ジョンス・リー「がっこうぐらし?」 (56)
ドガァァァァ
ジョンス「……」
ジョンス(骨のあるヤツを捜してまた日本各地を歩き回ってみたものの……)
ゾンビ「ガァァァァァ!」
ジョンス「なんだソリャ」
ドガァァァァ
ジョンス(タフなだけでケンカにすらならねぇヤツばかり……どうしちまったんだ日本は)
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ジョンス「……」
ジョンス(学校か……車が動いた跡がある。
恐らくマトモな連中の大半はここに避難してるんだろ)
ゾンビ「ガァァァァァ」
ドガァァァァ
ジョンス(いつまでも死人とどつき合うのもつまらねぇな。
とても手合わせなんざ出来る状態じゃなさそうだが
生き残りがいるなら話しかけるに越した事はない)
ドガァァァァ
胡桃「……! な、何だ・・ 明らかに人が吹っ飛んだみたいな音がしたぞ!」
悠里「ゆきちゃん? 他のクラスは体育みたいだから、授業中は廊下をうろうろしちゃダメよ?
終わるまでここで待っててね」
由紀「はーい」
美紀「……くるみ先輩。外の様子はどうですか?」
胡桃「やられてるのはゾンビ側だ。一瞬、助けが来たかと期待したんだけど……」
美紀「!」
胡桃「大勢で組織的にやってきた、って訳じゃなさそうだ。音は一箇所から発生してずっと動き続けてる」
悠里「一箇所……一人だけであの人数を?」
胡桃「現実的に考えて人間業じゃないよな。考えたくはないけど……あいつらより強い化け物がやって来たのかもしれない」
由紀「!」
胡桃「放っておいたらこの部屋に辿り着くかもしれない。その前に私が、なんとかしてみようと思う」
美紀「そんな!もし先輩の言う通り、あれだけの人数を一人で制圧出来る様な強敵なら、スコップだけじゃ不安ですよ!」
胡桃「けどこんな狭い部屋に追い込まれたらまず逃げられない!誰かがおびき寄せないと!」
由紀「う……う……」
悠里「大丈夫よ、ゆきちゃん」
悠里「くるみちゃんの言う事も一理あるわ。
けれど、一人じゃ危険なのも確かね。
みんなで確認に行きましょう」
由紀「確認……新入生かな?」
美紀「そっか。その可能性も……」
胡桃「ない事はないがあんまり期待出来ないかもな。
警察だって機能してないんだ。一般人が一人であいつらを蹴散らしながら、ってのは……」
悠里「確かに想像しにくいわね……
なら、危険を踏まえて私達は東から向かうわ」
胡桃「ヤツは西に向かってるみたいだからな。
私は西側で待ち構えるから、三人はあいつらの気を引いてくれるか。
後ろから私が奇襲するよ」
美紀「了解です」
ドガァァァァ
ジョンス(校庭には例のキョンシー共が大量だったが……内側は侵食が外程じゃない。
バリケードらしきものもあるし、中にそれなりの人間がいる証拠だ)
ジョンス「……」
ジョンス(近付かれたくない場所にバリケードを張ってるなら、これを飛び越え続ければ「誰か」には辿り着く。
積極的にバリケードを探していくか)
胡桃(うわ……ひどいな。吹き飛んだゾンビで壁が砕けてる。
この調子で大暴れされたら本気で学校が壊されそうだ……)
胡桃「……頼むぞ、りーさん達」
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悠里「いい? 私が指示したら、防犯ブザーを鳴らして相手に投げつけて。
私は由紀ちゃんを連れて逃げるから、そっちは反対から逃げて。
バラバラに逃げて相手を撹乱しましょう」
美紀「分かりました」
由紀「ねぇねぇ、みーくん。りーさん。
あの人お化けじゃないよ?」
美紀「ゆ、ゆき先輩!声!」
悠里「授業が終わるまでは静かにってさっき言ったでしょ……・・」
由紀「ご、ごみぃ」
ジョンス「……?」
美紀&悠里(気付かれた!)
胡桃「はぁぁぁぁぁっ!」
ゴシャアアアアア
美紀「や、やった!当たった!」
悠里「いえ!よく見て!」
ジョンス「……」
胡桃(う、後ろから思いっきり頭をスコップで殴ったのに、私の手の方が逆に痺れてる……
っていうか、スコップが曲がった……!?)
ジョンス「……」
胡桃(や、やばっ……)
悠里「くるみちゃん逃げて!ほら、貴方達も……って!?」
美紀「な、ゆき先輩!?」
胡桃「……」
由紀「ねぇねぇ、貴方は転校生?」
ジョンス「……?」
由紀「うーん、留学生さんかな?
どうしよう、英語は苦手で……」
美紀「ゆき先輩!」
胡桃「いや」
悠里「そう心配する事もなさそうね」
ジョンス「……ジョンス・リーだが。
今、この街はどうなってる?」
由紀「街? いつも通りだよ?
私達は学園生活部で、学校で暮らしてるの!」
ジョンス「がっこうぐらし?」
胡桃「ははは……信じらんない。
世の中に、鈍器で頭を殴られて無傷の人間がいるなんてな」
悠里「……すみません。確認もせずにいきなり殴りかかったりして」
ジョンス「外の『アレ』が原因か?
……どうにも解せないが」
美紀「どういう事ですか?」
ジョンス「気を悪くするなよ。お前らが生き残ってるのが『解せない』って話だ」
胡桃「……おい、それはどういう――」
悠里「くるみちゃん待って。……詳しく聞いてもいいですか?」
ジョンス「外をそれなりに練り歩いてみたものの、蔓延ってるのはタフなだけのゾンビばかり。
いくら数が多いとはいえ、あんな足の遅い連中なんざ場慣れしてる奴なら簡単に切り抜けそうなモンだけどな。
……実際、武器も何も持ってない俺が散歩出来る程度には平和なんだ。
警察だの何だのが機能停止するレベルには見えないが」
美紀「……なるほど。確かに言われて見れば――」
胡桃「私達みたいな『ただの女子高生でも努力すれば生き残れる』レベルの被害でしかないのか。
それで解せない、と」
ジョンス「……何か意図的なモンがあるんじゃねぇのか?
まぁ、俺には関係のない話だがな」
胡桃「あ、ちょ!ど、何処行くんですか!?」
ジョンス「……? 散歩だが」
悠里「散歩って……いえ、貴方なら危険が無い事はその――分かるんですが」
ジョンス「言いたい事があるならハッキリ言え」
悠里「……」
美紀(みんなも同じ気持ちなんだ……
そうだよね、この人がもし味方についてくれれば相当頼りになるだろうし)
胡桃「あ、あの!悪いんですけど、出来れば私達に協力を――」
ジョンス「イヤだ。そんな義理はない」
胡桃「――」
由紀「ねぇねぇ、りーくん。私達と同じ学園生活部に入らない?
男の人は今の所いないし、彩り豊かになりそうだよ」
ジョンス「お前は俺が学生に見えるのか。とにかくイヤだな。
ガキの頃から部活はサボってばかりだった」
由紀「うーん、だったら、今日はりーくんに付いていってみよう!」
ジョンス「……一々お前らのやる事に関与する気はないぞ。
外に出て死んでも自己責任だ」
美紀「あっ――い、行っちゃいましたね」
胡桃「……どうする? りーさん」
悠里「危険は承知だけど……ずっとここにいる訳にもいかないからね。
追いかけてみる?」
由紀「おおっ!野外活動だね!」
胡桃「こいつだけはいつも緊張感薄いよなぁ」
ドガァアアアア ズガァアアアアアア ゴォオオオオオオン
胡桃「う……っそだろ」
ガラーン
悠里「彼が歩いた所は例外なく悲惨になるわね……ゾンビ含めて」
由紀「すごいよ!お化けをみんなやっつけちゃった!」
美紀「これで校庭を安全に歩ける様になりましたね」
胡桃「もしかしたら引籠るより追いかけた方が安全かもしんないな」
悠里「でもあの人、私達の事なんか眼中になさそうだったわ。
危険が迫っても助けてはくれないと思うけど……」
胡桃「確かにそうだが、まず『危険が迫る』って事がなさそうなんだよな。
あいつらがジョンスを超えられるとはとても――」
美紀「想像つかないですね」
ドガァアアアア ズゴォオオオオ
胡桃「なぁ、何となくだけどアイツって格闘技やってるよな?」
美紀「昔、本でチラっとお目にかかったぐらいであんまり詳しくはないんですけど……
多分あの形は八極拳……? だと思います。自信は無いですが」
由紀「あ! それ知ってる! 私、漫画でちょこっとだけ読んだ事があるよ!
すっごく強いけんぽーなんだって!」
胡桃「格闘技なんだから何だって強いだろ?
もっと具体的なのはないのか」
悠里「中国拳法の中でも屈指の破壊力ってのは聞くわね。
二の打ちいらずの一撃必殺、肩とか背中とかを使った体当たり的な技が印象深いんじゃない?」
胡桃「ふ~ん」
美紀「どうしてそんな事を聞いたんですか?」
胡桃「いや、だって普通気になるだろ。
みんな命がけだっていうのに、あいつ一人だけ涼しい顔して『散歩』とか言っちゃうんだぞ。
何処から湧く自信なのかなって」
美紀「それが八極拳……ですか」
悠里「まるで現代の李書文ね。
李書文が当たり前の様にコンクリートを破壊して回ってたかは知らないけど……」
ドゴォォォォォン
胡桃「やっぱあいつだけが例外だろ。
とても同じ人間とは思えないや」
美紀「あの人を基準にされたら世界中の八極拳士が泣くと思います」
悠里「あっ、みんな良く見て。コンビニに入ったわ」
由紀「私達もお菓子買おうよ~」
美紀「……そうします?」
悠里「一応、食べ物を確保しておきましょうか。
いい? コンビニは狭いからジョンスさんがいても安心しちゃいけないわ。
彼の手が届かない場所で襲われちゃったら終わりだからね」
胡桃「気をつけていこう」
ジョンス「……」
ゾンビ「ウガァアアアアアア!!!」
胡桃「! りーさん!」
悠里「由紀ちゃん!こっち!」
由紀「お、お化け……」
美紀(お……大きい! 大柄のジョンスさんよりも更に一回り……!)
胡桃「急いで外に出ろ!こんな狭い場所で追い詰められたら終わりだ!」
ジョンス(街がこの状態じゃ食うものにもいずれ困るかもしれない……
出来れば今の内に腹一杯にしときたいモンだが)
胡桃「ジョンスさん!あんたも早く!」
ゾンビ「ウガァアアアアアアアア!」
ジョンス「……」
ドンッ
胡桃「え……?」
ゴシャアアアアアアアアアアアア
ジョンス「順番守れ」
ゾンビ「ピク……ピク」
胡桃「あんなでっかいのをフッ飛ばしやがった……」
悠里「またコンビニの壁が――」
美紀「同じ人間かどうか疑いますね……」
由紀「あー! うんまい棒! りーくんもそれ好きなの?」
ジョンス「……」
由紀「あう……無視されるなんて、私嫌われる様な事してないよぅ(しくしく)」
悠里「ゆきちゃん。ジョンスさんは一人にしてほしいみたいだから、ね?」
ジョンス「名前」
悠里「……! は、はい?」
ジョンス「今そいつの名前なんつった」
悠里「ゆきちゃん……の事?」
由紀「そういえば自己紹介まだだったね。私は丈槍由紀!
名前は、自由のゆうに、日本書紀のき!」
ジョンス「字面まで同じか。イヤな縁だ」
由紀「えぇえっ!(ずーん)」
美紀「嫌な縁……っていうのは?」
ジョンス「お前は人がドジ踏んだ話を聞きたがるのか」
美紀「す、すいません。そんなつもりじゃ――」
胡桃「私は聞いてみたいかな~。ジョンスさんがドジ踏んだ話」
悠里(ちょ、ちょっと……くるみちゃん、あまり怒らせる様な事は)
胡桃「……」
ジョンス「……」
悠里(き、気まずい!)
美紀(ジョンスさんは無表情だから、イマイチ感情が……)
由紀「ドジなら私だっていっぱい踏んでるよ〜。
ね、めぐねぇ? 朝も漢字テストが全くダメで〜」
胡桃「……」
ジョンス「……」
由紀「……? りーくん?」
ジョンス「……別に勿体振る話でもない。
由紀って名前が、俺が負けた女と同じ名前だった。
それだけの話だ」
由紀「そうなの? 私とおんなじ名前かぁ。
やってみようかなけんぽー!」
ジョンス「……」
由紀「どう? 私センスあるかな?」
ジョンス「ふざけたこと言ってるぞ……それをわからせなきゃならないな」
由紀「? 具体的にどうなの?」
ジョンス「まるで枯木だな」
由紀「うぅう……りーくんの意地悪!」
悠里「……負けた?」
胡桃「片手で人間を吹っ飛ばしてコンクリートに穴を開けるジョンスさんが?」
ジョンス「上には上がいるって事だ」
由紀「へぇ〜、私と同じ名前のその人って強かったの?」
ジョンス「雑魚に負ける様に見えるのか?」
美紀(何だろう、全然想像つかない)
胡桃「ジョンスさんにも負けなんてあるんだ」
ジョンス「屈辱にハマらないで強くなった奴がどこにいる?
とはいえ、褒められた敗戦じゃなかったがな」
由紀「どんな戦いだったの?(わくわく)」
ジョンス「他人の負け戦がそんなに面白いか?
女が聞いて面白い話でもないだろうに」
胡桃「いや……こんな状況だからさ。
少しでも話を絶やすと不安になっちゃって」
ジョンス「甘ったれめ。そういう事は一人の時に言え」
胡桃「つめたっ!」
ジョンス「一々情に揺らされるガラじゃないんだ、俺は」
由紀「りーくん!続き!」
ジョンス「……」
悠里「そういう訳ですから……すみません。
厚かましいですけど思い出話の一つでも」
ジョンス「コイツらが聞きたがってるのは黒歴史だがな」
ジョンス「……あまり他人に言い聞かせて楽しい話でもないが、俺は世界でイチバン強い男とケンカした事がある」
胡桃「てっきりジョンスさんがトップかと思ってたよ。
人類って凄いな」
由紀「それが由紀、って人?」
ジョンス「男っつったろ。そいつとは別だ。
寧ろ、そのイチバン強い男に負けたせいで由紀ってヤツにも負けたのかも知れない」
美紀(二人とも格闘とか好きなんですかね)
悠里(ゆきちゃんは漫画の影響だろうけど、くるみちゃんはどうかしらね)
胡桃「ジョンスさんが言い訳するなんてなー。
よっぽど嫌なケンカだったんだ」
ジョンス「……いつしか現代最強の男、なんて肩書きを背負ってたモンでな。
強さには飢えてたんだ。今もだが」
由紀「でもでも、その人に負けた事と由紀さんに負けた事は関係なくない?」
ジョンス「だから……言い訳だと思われる前提で話すぞ。
俺はその男に負けるまでは互角の相手すらいなかったんだ。
そいつに負けた事で、俺の何かが変わっちまったんだと思う。
……自分が自分でない感じだ。
もうフッ切れたがな」
胡桃「へぇ。じゃあ今再選したら勝てる」
ジョンス「負けた側の俺が何言っても負け惜しみだ。
やってみないと分からん、としか」
由紀「けんぽー家として壮絶な戦いを送ってきたんだね……アチョー!」
ジョンス「こいつは俺を……ナメてるのか」
由紀「えぇっ!(がびーん)」
悠里「ゆきちゃん、あんまり怒らせる様な事しちゃダメよ」
胡桃「……!」
悠里「胡桃ちゃんどうし――」
胡桃「りーさん、今すぐゆきの目を塞いでくれ」
悠里「――そんな、あれは……」
胡桃「早く――」
悠里「……(がしっ)」
由紀「わわわ、りーさん、どうしたの急に」
悠里「怖いお化けが歩いているのよ。目を瞑ってなさい。くるみちゃんが追い払ってくれるから」
由紀「えぇっ! お化け!?」
悠里「――えぇ。……お化け、……よ」
慈「……」
由紀「え? めぐねぇも目を瞑っておいた方がいいって?
うーん、怖いもの見たさってものがあるけど、めぐねぇがそう言うなら――」
悠里「……(ツー)」
由紀「――りーさん? どうして、泣いてるの?」
悠里「目に――埃が入っちゃった、からかな……」
美紀「……くるみ先輩。――その、知り合いですか?」
胡桃「もう見る影もなくなっちまったけど――あれが、めぐねぇだ」
慈「……」
ジョンス「さっきから死体共がうじゃうじゃと鬱陶しいな。
引っ込んでいればいいものを――どうせ一撃だ」
胡桃「……止まってくれないか。ジョンスさん」
ジョンス「……」
胡桃「おい! 無視するな!」
美紀「――くるみ先輩。その、めぐねぇって方は、確か学校内で亡くなったんじゃ……
どうして外に?」
胡桃「……見たんだ」
美紀「?」
胡桃「知らせた所でみんなの負担になると思って黙ってたけど……
あいつらに食い散らかされて、化け物になった後もめぐねぇは――」
悠里「学校の外へ、外へと向かっていたの。
怪物達を先導して、学校の中のあいつらをみんな――外に誘導してくれてた。
まるで、私達をあいつらから遠ざけるみたいに」
美紀「……」
由紀「めぐねぇ? ねぇ、めぐねぇがそこにいるの……!?」
悠里「何言ってるのゆきちゃん。めぐねぇなら――貴方の隣に」
由紀「そ、そうだったー! ごめんめぐねぇ! 影が薄いとか言う訳じゃないんだよ!?」
悠里「――」
胡桃「泣くなよりーさん」
悠里「そういうくるみちゃんだって泣いてるわ」
胡桃「寝不足でさ。欠伸が出ちゃって」
ジョンス「……」
胡桃「――止まってくれ。頼む」
ジョンス「イヤだ」
胡桃「……! 一人ぐらい放っておいたって、あんたなら何の問題もないだろ!」
ジョンス「俺の邪魔をしているのは向こう側だ。
どうせあいつは俺に向かってくる」
慈「ゆ……」
ジョンス「お前らを襲いたくないのなら――まぁ、俺に襲い掛かるだろうな」
悠里「待――」
胡桃「おい! やめろ!」
ドガァァァァァァァァ
胡桃「――」
悠里「――」
美紀(――めぐねぇ、って方の足は、おかしな方向に曲がっていた。
いくら怪物になったとしても、あれではいずれ――二度目の死を迎えるだろう)
由紀「す、すごい音が鳴ったよ! 何が起きたのかな、めぐねぇ!」
慈「き……」
美紀(光を失ってしまった先輩達の瞳を――見つめるのが怖くて、怖くて……
私はただ目を逸らす事しかできなかった)
慈「ちゃ……」
美紀(かつてめぐねぇだったヒトは、言葉にならない呻き声をあげながら――這いずってジョンスさんへと向かっていった)
慈「ん……」
美紀(どうしてだろう……何故か、くるみ先輩達の方には――少しも向かおうとしなかった)
ドガァアアアアアア
美紀(元々めぐねぇって方は――ただの優しい女性教師だ。
こんな死屍累々の街並みを生き抜ける人でもないだろうし、そういう環境が似合う人でもない)
ジョンス「……しぶといな」
慈「……」
ジョンス「わざと俺に殺されに来てるのか。
――化け物になってまで生者を殺したくはないんだろうな」
胡桃「……! もう、やめろよ……!」
ジョンス「こいつは死ぬつもりで俺に向かってきてるみたいだがな」
悠里「――ジョンスさん、お願いします。完全に息の根を……止めてください」
美紀「!」
胡桃「りーさん、何を……!?」
悠里「――お願い」
胡桃(……泣くなんて、卑怯だろ……っ!そんなの!)
ジョンス「……お前だけは"VIP待遇"だ…特別だ…」
胡桃「!」
ジョンス「一撃…二撃…三撃…四撃…」
慈「――」
美紀(何でか分からないけど――笑って、見えました。
三人の先輩達を見つめて、新しい仲間である私も見つめて)
慈「……」
美紀(それだけで……きっと――めぐねぇにとっては、これ以上ない救いだったのかもしれない)
ドガァアアアアアア
ジョンス「……」
胡桃「――」
悠里「……」
由紀「いきなり静かになっちゃった。どうしたんだろう」
美紀「……くるみ先輩」
胡桃「――だよ、それ」
美紀「?」
胡桃「なんだよそれ、何だよ……何だよ何だよ何だよ……っ! ふざけんなっ!」
悠里「くるみちゃん!落ち着いて!」
胡桃「馬鹿野郎!馬鹿野郎!馬鹿野郎!」
美紀(スコップで何度も、何度も、やり場のない怒りをジョンスさんにぶつけているくるみ先輩をみて、私は――)
ジョンス「……(ガシッ)」
胡桃「!」
ジョンス「……お前らの境遇をそう知らない以上、何を言っても綺麗事だろう。
――だから分かりやすく"結果"で教えてやる」
胡桃(スコップが――曲がって)
ジョンス「弱いとそうなる」
胡桃「……!(バキィ!)」
悠里「胡桃ちゃんのスコップが!」
胡桃「……」
ジョンス「……(ザッザッ)」
胡桃「待てよ……」
ジョンス「……」
胡桃「何で……もっと早く来てくれなかったんだ」
悠里「くるみちゃん……」
美紀(くるみ先輩だって、そんな事言っても無駄だと分かっているだろうけど……言わずにはいられない気持ちも分かる気がする)
胡桃「そんなに強いなら、あんた一人でここまで状況が覆るなら、今までの私達と死んでいった人達は一体……何の為に……!」
ジョンス「知るか」
胡桃「……! この……!」
由紀「やめて!」
悠里「ゆきちゃん……」
美紀「ゆき先輩……」
胡桃「ゆき……」
由紀「ケンカはダメだよ。ね?
みんな仲良くしないと……仲良く……しなきゃ」
ジョンス「……面倒臭せぇ」
胡桃「……いい加減にしろよジョンス!」
ジョンス「そっちこそ大概にしろ。
ガキの我儘に付き合っていられない」
悠里「……くるみちゃん。確かに身勝手を言っているのは私達だし」
胡桃「でも! 強いからって飄々としているこいつが頭に来るんだ!」
ジョンス「……仕方ないな」
美紀「……?」
ジョンス「つくづくお前らと関わりを持った事を後悔する。
……が、まぁ、この調子でいつまでも突っ掛かられるのは面倒だ。
する事もないし子守をしてやる」
美紀「それって……」
悠里「私達に……協力してくれるって事ですか?」
ジョンス「言いなりになるつもりはない。
が、お互い目的は同じだろう。
俺は……こんなふざけた現象を起こした奴を見つけてふき飛ばす。
お陰でケンカが随分味気なくなっちまったしな……」
美紀「元凶を探す……」
悠里「確かに……気になるわね。
何でこんな事が起きたのか」
胡桃「……」
ジョンス「まだ文句があるのか?」
胡桃「やっぱり私……お前の事が嫌いだ」
ジョンス「そうかい」
悠里「……あの、すみません。
この状況の真相について――生きている人間なら誰もが気にかかる事でしょうけど……
何か宛てはあるんでしょうか?」
ジョンス「ない」
美紀「何となくそんな気はしてました」
胡桃「じゃあ行き当たりばったりで歩き回るつもりなのか?」
ジョンス「お前らも行き当たりばったりで見つけた。
まぁ――歩いてりゃ何とかなるだろ」
由紀「課外活動だね!」
ジョンス「……こいつは、頭のネジがどっか飛んでるのか」
由紀「えぇえーっ!さっきからりーくんひどいよ……(しくしく)」
悠里「……」
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