玉縄「このssは出来そこないだ、評価できないよ」 (24)

海浜総合高校生徒会長である僕は誰かに不満を漏らすことをよしとしない。

その証拠に学校の友人はもちろん、先生、両親を初めとして

ペットであるスナネズミまで含めてだ。

全て、自分が背負ってきた。

これは密かな誇りである。

だから、それに気づかれたときは本当に驚いた。

総武高等学校との打ち合わせの前に、何気なく聞かれたのだ。

相手の名前は折本かおり、麗しき令嬢である。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1441456883

彼女は軽くウェーブの掛かった髪をなびかせ、慎ましやかに

僕の返事を待った。

その高貴な姿に瞳を吸い寄せられていた僕は、慌てて彼女から目を逸らした。

「ウゥ!それに気づくなんて、君はなんてクレバーなんだ!でも、そこは聞かないのも

 ワン オブ オプションじゃないのかな」

いささか、非難が滲んだ言葉を聞いて

折本さんは頬を小さく掻きながら、苦笑いを浮かべた。

「私ってさ、そういうの苦手なんだ。気になったことはすぐに聞いちゃう。

変なこと聞いてごめんね、玉縄」

予想していなかった彼女のしおらしい態度に僕は焦った

「…えっ、いや、全然そんなことはないよ!折本さん!

うん、嬉しいくらいさ!」

「嬉しい?」

ゆっくりと首をかしげる折本さんとは対照的に僕の首はぶんぶん回った。

「ちちち、間違った!嬉しいんじゃなくて、インタレスティングだ。ライクじゃない!」

グレイブを掘り始めた僕を見て、折本さんは微笑んだ。

ああ、僕はそれだけで十分なんだ。

こんな道化だってやる意味があると思えてくる。

彼女を笑わせるためなら、僕はなんだってやるだろう。

そして僕がssと出会ったのもこのころだった。

きっかけは単純だった。

ネットサーフィンをしていたら、たまたま好きなアニメの創作が載っていて

それがとても面白かった。

原作では中々見られない、ぶっちゃけた会話。

敵が味方になったり、味方が敵になるifストーリー。

馬鹿みたいな会話を真面目にするクールなキャラ。

それらすべてが新鮮で、輝いて見えたのだ。

初めは読むだけで十分だった。

名作と呼ばれるものを漁り、感動し、笑い、泣いた

もちろん、ssは本物じゃない。

でも、それが逆に小気味良かった。

意識高い系を演じている自分を見ているようで

それを笑う人々の側になれたようで

惨めな気持ちを覆い隠してくれるようだった。

何日も読んでいるうちにそのアニメの名作と呼ばれるssは読み終わった。

そこから先は有象無象のssがある未知の領域。

僕は、その一歩を踏み出せないでいた。

名作と呼ばれる中でも、僕が好きになれなかったものはあった。

例えば、キャラが崩壊していたり、それがまた憎らしくて

到底受け入れがたいものもあった。

だから、僕はぐずぐずと好みのss作品を周回して

名作がうまれることを待つようになっていた。

並行して、打ちあわせで僕は雪ノ下さんに見事論破された。

家に帰った僕はむしゃくしゃした気分を必死に抑えていた。

僕は全員の意見を聞こうとした。それが間違っていることだろうか。

否。

じっくり考えようとした。それが間違っていることだろうか。

否。

でも彼女は僕を一蹴した。

でも彼女は正しい。

分かっているさ、分かっているとも、僕が悪いんだ。

彼女は僕がぐずで、優柔不断で、他人を気にしすぎているって言いたいのだろう。

でも、怖いんだ。

聞いた話では、彼女は助っ人としてここに来たのだと言う。

責任はないし、責められもしない。

きっと、失敗が怖くないのだ。

憎らしいことに。

その日どうしても、寝つけなかった僕はパソコンを開いた。

そして、例のアニメのssを検索すると、ある一つの作品が加えられていた。

見たことも無い題名だ。

きっと『名作』としては扱われていないのだろう。

僕は迷った。

しかし、そのときの僕は冷静ではなかったので

情動の命じるままに勢いよくダブルクリックをした。

そのことを一生後悔することになるとも知らずに。

なんだこれは

僕は思わず頭を押さえた。

面白い、面白いが…。

今まで、アニメのキャラに抱いていたイメージをバラバラに砕かれた。

これまで読んできて、少しは耐性を付けたつもりだったが

まるで駄目だ。

今まで、好きだったものが酷く歪んでしまった気がする。

そして、唐突に嫌悪感が生まれる。

気持ち悪い。

今まで受け入れられたssも含んで、そう思った。

また、受け入れてきた自分すら気味悪く感じた

だから俺は否定した。

この作品は偽物だ。

僕が読んできたssも全て誰かの想像で

本物ではないが故に、どこか歪んでいる。

たぶん、僕の演じてるキャラクターも同じだ。

笑っている連中は『気味が悪いから』笑っているんだ。

吐き気が、胃袋からせりあがってくる。

それでは、折本かおりも同じだと言うのか。

彼女の笑顔は、僕の気味の悪い姿を見たから生まれた。

その事実は僕をひどく打ちのめした。

それから、僕は意識高い系を装うことは止めた。

平凡で、つまらない、生徒会長になった。

周りの奴は、初めはそれすらも面白くて仕方がないようだったが

徐々にその興奮もひいていった

そして、なんであんなキャラクターになったんだと問うようになった。

僕の答えはいつだってこうだ。

面白いと思ったからさ。今はそうでもない。

彼らの残念そうな顔を見て、すこしは罪悪感を覚えたが

僕にはあのキャラを続けることはできなかった。

肝心の折本さんはというと、なにも変わらなかった。

僕は彼女の笑顔をもう見られないのではないかと

それだけが気になっていたのだが

彼女はいつも通り、快活で、愉快で、楽しい人だ。

ただ一つ気になることがあるのは、彼女が僕の変貌ぶり(元に戻っただけである)に何も言わなかったことだ。

僕はどうしても気になって仕方がなかったので比企谷君に協力を仰いだ。

逃げようとする彼をどうにか説得できたのも、由比ヶ浜嬢のおかげだろう。

感謝する。


そして今、

折本かおりと二人きりだ。

夕日が眩しい、道路の上を二つの影が揺らめいている。

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