暗殺者「お前を暗殺しちまうぜ?」(109)
第一話 『暗殺者たち』
― 『国王直属暗殺部隊』本部 ―
暗殺者「あぁ~、ヒマだ。やることねえ」ショリショリ
ブドウ粒の皮をせっせとナイフでむく男。
暗殺者「お、むけた」ヒョイッ パクッ
女暗殺者「ちょっとぉ、ブドウぐらい皮ごと食べなさいよ」
暗殺者「俺、ブドウの皮って苦手なんだよ。果肉の柔らかさとマッチしてない感じがさ」
女暗殺者「ならせめて、細く長く皮むくのやめなさいよ。リンゴじゃないんだから。
手が汁でベタベタじゃないのよ……」
暗殺者「うるせえな。ちゃんと拭くって!」
暗殺者「お前こそ、いつまで爪いじってんだよ。よく飽きないな?」
女暗殺者「女は指先が命なんだから、これぐらいトーゼンでしょ」
暗殺者「指先より、もっと気を配るべきところがあるんじゃねえの?」
女暗殺者「なんかいった?」ギロッ
暗殺者「いえ……」
そこへ、暗殺者より年下の青年が話しかけてきた。
後輩「センパイ、センパイ! ヒマならダーツしましょうよ、ダーツ!」
暗殺者「やらねえよ、どうせお前が勝つだろうが」
後輩「ちぇっ」ヒュッ
ストンッ!
後輩の投げた矢は、数メートル先にある的の真ん中に刺さった。
暗殺者「頭領! なんか仕事ないんですか!?」
窓際に座る、でっぷりと太った中年男性。彼こそがこの暗殺部隊の長である。
頭領「ないねえ」
頭領「今の陛下は血なまぐさいことがお嫌いだから、
我々に暗殺任務を下すことはなくなってしまったんだよねえ」
暗殺者「ハァ……」
暗殺者「だったらこんな部隊、もう解散しちゃえばいいじゃないですか!」
暗殺者「今日もここに出勤してくる時、近所の子供に
“あ、国王直属暗殺部隊の人だ”なぁんて笑われちまいましたよ」
暗殺者「分かってるんですよ、子供ですら。俺らがヒマしてるってことを」
暗殺者「せめて、この大仰な部隊名を変えましょうよ。完全に名前負けしてますって」
頭領「そうもいかんのだよ」
暗殺者「どうしてです?」
頭領「陛下が“国王直属の暗殺部隊なんてロマンがある”とおっしゃってるからさ。
だから、このままにしておきたいんだそうだ」
暗殺者「なんですか、それ。ロマンって……」
暗殺者「どうも陛下はいい年して、まだ子供のようなところが残ってるみたいですね」
後輩「アハハッ、それはセンパイも一緒でしょう」
暗殺者「なに? どこがだよ?」
後輩「だってボク、こないだ見ましたよ。センパイが愛用のナイフをなめて、
舌切ってるとこ」
暗殺者「ぐっ……!」
女暗殺者「呆れた……」ハァ…
暗殺者「おい、後輩……」
後輩「なんです?」
暗殺者「あんまり先輩をナメてると……お前を暗殺しちまうぜ?」ニヤッ
後輩「なんですか、それ」
暗殺者「決めゼリフだよ。決まってただろ?」
しばしの沈黙。
後輩「ハッキリいいましょうか、センパイ」
後輩「ダサいです」
暗殺者「なっ!」
女暗殺者「あたしも同意見」クスッ
暗殺者「な、なんだとぉっ!」
後輩「そもそも、いらないでしょ。暗殺者に決めゼリフなんか」
女暗殺者「うんうん」
暗殺者「いや、そんなことないって!」
暗殺者「そういう形から入る、みたいなのをすぐダサい呼ばわりする風潮あるけど、
俺はそういうのよくないと思う!」
暗殺者「形から入ることによるメリットって、絶対あるって! ねえ、頭領?」
頭領「え、そこで私かね?」ギョッ
暗殺者「頭領だって、決めゼリフのひとつやふたつ、あるでしょう?」
頭領「…………」
頭領「そりゃあ……まあね」コホン
頭領「昔は標的を仕留めた時、よくこういったもんさ」
頭領「これもオレの仕事だ……悪く思うなよ。だが、安心してくれ。
こんな稼業でメシ食うオレも、いずれ地獄に……」
暗殺者「おっと、書かなきゃいけない書類があるんだった」ガサガサ
女暗殺者「あたしも、仕上げなきゃいけない作業があったわ」サッ
後輩「ボクも用事があるんで、出かけてきます!」ササッ
頭領「……ひどい」シュン…
数日後――
― 『国王直属暗殺部隊』本部 ―
頭領「仕事が入ったよ」
暗殺者「ホントですか!?」
後輩「やったぁ!」
女暗殺者「いったいどんな任務なんですか?」
頭領「今度、陛下が国民に向けて大広場で演説を行うから、その時の警護だそうだ」
暗殺者「なぁんだ。警護ですか」
頭領「こらこら、警護も立派な職務だよ。
私たちは暗殺部隊だが、なにも暗殺だけが仕事ではないからね」
暗殺者「分かってますって、頭領」
後輩「そりゃそうですよね。センパイ、なぁんだといいつつ、
顔がウキウキしてましたもん」
暗殺者「うるせえよ! ……お前を暗殺しちまうぜ?」
後輩「だから、それダサいですって」
暗殺者「ダサくねえって!」
後輩「ダサいです」
頭領「あの……当日の持ち場を決めたいんだけど……」
暗殺者「お前、いい加減にしないと怒るぞ!」
後輩「ふふふ、ダーツで勝負しますか?」
暗殺者「さりげなく自分の土俵で勝負させようとすんな!
ここは男同士、正々堂々とフルーツ皮むき対決でだな……」
後輩「センパイこそ、自分の土俵に引きずり込もうとしてるじゃないですか!」
暗殺者「お前、先輩に向かって――」
女暗殺者「二人ともっ!!!」
暗殺者&後輩「!?」ビクッ
女暗殺者「当日の持ち場、決めましょ」
暗殺者&後輩「はい」
頭領「ありがとう……助かったよ」
女暗殺者「頭領、もっとしっかりして下さい」
頭領「はい」
演説当日――
― 大広場 ―
ワイワイ…… ガヤガヤ……
大広場は、大勢の市民で賑わっていた。
さらには国王襲撃を警戒し、兵士たちも要所要所に多数配備されている。
暗殺者「すげえ人だな……。もし俺が陛下暗殺を命じられたら、今日やるだろうな」
女暗殺者「なにいってんの、あんた!」
暗殺者「じょ、冗談だよ、冗談……」
女暗殺者「冗談じゃすまないっての!」
頭領「それでは、それぞれ持ち場につくとしよう」
頭領「大広場の東方面は暗殺者君、西は女暗殺者さん、南は後輩君、北は私がつく。
いいね?」
暗殺者「はいっ!」
女暗殺者「はい」
後輩「頑張ります!」
頭領「では武運を祈ってるよ」
『国王直属暗殺部隊』の四人は国王警護のため、各自の持ち場へと解散した。
……
アサシンA「どうだ? 大広場の様子は?」
アサシンB「兵士による警備は万全だが、隙は見受けられる。問題はないだろう」
アサシンA「この国の国王は温和に見えて、外交面ではなかなかにしたたかだ。
願ってもないこのチャンス……今日ここで必ず始末する」
アサシンB「もちろんだ。ところで、例の暗殺部隊も警護に参加しているとのことだが?」
アサシンA「この国の暗殺部隊は人数も少なく、いつも暇を持て余していると聞く。
そんな連中は我々の相手になるまい」
アサシンB「それもそうだな」
アサシンA「では、人混みに紛れ、機会を待とう」
アサシンB「了解」
……
まもなく、国王の演説が始まった。
国王「親愛なる我が国民たちよ!」
国王「こんなにも大勢、集まってくれて感激の極みであるぞ!」
両手を広げ、己の包容力をアピールする国王。
ワァァァ……! ワァァァ……!
めったに肉眼では見ることのできない王の姿に、観衆が大きく沸き立つ。
人同士が押し合い、たった一歩を進むことすら困難な状況になっている。
しかし、そんな人混みの中をまるですり抜けるようにスイスイと移動する男たちがあった。
アサシンA(このまま観衆どもの最前列に出たら、一呼吸で王を殺るぞ)ササッ
アサシンB(分かった)ササッ
二人組がまもなく、最前列に到着しようとする。
――その時だった。
暗殺者「ちわっす」ニュッ
アサシンA「うわっ!?」
アサシンB「なんだっ!?」
暗殺者は特殊な発声術を使い、“二人組だけ”に話しかける。
暗殺者「お前らさ、気配の消し方が下手すぎ。
あれじゃ、俺たちこれから暗殺しますっていってるようなもんだ」
アサシンA「こ、このっ……!」
すかさず、近接戦闘用の暗器を構えるが――
サクッ…… ドスッ……
暗殺者は二人組にナイフを刺し込んだ。
アサシンA&B「…………!」ガクッ
暗殺者「いっちょあがりっと。こいつらで、俺の持ち場にいた奴らは全員かな」
………………
…………
……
大広場から少し離れた地点――
体をロープで縛りつけられた男が目を覚ます。
アサシンA「う、うう……」
暗殺者「お、やっと目覚めたか。ちなみに他の仲間も全員とっつかまえてある。
俺の担当区域にいたのは全部で8人だったな」
アサシンA「私は……ナイフで刺されたはずでは……」
暗殺者「すげえだろ。思いっきりナイフで刺しておいて、しかも相手を殺さない……。
ナイフの達人である、俺ならではの絶技だな」ニヤッ
アサシンA「貴様は……まさか国王直属の暗殺部隊か!?」
暗殺者「ピンポーン」
アサシンA「なぜだ! なぜ貴様のような暇人に我らが……!」
暗殺者「ぐっ……! た、たしかに暇人だけど、俺だって選りすぐりの暗殺者だ。
そんじょそこらの襲撃者には負けられねえよ」
暗殺者「ヒマそうに見えて、ちゃんと鍛錬だってしてるしな」
(ブドウの皮むきとか……)
アサシンA(まさか、こんなことになってしまうとは……!
だが、我らの負けは決まっていない! 他にも大勢の仲間が――)
暗殺者「お、まだ俺たちの負けは決まってないって感じのツラだな」
暗殺者「だけど、もうすぐ結果が届くと思うぞ」
アサシンA「……どういう意味だ?」
すると――
女暗殺者「こっちは全部、終わったわよ。
大広場の西に忍び込んでた奴ら、全員眠らせてきたわ」
女暗殺者「眠り薬を仕込んだ、この爪でね」キラッ
後輩「ボクも終わりました! 南にいた連中、矢を投げて全員やっつけてやりましたよ!
あ、もちろん生かしてはありますよ」
暗殺者「な?」
アサシンA「バ、バカな……!」
アサシンA「しかし、残念だったな……!」
アサシンA「大広場の北に潜んでいる我らの仲間は、我らの組織でも最強の精鋭集団!
必ずや、貴様らの王を――」
暗殺者「いやぁ、そりゃあ絶対無理だ」
女暗殺者「うんうん。なんたってあの人がいるし」
後輩「北にいた人たちは、まちがいなく一番の外れクジを引いちゃいましたよね」
暗殺者「極端な話、あの人が一人いれば俺たち三人なんていらないってぐらいの
パワーバランスだもんな」
アサシンA「なんだと……!?」
(こいつら三人が不要なほどの凄腕だと……!?)
少しして、頭領が笑顔でやってきた。
頭領「みんな、どうやら終わったようだね。ご苦労さま。
私も持ち場にいた怪しい者は、全員ひっ捕らえて、向こうに縛りつけてあるよ」
暗殺者「さすが頭領!」
頭領「私のところにいた者たちは、あまり腕がよくなかったから助かったよ」
アサシンA「腕がよくなかった、だと……! そ、そんな……!」
暗殺者「あの、頭領」ボソッ
頭領「うん?」
暗殺者「頭領のところに送られてた暗殺チームは、
どうやら敵さんの最強の精鋭集団だったみたいですよ」ヒソヒソ…
頭領「え!?」
頭領「……いやぁ、さすが精鋭、私も非常に苦戦させられたよ」
女暗殺者(なぜ敵に気をつかうのかしら……)
後輩「だけど、相手が精鋭とはいえ、頭領が一番遅くなるってのは意外でしたよ」
頭領「面目ない。どこから来たのか、命令者は誰か、というのを吐かせていたのでね。
きれいさっぱり吐いてくれたおかげで、事後処理もやりやすくなったよ」
アサシンA「……ほざけ! 我らとて対拷問の訓練はイヤというほど受けている!
こんな短時間で吐くわけがない!」
暗殺者「たしかに、普通の拷問なら吐かなかっただろうけど……。
相手は頭領だし、仕方ないって。なぁ?」
後輩「ええ、普通の拷問ならボクもいくらでも耐えられる自信がありますけど、
頭領の拷問を受けたら一分も持ちませんもん」
暗殺者「俺も一回チャレンジしたことあったけど、二分ぐらいで泣いちゃったな……」
頭領「いやいや、照れるなぁ……」
女暗殺者「照れないで下さい、頭領」
アサシンA「しかし……なぜだ!? なぜ、我らを一人も殺さなかった!?」
暗殺者「んなこと決まってんだろ?」
暗殺者「今回の俺らの任務はあくまで警護で、暗殺任務じゃないからだよ。
しかも陛下は流血沙汰が嫌いだからな」
暗殺者「もちろん、相手が強敵だったら、不可抗力が生じるのもやむなしだけど、
今回はどうってことなかったしな」
暗殺者「ようするに、殺すまでもなかったってことだ」
アサシンA「ぐううっ……!」
アサシンA「ふん、甘い奴らだ……!」
アサシンA「王の命を狙った敵を殺さぬなど、しょせん貴様らは三流よ!
いや、暗殺者としては三流未満の出来損ないよ!」
暗殺者「…………」スッ…
暗殺者はナイフを敵の首筋に突きつけた。
暗殺者「おい、あまり調子に乗るなよ」
アサシンA「うっ……!」
暗殺者「お前らはこれから、牢獄にぶち込まれることになるわけだが――
そうするかどうかは俺らの気分次第なんだ」
暗殺者「大人しくしてないと……お前を暗殺しちまうぜ?」
アサシンA「ひいっ!」ゾクッ…
後輩「お、今のはボクもちょっとドキッとしましたよ!」
女暗殺者「やる時はやるのよねえ、あいつ」
頭領「暗殺者君だけおいしいとこ持ってって、ずるいなぁ……!」
暗殺者「今のよかった!」
アサシンA「へ?」
暗殺者「あのさ、もう一回決めゼリフいうから、もう一回怯えてくんない? 頼む!」
アサシンA「は、はぁ」
暗殺者「お前を暗殺しちまうぜ?」
アサシンA「ひっ!」ゾクッ…
暗殺者「あ、ありがとうっ! あのさ、できればもう一回――」
後輩「やっぱりこうなっちゃうか……」
女暗殺者「前言撤回。あいつにやる時なんてないわ」
頭領「これもオレの仕事だ……悪く思うなよ。だが、安心してくれ。
こんな稼業でメシ食うオレも、いずれ地獄に……って誰も聞いてないか」
おわり
今回はここまでとなります
よろしくお願いします
二話もこのスレなん?
>>27
このスレでやります
第二話 『矢の行方』
― 『国王直属暗殺部隊』本部 ―
ストンッ!
的のど真ん中に、小さな矢が突き刺さる。
後輩「よし、絶好調!」グッ
暗殺者「よぉ、やけに張りきってるじゃんか。なにかあんのか?」
後輩「ボク今度、ダーツ大会に出るんですよ!」
暗殺者「ダーツ大会……?」
暗殺者「なんで、今さらそんなもんに出るんだよ。
お前が出たらダントツ優勝しちまうに決まってんだろうが。
なにせお前ときたら、足で投げても、目隠ししてても命中させるからな」
暗殺者「もしかして、賞品がすごいとか?」
後輩「賞品はたしかにすごいです。なにしろダーツの矢一年分ですから」
暗殺者(うわ、いらね……)
後輩「でもボクが狙ってるのは、もっとすごいものなんです!」
暗殺者「なんだよそれ」
後輩「じ、実は……女の子なんです!」
暗殺者「女の子ぉ!?」
― 酒場 ―
万が一にも頭領や女暗殺者には聞かれたくないということで、場所を変えた二人。
暗殺者「……ふうん。なるほどねえ」グビッ
暗殺者「最近知り合った女の子がダーツ好きで、いいとこ見せたいってわけだ」
後輩「てへへ……」
暗殺者「暗殺のために培った技術を、女の子にモテるために使うなんてな。
お前は大した男だよ」
後輩「てへへ……」
暗殺者「褒めてねえって」
後輩「いいですよね、センパイは」
暗殺者「あ?」
後輩「だってセンパイには、女暗殺者さんがいるじゃないですか。
だからボクみたいに必死にならなくて済むんですよね」
暗殺者「なっ!?」ギクッ
暗殺者「お、お前っ! バカじゃねーの!? だれがあんな女! バカじゃねーの!?」
後輩「分かりやすすぎますよ、センパイ」
暗殺者「あんまり俺をからかうと……お前を暗殺しちまうぜ?」
後輩「……それ、もうやめません?」
暗殺者「やめません! 絶対やめません! こうなったら俺も意地です!
一生言い続けてやるからな!」
後輩「はいはい」
暗殺者「はい、は一度でいい!」グイッ
ジョッキに入ったビールを一気飲みする。
暗殺者「――ぷはぁっ」ドンッ
暗殺者「ようし、分かった!」
暗殺者「当日は俺も冷やか……応援に行ってやるよ」
後輩「ホントですか?」
暗殺者「といってもこんな大会、優勝して当たり前なんだからな!
もし、優勝できなかったら……ナイフで全身を切り刻んでやるからな!」
後輩「任せて下さい! 必ず優勝してみせます!」
暗殺者「それじゃ、お前の優勝と恋の成就を祈願して……カンパーイッ!」スッ
後輩「カンパーイッ!」カチンッ
ダーツ大会当日――
― 会場 ―
会場に“ダーツ自慢”たちが続々と集結する。
ワイワイ…… ガヤガヤ……
暗殺者(こんなに客や出場者がいるとは、意外だったな……。
ダーツってこんなに人気ある遊びだったんだ……)キョロキョロ
暗殺者(――といっても、後輩の相手になりそうな奴はいねえな)
暗殺者(強いていうなら、あの金髪の奴ぐらいのもんか)
暗殺者の目は、端正な顔立ちをした金髪の若者を見据えていた。
暗殺者(で、後輩は……)チラッ
和気あいあいと話し込んでいる後輩と女の子。
後輩「今日は絶対優勝するから、見ててよ!」
茶髪娘「う、うん……」
暗殺者(へぇ、素朴でなかなか可愛らしい女の子じゃんか。
なかなかいい子を捕まえたもんだ)
暗殺者(――っとそろそろ大会開始か。観客席に移るとしよう)ササッ
大会が始まった。
大会は一対一のトーナメント方式で行われ、
矢を10回投げて、合計得点が高い方が勝ち上がれるというルール。
的の真ん中が最も得点が高く、10点。すなわち、満点は100点となる。
――ストンッ!
後輩「やったぁ!」
司会『これはすばらしい! 後輩選手、100点満点で一回戦突破です!』
暗殺者(そりゃそうだ……。もし、10点以外を取ったら俺がナイフブッ刺してやる)
後輩「よっ」ヒュッ
ストンッ!
後輩「ほいっ」ヒュッ
ストンッ!
司会『す、すごすぎます! 適当に投げているようにしか見えないのに、
一回戦からオール10点で、決勝進出だぁっ!』
後輩が他を寄せつけない圧倒的強さで勝ち抜く中――
金髪「たあっ!」ヒュッ
トスッ!
司会『金髪選手も97点で、決勝に進出です!』
決勝戦の相手は、暗殺者も目をつけていた金髪の若者に決まった。
決勝戦開始。
後輩(むふふ、これに勝って……あの子をボクのものにする!)ヒュッ
ストンッ!
後輩は相変わらず、当たり前のように10点を連発する。
対する金髪の若者も、善戦はするが――
トスッ!
金髪「しまった、9点か!」
やはり後輩には及ばない。
九投目終了時点で、後輩はむろん90点、金髪の若者は88点であった。
司会『さぁ、得点はわずか2点差! はたして勝負の行方は!?』
後輩(100点満点でもいいけど、あえて9点にするってのもアリかも!)
金髪(得点は2点差だけど、オレとこの人の差はそれ以上だ……。
まさか、こんなすごい人がいたなんて……)
もはや会場の誰もが、後輩の優勝を疑っていない。
ところが、一人だけ――
茶髪娘「金髪君、頑張ってっ!」
金髪「!」
金髪「あ、ありがとう……!」
後輩(――あ)
後輩(やっぱり……彼女が本当に好きなのは……)
後輩「…………」
後輩の投げた矢は――まさかの1点。
そして――
金髪「たあっ!」ヒュッ
トスッ!
金髪の投げた矢は、みごと10点に命中した。
司会『決まりましたぁ! みごと金髪選手が逆転勝利だぁっ!』
決勝を戦い終えた二人に、茶髪娘が駆け寄る。
茶髪娘「二人とも、お疲れさま!」
茶髪娘「金髪君、おめでとう!」
金髪「ありがとう……」
金髪「この大会に優勝できて、やっと決心がついたよ。オレ、君のことが好きだ!」
ワァァァ……! ヒューヒュー!
後輩「…………」
後輩はそんな二人のやり取りを寂しそうに、しかし、どこか嬉しそうに見つめていた。
― 酒場 ―
後輩「センパイ……ボク、最初から分かってたんです。彼女の気持ち。
だけど、もしかしたら望みもあるかなって……でも、ダメでした」
後輩「やっぱり恋はダーツのようにはいかないですね……」
暗殺者「最後の一本……よくわざと外したな」
暗殺者「お前は最高の後輩だよ」
後輩「ありがとうございます……!」グスッ…
暗殺者「飲め飲め、泣け泣け。今夜はとことん付き合ってやる」
おわり
今回はここまでとなります
第三話 『暗殺者VS騎士』
― 『国王直属暗殺部隊』本部 ―
ある昼下がりのこと。
女暗殺者「頭領、今日は早退してもよろしいですか?」
頭領「いいとも」
暗殺者「妙にウキウキしてるけど、もしかしてデートか?」
女暗殺者「そうよ」
暗殺者「ふうん」
バタン……
暗殺者「…………」
後輩「どうしました、センパイ?」
暗殺者「…………」
後輩「いやー、センパイ。ビックリしましたね。デートですってよ、デート。
フラれちゃいましたねぇ、センパイ」
暗殺者「……黙れ」
後輩「!」ビクッ
暗殺者の目は、かつてないほどに暗い光を帯びていた。
暗殺者「お前を暗殺しちまうぜ?」
後輩「…………!」ゾクッ
暗殺者「頭領」
頭領「な、なにかね?」
暗殺者「俺も早びけしてよろしいですか?」
頭領「もちろんいいとも! さ、どうぞ!」
暗殺者「……失礼します」スッ
バタン……
頭領「いやぁ、おっかなかったねえ」ホッ…
後輩「あんな恐ろしいセンパイ見たの、初めてですよ」
本部を出た暗殺者は、もちろん女暗殺者の尾行を決行する。
ただし、女暗殺者とて凄腕。
できるかぎり距離を取り、気配も極限まで薄めなければならない。
暗殺者は敵国のアサシン集団を相手にした時の、何十倍も気を張っていた。
暗殺者(相手が素人なら、真後ろからでも尾行する自信があるが……
あいつ相手じゃ、この距離が限界か……)
暗殺者(それにしても、デートだとォ!?)
暗殺者(あいつには俺という者がいるのに、相手は誰だ!?)
暗殺者(いや……俺とあいつは別に付き合ってるわけでもなんでもないんだけどさ……)
― 町 ―
普段とはまるでちがう、華やかな服装をした女暗殺者。
町の中心地にある噴水で、上品に腰を下ろしている。
暗殺者(おそらく、あそこで待ち合わせってところか……。
しっかし、なんだよあの格好! いつも質素な格好してるくせに!)
暗殺者(くそう……デート相手はまだか……?)
騎士「お待たせ」
女暗殺者「平気よ、あたしも来たばかりだから」
騎士「お腹空いてるだろ。レストランにでもいこうか」
女暗殺者「うん!」
暗殺者(あいつか……!)
暗殺者(あの体格、あの雰囲気……間違いない! あの男……騎士だ!)
暗殺者(しかも、相当腕が立つ。不意を突いたならともかく、
もし真正面から挑んだら、俺のナイフでも勝てるかどうか……)
繁華街を歩く二人。
騎士「ここなんかどうだろ? うまいワインを出してくれるんだ」
女暗殺者「わぁっ、ありがとう!」
楽しそうな二人を、必死に追う一人。
暗殺者(ちっ、レストランの中に入りやがった!)
暗殺者(さすがに中まで尾行するわけにはいかないし……仕方ない。
二人が出てくるのを、携帯食でも食いながら待つとするか)モグモグ…
一時間後――
女暗殺者「ふぅ、おいしかったぁ」
騎士「喜んでもらえて、嬉しいよ」
読唇術で、二人の会話を読み取る暗殺者。
暗殺者(おいしかった、だとぉ!?)
暗殺者(こないだ俺がドクロっぽく皮をむいたリンゴをプレゼントしてやったら、
こんなもんいらないって突っ返してきたくせに!)
その後も二人のデートは続いた。
ショッピング――
演劇鑑賞――
そしてお洒落なバーへ――
暗殺者(あんなに幸せそうな二人をつけ回して、俺はいったいなにをやってるんだ……)
暗殺者(いや、これも訓練! いつか来るであろう任務に備えての訓練なのだ!)
暗殺者(……さすがにムリがあるな、この正当化は)
すっかり夜も更け、二人は公園に入る。
― 公園 ―
女暗殺者「今日は楽しかったわ。どうもありがとう」
騎士「どういたしまして」
女暗殺者「ちょっと化粧直ししてくるわね」
騎士「ああ、行ってらっしゃい」
暗殺者(騎士が一人になった!)
暗殺者(夜に、しかも標的は一人きり……。うずく、うずくぞ! 俺の暗殺者魂が!)
暗殺者(だけど、いくらなんでも暗殺するわけにはいかない……。
逆恨みにも程があるし、俺にも暗殺者としてのプライドがある)
暗殺者(だったら、決闘だ!)
暗殺者(俺とあいつ、どっちが女暗殺者に相応しいか、決闘してやるんだぁっ!)
暗殺者「やいっ!」ババッ
騎士「!」
暗殺者「ここに、二振りの訓練用の剣がある……。
こいつは相手を思いっきりぶん殴っても死にはしないってシロモノだ」チャキッ
騎士「…………」
暗殺者「この剣でどっちが女暗殺者に相応しいか、勝負しろ! ……して下さい!」
騎士「よかろう」
意外にも、騎士はあっさり快諾した。
暗殺者(普通、こんなわけの分からない勝負に乗るか?
こいつ、もしかしてものすごくいい人なんじゃ……)
向かい合い、剣を構える二人。
騎士はもちろん、暗殺者もすでにいつもの落ち着きを取り戻している。
暗殺者「決闘の前に、決めゼリフを披露させてもらう」
騎士「ほう……面白い」
暗殺者「お前を……暗殺しちまうぜ?」
騎士「やってみるがいい」
音を全く立てない踏み込みから、暗殺者は一気に騎士の懐へと斬り込んだ。
騎士もその一撃を冷静に防御する。
キィンッ!
キィン! ギィン! ガキィンッ!
暗殺者の本来の得物はナイフ。
しかし、それを全く感じさせない身のこなしを演じる。
一方、騎士にも酒が入っているというハンデがある。
にもかかわらず、その動きは流麗そのもの。
――ギィンッ!
暗殺者「やるな」サッ
騎士「そちらこそ」ザッ
両者、改めて剣を握り締め、ここからが本番と気も引き締める。
女暗殺者「なにやってるの、二人ともっ!」
暗殺者「ゲ……!」
騎士「戻ってきたのか」
女暗殺者「ちょっとぉ、なんであんたがこんなところにいるのよ?」
暗殺者「あ、いや……」
女暗殺者「お兄ちゃんも、なにやってるの?」
騎士「…………」
暗殺者「ん!? お兄ちゃん……だと……!? この人、お前の兄ちゃんなのか!?
お前の兄ちゃん、騎士だったのか?」
女暗殺者「そうよ」
暗殺者(知らなかった……。俺たちは過去を明かし合うことなんてないから、
当然といえば当然だけど……)
女暗殺者「ところで、なんで二人は戦ってたわけ?」
暗殺者「!」ギクッ
暗殺者「あの……その、えぇと……」
騎士「私が酒を飲んだ状態でも剣を振れるかと、素振りをしていたら、
たまたま彼が通りがかってね」
騎士「なかなか腕が立つようだから、訓練に付き合ってもらったのだよ」
女暗殺者「久々に妹に会えたってのに、その目を盗んで訓練?
相変わらずなんだから……」
暗殺者(身勝手な決闘に付き合ってもらった挙げ句、かばってもらっちゃった……)
暗殺者(俺の……完敗だ……)ガクッ
騎士「いい汗をかいたし、私はそろそろ帰るとしよう」
騎士「君、妹と知り合いのようだから、家まで送ってあげてくれたまえ」
暗殺者「え、俺が……?」
騎士「それじゃ」ザッザッ…
公園に残された暗殺者二人。
女暗殺者「ねえ、こんなところでなにやってたの?」
暗殺者「なにって……夜目を鍛える訓練だよ」
女暗殺者「なーんだ、あたしを尾行してくれてたわけじゃないんだ」
暗殺者「おいおい、そんなストーカーみたいなことするかっての」
女暗殺者「――で、どうする? お兄ちゃんはさっさと帰っちゃったけど、
あたしはまだ飲み足りないって感じなんだけど」
暗殺者「なら、いつもの酒場に行くか」
女暗殺者「お兄ちゃんが連れてってくれたデートスポットから、
ずいぶんグレードが落ちちゃうわね」
暗殺者「……あ。だったら……もうちょっと他のところに……」
女暗殺者「ウソウソ! あたし、あの酒場大好きだし! さ、行こ!」
暗殺者「お、おう」
一方、帰路につく騎士。
騎士「…………」
騎士『お前、好きな男はいるのか?』
女暗殺者『一応、いるかな……』
騎士『どんな男だ?』
女暗殺者『決めゼリフがすごくダサいけど、やる時はやるって感じかな』
騎士(腕は立つし、なかなかよさそうな男じゃないか。よかった、よかった)
騎士(ただ……決めゼリフはたしかにダサかったな)フッ
おわり
今回はここまでとなります
第四話 『最強の標的』
― 『国王直属暗殺部隊』本部 ―
いつになく思い詰めた表情で、頭領が告げる。
頭領「諸君、暗殺指令が舞い込んできた」
暗殺者「ホントですか!?」
女暗殺者「まあ、珍しい」
後輩「標的(ターゲット)は、いったい誰なんです?」
頭領「標的は……これだ!」サッ
頭領が取り出したのは、小さく四角い物体であった。
暗殺者「なんですか、これ」
後輩「あっ、これ! ボク、知ってますよ!
『マジックファイト』っていう携帯ゲーム機ですよね?」
頭領「おお、よく知ってたね、後輩君」
暗殺者「マジック……ファイト?」
後輩「魔力石が中に仕込んであって、そのおかげで持ち運びができて、
いつでもどこでもゲームを楽しめるっていうオモチャですよ」
暗殺者「へぇ……ゲーム機ねえ」
(そういや……道ばたでこれをいじってる子供を見たことあるな)
女暗殺者「で、これを暗殺するっていうのはどういうことなんです?」
頭領「いやね、実は息子から頼まれてしまったのだよ。
このゲームが難しいから、なんとかラスボスを倒してクリアしてくれってね」
暗殺者「つまり、俺たちが暗殺する標的ってのは……」
頭領「このゲームのラスボスさ」
三人はしばらく声を出すことができなかった。
暗殺者「頭領、いくらなんでもこのオチはないでしょう!」
頭領「す、すまんね……」
頭領「しかし……私は家では息子となかなか話せてなくって、
なんとかここで、期待に応えてみせたいのだよ……」
暗殺者「…………」
暗殺者「分かりました。ようするに、そいつをクリアすればいいってことですよね?」
暗殺者「だったら、みんなで協力して、クリアしてみせましょうよ!」
後輩「どうせヒマですしね」
女暗殺者「暗殺部隊では、上司命令は絶対ですものね」
頭領「ありがとう、みんな……!」ジーン…
暗殺者「じゃあ、まず俺から……このボタンを押せば始まるんですよね」ピコーン
ゲーム内容はいたってシンプル。
魔法を放つ魔法使いを操作して、全7ステージを攻略すればゲームクリアとなる。
暗殺者「しょせん子供のゲーム……さっさとケリを……」ピコピコ
暗殺者「…………」ピコピコ
暗殺者「うわっ、なにこれ! このドラゴン強い!」ピコピコ
暗殺者「くっそ! くたばれ! なにこいつ、つええ!」ピコピコ
後輩「あれ? ゲームの時は、いつもの決めゼリフは言わないんですか?」
暗殺者「話しかけんな、バカ!」ピコピコ
暗殺者「あ……」ボーン
暗殺者「くそぉっ! やられちまった……」
後輩「次はボクですね、任せて下さい!」
後輩「ボクにかかれば、こんなもの、ちょいちょいっと……」ピコピコ
後輩「ん? んん?」ピコピコ
暗殺者「お、どうした、後輩君? ダーツのようにはいかねえか?」
後輩「こんなはずじゃ……!」ピコピコ
後輩「わーっ、ダメッ! 避けきれない!」ピコピコ
後輩「ギャーッ!」ボーン
暗殺者「このゲームのこと知ってたから、もっと上手いのかと思ったら、
俺より進めなかったじゃねえか」
後輩「うぐぐ……。ボクがこのゲームの世界に入れば、
矢を投げてあっという間にクリアできるんですけどね……」
暗殺者「よし、次はお前だ」
女暗殺者「あたしも? 男三人で交代してやればいいじゃない」
暗殺者「頭領は俺ら全員に命令したんだ。上司命令は絶対だぞ」
女暗殺者「……分かったわよ」
女暗殺者「ゲームに興味ないし、あたしは適当にやらせてもらうけど……」ピコピコ
女暗殺者「…………」ピコピコ
女暗殺者「…………」ピコピコ
暗殺者「おおっ、すげえ! 俺たちはステージ3まで行けなかったのに!」
後輩「センスありますね!」
女暗殺者「ちょっと黙って!」ピコピコ
暗殺者&後輩「はいっ!」
女暗殺者「くっ……ああっ、ダメっ……!」ピコピコ
女暗殺者「…………」ボーン
女暗殺者「あああ、やられちゃった……」
暗殺者「よぉし、次は俺だよな!」
後輩「センパイ、今度はボクにやらせて下さいよ! 次はもっといけます!」
女暗殺者「待って! もう一回あたしがやるの!」
ギャーギャー! ワーワー!
ゲーム機を取り合う三人。
頭領「まあまあ、落ちついて。みんなで仲良くプレイしよう」ニコッ
暗殺者&女暗殺者&後輩「はーいっ!」
こうして、かつてない強敵『マジックファイト』に挑む暗殺者たち。
暗殺者「お、パターン入った! ――入ってなかった!」ボーン
~
後輩「惜しい……初めてステージ4までいったのに……」ボーン
~
女暗殺者「むうう……今の当たり判定、おかしくない?」ボーン
~
頭領「ああっ、あああっ、ああああああああああっ!」ボーン
しかし、彼らとて、地獄のような訓練をくぐり抜けた暗殺のエリート集団。
暗殺者「よし……! ステージ3まではノーミスでいけるようになった……!」ピコピコ
~
後輩「ステージ4のボスの攻略法、メモっておきますね」カリカリ
~
女暗殺者「悔しいっ! ラスボスまでいけたのにぃっ……!」ボーン
~
頭領「若い頃、敵国の軍事基地に一人で侵入した時の緊張感を思い出せ……」ピコピコ
次第に『マジックファイト』のラスボスを追い詰めていく。
やがて、ついに――
頭領「おっ、おおおっ……おっ、おっ」ピコピコ
暗殺者「頭領、落ちついてっ! リラックス、リラックス!」
後輩「ボクの勘では、あと一発で倒せるはずです!」
女暗殺者「よけてーっ! かわしてーっ!」
頭領「あわわわっ……わわーっ!」ピコピコ
頭領「…………」チュドドーン
頭領「や、やった……! 倒せたぞぉっ!」
頭領は危なっかしい操作ながら、みごと“ラスボス暗殺”に成功した。
頭領「これもみんなのおかげだよ。ありがとう……!」
暗殺者「頭領、礼をいってる場合じゃありませんよ!」
後輩「センパイのいうとおりです!」
女暗殺者「息子さんにそのクリア画面を見せに行きましょう!」
頭領「おっと、そうだったね!」
ババババッ!
四人の暗殺者は頭領を先頭に、目にも止まらぬ速さで頭領の自宅に向かった。
― 頭領の家 ―
頭領の自宅は、素朴な一軒家であった。
頭領「おーい!」
頭領「おかしいな……気配はあったのに……」キョロキョロ
少年「お父さん、こっちこっち」
頭領のすぐ後ろで、あどけない顔つきの少年が笑っていた。
頭領「うわっ、そこにいたのか!」ババッ
少年「へへへ……」
暗殺者(肉親とはいえ、あの頭領の背後をあっさり取るなんて……!)
後輩(す、すごい……!)
女暗殺者(血は争えないってやつね……末恐ろしい子だわ)
頭領「これを見てくれ!」サッ
少年「!」
頭領「お父さんは、このゲームをクリアしたぞ! すごいだろう?」
得意満面で、頭領は『マジックファイト』のクリア画面を見せつけた。
少年「あ、ホントだ! すごいじゃん、お父さん!」
頭領「私としても、お前の力になることができて嬉しいよ……」
少年「だけどね……。あのね、実はね……」
頭領「?」
少年「ぼく……このゲーム、とっくにクリアできてたんだ」
頭領「へ?」
少年「だけど、ぼく……お父さんと全然話せてなかったしさ。
だからせめて、ぼくがどういう遊びをやってるか、お父さんに知って欲しかったの」
少年「そしたら、本当にクリアしてくれるなんて……どうもありがとう!」
頭領「…………」
頭領「こっちこそ、すまなかったな……相手してやれてなくて」
頭領「今度、母さんも連れて、一緒にレストランにでも行こうな」
少年「わぁーい、わぁーい!」ピョンピョン
後輩「こういう親子の会話っていいですよね。憧れちゃうなぁ」
女暗殺者「うん、頭領のこと見直しちゃった」
暗殺者「ちょっと待て」
女暗殺者「なによ」
暗殺者「頭領を見直すのもいいが、
俺たちには見なくちゃならないものがあるんじゃないか?」
後輩「なんです、それ?」
暗殺者「それは――」
暗殺者「あのさ、坊や」
少年「んー?」
暗殺者「さっき、このゲームをとっくにクリアしたっていってたけど、
よかったら今ここでクリアしてみせてくれないか?」
少年「いいよ!」
少年は全く無駄のないプレイで、ダメージをもらうことなくステージを次々攻略し、
いともあっさりラスボスを倒してみせた。
暗殺者&女暗殺者&後輩「…………」ゴクッ…
暗殺者&女暗殺者&後輩「弟子にして下さい!」ガバッ
少年「え!?」
おわり
今回はここまでです
最終話 『二人でなら』
不敵な笑みを浮かべる暗殺者たち。
暗殺者「俺こそが……いかなる悪をもナイフで切り裂く暗殺者!
お前を暗殺しちまうぜ?」
後輩「ボクの投げる矢は、標的の命を百発百中さ!」
女暗殺者「あたしの爪に刺されたら……イチコロよ」ウフンッ
頭領「今日も我らは闇に潜んで、王国の平和を守り抜く!」
頭領「みんなそろって!」
四人「国王直属暗殺部隊!!!」
ジャジャーン!
ワイワイ…… キャッキャッ……
子供たちが大喜びをする。ここは孤児院であった。
女園長「ありがとうございました。こちら、お代になります」ジャラッ
頭領「これはこれは、恐れ入ります」ペコッ
後輩「センパイ……。台本にないのに、例の決めゼリフねじ込みましたよね」
暗殺者「別にいいだろ」
― 『国王直属暗殺部隊』本部 ―
頭領「おかげさまで、子供たちはみんな大喜びだったよ」
頭領「では、今日はこれで解散としよう」
後輩「お疲れさまでーす!」
部屋から出ていく頭領と後輩。
女暗殺者「ねえ、どうせヒマでしょ? この後ちょっと付き合ってよ」
暗殺者「……まあ、いいけど」
― 公園 ―
ベンチに座り、一息つく二人。
暗殺者(この公園に来ると、あの完敗の思い出が蘇るな……)
女暗殺者「あのさ、今日の任務、どうだった?
子供たち相手に、ヒーローショーみたいなマネしてさ……」
暗殺者「そりゃあ、下らねえよ。
少なくとも、鍛えられた暗殺者がやるべき仕事ではないな」
女暗殺者「そう? あたしは結構、楽しかったんだけどな」
穏やかに微笑む女暗殺者。
暗殺者「…………」
暗殺者「まあ……俺も楽しかったよ、それなりに」
(決めゼリフもバッチリ決められたし……)
女暗殺者「あたしたちってさ、あたしもあんたも、後輩君も、
打ち明けたことはないけど、みんな後ろ暗い過去を持ってるよね」
暗殺者「……まあな」
ナイフの扱いなら右に出る者はいない暗殺者。
騎士身分の兄がいながら暗殺部隊に所属する女暗殺者。
普通の人生を送っていれば、決してたどり着かないであろう場所に二人はいる。
裏を返せば、なんらかの血塗られた過去を持っている証明でもある。
暗殺者「でなきゃ、こんな仕事につかないだろ」
暗殺者「過去の経緯から、殺しの才能があるって頭領から見出された三人組だ。
頭領だってきっと、そうやって見出されたんだろう」
女暗殺者「うん……」
女暗殺者「だからさ、あたし時々すっごく眩しいと思うことがあるの。
たとえば、今日の子供たちの視線なんかがね」
暗殺者「…………」
女暗殺者「でさ、たまに不安になるの。やっぱりあたしたちは闇の人間で、
光に当たるなんてのはもう無理なのかなって」
暗殺者「…………」
女暗殺者「だけど――」
暗殺者「待った」
暗殺者「そこからは俺にいわせてくれ」
暗殺者が息を吸い込む。
暗殺者「俺もお前も闇や影といった場所で生きる人間だ。
だけど、俺とお前の二人でなら……どんな場所でだって生きていける。
光に当たろうがなにしようが、眩しくなんかない」
女暗殺者「…………!」
暗殺者「こんな稼業だ。今はわりと平和にやらせてもらってるけど、
どっちがいつ先にくたばっても、おかしくはない」
暗殺者「だけど一緒にいよう……できるかぎり」
女暗殺者「……うん!」
暗殺者(よし……ここでビシッと決める!)
暗殺者「お前のハートを……暗殺しちまうぜ?」
女暗殺者「あらら……」ガクッ
女暗殺者「もーう、なんなのよ! なんでそれを出しちゃうかなー?」
暗殺者「え、ダメだった……?」
女暗殺者「あんたらしいといえば、あんたらしいけどね」ハァ…
ガサガサ……
後輩「そうですよ! なにやってるんですか、センパイ!」
頭領「ふふふ、微笑ましい光景を見物させてもらったよ」
暗殺者「ゲ……頭領! 後輩!」
後輩「センパイ、やっぱりその決めゼリフやめた方がいいですって!
どんなにかっこいいことしても、それで全部ブチ壊しですもん!」
頭領「まあまあ、彼が気に入ってるんだから……」
女暗殺者「まさか……今までの全部、見てたってわけ?」
後輩「そうですよ! 頭領はともかく、ボクの尾行にまで気づかないなんて、
よっぽど集中してたんですね。二人とも」
暗殺者「くうう……」
女暗殺者「やられたわね……」
頭領「暗殺に携わる者にはよくあるミスだね。私もよくやったものさ」
暗殺者「よくやっちゃダメでしょ、頭領!」
後輩「それにしてもひどいなぁ」
後輩「お二人の仲をジャマするつもりはありませんけど、
さっきの“俺とお前の二人”にボクたちも入れて下さいよ」
頭領「たしかに、のけ者にされるのは悲しいねえ」
暗殺者「おっと、こりゃ失礼!」
暗殺者「俺たち四人でなら、どんな闇も怖くないし、光も眩しくない!」
女暗殺者「あーあ、とことんムードぶち壊しね。面白いからいいけど」
頭領「それじゃ、お二人がくっついた記念に、今夜はパーッとやろうか。
酒場の薄暗い光の下でね」
頭領「もちろん、私のおごりだ!」
後輩「おおっ、やったーっ!」
女暗殺者「ありがとうございます、頭領」
暗殺者「俺たちは全員アルコールに強いですし、頭領の財布……暗殺しちまうぜ?」ニヤッ
女暗殺者「ぷっ!」
頭領「お、お手柔らかに……頼むよ」
後輩「アハハハッ! センパイ、今のはグーでしたよ!」
暗殺者(なるほど、この決めゼリフ、こういう方向に使うのもアリか……)
おわり
以上、全五話にて完結です
ありがとうございました!
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