初美「爆弾魔つかまえた!」(70)
――暗い山道。神境から下界へと続くその道を、私はひたすらに走っていた。
タッタッタッタッ
ハァ… ハァ…
初美「巴ちゃんの……バカ……!」
タッタッタッタッ
ハァ…ハァ…ハァ…
初美「そんな大事なこと……黙ってたなんて……!」
タッタッタッタッ
ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…
初美「このままじゃ……みんなの命が……!!」
――「アベンガネ理論」って、ご存知ですか?
数分前 霧島神境
初美「たっだいまー、巴ちゃんおやつー」
初美「…………」
…………シーン
初美「…………」
初美「……あれ? 誰もいないんですよー?」
初美「…………」
トタトタ
初美「……おーい、誰かー」
ウロウロ
…………
……
初美「……あれ? 人が倒れてる……って、霞ちゃん!!」
霞「…………」
初美「どうしたんですよ!?」
初美「霞ちゃん! 起きて! しっかりしてください!!」
ガバッ
霞「ん…………う…………」
初美「凄い汗……苦しそう……」
霞「…………」
初美「霞ちゃん! 霞ちゃん!」ユサユサ
霞「…………」
初美「一体何が……、はっ!?」
小蒔「…………」
春「…………」
初美「姫様も……はるるも倒れてる……」
小蒔「…………」
春「…………」
霞「…………」
初美「どうしちゃったの……」
巴「ついに……このときが来てしまいましたね」
初美「巴ちゃん? これは一体!?」
巴「神境の巫女の宿命……。今まで神様を降ろしてきた代償です」
初美「えっ」
巴「……いつか、こうなる事は分かってました。避けられない必然だったのよ」
初美「どういうこと……?」
巴「とうとう、許容量の限界が来たんだわ」
初美「そんな! そんなのがあるなんて聞いてないですよ!」
巴「……ごめんなさいね。いざという時のため、はっちゃんには内緒にすることになっていたの」
初美「どうしてそんな……。説明してください!」
巴「……話すと長くなるんですが……」
巴「アベンガネ理論って、ご存知ですか?」
初美「?」
巴「一度発現した霊的な力というものは、どれだけお祓いをしても消えてなくなることはないんです」
初美「……そうなんですか?」
巴「お祓いでできるのは、憑依状態を解くことだけ。一時的なその場しのぎに過ぎないの」
巴「憑依状態が長く続くと体の方が危険ですから、しないといけない事ではあるんですが……」
巴「憑依が解けても、その念は形を変えて実体化し術者のそばに留まり続けるんです」
巴「その本来の目的……、本懐が遂げられるまで……」
初美「留まり……続ける……?」
巴「……ええ。姫様たちはずっと、それを背負って生活し続けてきたのよ」
初美「そんな……」
巴「お祓いの度に、溜まり続け膨らみ続けて……。もはや大きくなりすぎてしまったの」
初美「…………」
巴「実体化して溜まりに溜まった念が、本体を圧迫してきているんだわ」
初美「溜まり続けるって、どこにもそんなもの……」
巴「……あるでしょう。姫様、霞さん、春ちゃんには溜まっていて、私たちには無いものが……」
初美「?」
巴「あの三人と私たち二人の……、決定的な違いは何?」
初美「…………えっ、まさか」
巴「……そう」
巴「姫様たちのあの無駄に無っ駄にでかい胸に詰まっているのは――脂肪ではありません」
初美(……なんか私情が入ったですよ?)
初美「でも、はるるは……。神様を降ろしたことなんて……」
巴「……そういえば、はっちゃんは一度も見たこと無かったですよね」
初美「?」
巴「お祓いの場面。春ちゃんの役割ですよ」
初美「??」
巴「九面様たちの力は強大です。一回のお祓いで残る念の量も、一人でいっぺんに抱えたら体が耐えきれません」
巴「春ちゃんは、その念の逃がし役……。念を溜める媒体になって負荷を分散させてたの」
初美「そ……んな……」
巴「だから、お祓いの時にいつも傍で肌をくっつけていたんです」
初美「あれはそういう意味が……」
初美「だから……三人ともあんなにおもちが……?」
巴「はい」
初美「確かに……。最近また急におっきくなったとは思ってましたけど……」
巴「……そうですね。全国大会がありましたからね」
初美「……じゃあ……明星ちゃんも……?」
巴「あれは天然です」
初美「なん……だと……」
初美「そんな事……、どうして教えてくれなかったんですよ!?」
巴「こうなった時のため……。誰かひとりは動ける人が残っていないといけなかったの」
初美「動ける人……」
巴「だから、いちばん元気なはっちゃんがその役だったんです」
初美「それにしたって……教えてもくれないなんて……」
巴「……教えたら、はっちゃんもやりたくなるでしょう。溜めるほうの役を」
初美「……そりゃ、おもちが大きくなるなら……」
巴「あれは少しだけでも、体に物凄い負荷がかかるの。体にずっと爆弾を抱えているようなものなのよ」
初美「……そうなの?……」
巴「最悪、放っておけば命の危険があるわ」
初美「!」ドキッ
初美「じゃあ、今霞ちゃんたちは……」
巴「ええ、非常に危険な状態ですね。早く手を打ちましょう」
初美「……そんなこと言っても、どうすれば……」
巴「本懐を遂げさせる……。正しい解消の手順を踏むしか、ないでしょうね」
初美「本懐って……?」
巴「九面様が現世にいらしたときに、本当にやりたかったこと……」
巴「それを九面様に代わって成し遂げ、現世に残った念を浄化して差し上げる……」
巴「それこそ、姫様にお仕えする私たちの役目。六女仙が居る理由」
巴「古今東西、鎮魂の神事とはそういう事であり、それをご供養と呼ぶのよ」
初美「じゃあその! 九面様の本懐ってなんなんですよ!?」
巴「ちょうど今、それを伺う神事をしていたところなの……。結果は出たわ」スッ
初美「おふだ……?」
巴「これに、御神託が書かれています……。あなたの役目よ、はっちゃん」
初美「……私の……?」
巴「とりあえず、私は三人をお布団に寝かせておきますから……。お願いします」
初美「…………はい」
巴「姫様たちを救えるのは、今動ける私たちだけ……。がんばりましょう」
初美「……わかりました」
スッ
初美「……これは……!」
――暗い山道。神境から下界へと続くその道を、私はひたすらに走っていた。
タッタッタッタッ
ハァ… ハァ…
初美「巴ちゃんのバカ……バカバカバカ……!!」
タッタッタッタッ
ハァ…ハァ…ハァ…
初美「なんで……なんで……!!」
タッタッタッタッ
ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…
初美「なんで九面様の本懐が『あんパンと牛乳買ってこい』なんですよーーーー!!!!」
十分後
初美「……ただいまですよ」
巴「あら、早かったですね。お疲れ様です」
初美「……はい」
巴「じゃ、神棚に御奉納しましょう。御祈祷しますよ」
初美「…………はい」
巴「うにゃら~~、ふにゃら~~」バサッ バサッ
初美(……でもこれで……霞ちゃんたちが助かる……)
御祈祷終了
巴「さ、それじゃ次のです。よろしくね」スッ
初美「えっ」
巴「ん?」
初美「次のって……、いっこじゃないの!?」
巴「九面様ですから最低でも九つありますよ。霞さんのを入れたら十はあります」
初美「そんな……」
巴「それにご降臨されたのは各々一度だけじゃないんですから。全部回数あわせたらそれはいっぱいありますよ」
初美「それを全部……やるんですか……?」
巴「はい」
巴「じゃ、お願いしますね」ペリペリッ
初美「えっ」
巴「はむっ」モグモグ
初美「ちょっと! なんで巴ちゃんがあんぱん食べてるんですよ!?」
巴「九面様が実際に食べられるわけないでしょう、常識的に考えて」モシャモシャ
初美「それはそうですけど! なんで巴ちゃんが!」
巴「御奉納して御祈祷したら、後は私たちで食べるんですよ。いつもそうでしょう」モグモグ
初美「せめて姫様が食べるべきじゃないですか!」
巴「姫様おねむですから……。今は私しかいないの、わかって」
初美「むうぅぅぅ~~~」
――その後も私は、巴ちゃんの差し出すおふだに指示されるままに各地を走り回った。
『ハーゲンダッツ箱で買ってきて』
『大広間にマッサージ機出しておいて』
『コンビニから揚げとポテチとコーラ』
『お風呂掃除してお湯入れて』
『今日期限のDVD返して新しいの借りてきて、ガキ使トークかさまぁ~ずライブで』
『駅前のケーキ屋さんの限定いちごタルトとモンブラン』
…………
……
初美「…………」
初美「なんか…………しょぼい…………」
――そして数時間後。私は大阪の姫松高校にいた。
ハァ… ハァ…
初美「これで…… これで最後……」
バタンッ
恭子「ん?」
由子「のよー?」
洋榎「なんやー?」
初美「……ハァ……ハァ……」
絹恵「永水の……薄墨さん?」
洋榎「どないしてん? なんか用か?」
由子「鬼気迫る顔なのよー」
初美「……見つけた……」
ギロッ
漫「?」
初美(本場のお好み焼き作れる人……!)
漫「な、なんですか?」
ガシッ
初美「爆弾魔ー!! つっかまえたーですよー!!」
漫「へ?」
初美「一緒に神境に来て! お好み焼き作ってくださいっ!!」
漫「ええー!?」
漫「えっ、ちょっと! なんなんですか!?」
初美「ふぬぅ~~」ガシッ
洋榎「なんやっちゅーねん?」
初美「くぬぅ~」グイグイッ
漫「わ、わかりましたから! とりあえず放してくださいて!」
初美「ぐぬぬぅ~」ギュッ
漫「ひゃっ!? あっ、ちょっと! どこ触っとるんですか!」
初美「おもち~~~~消え去れ~~~~」ぐにぐにもみもみ
漫「あっ、やっ、やめ……て……」もみもみむにむに
恭子(…………でかいな)
良子「ワッツハプン、どうしたんですか初美さん」
初美「……あっ、良子さん……?」
良子「どうも」
初美「どうして……ここに……」
良子「姫松とは雇われコーチの縁がありまして。麻雀指導ですよ」
初美「良子……さん……」
良子「?」
初美「うっ…………ふえええええーーーーーん!!」
良子「おやおや」
初美「だって! だってーー!!」
初美「がずびじゃんがーー!! ひべしゃばだぢがじんじゃうーー!!」
良子「ウェイト、落ち着きましょう」
初美「うぐ……ひっく……」
良子「はい、深呼吸」
初美「うー……ふー……へう……」
良子「よしよし」
良子「それで、どうしたんですか?」
初美「霞ちゃんたちが……倒れちゃって……」
良子「ほう」
初美「九面様たちの念が……溜まって限界だって……」
良子「ああ、その話ですか」
初美「?」
良子「巴さんから伺っていますよ。明日ですよね?」
初美「えっ」
初美「明日……って……?」
良子「本懐の御神事ですよね? 明日お伺いしてご一緒する約束ですよ」
初美「いや、そんなのんきなこと言ってないで! 早くしないと命の危険ですよ!」
良子「命?」
初美「そうですよ! すっごく苦しそうだったんです!!」
良子「大丈夫ですよ、一日二日放っておいても死ぬようなことじゃありません」
初美「えっ」
初美「でも……凄く苦しそうで……」
良子「まあ重苦しさは感じるでしょうが、安静にしていれば大丈夫ですよ」
初美「……三人とも、倒れて動けなくて……」
良子「アレが重いと動くのが億劫ですからね。ゆっくり横になりたくもなるでしょう」
初美「……いっぱい汗もかいて……」
良子「寝苦しかったんですかね?」
初美「…………」
良子「?」
初美「巴ちゃんの話と……違う……」
良子「しかしなぜ大阪に? お迎えでしたらサンクスですが、よくわかりましたね?」
初美「…………これが…………」
スッ
『大阪の人が作った本場の焼きたてお好み焼き』
良子「?」
初美「九面様の……ご神託です……」
良子「なんですか、それは」
初美「えっ」
初美「いやだから……、溜まった念を浄化する……九面様の本懐を……」
良子「? ですから、明日麻雀を打ちに行きますと」
初美「…………麻雀?」
良子「ええ」
初美「……なんで……麻雀……?」
良子「九面様の本懐は九蓮宝燈を和了ることに決まっているでしょう」
初美「えっ」
良子「?」
初美「……それなら、霞ちゃんに降りてる恐ろしい方は……」
良子「清一色の入った数え役満でしょうね。いずれにせよ麻雀ですよ」
初美「……そうなんですか……?」
良子「難易度が違いますから、回数が必要かもしれませんがね。その辺は溜まり具合によりけりです」
初美「…………」
良子「?」
初美「それじゃ……あんぱん買ってくるとか……お風呂掃除とか……」
良子「神境のおつかい当番ですか?」
初美「…………」
良子「?」
初美「……ガキの使いのDVDとか……」
良子「巴さんの好きなやつですよね。ナイスなセンスです」
初美「…………」
初美「…………」
初美「巴ちゃんの……巴ちゃんの……」
良子「?」
初美「バカーーーーーーーー!!!!!!!!」
霧島神境
巴「お゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー」(マッサージ中)
巴「……ふう……」
巴「……さすがに大阪に行かせるのはやり過ぎだったかしら?」
巴「…………でも」
巴「明日は大変になりますし……、たまには一人でゆっくりさせてもらってもいいですよね」ポテチモシャモシャ
巴「まったくみんな……。いつもいつも私に頼ってばっかりなんですから」アイスペロペロ
巴「今年の夏休みだって……。残り三日になってみんなで泣きついてきて」からあげモキュモキュ
巴「まさか三学年分の宿題をやらされるとは思わなかったわ……」コーラゴキュゴキュ
テレビ「『……ほんでもうワッサァ~なって』『ンフフッwwwアホや』」
巴「あっはっは、まったくしょうがないですね松ちゃんは」ケーキムシャムシャ
ガラッ
初美「ただいま……ですよ……」
巴「あらはっちゃん、お帰り……げっ」
良子「おハロー」
巴「良子……さん……」
初美「巴ちゃん……ちょっとゆっくりお話するですよ……」
漫「あの、ここどこですか? なんで私連れてこられたんですか? なんで巫女服に着替えさせられてるんですか?」
初美「巴ちゃん……お話が」
巴「あ、あらー、わざわざ良子さんをお迎えしてくれたんですか? ありがとうございますー」
初美「巴ちゃん」
巴「良子さんもお忙しい中ありがとうございました。さ、まずはお茶でも」
初美「…………巴ちゃん」
巴「え、えーっとー、玉露の缶はどこに置いてたかしらねー」
初美「と・も・え・ちゃん?」
巴「…………はい」
初美「…………」
巴「…………」
初美「…………」
巴「…………」
初美「……うそつきましたね?」
巴「…………」
初美「…………」
巴「…………」
初美「…………」
巴「…………ごめんなさい」
巴「こ、これでも姫様たちを頑張って看病してたんですよ!」
初美「…………そうですか」
巴「そうそう!」
初美「…………そう言って、逆にもっと無駄な脂肪を溜めてたっていうわけですよ?」
巴「?」
スッ
ぐにゅっ
初美「食べすぎですよ、巴ちゃん」
巴「!」ギクッ
――嗚呼理不尽 私に溜まるは 腹の肉
狩宿巴 心の俳句――
初美「…………季語は?」
巴「……友蔵さんも俳句って言ってますし……」
良子「では、乗りかかった舟です。予定より早いですが準備を始めましょうか」
初美「でも……どうするんですか? 本当に九蓮宝燈が出るまでみんなで麻雀を……?」
良子「本気で本物の九蓮なんて、それこそ末代まで掛かりますよ」
初美「それはわかってますよー……」
良子「ですから、あれを使うんです。ノープロブレムですよ」
初美「あれ?」
良子「このときのために、歴代の神境の巫女達が日々力を注ぎ鍛えてきた、神境の秘宝……」
巴「……はい、伝説の牌の封印を解くときですね」
初美「伝説の牌……?」
…………
……
巴「はい、これですよ」スッ
初美「いつも神殿の奥に置いてあった箱……」
巴「…………開封!」
パカッ
初美「これは……!」
良子「はい、全部萬子の牌です」
初美「そんなのでいいの!?」
巴「これで麻雀を打ちます。誰かが九蓮か数え役満を和了ったら、その牌を御奉納して御祈祷しましょう」
初美「えぇー……」
良子「どうせ御奉納するのは和了った牌だけですから。その辺は形だけあればいいんです」
初美「そうなんですか……?」
良子「九蓮や数え役満を和了ったという事実があればオーライですので。大体それでフィニッシュです」
初美「むぅ~……」
巴「神境の霊力がこめられたこの牌で打つから、これで大丈夫なんですよ」
初美「……なんか納得いかないですよ……」
巴「あっ、それなら記念撮影とか付けましょうか?」
初美「そういうのはいいです」
初美「でも、これができたら……。溜まった念はどうなるんですか……?」
良子「消えてなくなりますよ。跡形もなく」
初美「!」
良子「?」
初美(てことは……。姫様も霞ちゃんもはるるも、私と同じぺったんこに……?)
良子「……さて、では打ち始めますか? 少し休んでからにしましょうか?」
初美「いえ、すぐ始めましょう。一刻でも早い方がいいです」キリッ
良子「…………はい、それでは」
初美「やる気……出てきましたよー!!」ゴォッ
初美「じゃあメンツは、私、良子さん、明星ちゃん、湧ちゃんで」
巴「えっ」
初美「巴ちゃんは終わるまで正座しててください」
巴「えっと……、はっちゃん?」
初美「いいですよね?」
巴「…………はい」
漫「あのすみません、私はなぜここに……」
良子「先程お好み焼き屋さんだと伺ったので、せっかくですから作っていただこうかと」
漫「はあ」
良子「本場のお好み焼きをつまみながら打つ麻雀、ソーグッドです」
漫「それ巫女服に着替える必要あったんですかね?」
良子「神境に私服で来てよいわけがないでしょう、バチ当たり者めが」クワッ
漫「いやそない真面目に返されても」
良子「ジャストジョークですよ。巫女服エプロン、ベリーナイスだと思います」
漫「…………はあ」
良子「よろしくです。期待してますよ」
巴「あ、じゃあ私も手伝います」
初美「巴ちゃんは座ってて」
巴「…………はい」
明星「は、初めて本格的に関わる六女仙の御神事だよ!」ドキドキ
湧「う、うん! がんばろうね!」ドキドキ
良子「そんなに緊張せずとも大丈夫ですよ。仕事としてはイージーです」
明星「……そうなんですか?」
良子「誰かが和了ればいいんです。勝負じゃないんですから、あまり打ち方に気を遣ったりしなくてもいいですよ」
湧「…………ホッ」
良子「九蓮の方は面前のみですしね。自分の牌だけよく見ていればオーケーです」
明星「わかりました!」
湧「がんばります!」
良子「では」
対局中……
……
ジャラッ ジャラジャラ
初美「手積みめんどくさいですよー……」
良子「古来より伝わる牌ですから。自動卓では使えませんよ」
湧「手積みでやるの初めてです……」
良子「神聖な神器を改造するわけにはいかないです。はい積んで」
初美「……はーい……」
漫「あの……私は……」
良子「あっ、冷蔵庫のものは好きに使ってオーケーですよ」
漫「…………はい」
初美「大丈夫? 積めますか?」
明星「えーっと、ここの端を押さえて……。えいっ」
ガシャッ
グシャッ バラバラ
明星「あ……」
初美「あー崩したー」
明星「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」
良子「ドンマイです。初心者のあるあるネタですね」
初美「前途多難ですよ……」
……
対局中……
初美(でも……。始めてみるとこれは……)
初美(難しい……。萬子ばっかりだと逆にわかりにくいですよ……)タンッ
初美(ただでさえ清一色の待ちってややこしいのに……。ひとつの牌が5枚6枚とか普通にあるし……)タンッ
初美(九蓮の方は定型なんですけど……。純正だとフリテンが……)タンッ
明星「…………」タンッ
初美「あっ、ロンですよ!」パタッ
良子「んー……、その形なら三萬も和了り牌です。フリテンですね」
初美「えぇー……」
漫「へいおまち! 豚玉2丁あがりですー!」
良子「あっ、マヨネーズは別盛りでお願いしますね」
漫「了解です!」
……
対局中……
湧「あっ、ツモです! できました!」タンッ
良子「おや、三倍満ですね」
湧「えっ」
初美「数え間違いですよー」
湧「あっ、す、すみません!」
良子「大丈夫ですよ、気長に行きましょう」
漫「すみません! 海老ってどこにありますか!?」
良子「チルド室の右下の奥だったと思います」
漫「わかりました!」
……
>>48-49はミスで
対局中……
初美(でも……。始めてみるとこれは……)
初美(難しい……。萬子ばっかりだと逆にわかりにくいですよ……)タンッ
初美(ただでさえ清一色の待ちってややこしいのに……。ひとつの牌が5枚6枚とか普通にあるし……)タンッ
初美(九蓮よりも数え役満の方が大変ですよー……)タンッ
明星「…………」タンッ
初美「あっ、ロンですよ!」パタッ
良子「んー……、その形なら三萬も和了り牌です。フリテンですね」
初美「えぇー……」
漫「へいおまち! 豚玉2丁あがりですー!」
良子「あっ、マヨネーズは別盛りでお願いしますね」
漫「了解です!」
……
対局中……
湧「あっ、ツモです! できました!」タンッ
良子「おや、三倍満ですね」
湧「えっ」
初美「数え間違いですよー」
湧「あっ、す、すみません!」
良子「大丈夫ですよ、気長に行きましょう」
漫「すみません! 海老ってどこにありますか!?」
良子「チルド室の右下の奥だったと思います」
漫「わかりました!」
……
対局中……
初美「ツモ! 九蓮できたですよー!!」タンッ
明星「わぁー」
湧「すごーい」
良子「はい、じゃあ御奉納して次ですね。あと8回です」
初美「えぇーやっぱりー?」
漫「あの、やっぱソースから作らしてもろうてええですかね!? ドロソースあったら欲しいんですけど!」
巴「あっ、それなら私が買ってきま……」
初美「巴ちゃんは座ってて」
巴「…………はい…………」
……
…………
……
良子「…………ツモ。以上ですね」
初美「おわったー!!」
明星「お疲れ様でした……」
湧「無事にできてよかった……」
巴「あ、足が……しびれた……」
初美「ふう……。疲れたですよ……」
初美「でも……」
初美「でもこれで……、みんな私と同じぺったんこに……!」
ガラッ
霞「お世話様でした、みなさん」
巴「あっ、お目覚めですね」
初美「!」クルッ
霞「ご苦労おかけしました。もう大丈夫です」ボイーン
初美「えっ」
小蒔「初美ちゃん、皆さん、ありがとうございました」ボイーン
春「…………感謝」ボイーン
初美「あ……れ……?」
初美「なんで……? ぜんぜんぺったんこじゃ……」
霞「どうしたの?」ボイーン
初美「いや……その……」
霞「?」ボイーン
小蒔「?」ボイーン
春「?」ボイーン
初美「…………」ペターン
初美「あの……、霞ちゃん?」
霞「なに?」
初美「今日のこれってその……、おもちに念が溜まってて……」
霞「そうね」
初美「数え役満を和了ったから……消えるんじゃ……」
霞「ええ、消えたわよ」
初美「えっ」
霞「結構小さくなったわよ。ほら、以前の下着がもうブカブカ」
初美「えっ」
霞「うーんと、Jカップくらいに小さくなったかしらね?」バイーン
初美「ちょっと何言ってるかわからないです」
霞「?」
初美「姫様も……はるるも……。どう見ても私より大きいんですけど……」
小蒔「これくらい小さくていいです……」ボイーン
春「適正サイズ……」ボイーン
初美「……日本語でOKですよ」
初美「良子さん…………これはどういう…………」
良子「オフコースですけど、消えたのは九面様たちが残した念の部分だけです」
初美「…………」
良子「もとからあったおもちまで消滅はしませんよ」
初美「…………」
良子「…………」
初美「…………」
良子「……残念でしたね、念が残るだけに」
初美「……………………」ブチッ
初美「おもちなんて…… おもちなんて……」
霞「初美ちゃん?」
初美「だーいっ嫌いですよーーーだ!!!」
小蒔「!?」
初美「ふーんだ!! 霞ちゃんのバーカ! 姫様のバーカ! はるるのバーカ! 巴ちゃんのバカバカバーカ!!」
巴「私だけ多い!?」
初美「良子さんも明星ちゃんも湧ちゃんも……とにかくバーカ!!」
湧「とばっちり!?」ペターン
初美「あっ、湧ちゃんは別にいいから爆弾魔さんバーーカ!!」
漫「えぇーー!?」
初美「うわーーーーーーん!!!」
ダダダッ
小蒔「初美ちゃん……、自分の部屋にこもってしまいました」
巴「どうしましょうか、これ」
霞「……いいわ、私に任せて」
巴「……お願いします」
トントン
霞「開けて初美ちゃん。私よ」
初美「…………」
霞「私しかいないから。開けて頂戴」
初美「…………」
ガラッ
霞「入るわよ?」
初美「…………はい」
霞「今日はありがとう、初美ちゃん」
初美「…………」
霞「私たちのために……。いっぱいがんばってくれたんでしょう?」
初美「…………」
霞「良子さんからも聞きました。凄く必死だったって」
初美「…………」プイッ
霞(…………ふんふむ)
霞「はい初美ちゃん、だっこ」
ポフッ
初美「あっ」
霞「……本当に感謝してるのよ、ありがとう」ヨシヨシ
初美(おもちが……顔に……)ぽよん
霞「?」
初美(あったかい……霞ちゃん……)モフモフ
初美「…………」モフモフ
初美(やっぱり霞ちゃんは……おもちあったほうがいいですよ……)モフモフ
初美「…………」
初美「…………バカって言ってごめんなさい」
霞「…………うん」
霞「巴ちゃんのことも……、許してあげてね?」
初美「…………」
霞「…………」
初美「…………」
霞「…………巴ちゃんのこと、嫌い?」
初美「…………」
霞「…………ん?」
初美「…………」フルフル
霞「……うん、安心したわ」
初美「もうおもちなんて……こりごりですよ……」
霞「あらそう? 今後は初美ちゃんにもお願いしようかなって、巴ちゃんに頼もうと思ってたのよ?」
初美「?」
霞「春ちゃんの役目。今日がんばってくれたお礼にね」
初美「!?」
霞「春ちゃんだけに負担かけるのも申し訳ないですし……、いい案だと思ったのに」
初美「え……」
霞「おもちこりごりならしかたないわね、無理には頼めないから」
初美「ごめんなさいうそですおもちだいすきです」
霞「……ということになったわ」
巴「うーん……。あまり推奨できないんですけどね……」
霞「ダメかしら?」
巴「大体、私だってしたいのに……じゃなくて、緊急時に誰も動けないと本当に困ってしまうんですけど……」
初美「巴ちゃんが動いてダイエットすればいいですよー……」ボソッ
巴「あ゛?」ギロッ
初美「ごめんなさいなにも言ってません」ガクガクブルブル
霞「体に負担がかかるのは確かにそうなんだけど……。少しだけでもダメかしら?」
巴「でもそれは……春ちゃんと同じ修行をしないといけないんですけど……」
初美「なんだってやってやりますよー!!」
巴「いいんですか?」
初美「はい!」
巴「……わかりました。お願いします、春ちゃん」
春「…………了解」
春「では説明する」
初美「はい! お願いします師匠!」
春「他者に降りた念を我が身に宿すというのは尋常ならざること。特別な修行が必要」
初美「はい!」
春「私はこれを六女仙に入る前からやってきた。今から追いつくには普通より厳しいことになるけど、平気?」
初美「どんとこいですよー!」
春「それには体質から改善する必要がある。まずは食生活」
初美「食?」
春「とりあえず一ヶ月間、黒糖だけで生活して」
初美「えっ」
春「この術は奄美のサトウキビにだけ含まれる特殊なミネラルを大量に摂り続ける事で体内に霊的な場を生成し……」
初美「あっ、ギブアップでいいです」
カン
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません