二宮飛鳥「Pのエロ本を見つけてしまった」 (24)
さくさく投下
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「ねえP、これはどういう事かな」
営業から戻った俺を待ち受けていたのは、えらく機嫌を損ねた様子の担当アイドルだった。
彼女は普段俺が座っている事務用デスクの椅子に座り、眉間に皺を張り付けた表情で俺をじっと見つめている。彼女と俺を遮っている机の上に置いてあるのは、見覚えのある「薄い本」。
「それ」を一目見た俺は一瞬で状況を悟った俺は、一瞬のうちに脳内で数千通りの行動をシミュレートし、自身が取るべき最適行動を思案する。
そうして悟る。運命から逃れる方策は既に存在せず、憐れな子羊はただ許しを請うことしかできないということを。
俺は一瞬で両手両足を接地させた。必然的に背中は丸くなり、頭もまた地へとつけることになる。そう、所謂ひとつの土下座というやつだ。
俺は何の躊躇いもなく、担当アイドルに対して土下座を展開したのだ!
「ほんっとうにすいませんでしたぁーーーー!!!!」
そうして一通り自身の謝意を伝え終えた俺は、土下座の体勢のまま頭だけを飛鳥のほうに向けると、弁明を始めた。
「しかしな、飛鳥。理解してほしい。男とはこういう生き物なのだ、と」
「そんなキリっとした顔で言う事でもないと思うけど……あと勘違いしないでほしいんだけど、ボクはこういう本をキミが持っていることに対して不快感を表している訳ではないよ。まあ、許容するという訳でもないけれど。ボクだって理解はしているさ、キミの中にもそういう感情が渦巻いていて、それを発散させる必要があるってことは」
俺のあまりの熱意に若干引き気味の表情で飛鳥はそう話す。
「じゃあ、なんでお前そんなに」
「――ねえP、どうしてこの本の中の女性たちは例外なく『巨乳』なんだい?」
しん、と事務所全体が一瞬で静謐な空気に変わった。加えて、寒気……そう、寒気がする。まだ残暑の残る季節だというのに。
「いや待て飛鳥、お前は……お前は勘違いしているんだ」
俺の必至な呼びかけに、しかし彼女は理解を示すでもなく、諦念を乗せた表情で黙って首を左右に振った。
「いいんだよP、ボクに気を使う必要なんてないのさ。つまりキミもそういう趣向がお好みって訳だ。いや、謝ることはないよ。むしろボクのほうが謝るべきかな。『キミを満足させ得る胸じゃなくてごめんなさい』ってね」
「落ち着けよ飛鳥、落ち着くんだ。話せばわかる」
「――この期に及んで話せば分かるだって!? ふん、だ! ボクはもうキミの言葉なんて聞きたくないね! 巨乳に魂を売ったキミの言葉なんて……。いっそ明日から別のアイドルのPになればいいんじゃない? 及川さんとか拓海さんとか。ああ、そういえばボクの親愛なる友人、蘭子の胸も『少しばかり』ボクのソレより大きいから、彼女のPに鞍替えするのも良いんじゃないか」
「……」
俺には何もいう事が出来ない。紡ぐ言葉がない。
彼女は続ける。
「以前からキミは事ある毎にこう言ってたよね、『胸は大きいよりも小さい方が良い、蜜柑と同じで、大きい胸というのは総じて大味なんだ』とか、『やっぱり時代は太ももだよ、なあ飛鳥、お前の太ももで俺と一緒に世界を目指さないか』とか……。正直、いつも気持ち悪いって思ってた。けれど同時に、こんなボクに魅力を感じてくれるキミに、ボクは心のどこかで信頼を置いていたんだ」
「嘘じゃないさ。お前の太ももは芸術品だ。お前の太ももは男たちの視線を釘づけにして離さない」
そうなのだ。飛鳥の絶対領域〈アブソリュートゾーン〉が視界に入る度に、どうしようもなく俺は欲情していた。この世で最も美しく神聖な領域がそこにはあった。聖少女領域だ。
「でも、きょにゅーのほうが良いんだろ? キミは」
「それは……誤解だよ」
「もういいよ……ほら、明日からキミはみくにゃんのPになればいいんだ。Pチャンのpチャンを胸でピーしてもらえばいいだろ……ふん」
普段は下ネタを毛嫌いしている飛鳥なのに……。駄目だ、完全にキャラ崩壊している……。
一体、どうすれば俺はこの状況を打破出来るのだろう……。
俺は必至に考えた。そして、一筋の光明が差す。
いや、待てよ……? 俺は考え直す。
この作戦はあまりにリスクが高すぎる。俺の社会的評判、担当アイドルからの信頼、ちひろさんの評価、なにより職……様々な物を失う可能性があった。
――けれど。俺は決断する。
俺の誤解を解き、彼女の凍てついた心を再び溶かすにはこの方法しかないのだ。
「なあ飛鳥、俺のパソコンを起動させてくれ」
開戦を前にした戦士たちのように意を決した表情で、俺はそう宣言した。
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裏切られたんだ、とボクはそう思った。
自分の肢体に自信を持っていた訳じゃない。寧ろその逆だった。
一緒に仕事をする機会が多い蘭子は、ああ見えてとても豊満な肉付きをしていて、ボクはそれが堪らなく羨ましかった。
『汝の真なる力は其の器にあらず、魂に宿る!』なんて、彼女は優しいからボクを励ましてくれるのだけれど、ありがたいと同時にみじめな思いにもなる。
蘭子は可愛いし胸も大きいし、最高の偶像だ。女子であるボクでさえ、時折彼女の豊満な胸に触れたいと思うことがあるのだ。というか実際楽屋で良く揉んでる。
翻って自分の胸。僅かに起伏はあるものの、平坦だ。そこには何も詰まっていない。夢も、希望も……。
だから、始めてプロデューサーに会って太ももを褒められたとき、ボクは恥ずかしかったけれど、同時にとても嬉しかった。
「なあ君、アイドルに興味はないかい? とてもいい太ももをしている」
ファーストコンタクトがこれ。
よく考えなくてもあの人は一級品の変態だけれど、でもボクにとって、彼はやっぱりかけがえのない部類の人間だ。
だからこそ悔しかった。ボクの魅力が、巨乳に負けてしまったという事実が。
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「ああ、そうそう……マイコンピュータからDドライブに入って、『研修用』フォルダの中の『24年度新規プロジェクト研修』だ」
「ん、なんか英語のファイルがいっぱい出てきた……このページで間違いないのかい?」
「ああ、何千回と通った道さ。身体が覚えてる。その下から2番目のファイルをzipに拡張子変換して、開くとだな……」
「これは……」
長いフォルダを抜けると天国であった。画面は……溢れんばかりの肌色で満たされる。
「――これが俺の自慢のコレクションだ」
「エロ画像?」
「そうともいう」
「キミって本当に……なんていうか、最低の人間だと思う……」
飛鳥は軽蔑の色を乗せた目線で俺を睨む。その表情さえ魅力的なのだから、やっぱり俺の担当アイドルは最強だ。
「良く見ろ、飛鳥。このエロ画像の数々を」
「ボクは至ってノーマルだし、同性の裸体を見ても嬉しくもなんともないよ……って、あれ?」
「気付いたか?」
「うん……この女の子達、皆胸が小さい……ボクと同じくらい、いや、ボクよりも小さいかも……」
「つまり、そういう事なんだよ。俺は、俺はあくまで…………小さい胸が好きなんだ!!!!」
彼女に熱意を伝える俺。彼女は……大きな目をぱっちりと開き、放心した様子のまま俺をじっと見つめていた。
しばらくの静寂。何時の間に降り始めたのか、窓辺からはざあざあと雨音が聞こえてくる。
彼女はふと我に返ると、僅かに目線を下げ、呟くように話し始める。
「すまない……ボクはどうやら、大きな想い違いをしていたようだね」
自嘲げに彼女はそう言った。その言の葉には、自身が担当Pに裏切られていなかったという安心感が乗せられていて。
俺は、zipファイルと共に彼女の心を解凍することが出来たのだと確信した。
「いや、良いんだ。元はというと俺が勘違いを抱かせる行為をしたのが悪かったんだ。これからは俺は巨乳モノを使う事はない、そう誓うよ」
あまりにも大きな誓約。しかしそこに未練はなかった。なぜなら俺には飛鳥が、これ以上ない程に魅力的な担当アイドルがいるのだから……。
俺の言葉にますます機嫌を直した様子の飛鳥。フフ、と控えめに口角を吊り上げて微笑する彼女は、さながら聖母のようだった。
すっかり普段の余裕を取り戻した彼女は、興味津々な様子でパソコンの画面へと視線を戻す。
「ところでこの一つ下の『年度末ライブ反省フォルダ』には何が入っているんだい? キミの事だ、まさか題名通りって訳ではないだろう」
「あっ、おいっ飛鳥、ちょっと止め」
「フフ、キミがそんなに慌てるってことは、もしかしたらボクの写真でも入っていたかな? 別に恥ずかしがることはないさ、キミはボクのプロデューサーなんだからね」
そして彼女はファイルをクリックする。その先にあったのは……またも女性の裸体の数々。中にはgifで動いているものもある。しかし先程と違い、彼女たちの胸はなんというか、ボリューミーだった。巨乳だった。
「あっあのなっ! 飛鳥、これは誤解で」
「……」
プルプルと飛鳥が震えている。それはまるで、世界が終わった後のような静寂。ラグナロクの時。ヴァーティカルデイ。
この場において、俺という存在はまさしくユダだった。
「…………か……」
「え? なんだって?」
「…………プロデューサーの、バカッッッ!!!!」
彼女は俺の頬に大きな紅葉をプレゼントすると、走って玄関から出ていった。
ガタガタと、外の非常階段を駆け上る音。
「やれやれ……」
暫時の後、ようやく放心状態から立ち直った俺。
――もう決して、巨乳なんかに負けたりしない。
今頃はひとり屋上でいじけているであろう飛鳥のご機嫌を治すため、俺は今度こそ本気でそう誓うのだった。
おしり
ボクっ娘とジト目って相性良いと思うのは僕だけでしょうか
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