勇者「!!」ビクッ

僧侶「誰かを守る為に戦え、お前は強い……皆を守れるのはお前しかいないんだ」

僧侶「勇者!行け!!!」

勇者「………ッ!!」ダッ

タタタッ…


僧侶「行ったか……あんたにはもう少し付き合ってもらうぜ?」

貴族「は、はいっ」

僧侶「あぁ…その前に一回死んでくれ」

貴族「へ?」

グサッ…

貴族「がっ…な、んで」バタッ

僧侶「あんたが生きてると色々と面倒なんだ、この中じゃあな……」

僧侶「きっと死体の方が彼女達も喜ぶ、良かったな役に立てて」ガシッ

ズリッ…ズリッ…


>>>>

地下監禁部屋

僧侶「この子で最後かさ……これに見覚えは?」スッ

娘「あっ……それは父さんの、何故貴方が

ガチャ…

僧侶「話しは後だ、じっとしてろ」スッ

娘「ひっ…」

シュゥゥゥ…

娘「えっ…傷が…治った……」

僧侶「怖がらせて済まなかった、これで大丈夫だ」

僧侶「オレは僧侶、君の父さんと一緒に都へ来た。君たちエルフ達を助ける為に」


娘「父さんと!?父さんは生きているのですか!?」

僧侶「ああ、でも話してる時間はない。まずは皆と一緒に此処から脱出しよう」

僧侶「この地下監禁部屋には君と同世代の子しかいない、君が皆をまとめてくれると助かる」

僧侶「……頼めるか?」

娘「はいっ…ありがとうございます」…」

僧侶「礼は此処を出てからだ。時間がない、皆を元気付けてやってくれ」

娘「……分かりました、やってみます」


娘「皆、この人に付いて行けば私達は此処から出られる!!皆も傷を治してもらったでしょう!?」

娘「この人を信じよう?この人なら私達を助けてくれる!!」

娘「この人はあいつらとは違う!だから信じよう!」

娘「父さんや母さんが待ってる!絶対会える!皆の家族が待ってる!!」


ザワザワ…


僧侶「(凄いな、この子の声には力がある。それに強い心を持ってる……)」

娘「さあ僧侶さん、行きましょう!」

僧侶「……君は、オレを信じるのか?」

娘「はいっ、父さんが信じた人……父さんが信じた『人間』ですから」


ゴゴゴ…ズズンッ…

僧侶「……何だ今の揺れは……!!くそっ、来やがった…」


近衛兵隊『動くな!!』


娘達『!!』

僧侶「遅かったな、さあどうする?オレ共々彼女達を殺すか?」

僧侶「何の罪もない彼女達を殺すのか?」

近衛兵「黙れ、異種族の命と人間の命は違う」


???「なるほど、確かに醜いな。答えはいらん……溺れ、沈め」

パブロン飲んで眠れから寝るまた明日かく

誤字脱字ごめんなさい


???「邪魔者は消した。さあ、望みを言うが良い」

僧侶「…………」ドクン


目の前で兵士達が溺れている、あるはずのない水に包まれて……

いや、水にではなく『水が』意志を持って兵士達を捕らえているように感じる。

それを冷ややかな目で見つめる女の正体を体の震え……心音の高鳴りで理解した。


僧侶「……あんたが水龍か」

水龍「ああ、その通りだ。私は四龍が一つ、水龍」

僧侶「……彼女達を逃がすのを手伝ってくれ、第一収容所に行きたい」

僧侶「出来れば第二収容所にも

水龍「それは偽りの心だ。裁きを下せ、お前の心は炎龍より伝わっている」

水龍「界を憎む裁きの者よ……さあ、選択しろ」

書きたいとこまで書けたし寝るまた明日ぬ


娘「僧侶さん、貴方は龍に……」

僧侶「そうか…君も知ってるのか……エルフの言った通りそっちじゃ常識みたいだな」

僧侶「……ったく、選ばれたなんて言われたから少し期待してたんだけどな」

水龍「期待とは?」

僧侶「まあ、オレの力になってくれるとか多少の願いなら叶えてくれるとかさ……」

僧侶「そういう都合の良いもんを期待してた。でも、どうやら違うみてえだ」

僧侶「なあ、お前らは界を滅ぼしたいだけなんじゃねえのか?」


水龍「……………」

僧侶「そもそもオレの願いが分かるのなら何故実行しない?それほどの力がありながら何故?」

水龍「最低限お前の心を尊重してやろうとしているだけだ」

水龍「それより良いのか?下らん問答している時間があるようには見えないが?」

僧侶「……………」ググッ

娘「僧侶さん?」

僧侶「……第一収容所、第二収容所の兵士看守を一人残らず殺せ」


僧侶「オレは彼等と彼女達を傷付けた人間が裁かれることを望む!!」


娘「!!それでは貴方が…」

僧侶「いいんだ……これがオレの選択、オレの意思…そうなんだろ?」

水龍「ああ確かにそうだ……『今は』そうだな」スッ

水龍「裁きの後、私はお前の下へ戻る。その時改めて訊こうじゃないか」ボソッ

僧侶「……オレは選択した、さっさと行け……」

水龍「ふふっ、龍の影響を受けていながら人間性を保っていられるとは流石は『選ばれし者』」

僧侶「何が選ばれし者だ、皮肉にしか聞こえねえな」

水龍「……壊れるなよ?器は丈夫でないと我々が困る」


水龍「ああ、一つ言っておく……」

水龍「お前の考えている通り勇者ならば我々を殺せるだろう」

僧侶「…………」

水龍「しかしお前にそれを選択出来るか?」

水龍「人の心を教えたお前に、お前を慕う勇者にそれを命じることが出来るか?」

水龍「勇者は自ら選択出来ない、恐らくお前に訊ねるだろう」

水龍「殺しても良いか、とな……」フッ

娘「消えた……あのっ、僧侶さ

僧侶「急ごう、君達の兄弟姉妹と両親が首を長くして待ってる」


僧侶「……もう敵はいない、さあ行こう」


>>>>

第一収容所近辺

ザァァァァ…

警備兵「重装兵は相手にするな!皆、一度収容所内に戻っ……」フラッ

ガシッ…

エルフ「しっかりしろ!!勇者と僧侶が来るまで我々だけで持ち堪えるのだろう!!?」

警備兵「ああ分かってる、しかしこれだけの兵士相手に……!!」


ーー何だあのガキは?
ーー何をしている!さっさと退け!


勇者「この人達は僕が守る」

勇者「この人達を殺すつもりなら、僕がお前達を殺す」


ーーあれは確か……
ーーああ、勇者だ。奴め、エルフを庇うつもりか


勇者「そう、僕は勇者……魔を討つ者」ダッ


ザンッ!ガギンッ!ドゴッ!グサッ!

警備兵「……ッ…やはり勇者に頼らざるを得ないのか」

エルフ「(凄まじい…これが彼女の力か。個人に宿るには余りに強大な力だ)」

警備兵「こうなるまいと戦った、説得も試みた……何故だ!何故過ちを認めない!!」

エルフ「(人間は何故こうも違うのだ?何故そこまでして争い続ける?)」


ーー攻撃が通じないわけではない!
ーー傷付き血も流す!臆するな!
ーー槍兵!陣形を乱すな!行けえッ!!


警備兵「……我々も行くぞ、勇者に群がる兵を幾らかでも散らす」

エルフ「ああ……立て!武器を持て!彼女を、勇者を守るぞ!!」


勇者「(傷付かないように戦ってたら遅くなる。このままじゃダメだ)」ピタッ

エルフ「勇者!止まるな!!」

警備兵「くっ…何をしている!勇者!!」


ーー足を止めた!好機!
ーー仕留める!構えッ!突撃!!


勇者「僧侶、ごめんなさい」

槍の切っ先は勇者を貫き放たれた矢が一斉に突き刺さる。

エルフと警備兵が絶句する中、勇者は何事もなかったかのように剣を振るった。


小さな体を素早く回転させた一振り。

突き刺さった槍は勢いでへし折られ浅く刺さった矢は宙を舞った。

その一振りで陣形は崩れ、そこから一気に斬り伏せてゆく。


斬られ刺され貫かれてもその勢いは止まらない

守ろうと立ち上がった彼等は、血飛沫の中を駆ける彼女を見ていることしか出来なかった。


勇者「みんな大丈夫?もうすぐ僧侶が来るから我慢して」

警備兵「勇者…君は大丈夫なのか?痛みはないのか?」

勇者「ない、僕は平気。気にしなくていい」

警備兵「…………」

エルフ「…………」


全ての兵を殺害した勇者は夥しい数の傷を負っているにも拘わらず顔色一つ変えずに立っている。

雨空を見上げたまま動かない。

心ここにあらず、どうやら僧侶のことを想っているようだ。

雨の所為かそれとも見えていないのか……勇者は気付かない。

勇者によって守られた者達のすすり泣き、彼等の流す大粒の涙に……


>>>>

ーーさん
ーー父さん!

エルフ「!!」クルッ

娘「父さん!!」

エルフ「ッ!!良かった…良かった!!」ギュッ

警備兵「……良かったな、本当に良かった…」


ザッザッザ…

僧侶「遅くなって悪かった……色々あってな」

勇者「僧侶!!」ダッ

僧侶「……勇者……」

ギュッ…

僧侶「……今治すからな、じっとしてろ?」スッ

シュゥゥゥ…


僧侶「ふーっ、これで全員か、分かってたけど結構疲れるな……」

エルフ「僧侶、ありがとう」

エルフ「貴族に選ばれたと聞いた時から、もう娘とは会えないのではと思っていた……」

僧侶「礼なんていらねえ、オレは何もしちゃいねえよ。あんた達がいたから何とかなったんだ」

警備兵「だが我々は結局勇者に頼ってしまった」

僧侶「……こればっかりは仕方ねえさ…オレだって勇者がいなけりゃ死んでた」

僧侶「戦わせたくないってのは此処にいる皆も同じだ。そうだろ?」


警備兵「……ああ、そうだな」

僧侶「……囚われていた彼女達も良く耐えた、辛かったろうに……」

僧侶「きっと君が元気付けてくれたから彼女達も歩き出せたんだろう」

僧侶「父さんに似て強い子だな、本当に助かったよ」

娘「……僧侶さん、本当に……本当にありがとうございます」

僧侶「けどまだ終わりじゃない、第二収容所に行こう。皆の大事な人が待ってる」


僧侶「それと勇者」

勇者「なに?」

僧侶「何よりお前の活躍で皆が救われたんだ。本当に、本当に良く頑張ったな……」ポンッ

勇者「うんっ、でも早く行かないと…」

僧侶「大丈夫だ、第二収容所ならきっと……」

娘「…………」

エルフ「……僧侶、何があった?」

僧侶「館で水龍と逢った、奴は今頃第二収容所にいるだろうな」


エルフ「何!!?」

僧侶「第一収容所に勇者が向かったことはオレを通して分かってる……」

エルフ「……選択し、受け入れたのか?」

僧侶「選択なんてそんな都合の良いもんじゃねえよ、勝手に心を読んでそれを言わなきゃ断るだけさ」

僧侶「選択なんざ必要ねえ、最初から決まってる。恐らく奴等はそういう存在なんだ」

エルフ「なら四龍は……」

僧侶「界をぶっ壊して無理矢理『始まり』とやらに戻すつもりじゃねえか……オレはそう思ってる」


僧侶「まったく…面倒な奴等に選ばれたもんだよ……」


>>>>

水龍「彼の者の望みに応え、裁きを……」

水龍「お前達の罪も血も、全ては雨が洗い流してくれるだろう」


しかし彼女の声に反応する者は誰一人としていない。

辺りには数百の小さな赤い球体が浮かんでいる。

それは水によって包まれ圧迫された看守と兵士の変わり果てた姿。

叫び声を上げることも、勿論命乞いすら出来ず、突如第二収容所内に現れた彼女によって殺された。

だが彼女は救わない、囚われのエルフ達を救おうとはしなかった。


第一収容所襲撃の報せを受け、この第二収容所に収容されている女性エルフを人質にしようと考えた兵士達。

彼女は彼等を待っている。

何かを察したのか、彼女は真っ赤な水玉を弾かせ扉へ向かう。

女性エルフの懇願の声など一切無視して彼女は扉を開けた。

其処には第一収容所に向かった兵士を上回る兵士達が詰め掛けていた。


意表を突かれ兵士達は一瞬動きを止めたが、エルフでないと分かると即座に彼女を押し退け中へ向かう。

看守や兵士がいないことを不審に思う声は聞こえたが、それはすぐに止んだ。

数名が抵抗したのか暴れたのか、凄まじい絶叫が聞こえてくる。


彼女は何もしなかった。

数分が経ち、兵士に拘束された女性エルフが収容所から姿を現した。

中には顔を酷く腫らした者、大小問わず傷を負った者多数。

数が減っていることから内部で殺された者もいるのだろう。 


彼女が動いたのはこの時、先程僧侶は彼女に対してこう言った。


『彼等と彼女達を傷付けた人間に裁きを』と……


彼女達を道具のように扱い玩具のよう弄んだ人間はもういない。

裁きはそこで完結したのだ、だから彼女は何もしなかった。

だが今此処に新たに裁かれるべき存在が生まれ……彼女は再び裁きを執行する。


水龍「……僧侶、お前がどんな顔をするのか楽しみだ」


救えた命を救わず救おうとすらせず、僧侶の望んだ通りの裁きを執行し終えた後……

彼女は心地良さそうに雨に打たれ、笑っていた。


>>>>

僧侶「………皆、ここで待っててくれ。第二収容所にはオレ一人で行く」

勇者「なんで?多分あっちにも兵士が沢山いるよ?」

僧侶「もういない、分かるんだ」

エルフ「水龍が兵士を?なら私達も

僧侶「いや、そんなに出来た奴じゃねえのがはっきり分かった」

警備兵「龍だが何だか分からんが、味方が助けてくれたんじゃないのか?」

僧侶「今は話したくない……必ず連れて帰るから待っててくれ」


エルフ「……分かった」

警備兵「……了解」

勇者「僕は?」

僧侶「そうだな、また兵士が来るかも分からないから皆を守ってくれ。出来るか?」

勇者「出来る!」

僧侶「もう皆元気になったんだ、武器もある。無理するなよ?」

勇者「大丈夫、皆を守りながら戦う」ウン


僧侶「……そうか、じゃあ頼んだぞ?」

勇者「へへっ、うんっ!」ニコッ

僧侶「勇者を頼む……」

エルフ「…………」コクン

警備兵「……………」コクン

僧侶「皆、すぐ戻る。必ず連れて帰るから安心してくれ」

娘「僧侶さん、気を付けて……」

僧侶「……ああ、ありがとう。いい娘さんだな、言葉遣いもしっかりしてるし」チラッ

エルフ「娘はやらんぞ」

僧侶「ははっ、分かってるよ……じゃあな」

エルフ「………………」


ザッザッザ…


>>>>

ザァァァァ…

水龍「遅かったな」

僧侶「黙れ」

水龍「何を怒っている?望みは果たしたぞ?」

僧侶「最初から期待しちゃいなかったがここまでやるとはな……」

僧侶「炎龍を通して分かる、そう言ったな?」

水龍「ああ、確かに言った」

僧侶「オレもだよ糞野郎!!てめえの汚え考えが炎龍通して分かるんだよ!!」

水龍「人間如きが感じることは出来ないはずなんだが……中々やるじゃないか」


僧侶「黙れ!!オレがどんな顔をするかだと!?」グイッ

水龍「ふふっ、女性相手に随分乱暴だな」

僧侶「……良く見ろよ、これがてめえが望んだ顔だ」

水龍「とても魅力的だよ。その瞳は特に……」

僧侶「もういい、あっち行ってろ」

水龍「そうだな、死んでも生き返らせればいい。彼等を置いてきたのは英断だ」

僧侶「……………」スッ

水龍「惨たらしい死体を前に大したものだな、普通なら嘔吐するような絵面なのだが」


僧侶「……黙れ」

水龍「私はお前を気に入っている、その強靱な精神と界を憎む心は

僧侶「うるせえ!!黙ってろ!!」

水龍「いいや黙らない……私はお前を愛しているからな」

水龍「この偉大な四龍が一つ、水龍に愛されることを光栄に思え、人間」

僧侶「……………」

水龍「続々と蘇生しているな、ふふっ……まるで救世主か神のようだ」

僧侶「黙れって言ったろ?つーか愛してるなんて言うな、反吐が出る」


水龍「あまり酷いことを言わないでくれ、これでも女なんだ……」

僧侶「さっさとオレの内側に入れ、そんで消えろ」

水龍「残念ながら私は最後だ」

僧侶「出来るだけ長く見ていたい、か?[ピーーー]よ屑龍」

水龍「屑龍?界を歪める程の力を持つ私に屑だと?」

僧侶「ああそうだよ屑!オレみてえな人間を愛する時点で終わってんだ!!」

僧侶「力だけの存在だ、何も知らねえ我が侭なガキみてえだな、お前」


水龍「頼む……あまり私を怒らせないでくれ」スッ

ガシッ…ドタッ…

僧侶「……っ…流石に力は強いな」

水龍「いいや、力も強いんだ。さて、どうしてやろうか」

僧侶「そんな力は迷惑なだけだ。つーか以前にも裁きは起きてんのに何で死なねえんだ?」

水龍「……案外抜けているな、始まりに戻すから生きているんだ」

僧侶「世界はお前らの遊び道具じゃねえぞ」

水龍「力あるものが自由、分かるだろう?」スッ

僧侶「エルフが見てるぞ」


水龍「構わない、お前は私の物だ。誰にも渡さない、勇者にもな……」


水龍「あまり酷いことを言わないでくれ、これでも女なんだ……」

僧侶「さっさとオレの内側に入れ、そんで消えろ」

水龍「残念ながら私は最後だ」

僧侶「出来るだけ長く見ていたい、か?死ねよ屑龍」

水龍「屑龍?界を歪める程の力を持つ私に屑だと?」

僧侶「ああそうだよ屑!オレみてえな人間を愛する時点で終わってんだ!!」

僧侶「力だけの存在だ、何も知らねえ我が侭なガキみてえだな、お前」


水龍「頼む……あまり私を怒らせないでくれないか」スッ

ガシッ…ドタッ…

僧侶「……っ…流石に力は強いな」

水龍「いいや、力も強いんだ。さて、どうしてやろうか」

僧侶「そんな力は迷惑なだけだ。つーか以前にも裁きは起きてんのに何で死なねえんだ?」

水龍「……案外抜けているな、始まりに戻すから生きているんだ」

僧侶「世界は、お前らの遊び道具じゃねえぞ」

水龍「力あるものが自由、分かるだろう?」スッ

僧侶「エルフが見てるぞ」


水龍「構わない、お前は私の物だ。誰にも渡さない、勇者にもな……」

saga入れ忘れたごめん


僧侶「オレを愛してるって言ったよな」

水龍「ああ、その儚さと危うさが愛おしくてたまらない」

水龍「抵抗するな……安心して私に愛されろ」ガシッ

僧侶「っ…随分と積極的なんだな」

水龍「特別なんだ、我々にとってお前は……」

僧侶「どうせ『今までの奴等』全員に言ってんだろ?」


水龍「信じるかどうかお前の勝手だが、お前が初めてだ」


僧侶「そうか、なら目一杯愛してやるよ」グイッ

水龍「ふふっ…人間如きが言うじゃないか」

僧侶「言っとくが初めては滅茶苦茶痛いぞ?いいのか?」

水龍「ああ、構わない……」ギュッ

僧侶「なら受け取れ、これがオレの答えだ」スッ

水龍「うっ…なんだこれは?中が熱い……」

僧侶「助かったよ……どうやらオレを愛してるのはお前だけじゃねえみたいだ」

水龍「何を……」

僧侶「お前よりオレを好いている龍がいる、始まりの龍だ」

水龍「…炎…龍…か…ぐっ…あああ!!?」

僧侶「炎龍の力を蘇生した……応じてくれたよ」

水龍「馬鹿なッ…ふざけ…ふざけるな!!私はッ


ゴオォォォッ!


僧侶「燃えろ水龍、真に裁かれるべき存在は………お前だ」

寝るまた明日書く長くなってきた


僧侶「はぁっ…はぁっ…あっぶねえ……何とかなったな」


ズズズ……カッ!


炎龍「大丈夫ですか」

僧侶「……助かった、本当に助かった。お前らって皆あんな感じなのか?」

炎龍「ええ、水龍は束縛したかったようですが……」

僧侶「とにかくお前のお陰で何とか騙せた。ありがとな」

炎龍「いえ……でも気性が荒くなったり様々な弊害が……

僧侶「気にすんな、あんな化け物騙せるなら安いもんだ」

僧侶「つーか何で女なんだ?お前らは皆そうなの?」

炎龍「それは以前勇者との会話の中で僧侶様は女が良いと言ったので……」


僧侶「何でも聞いてんだな……まあいいや…」

ここまで書けたし寝る


僧侶「……なあ、何故お前はオレの求めに応えた?お前も奴と同じ龍だろ?」

僧侶「オレの心の中が見えてたら尚更だ、まして龍を殺すなんて

炎龍「今は彼女達を第一収容所のエルフ達に会わせるべきではないかと思います」

炎龍「それともう一つ、本来水龍が執行すべきであった裁きが残っています」

僧侶「……ああ、そうだな」

炎龍「あくまで我々は界を裁く存在です、そこに違いはありません」

炎龍「僧侶様、それだけは忘れないで下さい」


僧侶「……分かってる。じゃあ戻ろう、皆が待ってる」


>>>>

第一収容所前

ーー会いたかった…君が無事で良かった
ーー生きて会えた、今はそれだけでいい

ーーお母さん、お母さんっ…!
ーーもう二度と離さない、愛してる


警備兵「……雨は止み陽が昇った、か」

僧侶「何だそりゃ…」

警備兵「いや、家族ってのは良いもんだと思ってな」ウン

僧侶「ひとまず戦いは終わったんだ、あんたも家族に会えるさ」


警備兵「ああ、俺も早く家族に会いたいよ。しかし龍か…あんな存在がいるとはな」

警備兵「お前、これからどうするつもりだ?界を裁くとか何とか言ってたが……」

僧侶「オレにもまだ分かんねえ、色々と話さなきゃならない」

炎龍「僧侶様、お話しがあります」

僧侶「……分かった。少し外す、移動の準備だけしといてくれ」

警備兵「……ああ、皆にも伝えておく」


ザッザッザ…


警備兵「界を裁く……そんなのは一人の人間に背負わせるものじゃないだろう……」


僧侶「話しってのは裁きについてだよな」

炎龍「はい、都の人間全てを焼き払います。それが僧侶様の真意」

僧侶「……………」

炎龍「エルフ迫害に気付いていながら気付かぬ振りをした人間」

炎龍「分かっていながら何の行動も起こさなかった人間を、僧侶様は強く憎んでいます」

炎龍「エルフと同じ苦しみを知るべきだと……」

僧侶「もう言うな、オレのことはオレがよく分かってる」


>>>>

僧侶「話しってのは裁きについてだよな」

炎龍「はい、都の人間全てを焼き払います。それが僧侶様の真意」

僧侶「……………」

炎龍「エルフ迫害に気付いていながら気付かぬ振りをした人間」

炎龍「分かっていながら何の行動も起こさなかった人間を、僧侶様は強く憎んでいます」

炎龍「エルフと同じ苦しみを知るべきだと……」

僧侶「もう言うな、オレのことはオレがよく分かってる」


炎龍「では次に、先程の問いに対する返答をします」

僧侶「……頼む」

炎龍「僧侶様に救われた時、何かが変化したようです」

炎龍「それが他の龍にも影響を及ぼしたのではないかと思われます」

炎龍「水龍の異常行動も、私が僧侶様の求めに応じて現出したのも同じ理由です」

僧侶「水龍の異常行動とお前の取った行動は違う」


炎龍「……それはともかく、我々が器に対してこうした行動を取ったのは初めてです」

僧侶「……裁きは止めてくれねえのか」

炎龍「はい、それは出来ません。四龍はその為の存在ですから」

僧侶「もう一つ訊きたい、何故オレを選んだ」

炎龍「考えている通り、僧侶様が選ばれたのは偶然などではありません」


炎龍「神に遣わされた告発の天使。それが僧侶様、貴方です」


僧侶「…は…ははっ、オレが天使?そんな馬鹿な話しがあるかよ」

炎龍「これは冗談などではありません」

炎龍「人の身に堕とされたという見方も出来ますが、その力は間違いなく天界のものです」

炎龍「僧侶様、ただの人間が我々四龍を受け入れられると思いますか?」

炎龍「ただの人間が死者に新たな命を吹き込むことが出来ると?」

僧侶「っ、それは…」

炎龍「混乱しているようですが、質問は以上ですか?」


僧侶「な、なら勇者は何だ?勇者も天使なのか?」

炎龍「あの子は希望の子、裁きの後の始まりを導く者です」

僧侶「………裁きが終われば、オレはどうなる」

炎龍「本来いるべき場所、天界へ帰ることになるでしょう」

僧侶「……………」

炎龍「質問は以上ですね?」

炎龍「では私は裁きを執行します。また後ほどお会いしましょう」フワッ


僧侶「天使?天界?まるで分かんねえや、ははっ…ふざけんな……」


僧侶「……何が裁く者だ、だったらオレも裁かれるべきじゃねえのかよ……」

タタタッ…

僧侶「……勇者、迎えに来てくれたのか」

勇者「うんっ、早く行こう?皆待ってるよ?」ニコッ

僧侶「………っ!!」ギュッ

勇者「僧侶、どうしたの?なんで泣いてるの?どこか痛いの?」

僧侶「いや、そうじゃねえ……もう何が何だか分かんねえんだ……」


勇者「じゃあ一緒に考えよう?僕も一緒に考えるから」ギュッ


>>>>

北東の都 上空

炎龍「狂った水龍、私も変わった……僧侶様は我々に何を与えたのでしょう」


ーーじゃあ一緒に考えよう?
ーー僕も一緒に考えるから


炎龍「本来なら自我の崩壊に怯え、いずれは壊れて散るのが器の運命。今まではそうだった」

炎龍「器とは傀儡、自由はなく我等の思うがまま。傍らに勇者などという希望はなかったのに……」


バシュッ…


水龍「狂ったとは随分な言い草だな、だが確かに変化はあった」


炎龍「……随分早かったですね、しばらくは貴方の顔を見たくなかったです」

水龍「そう怖い顔をしないでくれないか、今は何もするつもりはない」

炎龍「今は…ですか」

水龍「ふふっ、こうして遠くから眺めるのも悪くないと思っているんだよ」

水龍「隣にいる勇者は邪魔だが、今は我慢しようじゃないか……」

炎龍「……己の界に戻ったので少し熱が冷めたのかと思いましたが、どうやら違うようですね」


水龍「この熱は決して冷めない、それが愛というものだよ炎龍」

水龍「しかし、まさか僧侶が天使だったとは思いもしなかった」

炎龍「貴方が言う愛とやらで感覚が鈍ったのではないですか?それ程に貴方は変わりました」

水龍「お前は違うのか?僧侶様などと呼んでいるくせに……」

炎龍「私は貴方のようにはなりません、僧侶様は私を救って下さいました」

水龍「ふふっ、ならば次はお前が僧侶を救うと言うのか?」


炎龍「……………」

水龍「馬鹿馬鹿しい、我等は龍だぞ?それは決して変わらない」

炎龍「それでも何かしたいと思っています。そろそろ消えて下さい」

水龍「……私に狂ったと言ったな?お前も中々に狂っているよ」

水龍「この異変、もしかすると神は本当に終わらせるつもりなのかもしれないな」

炎龍「消えて下さいと、そう言ったはずですが?」

水龍「分かった分かった。あぁ、裁きはお前に任せるよ。いずれまた会おうじゃないか……」


バシュッ…


炎龍「彼の者の望みに従い、穢れに裁きを……」


>>>>

エルフ「何だ?急に空気が変わったような…」」

娘「!!」

娘「父さん、あそこを見てください。兵士の遺体が消えています」

エルフ「一体何が起き…!!まさか僧侶が…」

娘「…………」

タタタッ…

警備兵「はぁ、はぁ…拘束していた兵士が急に消えた。いや、消えたと言うより

エルフ「何だ、何があった?」


警備兵「恐らく燃えたのだと思うが断定は出来ない」

警備兵「一瞬の出来事だった、赤く光った次の瞬間には消えていた」

エルフ「燃えた……炎龍か」

警備兵「炎龍ってのは僧侶と一緒に第二収容所から来た女か?」

エルフ「ああ、先程話したが龍は僧侶を器として選んだ。彼女は界を裁く四龍の一つだ」

警備兵「だが何故?エルフ救出は果たして終わったはずだろう?」

エルフ「僧侶の話しでは龍は真意を見抜き、器の意志を無視して裁きを実行するようだ」


警備兵「なら都の兵士が焼失したのは……」

娘「炎龍が僧侶さんの心を見抜き、裁きを実行したのだと思います」

娘「僧侶さんの心は無視して……」

警備兵「あいつはエルフを救うために俺達と都へ来たんだぞ……何てことを……」

エルフ「……どうやら龍とはそういう存在のようだな。ところで僧侶は?」

警備兵「その炎龍に呼ばれて何処かへ行った、勇者が迎えに行ったはずだ」

エルフ「なら今は待とう、何をするかは二人が戻って来てからにした方が良い」

警備兵「そうだな、しかし裁きとは何だ?炎龍は一体何をした?」

エルフ「……今は何とも言えん」

警備兵「しかもこの妙な静けさ、都に何が起きたのか調べる必要があるな……」


>>>>

勇者「四龍と界の繋がり、裁く者……」

僧侶「悪い、やっぱりまだ難しかったか?」

勇者「ゆっくり説明してくれたから分かる、龍がいなくなればいいの?」

僧侶「単純に言えばそうなる、でもそれじゃダメな気がする」

勇者「何で?」

僧侶「龍が消えたとしても界の繋がりはなくならねえ、そこを何とかしないと意味がない」

僧侶「結果として一番いいのは、それぞれが元の界に帰ることだ」


勇者「……僧侶も?だって天使なんでしょ?」

僧侶「炎龍の話しじゃそうみたいだな、お前が天使だってんなら分かるんだが……」

勇者「あのね?僧侶はこの世界は好きになった?」

僧侶「……エルフと出会って警備兵と出会って……それからは何かが変わった気がする」

僧侶「美しい心を持つ異界の種族、恨みを捨てて彼等を助けようとした人間」

僧侶「あいつらとは離れたくねえな、勿論お前とも……」


勇者「じゃあ、そうなるように頑張る」ウン

勇者「僕は僧侶がいる世界が好き、僧侶がいればもっと好きになれる」

勇者「だから何があっても絶対負けない、龍にも人にも……どんな怪物にだって負けない」

僧侶「……ありがとな。まったく、オレは本当にお前に頼りきりだな」

勇者「もっと頼ってくれていい、僕はその方が嬉しい」ニコッ

勇者「あとね?はっきり分かったことがあるから聞いて欲しい」

僧侶「ん?何だ?」


勇者「……僕は、僧侶を愛してる」


僧侶「……勇者、お前はまだ

勇者「細かい理由なんていらない、この気持ちが愛だと思うから……」

僧侶「お前、体が…」

勇者「これが僕の答え、この姿が僧侶に対する気持ち」

勇者「今は何も言わなくていい……」

勇者「でも僧侶が僕を愛してるって思ったら、その時はちゃんと言って欲しい」

僧侶「……ああ、分かったよ。約束する」


勇者「こんな風に話したのは初めて」

僧侶「そうか?今までだって色々話しただろ?」

勇者「ううん、僕は何も知らなかった」

勇者「命とか大切とか愛とか……僕は全然知らなかった」

勇者「色んなことに僧侶が答えてくれて、少しずつ少しずつ分かってきて……僕は変われた」

僧侶「…………」

勇者「僕は平気なのに怪我するたびに治してくれた。心配してくれた、怒ってくれた」

勇者「だから僕はようやくこんな風に僧侶と話せるようになれた」


僧侶「それはお前が自分で理解した結果だ、だから成長したんだ」

僧侶「変わろうとしない奴は変われない」

僧侶「お前は変わろうとした、だから変われたんだ」

僧侶「でもな?体の大きさや力の強さだけじゃ解決出来ない問題は沢山ある」

勇者「……うん、分かる」

僧侶「無闇やたらに力を振るう奴が強いわけじゃない」

僧侶「何の為に力を使うか考えなきゃダメなんだ」


僧侶「お前に傷付いて欲しくないとか、こんな風に色々と偉そうなことを言いながら結局お前に頼ってる……」

僧侶「オレにはそれが情けない、それは今のお前の姿を見ても変わらねえよ」

勇者「僕が出来ることと僧侶の出来ることは違う、だから気にしなくていい」

僧侶「そうか……ありがとな」

勇者「撫でてくれないの?いつもならやるのに……」

僧侶「(あー、やっぱり外見と声が変わると調子狂うな……ったく、急にでかくなりやがって)」

僧侶「(小さい時から整っちゃいたが、こんな爽やか美女になるとは……!!?)」


勇者「どうかしたの?」

僧侶「……急に体が大きくなったもんだから服が合ってねえ、後でオレの替えの服やるから着替えろ」

勇者「そんなに窮屈じゃないよ?」

僧侶「裾とか色々と短いから着替えろ」

勇者「うん、分かった。でも気になるんだね、僕の体……」

僧侶「あんまりふざけてると本当に怒るぞ」

勇者「ごめんなさい、後でちゃんと着替える」


タタタッ…

警備兵「はぁ…はぁ、此処にいたのか!あれ、その子は?」

僧侶「……勇者だ、服装同じだろ」

警備兵「えっ、お前ってそういう……」

僧侶「そんな目で見るんじゃねえよ!!オレは何もしてねえ!!」

警備兵「まあ、その話しは後でいい、とにかく来てくれ」

僧侶「あ、ああ分かった。勇者、行こう」

勇者「うん」

僧侶「……向こうに行ったら着替えてくれ、頼む」

勇者「分かった、すぐ着替える」


>>>>

エルフ「僧侶、悪いが炎龍が実行した裁きの内容を訊きたい」

僧侶「……都にいる全ての人間を

エルフ「もういい、すまなかったな」

僧侶「何があったんだ?また何か余計な

警備兵「違う、赤ん坊だけが生きているんだ」

僧侶「何!?」


警備兵「……やはり異常なのか?」


僧侶「炎龍は確かに裁きを執行すると言った、だからもう手遅れだと思っていた」

僧侶「水龍はエルフが殺されるのを見ていた、炎龍もそうだとばかり……」

エルフ「なら炎龍は自分の意志で人間の赤ん坊を生かしたと?」

僧侶「ああ、そうとしか考えられねえ」

エルフ「何故そんなことをしたのか分かるか?」

僧侶「炎龍はオレに救われて変化したと言っていた、他の龍も影響を受けたとも……」

僧侶「もしかするとそれぞれ違う考えを持ってるのかもしれねえ」

僧侶「水龍ならこんなことはしなかったはずだ」


警備兵「参ったな、赤ん坊を置いていくわけにはいかない」

警備兵「都から街まではかなり距離がある」

警備兵「揺れのある馬車に乗せるのは良くない、ここでしばらく面倒を見ないと……」

エルフ「赤ん坊には罪はない、だから生かしたのか?」

エルフ「……仕方ない、皆!赤ん坊を捜すぞ!」

ザワザワ…

警備兵「この際エルフだ人間だと言っている暇はない!俺達が動かなければ死ぬんだ!!」

警備兵「頼む!協力してくれ!!」


勇者「……………」ザッ…

ザワザワ…

勇者「皆は赤ん坊を見捨てて笑える?明日、自分の子供の前で笑える?」

ーー!!

勇者「僕達が助けようとすれば助けられる。なら、やることは決まってる」

エルフ「皆、行こう!このままでは我が子に笑われる!!」

警備兵「各自散開して捜索に当たれ!まずは一カ所に集める!!」


ザッザッザ…


勇者「あれで良かった?あ、ちゃんと着替えて来たよ?」

僧侶「ああ、良くやった。さあ、オレ達も捜そうぜ」ポンッ


勇者「へへっ、うんっ!」


>>>>

田舎町 教会

ーーな、何だこいつは!!
ーー怯むな、戦え!!

???「バーカ、お前等が束になってもオレには傷一つ付けられねえよ」

???「こんな子供を人質にして恥ずかしくねえのか?あ?」


ーー岩!?
ーーなっ…閉じ込められッ!?


???「……ふー、えーっと、僧侶の子供達だよな?」

孤児「そうだよ?お姉ちゃんは兄ちゃんの友達?」


???「ま、まあそんなもんだ、お前達を助けに来た」

孤児「兄ちゃんの彼女?」

???「まあ、惚れてるのは確かだな。あんな男は中々いねえ」ウン

孤児「……それは日焼け?」

???「肌は元からこうなんだ、とにかくオレと一緒に来い!」

孤児「姉ちゃん格好いい!ねえ、お名前は?」

???「土龍だ!よろしくな!」

孤児「ドリュウ?わー、男の人みたい!!」


土龍「……これでも一応女なんだ、止めてくれ」

早いけど寝るまた明日書く

土龍はタントップ着てる。ホモはない

タンクトップだった寝るまた明日書く


孤児「兄ちゃんは旅に勇者様と旅に出たの、だから今はお留守番なんだ……」

土龍「そっか、偉いな」

土龍「(にしても結構いるんだな、よく一人で面倒見れたもんだ)」

土龍「(辺りの住民も協力的みたいだし、僧侶も色々と頑張ってたんだな……早く会いてえ)」


ーー頼む、此処から出してくれ!
ーー子供達は解放する!だから頼む!


孤児「出してあげないの?かわいそうだよ」

土龍「……もう少しあのままにしとく、お仕置きみてえなもんだ」


土龍「なあ、兄ちゃんに……僧侶に会いたいか?」

孤児「うん、会いたい。だけど心配かけちゃダメだから……」

孤児「兵隊の人達はすぐ怒るから怖いけど我慢出来る、ご飯も食べられるし大丈夫」ウン

孤児「きっと、兄ちゃんも遠くで頑張ってるから……」グスッ

土龍「…………」ビキッ

土龍「……皆、ちょっと目瞑っててくれ。ちょっと手品見せてやる」

孤児「手品?お姉ちゃん手品出来るの?」

土龍「まーな、だから少しだけ目を瞑っててくれ」


孤児「はーい」スッ

土龍「彼の者の光を守護する為、略奪者に裁きを下す」


ゴゴゴッ…グシャ…バシュッ!


土龍「よーし、もういいぞ?」

孤児「あっ!岩なくなってる!!何処行ったの?」

土龍「悪い王様がいる所に返したんだ、今頃びっくりしてんだろうな」


孤児「ねえねえ、もっと見せて!」

土龍「仕方ねえな、いいか?よーく見てろ」スッ

孤児「わっ、石が浮いてる!ねえねえ触ってもいい?」

土龍「ああいいぞ?皆で遊べ」


ーーすっげー!本当に浮いてる!
ーーあっ、石が逃げた!


土龍「子供達連れてさっさと行くつもりだったんだけどな」


ーーじゃあ誰が先に取れるか競争しよう?
ーーうんっ!さんせー!



土龍「これが僧侶の見てた景色……もう少しだけ此処にいるか」


>>>>

孤児「兄ちゃんは勇者様と旅に出たの、だから今はお留守番なんだ……」

土龍「そっか、偉いな」

土龍「(にしても結構いるんだな、よく一人で面倒見れたもんだ)」

土龍「(辺りの住民も協力的みたいだし、僧侶も色々と頑張ってたんだな……早く会いてえ)」


ーー頼む、此処から出してくれ!
ーー子供達は解放する!だから頼む!


孤児「出してあげないの?かわいそうだよ」

土龍「もう少しあのままにしとく、お仕置きみてえなもんだ」

>>377は× >>381が○です。
ミスした、ごめんなさい。


>>>>

北東の都

僧侶「流石に一つの建物じゃあ無理だったな」

警備兵「ああ、だがエルフ達のお陰で早めに終わった。彼等も疲れているはずのに……」

僧侶「勇者の言葉があったからだろうな、成長したもんだ」

警備兵「いきなり成長したものだから皆が驚いてたぞ?何だって急に……」

僧侶「勇者が自分で決めたことなんだ、まあいいじゃねえか」

警備兵「別に反対しているわけじゃないんだが対応に困る……」

警備兵「今まで通りに接していいのかどうか」


僧侶「心は外見ほど成長してねえからなぁ、まあ今まで通りでいいんじゃねえか?」

警備兵「……二人はまだ話してるのか?」

僧侶「ああ、勇者も何とかしようとしてるんだ。もうオレが口出しすることもないかもな」

警備兵「何だ、寂しいのか?」

僧侶「そりゃあ少しはな、でもまあ……オレがしてやれることをするだけだ」

警備兵「へえ、お前も以前より素直になったじゃないか。それも勇者のお陰だな」ウン


僧侶「何だその顔、にやにやしやがって気色悪い」

警備兵「……相変わらず口は悪いな」

僧侶「うるせえ」

警備兵「はぁ、まあいい……もう陽も落ちた、迎えに行ったらどうだ?」

警備兵「これもしてやれることの一つだと思うぞ?勇者もきっと喜ぶ」

僧侶「……ああ分かったよ、ちょっと行ってくる」


ザッザッザ…


警備兵「根は良い奴なんだがなぁ……」


>>>>

勇者「じゃあ僕のことも憶えてる?」

炎龍「はい、勿論憶えています」

勇者「何で僕と僧侶のこと襲ったの?」

炎龍「器には必要ない要素があったので排除したかったのだと思います」

勇者「天使とか生き返らせたりする力のこと?」

炎龍「はい、器は器です。特別である必要などありませんでした」


勇者「今は違うの?」

炎龍「僧侶様に救われてからは違います、どの龍も大小問わず変化していますから」

勇者「炎龍も変わった?」

炎龍「……はい、そう思います」

勇者「僕も変わった」

炎龍「それは姿がですか?」

勇者「ううん、そうじゃなくて僕の中が変わった」

勇者「嬉しい寂しい悲しい痛いとか色々……」


炎龍「貴方に痛みはないのでは?」

勇者「僧侶が怪我したりすると痛くなる」

炎龍「……何となくですが、それは分かります」

勇者「なのに裁きをやめなかったの?僧侶は凄く苦しいと思う」

炎龍「っ、龍である限り、それを止めることは出来ません」

勇者「あの時、森で僧侶に助けられた炎龍は僕と同じ気持ちだった」

勇者「なんて言うか……優しい気持ちになれたんじゃないの?違うの?」


炎龍「今までにない感覚だったのは確かです」

炎龍「ですが私にはそれが何なのか分かりません……」

勇者「炎龍は僧侶のこと好き?」

炎龍「そんなことはありません、私は水龍とは違います」

勇者「なら何で赤ん坊を殺さなかったの?」

炎龍「それは…」

勇者「少しでも僧侶の悲しい気持ちを減らしたかったんじゃないの?」


炎龍「私はそんなこと

勇者「四龍と僧侶が一緒になったら僧侶はいなくなる。炎龍はそうしたい?」

炎龍「……もう止めてください」

勇者「悲しい顔してるよ、炎龍」

炎龍「もう止めて下さい!」

炎龍「悲しい?そんなことはありません!私は龍です!」


勇者「ならなんで怒るの?」


炎龍「!!」

勇者「怒るのは、それが本当だから?」

炎龍「ッ!!先程から貴方は何を言いたいのですか!?私には分かりません!!」

炎龍「僧侶様を救いたいのなら私を殺せば良いでしょう!!」

勇者「死にたい人はそんなこと言わない、やせ我慢してるだけ。僧侶が言ってた」

炎龍「馬鹿にするなッ!!」グイッ

勇者「別に殴ってもいいけど、僕が訊きたいのは炎龍はどうしたいのか……それだけ」


炎龍「私は……私は僧侶様を失いたくない」

炎龍「あの時の気持ちを、あの手の温もりを忘れたくないっ……」

勇者「じゃあそうすればいい、炎龍は炎龍なんだから」

勇者「僧侶は僕みたいに戦ったり出来ないけど人を変える力がある……と思う」

炎龍「変える力?」

勇者「うん、時々怒鳴ったり嫌われるようなこと言うけど色々考えてる」


勇者「エルフに大切なことを伝える為に死にそうになったりした」

勇者「でも、だからこそ僧侶の言葉を聞くんだと思う」

勇者「炎龍も僧侶と話せばいい、分からないことがあれば聞けばいい」

炎龍「会話など必要ありません、繋がりは消えていないので……」

勇者「そういうこと言うから炎龍はダメ。知りたいなら聞かないと意味がない」

炎龍「……そう、なのですか?」

勇者「顔を見て、目を見て話すないとダメ」


勇者「そうしないと何が嘘か本当かなんて分からない」ウン


炎龍「!!」

勇者「分かった?」

炎龍「……はい…今度、話してみます」

勇者「うん、それでいい。頑張って」

炎龍「あのっ、本当に良いのですか?私を

勇者「殺さないよ?」

勇者「四龍を殺して済む話しじゃねえって僧侶も言ってた。それに……」

炎龍「?」

勇者「僕が炎龍を殺したくない」


ーー僕が炎龍を殺したくない

僧侶「(水龍、勇者は自ら選択出来ないと言ったが、どうやら間違いみてえだな)」

僧侶「(立ち聞きするのも悪いし、そこら辺で待ってるか……)」


ザッザッザ…


僧侶「……これから更に界が繋がればまた争いが起きる」

僧侶「人間が被害者になるか加害者になるかは種族によるだろうが……」

僧侶「戦になれば勇者に頼らざるを得ない、オレ含め人間そのものが勇者の足枷になるかもしれねえ」


僧侶「あーあ、どうすっかなぁ」

炎龍「あの」

僧侶「ん?炎龍か、話しは終わったのか?つーか勇者は?」

炎龍「勇者なら先に行きました。僧侶様と話すなら今が良いそうです」

僧侶「いつの間にそんな気遣いを……まあいいや、話しって何だ?」


炎龍「貴方は私を憎んでいますか?」


僧侶「いきなりだな……憎いかどうかなんて分かんねえよ」

炎龍「何故です?」

僧侶「そもそも龍は裁きを下す存在、さっきお前がやったことは龍にすれば当たり前」

僧侶「だから良いだろってことにはならねえし、確かに許されることでもない」

炎龍「ではやはり

僧侶「最後まで聞け、あれはオレが望んだことなんだろ?」


炎龍「……はい」

僧侶「そうなるともっと面倒になる。裁きを下したのはお前、望んだのはオレだ……」

僧侶「そこに龍の存在理由なんてもんが加わったらオレには何も言えない」

僧侶「オレが殺せと指示した、そう言われたら否定出来ないしな」

炎龍「…………」

僧侶「良いか悪いかだったら悪いだろう、裁きなんてない方がいいに決まってる」


僧侶「都の人間を殺し、大勢の人生を勝手に終わらせた。それだけは事実だ」

僧侶「終わらせたのがオレかお前かなんて話しじゃない。結果、そうなった」

僧侶「だから憎んでいるかと聞かれてもオレには答えられない」

炎龍「……罪の意識は、ありますか?」

僧侶「そりゃあるさ……」

僧侶「今頃エルフ達が世話してる赤ん坊の親、家族の命を奪ったんだからな」

僧侶「殺されたって文句は言えねえよ……」


炎龍「それでも保っていられるのは何故です?逃げようとはしないのですか?」

僧侶「界を始まりに戻してさようなら、なんて風には考えられねえんだよ」

僧侶「こんだけのことをしちまったんだ、オレもいずれ裁かれるべきだ」

炎龍「……僧侶様、貴方は変な人ですね」

僧侶「はあ?」

炎龍「私か貴方か、そんなことは関係ないと言いながら自分で背負っています」


炎龍「言っていることが滅茶苦茶です」

僧侶「……そんなもんだよ、人間なんてのは」

炎龍「話しは変わりますが

僧侶「急だな!!何がしてえんだよ……」

炎龍「土龍が人界に来ました、僧侶様の子供達と一緒にいるようです」

僧侶「で?何したんだ、土龍は」

炎龍「監視及び管理していた兵士を裁き、子供達を解放しました。彼女の意志です」


僧侶「水龍とは全然違うな、出来れば礼を言いてえけど……今は何してんだ?」

炎龍「子供達の寝顔を眺めています」

炎龍「どうやら僧侶様が見ていたものを知りたいようです」

僧侶「へー、変わった龍もいるんだな……」

僧侶「いやー、でも何か嬉しいな!安心したよ」ウン

炎龍「……僧侶様、『私には』何か出来ることはありませんか?」


僧侶「お前、それが聞きたかったから土龍の話ししたのか?」


炎龍「……ええ、まあ…はい」

僧侶「はぁー、随分回りくどい奴だなぁ、最初からそう聞けば良いだろ?」

炎龍「駄目でしたか?」

僧侶「ダメっつーか疲れねえか?そういうの?」

炎龍「うっ…私のことはいいです、早く答えて下さい!」

僧侶「はぁ……じゃあ界が繋がった場所とか塞ぐ方法とか分かるか?」

炎龍「繋がった場所は分かりますが塞ぐ方法はありません」


僧侶「何故?開けられるなら塞げるだろ?」

炎龍「一度繋がった界は例え穴を閉じても繋がりは消えません」

炎龍「穴が閉じていても水龍が戻って来たのが良い例です」

僧侶「水龍!?あいつまだ生きてんの!?」

炎龍「伝わっていませんでしたか?」

僧侶「全く気付かなかった……まあ今はいいや、続けてくれ」

炎龍「言わば界同士が密着しているような状態なのです。至る所から穴が現れるのもそれが原因」


炎龍「完全に塞ぐのであれば切り離すしか方法はありません」


僧侶「人界にくっついてる異界の切り離しか……」

僧侶「出来る奴はいるか?勇者はどうだ?」

炎龍「存在しません、勇者にも我々にも不可能です」

炎龍「しかしドワーフであればそれを可能に出来るかもしれません」

僧侶「ドワーフ?何だそれ?」

炎龍「鍛冶工芸にとても秀でた種族で、非常に強い力を持つ武器を造ることが出来ます」


僧侶「じゃあそのドワーフってのに頼めば……」


炎龍「はい、可能性はあると思います」

僧侶「炎龍、ありがとな。今の情報だけでも十分だ」

炎龍「他には何かありませんか?私は貴方を失いたくありません……」

僧侶「何だよ急に……」

炎龍「あの時の僧侶様の手の温もり、今でもはっきりと憶えています」

炎龍「貴方の為なら命を捧げます」

僧侶「裁きはどうする?」


炎龍「裁きを防ぐ為です、貴方は裁きを望んでいないから……」

警備兵は他所に家族を残してきた単身赴任的なアレなのか?


僧侶「あのなぁ、お前を殺したとして他にも龍はいるんだぞ?」

僧侶「それこそ水龍みてえな奴もいるんだ、お前が死んでどうにかなるもんでもねえだろ」

炎龍「なら私はどうすれば

僧侶「ぐだぐだ言わずに生きろ!奪った命を忘れるな!もう少し力抜け!!」

僧侶「後はそうだな……難しい顔ばっかしてないで笑え」

炎龍「!!」

僧侶「あーあ、疲れたからもう行くぞ?お前も寝ろ、じゃあな」


ザッザッザ…


炎龍「勇者、好きかどうかは分かりませんでした……」

炎龍「でも私の大切が何なのか……それだけは分かりました」


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小さな空き家

勇者「遅かったね」

僧侶「話しが長くなったんだ、つーか寝てても良かったんだぞ?」

勇者「他の女と夜更けまで?けしからん奴だな」

僧侶「警備兵が言ったのか、あの野郎……」

勇者「頭ごなしに怒ってはダメだ、理由を聞いて許してやることも必要だぞ?」

僧侶「……エルフだな」

勇者「僧侶さんはそんなことしませんよ、きっと大丈夫です」


僧侶「エルフの娘さんか、良い子だな」ウン

勇者「みんなに話した」

僧侶「話すな」

勇者「……僧侶、今日はお疲れさま。もう休んだ方がいい」

僧侶「でもエルフ達は

勇者「赤ん坊のことは任せてくれって言ってた」

僧侶「そうか、何だか無理させちまったな……」


勇者「明日からどうするの?」

僧侶「ドワーフっていう異界の種族を捜す、詳しいことは明日話そう」

勇者「分かった」

僧侶「……勇者、お疲れさま。ゆっくり休め」

勇者「うん、ありがとう……」

僧侶「なあ勇者」

勇者「なに?」

僧侶「種族も関係なく皆で暮らしていけると思うか?」

勇者「分からない、でもそうなったら嬉しいと思う」

僧侶「……ああ、そうだな」

寝るまた明日書く

>>409北の街在住の兵士として書いてましたがそれもいいかもしれない

大体こんなに長くなると思ってなかった、困った。


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勇者「僧侶、朝だよ」ユサユサ

僧侶「んー、ああ今起き……」

勇者「どうかしたの?」

僧侶「いや、まだその姿に慣れてねえから驚いただけだ」

勇者「………」ズイッ

僧侶「ん?何だ?」


勇者「おはよう、僧侶」ニコッ

僧侶「うっ…やめろ。あんまりからかうな、ほら行くぞ」

勇者「顔赤いよ?」

僧侶「うるせえな、早くしねえと置いてくぞ」

勇者「へへっ、うん」

ザッザッ…


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古風な屋敷

エルフ「……来たか」

警備兵「良く眠れたか?」

僧侶「ああ、エルフとあんた達が赤ん坊を引き受けてくれたからな」

僧侶「なんつーか助かったよ、ありがとう」

エルフ「珍しく素直じゃないか、表情も以前より穏やかだ」

警備兵「いい女性に巡り逢えて良かったじゃないか」ウン


勇者「僕のこと?」

警備兵「ああ、勇者のような美女に好かれて嬉しくないわけがない」

勇者「僕は美女なの?」

エルフ「そうだな、エルフから見ても美しいと評判だ。私の娘には及ばないがな」

僧侶「……お前等随分仲良くなったな。つーかその顔止めろよ、腹立つな」

エルフ「何故腹を立てる?私は事実を言っただけだ」


僧侶「ああそうかい、ありがとよ」


警備兵「もう少し自分の気持ち素直になれ、いつか後悔するぞ?」

僧侶「お前は完全にからからってるよな?」

僧侶「はぁ……まあいいや、お前等はこれからどうするんだ?」

エルフ「昨夜皆と話したんだが、我々はこの都に身を置くことにした」

エルフ「奪ったようで悪いが他に行く場所もない、しばらくは此処で赤ん坊の面倒を見ていく」

僧侶「……押し付けちまって悪いな」


エルフ「気にするな、こう言っては何だが居場所が出来て安心している」

エルフ「堅固な外壁と見張り塔がある、簡単に侵入されることもないだろう」

僧侶「あんたはどうする?」

警備兵「オレも残ろうかと思ってる」

警備兵「何もかもエルフ達に任せて帰ることは出来ない」

警備兵「それにエルフが外で物資を手に入れるのは困難だろうからな……」

僧侶「……一度帰って家族に話したほうがいいんじゃねえか?」


警備兵「まあ、もう少し落ち着いたらそうするつもりだよ」

警備兵「傷が癒えたとはいえ不安定な子もいる。ああいう子を守るのは大人の役目だ」

警備兵「俺達はそう決めたが、二人はこれからどうするんだ?」

僧侶「説明すると長くなるから要約するが、界を元に戻すのに必要な同郡を造れる種族を捜す」

エルフ「それはもしやドワーフか?」

僧侶「知ってんのか?」

エルフ「ああ、中々気難しい種族で我々とはあまり友好的な間柄ではない」


エルフ「人間に対しても恐らく変わらないだろう」

僧侶「結構苦労しそうだな、好戦的なのか?」

エルフ「いや、外見に反して思慮深く争いは好まないはずだが……」

エルフ「界が変わった今では何とも言えない、人間が仕掛ければ頑として戦うだろう」

僧侶「そりゃそうだよな……まあ後は炎龍と話して場所が分かるか訊いてみる」

僧侶「人界に来ているかもまだ分からねえからな」

警備兵「そのドワーフに会ってどうするんだ?彼等には何か特別な力が?」


僧侶「炎龍によれば鍛冶工芸に秀でた種族らしくてな、強力な道具を造れるらしい」

僧侶「その道具で繋がってる界を切り離すのが目的だ」

警備兵「……何だかここまで話しが大きくなると流石に理解が追い付かないな」

僧侶「あるべき場所に戻すってだけさ、そんなに難しい話しじゃねえだろ?」

警備兵「そうは言うが……本当に大丈夫なのか?」

警備兵「そのドワーフとやらが頼みを聞いてくれるかどうかも分からないだろう?」

僧侶「何度でも頼むしかねえさ、ドワーフにだって故郷に帰りたい気持ちはあるはずだ」


エルフ「……故郷か」

僧侶「どうした?」

エルフ「いや何でもない。それより僧侶、気を付けた方がいい」

僧侶「何をだ?」

エルフ「要求に応じたとしても、恐らく代償を払わなければ造ってはもらえないだろう」

僧侶「……憶えとくよ。うっし、それぞれ何をするか決まったな」

僧侶「勇者、オレは炎龍と話してくる。それまで頼む、また妙なのが現れるかもしれねえ」

勇者「うん、任せて」

ザッザッザ…


警備兵「勇者、僧侶はどうだった?昨夜は塞ぎ込んだりしてなかったか?」

勇者「うん、大丈夫。僧侶はそういうのに負けないから」

警備兵「……ああ、そうだな。あいつはそういう奴だ」

エルフ「しかし僧侶が天使か……」

エルフ「あの口調からは想像出来ないが不思議と納得してしまうな」

エルフ「昨晩勇者に聞いた時は驚いたが……」


警備兵「俺だって驚いたよ」

警備兵「だが確かに違和感だとかそういう類の気持ちはないな」

警備兵「エルフや俺達を含め全員を治療……蘇生までしてくれた」

警備兵「あの時の表情からするに過去の傷は癒えてはいない」

勇者「……ねえ、僕が僧侶を治すにはどうしたらいい?」

エルフ「勇者、過去の傷、心の傷とはそう簡単に癒えるものではない」


エルフ「だが傍らにいて支えてやることは出来る。それはきっと勇者にしか出来ないだろう」

勇者「……支える」

警備兵「まだ少し分からないか?」

勇者「うん、あんまり分からない」

警備兵「だったら今まで僧侶が勇者にしたことをしてやればいい」

警備兵「それが支えるってことだ、お互いを大切に思えば自然とそうなる」

勇者「愛する妻とか結婚とかと同じ?」


警備兵「ははっ、似てるけどそれはまた違う。まあいずれ分かる」


エルフ「だが勇者、僧侶に愛していると伝えたのだろう?」

勇者「うん、言った」

エルフ「ならその気持ちを忘れなければいい、僧侶にはきっと伝わってる」

勇者「本当?」

エルフ「ああ、僧侶は向けられた想いを無視するような男ではない」


エルフ「口には出さないだろうが、奴はそういう男だ……」


勇者「……そっか…うん、分かった」

勇者「じゃあちょっと外に出て来る、何かあったら叫んで教えて欲しい」

警備兵「ああ、気を付けてな」

勇者「うん」


ザッザッザ…


エルフ「まるで子に教えているような気分だ。少し疲れるな」

警備兵「でも嫌ではない、か?」

エルフ「ふっ、そうだな……いつか娘からもこんな話しを聞かされるんだろうか」


警備兵「十五歳か、多感な年頃だな」

警備兵「しかし自分から赤ん坊の世話を引き受けるとは……出来た娘さんじゃないか」

エルフ「……少しでも僧侶の力になりたいんだそうだ。助けられた時のことを何度も聞かされたよ」

警備兵「……複雑だな」

エルフ「私と妻と娘の恩人だ、勿論信頼しているが……娘のこととなると少々な…」


警備兵「まあ何だ……憧れや尊敬のようなものじゃないのか?」


エルフ「憧れを王子様とは表現しないだろう」

警備兵「そ、そう怖い顔するなよ。まだ子供だろ?微笑ましくていいじゃないか」

エルフ「自分の息子を娘として考えてみろ、気が気でないぞ」

エルフ「父さん父さんと言っていた愛娘が奪われるんだ、どうだ?」

警備兵「……信頼云々は抜きにして腹立たしくなるな」

警備兵「まさかお前、だから勇者に色々教えてるのか?早くくっつかせる為に?」

エルフ「よせ、もう何も言うな。勇者を応援する気持ちは本物だ」

警備兵「娘ってのは大変だな……」

エルフ「ああ、生まれた瞬間から覚悟しておいた方がいいぞ?」


警備兵「まだ子供は欲しいんだ、やめてくれよ……」

>>424
×僧侶「説明すると長くなるから要約するが、界を元に戻すのに必要な同郡を造れる種族を捜す」

○僧侶「説明すると長くなるから要約するが、界を元に戻すのに必要な道具を造れる種族を捜す」

そもそもこんなに長くなるとは思ってなかったので何とも言えません。このスレで終わらせたいとは思ってます。


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見張り塔の上から

僧侶「へー、良い眺めだな」

炎龍「……良かった」

僧侶「ん?何がだ?」

炎龍「いえ、この場所にして良かったと思いまして」

僧侶「短い間に変わるもんだな」

炎龍「えっ?」


僧侶「お前だよ、昨日より表情が柔らかくなってるからさ」


炎龍「そ、そうですか?」

僧侶「ああ、その方がいい。しかし良い風が吹くなぁ、天気もいいし……」

炎龍「僧侶様は

僧侶「今更だが僧侶でいい、何だか偉そうにしてるみたいで落ち着かねえ」

炎龍「命を救った相手に対して失礼です!!」

僧侶「何で怒鳴るんだよ、第一もう過ぎたことだろ?」

僧侶「妙に堅苦しいよな、お前」


炎龍「過ぎたことですか、貴方の中では些細なことなんですね」

僧侶「そうは言ってねえだろ、何か変だぞ?どうしたんだ?」

炎龍「私にとっては大事な思い出なんです!そんな風には言わないで下さい」

僧侶「分かった……え、お前泣いてんのか?」

炎龍「龍が泣いたら変ですか?」

僧侶「そういうわけじゃねえけど大丈夫か?昨日と全然違うぞ?」

炎龍「……勇者が言うには、僧侶様には人を変える力があるそうです」


僧侶「そんな力ねえよ、皆が勝手に考えて勝手に変わってくだけだ」

僧侶「自分は自分の力でしか変えられない」

炎龍「でも私は僧侶様に救われて変わりました、これは事実です」

僧侶「……お前は、それで良かったか?」

炎龍「はい、良かったと思います」

僧侶「そうか、ならいい……」


炎龍「私が……四龍が変わったことを気にしているのですか?」


僧侶「心を読んだのか?」

炎龍「……申し訳ありません」

僧侶「別にいい、確かに気にしてるからな」

僧侶「お前みたいな龍もいれば水龍のような奴もいる、変化はそれぞれだ」

僧侶「そうしたのはオレなんだろ?そりゃあ気にするさ」

炎龍「………えー、ドワーフの件ですが」


僧侶「はぁ!?本当に急だな!!何なんだよ!?」



炎龍「それは気にしなくて良いです、では話しを続けます」

僧侶「はぁ…じゃあ頼む」

炎龍「ドワーフはこの都より西にある山村にいるようです」

炎龍「本来なら山脈を越えねばなりませんが、私が背に乗せるので問題はありません」

僧侶「ん?貴族の館で水龍が突然姿を現したんだがお前には出来ないのか?」

炎龍「出来ますが人と共に転移したことはありません、試してみますか?」


僧侶「いや、いい……山脈を楽に越えられるだけで十分だ」ウン

炎龍「出発は今日でよろしいですか?」

僧侶「そうだな、早い方がいい」

炎龍「それと一つ伝えたいことがあります、これを見て下さい」

僧侶「……その胸の傷痕、まさか勇者の?治ってなかったのか?」

炎龍「はい、これは勇者の力によるものです」

炎龍「勇者が振るう武器……」

炎龍「いえ、武器として使う物は全て必殺の威力を持ちます」


僧侶「だから一撃でお前を仕留められた……」

炎龍「はい、木が刺さった程度で龍が死ぬことは絶対にありません」

炎龍「しかし勇者ならば話しは別です、自覚すれば小石ですら龍を殺せるでしょう」

僧侶「何だってそんな力を?」

炎龍「これまであのような存在が現れたことは一度たりともありません」

炎龍「今回は何もかもが違います、これまでと違った結果になるかもしれません」


僧侶「なら勇者はその為に力を?」

炎龍「はい、神が何を考えて与えたのかは分かりませんが結末は変化するでしょう」

僧侶「……希望の子か」

炎龍「それと、そろそろ土龍が来ます」

僧侶「は?」

炎龍「先程伝わってきました。安心して下さい、子供達も連れてくるそうです」

僧侶「……これからはオレの心にも伝えてくれ、後は勝手に心読むな、頼むから……」


炎龍「……はい、分かりました」

僧侶「で、土龍は大丈夫なのか?」

炎龍「土龍は既に裁きを下したので大丈夫かと思いますが」

僧侶「それは昨日聞いた。そうじゃなくて性格とか大丈夫なのか?」

炎龍「水龍の時のような事態にはならないと断言出来ます」

僧侶「……ならいいや、もう面倒くせえし。もう行こうぜ?皆に伝えねえと…」


炎龍「あのっ!」

僧侶「ん?」

炎龍「僧侶様は勇者を愛していますか?」

僧侶「昨日今日で体が大きくなった女を愛するような馬鹿じゃねえよ、オレは」

炎龍「……なら私は、貴方にどう見えますか?」

僧侶「お前、オレのこと好きなのか?」

炎龍「そう受け取っても構いません」


僧侶「はぁー、お前って意外と惚れっぽい奴なんだな?」

僧侶「そんなんじゃこれから先苦労するぞ?」

僧侶「つーか龍も恋愛に興味あるんだな、そんなに人と変わんねえのかも……」

炎龍「こ、答えて下さい!!」

僧侶「急に大きい声出すなよ……見た目は綺麗だし頼りになる奴だと思う」

僧侶「赤ん坊生かしたり色々考えてくれてんのもよく分かる」

僧侶「きっと優しい奴なんだよ、お前は……」


炎龍「……………」

僧侶「何だよ、答えたんだから何か言えよ」

炎龍「照れているのですか?」

僧侶「うるせえ、オレは先に行くからな」


ザッザッザッ…


炎龍「勇者の言う通り、目を見て話すことは大事ですね」


ヒョゥゥゥ…


炎龍「ふふっ、先程までは変化を恐れていたのに……今はこんなに心地良い」


>>>>

大通り

ズズンッ…


勇者「何だろう」


タタタッ…


土龍「よーし着いたぞ、もう大丈夫だ!」

孤児「兄ちゃんはここにいるの?」

土龍「ああ、もうすぐ兄ちゃんに会える。迷子にならねーように手繋いどけ」

孤児「はーい!」

孤児「あ、誰かいるよ?あの人に道きこう?」


土龍「そうだ…な……!!」

孤児「姉ちゃん?どうしたの?」

土龍「ちょっと其処の店入っておもちゃでも見てろ、少し時間が掛かりそうだ」

孤児「うん、わかった!」


ザッザッザ…


土龍「…………」ザッ

勇者「……………」ザッ


土龍「テメエが勇者だな」

勇者「そうだけど、あなたは誰?」

土龍「オレは四龍が一つ、土龍」

勇者「あの子達はなに?何で一緒にいるの?」

土龍「人質にされてた僧侶の子供達だ、オレが連れて来た」フフン

勇者「……ふーん」


土龍「何だ?もしかして僧侶に聞いてねーのか?」

勇者「……聞いてない」

土龍「ふーん、あんまり信頼されてないんじゃねーの?」

勇者「そんなことない、僕と僧侶はずっと一緒にいる」

土龍「一緒にいるだけで信頼されてるなんてめでたい奴だな」

勇者「信頼してない人と一緒にはいれない、あなたは馬鹿?」


土龍「ハッ、今まで世話になってばかりだったクセによく言うぜ」

勇者「あなたに僕と僧侶のこと言われる筋合いはない」

土龍「僕と僧侶?相手にもされてねーのにそんなこと言えんの?」

勇者「僧侶はちゃんと考えてくれてる」

土龍「こっちは炎龍通して繋がってんだ、僧侶の気持ち知りたいか?」

勇者「それ以上言われたら怒る自信がある」


勇者「それより炎龍を通してじゃないと繋がれないんだね?」

土龍「……なんだと?」

勇者「僕はいつでも繋がってるけど」

土龍「ふんっ、僧侶はテメエのことなんか何とも思ってねーよ!!」

勇者「……怒った、今から殴る」

土龍「いいぜ?かかってきな」

勇者「あんまり、いい加減なことを、言うな!!!」


ドゴッ!


土龍「ってえな、テメエみてーなガキは相手にされてねえんだよ!!」ググッ


バキッ!

勇者「何一つ自分で見てない奴が口出しすんなッ!!」


ドガッ!!


土龍「見てるだけで何もしてねーだろうが!!テメエは!!」


ズドンッ!!


勇者「分かったような口をきくな馬鹿野郎!!」


ズドンッ!ドガッ!バギッ!!ドゴォッ!!


土龍「ハァ、ハァ、これで少しはすっきりしたぜ」

勇者「……まだ足りないけど特別に許してやってもいい」


土龍「ふーっ、子供達呼んでくるから案内してくれ」

勇者「うん、分かった」


ザッザッザ…


土龍「さて行くか」

勇者「こっち、僕に着いてきて」

孤児「ねえ、お姉さんは誰?」

勇者「僧侶の愛する妻……になる予定の勇者」

土龍「あ?」

勇者「予定を言っただけ、何の問題もない」

孤児「兄ちゃんのお嫁さんになるの!?キレイだねー!!」

勇者「うん、だって僕は美人だから」


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小さな空き家

僧侶「……それで?」

勇者「我慢できなくて喧嘩しました」

土龍「怒られてんじゃねーか、バーカ」

僧侶「それはお前もだ!ふざけるな!!」

土龍「!!」ビクッ

僧侶「子供達の前で喧嘩して痣だらけで帰ってきて笑ってんじゃねえぞ馬鹿野郎!!」


僧侶「勇者!強い奴が何の為に力を使うかって言ったばかりだろ!!」

勇者「……ごめんなさい」

僧侶「土龍、お前には子供達を助けてもらった。本当にありがとう」

僧侶「でもな、こんなことは二度としないでくれ」

土龍「……はい、分かりました」

僧侶「オレは炎龍とドワーフのいる山村に行ってくる。子供達を頼む」


ザッザッザ…


土龍「………」ズーン

勇者「……………」ズゥーン


土龍「……僧侶って怖いな」

勇者「大切だからあんなに怒る、嫌いだったら何も言わない」」

土龍「ホントか?」

勇者「うん、だからもう喧嘩しない。ごめんなさい」

土龍「オレも悪かった、ごめんな」

勇者「別にいい、お互いの気持ちは分かったから」


土龍「……オレ、僧侶のこと考えるとダメなんだ。変になっちまう」

勇者「何で?」

土龍「分かんねー、僧侶のことすっげー好きなんだと思う」

勇者「好きになったら大変だよ?」

土龍「だよなー、オレも一緒に行きたかった」

勇者「でも我慢、僕達は子供達と赤ん坊を守る」

土龍「そうだな!文句言っても始まらねーし」ウン

早いけど寝るまた明日書く


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炎龍「良かったのですか?」

僧侶「ああ、二人共まだ子供だ。あれでいい」

炎龍「……僧侶様は誰かを愛することが怖

僧侶「皆には伝えて来た、もう行こう」

炎龍「……はい、分かりました」

僧侶「炎龍」

炎龍「何でしょうか?」


僧侶「四龍を変えたのはオレだと言ったな」

炎龍「は、はい」

僧侶「恐らく変えたのがオレだから特別視してるだけだ」

僧侶「こんなに強く好意を抱かれるのはどう考えても不自然だ、お前も少しは疑え」

僧侶「その気持ちすら

バチンッ!

僧侶「…………」

炎龍「私達の想いを貴方が決めないで下さい!!これは私達の物です!!」


僧侶「そこまで言うなら何も言わねえよ」

炎龍「……叩いてしまって申し訳ありませんでした」

僧侶「謝るな、お前が決めたことだ」

炎龍「ッ!!貴方は私達を信じてくれないのですか?」

僧侶「…………」

炎龍「無礼を承知で言いますが過去を怖れていては僧侶様は変われません」

炎龍「貴方の心は温かく優しいと……私はそう信じています」

炎龍「勇者の好意、私達の好意、エルフや警備兵の信頼からいつまで目を逸らすつもりなのですか?」

書きたいとこまで書けた、また明日書く


僧侶「……怖いんだろ、多分」

炎龍「えっ?」

僧侶「お前はオレの中にいたから大体分かるだろう?心や過去の記憶とか色々な」

炎龍「……はい」

僧侶「死んだ兵士を蘇生させ再び戦場に送り込むのがオレの役目」

僧侶「戦を終わらせる戦、オレによって生と死を操作された奴等……」

僧侶「皆が皆良い奴ではなかったが仲間だと思ってくれる奴等も確かにいたんだ」


僧侶「戦場ではそれが唯一の救いだった」

僧侶「奴等との他愛のない会話、好きな女や故郷の話しだ……」

僧侶「そいつらが運ばれてきて、オレは蘇生した」

僧侶「失いたくなかったからだろうな、だが結果としてそれが失う原因になっちまった」

僧侶「死んだ人間は決して生き返らない、捩曲げられた生は徐々に狂っていく」

僧侶「奴等は確かに生きていたが、もうあの時のように笑うことはなかった……」

僧侶「オレは気付くのが遅すぎた、あのまま逝かせてやればどれだけ良かったか……」


僧侶「自分の行ったことが如何に残酷なのか本当の意味で理解した時、オレはそこから逃げ出した」

僧侶「どうやって逃げたのかどれだけ歩き続けたのか記憶にない」

僧侶「その後、辿り着いた町で子供達と出会って、それら今まで子供達と過ごしてきた……」

僧侶「救いたいと、そう思っていたのに……実際に救われたのはオレの方だったよ」

僧侶「なあ、炎龍」

炎龍「……はい、何でしょう…」


僧侶「今オレの周りにいる奴等は二度と戻ってこないはずの存在だった」

僧侶「仲間や友人、戦友……」

僧侶「ましてオレを想う奴がいる未来なんてのは考えられなかった」

僧侶「そんなもんがいきなり現れたもんだから怖いのさ……」

僧侶「勇者、エルフ達、警備兵の奴等、それにお前等もだ……」

僧侶「いつの間にか、こんなに沢山出来ちまった」


僧侶「嬉しくないわけじゃない」

僧侶「ただ笑うたびに思い出しちまうんだよ、昔の仲間と過ごした時を……」

炎龍「なら逃げますか?勇者や彼等から逃げますか?」

僧侶「……もう逃げねえよ、逃げたくねえ」

炎龍「ならしっかり見て下さい、貴方を想う人達を……」

僧侶「ああ、分かったよ……」

炎龍「どうです?私のこと好きになりました?」

僧侶「あのなぁ、人が真面目に……」

僧侶「まあいいや、そうしてくれた方がこっちも楽だ」


炎龍「もっと褒めてもいいですよ?」

僧侶「はははっ、そうだな……うん、ありがとう」

炎龍「!!僧侶様……」

僧侶「ん?」

炎龍「そんな風に笑えたんですね、その方がいいですよ?それに……」

僧侶「何だよ……」

炎龍「勇者が貴方を慕う気持ち『好き』が分かったような気がします」

僧侶「お前も勇者と同じで変わったばっかだろうが、そんな簡単に分かるかよ」

炎龍「いいんです、誰が何と言おうと私の気持ちは私の物ですから」


僧侶「……分かったよ」

僧侶「これからは気持ちにケチつけるようなことは言わねえ。悪かったな」

炎龍「分かってくれたのならいいんです、ありがとうございます」

僧侶「じゃあ、そろそろ行くか」

炎龍「待って下さい、勇者……と土龍について一つ」

僧侶「何だ?」


炎龍「いつまでも子供扱いしていては駄目です。二人の気持ちは本物ですから……」

僧侶「んなことはオレだって分かってるよ」

僧侶「でもな、勇者のことは大切にしたいんだ。だからごちゃごちゃ考えちまう……」

僧侶「土龍もそうだ、あんな風に強く想われたことはねえし正直戸惑ってる……」

炎龍「なら良いです!」ニコッ

僧侶「は?何だよ、その顔は……」

炎龍「さあ、早く行きましょう」

僧侶「?ああ、そうだな。よろしく頼む」


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小さな空き家

土龍「……今の聞いたか?」

勇者「聞かなくても分かってた。僧侶はちゃんと考えてくれてる」ウン

土龍「炎龍には悪いことさせちまったな、後で謝らねーと……」

勇者「でも嬉しい、僧侶はああいうこと言ってくれないから」

土龍「あんまり口に出さない男なんだろ、オレはその方がいい」

勇者「土龍は嬉しくないの?」

土龍「そりゃあ嬉しいに決まってんだろ?でも、今んとこ勇者に勝てる気はしねーな」

勇者「気持ちを比べる必要なんてない、大切に想ってくれてるならそれだけでいい」

土龍「……そっか、そうだよな…うん…」

こういう会話が多いから進むのが遅いんだと思いますが、きちんと書きたいと思うのでどうかご理解下さい。
長くなってすいません。


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バサッ…バサッ…

僧侶「……すげえな、生きてる内にこんな体験するなんて思わなかった」

炎龍「どうですか?」

僧侶「どうですかって……何て言ったらいいか分かんねえよ」

僧侶「つーか龍になっても話せんのか?」

炎龍「つい先程まで人間の体でしたから少々難しいですが何とか……」


僧侶「龍って外見がこうだから話すのは想像出来なかったな」

炎龍「エルフもそうですが、我々も人間の言葉を覚えて話すことなど容易に出来ます」

僧侶「悪い、別に馬鹿にしたわけじゃないんだ……」

炎龍「分かっていますよ、冗談です」

僧侶「その姿だと冗談かどうかなんて分かんねえよ」

炎龍「それより今の気分は?貴方は初めて空を飛んだ人間になったんですよ?」


僧侶「そう言われると不思議な気分だな、誰も考えたことねえだろうし」

炎龍「子供の頃に想像したりはしませんでしたか?」

僧侶「そりゃあ想像したけど実際には無理だって分かってたからな」

炎龍「……申し訳ありません僧侶様、そろそろ着きます。しっかり掴まって下さい」

僧侶「あ、ああ」

炎龍「何があるか分かりません、無理はしないで下さい」

僧侶「……分かってる」


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西の山村

僧侶「……村って言うか砦じゃねえか」

炎龍「何があったのでしょう?」

僧侶「そればっかりは入って確かめるしかねえな」


ゴンゴンッ…


???「何者だ、名乗れ」

僧侶「僧侶だ、ドワーフに頼みがあって来た」

ギギィィィ…

???「神様から話しは聞いている、来い」


僧侶「(これがドワーフ、背は小さいががっしりしてるな)」

僧侶「(ん?人間と一緒に生活してるのか?一体何が……)」

僧侶「あの、神様って何だ?」

ドワーフ「会えば分かる。それとお前」

炎龍「わ、私ですか?何でしょう?」

ドワーフ「お前は絶対に来るな、此処で待っていろ」


炎龍「それは何故ですか?」

ドワーフ「質問は受け付けない、中に入れるだけ有難いと思え」

炎龍「しかし

僧侶「炎龍、少し待っててくれ。何かあれば伝わるんだろ?」

炎龍「……はい、ではお気を付けて」

僧侶「待たせてすまない、案内を頼む」

ドワーフ「こっちだ」

ザッザッザ…


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西の山村 神様の部屋

僧侶「あんたが神様?」

???「如何にも、我が神である」

僧侶「(この女、人間か?)」

???「まあ座るが良い」

僧侶「じゃあお言葉に甘えて」ストン

???「頭が高い!!」

僧侶「は、はぁ…すいません」ペコッ


???「ぷっ、あっはっは!!」

僧侶「な、何だよ?」

???「ごめんごめん、ちょっとふざけすぎた。君は中々面白いねぇ」

僧侶「……あんた、一体何者だ?」

???「ああそうだった、私は四龍が一つ、風龍だ。よろしくね」

僧侶「は?じゃあ何故炎龍は分からなかったんだ?」


風龍「ちょっと待って……」

風龍「炎龍、今すぐ聞くのを止めろ。止めなければドワーフを協力させない」

僧侶「………分かりました、だとさ」

風龍「じゃあ話しをしよう、せっかく二人きりなのに邪魔者がいたら気分が悪い」

僧侶「(こいつも水龍寄りか?)」

風龍「さて、質問に答えようか」

風龍「炎龍に居場所を知られなかったのは私が力を捨てたからさ、龍は龍にしか嗅げない」


僧侶「力を捨てた?」

風龍「捨てたっていうより移したんだよ、そこの箱に入ってる」

僧侶「普通の箱じゃねえよな、ドワーフに造らせたのか?でも何故?」

風龍「君のお陰で四龍は変わっちゃったし、君は裁きが嫌いみたいだからね」

風龍「人界へ来てオークってのを退治してから力を移したのさ」

僧侶「オーク?」

風龍「破壊行為のみを目的に生きてるような奴等だよ、その内穴が空けばまた来るだろうね」


僧侶「だったら何故力を?」

風龍「君が裁きを望まないからだよ、界を裁くつもりはないんだろう?」

風龍「同じことを二度言わせないでくれるかなぁ?」ニコッ

僧侶「!!」ゾクッ

風龍「ああ、ごめんごめん。どうやら私も水龍と同じ質みたいでさ」

風龍「本当は君を独り占めにして滅茶苦茶にしたいんだけどねぇ……」

風龍「これでも必死に抑えてるんだ、感謝しなよ?」


僧侶「……そりゃどうも、助かるよ」

風龍「うんうん、感謝の気持ちは大事だね。じゃあ話しを続けるよ?」

風龍「私が此処へ来る前から山村にはドワーフがいて人間を守る為にオークと戦っていた」

僧侶「人間を守る為?」

風龍「そう、どうやらこの界に来たばかりの時、村の人間に救われたようなんだよ」

風龍「ドワーフは義理堅い種族、恩に報いる為に必死に戦っていたのさ」


風龍「で、その頃に私も人界へ来た」

風龍「それからすぐにドワーフがいることを知って此処に飛んで来たわけ」

僧侶「何故だ?」

風龍「そうだねえ……」

風龍「君ならこうするだろう、君ならこうしないだろう……それが分かるからだよ」

僧侶「じゃあ、オレがいずれドワーフを頼ると分かってたってのか?」

風龍「勿論、ずっとずっと……君のことばかり考えていたから」ニコッ

僧侶「(目が笑ってねえ、何考えてんのか知りたくねえな……)」


風龍「で、オークからこの山村を守った私は神様なんて呼ばれるようになったわけだ」

僧侶「なるほど、じゃあ炎龍を呼ばなかった理由は?」

風龍「分かってないね君は……」

風龍「他の龍と君が仲良く一緒にいる所なんて絶対に見たくないんだよ」

風龍「嫉妬して何するか分かったもんじゃない……全く困ったもんだよ、あっはっは!!」

僧侶「……悪かったな」

風龍「君が謝ることなんてないよ?私は幸せなんだ、君の力になれることがね」


僧侶「……すまない、誤解してた。あんたは水龍とは違う、歪んじゃいない」

風龍「そうかな?そう言ってくれると嬉しいよ」

風龍「正直言うともう少し安定した状態が良かったんだ……」

風龍「この衝動を抑えられるのは力を手放したからに過ぎない」

風龍「それでも何とか抑えられる程度、君と一緒にいられる炎龍と土龍が羨ましいよ」

僧侶「ちょっと待て、何故それを知ってる?力は手放したはずだろ?」

風龍「どうやって嗅ぎ付けたのか水龍が来てね、色々と教えてくれた」


僧侶「なっ…」

風龍「どうやら私と手を組んで君を裁く者にしたかったようだね」

僧侶「……何故?」

風龍「理由は簡単、キミと一つになりたいからさ」

僧侶「……何でそんなに差があるんだ?炎龍や土龍は

風龍「炎龍土龍が君の優しさを糧に変わったとするなら……」


風龍「私と水龍は君の怒り、界への憎しみで変わったんだろう」

風龍「その色がより強いのが水龍だ、君のように界を憎んでる」

僧侶「だったら何故水龍は此処を破壊しなかった?」

僧侶「あいつはオレを壊したいんじゃないのか?」

風龍「何をするつもりかは知らないが、最終的には君と共に界を裁くのが目的だろう」

風龍「愛しの君と身も心も一つになって界を破滅させたい………」

風龍「それが、水龍の語った『夢』だ」


僧侶「随分大きな夢だな」

風龍「夢は大きくなければ面白くない、そう言っていたよ」

風龍「私が水龍なら……」

僧侶「……何だよ、はっきり言え」

風龍「間違いなく勇者を殺して君を絶望させるだろうね」

風龍「君にとって勇者は大きな存在、だから殺す。何が何でも殺す」

風龍「それでも死なぬのなら、四肢を斬り落とし動けなくすればいい」


風龍「……とまあ、これに近しいことを考えているだろう」

僧侶「…………」

風龍「なるほど、それが水龍の言っていた目か……確かに魅力的だ」

僧侶「……ドワーフに話しは通してるんだろう?」

風龍「ああ、ドワーフの中でも職人と呼ばれる者に話してある」

僧侶「ありがとう、じゃあもう行くよ」


風龍「君は理性の強い男だ、こんなにも露出して誘っているのに……」

僧侶「そんな格好しなくてもあんたは魅力的な女だよ」

風龍「その言葉は嬉しいけどさ、ここまで言っても抱いてくれないのかな?」

僧侶「これでも子供達がいるんだ、そんなこ


ドンッ…


僧侶「がっ…お前…!!」


風龍「ごめんね、我慢出来なくて力戻しちゃったよ……」ガシッ

僧侶「やるならやれ、力を手放してまで手に入れたかった物を捨てるつもりならな!!」

風龍「なーんてね、冗談だよ冗談!今はこれで我慢してあげる」

僧侶「……耐えてくれて助かった、もう行く」


ガチャ…パタンッ…


風龍「やっぱり無理矢理やれば良かったかなぁ、勿体ないことしたかも……」

風龍「炎龍、どうせ聞いているんだろう?どう?お前は僧侶と結ばれたくないのか?」

風龍「……だんまりか、いいねぇ傍にいれる奴等は……」


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ドワーフ工房

職人「神様から話しは聞いてる、あんたが僧侶だな?」

僧侶「ああそうだ、あんたに造って欲しい物がある」

職人「言ってみろ」

僧侶「界の繋がり視認して切断する道具、界を引き寄せ彼等を帰す道具が欲しい」

職人「代価は何で払う。神様の命だ、まけてやる。視力でどうだ?」

僧侶「……構わない」

職人「告発の天使の瞳……よし、引き受けた」


僧侶「今払った方がいいか?」

職人「当たり前だ、後払いはなしだ。『お前が』払え」

僧侶「分かったよ、覚悟してた…事だ……っ!!」グッ


ずる…ずる…ずるり……


僧侶「……ほら、受け取れ」

職人「確かに……だが鉱石がない」

僧侶「何?」

職人「この界には存在しない鉱石だ、すまないな」


僧侶「……そんなことだろうと思ったぜ、要求に対して代償が小さ過ぎるからな」

職人「っ!!?お前、最初から分かってて……」

僧侶「両眼を渡したんだ、さっさと鉱石の名を言え……」

職人「ぐっ…アダマスとミスリルだ。だがこの界にはない、無駄だ」

僧侶「そうでもない、すぐに届くさ。オレの両眼は水龍に渡すつもりだったのか?」

職人「……ああ、そのつもりだった」

僧侶「そうか……だが鉱石はもうすぐ届く、水龍に渡す必要はねえ。だからしっかり造ってくれよ?」

僧侶「約束通り視力を渡したんだ、破るのは無しだぜ……」

寝るまた明日書く、近々終わると思う


職人「……代価は払われた、いいだろう。しかし何故そう簡単に差し出せる?」

職人「代価として払ったものは二度と戻らないんだぞ?もう一度訊く、本当に良いのか?」

僧侶「良いわけねえだろ、子供達やあいつ等の顔を二度と見れねえんだからな」

僧侶「でもな、これで界を戻せるならそれで良いと思ってる。裁きなんてのは御免だ」

職人「……お前、軟弱な体してる癖に意志は強いな。あの龍が言っていた通りだ」

僧侶「つーかオレが軟弱なんじゃねえ、あんた達の体が人間より屈強なんだ」


僧侶「……水龍には何て言われたんだ?」

職人「代価として目を要求しろと、彼なら躊躇わず差し出すだろうからと……」

僧侶「で、差し出しても鉱石がなけりゃ造れないと言う……」

僧侶「約束を破ったわけではない、代価だけを貰うってわけか」

僧侶「ったく、よくもまぁそんなこと考えたもんだな。何考えてんだあいつは……」

職人「一つになれば最早目など必要ない、自分以外の者など見なくて良い」


僧侶「水龍が言ったんだな?」

職人「……聞いてもいないのに聞かされた、ああいうのを狂っていると言うんだろうな」

職人「正直恐ろしくてたまらなかった……」

僧侶「そりゃそうだろ、そんな話し聞いたらオレだって怖えよ」

職人「お前、あんなのに好かれて大変だな……心から同情するよ」

僧侶「……ありがとよ」

僧侶「あんたも大変だったな、奴と話すのは生きた心地がしなかっただろう?」


職人「……ああ、手足が情けなく震えた」

僧侶「なあ、オレへの代価の要求以外にも何か言われたのか?」

職人「一言一句記憶してる」

職人「村の人間を皆殺しにした後にドワーフも皆殺しにする、お前は最後に殺してやる……」

職人「まるで氷のような酷く冷たい声色でそう言われた」

職人「……瞳はぎらぎらと……視線で射殺せそうな程に妖しく輝いていたよ」


僧侶「……………」

職人「神様は自分の力を封じてる、あの龍がその気になれば我等は為す術なく殺されるだろう……」

僧侶「大丈夫だ、それは恐らくただの脅しだ。水龍は此処に現れない」

職人「何故分かる?」

僧侶「他の龍が教えてくれた、だから大丈夫だ」

僧侶「それに水龍が本気なら今頃目玉を取りに来てるだろ?」


職人「……確かに、それもそうだな」

職人「なあ、お前が繋がっている龍は炎龍とかいう奴だけか?」

僧侶「ああそうだ、他の龍とは繋がってない。それがどうかしたのか?」

職人「気を付けた方が良い、水龍は炎龍にかなり嫉妬しているようだった」

僧侶「……ああ、伝えておくよ」

職人「しかしお前、今更だが自分で目玉をくり抜くなんて大丈夫か?」


僧侶「痛みはねえよ、治癒しながら取ったからな……」

僧侶「加えて言うがオレは狂っちゃいないから安心しろ」

職人「それを聞いて安心した……」

職人「しかしお前、そんなことが出来るのか……人界の魔術魔法も中々進んでいるな」

僧侶「そこまで優れた術法じゃねえよ、戦になれば剣や槍だ」

僧侶「火なんざ出そうとしてる間にやられちまうよ」

僧侶「あんた達はどうなんだ?そういう力はねえのか?」

職人「あくまで鍛冶工芸に使う、攻撃的な使用などしない」


僧侶「へー、やっぱり違うもんだな……っと…」フラッ


ガシッ…


職人「無理するな、しっかり掴まれ……よし、この椅子に座るんだ」

僧侶「あ、ああ、悪いな」

職人「……本当に良かったのか?」

僧侶「じゃあ代価なしに造ってくれんのか?」

職人「それは……」

僧侶「ははっ、冗談だよ冗談」


僧侶「界を切り離すだの引き寄せるだの……」

僧侶「そんな馬鹿げた力を持つ道具を造るのに目玉二つなら安いもんだ」

職人「……お前、本気で界を元に戻すつもりなのか?」

僧侶「ああ、もうエルフ時のような思いはしたくないんだ……」

職人「エルフも人界に?詳しく教えてくれ」

僧侶「人間に捕らえられ奴隷のように扱われていた。今は大丈夫だけどな」


職人「馬鹿な、エルフがむざむざ捕まるものか!」

職人「人間などと比べものにならない力を持っているんだぞ!?」

僧侶「……色々あってな、一度に捕まっちまったんだよ。人間は数で押したんだろう」

職人「人間は何故そこまで?この村の人間は我等を救ってくれたというのに……」

僧侶「人間から争いと支配欲はなくならない、どれだけ進歩しようと絶対にな……」

職人「……なあ、お前は一体

僧侶「おっ、そろそろ来るぞ?」

職人「な、何がだ?」


バシュッ…


土龍「待たせたな……どうだ?これくらいで足りるか?」ズシリ


職人「それだけあれば足りるが一体何処から……それに今の…お前も龍なのか?」

土龍「ああ、オレは土龍だ。これは界を移動して持ってきた」

土龍「あー、言っとくけどオレは水龍とは違うからな?僧侶の味方だ」ウン

職人「……こんな龍もいるのか、もっと偉そうな奴等だと思ってた」

僧侶「ははっ、その辺は龍も人間もドワーフもエルフも同じだ。見た目はあてにならねえよ」

職人「お前、変わってるな」

僧侶「だってそうだろ?あんた達も乱暴者ってわけじゃない」


職人「…………」

土龍「なあ僧侶」

僧侶「ん?」

土龍「オレはこっちだ……手、掴むぞ?」

僧侶「あ、そこか…悪いな……」

土龍「っ、本当にもう見えねーのか?もう治せねえのか?」


僧侶「……ああ、もう代価として払ったからな」

土龍「なあ、何でそんな大事なこと一人で決めたんだよ。皆怒ってたぞ」

僧侶「そうか、じゃあ後でちゃんと謝らねえとな……」

土龍「炎龍も炎龍だ!決まってから伝えやがって!!」

土龍「僧侶が決めたことだからって納得しようとしたけど、オレには無理だ……」

僧侶「何だ、泣いてんのか?」


土龍「オレは泣いてねー!!」

僧侶「そんだけ声震えてりゃあ隠せねえよ。なあ土龍、聞いてくれ……」

土龍「……何だよ」

僧侶「これは界を戻すのに必要なことなんだ、分かってくれ」

土龍「……うん」

僧侶「ありがとな……」

土龍「……とにかく一旦戻ろうぜ?傷は治ってもかなり疲れてんだろ?」


僧侶「そういや炎龍はどうしたんだ?」

土龍「……あいつは…先に戻った」

僧侶「?そうか、じゃあ頼む」グラッ

土龍「あぶねーな、無理すんなオレに掴まれ」

僧侶「ありがとな……」

土龍「……いいって、気にすんな」


僧侶「あ、道具はどれぐらいで完成するんだ?」

職人「……あ、ああ……そうだな、一週間もあれば出来るだろう」

僧侶「そうか、じゃあ後は頼む……なあ、もし良かったら…」

職人「どうした?」

僧侶「界が入り混じった今、エルフだとか人間だとか関係ない。皆で都へ来ないか?」

僧侶「オークって奴等が現れたら大変だろ?風龍も再び力を封じたみてえだし」


職人「……それは皆と話し合わなければ決められない。神様のこともある…」

僧侶「分かってる。また来るからさ、その時に聞かせてくれよ」

職人「ああ……」

土龍「じゃあさっさと行こうぜ?あんまり長居すると風龍とやり合う羽目になる」

僧侶「そうだな、じゃあ行くよ。またな」

土龍「ほら、こっちだ。手、離すなよ……」


ガチャッ…バタンッ…


職人「本気でやるつもりなんだな、あいつ……だったらこっちも本気で応えてやらないとな」ガシッ

カンッ!カンッ!カンッ!


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北東の都 見張り塔

炎龍「…………」

勇者「ここにいたんだ……」

炎龍「子供達を放って置いていいのですか」

勇者「エルフと警備兵に頼んだから大丈夫、炎龍の様子見てくれって言われた」

勇者「みんな心配してるよ?」

炎龍「……貴方は何も言わないのですね」

勇者「言わない、僧侶が決めたことだから」


勇者「炎龍は何で泣いてるの?」

炎龍「必要なことだと分かっていても、例え僧侶様が決めたことだとしても……」

炎龍「もう目を見て話すことが出来ないのは悲しいです」

勇者「目が見えなくなっても僧侶は見てくれる、きっと今まで以上に……」

炎龍「!!」

勇者「だから僕達は僧侶を支えなきゃダメ、炎龍が泣いてたら僧侶だって悲しい」

勇者「僧侶は言ってた、種族関係なく暮らして行けると思うかって……」


勇者「僧侶はきっとその為に頑張ってるんだと思う」

勇者「いつかみんなが離れ離れになっても笑って暮らして行けるように……」

勇者「もしかしたら、もっともっと先のことを考えて僧侶は選択したのかもしれない」

炎龍「……選択」

勇者「うん、これは僧侶が選択した結果」

勇者「エルフを助けたことも炎龍達と一緒にいることも、きっと今回のことも全部……」


勇者「界を守る為、あるべき姿に戻す為に頑張ったから今がある」

勇者「けど、裁きで死んだ人も沢山いる」

勇者「僧侶は確かに界を……人間を憎んでるかもしれない」

勇者「それでも、僧侶は守ろうとしてる……」

炎龍「私にも支えられますか?僧侶様の助けになれるでしょうか?」

勇者「その人を想い続ける限り、決して繋がりはなくならない」


炎龍「!!」

炎龍「想い続ける、限り……」

勇者「うん、僧侶はそう言ってた。僕もそう信じてる」

炎龍「私も、そう信じたいです……」

勇者「なら想いは伝わる、炎龍は炎龍の気持ちを信じればいい」

炎龍「……はいっ、ありがとうございます…」

勇者「さあ、行こう?みんなが待ってるよ?」ニコッ


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古風な屋敷

エルフ「まだ二日と経っていないのに状況が目まぐるしく変化したな」

警備兵「……エルフの件が終わってから龍が出現し、今や界を左右する事態になってしまった」

警備兵「だがそれもおかしな話しじゃない。今や人界は混沌としている」

警備兵「僧侶の言った通り早めに手を打たなければ界は間違いなく滅ぶだろう」

エルフ「……炎龍の話しによればオークも出現したという、あれが押し寄せて来れば非常に厄介だ」

警備兵「破壊行為のみを目的とした種族か……分かり合うことは不可能だな」


エルフ「ああ、例の道具が完成したとしても厳しいだろう」

エルフ「それに問題はオークだけではない」

警備兵「水龍か、一体何をするつもりなのか……ただただ不気味だな」

エルフ「行動を起こすまでは何もしようがない、どうしても後手に回ってしまう」

警備兵「……………」

エルフ「………………」


警備兵「なあ」

エルフ「……何だ」

警備兵「結局何も言えなかったな。あいつのあんな弱々しい笑顔は見たくなかった」

エルフ「それは私も同じだよ……」

エルフ「家族が戻り安心していたが界が切迫した状況なのは変わりない」

エルフ「頼れる者が出来たことで現実を見ていなかったのかもしれない」

警備兵「あいつはずっと考えていたんだろうな、先のことを……」


エルフ「……共にいるだけでは何もならない」

エルフ「共にいるからこそ、我々も僧侶と同様の覚悟を持たなければならない」

警備兵「そうだな……僧侶が背負っている物、その重みを少しでも軽くしてやろう」

警備兵「とは言ったものの何が出来るか……」

警備兵「勇者や炎龍土龍のような力は俺達にはないからな……」

エルフ「……互いに考えよう、まだ時間はある」

警備兵「そうだな……」


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見張り塔

土龍「なあ、オレ達には何が出来るんだろうな」

炎龍「裁きを下さぬ龍など本来なら必要ないでしょう。ですが…」

炎龍「出現した穴の場所を伝え、害をなす種族を撃退することは可能です」

土龍「結局、オレ達は戦うぐらいしか出来ねーのかな……」

炎龍「それが私達の出来ることであればやるだけです」

炎龍「日に日に異界は近付き、いずれは人界を覆い尽くす程の種族が現れるでしょう」

炎龍「だからこそ僧侶様は決断したのだと思います」


土龍「だったら……」

炎龍「はい、私達の出来ること……それだけを考えるべきです」

土龍「炎龍、なんつーか……悪かった」

炎龍「何がです?」

土龍「僧侶を止めなかっただとか好き勝手言って責めちまってさ……」

炎龍「大丈夫です、責められなければもっと辛かったでしょうから」


土龍「……そっか」

炎龍「……はい」

土龍「………うっしゃ!オレは僧侶の力になる!!」

炎龍「ふふっ、何ですか急に?」

土龍「こういうのは口に出さねーとダメなんだよ、オレ」

土龍「水龍が何考えてようが関係ない」

土龍「僧侶がやろうとしていることは絶対に邪魔させねー」

炎龍「ええ、そうですね……何があっても必ず僧侶様を守りましょう」


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小さな空き家

勇者「僧侶、ちょっといい?」

僧侶「……ん?ああ悪い、ちょっと寝てた。子供達はどうした?」

勇者「やっと寝てくれた、ちょっと疲れた」

僧侶「何か悪いな、面倒見せちまって……」

勇者「ううん、大丈夫」

僧侶「泣かせちまったな、せっかく会えたってのによ……」


勇者「僧侶はみんなに笑って欲しくて頑張ったんだよ?」

勇者「って言ったらちゃんと分かってくれた」

勇者「でも僧侶が痛い思いするのは見たくないんだって、それは僕も同じ気持ち」

勇者「エルフも警備兵も、炎龍や土龍だって同じ気持ち……」

僧侶「オレは……」

勇者「なに?」


僧侶「オレは皆がいるから決断出来たんだ、仲間がいなけりゃ無理だったよ」

僧侶「界を背負ってるなんて言われてもピンとこねえけどさ……」

僧侶「オレがやらなきゃ仲間が死ぬ、そう思うと心にずしっと来るんだ」

勇者「……………」

僧侶「だから迷わなかった。あいつ等がいればオレは何だってやれる」

勇者「僧侶、変わったね。そんなこと今まで言わなかった」


僧侶「きっとお前のお陰だよ、勇者」

僧侶「仲間が出来たことも大きいけどさ……」

僧侶「変わっていくお前を見て、お前に愛してると言われて……変わったんだ」

僧侶「それに、もう逃げたくねえからな」

勇者「…………」ギュッ

僧侶「どうした?」

勇者「僧侶、死んでもいいと思ってる」


僧侶「!!」

勇者「それはダメだよ、そんなのは嫌だ……」

勇者「みんなはそうならない為に一生懸命考えてるんだよ?」

勇者「僧侶のことが大切だから、何とかしようとしてるんだよ?」

僧侶「……勇者…」

勇者「みんなが僧侶の力になってるなら、その反対もある」

勇者「僧侶だってみんなの力になってる。それだけは忘れないで」


僧侶「ああ、絶対に忘れない。ありがとう」ギュッ

勇者「……うん…」

僧侶「泣くな、もう大丈夫だから……」

勇者「ねえ…」

僧侶「ん?」

勇者「一緒に寝てもいい?」

僧侶「……ああ」


モゾモゾ…

勇者「こんなに近くで寝るのは久しぶりだね?テント以来かもしれない」

僧侶「そうかもな……」

勇者「……僧侶は、僕が見える?」

僧侶「見える、見えなくても見える」

勇者「へへっ…僕は僧侶の中にいる?」

僧侶「ああ、いつでもいる。どんな時でもな」

勇者「うん、僕も一緒……」


僧侶「……勇者、大事な話しがある」

勇者「うん、話して?」

僧侶「オレは裁きを終わらせようと思う」

勇者「それはどういうこと?」

僧侶「神に創造された龍によって、裁きはこれまで幾度も繰り返されてきた」

僧侶「数え切れない人々、数え切れない異種族が死んでいったはずだ……」

僧侶「この悲しい繰り返しを二度と起こさない為に……」

勇者「大丈夫、言って?ちゃんと聞くから」

僧侶「……オレは、神を終わらせるつもりだ」


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僧侶が職人へ依頼してから三日後……

西の山村には僧侶、エルフとその娘、そして警備兵の姿があった。

僧侶は風龍と話す為、エルフと警備兵は都の実情を知ってもらうべくやって来た。

少しばかりでも僧侶の負担を軽減する為に……


『エルフとドワーフ』

敵対とは言わないまでも両者は決して友好な関係ではない。


しかし村の人間と警備兵が間に入ることで話し合いは円滑に進んだ。

娘が貴族に監禁されていた事実を知ると泣き出すドワーフさえいた。

そんな悲劇が二度と起きぬよう都へ来てくれないか……

それがエルフからの願い。

加えてオークが再びやってくる可能性もある。

明け方に始まった両者の話し合いは夜更けまで続いた。

一方、僧侶は……


風龍「それは本気で言ってるのかな?」

僧侶「ああ、本気だ」

風龍「私が力を戻せばどうなるか分からないよ?他の三龍に牙を剥くかもしれない」

僧侶「それを承知で頼んでる。あんたが必要なんだ」

風龍「……そんな風に言われたら断れないね、君の為ならそうしようじゃないか」

僧侶「すまないな、折角力を封じたってのにこんなこと頼んじまって……」


風龍「いいんだ、君の選択は間違ってない」

風龍「まあ、こんな感情を得たから言えることだろうけどね」

風龍「でも何だって急にこんなことを?これは流石に予想してなかったよ」

僧侶「急でもない、ずっと考えてたんだ。オレが神に遣わされた天使である意味……」

僧侶「オレが意図せず起こした四龍の変化……」

僧侶「それら全てに意味があるのなら、オレがやるべきは一つだけだ」


風龍「…………」

僧侶「どうした?」

風龍「視界を失ってから更に魅力的になったと思ってね、気を悪くしないでくれよ?」

僧侶「腹を括ったからかもな……」

風龍「……本当にいいのかい?」

僧侶「ああ、もう十分考えた」

風龍「じゃあもう一つ、一番厄介な水龍はどうするつもりなのかな?」


僧侶「何をしてでもどうにかする」

風龍「あっはっは!!」

風龍「そりゃいいねぇ、水龍も予想してないだろうから驚くよ」

僧侶「時が来たら頼む」

風龍「……ああ、その時を楽しみにしてるよ、この後はどうするんだい?」

僧侶「職人に用があるから工房に行ってくる」

風龍「…………」タンッ


僧侶「近いな、何だ?」

風龍「命を預けるんだ、これぐらいは許してくれないかな?」グイッ

僧侶「風龍、オレならいつでもくれてやる。だから今は我慢してくれないか?」

風龍「……分かったよ。しっかしずるい男だねぇ」

僧侶「ごめんな、あいつには生きて欲しいんだ」

風龍「その為に四龍を道具として利用するのかい?」

僧侶「そう取られても仕方ねえけどオレはあんたを……四龍を道具だなんて思っちゃいねえよ」

僧侶「……じゃあな」


ガチャ…バタンッ…


風龍「なる程……告発の天使、その名に違わぬ男だね」


>>>>

ドワーフ工房

職人「ほら、座れ…」

僧侶「悪いな」

職人「それで何の用だ?」

僧侶「少し追加して欲しくてな」

職人「追加?」

僧侶「そんなに面倒な代物じゃねえんだ。良ければ余ったもので弓矢と剣を造って欲しい」

職人「何だ、それぐらいなら簡単だ。数人と協力すればすぐに出来る」


僧侶「……悪いな、手間掛けさせちまって」

職人「こんな大仕事をやるのは久々だからな、悪い気はしない。だから気にするな」

僧侶「よろしく頼む……なあ、あんたは会議に参加しないのか?」

職人「オレにはこの仕事があるからな、参加してる暇はない」

職人「それに結果は見えてる、都への移住は間もなく決まるはずだ」

僧侶「何だよ、随分あっさりしてるな」


職人「あの時のお前の言葉そのままだ」

職人「今は種族だ何だと言っている場合ではない」

職人「今にもオークやら何やらが出て来るかもしれないんだからな」

職人「……お前の申し出があったから歩み寄る機会が出来たんだ」

職人「口には出さないだろうが胸を撫で下ろしてる連中も大勢いるだろう」

僧侶「……なあ、あんたはどう思う?やっていけると思うか?」


職人「どうだろうな、我等も人間と同じだ。争う時はいつか必ず来る」

僧侶「……………」

職人「僧侶、オレも一つ訊きたい。お前は界をどうするつもりだ?」

僧侶「情けねえことにまだ悩んでる……出会った奴等は皆いい奴で今や仲間だ」

僧侶「元の界に帰りたいのは皆同じ、道具が完成すれば勿論帰してやりたいと思ってる」

僧侶「……ただ、オレ個人の気持ちとしては共にいたい。今が気に入ってるんだ」

職人「なら、この杖はお前にぴったりだな」


僧侶「杖?」

職人「実を言うとアダマスから造った杖はもう完成してる」

僧侶「もう出来たのか!?」

職人「ああ、もうじきもう一つの道具も完成するだろう」

僧侶「鍛冶工芸に秀でてるとは聞いてたが、まさかここまでとはな……」

僧侶「あ、会議が終わるまで此処にいてもいいか?あっちは三人に任せてるんだ」


職人「ああ、別に構わないぞ」

僧侶「……で?そのアダマスの杖がオレにぴったりってのはどういう意味だ?」

職人「引き寄せ引き離す、二つの力が宿った杖だからだ」

僧侶「引き離す?」

職人「磁力のようなものだ、くっつきもすれば反発……弾きもするだろう?」

職人「どちらの力を使うかはお前の自由だ」

僧侶「……それは帰すも帰さぬもオレ次第ってことか」

職人「そういうことだ」

職人「僧侶、お前は我等とエルフは元の界に帰りたいのではないかと言ったな?」


僧侶「……ああ」

職人「なら問おう、彼等はそう言ったのか?」

僧侶「!!」

職人「異種族だからといって皆が帰りたいとは思っていないだろうよ」

職人「今を気に入ってるのはお前だけではないはずだ……」

僧侶「……帰ったら聞いてみるよ、ありがとな」


職人「礼はいい。ほら、取り敢えず受け取れ」

職人「力の使い方は界や物質を強く意識すること、それだけだ」スッ

僧侶「強く意識する、か……」

僧侶「ん?思ったより重くないんだな、それに握りやすい」

職人「当たり前だ、お前の手に合わせて造ったんだからな」

職人「先程まで使っていた急作りの杖よりは格段に使いやすいはずだ」


僧侶「手に合わせたっていつの間に

職人「そんなもの手を見ればすぐに分かる。それよりもう一つの方は誰が使う?」

僧侶「そっちは勇者にやろうと思ってる」

職人「なら呼んでくれないか、代価を受け取った以上半端な仕事はしたくない」

僧侶「今から呼ぶよ、少し待ってくれ」

職人「ん?ああ、お前は炎龍と繋がってるんだったな、早めに頼むぞ?」

僧侶「……ああ、分かったよ」


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北東の都 小さな空き家

土龍「まだ来ねーのか、待つのは苦手なんだよな……」

勇者「…………」

土龍「何だよ、まだ悩んでんのか?」

勇者「僧侶の言ってることは分かるけど、成功するか分からないから……」

土龍「まぁ、そうだよな。『もし』失敗したら全ての界がぶっ壊れる」

土龍「『もし』成功すれば全ての界から脅威は消えて裁きは二度と訪れない」


土龍「相手は神なんだぜ?」

土龍「こんなのは賭けみてーなもんだ、絶対なんてものはない」

勇者「……………」

土龍「けどな、僧侶は絶対に成功させるって信じてる。オレはな……」

勇者「絶対はないって言ったのに……」

土龍「ははっ、そんなのは良いんだよ。オレ達が絶対だって思えばそれは絶対になる!」

土龍「そう信じなきゃ命なんて預けらんねーだろ?」


勇者「……土龍は死んじゃうのが怖くないの?」

土龍「ふーっ……勇者、少し長くなるけど聞いてくれ」

勇者「うん、なに?」

土龍「……オレ含め四龍は今まで生きてなかった。ただ裁きを行うだけの存在だったからな」

土龍「感情なんてもんは必要ないし、必要な時に必要なことをするだけ」

土龍「裁きに対して疑問なんて持ってなかった」

土龍「界に生きる奴等の痛み悲しみなんて考えたこともない」


土龍「……でもな、それが僧侶に触れられて変わったんだ」

土龍「今のオレ達は本当の意味で生きてる」

土龍「オレ達は僧侶に生かされたんだ、それまでは死んでた……」

土龍「だから死ぬのなんて怖くない。怖いのはこの気持ち、心ってやつを失うことだけだ」

勇者「……………」

土龍「……なあ勇者、オマエは一体『何が』怖いんだ?」


勇者「だって僧侶が死んじゃったら僕は

土龍「ッ、ふざけんな!!」

バチンッ!

土龍「オマエが今考えてんのは僧侶を失った自分!!それだけじゃねーか!!」

勇者「!!」

土龍「オレだって僧侶が死ぬのなんて嫌だよ……でもな!だからこそ信じるんだろ!!?」

土龍「誰かが死ぬ未来なんて考えるな!」

土龍「オレ達が考えるなきゃならねーのは皆が生きる未来だ!!」


土龍「なあ!そうじゃねーのかよ!!」グスッ

勇者「土龍……」

土龍「……オマエは『勇者』だろーが……」

勇者「!!」

勇者「……土龍、ありがとう。僕はもう大丈夫だよ」

土龍「もう泣き言なんて言うなよ?僧侶の心を支えてんのはオマエなんだからな……」グスッ

勇者「うん、もう言わない。これからは僧侶が生きてる未来だけを考える」

勇者「何があっても僧侶を支える。土龍、叩いてくれてありがとう」

土龍「?」

勇者「お陰で目が覚めた、もう迷わない」


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バサッ…バサッ…

勇者「うわぁ…星が近い、綺麗だね」

炎龍「ふふっ…ええ、そうですね。夜に飛ぶのも良いかもしれません」

勇者「今度はみんなで見たいね」

炎龍「流石に全員は乗せられませんよ?」

勇者「そっか……じゃあ帰ったらみんなで見よう」


バシュッ!


水龍「残念ながらそれは叶わない」

水龍「お前が星を見るのはこれで最後だ。凍るがいい」


炎龍「!!?」

水龍「まさか来るとは思わなかったか?私はこの時をずっと待っていたよ」

水龍「炎龍土龍と戦うことなく勇者のみを殺せるこの時を……」

水龍「ははっ、それが界を裁く龍の背だとは滑稽な話しじゃないか。なあ炎龍?そうは思わないか?」

炎龍「黙れッ!!」

炎龍「勇者?勇者!!返事をして下さい!!」

水龍「現実を受け入れろ、死体に呼び掛けても何も返って来ないぞ?」

水龍「龍を殺せる程の力を持っていても不死ではない、凍らせてしまえばそこまでだ」


水龍「ふふっ…はははっ!!」

水龍「嗚呼……ずっと……ずっとずっとこの時を待っていたんだ!!」

水龍「この女を殺せる時を待ち続けていたよ!!」

炎龍「ッ!!貴方は何故!何故こんなことが出来るのですか!!」

水龍「憎いからに決まっているだろう?僧侶の傍らにいるこの女がな!!」

水龍「……どうした?」

水龍「振り落とすならそうするがいい、勇者が砕け散って死ぬだけだ」

炎龍「……………」

水龍「まあ、私が砕けば済む話しだがな……」スッ


バキンッ!

炎龍「ッ!!」

水龍「まずは右腕から、僧侶を抱きしめた腕からだ……」

水龍「さて、次はどうしてやろうか」

炎龍「止めろッ!!」

水龍「……炎を出そうとした瞬間蹴り砕く、馬鹿な真似は止せ」

炎龍「…………」

水龍「それでいい……」

水龍「ふふっ、これで僧侶は私を憎む。私を殺すことだけを考える」


水龍「その憎しみ、想いを、愛を一身に受ける……」

水龍「憎みながらも私を欲して界を滅ぼすべく一つに

炎龍「残念ながら、それは叶いません」

水龍「……何?」

炎龍「すぐに分かりますよ」

ズズッ…ズズズ…

水龍「何だ、これ…は……まさ

炎龍「ええ、どうやら完成していたようですね。私も『今』知らされました」

水龍「・がりを僧侶に任せ… 

炎龍「ご存知でしょうが向こうには風龍がいます、お気を付けて」


水龍「その憎しみ、想いを、愛を一身に受ける……」

水龍「憎みながらも私を欲して界を滅ぼすべく一つに

炎龍「残念ながら、それは叶いません」

水龍「……何?」

炎龍「すぐに分かりますよ」


ズズッ…ズズズ…


水龍「何だ、これ…は……まさ

炎龍「ええ、どうやら完成していたようですね。私も『今』知らされました」

水龍「繋がりを僧侶に任せ… 

炎龍「ご存知でしょうが向こうには風龍がいます、お気を付けて」


水龍「嘗め…るな……よ」ズリズリ

ガシッ…メキッ!

炎龍「なッ!!」

水龍「左目、次は左…脚…

バシュッ!

風龍「悪いねぇ、そうはさせないよ」ガシッ

水龍「ッ!!」

水龍「風龍!何故お前が此処にいる!!力は封じたはずだ!!」


風龍「喚くな」

水龍「!!?」ゾクッ

風龍「あっはっは!!悪いねぇ、先に僧侶と繋がらせてもらったよ」ニコッ

風龍「さて、どうしてやろうかねぇ」グイッ

水龍「ッ!!」

風龍「勇者は憎い、確かに憎い……だけど僧侶にあんな顔させる君の方が憎いよ」


ゴギンッ!


水龍「がっ…」


風龍「あっはっは!!」

風龍「君は本当に馬鹿な奴だね、愛を独り占めしようとするなんてさぁ!!」

水龍「ッ!?」

風龍「私は君が勇者を襲ってくれたお陰で僧侶と繋がれた、ありがとう」ニコッ

水龍「お前、分かってて…」 

風龍「ああそうさ、待ってたよ。君が勇者を襲撃するこの時をね」

風龍「そうなれば僧侶も私を頼らざるを得ない!!最高の気分だよ……」

風龍「でも勇者を殺したら嫌われちゃうからねぇ、ある程度君にやってもらってすっきりしたよ」

炎龍「(負けず劣らず狂ってますね……)」
   
風龍「聞こえてるよ炎龍、愛は人を……龍さえも狂わせる。憶えときな」


水龍「……僧侶に…最後に僧侶に会わせてくれ、頼む……」

風龍「ああ良いよ?界に逃げられちゃ困るからね」

風龍「それに冷凍された勇者を解凍しなきゃならないしねぇ」

風龍「でもその前に……」スッ

水龍「!!」


ずぶ…


風龍「君に僧侶を見る権利はない、会わせてやるだけ有難く思いな」

風龍「君は僧侶の糧になるんだ、幸せだろ?」

水龍「ふっ…ふふっ、一つになれるのなら、それでいい」

中途半端だけどまた明日書く寝る


風龍「……全く、何だってこんな歪んだ心を持ってしまったんだろうね」

風龍「僧侶を愛しているのは変わらないのにさ」

炎龍「……………」

水龍「これが僧侶の憎しみによって芽生えた感情だとしても、私は僧侶を愛している」

水龍「風龍、お前は違うのか後悔しているか?」

風龍「するわけがないだろう?醜いと狂っていると言われようと後悔はない」

水龍「……ふふっ…『同族』であるお前の口からそれを聞けて良かった」

風龍「そうかい……炎龍、私は水龍を連れて先に行ってるよ」

風龍「このままじゃ勇者を壊してしまいそうだからね……」

炎龍「……分かりました」


>>>>

西の山村 神様の部屋

バシュッ!

風龍「待たせたね、連れて来たよ」

風龍「勇者は右腕と左目を失ったが死んじゃいない。もうじき来るだろう」

僧侶「……そうか、助かった。ありがとう」

水龍「ふふっ、その声を聞くのも久しぶりだな。お前の顔を見られないのが残念でならない」

僧侶「……水龍」

水龍「何だ、随分と悲しそうな声だな。あの時は怒鳴り散らしたというのに……」

僧侶「……あの時とは違う、色々と分かったこともあるからな」


僧侶「なあ、水龍」

水龍「何だ……」

僧侶「四龍に心を与えたのがオレだというのなら……お前をそうしたのもオレなんだ」

水龍「…………」

僧侶「お前を狂わせたのはオレの内側……奥底にあるどうしようもない怒りや憎しみ」

僧侶「それはオレのもんなんだ。だから、お前はもう何も憎まなくていい」スッ

水龍「えっ?」

シュゥゥゥ…


水龍「お前、何を……」

僧侶「見たかったんだろ?こんな顔で良かったら見せてやるよ」

水龍「ふふっ…最期にお前の顔を見れて良かったよ。前よりも良い顔になったじゃないか」

水龍「もう…満足だ……それに、少し疲れた…」

僧侶「……後はオレの中で寝てろ、頼むから暴れないでくれよ?」

水龍「寝心地が良ければ暴れはしないさ。さあ僧侶、私を…受け入れろ」グイッ

僧侶「……ああ…じゃあな、水龍」ギュッ

ズズズ…カッ!


風龍「……終わったね」

風龍「さて、水龍は入ったし次は私の番かな?」

風龍「さっさと頼むよ?このままじゃ何するか分からないからね」グイッ

僧侶「……勇者を助けてくれて……耐えてくれてありがとう」

風龍「大丈夫、気持ちは十分伝わってるよ……」

僧侶「……………」

風龍「どうした?怖いのかい?」


僧侶「もう後戻りは出来ない、覚悟してたけど少し

ギュッ…

風龍「しっかりしな、君は四龍を統べる裁きの者……告発の天使であり反逆者だ」

僧侶「……ああ、分かってる」

風龍「あっはっは!こんなに良い女に愛されてるんだ、嬉しいだろ?」

風龍「まっ、私の他にも良い女がいるようだけどね……」

僧侶「ははっ、そうだな……」

僧侶「こんなに沢山の女に愛されるなんて人生に一度きりだろうよ」

風龍「……さあ、もう覚悟は出来たかな?」

僧侶「ああ、もう大丈夫だ」

風龍「じゃあ、さよならだ……君のことは内側からずっと見ているよ」スッ

ズズズ…カッ!


僧侶「炎龍、もう入っていいぞ」

炎龍「……終わったのですか?」

僧侶「ああ、終わった。勇者は凍ったままか?」

炎龍「はい、僧侶様の指示通りそのままに……しかし出来るのですか?」

僧侶「そんなことはいい、勇者をオレの傍に寝かせてくれ」

炎龍「……分かりました」

僧侶「右腕と左目だったよな……ここか……」スッ


僧侶「砕かれた破片を意識して、元ある場所に…引き寄せる……」

ズズズ…

炎龍「……!!…破片が…」

僧侶「ふーっ…この状態で治癒すれば形は元に戻る」スッ


シュゥゥゥ…


僧侶「後は炎龍が氷を溶かした後でもう一度治癒すれば終わりだ」

僧侶「炎龍、やってくれ」

炎龍「ですが僧侶様の手が……」


僧侶「手を離したら状態把握が出来ねえんだ」

僧侶「このままでいい、やってくれ……頼む……」

炎龍「……っ…分かりました」スッ

ボゥッ…

僧侶「ッ…待ってろ。今、助けるからな……」スッ

シュゥゥゥ…

僧侶「はぁっ…はぁっ…出来たか?勇者の体はどうなってる?」

炎龍「傷は完全に治癒しました……しかしまだ気を失っているようです」


僧侶「そうか、良かった…」

炎龍「僧侶様、手が……」

僧侶「大丈夫だ、すぐに治す。ありがとな」

炎龍「いえ、そもそも私の不注意で勇者は

僧侶「もう終わったことだ、誰も責めはしない。だから気をすんな」

僧侶「それでも納得出来ないなら後で勇者と話せばいい」

僧侶「……きっと勇者も同じことを言うはずだ」


炎龍「……僧侶様、私は勇者が羨ましいです」

僧侶「何だよ急に」

炎龍「私は勇者のようにはなれませんか?」

炎龍「貴方の支えにはなれませんか?」グスッ

僧侶「……炎龍」

炎龍「私は貴方が好きです、貴方にも好きだと言って欲しいです」

炎龍「それが叶わないとしても、私は貴方に愛されたい……」


僧侶「ありがとな。でも、その気持ちには応えられねえ」
 
炎龍「……やはり勇者を愛しているのですか?」

僧侶「いや、きっと土龍の気持ちにも勇者の気持ちにも応えられない……」

炎龍「えっ?」

僧侶「お前はオレが勇者を愛してるように言うが、オレにとってはそうじゃねえんだ」

僧侶「何て言ったらいいか分かんねえけど、勇者はそういう存在じゃない」

僧侶「炎龍、お前は前に言ったよな?勇者は希望の子だと……」


炎龍「僧侶様、私は勇者が羨ましいです」

僧侶「何だよ急に」

炎龍「私は勇者のようにはなれませんか?貴方の支えにはなれませんか?」グスッ

僧侶「……炎龍」

炎龍「私は貴方が好きです、貴方にも好きだと言って欲しいです」

炎龍「叶わないと分かっていても、私は貴方に愛されたい……」


僧侶「ありがとな?でも、その気持ちには応えられねえ」
 
炎龍「……やはり勇者を愛しているのですか?」

僧侶「いや、きっと土龍の気持ちにも勇者の気持ちにも応えられない……」

炎龍「えっ?」

僧侶「お前はオレが勇者を愛してるように言うが、オレにとってはそうじゃねえんだ」

僧侶「何て言ったらいいか分かんねえけど、勇者はそういう存在じゃない」

僧侶「炎龍、お前は前に言ったよな?勇者は希望の子だと……」


僧侶「オレもとってもそんな感じだ」

僧侶「こいつには何としても生きて欲しい、それだけだ」

僧侶「その為なら何だってする……」

僧侶「それを愛だと言われりゃあそうかもしれねえけど、どうなんだろうな?」

炎龍「ふふっ、それは私にも分かりませんよ」

僧侶「わ、笑うなよな、人が真剣に答えてんのに……」

炎龍「ごめんなさい、そんなに困った顔は初めて見たので……」

炎龍「でも何だか楽になりました。私はもう平気です」


僧侶「女ってころころ変わるんだな……オレにはお前が分かんねえよ」

炎龍「それでいいんです、私は納得出来ましたから」ウン

僧侶「ふーん、ならいいけどさ。あ、もう泣くなよ?」

炎龍「なっ、私は泣いてません!」

僧侶「ははっ、分かった分かった」

僧侶「取り敢えず勇者が目を覚ますまでオレ達も休もうぜ?」

炎龍「(僧侶様、私は貴方を愛しています……)」

炎龍「(心の中で想うだけ、それだけは許して下さい)」

台詞ミスして重複、申し訳ない。
終わりは見えてきたけど、多分もう少し先になると思います。


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ドワーフ工房

職人「どうだ?」

勇者「うん、凄くいい、ぴったり」

僧侶「じゃあ行こう。もう夜も更けた、向こうもそろそろ終わっただろ」

職人「ああ、それなんだが……」

僧侶「ん?」

職人「お前がいない間に報せが来てな、都への移住が決定したようだ」


僧侶「そうか、そりゃ良かった……」

僧侶「取り敢えず一旦都に帰って明日からのことを話し合ってみるよ」

僧侶「界に戻るかどうかも含めて……」

職人「そうしろ、話すなら早い方がいいからな」

僧侶「色々と世話になったな、ありがとよ」

職人「……都に移ったら頼むぞ」

僧侶「!!」

僧侶「ああ、勿論だ」


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古風な屋敷

エルフ「……界に戻るか否か」

警備兵「…………」

僧侶「ああ、どの界にいても危険なのは変わらねえが人界よりは安全だろ?」

僧侶「思ったより早く杖も剣も完成した、戻るなら今からでも

エルフ「いや、我々は残る。ドワーフも残るそうだ」

僧侶「……いいのか?」

エルフ「赤ん坊を残して戻るわけには行かないからな……何より見届けたいのだ」


僧侶「……それは」

エルフ「ああ、界の行く末を見届ける。我々もドワーフもな……」

僧侶「ドワーフにも話したのか?」

警備兵「ああ、話した」

警備兵「一人の人間が界の在り方を決めるのか、そんなことは間違っている」

警備兵「散々に言われた……」

警備兵「しかし人界に住む全ての者に意見を聞いている暇はない……」


エルフ「何より子供達の未来を掴みたくはないのか?」

エルフ「このまま滅びを待つつもりか?」

エルフ「この言葉で皆が同意した。脅しのようになってしまったが、これは事実だ」

警備兵「……そうだな、裁きが訪れなくてもこれから界の収束は本格化する」

警備兵「例え勇者が懸命に繋がりを絶ったとしても間に合わないだろう」

警備兵「……僧侶、お前の掴もうとしている世界を俺達に見せてくれ」

エルフ「僧侶、これが我々の出した結論だ」


僧侶「……ありがとな、お前等に出逢えて良かったよ」

警備兵「それは俺達も同じだ。で?これからどうする?」

僧侶「帰りがてらオークの界は切り離しておいた、明日からは今隣接している界を切り離す」

僧侶「少しでも人界の負担を軽くしとかねえと最後に躓くかもしれねえからな」

エルフ「ならドワーフの移住は任せてくれ、炎龍も土龍も切り離しに必要だろう?」

警備兵「そうだな、出来るだけ多くの界を切り離すには彼女達の協力が不可欠だ」


僧侶「……分かった、そっちは頼む」

エルフ「ところで勇者はどうだ?」

僧侶「今頃炎龍や土龍と話してんだろ、体の心配はない」

警備兵「あっ、勇者に聞いたが炎龍を振ったんだってな?」

僧侶「……何でも話すのは止めろって言ったんだがな。つーか炎龍も勇者に話すなよ」

エルフ「女性とはそういうものだ……それで?」


僧侶「それで?って何だよ……」

警備兵「誰を選ぶつもりなんだ?」

僧侶「誰も選ばねえよ!」

僧侶「大体これから大仕事するってのに余計なこと考えられるかよ!!」

警備兵「……こんな時だからこそ聞いてるんだ」

僧侶「お前笑ってんだろ?見えなくても分かる」

エルフ「我々は至って真面目だ」

エルフ「こんな機会は滅多にないぞ?貴様もそろそろ身を固めたらどうだ?子供達もいるんだろう?」


僧侶「別に今じゃなくてもいいだろ……」

警備兵「……なあ僧侶、頭の中に一人だけ思い浮かべてみろ」

僧侶「は?お前何言って

警備兵「いいから早くしろ」

僧侶「何なんだよ、分かったよ……」

警備兵「……どうだ?」

僧侶「どうだって何だよ…」

警備兵「そこにいるのは勇者じゃないのか?」


僧侶「!!」

警備兵「別に答えなくていい、それがお前の愛してる女だ」

僧侶「……………」

エルフ「……僧侶、未来を考えるのは確かに大事だ。だが今を考えることも忘れるな」

エルフ「決してからかっているわけではない、仲間の幸せを願っているんだ」

警備兵「悩ませることを言っておいてなんだが、あまり考えすぎるなよ?」

僧侶「……分かってるさ」

僧侶「未来ではなく『今』か、少し考えてみるよ……」


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小さな空き家

僧侶「……ただいま」

勇者「お帰りなさい、ちゃんと話せた?」

僧侶「ん?ああ、色々話した」

僧侶「随分静かだな、子供達は寝たのか?」

勇者「ううん、土龍と炎龍のお家に行った」

僧侶「……そうか」

勇者「寝室に行こう?手握るよ?」

僧侶「ああ、悪いな」


勇者「やっぱり疲れる?」

僧侶「まあな、見えない分どうしても気を張っちまう」

僧侶「おっ…」グラリ

勇者「ゆっくりでいいよ、無理しないで?」

僧侶「そんなに心配しなくてもいい、杖もあるから」

勇者「心配するよ……」

僧侶「…………」


勇者「ベッドに着いたけど、もう寝る?」

僧侶「……………」

勇者「どうしたの?」

僧侶「見えねえってのは辛いなと思ってな」

僧侶「一番見たい奴の顔、表情が見えないのは辛い……」

勇者「僕は一番?」


僧侶「……ああ、お前の顔が見たい」

勇者「じゃあ手で確かめればいい」ギュッ

僧侶「調子に乗るな、頭でいい」ポンッ

勇者「……あっ、これは久しぶりかもしれない」

僧侶「そうだな……」

勇者「僕、これ好き……僧侶の手は優しくて温かいから大好き」


僧侶「なあ勇者」

勇者「なに?」

僧侶「警備兵の奴に一人だけ思い浮かべろって言われたんだ」

勇者「……僕じゃないなら聞きたくない、凄く嫌だから」

僧侶「お前だよ、オレが真っ先に思い浮かべたのはお前の笑顔だ……」

僧侶「警備兵が言うには、それが愛してる奴らしい」

勇者「……それは本当?嘘だったら確実に怒る自信がある」


僧侶「大丈夫、本当だ。だから怒るな」

勇者「じゃあそれは……本当はどういうこと?」

僧侶「……オレはお前を愛してるってことだ」

勇者「理解が追い付かない、どうしたらいいと思う?」

僧侶「知らねえよ、お前がしたいようにすればいい」

勇者「…………」ギュッ

僧侶「震えてるぞ?泣いてんのか?」


勇者「俗に言う嬉し泣き」

勇者「本当に嬉しいと思ったら勝手に泣いてた。嬉し泣きは実在した」

僧侶「ははっ、何だそりゃ」

勇者「だって初めてだから色々分からない、頭がぐちゃぐちゃしてる」

僧侶「……お前、温かいな…眠くなってきた」

勇者「じゃあ一緒に寝る」

僧侶「それはいいけど、まだ着替えてねえんだ……ちょっと待ってくれ」


勇者「着替えなら用意してる、汗ふきタオルも、だから手伝う」

僧侶「いや、それぐらいは自分で出来るから替えの服くれ」

勇者「僕が脱がせた方が早い」ガシッ

僧侶「……誰の入れ知恵だ?怒るぞ?」

勇者「ごめんなさい、炎龍に言われた」

僧侶「土龍かと思ったが炎龍か、明日は説教だな……」


勇者「……着替え終わった?」

僧侶「ああ、もう寝よう。お前も疲れたろ?」

勇者「僕は大丈夫だよ?今からでも頑張れる」

僧侶「……それは何だ?」

勇者「これを言ったら僧侶が元気になるって炎龍が言ってた」

僧侶「はぁ…もう寝るぞ?」


勇者「うんっ」ギュッ

僧侶「……………」

勇者「僧侶」

僧侶「ん?」

勇者「さっきのは本当?僕を…えっと…」

僧侶「心配するな、嘘じゃない。あれは本当だ」

僧侶「……オレは勇者を…お前を愛してる」


早いけど眠い寝るまた明日書く明日明後日で終わると思う


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翌日から界の切り離しが始まった。

人界に密接している界は数百、それら一つ一つを切り離していく。

勇者は界の繋がり、見えざる『糸』を剣により視認切断する。

あまりに密着している界は僧侶が杖の力で引き離し、人界と異界の間を僅かに空ける。

その後『糸』が見えた所を勇者が即座に切断、この作業を繰り返し徐々に数を減らして行く。

炎龍と土龍は二人に穴が空く危険性の高い場所を指示し、そこへ飛ぶ。


既に穴が空き異形の種が現出している場所も複数あり、被害を受けている街もいくつかあった。

だが炎龍と土龍の協力もあり、さほど時間は掛からず殲滅することが出来た。

四日間で新たな界が繋がりもしたが、密接していた界の殆どは人界から剥がれたのだった。


しかし予想外の事態が起きる。

人界の王が軍を率いて進軍を始めたのだ。

それは異種族を制圧する為のものではなく

進軍した先を片っ端から破壊するという常軌を逸したものであった。


僧侶「……一体何が起きた?」

警備兵「詳しいことは分からないが現在も進軍を続けているらしい」

警備兵「最南端である王都から北に向かって休みなく……この都に来るのも時間の問題だろう」

僧侶「今まで傍観していた王が今になって何故?しかも何故人間を殺す?」

エルフ「僧侶、理由はどうあれ都の守備を固めておいた方が良い」

僧侶「ああ、そうだな……」

警備兵「…………」ギリッ


僧侶「……炎龍、頼めるか」

バシュッ!

炎龍「はい、北の街の人々をこの都へ移動させれば良いのですね?」

警備兵「!!」

警備兵「僧侶…お前……だが界の切り離しが

僧侶「分かってる!分かってるさ!!」

僧侶「けどな、今はそんなことどうだっていい!分かってて見捨てられるか!!」


僧侶「仲間の家族を…見捨てられるかよ」

警備兵「……僧侶…」

僧侶「あの街の規模なら全員受け入れられる。お前やお前の部下の家族も……」

僧侶「それに領主。いや、エルフの同胞もな……」

僧侶「……だがそれ以上は、無理だ……炎龍、頼んだぞ」

炎龍「お任せ下さい。僧侶様はどうされるのですか?」


僧侶「土龍と共に王の下へ行き進軍を止める、休みなく進軍を続けてるってのも気になるしな」

僧侶「お前は勇者と共に行ってくれ、混乱は免れないが多少円滑進むはずだ」

炎龍「分かりました。では、行って参ります」

バシュッ!

僧侶「オレも行ってくる。準備だけはしておいてくれ」ザッ

カツンッ…カツンッ…

警備兵「……僧侶が行った後にこんなことは言いたくないが、何か嫌な予感がする」

エルフ「私もだ、得体の知れない何かが此方を見ているような……異様な気配を感じる」

エルフ「我々も戦う準備をしておこう、必ず何かが起きる」

警備兵「ああ、その方が良さそうだな……」


>>>>

バサッ…バサッ…

勇者「炎龍、王はどんな感じに進んでる?」

炎龍「……僧侶様と勇者が旅した場所をなぞるように進軍しています」

炎龍「近隣の街や都なども巻き込みながら……」

勇者「……北の街はまだ大丈夫?」

炎龍「ええ、ですが思った以上に進軍の速度が速いです」

勇者「なら早めにしないとダメだね。ちゃんと聞いてくれるといいけど……」


勇者「僧侶と土龍はどう?もう着いた?」

炎龍「もうじき着く頃だと思います」

勇者「炎龍、王が何者か分かる?」

炎龍「存在は感知出来ますが分かりません。靄の中にいるような……そんな感覚です」

炎龍「ただ、人間ではないのは確かです」

炎龍「界の揺らぎをも感知出来る龍の眼を欺ける者など今までいませんでした」

勇者「なら、王の正体は龍よりも上に位置する存在……」

炎龍「……そうかもしれません」


>>>>

バサッ…バサッ…

僧侶「龍より上ってことは天界の遣いか」

土龍「多分そうだろうな、炎龍の言った通り龍の眼を欺ける奴なんていねーはずだ」

僧侶「今まで気付かなかったのか?」

土龍「ああ、僧侶に確かめてみてくれって言われるまでは全然だ」

土龍「もしかするとオレ達と同じように『始まり』からいる奴かもしれねーな」

僧侶「始まり……」

土龍「考えても始まらね-、会えば分かる。そうだろ?」

僧侶「……ああ、そうだな」

今日で終わります

今日で完結します


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それは破壊に違いなかった。

人間も家屋も、街並みの全てが塵となる程の徹底した破壊。

上空から見たそれは明らかに人間の仕業ではなかった。

どれ程の大軍勢を率いてもあれ程の破壊は不可能、何か別の力が働いているに違いない。

土龍がその様を伝えると、僧侶は迷わず杖を振るった。

水龍と風龍、この二龍の命を内包した僧侶はアダマスの杖の力を存分に発揮する。

杖の一振りで町を囲んでいた大軍勢が音のない爆発によって四方八方に弾け飛ぶ。


磁石の反発を連想させる爆発。

隊列は一気に崩れ、立て直すには相応の時間を要するだろう。

土龍はすぐさま下降、人界の王の下へと僧侶を運ぶ。

倒れ伏す大量の兵士の中にあって、その男だけが悠然と立っていた。

僧侶は目には見えずともその男の異様さを一瞬にして感じ取り、立っている位置さえも正確に把握した。

二龍を受け入れた僧侶は、傍観者だとばかり思っていたその男の本質を見抜いた。


僧侶「……お前は天使だな」

???「私は龍と共に造り出された界の監視者、裁きを見届け新たな始まりを監視する」

感情のない平坦な声が響く、以前話した王なる人物とはまるで違う。

おそらく人間を演じるように造られたのだろう。

姿だけでなく内から発する生命を幾重にも偽装していたのだ。

それが龍を欺いた力、生命の偽装。

あくまで機会的な応答、事務的な対応で監視者は続ける。

監視者「裁きを行わないのであれば私が行う。本来ならあってはならぬことだ」


監視者「しかしこれは私の役目ではない」

僧侶「なら何故?何故今頃になって動いた?」

僧侶「オレが何をやろうとしていたのか分かってたんだろ?」

監視者「想定出来る範囲を超えた事態、判断の大幅な遅延」

監視者「裁く者よ、成すべきを成せ」

僧侶「断る。人間……いや、全ての界は裁きから解放されるべきだ」


監視者「監視者の権限により擬似的な裁きを行う」


宣告した瞬間、眩い光が溢れ出す。

硝子が割れるような音と共に王の体は剥がれ落ち、真白の彫刻が姿を現した。

一切の穢れのない、嫌悪感さえ覚えるような異質の美しさ。

背中から軋みを上げて広がる翼、生命を感じさせない彫刻のような姿。


土龍「……僧侶、兵士が起き上がったぞ!!」

僧侶「遺体を操作する気か!?」


監視者「散開。人界の裁きを実行せよ」


発した号令と共に命なき兵士達が空を飛び各地へと散っていった。

更には兵士達に殺害されたであろう民間人の遺体までもが動き出す。


僧侶「ッ、ふざけんな!!」


杖を振り地面に張り付けたが徐々にその拘束は緩み、兵士達は命を実行するべく飛び立った。

僧侶は直感的に理解した、純粋に監視者の力の方が優れているのだと。

始まりから幾度もの裁きを経たが、監視者は課せられた任務のみを実行してきた。

感情を持たぬが故に裏切りはない、だからこそ強大な力の所持を許されたのだろう。


監視者「誤った選択だ」

僧侶「ッ!!」

僧侶「間違ってんのはてめえの方だ!!」

僧侶「訳の分からねえ裁きでどれだけの奴等が泣いたと思う!?」

監視者「行き過ぎた繁栄は望ましくない」

僧侶「何だと?」

監視者「裁きを行わずとも行き過ぎた進歩が界を終わらせる」

監視者「数多の終わりを見てきたが、それだけは変わらない」


僧侶「……滅ぶ前に滅ぼすってことか?」

監視者「それが最善だと判断する」

勇者「僕は最悪だと思う」

監視者「理解し難い思考だ」


瞬間的に現れた勇者に驚くことなく、監視者はその刃を躱す。

しかし勇者が狙っていたのは監視者本体ではない。

真の狙いは監視者から伸びる『界の糸』。

力の供給、天界との繋がりを斬るべく放たれた必殺の刃。


監視者「…殲…滅…殲…せ…よ…」


崩れ落ちながら繰り返し発せられる言葉にはやはり感情はなかった。

しかし、それがより一層の不気味さと呪いめいたものを感じさせた。


僧侶「……勇者、お前…」

勇者「炎龍に頼んで強引に飛ばしてもらった」ウン

僧侶「……はぁ」

土龍「無茶すんじゃねーよ、まあ…助かった。オレは何も出来なかったし……」

土龍「まあいいや、それより都は大丈夫なのか?」


勇者「うん、北の街の人は皆無事に都に移動出来たし大丈夫」

僧侶「……こいつを倒したら兵士も止まったみたいだな」

勇者「本当?」

僧侶「ああ、都にいる炎龍が教えてくれた。勇者、土龍、都へ戻ろう」

勇者「……あれ、何か変な

土龍「なっ!?おい、どうなってる!?」


それは地震などではなく界全体の揺れ

急激に異界の接近が早まった為に起きた現象。

僧侶が杖を振るうも勢いは全く衰えない。

それを見た土龍はすぐさま二人を背に乗せ都へと向かった。

次で終わると思います。また後で


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北東の都 古風な屋敷

僧侶「一旦は落ち着いたみてえだけど次の揺れで最後だ」

警備兵「……行くのか?」

僧侶「ああ、そうしねえと終わっちまうからな」

警備兵「おい、まだ子供と嫁を紹介してないんだ。必ず帰って来いよ」

僧侶「死ぬつもりはねえよ。帰って来たら会わせてくれ」

警備兵「……ああ」


エルフ「……………」

僧侶「おいおい、黙ってねえで何か言ってくれよ。頑張れとかで良いからさ」

僧侶「オレはこれから世界を救いに行くんだぜ?」ニコッ

エルフ「……必ず帰って来い」

エルフ「貴様が死ぬと娘が泣く、娘を泣かせたら許さんからな」

僧侶「はははっ!」

僧侶「まったく、おっかねえ親父だなぁ……大丈夫!絶対に帰って来るさ!!」

僧侶「じゃあ、行ってくる」


カツンッ…カツンッ…


警備兵「信じて待とう、あいつの帰りを……」

エルフ「……そうだな、我々にはそれしか出来ない」


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小さな空き家

孤児「兄ちゃん、どこ行くの?」

僧侶「ちょっと忘れ物を取りに行く、勇者と一緒に大人しく待ってろよ?」

孤児「土龍姉ちゃんと炎龍ちゃんは?」

僧侶「二人と一緒に行くんだ、荷物が多いから手伝って貰う」

孤児「じゃあ、おれも手伝う」

僧侶「うーん、嬉しいけどお前達にはまだ持てないんだ。すっげえ重いからな」

孤児「……そっか、じゃあ待ってる!」

僧侶「よし、偉いな。じゃあ、ちょっと行ってくる」

孤児「うんっ、いってらっしゃい!」

僧侶「ああ、行ってきます」

ガチャ…パタン…


勇者「……僧侶」

僧侶「悪いな外に待たせて、子供達がいるから中じゃ話せなかったんだ……」

勇者「僧侶、帰って来るよね?」

僧侶「帰ってくるさ」

勇者「待ってるからね?」

勇者「どれだけ時間が掛かってもいい、遅くなっても構わない……」

勇者「だけど絶対帰ってきて?ずっと待ってるから」

僧侶「……ああ、絶対に帰ってくる」


ギュッ…


勇者「僧侶、帰ってきたらーーーーー」

僧侶「……分かった、約束する。じゃあ、行ってくる」


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バサッ…バサッ…

僧侶「出来るだけ都から離れた場所に頼む」

炎龍「はい、分かりました」

土龍「あーあ、これで僧侶ともお別れかよ。嫌じゃねーけど……やっぱり嫌だな」

炎龍「土龍、我がままを言わないで下さい」

土龍「だって寂しいじゃねーか!!炎龍は寂しくねーのかよ!?」

炎龍「私はもう告白してきっぱり断られましたから」

僧侶「うっ…そういうこと言うなよ……」



炎龍「ふふっ、冗談ですよ」

土龍「なあ僧侶、オレは駄目か?やっぱり嫁は沢山いた方が


グサッ!


土龍「いってえ!?この氷…水龍、テメエ!!」

水龍『嫁は一人でいい、私は諦めてはいないからな』

風龍『へぇ、勇者と僧侶が抱き合った時に悔し涙流してた泣き虫がよく言うねぇ』

水龍『黙れ、殺すぞ風龍』

土龍「風龍はどうなんだよ?嫁になりたくねーの?」

風龍『それぞれの家を別々にして住むのはどうだい?殺し合わずに済むだろ?』


水龍『……確かに、それは良いかもしれないな』

炎龍「はい、私もそれなら大賛成です」

僧侶「……やめてくれ、勇者に殺されるぞ」

土龍「いや、ああ見えて結構懐深いし何とかな

僧侶「ならねえよ!!」

炎龍「残念ながら、お喋りはここまでです」

炎龍「僧侶様、此処が最適な場所だと思われます」

僧侶「……そうか、じゃあ始めよう」


土龍「うっし!じゃあオレからだな!!」

土龍「僧侶、オレはお前が大好きだ!生まれ変わってもな!!」グイッ

土龍「やってやろうぜ!!皆が生きる未来の為に!!」


ズズズ…カッ!


炎龍「最後は私ですね」

僧侶「炎龍、お前には一番世話になった。色々教えてくれた……」

僧侶「本当にありがとう」

炎龍「お礼なんていいですよ……これが終わったら、また何処かでお会いしましょう」

炎龍「……私は貴方を愛しています」

ズズズ…カッ!


僧侶「………神よ、これでやっと会えるな」


四龍全てを受け入れた僧侶は空高くに立ち、裁く者へと変化した。

神が人界へ堕とした告発の天使が今此処に姿を現したのだ。

神々しく輝くその姿は人々の想い描く天使そのもの、白き翼を持つ穢れなき反逆者。

彼は天空を見つめ杖を掲げると強く念じた。


「神よ、もう終わらせよう」


神を引き寄せ、神を終わらせる為に……


この瞬間、全ての界が強く揺れた。

先程の揺れとは規模が違う。


神という凄まじい質量の物体、天界そのものが空を割って姿を現した。

七色に輝き不規則に明滅する球体、彼の眼前にある巨大な卵こそが全界の主。


この七色の卵から全てが生まれたのだ。

今まで繰り返された裁きという名の拘束具、滅ぶ前に滅ぼす装置を創り出した存在。


彼に神を憎む気持ちなどない、神を裁くつもりもない。

これまでの流れを終わらせ、裁きのない新たな界だけを望んでいる。


「こうなるって分かってたんだろ?」


神からの応答はない、ゆったりと浮かびながら明滅を繰り返すのみだった。

声はなくとも彼は感じていた。

神が何を思うのか、そして何を望み己を造ったのかを……


「ああ、もういいんだ……」

「人々はこれから己の足で歩んで行くだろう」

「だが貴方を忘れはしない、貴方を憎みはしない」

「もう彼等に管理は必要ない、ただただ見守ろう」

「さあ、殻に閉ざされた世界を終わらせて幕を引こう……」

「貴方が、この世界を愛しているのなら」


卵は脈動を繰り返し、殻は遂に割れた。

膨大な神の欠片、七色の輝きが全ての界に降り注いだ。

それを追うように彼も光の粒となり、神と共に数多の界へと旅立った。

あるべき物をあるべき場所へ戻しながら、彼と神は長い長い旅に出たのだ。

新たな始まりを見つめ、生きとし生けるもの全てを見守る為に……


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小さな教会

孤児「なあ姉ちゃん、兄ちゃんはいつ帰ってくんのかなぁ」

勇者「随分遠い所に行ったからね、帰ってくるのはまだ先だよ」

勇者「それより明日から都に住むんでしょ?支度はしたの?」

孤児「した。でも何か嫌だな、警備兵のおっさん怖いしさあ」

勇者「これからお世話になる人をそんな風に言っちゃダメ」

孤児「はいはい、つーかさぁエルフの姉ちゃんはいつ来るの?」


勇者「都に行ったら会えるでしょ?」

孤児「親父さんが怖くて近づけねーんだよ!!確実に弓で射られる!!」

勇者「まあ、あんたがいくら頑張っても無理でしょうね」

勇者「あの娘は今でも僧侶が大好きなんだから」

孤児「世界一の美女も四龍の姉ちゃん達も、みーんな兄ちゃんが好きなんだもんな!!」

孤児「何だよ、ちょっと格好いいからって全世界の美女を独り占めにしちゃってさあ!」

勇者「………………」


ゴンッ!

孤児「いってえな!!」

勇者「世界一の美女は私、それは変えようのない事実」ウン

孤児「はいはい、そうでしたね。ごめんなさい」

孤児「……全く、兄ちゃんも格好付け過ぎなんだよな」

孤児「お前達にはまだ持てない、かなり重いんだ。とか言っちゃってさ」

勇者「……友達と約束してるんでしょ?早く行きなさい」

孤児「あっ、そうだった!じゃあ行ってきます!!」


ガチャ…バタンッ!


勇者「はぁ、扉は静かに閉めなさいって言ってるのに……」

勇者「でも、あの子が行ったら寂しくなるなあ。一人になっちゃうし」


ガチャ…


勇者「忘れ物でもしたの?まったく……」クルッ


























僧侶「……遅れてごめんな」

僧侶「大事な忘れ物を思い出すのにちょっと時間掛かっちまった」

終わりです。ありがとうございました


勇者「……お帰りなさい」

ギュッ

僧侶「おう、ただいま」

勇者「目、治ったの?」

僧侶「治ったっつーか、まあ色々あったからな」

勇者「……約束、憶えてる?」

僧侶「二人で子供達の面倒見るんだろ?」

勇者「子供達はもういない、あの子で最後……」

勇者「でも、私達の子供を育てれば問題ない」

僧侶「は?」

勇者「私と僧侶の子供が欲しい、ダメ?」

僧侶「いや、帰って来たばっかだし他の奴等にも挨拶とかしたいし……」

勇者「ねえ、ちょっといい?」

僧侶「ん?何だ?」

勇者「子供ってどうやったら出来るの?」

僧侶「…………………」



僧侶「勇者が純粋無垢で困る」


終わり

これで本当に終わりです。

設定の矛盾とかあったらすいません。
何だか妙に長くなったけど、ありがとうございました。

レスありがとうございます。
指摘質問非難罵倒とかあったら言って下さい。
此処で言ってくれた方が楽になれますので……


>>>>

警備兵「……とまあ、今はこんな感じだな」

警備兵「神様と一緒に全てを見ていたんだから分かると思うが……」

僧侶「いや、なんつーか『全て』とは言っても個々の心情までは見れねえよ」

僧侶「それにオレはオレだっていう認識は出来なかったんだ。忘れてたっていう感覚に近い」

警備兵「じゃあ、あの時はどんな感じだったんだ?神と対峙した後は?」

僧侶「んー、全身が砂の粒になって……その一つ一つが全部繋がったんだ……」


僧侶「だから全ての界を観測することが

嫁「ちょっと、せっかく来てくれたのに難しい話しばかり訊いたら台無しでしょ!」

嫁「僧侶さんだって困ってるじゃない!!もう少し普通の会話しなさいよ!」

警備兵「わ、分かった分かった!そんなに怒るなよ……」

嫁「ふんっ!大体ね、騎士団長サマだか何だか知らないけど帰ってくるのが遅いのよ!!」

嫁「兵士である前に旦那なんだから家庭を守りなさい!」


警備兵「……はい」

嫁「僧侶さん、ごめんなさいね?」

嫁「この人ったら、あなたがいなくなってから変に頑張り過ぎちゃって大変だったの」

僧侶「そうだったんですか……すいません」

嫁「謝らなくていいの、ただ僧侶さんの前で言った方が利くと思って……」

嫁「急に怒鳴ったりしてごめんなさいね?」

僧侶「いえ、心配する気持ちは分かりますから」

嫁「ありがとう…じゃあ私は買い物に言ってくるから。ごゆっくり」

ガチャ…パタンッ…


僧侶「いい嫁さんじゃねえか、ちょっと怖いけど」

警備兵「ああ、出来た嫁だよ。本当に……で、お前はどうなんだ?」

僧侶「子供達は皆この都に移っちまったからな、今は二人で暮らしてる」

警備兵「そう言えば最近入ってきた子がお前のとこの子供達の一人だったな」

僧侶「怠け癖がある奴だがよろしく頼む」

警備兵「勿論、責任持って預からせてもらう」


警備兵「勇者とはどうなんだ?」

僧侶「変わらねえよ、オレもあいつも」

警備兵「それはないだろう、言葉遣いや表情だって随分変わったんだから」

僧侶「……帰って早々子供が欲しいなんて言われてな。本当に困ってる」

警備兵「何で困るんだ?家庭を持つのは良いことだぞ?」

僧侶「いや、そうじゃねえんだ。その…あまりにも『そういう知識』がなくてな」

警備兵「まさかお前、勇者に変態的な要求を

僧侶「んなわけあるか馬鹿野郎!!」


警備兵「冗談だ。それで?」

僧侶「……あいつ、どうやって子供が出来るか知らないんだ」

警備兵「……………」ポンッ

僧侶「何だよ、その気の毒そうな顔は…つーかちょっと笑ってんだろ」

警備兵「僧侶、俺から言えるのはたった一つだけだ。よく聞け……」

僧侶「……何だよ」

警備兵「頑張れ」

僧侶「……………」

警備兵「顔を赤らめて性教育するお前の姿を想像すると……」

警備兵「はははっ!駄目だ!笑いが止まらん!!」


>>>>

エルフ「で、殴ってしまったわけか……」

僧侶「気付いた時には拳が顎を…」

エルフ「まあそれはいい、とにかく再会出来て良かった」

エルフ「しかし粒子となり界を観測していたとはな……興味深い」

エルフ「どうやって再構成した?良ければ教えてくれないか」

僧侶「いや、粒子って言ってもオレは確かに存在してんだ」

僧侶「ただ自分がどういった存在なのかが理解出来なかった。問い掛けられるまではな」


エルフ「それは誰に?」

僧侶「姿は勇者だった。その時は勇者だと認識出来なかったけどな……」

僧侶「オレが望むものが形になったのか、思い出す為に無意識に創り出した偶像だったのか……」

僧侶「それは今でも分からねえ、もしかしたら神だったのかも……」

エルフ「……何を話したんだ?」

僧侶「オレが何者であるのか、また何者でありたいのか」

僧侶「オレがオレを理解するまでそれは続いた。途方もない、長い長い会話だった」

僧侶「言葉ではなくて粒子の動きっつーか……まあそんな感じだな」


エルフ「それで自己を再認識したのか……全ては分からないが分かる気がする」

エルフ「……すまないな、こんな話しをさせてしまって……」

僧侶「別にいいさ。それより若いよな、お前」

エルフ「寿命などあってないようなものだからな」

僧侶「警備兵…騎士団長様が羨ましがってたぜ?」

エルフ「そんなに良いものではない、貴様等が死んだ後を想像すると酷く落ち込む」

エルフ「正しい歴史を知る者、我々の理解者はいずれいなくなる」


エルフ「……そうなれば再び争いが起きる」

僧侶「あんまり先のことばかり考えるな、大丈夫だよ」

エルフ「何故そう言える?」

僧侶「全てを見たからさ、確かに争いは起こるだろうが『何とかする奴』がいる」

エルフ「ふっ、そうか……その言葉を聞いて安心した、憶えておこう」

僧侶「あ、そういや娘さんは?」


エルフ「聞いていないのか?」

僧侶「別になにも、たまにうちの教会に来てたことぐらいしか」

エルフ「娘は今や女王だ、ドワーフの長が補佐してくれている」

エルフ「全く、面倒なことを引き受けたものだ。私も妻も心配でならない」

僧侶「は?」

エルフ「驚かせるつもりはなかったが、奴は敢えて隠していたようだな」


僧侶「人間からの反発はねえのか?」

エルフ「それは勿論あるが人間代表がいるから問題ない」

僧侶「人間代表って何だよ?」

エルフ「勇者だ。我々がおかしなことをすれば彼女が黙っていない……」

エルフ「私が過ちを犯した時は首を差し出す、女王はそう宣言した」

エルフ「民をまとめる為の口実、口約束程度のものだ。気にすることはない」


僧侶「へー、肝が据わってんなあ、あんたの娘さんは……」

エルフ「僧侶さんと再会しても恥ずかしくない立派な女性になりたい、だそうだ」

エルフ「諦めろなどとは言えん、かと言って素直に応援も出来ない」

僧侶「……怖えからその顔やめてくれよ、友人にする顔じゃねえだろ」

エルフ「……まあいい、もう一つ気になることがある」

僧侶「何だ?」

エルフ「勇者とは一体何者なのだ?神が創造した存在であるのは確かなのだろう?」


僧侶「オレが選択を間違えば勇者が神を殺し、そして勇者も消える……」

僧侶「そんな結末も確かにあった」

僧侶「どの道、界は裁きからは解放され自由になるようになってたんだよ……」

エルフ「……良かった」

僧侶「ん?」

エルフ「口の悪い天使が界を救ってくれて本当に良かった、そう言っているんだ」

僧侶「ははっ、何だそりゃ」


エルフ「口を開けば馬鹿だの死ねだの殺すだの……」

エルフ「そんな男が皆の為に自己犠牲、全ての界を救った……」

エルフ「全く、おかしな天使もいたものだ」

僧侶「まあいいじゃねえか、こうして帰って来たんだからよ」

エルフ「……あまり気乗りはせんが…」

僧侶「?」

エルフ「娘に会ってくれないか、きっと喜ぶ」

僧侶「いいのか?」

エルフ「大丈夫だ、妙なことをすれば矢を放つだけだからな」スチャ

僧侶「……ここから城まではかなり距離あるけど、届くのか」

エルフ「問題なく届く、娘に手を出す輩は絶対に許さない」

エルフ「我々が育てた赤ん坊、それ以外の人間はまだ信用出来ないからな」

僧侶「あんなことされたんだ、疑念を持つのは分かる。つーかその顔やめてくれ、怖えよ……」


>>>>

少女「うぅ…」


おや、どうしたんだい?


少女「お姉ちゃんたち、だれ?」


オレは土の神様みてーなもんだ、何で泣いてるんだ?


少女「この山にしか咲かない花をとってこいって言われて、それで…」


ふーん、なら手伝ってやるよ


少女「ホント!?お姉ちゃん、ありがとう!!」


あまり無理をするな。ほら、私の手を握れ…


少女「お姉ちゃん、やさしいね。手、あったかい」


あったかいか、私は水……


少女「?」


優しい奴は強いんだぞ?だからオマエも優しくなれ

誰よりも優しくて誰よりも強い女になって見返してやりな


少女「……じゃあ、強くなれること、おしえてくれる?」


勿論!私達で良ければ教えますよ

補足と蛇足。
沢山の感想ありがとうございます。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年11月14日 (土) 13:15:59   ID: sS1TFis-

面白かった!

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