■キャラ設定の変更アリ、時系列は割と適当です。何番煎じとかだったら、まあ許して。
高木「さて、記念すべき初仕事だが…早速で悪いがキミには天海君のオーディションに向かって貰いたい。」
高木「本来なら秋月君の仕事だったのだが…他のアイドルのオーディションの予定がずれて、スケジュールが被ってしまってね…。行ってくれるかな?」
シロー「ハッ!」
高木「なに、そこまで固くならなくても大丈夫だ。簡単に言えば送迎と付き添いだからな。」
高木「昨日のうちに天海君にも今日の予定を伝えてあるから……詳しくは移動中に彼女から聞いてくれたまえ。」
高木「だが彼女にとっても我が社にとっても大事なオーディションだ。」
高木「彼女を最高の状態で送り出せるよう、コミュニケーションを怠ってはいかんぞ。頑張ってくれ!」
シロー「了解しました!」
ビシッ――
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―――――
春香「天海春香です、よろしくお願いしますプロデューサーさん!」
シロー「ああ、よろしく!」
春香「今日のオーディション、私…精一杯頑張ります!」
シロー(オーディション前だからやっぱり緊張しているな。)
シロー(…そうだ、プロデューサーとしてこんなときこそ士気を上げてやらないと!)
シロー「俺はまだ、君たちの全てを知ったわけではないのが残念ではあるが…。」
春香「あはは…まあ、初対面の人に私たちの全てを知られていても困るんですけど。」
シロー「これだけは言っておく。絶対に死ぬな!」
春香「え!?」
シロー「オーディション中いくら高評価を得ても、死んでしまっては何にもならない。」
シロー「プロデューサーとして、765プロ所属アイドル一人でも欠けることなく生還し、勝利の喜びを、共に勝ち取ることを切望してやまない!以上だ!」
春香「オーディションで死ぬって…そんな大げさですよ……。」
シロー「そ、そうか…すまん。いやあ初日からこんな重要な任務だからつい意気込んじまった……はは。」
シロー(落ちつけシロー!彼女より俺の方が緊張してどうする!)
春香「それに…ふふっ!なんかプロデューサーさんのさっきのセリフ、漫画とかに出てくる軍人みたいで…ちょっと可笑しいです!」
シロー「…っ、俺は!お前達アイドルに怪我なんかして欲しくないからだなあ!」
春香「ご、ごめんなさい!でも、あんな大真面目に『絶対に死ぬな!』なんて言われたら……クスッ。」
シロー「むう…。」
春香「それだけ心配してくれてるって事ですもんね。」
春香「ありがとうございます、プロデューサーさん♪さあ、遅れちゃうから早く会場に行きましょう!」
シロー「げっ!?もうそんな時間かよ……最初から失点1だな。」
春香「プロデューサーさーん、何してるんですかー?」
シロー「お、おう!今行く!」
春香「では!765プロ、天海春香、出ます!なんちゃってー♪」
ガチャ――
シロー「もういいから!やめろって!」
バタン――
―――――
シロー「惜しかったなー。」
春香「…ごめんなさい、プロデューサーさん。精一杯頑張ったんですけど…ダメでした。」
シロー「いや、春香は良くやったよ。オーディション前だっていうのに変なこと言って春香を困らせた俺の責任だ。」
春香「そ、そんなことありません!」
シロー「春香…。」
春香「私、昨日の夜からすごく緊張してて……でも!」
春香「プロデューサーさんに『死ぬな!』って言われた時、気がついたんです。」
春香「私、それくらい固い表情してたんだ、って。だからプロデューサーさんも凄く心配してくれて…。」
春香「それに、プロデューサーさんの方が緊張してるみたいだったから……そうしたら可笑しくなっちゃって。」
春香「……なんだか身体が軽くなったんです。ですから、今日のオーディションは今までで一番良かったと思います!」
シロー「その…俺が変なことを言った、ってのは否定しないんだな。」
春香「だって、『絶対に死ぬな!』って…言いませんよ普通。絶対変ですよ!」
春香「……私頑張ります!もっと頑張って必ずトップアイドルになってみせます!」
春香「それまでは…死んでも死にきれませんから!ふふっ♪」
シロー「だからそれはもうやめろって――」
春香「私は死にましぇ~ん!っと、きゃあ!」
ドタッ――
シロー「春香!大丈夫か!」
春香「えへへ…、ちょっとふざけ過ぎちゃいました……。」
シロー「まったくだ、気をつけろよ!…ほら、立てるか?」
春香「はい、ごめんなさい…。あの、プロデューサーさん。」
シロー「なんだ?」
春香「私のプロデュース、これからもよろしくお願いしますね!」
―――――
―――
―
シロー「はい、アマダです。……あずささんがどうしました…え、道に迷ったらしい?」
シロー「それであずささんは今どこに?…はい、はい。了解しました、今から迎えに行きます!」
ピッ――
シロー「聞いてはいたが…こうも方向音痴に磨きが掛かっているなんてな……。」
シロー「とにかく、さっきの話だとここから割と近いところに……あれ、あずささんじゃないか?」
シロー「おーい!あずささーん!」
―――――
あずさ「あらあら~、ここは一体…?」
「おーい!あずささーん!」
あずさ「今誰か私を呼んだ様な…確かこっちの方から……。」
―――――
シロー「あずささん!?そっちは…なんで人混みが激しい方へ行くんだ……!」
シロー「このままじゃ見失う…クソッ!」
―――――
シロー「はぁ……はぁっ……。」
シロー「ヤバイ…すっかり日も暮れて……携帯も途中で電池切れちまうし…。」
シロー「…考えてみれば俺もこっちに出てきたばかりで、全然土地勘ないもんな。」
シロー「ミイラ取りがミイラ…か、はは……素敵だよ。」
シロー「ここ、どこだよ…あずささん…一体どこへ行ったんだ……。」
「あらあら~?プロデューサーさんですよね、もしかして迷子ですか?」
シロー「ああそうだよ、悪かったな!あずささんを探してたらいつの間にか道に迷っ……て、あずささん!?」
あずさ「はい、三浦あずさです。ごめんなさい、事務所へ向かってたはずだったんですけど、私また道に迷ったみたいで…。」
あずさ「連絡しようと思ったんですけど、携帯の充電が無くなってしまって…。」
シロー「まったく…、とにかくあずささんが無事で良かったですよ。…大分遅くなっちゃいましたけど。」
あずさ「もしかしてプロデューサーさん、スーツがボロボロになるまで私を探して…?」
シロー「あ、ああこれは途中で藪に引っかかったり水たまりに突っ込んだりしちゃって…あはは。」
シロー「ほら、俺こっちのことまだよく分からなくて……だから見つけるのに時間掛かっちゃったんですよ!…俺のことは気にしないで、さあ帰りましょう。」
あずさ「そうだったんですね…ありがとうございます、プロデューサーさん。」
シロー「さて、あっちに駅があったはずだから……あと念のため、事務所に着くまでは俺から離れないでください。」
あずさ「ふふ、了解しました♪」
―――――
『次はー、――』
あずさ「プロデューサーさん、もうすぐ着くみたいですよ。」
シロー「…すぅ……」
あずさ「…プロデューサーさん?」
シロー「ん……もういいよ……。」
あずさ「あらあら、よっぽど疲れていらしたんですね…ふふ、可愛い寝顔。」
あずさ「……プロデューサーさん、今日は本当にありがとうございました。」
スッ――
―――――
―――
―
ガチャ――
「ふんふーん♪きっれいにしましょー♪」
シロー「お、やよいが鼻歌交じりに窓ふきしてる…。可愛いな。」
やよい「うっうー、おはようございますプロデューサー!」
シロー「ああ、おはようやよい!今日も元気だな。」
やよい「はい!すっごくいいお天気なんで、私も元気いっぱいです!」
シロー「はは、そうか。だからって、何も事務所の掃除までやることはないんだぞ?」
やよい「そうなんですか?でも今日はいい天気ですから、お掃除したらきっと事務所もいつもよりピッカピカになるかなーって!」
やよい「それに、最近お掃除出来なかったからちょっと埃っぽいですし……。」
シロー「え、そうか…?というか事務所の掃除はいっつもやよいがやってるのか?」
やよい「はい!私お掃除するの好きなんで!」
シロー「なるほど、みんなやよいに甘えて掃除してないんだな……。」
シロー「よし、だったら俺も掃除するか!」
やよい「はわっ!そんな、プロデューサーに掃除なんてさせられませんよーっ!」
シロー「それはこっちのセリフだ、アイドルに掃除なんてさせていられるか!」
やよい「うー、私は好きでやってるからいいのに…。」
シロー「とにかくだ、掃除用具は何処にあるか教えてくれ。」
―――――
シロー「ふぅー、こんなもんだろ!」
やよい「ピッカピカですね!」
シロー「ああ、それに二人でやったから意外と早く終わったな。」
やよい「はい!プロデューサー、ありがとうございます!」
シロー「やよいこそ、いっつも綺麗にしてくれてありがとな。」
やよい「はわわっ…プロデューサー、くすぐったいですよぉ~!」
シロー「っと、悪い!つい……。」
やよい「いいですよー、褒めて貰えてすっごく嬉しかったです!」
やよい「それに…頑張ったら、また褒めてくれるかなーって。えへへ~♪」
シロー「もちろんだ、頑張ったら褒めてやるぞ。」
やよい「本当ですか!うっうー、これからもお掃除頑張っちゃいまーす!」
シロー「はは、掃除だけじゃなくてアイドルとしても頑張ってくれよ!」
やよい「はーい!あ、こんな時間!じゃあ、プロデューサー、私帰ります!」
シロー「おう、気をつけて帰れよ!」
やよい「おつかれさまでしたー!」
バタン――
シロー「ホント、元気な奴だな…。」
シロー「しかし…綺麗にするとやっぱり気分がいいな。ふぁーっ……。」
―――――
やよい「え、お掃除の当番表ですか?」
シロー「そうだ。やよいばかりに掃除させちゃ悪いからな。」
シロー「スケジュールの合間の時間に、簡単にでいいから掃除してもらうんだ。俺たちも掃除するからな。」
シロー「本当はアイドル以外の人間だけで掃除出来ればいいんだがな…。」
シロー「これだったら、やよいが居ない時でも事務所は綺麗なままだ!もちろん、オフ以外だったら当番じゃなくても掃除していいぞ!」
シロー「みんなにはこれから頼むんだけど、やよいは協力してくれるか?」
やよい「はい!協力しちゃいますよー、うっうー!」
やよい「……でも、プロデューサーに褒めて貰える回数が減っちゃうのはちょっと残念かなーって。」
シロー「…どうした?」
やよい「なんでもないです!」
―――――
―――
―
『――だから俺たちが教えてやるのさ、程々にな。』
シロー「…やっぱキャプテン・ジョーは良いな。」
「ちょっとプロデューサー!」
シロー「うわっ!……律子か…血相変えて一体どうしたんだ?」
律子「血相だって変わります!この書類、記入ミスが3カ所ありました。直ぐに訂正してください!」
シロー「マジか…すまない、直ぐに直す!」
律子「まったく…そのセリフは昨日も聞きました。それに勤務中にDVDを観るのは辞めてください!」
シロー「うるさいなあ…今は休憩時間だろ?」
律子「えっ…?やだもうお昼じゃない!」
シロー「まったく…お前も時間管理くらいしっかりしろよな。」
律子「……どっかの誰かさんのおかげで余計な仕事が増えましてね、こっちは昼食を取るヒマすらないんです。」
シロー「……悪かったな。事務処理も外回りも満足に出来ない新米プロデューサーで。」
律子「そう思うなら、早く仕事に慣れてください!」
シロー「分かったから耳元で怒鳴るなよ!」
律子「…………本当はもっと真面目で一生懸命だって知ってるんだから。」
シロー「…ん?何か言ったか?」
スパンッ――
律子「な、なんでもありません!さっさとその書類訂正して持ってきてください、いいですね!」
シロー「…いってーな、ったく。」
―――――
シロー「シロー・アマダ、書類を持って参りました。」
パサッ――
律子「うん…よし。以後、このようなことが無いように!」
シロー「ハッ。」
ピシッ――
律子「…それ、嫌みのつもりですか?」
シロー「いえ。決してそのようなことは。」
律子「あーもう、さっき叩いたことは謝りますから!」
シロー「……結構痛かったんだぞ、アレ。いくら後輩相手でも酷くないか?」
シロー「だが、ミスをしたのは俺だからな。本当にすまなかった、律子。」
律子「…私も、ちょっと言い過ぎました。ここのところ忙しくて、ついイライラしてたから……。」
律子「ホント、ごめんなさい!」
シロー「律子が気にする事じゃないだろ、俺がもっとしっかりすれば良いだけ――」
律子「それだけじゃないんです!」
シロー「…え?」
律子「プロデューサーが初めてここに来た日……。」
律子「私がスケジュール調整をミスしてダブルブッキングしなければ、いきなりオーディションになんて…。」
律子「それにあずささんの時だって、私がもっと注意していればあんな事にはならなくて済みました。」
律子「事務所の掃除もやよいに甘えて任せっぱなしで…。」
律子「プロデューサーがみんなに協力を仰いで掃除の当番表を作ったのを知ったときは、正直恥ずかしかったです。」
律子「それなのに…人のことなんて言えないですよね。ホント、私はプロデューサー失格です。」
シロー「じゃあ…律子がプロデューサー失格だったら、俺もプロデューサー失格だな。」
律子「そ、そういう意味で言ったんじゃ……!」
シロー「俺たちは個人で動いてるんじゃない、765プロというチームで動いているんだ。」
シロー「今まで俺のミスは律子がフォローしてくれたんだろ?だったら逆も同じだ。」
シロー「律子のミスは俺のミスでもある。プロデューサーは一人だけじゃないんだ、お互いに助け合って行けばいい。」
シロー「俺だって簡単な仕事くらいなら出来る、だからもう少し仕事を振ってくれてもいいだろ?」
律子「プロデューサー……。」
シロー「まあ、さっきもミスした俺が言えた事じゃないよな…はは。」
シロー「俺もこれからは気をつける、だからもう過ぎた事は気にするな。って…お前、泣いてるのか?」
律子「……泣いてません!それに、これじゃあまるで私の方が後輩みたいじゃないですか……。」
シロー「…一応歳だったら俺の方が上だぞ?」
律子「2、3年早く産まれたからってキャリアには全然関係……って女性に歳の話を振らないでください!」
シロー「分かった、悪かった!だから叩くな!」
シロー「ったく…そんな顔より、さっきの泣き顔の方がずっとかわいいのにな。」
律子「っ!この……バカプロデューサー!」
パシン――
―――――
ドサッ――
律子「プロデューサー殿。これを今日中にお願いしますね。」
シロー「いくらなんでも多すぎじゃないか?」
律子「プロデューサーは助け合い、ですよね?それでも私の仕事の半分ですよ。」
シロー「冗談キツイな……。今日は昼休みナシか…。」
律子「それと、15時にはやよいの送迎がありますからね!」
シロー「わかったよ!今日中に片付ければいいんだろ…ったく!」
律子「文句言わないでください!プロデューサー殿が来てから、仕事が増えたんですから。」
シロー「…人を死神みたいに言うなよな。」
律子(プロデューサー殿が来てから、アイドル達が前よりも積極的にレッスンやオーディションに臨むようになった…。)
律子(仕事も少しずつではあるけれど増えてきている。)
律子(これもプロデューサー殿のおかげです。)
シロー「おい、どうした律子?」
律子「いえ…プロデューサー殿、今日も頑張りましょう!」
シロー「あ、ああ。よーし!」
シロー「……鼻持ちならない律子め、見てろよ!」
律子「聞こえてます。」
―――――
―――
―
思いつきで書いた分はこれで終わりです、読んでる人が居たら明日にでも。
これは961ぷろにアイナがいるパターン
シロー「生きて!アイナと添い遂げる!」
黒井「スキャンダルだからやめろ」
今更だけど、シローの小説版要素はキャプテン・ジョー程度かと。OVA前後半、そして小説版と微妙に言動も違うことを痛感。
出来るだけライトに行きたいけど、落としどころをどうするか結構難しいですね。ご期待に添えられるかは激しく謎。
とりあえず今日の分どうぞ。
―――――
―――
―
シロー「俺に頼みがある?」
千早「はい、新曲のことについてですが…。」
シロー「新曲って…レコーディングは明日だろ?」
千早「ええ…ですから、レコーディングを延期して欲しいんです。」
シロー「延期って、お前なあ…もう予定は組んじまってるんだ。それにスタジオやスタッフにも今更…。」
千早「ですが、このままでは歌えません。」
シロー「…具合、悪いのか?」
千早「……。」
シロー「……曲のことで何か悩みでもあるのか?」
千早「……。」
シロー「……あーっ!頭に来るなあ!」
千早「…すみませんでした、もう、いいです。」
シロー「ちょっと待て。千早、確か今日はオフだったな?」
千早「…そうですが、それが何か?」
シロー「この後、予定はあるのか?」
千早「……トレーニングをしようと。」
シロー「よし、決めた!出かけるぞ!」
グイッ――
千早「プ、プロデューサー!?出かけるって何処――」
シロー「ピクニックだよ、ピクニック!」
千早「そんな事をしている暇は……!第一、プロデューサーの仕事はどうするんですか!」
シロー「これも立派なプロデュース業だよ。ほら急ぐぞ、日が暮れちまう。」
千早「ちょ、ちょっと…人の話を……!」
―――――
千早「はあ…プロデューサーは強引な人ですね。」
シロー「お互い様だ。ダンマリ決め込まれちゃ、こっちも困るからな。」
千早「それは……。」
シロー「どーせ、このプロデューサーには歌のなんたるかは分からない。とでも思ったんだろ?」
千早「……。」
シロー「まあ、確かに俺は歌は下手だし、歌のことなんてお前達ほど分かっちゃいないよ。」
シロー「でもな、俺は千早のプロデューサーだ。困ったことがあれば相談に乗るし、出来るだけサポートするつもりだ。」
シロー「…下手には下手なりのやり方があるんだよ。」
千早「そうですか…。」
シロー「…ったく、着いたぞ。」
―――――
千早「プロデューサー、山なんか登って、何の意味があるんですか?」
シロー「…さあな、俺にも分かんないよ!」
シロー「ただ、ここにお前を連れて来たかった。それだけだ。」
千早「…正直、言ってる意味が分かりません。」
シロー「だったらついて来る必要無かっただろ。」
千早「勝手に連れて来ておいてそれですか。」
シロー「…お前がちゃんと話をしてくれりゃ、ここまでは来なかったぞ。」
シロー「……見えた。千早、行くぞ!」
千早「ちょ、ちょっと引っ張らないでください!」
―――――
シロー「ここが俺の秘密のスポットだ!」
千早「ただの展望台ですけど。」
シロー「まあな。ここは良い場所だぞ?都会の喧騒とは無縁だし、なにより空気が美味い!」
千早「…景色も綺麗ですね。」
シロー「だろ?ここでこうやって街を見下ろしてから、寝転がって空を見るんだ。」
シロー「なーんか、自分が悩んでたこととか全部吹き飛ぶんだ。不思議だよな…。」
千早「だから私の悩みも吹き飛ぶと?」
シロー「ま、まあそう思った部分もあるけど…。」
シロー「空気が美味い、って言ったろ?都会の空気とは違う、ここで歌えば、何かつかめるんじゃないかって。」
シロー「ちょっと臭いセリフだったかな、ははは…。」
千早「プロデューサー…。」
シロー「お前が何を悩んでるのかも分かってやれなかった…俺には、これくらいしかしてやれないからな。」
千早「……。」
千早「……すぅ。」
♪~
シロー「千早…。」
シロー「……綺麗な声だ。」
―――――
千早「今日はすみませんでした、プロデューサー。」
シロー「いや、俺の方こそ悪かった。無理矢理連れ出したり。八つ当たりみたいな真似して……。」
シロー「…なあ?」
千早「はい。」
シロー「明日のレコーディング、もし千早が調子悪いなら俺の方からなんとか別の日に出来ないか頼んでみるが……。」
千早「大丈夫です。私、歌います。ですから心配しないでください。」
シロー「そうか…、分かった。……ここで良いか?」
千早「はい、ありがとうございました。ではまた明日。」
シロー「ああ、また明日な。」
バタン――
シロー「…少しは元気になってくれたか?俺もまだまだだな。」
シロー「さて、戻ったら律子のカミナリが待ってるぞ……。」
―――――
「…んっふっふ~、見ましたぞ。コレはスキャンダルの香りですなあ!」
―――――
―――
―
小鳥「…さて、私はちょっとコンビニへ行ってきますけど何か欲しいものはありますか?」
シロー「そうだなあ…じゃあコーヒーをお願いします。」
小鳥「いつもの奴ですね?では、音無小鳥、行ってきます!」
ビシッ――
シロー「……すっかりネタにされちまったな。」
ガチャ――
「おっはよ→」
小鳥「おはよう亜美ちゃん。」
亜美「お、ピヨちゃんどっか行くの?」
小鳥「お昼まだだったから、ちょっとコンビニにね。」
亜美「ふ→ん…気をつけてね→!」
小鳥「はい、じゃあお留守番よろしくね。」
バタン――
亜美「おはよ→ございます、隊長!」
ビシッ――
シロー「…おはよう亜美。なあ、それやめてくれないか?」
亜美「え→!何でだYO!みんなやってるじゃん!」
シロー「…正直恥ずかしい。」
亜美「大丈夫、シューチジなんて初めの内だけだから!」
シロー「羞恥心、だろ。難しい言葉を覚えた上に使い方も間違ってないのは褒めてやる。」
亜美「亜美はやれば出来る子なのです!もっと褒めてくれても良いんだYO?」
シロー「ちゃんと読み方覚えられたらな。」
亜美「む→……っと、そうだった。ねえ兄(C)?」
シロー「なんだ?」
亜美「下の駐車場にあるナイスな車って兄(C)のだよね?」
シロー「あ、ああそうだ。中古だけど、奮発して買ったんだ。」
亜美「ほほ→、ゼ→タクですなあ?」
シロー「うっ…、前から欲しかったんだよ……。」
亜美「亜美も乗りたいな→?」
シロー「ダメだ。あれは会社の送迎に使う車じゃないんだ。」
亜美「……千早お姉ちゃんはいいの?」
シロー「お前っ…なんでそれを!」
亜美「んっふっふ~!乗せてくれないと……。」
亜美「あ・の・こ・と♪みんなにメ→ルしちゃおっかな~?」
シロー「それだけはやめろ!お前がメールしたら誤解どころじゃない!」
亜美「じゃあ決定だね!」
シロー「…はあ、亜美ってこんな奴だったか…?」
亜美「兄(C)、早く行こうYO!」
シロー「い、今からか!?」
亜美「だって亜美今日お仕事だし。」
シロー「…あーもうしょうがないな。ちょっとだけだぞ!」
亜美「やった→!」
―――――
シロー「ちゃんとシートベルトしろよ。」
亜美「これがスポ→ツカ→というやつですか!」
シロー「まあな。…軽くその辺回るだけだぞ。」
亜美「分かってますって→!発進→!」
―――――
亜美「あ→楽しかった!」
シロー「…結局、高速まで走らされるなんてな。はは、ガス代が痛い…。」
シロー「ほら、満足だろ?」
亜美「うん!ありがとね、兄(C)!」
シロー「まったく…乗せてやったんだから、絶対に言いふらすなよ!」
亜美「オトコ同士の約束、だもんね!」
シロー「……この場合は脅迫まがいの取引だろ。」
―――――
春香「プロデューサーさん!あの白いスポーツカー、プロデューサーさんのだったんですか!?」
シロー「お前達!?なんでそれを…。」
美希「ハニー!亜美ばっかりずるいの、ミキも隣に乗りたいの!」
シロー「亜美!お前絶対に言いふらすなって約束したろ?」
亜美「亜美が乗った事は約束してないYO?」
シロー「なっ…お前なあ!」
美希「『亜美が』って、他に誰を乗せたのハニー!」
春香「わ、私だって乗りたいですよ!」
律子「プロデューサー殿。少しお話が……。」
―――――
―――
―
3日くらい寝てました、すんません。今日中にキリの良いところで終わらせます。
―――――
シロー「…スコップ一本で温泉を掘り当てるなんて……。」
シロー「雪歩、お前スゲーよ!」
雪歩「そ、そんな……あ!プロデューサー、と、とにかく手を!」
シロー「分かった…っと。」
シロー「くぅっ…手がチクチクする。」
雪歩「ふふ、我慢してください。血行が戻ってきた証拠です。」
シロー「…たく、どっかで聞いたようなセリフだな…。」
シロー「しっかし…服も濡れちまったし、このままじゃ風邪どころじゃすまないな……。」
雪歩「あ…あ、あの!プロデューサー…お、お風呂……入りません…か?」
―――――
シロー「……うわあっ!」
シロー「…夢、だよな。なんて夢見たんだ俺は。」
シロー「ん…ああっ!完全に寝坊だ!」
―――――
シロー「このままじゃ間に合わない…それなら、近道だ!」
―――――
シロー「ふぅー。これなら余裕で間に合うな。」
シロー「しかし、この道…いつも空いてるな。通勤時間だって言うのに…。」
シロー「ま、どうみても表の仕事じゃない人間の屋敷が建ってるんじゃ、近寄る訳ないか。はははっ。」
シロー「お?噂をすれば……。ホント、でっけーよなあ…。」
―――――
ガチャ――
シロー「おはようございます。」
「あ、プロデューサー。おはようございますぅ。」
シロー「お、今日は雪歩がアイドル一番乗りか。」
雪歩「はい、いつもより早く起きちゃって…あ、今お茶淹れますね。」
シロー「ああ、すまない。俺は雪歩と逆で寝坊してな、大変だったんだぞ?」
雪歩「プロデューサーは頑張りすぎなんですぅ、ちゃんとお休み取ってるんですか?」
シロー「ここんとこ、忙しかったからなあ…。ま、それも今日のライブの為!」
シロー「なんてったって、初の765プロ所属アイドルオールスターだ。」
シロー「お前達が最高のパフォーマンスをしてくれりゃあ、疲れなんて吹き飛ぶさ!頼むぞ、雪歩。」
雪歩「はい!」
ガチャ――
律子「…おはようございます。」
シロー「おはよう…律子、お前大丈夫か?」
律子「ええ…ただ昨日のリハの後、本番の準備と確認をしていたら遅くなって……。」
シロー「だからって、最近オーバーワーク気味だぞ。無理するなよ、今日は竜宮小町がメインなんだ。お前に倒れられたら困る。」
律子「少なくとも、最近のプロデューサー殿よりは休んでますので。」
シロー「俺は鍛えてるからこれくらい大丈夫なんだよ。」
律子「…そうですか。」
雪歩「ふふ、でもプロデューサーだって、今日寝坊したじゃないですか。」
律子「…はあ、全くこの人は。」
シロー「い、言うなよ…。」
シロー「とにかく!律子は時間まであっちで仮眠していろ、いいな?こっちで出来る準備は俺がやっておく。」
律子「…分かりました、プロデューサー殿のお言葉に甘えます。」
雪歩「…いつの間にかプロデューサーと律子さんの立場が逆転してますね。はい、お茶です。」
シロー「サンキュー。…そう見えるか?」
雪歩「見えますよぉ。はじめの頃はいつも律子さんに怒られてばかりだったじゃないですかぁ。」
シロー「あれはなかなかにキツかったなあ…。そのおかげで俺もなんとか出来るようになってきたからな、感謝してるよ。」
シロー「…よし!眠気覚ましに仕事だ、仕事!」
―――――
律子「はい、そこまそのままで…ファンの入場も予定通りに。…はい、お願いします。」
ピッ――
律子「…とりあえず、今のところ予定通りね。」
響「律子ー、ちょっとこっち手伝って欲しいぞー!」
貴音「私が手伝いましょう、響。さあ、後ろを向いてください。」
春香「千早ちゃん、そこのポーチ取ってもらえる?」
千早「これね…?はい。」
律子「こっちもなんとかなりそうね…。」
雪歩「うぅ、き、緊張してきましたぁ…。」
真「大丈夫だよ、昨日のリハーサルだってばっちりだったじゃないか!雪歩なら絶対出来る!」
雪歩「そ、そうだね。…真ちゃん、私頑張る!」
真美「真美達も居るからね!」
雪歩「うん!」
亜美「ねえ、律ちゃん!」
伊織「律子、私たちの衣装が無いんだけど何処に入れたのよ!」
律子「それならそこのキャリーの中にあるって言ったじゃない。」
伊織「…そのキャリーバッグが無いから聞いてるのよ!」
律子「そんなことは無いわ、確かに……。」
律子「……無い!みんな、ちょっと!銀色のキャリー知らない!?」
響「ん?見てないぞー。」
美希「ミキも知らないの。」
春香「じゃあ、車の中に忘れてるとか?」
真「いや…車の中は、みんなで荷物を降ろした時にチェックしたから。」
やよい「私も覚えてる!」
千早「ここに来る前も、プロデューサーが荷物のチェックをしていたはずです。」
雪歩「はい、朝事務所でプロデューサーと確認したときはちゃんとありました。」
伊織「…まさか、アンタ事務所に忘れてきたんじゃ…?」
律子「……で、でも確かに確認したはず……。」
あずさ「伊織ちゃん、律子さんに限ってそんな事はないと思うけど…。」
伊織「荷物の積み込みをしたのは律子じゃない、だったら十分可能性はあるわよ!」
律子「…ごめんなさい、きっと伊織の言うとおりだと思う。私がうっかりしていたばっかりに……。」
亜美「じゃあ亜美達の衣装は……。」
律子「…きっと事務所にあるわ。」
伊織「どうするのよ!竜宮小町の出番は最初なのよ!このままじゃせっかくのライブが台無しじゃない!」
あずさ「落ちついて、伊織ちゃん!」
律子「……本当に、ごめんなさい。」
伊織「…っ!謝ってる暇があるならさっさとなんとかしないさいよ!」
律子(開演まで後3時間も無い…。今から取りに戻ったとしても、とてもじゃないけど開演までには間に合わない!)
律子(一体どうすれば……どうすればいいの?)
伊織「黙ってないでなんとか言いなさい!アンタ私たちのプロデューサーなんでしょ!?」
律子「……。」
美希「なんか、ヤな感じなの……。」
真「でも、確かにこのままじゃ…。」
雪歩「私のせいです…朝私が確認した時にもっと目立つところにまとめて置かなかったから……。」
千早「それは違うわ、萩原さんは何も悪く無い。」
響「それよりどうするのさ、本当に忘れてきたんなら竜宮小町の衣装…代えも全部事務所にあるんだぞ?」
貴音「それなら、取りに戻ればいいだけの事です。」
亜美「でも、今からじゃ間に合わないYO!」
貴音「…大丈夫です、それでもあの方なら。」
バタン――
シロー「律子!一体何があったんだ!」
律子「プ、プロデューサー…。」
シロー「社長やスタッフと打ち合わせしていたら、真美からメールが届いてな。」
シロー「律子と伊織が大変だからとにかく来てくれってさ。」
真美「いおりんが怒った時、お姫ちんが兄(C)に知らせて、って。真美、だから…。」
貴音「この場は、あなた様のお力が必要になると思いましたので。」
シロー「そうか…二人ともよく知らせてくれた。とりあえず事情を説明してくれないか。」
律子「はい、実は――」
―――――
シロー「…そうだったのか。正直、かなり不味い事になったな…。」
律子「プロデューサー、みんな…私のせいで…本当に……すみません。」
伊織「本当よ!このままじゃ、律子のせいで全部おしまいになるわ!」
シロー「やめろ伊織。今はそんな事を言ってる時じゃない。」
シロー「それに、衣装の事なら俺の責任だ。あっちでの準備は俺が引き継いでやっていた。」
シロー「みんな、すまなかった。」
伊織「…な、なんでプロデューサーが謝ってるのよ!元はと言えば律子が悪いんじゃない!」
伊織「竜宮小町は律子の担当なのよ!それなのに他に仕事押しつけて、責任逃れも良いところじゃない!」
伊織「自分が受け持った仕事なんだから最後まで責任とりな――」
パンッ――
伊織「…………!」
律子「…プロデューサー!」
あずさ「ぷ、プロデューサーさん!」
春香「今のはいくらなんでも酷すぎです!」
亜美「に、兄(C)怖いよ……。」
美希「ハ、ハニー……。」
響「いきなり伊織を打つことなんてなかったぞ!」
シロー「……。」
伊織「…な、なによ……アンタ、私が悪い…って言うの!」
シロー「…ああ、そうだ。俺と律子にも責任はあるが、お前だってそうだ。」
伊織「…っ!」
真美「そんな、兄(C)!横暴だよ!確かにいおりんはちょっと言い過ぎだったけど、だからっていおりんが悪いだなんて!」
貴音「あなた様…。」
シロー「伊織だけじゃない、あずささんや亜美にだって責任はある。」
亜美「…え?」
あずさ「……。」
シロー「確かに竜宮小町は、お前達3人のユニットだ。だが…。」
シロー「お前達が竜宮小町として活動出来るのはお前達だけの力か?」
シロー「新しい仕事を持ってきたり、ライブやフェスの準備をしてくれているのは誰だ?」
シロー「送り迎えやスケジュールの細かい調整をしてくれているのは誰だ?」
伊織「そ、それは……。」
あずさ「…律子さんです。」
亜美「…だよね。」
シロー「確かに表だって活動する竜宮小町としてはお前達だ。だが、その裏ではいつも律子が必死に戦っているんだ。」
シロー「そんな律子をたった一つのミスだけで責め立てる事が出来るのか?」
伊織「……。」
亜美「出来るわけ…ないじゃん。亜美が悪戯してテレビ局の人に迷惑かけちゃったりしたら、一緒に謝ってくれたもん。」
あずさ「私が道に迷って遅刻しそうになったときも、なんとかフォローしてくれてましたね。」
亜美「うん、律ちゃんが居なかったら亜美達だけじゃ何にも出来ないね…。」
シロー「お前達竜宮小町は3人だけじゃない、律子も入れた4人のチームなんだ。」
シロー「チーム一人のミスは、他のみんなでカバーすればいい。」
シロー「それと、お前達はトップアイドルを目指しているんだろ。」
シロー「だったら、自分たちの衣装ぐらい自分たちで責任を持って管理出来るようになれ。」
シロー「イスに座ってふんぞり返っているだけで、トップアイドルになれると思うな。」
シロー「そう考えていた部分があったから今回のようなことが起こる。厳しいようだが、これが現実だ。」
伊織「……。」
あずさ「…律子さん、私…少し甘えすぎていたみたいです。」
亜美「律ちゃん、ごめんなさい。亜美がちゃんとしてないから…。」
律子「私の方こそ…ごめんなさい。今一番辛いのはあなた達なのに、とても辛い思いをさせて……。」
伊織「……ごめんなさい。」
律子「伊織…。」
伊織「ちゃ、ちゃんと謝ったんだからね!つ、次からは気をつけなさい!」
律子「伊織の言う通りよね…私がプロデューサーとしてしっかりしていないから……。」
伊織「コイツの言ってた事全然分かってないわね!何でも一人で抱え込むなって言ってるのよ!」
伊織「アンタが毎日夜遅くまで今日の準備していたことくらい知ってるんだから…!」
伊織「忘れ物するくらい疲れてるんなら……言いなさいよ…自分の…衣装くらい…ちゃんと…持て…るんだか…ら……!」
律子「伊織……私も知らないうちにあなた達に甘えていたのね。ごめんね……。」
伊織「っ…バカ……なんで泣いてるのよ……。」
律子「…ふふ、伊織だって…泣いてるじゃない……。」
伊織「う、うるさいわね…っ!打たれたんだから…痛くて泣いてるのよ…!」
シロー「……悪かったよ。」
伊織「…あ、謝るんなら責任取りなさいよねっ!乙女を傷物にしたのよ、命がいくつあっても足りないんだから…!」
伊織「律子と一緒に、必ず…必ず私をトップアイドルにしなさい!これは命令よ!」
シロー「…ああ、約束する!」
「…うおっほん!なんとか話もまとまってきたようだね。」
シロー「しゃ、社長…!」
高木「だが我々にはもう一つ、乗り越えなければならない壁があるんじゃないかね?」
亜美「…そうだ、亜美達の衣装!」
高木「今から取りに戻るとしても、代わりを探すにしてもとてもじゃないが開演には間に合わないだろう…。」
高木「それどころか、ライブ中に間に合うかも……。」
伊織「…社長!私が取りに戻ります、私たちのせいで他のみんなに迷惑を掛けているんです。」
伊織「それに、自分たちの衣装くらい自分たちで管理出来なければアイドル失格です。」
高木「伊織君…。」
伊織「お願いです!私に取りに行かせてください!」
律子「社長、私からもお願いします!元はと言えば全て私の責任です、ですから彼女と一緒に私も……。」
伊織「いえ、律子はダメよ。」
律子「でも伊織一人じゃ……。」
伊織「私がいつ一人で行くって言ったのよ?コイツが居るじゃない。」
シロー「は?」
伊織「あの貴音が、なんの考えもなしにアンタを呼ぶなんてありえないでしょ!」
真美「そっか!お姫ちんが言ってた兄(C)の力が必要だ、って…。」
貴音「…気がつきましたか。」
春香「もしかしてプロデューサーさんの車!?」
伊織「そう、プロデューサーの車はウチの事務所で一番速い。それに、コイツは運転だけは上手いから。」
亜美「道が混んでる時の近道もバッチリだもんね!」
やよい「プロデューサー、前に言ってました!いつも1時間以上掛かる道を20分くらいで来た、って!」
千早「それって、一歩間違えばスピード違反ですよね…。」
シロー「あのなあ…。」
伊織「とにかく時間が無いからさっさと戻るわよ!」
高木「…この危機を乗り切るには、やはりキミに頼むしかないようだ。行ってくれるかね?」
シロー「ハッ!」
ビシッ――
律子「すみません、プロデューサー殿…こんなことを言える立場ではありませんが、お願いします!」
シロー「前にも言ったろ。俺たちは一人で動いているんじゃないんだ、それにお前の負担を減らせなかった俺のせいでもある。」
シロー「とにかく、律子はここでみんなのフォローを頼む。すまないが、開演までには間に合わないだろう。」
シロー「小鳥さんや、スタッフにも事情を説明して俺たちが戻るまでの間を繋いでくれ。」
シロー「亜美とあずささんは公演中、楽屋で残りのメンバーのバックアップを。しばらくは裏方に回って貰うが…いいな?」
亜美「亜美達にまっかせて!だから兄(C)はいおりんと一緒に衣装を頼むぜぃ!」
あずさ「はい。プロデューサーさん達も、お気を付けて。」
シロー「よし…みんな、聞いてくれ!」
シロー「今俺たちは、重大な危機に直面している!」
シロー「だが、この危機を乗り越えた時、お前達はアイドルとしてさらなる高みに登ることになるとができるはずだ。」
シロー「そのためには…765プロ全員の力を一つにしなければならない!」
シロー「それぞれ思うところはあるかもしれないが、今はみんなの力が必要だ。」
シロー「…必ず戻る!少しの間…なんとか持ちこたえてくれ!」
「了解!」
ビシッ!
シロー「お前達……。」
春香「プロデューサーさんの真似してやってましたけど、こんなところで役に立っちゃいましたね。」
貴音「あなた様、伊織殿…ご武運を。」
響「自分は完璧だからこんなことくらいじゃ何ともないさー!」
千早「二人が戻るまでの間、どんなことがあってもやりきってみせます。」
雪歩「ですから、心配しないでください!」
真「プロデューサー、ボクも頑張ります!」
やよい「うっうー、帰ってきたらハイターッチ、ですよー!」
亜美「ほらほら兄(C)さっさと行った!」
真美「時間は待ってくれないのですぞ→!」
美希「ハニーなら絶対大丈夫だって信じてるの!でこちゃんも!」
あずさ「伊織ちゃん、プロデューサーさんに迷惑かけちゃダメよ?」
律子「私も、この子達も、やれることは全てやるつもりですから!」
シロー「…ああ!行くぞ伊織!」
伊織「分かってるわよ!アンタがボサッとしてるんじゃない!」
高木「…念のために。彼女たちの体力等を含め最大限考慮しても、開演から1時間。」
高木「それ以上は、いくら彼女たちやキミが何と言おうと容認はできない。ライブを中止にせざるを得なくなる。」
高木「くれぐれも気をつけてくれ。」
シロー「ハッ!」
ダッ――
―――――
伊織「…とりあえず、事務所までのルートはどうするのよ?」
シロー「この時間だったら、大通りを通っていっても問題ないだろう。」
伊織「問題は戻りね。間違い無く夕方のラッシュでどこも渋滞するわ。」
シロー「それなら俺に考えがある。よく通勤に使ってる近道があるんだ、少し迂回する形になるけど…そこを通れば半分の時間で戻れるはずだ。」
伊織「ちゃんと考えてたのね…やるじゃない。」
シロー「お前達の送迎にも必要だし、何より毎回あずささんを探し回ってるからな。いろいろ覚えておかないと困るんだよ。」
伊織「…ふーん。」
伊織「そういえば、さっきから思ってるんだけど、なんでカーナビ使わないのよ?」
シロー「ああ、この前真美がジュースこぼして壊れちまったんだよ。…ったく。」
伊織「何やってんのよアンタは…。」
シロー「しょうがないだろ、まさか亜美と同じ手を使ってくるなんて思ってもみなかったんだから…。」
伊織「バカね。」
―――――
律子「じゃあ、もう一度確認するわね。」
律子「トップバッターは春香と千早で。」
春香「はい、任せてください!」
千早「わかりました。」
律子「2曲目まで終わったらそのままトークだけど…途中でやよいも入れて3人に。3曲目はやよいのソロね。」
やよい「責任重大です、うっうー!」
律子「それから――」
―――――
シロー「着いたぞ。」
伊織「案外早かったじゃない!これなら開演にも間に合いそうね。」
バタン――
シロー「伊織はここで待機してくれ。直ぐに取ってくる!」
伊織「分かったわ!」
―――――
シロー「…あった!中身は…よし、間違い無い。待ってろよみんな!」
―――――
伊織「遅い!何してるの!」
シロー「悪い!」
バタン――
シロー「っと…なんとかシートの後ろに収まってくれたか。」
シロー「よし、行くぞ!」
―――――
伊織「ここがアンタの言ってた近道…?」
シロー「そうだ。なぜかほとんど車も通らないから、いつも助かってるんだ。」
伊織「それ、間違い無くこの長く続く如何にもな塀と関係あるわよ…。大丈夫なの?」
シロー「ま、まあ今まで一度も問題なかったし……今度も大丈夫だろ!」
伊織「はあ…。」
ガンッ――
シロー「うわっ!何だ?」
キキーッ――
伊織「い、今何かぶつかったんじゃない……?」
シロー「いや…どうやらぶつけられたみたいだ。」
伊織「それってまさか……。」
シロー「……いいか、伊織。絶対に鍵を外すな、窓もだ。」
伊織「…ええ。」
シロー「…来た!」
ドンッ――
『おいコラ!兄ちゃん、ちょっと降りな。』
シロー「……直ぐに戻る、そこで待ってろ。何があっても動くなよ?」
ガチャ――
―――――
バタン――
シロー「俺に何か用ですか?」
「兄ちゃん、最近よくここの前を通るよな。何のつもりだ?」
シロー「それはただ、通勤する時にたまたまここを通ってるだけです。」
「嘘付いてんじゃねえよコラ!てめえ、何処の組のモンじゃボケ!」
シロー「俺はカタギだ、ヤクザじゃない。」
バキッ――
シロー「…ぐっ!」
「兄ちゃん、嘘付いてると為にならねえぜ…ん、コイツが落としたの……名刺か?」
シロー「よく見ろ、俺はただの一般人だ。」
「765プロダクションプロデューサー……だと!?」
シロー「だから言っただ――」
ドゴッ――
「…てめえっ!生きて帰れると思うんじゃねえぞ!」
「…おう、ちょっと誰か寄越してくれねえか。それと兄貴にも連絡だ。」
―――――
伊織「ちょ、ちょっとアイツ殴られて…!」
伊織「急いで警察に――」
コンコン――
伊織「ひっ!」
『おい嬢ちゃん、下手なことしない方がいいぜ。これは大人の問題だ。』
『嬢ちゃんのせいであの兄ちゃんが二度と口を聞けなくなってもいいってんなら、話は別だがな。』
伊織「あ……あ、アンタ達!アイツが何したっていうのよ!」
『アイツが…お嬢を……っ!』
伊織「お、お嬢…?」
『お嬢を…っ、クソッ!』
ガンッ――
伊織「ひ!」
『お嬢は萩原組の…親分の大事な一人娘だって言うのに!』
『それを……ゲスが!』
ガンッ――
伊織「あ、あんた絶対今変な想像してたでしょ!……え?」
伊織「…今……萩原組、って……。」
―――――
「親分、こいつですぜ。最近家の周りをうろついていた奴は。」
ドサッ――
シロー「…っ……!」
「親分の前だ、粗相の無いようにな。」
シロー「…あ、アンタがここの組長か。」
組長「…765プロダクションとやらのプロデューサーさんが家に何か用かな?」
シロー「無断でアンタの家の前を通ったことは謝る!俺は今大事な仕事中なんだ。」
シロー「早く彼女たちに衣装を届けないと……がっ…!」
「おっと、動くんじゃねえよ!下手な真似したら外のお嬢ちゃんも一緒に魚の餌だぜ?」
「お嬢だけじゃなく…あんな小さい娘にまで手を出しているなんてな…お前、ロリコンか?」
シロー「なっ、…ふざけるな!彼女はウチの大事なアイドルだ!それに…お前達のお嬢になんか会ったこともない……いい加減に…っ!」
ドガッ――
「すんのはおめえだよ!」
「それに…お嬢に会ったこともないなんて、そんなわけ無いだろ!ええ?プロデューサーさんよ!」
シロー「だから……本当に知らないって言ってるだろ!」
「…おめえ、ここがどこだか分かってんのか?」
シロー「…ヤクザの組長の家……だろ。」
「ああ、萩原組の組長のな。」
シロー「…萩原組……萩原…萩原ってまさか!?」
組長「いつも、ウチの娘がお世話になってますなあ、プロデューサーさんよ。」
シロー「…ここが雪歩の家で……そこの組長が雪歩のお父さん…?」
「おめえ、本当に知らなかったんだな…。」
シロー「最初からそう言ってるだろ!…だったら、早く離してくれ!今俺が行かないと雪歩達が――」
ドッ――
「お嬢に何しやがった!?てめえ!」
シロー「…うっ……!」
ガッ――
「お嬢に何かあってみろ、おめえをぶち[ピーーー]ぞ!」
「その優男面でお嬢を誑かしやがって…!」
シロー「…お、お前達が想像しているようなやましいことは何もしていない……。」
シロー「…ゆ、雪歩はアイドルになって…自分を変えたいって……そう言ったんだ。」
シロー「だから…俺はそんな雪歩の夢を叶えてやるって、約束したんだ。」
シロー「もし俺が間に合わなければ…雪歩の夢がまた遠くなる!雪歩の悲しむ顔は、アンタ達だって見たくないだろ!」
ドガッ――
組長「……こちとら芸能界なんて汚いところに大事な一人娘を放り込まれちまったんだ…。」
組長「それに…今のお前さんの話だと、お前さんのせいで雪歩に難儀を掛けていることになる、違うか?」
組長「親としてはな…そういうのは許せない。ってのも分かるはずだ。」
シロー「…確かに、俺の責任で今雪歩にも迷惑を掛けている……だから!俺はこれ以上……はっ!もうライブが始まってる……クソッ…!」
―――――
バタン――
伊織「ちょっとアンタ!」
「なんだ、嬢ちゃん。今お前の汚い彼氏は親分と大事なお話をしてるって……。」
伊織「だまりなさい!私を誰だと思っているのよ?私は雪歩の親友なのよ!」
「お、お嬢ちゃんが雪歩お嬢の親友だって…そういってあの兄ちゃんを助けてくれ!って言うんだろ?」
伊織「なら証拠を見せてあげるわ!……雪歩に、電話してもいいでしょ?」
―――――
やよい『はわっ!その話は内緒だって言ったじゃないですかー!』
貴音『あら、そうでしたか?…それは失礼。』
響『自分もうっかりしてたぞー!』
やよい『うぅーひどいですよー!だったら貴音さんがこのまえプロ――』
貴音『いけません!つい、手が……。』
響『…さ、さすがにそれはオフレコなんだぞ。』
律子「あの子達…本当に良くやってくれているわ。」
小鳥「ええ、彼女たちのガールズトーク…ウケがいいみたいですね。」
律子「…結構際どい発言も多いですけどね。」
小鳥「プロデューサーが貴音ちゃんとナニしてたのか、ちょっと気になりますねー。」
律子「変なこと言ってないでさっさと戻ってください!」
小鳥「ぴよ…。」
高木「うむ…彼女たちの頑張りもあって、今のところ進行にはほとんど問題は無いな。」
律子「ええ、ですが…そろそろ限界かと。」
高木「何を弱気になっているのかね…と、言いたいところだが。…流石にトークだけで間を持たせるのは無理だろう。」
律子「一応、今日のセットリストにない曲も何曲かは考えています。そのくらいの対応ならあの子達にとって問題はないでしょうが…。」
高木「…みんな、はじめから全力でパフォーマンスをしているからな。やはり問題は、体力面か。」
律子「はい…。」
高木「大丈夫だ、律子君。彼ならきっと、間に合ってくれるよ。」
―――――
「…やはりそういうことか。」
「ん…?なんだよおっさん、もったいぶって。」
「…このライブ、もしかしたら面白いものが見られるかもしれないぞ。」
「…わざわざ出向いてやったんだ、せいぜい楽しませてくれないとな、高木?」
―――――
雪歩「律子さん!次、私が行きます!」
律子「雪歩、あなたはさっき…。」
雪歩「大丈夫です、亜美ちゃんやあずささんのおかげで十分に休めました!」
雪歩「それに…プロデューサーと約束しましたから。戻って来るまではなんとかするって。」
律子「ありがとう。でも、今続けて雪歩が出たら全体のバランスが崩れるわ。」
律子「だから次は他の子に出て貰う…その後にお願いするから。それまでは、楽屋で休んでなさい。」
雪歩「…はい、わかりました。」
律子「もう、こんなときに電話なんて……伊織から!?」
雪歩「え、伊織ちゃんから!?も、もしかして何かあったんじゃ…?」
律子「…もしもし伊織?今どこに…え、雪歩ならすぐ側にいるけどそれが――」
伊織『…いいから早く代わりなさい!急いで!』
律子「わ、わかったわ……はい、雪歩。伊織が代わって欲しいって。」
雪歩「は、はい…。もしもし……えぇ!?それでプロデューサーは……。」
雪歩「伊織ちゃん――」
―――――
シロー「…どう言えば分かって貰えるんだ……。」
組長「娘は俺にとっちゃ命より大事なんだ…その娘をアンタは……。」
シロー「だから人の話を聞いてくれ!このままこうしていたら雪歩にだって――」
ガッ――
「てめえ、またお嬢を呼び捨てにしやがって…!」
「親分、こいつはさっさとバラしちまった方がいいですぜ!」
シロー(あと30分でスタートから1時間……このまま俺は…。)
シロー「……初めて担当したアイドル達なんだ…!」
シロー「まだ多くを知らない…何もしてやれていないあいつらを…あいつらの夢を!」
シロー「死なせるわけには行かないんだ!行かせてくれえぇっ!!」
「コイツ…まだそんな事を。命乞いならもうちょっとマシなセリフがあるだろ。」
「お嬢に手を出しておいて、タダで済むと思ってたのか!ああ!?」
シロー「くっ……!」
『…お、おい嬢ちゃん!だから待てって……。』
『…うるさい!……ここね?』
バン――
シロー「い、伊織……。」
伊織「…アンタが雪歩のパパね。」
組長「……なんだいお嬢ちゃん?今大事な――」
スタスタ――
伊織「雪歩から電話よ、ほら!」
組長「何…?……もしもし、雪歩か?」
組長「…あ、ああしかしそいつは……いや、だからな……。」
雪歩『……ゴチャゴチャ言ってねえでさっさと二人を放して土下座しろっつってんだよ!このクソ親父!』
組長「…ゆ、雪歩!?」
シロー「今の…雪歩の……声?」
伊織「雪歩…怖い…音が漏れてる…はは。」
雪歩『てめえのおかげでこっちはみんな迷惑してんだ!もしライブが失敗なんてことになったらどうするつもりだ!』
組長「し、しかしこいつはお前のことを…誑かして……。」
雪歩『は?んなわけねえだろ!プロデューサーは私の恩人だ!いつも助けて貰ってるのはこっちなんだよ!』
雪歩『とにかく、早く二人をこっちに向かわせろ!それと……。』
雪歩『もしプロデューサーと伊織に怪我でもさせてみろ。その時はてめえのドタマスコップでカチ割って青木ヶ原に埋葬してやるから覚悟しやがれ!いいな!』
ブツッ――
伊織「そ、その怪我…転んだことにでもしておきなさい。」
シロー「あ…ああ。」
―――――
雪歩「クソッ!あの親父…余計なことしやがって!」
バキッ――
律子「…ゆ、雪歩…さん……?」
雪歩「……はっ!へ?…あ、ああああああのっ!」
雪歩「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」
バタッ――
律子「雪歩!……よかった、気を失っているだけね。」
高木「し、しかし雪歩君があんなになるとは……よっぽど怒っていたんだな。」
律子「とりあえず、雪歩は医務室へ連れて行きます。」
高木「ああ…ここは私に任せたまえ。その…律子君…君の携帯だが。」
律子「携帯一台で命が助かったんです…よしとしときましょうや、社長……。」
高木「…明日までに新しいモノを用意しておくよ。」
―――――
組長「お二人には、大変なご無礼を致しまして……この通り、お許し頂きたい。」
シロー「い、いえ!こちらが誤解させるような真似をしたのがいけないので…どうか頭を上げてください。」
伊織「そうよ!…も、元はと言えばコイツが勝手に家の前通らなきゃ良かったんだし…気にする事じゃないわ。」
シロー「たった一人の大事な娘さん、ですもんね。親だったら子を思う気持ちが一番強いのは、当たり前じゃないですか。」
組長「いやあ…あんな雪歩は初めてで、私がどれだけバカなことをしていたのか思い知らされましたよ。」
伊織(アレ、完全にキレていたものね…。隣にいた律子が心配だわ。)
組長「つきましては、私たちもお二人が会場へ向かうお手伝いをさせて頂きたいのです。」
シロー「いえ、なにもそこまでして頂かなくても…!」
組長「ですが、このままでは萩原組末代までの恥!それに…このままだと時間までには到底間に合いますまい。」
シロー「それは…そうですが。」
組長「世間体の事を心配なさっているんでしたら大丈夫です。あなた方は普通に会場へ向かってください。後のことはこちらで…。
―――――
バタン――
伊織「…いいの?雪歩の親とはいえ、ヤクザに協力してもらうなんて……。」
シロー「…こうなったら、もう手段を選んでいられない。この衣装と伊織を無事に届ける為ならな。」
伊織「大体こうなったのは、アンタが寝坊してたのが原因でしょ!少しは反省しなさい!」
シロー「……わかってるよ。それと、この事は…。」
伊織「誰にも言えるわけ無いわ…律子にも口止めしておかないとね。」
シロー「よし、急ぐぞ!」
―――――
シロー「ん…なんだ?工事中!?くそ…迂回するしかないな…。」
―――――
シロー「……ここも工事中かよ!」
伊織「仕方ないわ、通りに出ましょう!」
シロー「それしかないか…。」
―――――
伊織「ど、どうなってるの……?」
シロー「ラッシュタイムのはずなのに…車が一台も…伊織、あれを見ろ!」
伊織「く、黒塗りの高級車が交差点をふさいでいる……まさか…。」
シロー「俺たちは何か見たか。」
伊織「いいえ。とにかく急ぐわよ!」
―――――
シロー「すごい…ここまで一台の車にも出くわさなかったぞ。」
伊織「…会場までは間違い無く渋滞知らずでしょうね。」
シロー「よーし!飛ばすぞ伊織、しっかり掴まってろよ!」
ガコン――
伊織「ちょっと!……きゃあっ!」
―――――
『――これより、10分間の休憩となります。』
「竜宮小町のメンバーが一人も出てこなかったね。」
「プログラムもパンフに書いてあったのと順番が代わってるし。」
「……分からないか?そうしなければならない理由が奴らにはある…。」
「…まさか!竜宮小町に何かあったのか!」
「言っただろう、これからが面白くなるとな。」
―――――
高木「…君たちはよくやった。だが、これ以上引き延ばすのはもう限界だろう…。」
春香「そ、そんなことありません!私たちはまだやれます!」
真美「真美だって全然いけるもん!」
高木「だが…今日は765プロ全員でのライブ、ということになっている。このまま続ければファンの期待を裏切ってしまう。」
高木「それに…君たちは最初から全力だった…。続けたとしても今度は君たちが持たない。」
美希「ヤなの!ここで諦めたらミキ達よりも……ハニーとでこちゃんが一番辛いはずなの!だから頑張るの!」
響「それに、竜宮小町は一度もステージに立っていない。それこそ、ここで辞めたらファンにだって申し訳ないんだぞ!」
やよい「あずささん達だって、歌いたいのを我慢して頑張ってくれているんです!」
貴音「…高木殿、もう少しだけ時間を頂けないでしょうか。」
千早「お願いします、社長!」
真「ボクからもお願いします!」
高木「だが、私は最初に彼とも約束した。1時間経っても戻らなければライブは中止にすると…君たちも聞いていたはずだ。」
律子「……。」
高木「私も辛い…だが、君たちを苦しませてまで続けたくはないのだよ。分かってくれ。」
バタン――
小鳥「はぁっ…はぁ……。」
小鳥「…み、みんな……プロデューサーと伊織ちゃんが…戻ってきたわ!」
―――――
シロー「もう少しだ、頑張れ伊織!」
伊織「わ、分かってるわよ……!」
律子「…プロデューサー!伊織ちゃん!」
シロー「律子か!遅くなってすまない、でもちゃんと衣装は持ってきたぞ!」
伊織「このバカのせいで、一時はどうなるかと思ったけどね…。」
シロー「それは言うなって!」
伊織「じゃあ私は先に行くから!アンタも早く来なさいよ!」
シロー「…ああ!しっかり頼むぞ!」
律子「すみませんプロデューサー殿、私のせいで…こんな怪我まで……。」
シロー「この怪我は…まあ自業自得って奴だ。そんなことより、雪歩は…?」
律子「…あの電話の後、気絶しちゃって。今は医務室に。」
シロー「そうか…雪歩にも迷惑を掛けちまったな。」
シロー「そういえば、あの後からお前の携帯に繋がらなくなったんだが……。」
律子「あはは…うっかり落としちゃって。」
シロー「そうか…俺の怪我も、転んだって事にしておいてくれ。」
律子「そ、そうします。」
―――――
伊織「みんな、待たせたわね!」
あずさ「お帰りなさい、伊織ちゃん。」
亜美「いおり→ん!寂しかったよ→!」
真美「ただいまのチュー、してもいいんだYO?」
春香「…本当に待ったんだから!」
美希「もー、でこちゃん遅いの!」
千早「ちゃんと間に合ったわね。」
響「みんな心配してたんだぞー!な、ハム蔵?」
真「ボク達もちゃんと繋いでおいたよ!」
貴音「ここからは伊織達の番ですよ。」
やよい「…いおりちゃん!約束、覚えてるよね?」
伊織「もちろんじゃない、…帰ってきたら。」
やよい「ハイ、ターッチ!」
パンッ――
やよい「えへへ~。」
春香「そういえばプロデューサーは…?」
伊織「…多分医務室よ。」
真「そっか、きっと気絶した雪歩が心配で…。」
伊織「え!雪歩、気絶したの!?」
貴音「ええ、なにやら電話をしていてその後すぐ、舞台袖で倒れたと……わたくし達も驚きました。」
伊織「そ、そう……無理もないわね。」
美希「でも今はちゃんと目を覚ましてるから大丈夫なの!」
響「もうすぐ戻って来るさ!だから心配はいらないぞ!」
伊織「みんな…本当にありがとう。」
千早「プロデューサーが言っていたでしょ、私達は765プロというチームだって。」
真美「困った時は、お互い様!だね。」
亜美「ささ!早く着替えて準備しなきゃ!」
あずさ「そうですよ、伊織ちゃん。」
伊織「わ、分かってるわ!」
―――――
シロー「雪歩…倒れたって聞いてびっくりしたぞ。もう大丈夫なのか?」
雪歩「ごめんなさい、プロデューサー…私あんまり覚えていなくって。」
雪歩「伊織ちゃんから電話があって…それから……。」
シロー「あ、ああそれなら雪歩が電話でお父さんにアイドルは好きでやってるんだ!って言って、説き伏せていたな。」
雪歩「私がそんなことを…!うぅ、恥ずかしいですぅ!」
シロー(…幸か不幸か、あのことは覚えていないみたいだな。)
雪歩「ぷ、プロデューサー…よく見たら酷い怪我です!」
シロー「事務所の階段でこけちまってな。いやあ死ぬかと思った!ははは。」
シロー「でも…雪歩のおかげで助かったよ。」
雪歩「わ、私はただ…プロデューサーと伊織ちゃんの力になりたくて…。それにライブだって途中で抜けちゃってますし。」
シロー「そんなことないぞ、お前がお父さんを説得してくれたから、協力してもらえてなんとか間に合ったんだぜ?」
雪歩「お父さんが…?あれだけアイドルになるのを反対していたのに…。」
シロー「雪歩のことが心配なんだよ。娘思いの、いいお父さんじゃないか。」
雪歩「…そ、そうですかぁ?」
シロー「……そろそろ第2部が始まるな。」
雪歩「あ、じゃあ私戻りますね!」
シロー「ああ、俺も簡単に消毒済ませたらステージに行くよ。あまり無理はするな!」
雪歩「ふふ、それはプロデューサーさんだって同じですよ。じゃあ、行ってきます。」
―――――
伊織『みんな、本当にお待たせ!』
あずさ『お待たせしちゃった分は…。』
亜美『サ→ビス、サ→ビスぅ!』
―――――
律子「何やってるのよあの子達は…。」
高木「だが、とても活き活きしているではないか。」
律子「ええ…社長がみんなに発破を掛けてくれたのも効いてるみたいですね。」
高木「さて、なんのことかな?」
律子「あんな三文芝居で騙せるほど、私は甘くないですよ?」
高木「…まあ、そういうことにしておこうか。」
―――――
「竜宮小町…ちゃんと出てきたね。」
「おっさんが言ってた面白いことってこれか?」
「……帰るぞ。」
「…あ!おいおっさん、待てよ!」
―――――
―――
―
高木「さて、先日の件の処分だが……。」
シロー「はい。」
高木「…君には、向こう一ヶ月間事務所の掃除当番をしてもらう。」
シロー「そ、それは…。」
高木「いやあ私も歳でね、しばらく掃除当番が廻ってこないとなると嬉しいよ!」
高木「不服かね?」
シロー「いえ!」
高木「だが、今後は気をつけるように。以上だ!」
シロー「ハッ!」
―――――
シロー「お前達、聞いていたのか…。」
春香「よかったですね、プロデューサーさん!」
亜美「兄(C)、お掃除頑張って!」
美希「ハニーがミキのためにお掃除代わってくれるの!」
やよい「私は手伝いますよ、プロデューサー!」
千早「私も、空いている時はお手伝いします。」
響「でもそれじゃあ罰にならないぞー?」
貴音「良いではないですか、響。高木殿は人の手を借りるな、とは一言も申していなかったのですから。」
響「じゃあ貴音は手伝うのか?」
貴音「…おそらく響と考えてることは同じかと。」
響「ふーん、じゃあ結局手伝うってことだな!」
伊織「ふん!…いい気味よ!」
真美「あれあれ→?さっきまで『自分のせいでプロデューサーがクビになるかもしれない!』みたいな顔してたいおりんはドコ行ったのかな→?」
伊織「そ、そんなこと一言も言ってないじゃない!」
―――――
シロー「どうした律子?」
律子「ええ…携帯なんですけど。あの後プロデューサーが新しいのを、と。」
シロー「ああ、一緒に買いに行ったな。…使い方が分からないのか?」
律子「そういうことじゃないんです。」
律子「実は…次の日になったら、社長と雪歩からも新しい携帯をって。そうしたら本体だけ3台になっちゃったんです。」
シロー「なんか…悪いことしたな。」
律子「そ、そんなこと!ほ、ほらまた落としたりしたときの予備に取っておけばいいだけですから!」
シロー「なら一度全部使ってみて、一番使いやすい奴をメインで使えばいいんじゃないか?」
律子「い、いいんです!今使ってる奴で!データの移行とかいちいち面倒ですし…。」
シロー「…それもそうだな。」
律子「……。」
―――――
雪歩「プロデューサー…あの、これ…お父さんがプロデューサーにって。」
パサッ――
シロー「…これ、車検証と保険証に他にも……車に必要な書類一式じゃないか。なんでこんなものを?」
雪歩「この前、お父さんの弟子がプロデューサーの車を壊したから、そのお詫びにって言ってました。」
雪歩「そうだった、鍵も預かってます!」
シロー「え、鍵って……。」
雪歩「車は事務所の駐車場にもう停めてるって…。」
シロー「まさか…今朝駐車場で見たあの車が……。」
雪歩「い、嫌ですか…?」
シロー「そ、そんなことない。でもアレは見た感じ新車だったぞ…それもメチャクチャ高い奴…。」
雪歩「それが、気前の良い知り合いが快く譲ってくれたそうです。」
シロー「気前の良い……快く…か。あ、ありがとう雪歩、お父さんにもお礼を言っておいてくれ!」
雪歩「はい!その…プロデューサー、もしよければ……今度プロデューサーの車に乗せてもらっても…。」
シロー「ああいいぞ、雪歩は最初に乗せてやる!」
雪歩「ほ、本当ですかぁ!約束ですよぉ!」
―――――
シロー「偶にはこうやって歩くのも悪く無いな…。」
シロー「…どうした、やっぱり車の方が良かったか?」
シロー「……なんだよ、変な奴だな。」
シロー「あ!…そうだ、これ。すっかり返すの忘れていた。」
シロー「…大丈夫だ、傷だって付けてない。」
シロー「……あ、そうか…ここだったよな。」
シロー「…そんなに悲しい顔をするな、またすぐに会えるさ。」
―――――
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と、まあこんな感じでおわりです。いろいろ考えてたけど結局脱線しそうだったのでここまでで。
短いのになぜか時間掛かってしまった…。だが私は謝らない
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