グラップラー赤牙 (51)

初投稿。
初スレ立て。
キャラ設定変更注意

タイトル通りのクロス。
書き溜め多少あり。
不定期なので間隔開いたりするかも。
ちなみにメイン役としてはアカギからはアカギしか出ません。
モブとしては登場あり。

注意*バキとアカギ関連の雑談ならOKですが、偉大なる先輩方への迷惑行為はNG

投下します。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1440733589


鬼がいる。
真っ赤な鬼だ。
笑っている。 何を笑う。
鬼が鬼を笑っている。
もう一方の鬼も真っ赤だ。
一回り小さい。親子であろうか。
鬼と鬼は笑っている。
楽しそうに笑っている。

時代は平成。
バブルがはじけ、社会の空気が淀み停滞したそんな時代の末期。
新風の到来のまえに起こる、時代のうねりとも言うべき時に、ある人は酔いしれ、ある人は嘆き、ある人は願い、ある人は背け、ある人は喜んだ。

そんな誰しもが、感情の色を見せる時分に、その少年は生まれていた。

古ぼけて無機質な、頭上を照らす蛍光灯だけが延々と続く廊下であった。

場所はーーーー東京ドームである。
だがその本来の機能を果たす場ではなかった。
東京ドーム地下である。
その地下には、『道楽』を追い求めし者達が集う、いわゆる裏世界があった。
江戸時代、徳川家栄盛の頃より続く闘いの歴史における、今時代の『聖地』。
グラップラー……格闘者達が吸い寄せられる闘技場がそこにはある。

表世界のしがらみなど、世間の揺らぎなど此処にはない。

ただ、闘うためだけに、強烈なまでの自己の主張のためだけに、闘士達はここへ来る。

競い、比べ、勝ち、負け、登り詰めて立つ。
手に入れられるのは栄光のみ。
そんな闘いの舞台への道を少年は歩いている。

少年も闘士なのだろうか。
しかし、その体からは闘士特有の『熱』は感じられない。

少年は異様であった。
1つ、あまりに若い。

1つ、細い。また引き締まっている、そんな言葉では言い表せない肉体。さながら鼬とでも呼べるような肢体。

1つ、全身あますことのない古傷。
少年を形作る何もかもが異様であった。

否ーーーこの場に、高校生くらいの少年が、闘士として違和感なく存在することこそが異常なのだ。

場に、そぐいすぎている。
浮かなさすぎている。

なによりもその表情が、死地を何度も何度も潜り抜けた歴戦の『男』のみが漂わせる空気感を纏うことが、異常であった。

虚である。これから起こるであろう決死の闘いに何も気負っていない。
冷たすぎるほどの……。

それは常に傍あるものだ、そう認識しているような。
………。

ふと足が止まる。
光が強く前方から差し込んでいる。
余りの明るさに少年の姿も呑み込まれている。

唐突に、笑う。
口角を少し吊り上げたニヒルな笑いだ。

「スカッとしねぇなぁ……」

足を踏み出し光へと、闘争の舞台へと消えて行く。

名を範馬赤牙。
年は17の高校生。
『地下闘技場王者』。

これはーーー後に地上最凶と呼ばれる男の物語である。

取り合えずここまで。

書きそびれましたが
字の文増し増しです。

やはりss難しいですね…
批判感想待ってます。


投下します

なんという高揚感。
ヤーギーット=ケイジルは胸を打つ感動にうち震えていた。

決して広いとは言えない、10数メートル四方の舞台。
円形の砂場、闘技場である。
その端に立ち顔をあげれば、数百人の見物人達が自分だけを見ている。

これはいい、すごくイイ。
声援か歓声が、観客達の熱が全て自分のみに注がれている
誇らしさ勇ましさ、形容しがたい思いが込み上げてくる。

誇りーーーヤーギットは故郷に思いを馳せていた。
ヤーギーットはタイ人である。
王国陸軍精鋭部隊の隊長であり、タイ武術レッドリッドの達人である。

産まれてから日々が戦いであった。

初めは貧困だった。
生きるために武を備えた。
次は地位であった。
成り上がるために武を鍛えた。
最後は矜持であった。
強くなるために武を究めた。

そして今、ひりつくような故郷の暑さからは程遠い島国で、負けぬほどのいやそれ以上の熱気を孕んだこの場で、ヤーギットは闘おうとしていた。

対戦相手の名は、範馬赤牙。
いわく史上最年少王者。
いわく不敗のチャンピョン。

王者の現れる瞬間を今か今かと待ち望んでいた。

ひたりーひたりー。
足音が聞こえる。

範馬赤牙が、青龍の方角より現れた。
瞬間、あれほどうるさかった会場が静まる。
虫の羽音すらも聞こえるような静閑。
空気が冷めてゆく。

ヤーギットは自身の変化に驚いていた。
先程までの猛りが消失している。

ーーーごくり。
唾を飲む音がデカい。
これは恐怖なのか。
胃の奥底からせり上がってくる何か。

誰もが王者の一挙一動から目を離せない。
そして、両者が中央で向き合った。

視線が交錯する。
同時に、赤牙が笑う。
ほんの少し口の端を上げて。

ヤーギットはその瞬間、何か恐ろしいものにとりつかれたような、自分ではないような、感覚を覚えた。

もしも、ほんの数秒開始の銅鑼が遅れていれば彼は反則をしていたのだろう。
それほどまでに、感情に身を任せた拳をヤーギットは放っていた。

届く。あと少し。
きたっ。当たる!

………。
……………………。
……………………………。

ーーー視界が眩しい。
あれは何だ?
ライトだ。 ここはどこだったか。
地下闘技場だ。おれは何しにここへ来たんだ?闘うためだ!
そうだ、王者を殴ったはず。
どうなった……。

「何をそんなに恐れてるんだいヤーギットさん」

誰だ。恐れる?このおれが?

「ククッ……呆けてやがる。
あんた、そのままじゃ負けちまうぜ」

負ける……敗北。
敗北とは死だ。
嫌だ。嫌だ。イヤだ!

朦朧としていた意識の覚醒。
気付く。仰向けに倒れている。
光は天井のライトだったのか。

王者はどこだ。


「寝ぼけてるなよ。
闘いはまだ始まったばかりだぜ……」

ヤーギットの目が王者を捉える。
闘技場の柵に、もたれかかりながら赤牙は笑っていた。
ヤーギットの脳内には様々な思いが交錯していた。
何が起きた。 見えなかった。
体にダメージはない。 手は動く。
闘える!

王者が見下ろしながら嘲笑う。

「おれが恐いのかい?ヤーギットさん」

瞬間、背筋をバネのようにしならせ、勢いよく立ち上がるヤーギット。
そして勢いそのままに赤牙へと走る。
体を引く後ろ暗い感情から逃げるように。

早さ、力、バランス全てがベストに乗った一撃だ。
出だしの中途半端な攻撃とは訳が違う。
後の攻撃へと繋げることもできる巧みの一撃。ヤーギットは確信する。

「ーーーーかぁッ!!」

避けるか、防ぐか、あるいはカウンター狙いか。
先の一手を思考しつつ見舞った一撃に王者はどう答えるのか。

「……」

解答はそのどれでもなく。
避けず、止めず、ただその身に任せ受け止める。赤牙は真っ直ぐと受け止めた。

人体とは、肉である。
筋肉と贅肉。
鍛えるとはその配分を歪にすることと言える。
肉とは緩衝材である。
硬さと柔らかさ。
そのバランスが肉体の強さを決める。
強くなるために天秤を傾け筋肉を求めるのだ。
つまり、究めれば肉とはもはや壁と呼べうる。


その時ヤーギットに電流走る。

「うぐあぁあぁあ!」

およそ人体が発せるとは思えない、獣のような叫びが会場にこだまする。
観客は何が起きたのかわからない。
沈黙のなか慟哭だけが鳴り響く。

倒れているのは打ち込んだはずの挑戦者。
手首から骨が甲へ向かい飛び出している。
噴出する血液が、闘技場の砂地を赤く染め上げて行く。


「……恐れ」

王者がぽつりとこぼす。
沈黙のベールの降りた会場で、赤牙の言葉だけが音をなす。

「恐怖は思考の足を止め……脳味噌は感情にシンプルに従って体を動かす……。
しかし、同時に脳は動く……。
イヤ、動いた気になる……。
まるで恐れから逃れるように……平静の思考力をもたらす……錯覚だ……。
最良……最善……はなはだしい勘違い……!
まやかし……逃げの思考……恐れに引かれた電気信号にすぎない……!
……だから今のアンタの姿がある……」

とつとつと、語る王者。
気がつけばヤーギットもそれに聞き入っていた。
呻き声も漏れない。
まさに絶句。圧倒的無言。
脳を鈍器で直接叩かれたような衝撃。
完全に心を読まれた。
ヤーギットすらも気づいていなかった、気づかずにおらんとした。
そんな思考を。

ふと、自分の上に影がかかったのに気がつく。
顔をあげれば目と鼻の先に赤牙が立っている。
中腰で屈伸するような体勢で視線を向けてくる。

赤牙の目は冷たい。
まるで鋼鉄の機械のような熱のない目。

ヤーギットはぽつりとこぼした。

「……俺の敗けだ」

……。
赤牙が背中を向けて青龍の方角へと戻って行く。
ヤーギットはその背中をただ見つめる。
なにも言えない。
なにも残らない。
語るべき言葉を持っていない。
何もかもを根こそぎ奪われたような、否定されたような。
圧倒的なまでの敗者の感覚に痛みはもう麻痺していた。
ただ、脳を貫くような赤牙の言葉だけが電流のように、ぴりぴりと残っていた。

そうしてやっと赤牙の姿が消えた頃、思い出したように終了の銅鑼がうちならされた。

ここまで

励みになります。

短いですが投下します。

蛍光灯の下を赤牙は歩く。
来たときと同じように、ただ行って帰ってきたかのような同じ足取りで。

ふと、物陰に気付く。

小さな小さな姿だ。
それが赤牙へ向かって猛烈に向かってくる。

「赤牙~~~!!」

老年である。
童のような体躯とは裏腹に、顔に刻まれた無数の皺が、過ごしてきた時間の流れを表している。

袈裟に身を包み袴をはいた男。
この童のような老公こそ、徳川家十三代目当主、徳川光成であり、
地下闘技場の所有者でもある。

そもそもこの地下闘技場自体、徳川光成の命により作られたものであり、それだけで権威の程が伺える。

総務省、官僚、ひいては総理大臣すら徳川光成の意向を優先する。
それほどまでに徳川家は現代においても影響力があるのだ。

そんな、世界有数の権力者が顔一杯に喜びを表し赤牙へ飛ぶ。

「あらら……じっちゃんいつものことながら無茶しすぎだ……」

「なぁにを言うとるかッ!
意気揚々と無傷で帰ってきた王者を労って何が悪いッッ!?」

さも当然と光成は憤慨する。
こと格闘技において光成は病気と言ってよいほど固執する。

「いやまあ……そういうことじゃねえんだけど……」

赤牙苦笑いである。
弱冠17歳。苦手なもの老人。

「かぁ~~それにしてものう!
今回も一瞬じゃったわい!
流石王者ッッ! 彗星の如く表れ未だ無敗ッッ!
歴代最強と名高い男に相応しいッッ!」

「ははっ……そりゃどうも……」

「惜しむらくはその覇気のなさかのう……いやだがその冷静さこそが強さの……ぐぬぬ」

難しい顔をして唸る御老公。
ころころ変わる表情はまるで本当に童のようだ。
赤牙はまた苦笑いをし、ゆっくりと御老公を下ろす。

「じゃあ……じっちゃん……そろそろ帰るわ……」

うんうん、唸る御老公を尻目に去ろうとする赤牙。
しかし。

「楽しかったか?」

言葉。
重いだとか強いだとかそんな質のものではない。
濁りのない純粋な、赤子のような心のみが込められた言葉である。
だからこそ空気が変わる。
透明なしかし張り詰めた。
振り返った赤牙の顔はまた、純粋で。
ただの高校生のそれであった。

「……足りない。
あの程度では何も」

「そうか」

「……なあじっちゃん。期待は……してるんだ……早いとこ叶えてもらえると嬉しい……」

「クックックッ。
わあっとるわい赤牙。
ひりつくような闘いを近々プレゼントできる予定じゃ。楽しみにしとれぃ」

「ああ……ぬるりと待つよ……」

手を振りながら赤牙は帰って行く。
と、思い出したように御老公が叫ぶ。

「そうじゃ! いつものようにちゃあんと伝えとってくれよぉ!」

「あぁ……わかってるさ伝えるよ……『母さんに』」

ここまで。

投下します

東京ドーム外。
虫達の合唱が鳴り響き、
とりわけ蝉の独奏がかしましい。

赤牙は白シャツに黒の長ズボン、学生服に身を通し立っている。
賭けで手に入れたタグホイヤーを見れば、19:30。
迎えが遅れるなど珍しいこともあったものだ。
そういぶかしむ。

ぷぷーと、間の抜けたクラクションが鳴る。
車のライトが向かってくる。
どうやら来たようだ。

赤牙は運転席に座る人物に気が付いてばつの悪そうな顔をした。


「赤牙~~♪」

窓を開き体を乗り出して手を降る運転手。
朱沢江珠。
現代において朱沢の名は避けては通れぬ名である。
徳川家とまでは言えないが広く名声を集め、また多くの傘下を従えている。
その朱沢グループの頭取が朱沢江珠である。

真っ赤なポルシェが赤牙の横に止まった。
ドアが開くと、朱沢は勢いよく赤牙に駆け寄り抱き締める。

「……こういうのはやめてくれっていってるでしょ……」

「あら、私が了承したことがあった?」

「……あらら勘弁してよ母さん……」

朱沢江珠、姓は違うが赤牙の血の繋がった母親である。
挑戦的なつり上がった眼と細い筋のとおった鼻梁。
ふっくらと膨らんだ蠱惑的な唇が合わさる絶世の美女だ。

「……もう30代だろ……そろそろ子離れしなよ……」

「母さんが嫌いだって言うのッッ?!」

「……勘弁してよ。
きっついなぁもお……」

言って赤牙は母親を眺める。
車と同色のワインレッドのノースリーブワンピースドレス。
ハイイールも揃えて赤。
リップグロスも更に赤。
ネイルも赤。
そんな扇情的な格好に次いで、道行く者男も女も全員が振り返ってしまう美貌。
誰もが羨む美女である。

しかし息子にはそんなもの関係がない。
嘆息。圧倒的ため息。
母の前では王者も形無しである。


「何よその反応?
母さんに何か文句でもあるの?」

「……いや、なにも」

「ふふふ、よろしい。ならちゃっちゃと乗りなさい。早く帰るわよ」

二人は車に乗り込み、ドアを閉める。
赤牙はふと疑問を浮かべる。

「ところで何で母さんが迎えに?」

「母親が愛しい息子を迎えに来ちゃダメな理由でも?」

「……はぁ」

要は気紛れである。
赤牙は母は嫌いではない。
しかし得意ではない。
論理的でなく、雲のように掴み所がない。
それでいて時折、マグマのような苛烈さを見せるものだから赤牙にとってはこれ以上なくやりづらい相手であった。
母をよく知る赤牙はそれ以上の質問を止めることを決意した。
藪をつつかざれば蛇も出まい。

街道を車が走って行く。
街灯のネオンが瞼を撫でる。
夜の高速は珍しく静かでタイヤが道路を蹴る音すら聞こえてきそうだ。

「今日はどうだったの?」

「……別に」

「あら、相手が弱かったのね。
可哀想に」

「弱くはなかったよ……ただ足りなかった」

「ふうん、母さんには違いがわからないわ。
わかるのは息子が満足してないってだけね」

「……」

「‘お父さん’とヤりたい?」

車内の空気が変わる。
赤牙を中心に重力が発生しているような、酸素の流れすらも歪んで見える。
朱沢は息子のそんな変化には無頓着で続ける。


「近々帰ってくるって言ってたから楽しみにしてなさい」

「……そうか……親父が帰ってくるのかい……」

「ふふ……待ちきれないって顔よ赤牙」

ころころと、朱沢は笑う。
対照的に赤牙は取り憑かれたように笑んでいる。
狂気の三日月の笑みだ。
心なしか車内の温度も高まっている。

「熱だよ母さん……身を焦がすような激情……俺の血をたぎらせてくれる……理由も意味もいらない……親父とはそんな闘いができる……だからこその高ぶり」

「悔しいわ。赤牙のそんな顔母さんじゃ引き出せないもの」

頬を膨らませる朱沢。
独特のオーラに赤牙の熱も引っ込んで行く。

「くくっ……親父と母さんじゃ根本が違う……優劣の話じゃない……土俵の違い……仕方のないこと……」

「それフォローになってないわよ」

「あらら」

「全く! 闘いに関しては一流だけど、女性に関してはてんで……」


始まった。
お説教が始まれば朱沢は周りが見えなくなる。
それを赤牙は重々承知している。
そんなときは寝るに限る。
17年で身につけた習慣に従い赤牙はまどろんでゆく。

……そん……とごす……ちゃんも……

母が何か喚いている。
そういや徳川のじっちゃんの言伝て言いそびれたな。
関係ねぇや。
寝ちまおう……。
……。
……親父が……帰ってくる。

あれから四年……随分長く感じる……。
またヤれる……。
親父と……。

………。
…………。

ここまで

東京の夜は暗い。
昼のオフィス街や歓楽街での華々しさとはうってかわって、夜はその暗さが誇張される。
とりわけ電車の高架下などはその代表のようなものだ。

街灯の影に隠れて行われる悪。
だが何も無法だけが法ではない。
悪を監視するのが法、ひいては警察の仕事なのである。

近隣の家の影から高架下を伺う人物が二人。
よれたロングコートを着こんだ恰幅のいい男がじろりと高架下を睨んでいる。
もう一人はそわそわと落ち着かず、しきりに辺りを見回している。

「南郷刑事……一体何だって言うんですか? 僕今日非番なのに……。
見りゃわかるっていったって……」

ぶつぶつと気弱そうな男、治(オサム)はそう独りごちる。
鋭い目付きを一瞬向けて、南郷は紫煙を吐き出した。

「お前……こっちに来て少しは東京の空気に慣れただろう。
そろそろ頃合いかと思ってな」

「だからそれがわからないって……。
まあ十中八九『アレ』に関係してるんでしょうけど……」


治が顎で指した先には男達がいた。
一見して、みな年のほどはバラバラで中学から高校と一貫性がない。
共通するのはその雰囲気。
全員が全員、いわゆる不良の醸し出す悪っぽさをひけらかしていた。
口々に好き勝手喚き、近隣の者にとっては騒音でしかないだろう。

「やめましょうよ……南郷さん。
どう見たって集会じゃないですかあれ」

高架下にたむろする不良達はゆうに100人は越えている。
治が怖じ気づくのも当然であった。
しかし、それでも日本国。
法治国家である日本ならば警察が二人、鶴の一声で不良達は霧散するのは確実。
ただ、ほんのちょっと『手違い』が起きるかもしれないと言うことだけだ。
そのリスクを恐れるような南郷ではない。
それをわかっているからこそ、治はやはり不安なのだ。


「まあ見てろ……。
何も大物とりをしようってわけじゃないんだ」

「だから何のはなしなんですか……」

「……例えばだ」

南郷が治に向き直り、煙草をぽいと捨てる。
警察にあるまじき行為だが、治にはそれを咎める余裕がない。
治を見つめる南郷の眼に、えもしれぬ威圧感が込められていた。

「どこかの国にとてもとてもお偉い方がいたとする。
木っ端市民にゃ到底及びもつかない権力の持ち主で警察庁も頭があがらない、そんな相手」

突然始まった与太話に、治は「はぁ?」とか「ええ?」だとか間の抜けた返事をする。
南郷は気にせず続ける。

「そんな化け物みてぇなお方の、跡継ぎ様ーー子供がもし『やんちゃ』に手を染めてたらお前、いったいどうするね?」

眼を白黒させて、視線を不良達と南郷へ何度も行き来させる。
やがて得心がいったのか、治はおずおずと口を開く。

「つまり……俺たちのやるべきことは監視ってわけですか?」

「くっくっく……。
そうだったら事もいくらか簡単なんだがな」

愉快そうに眼を細め、南郷は笑う。
治は馬鹿にされてるような気がして、いくらか不満顔を返す。

「まあそう焦るな……。
若いってのはいいもんだ。
老いぼれの与太は附に落とせねぇで溜め込むよりはすっきり消化したほうがいい」

苦笑いをして、治に釈明の意を表してはみるものの、南郷の意に反しやはり膨れっ面で「いつも南郷さんはそうやって……」と普段の不満をここぞとばかりこぼしている。

と、そんな風に南郷と治が問答をしていると、急に辺りの喧しさがピタと止んだ。

何事かと治が不良達を見てみれば、彼等が一点に集中しているのに気づく。
好奇心そのままに視線を追ってみれば、遠くから影が不良達へ向かってくるのが見えた。

危ない、近づくな。
不良達に気付かれるのもそっちのけでそう注意をかけようとすると、南郷に静止させられる。
南郷は右手の人差し指を口にあて、黙っていろと無言で語っていた。

意図が読めず多少混乱するものの、先輩に従い押し黙る。
再び影に視線を向けてみれば、背格好がわかる距離までは近くなっていた。

白髪である。
老人のように灰のような髪色をしいるが、白のカッターシャツと鴉色のパンツの制服からかろうじて学生であるとわかった。

少年は真っ直ぐに不良達へ向かいアスファルトを進んでゆく。

街灯に照らされて表情が露になる。
日本人離れした高い鼻。
カッターナイフのような切れ長の顔立ちではあるものの、どこか幼さの残る風貌だった。
砂利を踏み締める音がなる頃、少年はもう不良達の眼と鼻の先にいた。

「へへっ~マジで来やがったよこいつ」

「だぁかぁらぁ馬鹿なんだってば」

「ちげえねぇ全くもってちげえねぇ」

にやにやと不良達が笑いながら来訪者を見ている。

と、一人の男が立ち上がる。
全身を真っ黒な学ランに包み込み髪型はしっかりと形の整えられたリーゼント。
古きよき不良の典型のような男は、右手に白鞘に納められた日本刀を持っていた。
学生が持つには余りにも物騒すぎる得物、それを一気に抜き出し鞘を放り捨てると、切っ先を白髪の少年へと向けた。

とりあえずここまで

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