そして僕はいなくなった。(30)

つい昨日のことである。
自室にこもり黙々とペンを動かし、紙を動かし、消しゴムでこすり、絵を書いていた昨日の午後の話である。

「フッ」
なんてクオリティの高い絵なんだろうか。
今にも飛び出してきそうな躍動感あふれるハルヒちゃんに僕の息子は限界を感じていた。
「うぬ……」
僕の右手はすでに定位置について、磨き上げられたテクニックで作業を開始していた。
「うぬ、おまえのことじゃ!!」
もうだれも僕を止めることはできない。僕は僕の部屋で僕自身の力で快楽を得るんだ!! 

快楽、快楽、快楽!!
ハルヒ、ハルヒ、ハルヒィィィィ!!!

「なにをしておるオナニーざるめが!!!」
「!?」

気のせいだろうか?
今、僕しかいないはずの部屋で声が聞こえたような気がした。
「なーに、静止しておる!!こっちをむけぇい!!」
僕はまだ精子を出した覚えはないのだが……。
ハルヒちゃんはまじまじと僕を見つめている。
「ぁあ!!ハルヒちゃん!!」
右手は作業を再開する。
もう、誰も!!
「とまらねぇぇぇ!!」

シコシコシコシコ……。

「いいかげんにせんと殺すぞ……」

部屋の空気が凍り付いた。
先ほどまで聞こえていた声と同じ声だが違う声。
その声は小さく、つぶやかれた程度だったが、幻聴だから気にしなくていいやですましてはならない雰囲気だった。
どことなくハルヒちゃんもおびえた顔に見える。
僕は気づいた。

何者かにオナニーをみられている。

ゆっくりと慎重に、息子にはおうちに帰宅してもらう。
もちろん戸締まりは親である僕が責任を持ってしてやる。
「おまえは先にかえってねてなさい」僕はそう心の中でつぶやいた。

「だ、だだだだれかなぁ?ぼぼ僕の部屋に勝手に入ってきたののはぁ?」
振り返る前に大きな声で威嚇をしてみたが声がうわずってしまった。
今僕の精神はぼろぼろもろもろだった。
オナニーを誰かにみられたのかもしれないのだ!!
い、いやまて。
もしかしたら本当に幻聴かもしれない。
もしそうだとしたら僕はこれから落ち着いてオナニーもできないじゃないか!!
早く医者にいかないと!!!
「さっさとこっちをむけ」
とっさに振り返る。

幻聴ではなかった。

「ようやくこっちを向いたか、うぬごときが儂にてまをとらせるとは、ムカつくのぅ」

僕の部屋の端のベットの上で僕の恥を観察していたそいつは偉く古風な言葉でそいつは話しかけてきた。
透き通るように白い肌に、充血なんてレベルじゃないほどに赤い瞳を持つ少女。
名前をつけるなら……。

「なにしにきたの、ハルちゃん?」

「……」

ハルちゃん。
もちろんハルヒちゃんのハルからいただきました。
理由は簡単!!
ハルヒちゃんみたいにかわいい!!
けど幼いからヒははずそ♪

よって僕はオナニー観察犯をハルちゃんと呼ぶことにした。

「……」

黙り込むハルちゃんをよそに、僕は浮かれていた。

幼女じゃん!!
オナニーとか知らないじゃん♪
いやー、幼女ならセーフじゃないかハッハッハ!!

僕には三歳の妹がいる。
妹とはよく一緒にお風呂にはいるのだ。

つまり僕は幼女にたいしてなにをみられても羞恥を感じないのである。

「……儂を助けろ」

ハルちゃんはいきなり口を開いた。
ほほえましいことに歯が抜けている。
おそらく犬歯あたりだと思う。

「えとっ、助けるっていったいなにから?」

どうでもいい観察は捨て話を進める。

「儂は死にとうないのじゃ」

そう、ハルちゃんが口にした直後だった。
僕の部屋が部分的に赤く染められた。

「ハルちゃん!!」

ハルちゃんはベットの上で突如、べっとりと吐血した。
頭を下げた体勢になったハルちゃんだがその体勢がよけいに僕を驚かせた。

「えっ?」

背中が、無い

ネタとかふざけているわけではなくて、背中が存在しなかった。
前かがみになったハルちゃんの裏側から見えるのはハルちゃんの体内。

すでに僕は目を閉じてしまっていた。

「すまぬ、刺激が強すぎたの……」

聞こえてくるハルちゃんの声。

「助けてくれ……」

「は、ははは早く医者を呼ばないと!!」

「無駄じゃ、時間が足らん」

「じじ、じゃあどうするんだよ!!」

「うぬを食わせろ」

ん?
どこかで聞いたような展開である。

ある少年が傷ついた女と出会い。
命ごいをされる話。
何だったか?
うーん。
思い出せない。

とりあえずヒントを得るべく目を開く。
するとすでにハルちゃんは起き上がりベットの面している壁に無い背中でよりかかっていた。

ハルちゃん、その少女の顔は苦痛にゆがんでいた。

「食わせるってどのくらいだ?」

苦痛にゆがむ女の子の顔はみたくないし、目をそらせるほどロリコンでないわけでもなかった。
正面からみると実にかわいい、ハルちゃんを見捨てるなどできそうになかった。

「腕なら二本、足なら一本……くらいじゃ」

そんな言葉で怯む僕ではない。

「どういう基準で量が決まってるんだ?」

「人間に必要なモネのほど少なくてすむ」

それなら……。

ハルちゃんいった。

僕を食わせろ、と。

僕はいった。

ロリコンでないわけではない、と。

ハルちゃんはいった。

人間に必要なモネほど少なくていいと。

僕は決意した。

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