藍子「亜麻色の髪の乙女」 (13)
以前にねこさんが『亜麻色の髪の乙女を歌っていたら藍子を思い出した』というようなツイートをしていたのを見て、書きたくなりました。
短く、拙い文章ではありますが、一読いただければ幸いです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1441254656
「今日のイベント、どうでしたか?」
今日は、私のCDのお渡し回兼、サイン会のイベントがありました。小さな会場だったので、あまり大勢の方に来ていただくことはできませんでしたが、来て下さった方を笑顔にできる様、精一杯頑張れたと思います。
「すごく良かったよ。やっぱり藍子はこういう仕事が向いてるな。……一人一人に時間をかけ過ぎて、少しスケジュールが押したけど」
「あ、あはは……」
運転中のプロデューサーさんが、ジト目で私の方を見てきます。以前、お仕事の前に瞳子さんとカフェに寄った時や、卯月ちゃん達とのラジオのお仕事もそうだったんですけど、どうも私と居ると、時間がゆっくりに感じてしまうみたいで……。
苦笑いじゃごまかせません……よね?
「まあ、それも含めて藍子の魅力だ。うちのアイドルはみんなファンとの関係を大事にする子たちばかりだけど、中でもお前は特別だからな」
『ファンのみなさんを笑顔にする』――私がデビューした時から今まで、ずっと目標にして、心掛けていること。プロデューサーさんも私の思いを汲んでくれて、こういったファンの方と直接関われるお仕事を増やしてくれています。
「時間が押したのだって、想定の範囲内だよ。この手のイベントはスケジュール通りに行かないと会場関係からクレームが来るんだけど、向こうの担当からも『高森さんなら仕方ありません』って言われるくらいだしな」
「それは、喜んでいいんですか?」
時間通りに終わらなくて当り前だと思われるって、正直、ちょっと複雑なんですが……。
「それだけ愛されているってことだよ。『ゆるふわ乙女』は伊達じゃないのさ」
確かに、クレームが入るよりはいいんでしょうけど……。やっぱり、迷惑をかけていると思うと、申し訳なくなります。
「確かに時間を守るのは大事だけど、時間を忘れるくらいゆったりした時間を過ごせるっていうのは、藍子の売りだよ。こっちとしても、そういう藍子の魅力を分かってくれる所と提携してイベントを企画しているしな」
「時間が押しても皆さん笑って許してくれると思ったら、そういうことだったんですね」
それに甘えているばかりではいけないですけど、そんな風に思っていただけているのは、とてもありがたいです。
「今はまだ理解を示してくれる所は多くないけど、確実に増えてきている。来てくれる人だけじゃなく、会場の関係者もファンにして、もっとイベントの機会を広げるのが今後の方針かな」
来てくれる人たちだけじゃなく、関係者までファンに……。
「それ、とっても素敵ですねっ」
ファンの皆さんだけじゃなく、スタッフさんまで笑顔にできる様なイベント――とっても楽しみですっ!!
「――ということで、さっきも新しい仕事をいただいた」
「……はい?」
「『亜麻色の髪の乙女』って歌、知ってるか?」
新しいお仕事は、『亜麻色の髪の乙女』のカバーと、PVの撮影でした。レコード会社の方で若手のアイドルから選出しようという話が出ていて、プロデューサーさんが強く売り込んでくれて、先方の方でも雰囲気に合うということで、選んでいただけたようです。
「……この衣装、なんだか懐かしいですね」
「藍子にとっては、初めてのメインでの仕事だったからな。色々と思うこともあるだろう」
今回私が着るのは、『ゆるふわ乙女』の時に着ていた真っ白なドレスです。新しい衣装を作るというお話もあったんですが、私の希望でこのドレスを仕立て直してもらいました。
「この衣装の前には、バレンタインやアニバーサリーのお仕事があって……。このお仕事の後には、ハロウィンやクリスマスのお仕事……何よりCDデビューもさせてもらって」
きっと、このお仕事は私にとって転機だったんだと思います。私のアイドルとしての方向性――それを決めてくれたのは、この衣装だと思うから。だから――。
「――忘れたくなかったんです。これまで私がやって来た事を、ただの思い出にしたくなかった。私は何度もステージに立てるのに、この子たちは一回きりじゃ、あんまりだと思って」
衣装は道具と言ってしまえば、それまでなのかもしれません。だけど、衣装があるから私たちはステージに立てる。輝いて、みんなを笑顔にできる。
「この衣装に言ってあげるんです。『あなたのおかげでここまで来れたよ。ありがとう』って」
企画をしてくれるプロデューサーさんがいて、運営をしてくれるスタッフさんがいて、一緒にステージに立つ仲間がいて――。でも、それだけじゃ、私たちは輝けない。
衣装を着て初めてアイドルになれるのなら、衣装だって、私たちにとって大切な仲間だと思います。
「さすがに、そこまで衣装に入れ込むアイドルは見たことがないな」
後ろでプロデューサーさんが苦笑しているのが分かります。やっぱり、こんな風に考えるのは変でしょうか?
「変かどうかは何とも言えないが、少なくとも悪いことじゃない。要は、『初心を忘れない』ってことだろう?」
「……そうですね。『ゆるふわ乙女』のお仕事は、ある意味わたしにとっての原点ですから」
「『ゆるふわ乙女』の仕事は、藍子にとって、アイドルとしての方向付けをした原点でもあり、人気を上げるきっかけになった転機でもある。それはきっと、ファンにとっても同じなんじゃないかな」
「ファンのみなさんも……ですか?」
「デビュー当初から藍子を応援してきたファンにとっては、藍子が一気に人気を上げた『ゆるふわ乙女』は大きな転機だったと思う。そして、『ゆるふわ乙女』をきっかけに藍子のファンになった人たちには、藍子を知り、そのファンになった原点なんだ。きっと、ハロウィンやクリスマスの時も、同じように思った人はいたと思う」
これまでのお仕事それぞれが、転機であり原点……じゃあ、この衣装を着れば、皆さんもその時を懐かしく思ってくれるでしょうか。
「大丈夫だよ。藍子の気持ちは必ず届く。以前からのファンにも、新しいファンにも、高森藍子の原点を見せてやれ」
「―――はいっ!!」
これから先、私がいつまでアイドルをしているかは分かりません。高校を卒業してからも続けているかもしれませんし、ひょっとしたら、来年には引退しているかもしれません。
だけど、例え、いつ終わりが来たとしても。
私は、これまで歩んできた道のりを忘れません。
魔法が解けてしまっても、魔法にかかっていた間の記憶は残り続けます。だから、すこしでも多くの人に、私のことを覚えていてもらえるように。
もし忘れてしまっても、ふと思い出した時に、笑顔になってもらえるように。
高森藍子というアイドルの全てを、この一曲に込めて歌います。
――亜麻色の長い髪を 風がやさしくつつむ
花々に囲まれた丘の上で、そよ風が私を優しく包む。
――乙女は胸に白い花束を
白いドレスと花束――私とファンのみなさんにとって、大切な思い出と一緒に。
――羽のように丘をくだり やさしい彼のもとへ
今、届けに行きます。
――明るい歌声は 恋をしてるから
みなさんと一緒に前に進んだ、『今』の私の歌声を。
以上で終了になります。
長い文章をかける人ってすごい(小並感)
書きながら話を作ったからか、『亜麻色の髪の乙女』の意味が全くないですね……。
ただ、3年前に藍子と出会ってからずっと担当をしてきて、ゆるふわ乙女ガチャが登場した時の感動は、未だに忘れられません。
今となってはフロントに入れている人も少ないでしょうが、藍子の持つ雰囲気を「ゆるふわ」という言葉に当てはめたのは偉大な功績だと思います。
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