きりえ「撫でられてしまった」(21)

注意点
・タイヘイ×きりえ
・拙い文章
・突発、書き溜めあんま無い
以上、よろしくお願いします。



ピンポーン
昼過ぎ、土間家のインターホンが鳴り、昼食の用意をしていたタイヘイはコンロの火を止め玄関口に向かった。

タイヘイ「はーい、どなたですか?」

タイヘイが玄関を開けると、そこには相変わらずおどおどした面持ちのきりえの姿があった。

きりえ 「こ、こ、ここここんにちは!」
タイヘイ「ああ、こんにちは、きりえちゃん。……えーと、うまるはさっき出かけちゃったんだけど。」
きりえ 「え、あう、……そうなんですか。」
タイヘイ「そうなんだ、ごめんね。」
きりえ 「いえ……」
タイヘイ「……」
きりえ 「……」

沈黙が十秒程が経過したところで、タイヘイは軽い笑顔を浮かべて切り出した。

タイヘイ「あはは、前もこんな事があったよね。」
きりえ 「そそ、そうですね。えと、あああ、あの時はすみませんでした!」
タイヘイ「いやいや、きりえちゃんはクッキーを届けに来てくれたんだし、どうして謝るんだい。」
きりえ 「でも、焦げたクッキーを食べさせてしまいましたし、それにお兄さんの大切な休日を無駄にしてしまって……」

軽い話題になればいいと思って言ったつもりが、逆にきりえは沈んだ表情を浮かべて俯いてしまう。

タイヘイ「いや、休日はいつも暇してるし別に……ま、まあ立ち話もなんだし、上がるかい?」
きりえ 「え、あう、……はいぃ。」




土間家の机を対して向かい合い、座る二人。
その表情は固い。

タイヘイ「……」
きりえ 「……」
タイヘイ(うーん、きりえちゃんとふたりっきりになるのはクッキーの時に慣れたと思っていたけど、さっきのやり取りの後だと気まずいな。)

※クッキーの件については、[干物妹!うまるちゃん]のアニメ版 第九話 を参照ください。

きりえは目を合わせると目を逸らしてしまうため、タイヘイはテレビを点けながら流し目で彼女の様子を確認する。
相変わらず警戒しているのだろうか、きりえは落ち着かない様子で少し俯きながらもタイヘイを見ている、というか睨んでいるように見える。
家に上げたはいいが、彼女は帰りたかったのではないか?
そんな不安を尻目に、玄関での話題を続ける。

タイヘイ「えーと、玄関で話してた事だけど……」
きりえ 「はいぃ!」
タイヘイ「く、クッキー、美味しかったよ。」
きりえ 「……本当ですか?」

急に驚きの声を上げたかと思うと、今度は疑惑の目でタイヘイを睨みつけるきりえ。
目を見ずに話した事が裏目に出たのだろうか?
タイヘイは今度はしっかりと向き合い、視線を交わしながら言う。

タイヘイ「本当だよ!うま……こまるだって言ってたじゃない。」
きりえ 「お兄さんは失敗作を食べても美味しいって嘘吐くじゃないですか。」
タイヘイ「いや、確かに少し苦かったけど、でも美味しかったんだよ。」
きりえ 「嘘です。私が食べた時は美味しくありませんでした。」

タイヘイ「……まあ、そうかもしれないね。」

きりえは少し表情が暗くなる。

きりえ (やっぱり、お兄さんは優しいから哀れみとかそういう気持ちで言ってたんだ。師匠だってうまるさんだって、美味しくなかったのに嘘吐いてたんだ。
     そりゃそうだ、私の作るものが美味しいわけないもの。)

きりえは自嘲気味の笑みを浮かべながら、潤んだ瞳を隠そうと視線を落としていく。

タイヘイ「自分で作った物と他人が作ってくれた物じゃあ、全然味は違うのさ。」
きりえ 「ぇ?」

タイヘイの言葉を聞き、きりえはつい顔を上げてしまう。その瞳は濡れたままだが、自嘲気味の笑みは消えていた。
いつの間にか両目を瞑り横を向いていたタイヘイは、きりえの表情の変化に気が付かないまま、自身満々に人差し指を立てて語る。

タイヘイ「人間ってのは不思議なものでね、感情で味覚を変化させるのさ。
悲しい時に美味しいもの食べてもあまり美味しく感じなかったり、嬉しい時に美味しいもの食べたらもっと美味しかったりね。
それでね、俺はきりえちゃんからクッキーを貰った時すごく嬉しかった。だから、俺ときりえちゃんで味が違ったんだよ。」
きりえ 「っ!」

タイヘイ「まあ、俺だって美味しくない物は美味しくないって言うよ。
     この前だってうまるがポテイトコーラ入り茶漬けを作って……きりえちゃん!?」

タイヘイは頑なきりえに自論と本音を語り、楽しい話題に繋げるつもりだったのだが、何故か彼女は泣いていた。
目を見開き、口をくの字に曲げ、涙を堪えるような表情で涙を流していた。

タイヘイ「えと、ごめん!俺、何か泣かしちゃうような事言ってた……んだよね。とりあえず、タオルを……」
きりえ 「泣いてません。」
タイヘイ「え?」

タイヘイがオロオロとしている間に、きりえの顔から涙は消えていた。
目尻は赤く、瞳は潤んでおり、泣いていたのは明らかなのだが。

きりえ 「私は泣いてなどいないです。」
タイヘイ「いや、でもさっき……」
きりえ 「泣いていない、いいですね?」
タイヘイ「……はい。」

きりえは机に身を乗り出し、質問を強制する。
先ほどの儚さなど微塵も感じさせぬ威圧感にタイヘイは頷くほかなかった。

きりえ 「その、ありがとうございます。
     お世辞でも、今度は嬉しかったです。」
タイヘイ「お世辞じゃないのに……そうだ!
     きりえちゃん、今日お昼は食べてきた?」
きりえ 「え?まだd……いえ、もう食べてきました。」グー
タイヘイ「……」
きりえ 「はぅぁ!」

質問に対し、口と腹から返事が飛んでしまい、きりえは顔を赤らめながら慌ててお腹を押さえる。
タイヘイは頭を掻きながら言葉を続ける。

タイヘイ「きりえちゃん、嘘は良くないな。」
きりえ 「うう、すみません。お昼食べてないです。」
タイヘイ「じゃあ、丁度お昼作ってたし、食べていってよ。」
きりえ 「そ、それは……」

目を合わせず、はっきりとしないきりえの物言いにタイヘイは疑念を持ってしまう。
タイヘイ(遠慮しているのだろうか?もう既に晩御飯何度か食べてるのに何故?はっ!まさか。)

タイヘイ「……もしかしてきりえちゃん、俺の料理嫌いだったりする?」
きりえ 「それはないです!いつもいつも美味しいです。」
タイヘイ「でも、お腹が空いてるのに昼ご飯を拒否するなんて、やっぱり不味いんじゃ……」
きりえ 「さっきのやり取りで気恥ずかしくて遠慮しただけです!お兄さんの料理は美味しいです!大好きです!」

きりえ (って、はわー!わ、私は何を言ってるんだ!?い、今のは「料理が」って意味だから!別に他意は無いのですよ!)
     頬を赤らめ、目を回しながら頭を揺らすきりえを見て、タイヘイは笑顔でこう返した。

タイヘイ「あはは、これじゃさっきと逆だね。」
きりえ 「え?え?」

タイヘイ(そうか、自分の作った物を評価されるのってこんな気持ちなんだ。
     疑いたい訳じゃないけど、自信が無いから本当かどうか不安になってしまうんだな。)

タイヘイ「きりえちゃんの気持ち、少し分かった気がするな。」
きりえ 「ええ!?いや、さっきのは料理の話ですよ!?そりゃ、お兄さんの事もそれなりに……あぁ、すみませんすみません!私なんかがおこがましいですよね!」
タイヘイ「どうゆう事!?もしかして、俺またなんか変な事言ったの!?」
きりえ 「あれ?違うんですか?じゃあ、私の気持ちってなんなんですか!?」
タイヘイ「えーと、だからそれは……」





慌てるきりえを宥めながら説明をするタイヘイだったが、二度三度話が横飛びし、ようやく落ち着いたのはきりえが家に着いて1時間が経過した頃だった。
それからタイヘイは昼飯の準備を再開し、きりえは話の途中で取り付けられてしまった約束の事を考えていた。


タイヘイ「今日の昼食のお礼に、またクッキー作ってきてよ。」

きりえ (何故お兄さんはあんな約束をしてきたのだろうか。
 もしかしてクッキーが大好物とか?いや!それなら自分で作れば良いはずだ。
 さっきの話だと、クッキーを貰う→嬉しい→美味しい、の構図になる。
 つまりその嬉しいの過程を楽しむのだろうか、それならばクッキーでなくともいい、というか私でなくてもいい……私じゃなくても。)
きりえは考えをまとめている内に自分でも分からないまま沈んだ気持ちになる。
約束の理由が分からず、もやもやした気持ちの中、良い香りが辺りに漂い始めるのを嗅ぎつけ、自然と足が台所へと向かう。

今日はここまでー
続きはゆっくりと投稿していきます。

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