押井守「艦これ?」 (58)

降りしきる雨の中、一台の黒塗りの車がレンガ造りの建物に到着する。

車から降りてきたのは、黒髪を後ろで纏めたセーラー服の少女。

彼女は長い廊下を進み、突き当りに位置する提督室の中へ一礼し入った。


吹雪「特型駆逐艦一番艦の吹雪です。本日付でこの鎮守府に配属されました」

提督「私がこの艦隊を束ねる司令官だ、よろしく」


彼は軽く敬礼を返すと、吸っていたタバコを灰皿の中に突っ込んだ。

灰皿の中では潰されたタバコがまだ煙を立てている。

彼はその様子をしばらく見つめていたが、ふっと顔を挙げ、再び視界に吹雪を入れた。





「ところで、君の名前を聞かせてくれるかい」




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◆   ◆   ◆

押井守「艦これ?」

石川「そう、艦これ。正式名称艦隊これくしょんです」

押井「名前だけは知っているけど……それを僕にどうしろと?」

石川「押井さんにはそのアニメを作ってもらいたい」

押井「オープニングアニメとかゲーム中に挿入するアニメを作れと?」



石川「いや、押井さんには劇場版アニメーションを作ってほしいんです」

押井「劇場版……」

石川「劇場版製作の話がどういうわけか、ProductionIG(うち)にまわってきたんです。角川から」

石川「それで、こういう話をやるなら押井さんしかいないと思って」

押井「しかし、それなら神山君とか押井塾のとか、ほかにもいろいろいるでしょう、優秀なのが」

石川「みんな忙しくて……」

石川「押井さんの軍事趣味をぶちまけていいですから、やってくれませんか?」

押井「少し考えさせてほしい」

◆  ◆  ◆

少女は軍港の格納庫に来ていた。

ふと岸壁に目をやると犬がその垂れ下がった耳をふりながら歩いている。

少女と犬が向かう方向は一致しているようだった。

格納庫の入り口では、淡い桜の色をした髪の女性が煙草で一服していた


「貴方は?」

吹雪「私は今日こちらに来た吹雪です」

「そうですか。私は明石です。よろしく」



二人は軽く握手を交わした。

明石は遅れてやってきた犬を抱き上げる。


吹雪「…明石さんの飼い犬ですか?」

明石「そうです。この鎮守府で飼わせてもらってるわ」

吹雪「かわいいですね」

明石「愛嬌があっていい犬ですよ。それにしてもこれで吹雪は4人目ね」

吹雪「そういうことになりますね」

明石「それで、艤装を見に来たのかしら?」

吹雪「はい」

明石「わかりました。ついてきてください」


二人と一匹はゆっくりと格納庫の奥に向けて歩き出した

あのSSを書いた人とは別人です
あれは凄まじかった…

◆   ◆   ◆

押井「艦これねえ…旧日本海軍艦船と美少女を掛け合わせたゲームか」

押井「こんなもの僕の手に負えるのだろうか」

押井「とりあえずゲームをやってみるか」

押井「君、君」

スタッフ「なんですか?」

押井「僕に艦これを教えてくれないか?」

スタッフ「艦これですか!?」

スタッフ「艦隊これくしょんとはプラウザゲームです。プラウザゲームとはわかりますか?」

押井「わかるよ」

スタッフ「なのでまずはKADOKAWAのアカウントをとらないといけません」

押井「なるほど…」カチッカチッ

スタッフ「ログインして鎮守府に着任します」

押井「初期艦…?」

スタッフ「最初に使用する艦娘を選べるんです」

押井「吹雪…駆逐艦吹雪がモデルか。これにしよう」カチッ

画面『提督、お疲れさまでした!そろそろ私達の母港に行きましょう!』

押井「母港…?」

◆   ◆   ◆
明石「艤装の確認は済んだかしら」

吹雪「はい」

吹雪「綺麗な整備です」

明石は頷くと、少し微笑む

明石「よかった。新人さんのために綺麗にしておいてよかった」

吹雪も釣られて微笑む。

明石「この鎮守府はどうですか」

吹雪「いいところです。それほど大きくもなく、落ち着いたところで」

明石「そうでしょう。ここは元々第二の横須賀港を建造するなんて目標で大々的な工事が行われる予定だったんです。でも私達艦娘の登場によってそんな大きな港は必要ではなくなった。輸送艦が入港できる程度の深さと広さしか必要ではなくなったの。本来の艦船も入れるようにしたほうがよいという意見もあったのだけども予算のむだだと言われてね…」

吹雪「そうだったんですか」

明石「太平洋は穏やかでいいでしょう。もっとも、その向こうは貴方舘の戦場ですけどね」

明石は遠くを見るような目をして言った

◆   ◆   ◆

押井「任務を受注して…工廠で艦娘を建造するのか」カチッカチッ

押井「これは艦娘が背負ってるやつだけを建造するのか、それとも人体まで製造するのか。そもそも艦娘は人間なのか…?」

「艦隊を編成…」カチッ

「演習…対人戦か。こういうシステムなんだな」

「実戦か…」

「…………」カチッ



「…………………」


「吹雪が大破した。服がボロボロだ。これは進軍させたらどうなるんだ?」カチッ…

◆   ◆   ◆

扶桑と山城、そして一航戦などの面々が思い思いの食事をとる食堂に吹雪は来ていた。

昼食をとるためである

吹雪は古びた食券器で月見そばを選ぶと、カウンターにそれを出し、しばらくして出てきたそばを持って一人席に座った。

彼女は付属してきた卵をそばにのせる。

そのようすは確かに秋空に浮かぶ月である。

音をたててそばを啜っていると、吹雪の隣に座るものがあった。



「隣にすわってもいい?」

吹雪「いいですよ。あなたは?」

夕立「私は夕立っぽい」

吹雪「私は吹雪。四人目の吹雪です」

夕立「私は二人めっぽい。ここに就いて間もないから仲良くしたいっぽい」


彼女はカレーを持っていた。それを旨そうに食べ始める。

夕立「……どうしたっぽい?」

吹雪「いえ、凄く美味しそうに食べるなって」

夕立「それは私がカレーがすきだったからっぽい!」

吹雪「だったから?」

夕立「食事をするという行為は艦娘にとって自己を保持するためのとても重要な儀式っぽい。だから私、夕立はいかにも旨そうにカレーを食べるっぽい」


吹雪は夕立の言葉の意味を理解することはできず、ただ首をかしげただけであった。

◆   ◆   ◆

石川「本当にやってもらえるんですか!?」

押井「うん」

石川「ありがとうございます。でもどうして急に?」

押井「実はね、昨日ゲーム少しに触れてみてたんだ」

押井「そしたらね、轟沈ってシステムを知った。艦娘がlostしてしまうんだけど」

石川「はい」

押井「その姿にね、なんかこう、哀れみを覚えた。不思議だよね、人がバタバタ死ぬ映画を何本も作っておきながら、ゲームのなかでの一人の少女の死にそんな感情を覚えるなんて…」

―――――――――――


画面『嫌だあ…嫌だよお…』

押井「…………………………」



―――――――――――

石川「……」

押井「ともかくも僕は心を動かされた。美少女ゲームが原作だっていうことには関わらず、好きにやってみたいと思う」

石川「…わかりました。よろしくお願いします!」

押井「スカイクロラの時は散々だったから、興業はあんまり期待しないでね」

とりあえずここまで
続きは夜にでもやります

時間ができたのでやります

◆   ◆   ◆

吹雪は自室の簡易ベットに寝そべり今日あったことを思い出していた。

提督に初めて会ったこと、明石と会ったこと、夕立と会ったこと、そして明日は他の鎮守府との演習の日であること。

明日に備えて既に艤装の慣らしも終えた。


吹雪「もう、引き返せないんだ」


彼女はベッドから天井を見上げていたが、直ぐ横を向いてしまう。





気づけば彼女は夢の中にいた。

海軍兵学校にいた頃、時々家族と会ったこと。

それが幸せだったこと

様々な思い出をイメージとして眺めるなか、1つだけ異質な映像があった。

吹雪(多くの乗組員が私の体に乗り込んでいる。給油を終えたら出港するんだ)

吹雪(待って、私に乗り込んでいる?私は人間だし、これは艦船だよ?)

吹雪(なにかがおかしい。あの船は私じゃないのに…)

しかし、レム睡眠はノンレム睡眠へと移行し、彼女の体はより深い眠りへと落ちて行く。

このときに感じた違和感も、直ぐに忘れてしまっていた。

スカイクロラいいですよね。僕は好きです。
あんまりスカイクロラっぽくならないようにしないと

◆   ◆   ◆

黄瀬「お久しぶりです」

押井「お久しぶり」

黄瀬「単刀直入に言います。私を呼び出したのは何でですか」

押井「新しい劇場アニメの作画監督をやってもらいたい」

黄瀬「劇場アニメ…イノセンス以来ですね。スカイクロラの二の舞は嫌ですよ」

押井「………やってもらえない?」

黄瀬「作品はなんですか?オリジナル?」

押井「いや、艦これのアニメだよ」

黄瀬「艦これ…あの艦これ?」

押井「もしかして知ってる?」

黄瀬「若いのと付き合って仕事してればある程度は耳に入りますよ。でも押井さんが艦これとは…」

黄瀬「…わかりました。好きにやらせてもらえるのならやります」

押井「よろしく」

『演習、開始』

「電探、よし。魚雷、よし。砲、よし」

「各艦に告ぐ。状況開始」

「陣形、単横陣」

吹雪「了解」

夕立「了解」


二人を含む複数の艦娘が陣を組み、海上に展開する。

露払いとして吹雪が酸素魚雷を放つが、相手は図体が大きく愚鈍な深海棲艦ではなく、艦娘である。
簡単に回避されてしまった。

その瞬間に吹雪は相手の顔を見る。相手は自分と顔は違うが同じ黒髪と服装の吹雪。相手の吹雪も砲で打ち返してくる。

吹雪の周辺に水柱が上がった。

◆   ◆   ◆

押井「では、方針のミーティングを行います」

押井「監督、絵コンテは僕が」

押井「作画監督に黄瀬和哉君、西尾鉄也君」

黄瀬「よろしく」

押井「美術監督には小倉宏昌君」

小倉「……よろしくお願いします」

押井「音楽に川井憲次さん」

川井「よろしくお願いします」

押井「キャラクターデザインは沖浦啓之君にしてもらいます」

沖浦「よろしく」

押井「メカニックデザイン、銃器デザインなどは僕と黄瀬君で担当します」

◆   ◆   ◆
吹雪「このっ!」
   
吹雪は敵の吹雪に向けて容赦なく模擬弾をたたきこむ。
模擬弾といっても弾頭の炸薬を鉄のかたまりに替えただけのもので、被弾するとそれ相応の痛みを感じる。

数発被弾した敵吹雪は、爆煙に乗じて逃げ延びていった。


ご丁寧にジャム用のアルミニウム箔で電探を撹乱してからの撤退だった。

吹雪「逃してしまった…」


戦況は始終こちらに有利に進んでいく。

しかしながら、しばらくして他の艦に異変が現れだした。悉くエンジンがストップしたのである

吹雪「どうしたの!?みんな」

夕立『吹雪ちゃん!今すぐネットワークを切断して!』

吹雪「えっ!?」

その瞬間吹雪は脳の表面を這いずり回るような不快感を感じ、思わず嘔吐する。脳が直接どこかと強引に接続された感覚が吹雪を襲い、エンジンはストップした。

吹雪「あ…あ…」

その瞬間、相手の戦艦が発射した徹甲弾が吹雪に直撃し、彼女は意識を失った

◆   ◆   ◆
押井「メカニックデザイン、どうしようか」

黄瀬「原作のままでいいんじゃないですか?」

押井「それじゃダメなんだ。アレはいわば艦娘に生体接続するものだろう?もっと有機的でグロテスクな機械じゃなきゃ」

黄瀬「攻殻機動隊みたいに近未来的じゃだめなんですか」

押井「一応旧日本海軍がモデルだし、イノセンスみたいな有機的な機械が描ければいいんじゃないか」




小倉「軍港の様子なんですが、これはロケハン行った方がいいんじゃないんでしょうか」

押井「そうだね。僕もそう思う。ついでに上海にも行く」

小倉「上海ですか?どうして…」

押井「GHOST IN THE SHELL みたいにさ、大陸からの難民が殺到してるはずなんだよ。今は強いが、昔の中国は海軍が弱い。すると深海棲艦の脅威に逐われて大陸沿岸から移住する者が増えるはずだ」

押井「そうすると、街が多国籍かつアジア的な上海みたいになるはずなんだ」

小倉「はあ…」

◆   ◆   ◆
司令官はある鎮守府に訪れていた。あの事件があった演習をした相手の鎮守府である。

「久しぶりだな。いきなりどうしたんだ?」

司令官「……先の演習についてだ」

「なにかあったのか?」

司令官「大本営連携ネットワークシステムを通じて艦娘へのクラッキングがあった」

「……」

司令官「こちらで形跡を解析したところ、そちらの鎮守府、正確に言うとお前ににかかわりのある施設からアクセスを受けていた」

「…………」

「………仕方がないのだ。我々には後がない」

「この演習で敗北したら、燃料と鋼材の割り当てを減らすと脅されているのだ。
主力艦が莫大な維持費を要する現状では死活問題なのだ。
大本営は鎮守府の統廃合に必死だからな」

司令官「だからといって、規定に反する行為を行った挙げ句に艦娘を危険にさらすのは許しがたい。
1歩間違えて保護システムまで干渉し不具合をもたらしていたら、艦娘の身体に重大な負傷を負わせるところだった。
精神汚染の危険だってある」

司令官「それと、我が鎮守府の吹雪には別にそちらの艦娘の干渉を受けた!」

司令官「ともかくも、この件は大本営を通して厳重に抗議させてもらう」

「………わかった」


そのまま司令官は制帽を掴みとると、大股で鎮守府を出ていった。





「『吹雪』、お前は何をしたんだ…」

◆   ◆   ◆

沖浦「キャラクターデザインはどうしましょう」

押井「原作ゲームのイラストとテレビアニメのキャラクターデザインはかけ離れている。
これはイラストレーターが違うキャラクターのデザインをすべて平等に均一に整えるための配慮でしょ。
だから君が好き勝手やってもいいと思うよ」

沖浦「なるほど…」

押井「スカイクロラでやったキャラクターに少し萌えを足す感じでいいんじゃないかな」

沖浦「意外ですね、押井さんが萌えって言うのは」

押井「僕はうる星をやった男だよ?」

吹雪は自室でノート端末を開き、自身の艤装にコードで接続し、アクセス履歴を調べていた。

吹雪「やっぱり、提督のいう通りだ。
あのとき戦った艦娘、向こうの吹雪からもハッキングを受けてる…」カチャカチャ

吹雪「……?このファイルは、なに?」


そのファイルを開いた瞬間、モニター全面にウィンドウが乱立する。エラー音が鳴りやまない。

そのウィンドウにはある場所を示すGPS座標とともにある文章が書かれていた。




「もう一人の私へ
夢の秘密を知りたい?
知りたいのなら、この場所で待つ」

◆   ◆   ◆

押井「季節はテレビアニメの春から夏と反対に、秋から冬にしよう」

プロデューサー「パトレイバーと同じですね」

プロデューサー「企画名はいまのところ、艦隊これくしょんthe movieになってますが、これはどうしましょう」

押井「それでいいんじゃない?」

押井「方針としては、戦闘シーンは人物は作画で歩かはCGをふんだんに使ってもいいと思います」

押井「全部セルでやるとかは、宮さんの専門だし、そもそも作品のイメージにあわないでしょ」

押井「方針としては、戦闘シーンは人物は作画で歩かはCGをふんだんに使ってもいいと思います」
の「歩かは」は「他は」でした
誤字失礼しました

◆   ◆   ◆

吹雪はそのGPS座標の示す場所に来ていた。サボ島沖である。

相手側の吹雪が待っているはずの場所だ。

明石に頼み込んでの、提督に無断での艤装の使用だった。

吹雪「約束どおりきました。私の夢の秘密を教えてください」

相手側の吹雪「まあ急かさないでください。……もうこの口調はやめない?疲れてきちゃった」

吹雪「あなたは…一体何者なのですか?」

相手側の吹雪「私はあなたと同じ、『吹雪』の名前を頂戴した、ただの少女。本名は…」

吹雪「知ってます。三重県出身の〇〇〇〇〇。15歳にしてハッキング技術の才能を表す。16歳で海軍兵学校を卒業後、あの鎮守府に『吹雪』として着任する…」

相手側の吹雪「よく知ってるわね。これをあげる」

相手側の吹雪は、ある紙束を吹雪に差し出した。それは論文であった。

題名は「ノーマン式精神接続インターフェースを通じた逆侵食現象について」

相手側の吹雪「精神接続を行った対象者への機械のデータの転写…もしかしたら高度に発達したコンピュータープログラムはまるで生物のように自己複製したがるのか…」

吹雪「貴方は何を言っているの?」

相手側の吹雪「あなた、自分の生まれた場所はわかる?」

吹雪「え…舞鶴だよ…?」

吹雪「いや、私は長野で生まれて、それから転勤して…」

じゃあ、あなたはどこで撃沈したの?

吹雪「え、私は…サボ島沖…ちょうどここで…いや、こんなの私の記憶じゃない!!」

あなたの家族は?

家族との思いでは?

あなたの名前は、

なに?

吹雪「私は吹雪。いや、私の名前は!!!!」

吹雪「違う!!!!私は吹雪じゃない!!!!」





吹雪「思い出せないよ……私の……私の名前が……………」

◆   ◆   ◆
押井「絵コンテBパートまで完成した。作画に入って」

製作進行「わかりました。レイアウトにまわします」

レイアウト「まさかproductionIGで艦これの仕事にかかわれるとは思ってもいませんでしたよ」

黄瀬「………」

黄瀬「……………」

黄瀬「この吹雪、だめだね」

押井「え?」

黄瀬「かわいらしくないんです。もっと艤装に触れる前の吹雪は少女らしい少女なはずです」

押井「そんなこと言っても…僕は宮さんみたいにロリコンじゃないんだから」

黄瀬「でもです。絵コンテ直してください」

押井「それはできない」

黄瀬「なら私は降ります」

押井「降りたきゃ降りればいい」


スタッフ(大変なことになった…)

押井「………」

押井「………わかったよ、直そう」

黄瀬「! ありがとうございます」



スタッフ(ホッ)

◆   ◆  ◆
相手側の吹雪「艤装の正体とは、装着した艦娘に海を滑る力と超人的な瞬発力、強力な火力を与える代わりに、徐々に装着者の記憶を元になった艦船の記録に置き換えるっていういうなれば悪魔の契約よ」

相手側の吹雪「自分の名前はデータベースなどから知ることはできても、家族と過ごした記憶、生まれ育った場所の記憶、学生時代の友人…すべて忘れてしまう」

相手側の吹雪「私はその事にいち早く気付き、私自身の記憶を記録に残すよう努力してきた」

吹雪「艤装を、はずそうとは思わなかったの?艦娘をやめようとは?」

相手側の吹雪「それも考えたわ。でも、私にはもう戻る場所がないのよ。私はもうほとんどの記憶を忘れてしまった。日常に戻っても、ぎこちない生活しかおくれないの。だったら、このまま『吹雪』として、戦って…そして…」

吹雪「………」

吹雪「私の夢は、そういうことだったの」

吹雪「教えてくれて、ありがとう。もう一人のわたし」

相手側の吹雪「……」

吹雪「そっか…そっか…」

吹雪「もうわたしは、『吹雪』なんだ」

吹雪「教えてくれて、ありがとう」

吹雪「私は、これからは『吹雪』として生きていくことにする」

吹雪「今日はありがとう。また会えたら」



相手側の吹雪「…………あなたは、それでいいの…?」

◆   ◆   ◆

プロデューサー「押井さん、黄瀬さんとケンカになったとき、なんであそこで折れたんですか?」

押井「…『天使のたまご』ってアニメ映画知ってる?」

プロデューサー「ああ…押井さんが作ったあの…非常に言いづらいのですが…」

押井「いいよ、全く売れなかったのは事実なんだから。作ってて楽しかったけど」

プロデューサー「……それがどうかしたんですか?」

押井「あれをつくってわかったんだ。自分が楽しいだけじゃだめだ、人を楽しませなきゃダメなんだって」

押井「黄瀬君がその方が見た人が楽しめるって言うのなら、その方がいいんじゃないかなとおもったんだ、僕は…」

プロデューサー「そうだったんですか…」

押井「まあ今でも充分楽しんでるけどね」

◆   ◆   ◆

吹雪が鎮守府に帰りついた時には夜になっていた。
明石が心配そうに埠頭で待っている。


吹雪「すいません明石さん、遅れてしまいました」

明石「い、いえ、いいのよ。でも今後こういうことはないようにね」


明石は吹雪の顔を見た瞬間、はっとした。彼女はなにかを喪ったような顔をしていたからだ。


明石「……吹雪ちゃん、大丈夫?」

吹雪「…?私は大丈夫ですよ」

明石「そう…吹雪ちゃんの今の顔、わたしの知っている人によく、にてて」

吹雪「……」

明石「……あなたの二代前の吹雪ちゃんだったわ」

吹雪「…彼女も、秘密を知ってしまったからなんじゃないんでしょうか」

明石「……………」

吹雪「知ってるんですね、やっぱり」

明石「……………ごめんなさい」

吹雪「明石さんが謝ることは無いですよ、だって、それが『艦娘』なんじゃないですか」

明石「……………」

吹雪「それじゃあ、お休みなさい」

明石「…おやすみ………」


明石はそのあとしばらく、埠頭に立ち尽くしていた。

◆   ◆   ◆

押井「さて、今日の仕事は終わりだ」

押井「久しぶりに…やろうかな」



押井「あ、もうこんなに資源が貯まってる」

押井「しばらくやってなかったからな…5-4にいってみるか?」


押井「気づいたらすっかり愛着が沸いてるな…艦これ…」

◆   ◆   ◆

それからしばらくたち、皆が負った演習の事件の傷も癒えた頃、新しい海域を攻略する話が持ち上がった。

新海域攻略作戦に吹雪は自ら参加を志願し、これが吹雪の初の実戦となることになった。


作戦は順調に進み、吹雪は駆逐艦級の深海棲艦を、初戦とは思えない実力で撃破していった。

しかし、ここで吹雪らの艦隊に思わぬ情報が入る。


吹雪「鎮守府が空襲を受く…」


艦隊は鎮守府に急行した。

◆   ◆   ◆

押井「完成率90%ってところか…」

黄瀬「だいぶできてきましたね」

押井「どんなものになると思う?」

押井「…面白いものになると思います、そうじゃないとやってられませんよ」

押井「そうだね」

プロデューサー「広告も大々的に打ちましたし、期待度は高いと思いますよ」

◆   ◆   ◆
鎮守府では深海棲艦の爆弾に混じって、空挺部隊の化け物たちが降り注いでいた。

吹雪「このっ…!このっ…!」

吹雪は砲で一匹一匹倒していく。赤い血が辺りにぶちまけられた。深海棲艦も血は赤い。

夕立「援護するわ」

吹雪「夕立ちゃん…!」


しかし、吹雪は夕立とはぐれ、敵に囲まれてしまう。
今は陸だ。
海と違って速力も思ったよう出ず、離脱することもままならない。

吹雪「………」


吹雪は意を決すると、艤装の入力端末を引き出し、あるコードを入力し始めた。

――――――――――――

相手側の吹雪「もしどうしても窮地に追い込まれたら」

相手側の吹雪「それでも、あなたが自分の記憶よりも艦娘としての命の方が大事だと言うのなら」

相手側の吹雪「そのコードを入力なさい。艤装との同調率が上がって、いままで以上の力を発揮できるようになるわ」

相手側の吹雪「ただし、艤装をつけるより前の記憶を――」

―――――――――――――

吹雪「前の記憶を―ほとんど忘れる…」カタカタカタ

吹雪「…………」カタカタカタ、

吹雪「」カタッ

◆   ◆   ◆
押井守達の仕事も終わりを告げ、しばらくたった頃、アニメ界は期待感に満ちていた。かの押井守が作った艦これアニメである。否定的な意見も見られたが、どちらにせよアニメに関係する人々の誰もが注視していた。

キャッチコピーは「記憶、失ってはならないもの
題名は「 メモリーズ・ロスト ー艦隊これくしょん ー」に変更され、吹雪がもう一人の吹雪と見つめあっているポスターが全国の劇場に貼り出される。

そしていよいよ公開の日が迫る

◆   ◆   ◆

雨が降り注ぎ、燃え盛る鎮守府の炎を消して行く。

司令官は焼け跡に一人立っていた。

そこに吹雪が歩いてよってくる。


吹雪「…………」

吹雪の姿は凄惨であった。帰り血や自らの出した血でまみれており服はボロボロである。

司令官「吹雪、大丈夫か!?」

吹雪「私、大事なものを無くしてしまったんです」

司令官「吹雪…」

吹雪「それは、鎮守府て戦った記憶じゃない、故郷のみんなの記憶、いたであろう両親の記憶、みーんな、無くなっちゃいました」


司令官「…………」


吹雪「でも、唯一覚えている事があります」

司令官「…」

吹雪「提督と、はじめてあったとき。わたしの名前を聞いてくれた」

吹雪「それが、とっても、嬉しかった」







それだけ、覚えています……












◆   ◆   ◆

このssはここまでです。皆さんご閲覧ありがとうございました
押井守監督とその仲間たちと映画の興業の行方は皆さんのご想像にお任せします。
おまけなんかも一二本投下してもいいかなと思っているので、気が向いたらまた見てみて下さい

乙です。この艦これ見てみたいっぽい。
一つ質問。「艦隊これくしょん - メモリーズ・ロスト」では無く、艦これがサブタイトルとなっている事に特別な意味が?

ありがとうございます
>>44 GHOST IN THE SHELLがGHOST IN THE SHELLー攻殻機動隊ーとい方式を取っていたのでそれにならいました
もっとも、艦隊これくしょんの方がネームバリューがあるので本題にした方がいいのかもしれませんね

ありがとうございます
ではオマケを少々失礼します

オマケ ①「メモリーズ・ロスト予告編」





艦娘―――深海棲艦に対抗できる唯一
の存在、少女という兵器




「特型駆逐艦一番艦の吹雪です」




メモリーズ・ロスト 艦隊これくしょん
予告編



監督 押井守



「君の名前を、聞かせてくれないか」

「……?このファイルは、なに?」

「あなたが自分の記憶よりも艦娘としての命の方が大事だと言うのなら」

『吹雪ちゃん!今すぐネットワークを切断して!』

「もう、引き返せないんだ」




某月吉日、全国ロードショー


記憶、失ってはならないもの。


◆   ◆   ◆
以上予告編の妄想でした
音楽はイノセンスのfollow meのイメージです
蛇足その一失礼しました

オマケを投下します

超大作アニメ「艦隊これくしょんthe movie」

……実は納期1ヵ月前になってもシナリオすら上がらず、ついには監督までもが失踪するあり様。

是が非でも映画を完成すべく再び召集された渡り監督の「私」であったが、脚本家・作画監督・色指定と、次々制作の中心スタッフが解体されていく! (カーンカーンカーン)

犯人は誰だ!! 映画はホントに完成するのか!? 待てエンディング!!!


「Talking head 2」!!!

蛇足的オマケ②でした
ネタわかる人いるのだろうか…
Talking headは大好きですよ

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