鳥海「秋は好きですか?」【艦これ】 (20)

鳥海の秋ボイスを元に提督とあれこれ
ほのぼのできなかった

注意点
・台本形式ではありません。地の文多め
・続き物っぽいけど、どうなのさ日向



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1441934231




夏も終わり秋になると陽が沈むのも早くなってくる。

日課を終えた司令官さんは窓から水平線に沈みゆく夕陽を見ていた。

執務室には穏やかな空気が流れていて、司令官さんの後ろ姿は絵画や写真の中の光景のようだった。

ここにあるのは――愛しい時間。

「秋は好きですか?」

司令官さんの背中に話しかける。

「秋は落ち着きますね。特に私、秋の夜が好きなんです。司令官さんはどうですか?」

「鳥海は秋が好きなのか。くくく……そうさな、俺は」

ゆっくり振り返った司令官さんはいつもと変わらない笑顔を向けてくる。

「秋は少し冷たくて暗くて、それでも暖かさを貯め込んでる感覚が胸を締め付ける。それが秋らしいと思う」

「……そこまで考えたことはありませんでした」

「まあ感じ方はそれぞれだからな。それと生まれたのが秋だからかもしれないな。なんでも生まれた季節を好きになりやすいって話だ」

「そうなんですか? 私は四月五日生まれですけど秋の夜が大好きですよ」

「あくまで傾向の話だと思うぞ。そういう意味じゃ俺も典型的な人間ってわけだ」






「そういえば司令官さんの誕生日はいつなんですか?」

私たちはお互いに寄り添うようになったと自惚れられるぐらいに近くなったけど、あまりこういう話はしてこなかった。

今から聞いても遅く……ないですよね?

「俺はじゅ、やっぱり言いたくない」

「どうしてです? めでたい日じゃないですか」

「誕生日が嬉しいのはせいぜい二十歳までだ。そこから先は老ける現実を目の当たりにさせられるだけで」

「ええ……もったいないです」

「……そういうとこ、女子だよな。誕生日を祝いたがるのは」

「当然じゃないですか。私だって女子の端くれなんですよ?」

ちょっとだけ胸を張ってみると司令官さんは困ったように頬をかいた。

「それは失礼した。考えてみれば鳥海は料理も得意だしな」

「間宮さんや伊良湖ちゃんには敵いませんけどね」

「間宮と伊良湖と言えば骨休みを取らせた方がいいと思うか?」

こんな風に話が弾んで飛んでいく内に誕生日をすっかり聞きそびれてしまった。

司令官さんはああ言ってましたけど、私としては誕生日が近いならお祝いしてあげたかった。

日頃の感謝を込めて。何よりも大好きなあなたのために。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



早朝。眠気の抜けきらない頭で鎮守府内を巡回していると、昨日鳥海と話した内容をぼんやりと思い返していた。

秋は全体的にモノトーンやノスタルジックが似合ってると思う。自分の中の琴線を刺激する事柄も多い。あるいはそう思わせるような積み重ねが。

秋は胸の内を締め付ける何かにとかく満ちていて、それは憂鬱じみた気分を呼び起こす。

だから本当は秋は苦手だ。

嫌いと呼べるほど明確に避けてるわけでもないし避けようもないのだが、どうしたって苦手意識が抜けてくれない。

鳥海に言ったことは全部が嘘じゃない。秋の感じ方については事実だ。本当は好ましく思ってないだけで。

とはいえ、せっかく秋が好きだと言うのなら柿でも取り寄せてみようか。干せば貯蔵もできる。そもそも好きなんだろうか、柿は。

形が残る物を渡すのも苦手だ。消えてしまう物のほうが後腐れがなくていい。

そんなことを考えていると廊下の曲がり角から二人の艦娘がやってきた。

「あ、提督。おはようございまーす」

「おはようございます、司令官様ぁ」

そんな挨拶をしてきたのは島風と巻雲だ。

二人の関係は姉妹艦ならぬ従姉妹艦といったところか。

今でこそ夕雲型はネームシップの夕雲を始め何人かが着任しているが、最初に巻雲が着任してからしばらくは空席という状態が続いていた。

そんな巻雲を何かと気にかけたのが島風だった。

甘えたがりの巻雲も島風にだいぶ気を許してるようで、何かと一緒に行動することが多い。

それは巻雲が何かと敬愛してやまない夕雲が着てからも、あまり変わってなかった。






「おはよう、島風は夏が好きそうだな」

見た目と普段の言動からの印象でしかないが。

「ん? 好きだけど、どうして?」

「昨日そんな話をしてな。巻雲は……秋、いや冬か?」

「どっちも好きですよぉ。暑いのより寒いのです!」

「ああ、確かに暖かそうな格好だもんな」

巻雲は臙脂色のジャンパースカートにカッターシャツという格好だが、袖が腕よりも長いので指先まですっぽりと隠れている。

「これは服のサイズが大きいからです! 司令官様、ちゃんと正しいサイズの服を支給してください!」

「まあ、その内な……」

何故か巻雲の制服は何度サイズを指定し直しても大きいサイズの服が届く。

妖精の陰謀かもしれないが、鎮守府の七不思議の一つに数えてもいいのは確かだ。

「でも夕雲もかわいいって言ってたじゃん」

「それはそれ。これはこれなのぉ!」

身振り手振りで巻雲は示すが、俺も個人的には今のままでいいような気がする。

「そうだ、提督に聞きたかったんだけど」

巻雲をいなしながら島風が顔をこちらに向ける。

「どうした?」

「私たちの誕生日っていつなの?」

「いつって……俺にそれを聞くのか?」

この質問には当惑した。艦娘はたまに変な質問をしてくるが、これもその類だ。






「島風、それじゃあ分からないよ。司令官様、私たちの誕生日って元の艦の進水日と、それとも艦娘としての私たちが生まれた日のどっちなんですかぁ?」

「ああ、そういう意味か。分かったけど判断に困るとこだな」

とはいえ、悩みはしても迷うようなことではない。

「好きなほうでいいんじゃないか? 二人はどっちがしっくりくるんだ?」

二人の返事は元の艦の進水日だった。逆かと思ったが、なかなか興味深い。

「提督の誕生日はいつなの?」

「十月二十五日だ」

「十月二十五だと……これからですね」

「もう歳は取らなくていいんだけどな」

「司令官様、考えたんですけど誕生日が二回あるのってどうですかぁ?」

巻雲がまた妙なことを言い出した。

「誕生日が二回なら年に二回祝ってもらえますよね?」

「その代わり、皆の倍の速さでおばあちゃんになっちゃうね。島風はそっちの速さはいらなーいっと」

「もう島風!」

二ヒヒと笑う島風は脱兎のごとく逃げ去って、頬を膨らませた巻雲が両手の袖をはためかせながら追いかけていく。

「ぶつからないよう気をつけろよ」

俺の声は聞こえたのか聞こえなかったのか、すぐに二人の姿は見えなくなってしまう。

運動の秋……これは違うな。

しかし誕生日か……祝われて嬉しいという感覚が実はよく分からない。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「首尾はどうでした?」

「えへへ、ばっちりだよ」

「私たちにお任せです」

戻ってきた島風と巻雲さんは肩を弾ませていた。

「でも、どうして私たちに提督の誕生日を聞きださせたの? 鳥海さんなら自分で聞いたほうが早いのに」

「昨日そういう話になったんですけど、ちゃんと教えてくれなかったんですよ。だから私から聞いてもダメかなって」

「鳥海さんってたまに変なこと気にするよね」

「きっと色々あるんだよ~」

「そういうことは聞こえるように言わないでください。それでいつか教えてくれません?」

「うんとね、十月二十五日だって」

その日は別に何もなかったような……ううん、一つだけ思い浮かんだ。

考えすぎ、というより自惚れかもしれない。でも、やっぱり。

司令官さんなら知っててもおかしくない……私の予想通りなら遠慮しちゃいますよね。

もしそうならば私にできるのは……。

「ねえ二人とも。今度またお願いしたいことがあるんですけど。ただでとは言いませんから」

きっと私に何かできるとしたら示すことだけ。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



誕生日なんて日には何も感慨もない。

育ての親はそういうのに疎かったし、人伝に聞いた誕生会やご馳走、ケーキなんて子供らしい憧れは自分には無縁なのだと齢が十を数える頃には気づいてしまっていた。

奥底で未練を仕方ないと割り切った身には、誕生日を祝いたいと言った鳥海は眩しく思えた。

どうしてか艦娘は人間以上に人間らしい。

いずれにせよ今後の俺が歳を取ってどんないいことがあるんだという話だ。

だから誕生日なんてのは、本当なら進んで話す必要がないだけで隠すような秘密ってわけじゃない。

それを言えなかったのは聞いた相手が鳥海だったからだ。理由もほとんど一方的な感傷に近いのだろう。

それに今黙っていたとしていずれ分かるのだろうから、下手に隠すと無用な誤解を招くかもしれない。

話せばよかったんだ。と頭では分かっていても難しい。

どこかで話す機会もあるだろうと考えている内に機会もないまま時間が過ぎていった。

自分の中での優先度が低くて後回しにしていたのも裏目に出たのだろう。

ほとんど忘れていたそれを誕生日の前日になってまた思い出して、やはり機会もないまま当日になっていた。

ただ俺は忘れていた。

俺も鳥海も秋を穏やかで落ち着いた印象のように受け止めていたが、そもそも秋の空は変わりやすいものの喩えとして使われるわけで。

秋というのはいきなり移ろう。兆候に気づかなければ別に穏やかでもなんでもなく。

だから、これは俺には降って湧いたような話だった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



十月二十五日。

午前中の執務が終わろうかという頃、島風と巻雲に夕食の約束を半ば強制的に取り付けられた。

いつもなら助け船を出してくれる鳥海も島風と仲がいいからかこの時は甘かった。

まあ予定があったわけでもない。こういう誘いは断るよりも受けた方がいいのも確かなはず。

夕飯時の混雑を避けるために普段よりも二時間遅い時間を条件にしたら快諾されてしまった。

こうなってくると俺としては急ぎの予定でもない仕事もこなしながら時間を潰し、鳥海は定時で解放した。

晴れ渡っていた空も執務が終わる頃には水平線を赤に染めていて、夜の青い闇がその上に覆い被さり始めていた。

「明日もよろしく」

差し障りのない挨拶に鳥海が微笑み茜色の瞳に見つめられる。

その笑顔に胸が何かを急き立ててるように軋んだのは――きっと秋だからだ。

改二艤装に換装して以来、鳥海は碧色のジャケットにスリットの入った白のスカート、長女次女を意識したと思われるジャケットと同じ色の帽子を被っていた。

変わったのは見た目だけの話じゃない。以前はほとんどなかったらしい軍艦時代の記憶も取り戻している。

それに何より俺たちの関係もずっと深くなった。俺にはもう……。

不意に誕生日のことが頭を過ぎった。

そしてすぐに考え直す。この話はしない方がいいと。

当日にそんな話をするのはその気もないのに祝えと言ってるのと変わらないのではないか。

何よりも感傷の方が話すのを拒んでいた。

だから黙っておこうと決めた。

どんな顔をして、どんな言い回しで、鳥海の戦没日に生まれたなんて言えと?



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



最後の準備を済ませて待っていると、予定より少し早い時間に司令官さんは食堂に現れた。

厨房の一角を借りていた私は、島風と巻雲さんに案内された司令官さんが席に着くのを陰から見届ける。

そのまま三人が話し始めるので、そのままにしておく。

厨房に戻って深呼吸する。

……喜んでくれるのでしょうか。そうだと信じたい。

……余計なことじゃないでしょうか。きっと大丈夫。

ちょっと怖いみたい。

怖いと言ってもル級の集団に突撃するような足に来る怖さとはまた違う種類の怖さだった。

それでも行かないと。もっと怖くなってしまったら動けなくなってしまう。

私が動かなかったら……あなたはきっと今日という日を気にし続けてしまうのでしょうから。

それに私が怖がってどうするの?

司令官さんが私に誕生日を言わなかったのは、きっと『鳥海』の戦没日と重なっていたから。

それなら私はそんなあの人の前でこそ胸を張らなくちゃ。

秋に胸を締め付けられるという感覚が少し分かったような気がした。

……うん、もう大丈夫。行きましょう。

小さく意を決すると私は三人の所に向かった。ホールのチョコケーキを携えて。伝えたい言葉をこの胸に。

「おめでとうございます、司令官さん」

不思議だけど、いざ司令官さんの前に来ると怖いという感覚が消えていた。伝えたかった一言がすんなりと出てきた。





司令官さんは驚いて、すぐに言葉が出てこない様子だった。

島風と巻雲さんも後に続いて誕生日おめでとうと口々に言うけど、ケーキのほうも気になってるみたい。

ケーキを先に切り分けてしまう。温めておいた包丁で四つに均等にカットする。

これが三等分だったらと思うと、なんて考えられるのは余裕が出てきたからなんでしょうね。

「思うんですけど、こういう時って嬉しいこととか楽しいことを優先していいんだと思います……違いますか?」

「しかし今日は……」

「鳥海の沈んだ日でもある、ですよね?」

「……ああ」

「もう過ぎたことですし、司令官さんが自身の知らないことで気に病まれても困りますよ」

「しかし……俺は悪意を感じるよ。こんなのは」

「偶然を気にしても仕方ありませんよ。それに私はこうしてあなたを祝えるほうが……嬉しいです。もし今日が悲しい日なら嬉しいことで上書きしましょう」

「まったく鳥海は……」

少しだけ引きつった顔に詰まった声で司令官さんは俯く。

「司令官様、もしかしてない」

「はいはい、それ以上はストップ」

巻雲さんの口を島風が押さえる。

みなまで言わないでも司令官さんの様子がそうなのは誰の目に見ても明らかだったけれど。

「今年は私たちだけですけど来年はみんなでやりましょう。そうしたら、もっと楽しいと思いますよ」

「誕生日って……歳を食うだけじゃなかったんだな」



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



――思い出を忘れたくない出来事と捉えるなら、今回の出来事は思い出になる。

何も幼年期の記憶ばかりが思い出になるとは限らないようだ。

秋の風が紅葉色の葉を揺らし、肌をくすぐる寒さが冬への備えを促し、気分屋の秋空は予報などお構いなしに空模様を変える。

そんな季節が本当は嫌いだった。だけど今は。

次に誰かに秋が好きか聞かれたらこう答えよう。今なら本心から言える。

秋は好きだと。鳥海たちとの思い出があるから……きっと理由までは言えないな。

それでも昼も夜も、秋は好きだ。

胸のざわめきが大切なことを思い出させてくれるのだから。






おしまい
もっとほのぼのできればいいんですが、気質的にどうも変な方向に行きたがるようで

ちなみに作者と提督の誕生日は別なのでご安心を
同月の二十三日なので高雄型とはやっぱり因縁浅からぬ日ですがね……

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom