* 注意
・地の分多め
・ホラー・サスペンス展開、独自設定
・複数のSF作品オマージュ
当SSには上記の要素が含まれております。
これらの要素が苦手な方はご注意下さい。
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「なー、吹雪ぃ……」
「ダメ」
8月、茹だる様な暑さの中。
空調の効いた執務室内、この部屋の主が在るべき机に突っ伏す少女。
彼女は聴く方が憔悴しそうな声で、もう一人の少女へと懇願する。
しかし、された側は自分の机での作業を止める様子も無く、一刀の下に要求を切り捨てた。
「……んもー……いいじゃん、そんな書類……どうせまた《アレ》のアッパーバージョンがどーたらバグがこーたらって内容だろ?
読んでハンコ押して大淀に預けるだけじゃん、やるだけ無駄無駄」
「無駄な訳ないでしょ? 司令官が戻って来るまでもう少し掛かるんだから、私の権限で出来るものはやっておかないと」
「やーだーぜー! つまんないー! なー街へ行こうぜ、まぁーちぃー。村雨達が新しい水着買ったって自慢してるんだよー。
なーアタシ達も買いに行こうぜー……吹雪だって、司令官に新しい水着見せたいだろ? なー」
「行きません! もう、手伝う気が無いならそこ退いてよ、深雪! ああほら、腕に書類くっついてる!」
「仕事にかまけてアタシをぞんざいに扱う吹雪が悪い! ほれー観念せーい。今すぐその書類を放り出し、この深雪さまにその身の全てを捧ぐのじゃー」
「え、きゃっ!? ちょ、みゆっ、何してんの!? ってかどこ揉んでんのコラ!」
グダグダな会話の末、何時の間にか突っ伏していた机から身を起こし、作業中の少女《吹雪》の背後へと回ったもう一人の少女《深雪》。
彼女は何の遠慮も無く姉妹たる吹雪の、豊満とは言えずとも実は全姉妹中でも上位にランクインする胸を、背後から鷲掴みにして遠慮なく揉みしだく。
吹雪からは悲鳴と怒声が飛ぶも、それでも明らかに和気藹々とした空気を内包した姉妹のじゃれ合い。
そんな気心の知れた少女間特有のコミュニケーションは、しかし十数秒後には波が引く様に静まってしまった。
「……でも、さ。本当に何だか、変な感じだよな。今のアタシ達って」
「……うん」
安堵した様な、しかし何処か寂しさと不安を内包した様相の深雪に、同意の声を返す吹雪。
2人の顔には、明らかな困惑の色が在った。
「着任して、今年で何年目だっけ」
「此処の壊滅が16年前、私達が建造されたのがその4年後だから……12年目、だね」
「んで、私達の司令官は今ので3人目か」
感慨深く執務室内を見回す深雪。
彼女の視線の先、元は純白であったろう少々くすんだ色の壁には、額に入れられた幾つかの写真が在った。
この場所、パプアニューギニア・ブーゲンビル島の南端、ブイン基地。
過去この地に着任した、歴代提督達の姿を映し撮ったものである。
「最初の司令官が着任から5年で叢雲さんと、次の司令官が4年目に鳳翔さんと……
そっか、今の司令官になってから、もう3年目なんだ」
「良い時代になったよなぁ。ハードワークと引き換えに高給貰って、仲の宜しい艦娘と一緒に退役して所帯持って……
第2司令室の摩耶さん、知ってる? 来週退役して、内地で結婚だってよ。しかもデキ婚」
「デキ婚!? っていうか摩耶さんが!? ウソぉ、相手は!?」
「ラバウル航空隊所属のパイロット。ほら、4年前のショートランド防衛戦で摩耶さん、混戦で奇襲食らって揮下の艦隊ごと轟沈寸前までいったって話じゃん。
その時の相手は、レ級とヲ級が中核だったらしいんだけど。ポリネシア方面の強行偵察から帰還中の彼氏がそいつら捕捉して、ワジーナ島上空から電磁砲で一撃。
間一髪で助けられて、後で艦隊代表してお礼言いに行って、そのままお互いに一目惚れだって」
「それって超エリートじゃない! うわぁ……何ていうか、摩耶さんのイメージからは程遠いけど……いいなぁ、羨ましい」
「白馬の王子さまって奴だな……乗ってんのは馬じゃなくて、極超音速攻撃機だけど」
「いいじゃない、攻撃機の王子さま。白馬の王子さまよりずっと頼り甲斐があるよ、きっと」
「かもなぁ……しっかし、これでも一昔前は生きて内地の土を踏めるのは全体の4割も居なかった、なんて天龍の姐御が言ってたけど、近頃こんな話ばっかりだからなぁ。
あの大戦中ならともかく、今時っ子になったアタシ達には想像も付かねぇや」
「まあ、艦娘も発見されてそれ程経っていなかった頃だし、自衛隊もぼろぼろだった筈だからね。
何もかも手探りだったんだから、犠牲も相当なものだったっていうし」
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