【安達としまむら】水色の君 (117)
とあるSSに触発されて。
偽入間人間です。文章力は期待しないでください。
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白。白。白。
たぶん今ので十一回目。数えてないけど。
「なぜだー」
からんからんと、右手の缶の中からさびしい音が響く。
わたしの目線はカラフルな缶より、もっときらきらなお客さまのほうへと向かう。
「最後の一個がとられた」
「最後ではないですよ。わたしのちょーのーりょくによると、まだ残っています」
びしっと決めポーズをとって缶を指差す。でももごもご動くほっぺたのせいでうまく決まってない。
なにがちょーのーりょくだ。それくらいわたしでもわかるぞ。
「もう白いのしか残ってないの」
「いいじゃないですか。白はすばらしいですよ」
最後の赤いドロップをころころ、至極適当な意見をのたまってくる。
むぅ、部外者だからって様子見かー。
そんなんじゃ立派な大人になれないぞー。・・・あれ?でもヤチーはもう学校を卒業してるんだっけ?
でも大人には見えないから、子供だよね。
「なんかおいしくないんだもん」
「おや、白はお嫌いですか」
「嫌いって言うんじゃないけど・・・なんかヤダ」
みんな嫌いって言ってるし。
買ってくるたび最後は白ばっか。
この前ねーちゃんが白くないのが出るまで缶をふりまくってたのをわたしは見た。
おかーさんは全部出して選んでた。大人ってずるい。
・・・結局白は誰が食べてるんだろう?
「白はどんなあじですか?」
「えーと・・・はっか?だっけ?シナモン?」
「ついでにこれは何味ですか。あまいですが」
「赤だからいちごじゃないの」
「なるほどー」
ほほうこれがいちごー、ってわからないで食べてた?
中々にいちご味だと思うのだけれど。
「いちごいいなぁー」
「いりますか」
ともすると手のひらに出しそうだったので、「やめて」考える前に言葉が出た。
なんというか、ヤチーのそんな姿見たくないよー。
「一度口に入れたものは出しちゃだめだって」
「ふむ、わかりました。面白い習慣もあるものです」
ふむふむ、と納得しているところ悪いけど。
そんな常識すらないとこって、一体どこ?
飴が無いとなると、急に手持ちぶさたになる。
いや、この白いのを食べても良いんだけど。
うーん。やっぱそうしようかな、いやでも。
「ヤチー、わたし、あめ食べたほうがいいのかなー」
考えなしの考えは、投げてしまうことにした。
教えて、ヤチーえもん。・・・だっけ?
「・・・」
あれ。ぴたっと考え込んでる。
そんな難しいこと聞いちゃったかな、わたし。
すると、何の前触れも無く、「うわっ」いきなり動き出してびっくりした。
からからと缶を振って、ひとつ、手のひらに落とす。
そして、にこーっと。
「はい、どーぞ」
なんて言いながら、白い飴を、わたしに。
指先でつまんで、私の顔に、いや、口に、近づけてきた。
そんな渡され方をしたら、もう断れない。
そのまま食べさせてくれるのかと思いきや、飴は少し手前で止まってしまう。
わたしには、たべたいならどうぞ、と言ってるように感じた。
少し、首を伸ばす。口を、開く。
その、瞬間。
目を閉じていれば分からないくらい、ほんの少しだけ、指先がわたしに触れる。
でも、確かに。そこに。
まるで、そこからわたしの体が塗り替えられていくような感覚。
痺れが体をかけめぐる。
「おいしいですか?」
「ん、お、いしい、よっ?」
嘘も嘘、大嘘だった。
味なんてさっぱり分からない。
このどきどきがばれないように隠すのに精一杯だったから。
「そうですかそうですか」と嬉しそうにするヤチーの笑顔を少し、穢してしまったように思うのは、嘘をついたからだろうか。
今日はここまでです。
短め少しづつ、毎夜更新を予定してます。
―――
ヤチーの生態は、摩訶不思議だ。
気づくと居て、気づくと居ない。まるでなぞなぞか、手品のような毎日を送っているようだ。
そんな掴み所のないヤチーが、ここのところわたしの家に、更に、入り浸っていると思うのは間違いでは無いはずだ。
そんなことを、静かな寝顔を見て気づかされる。
ヤチーの寝顔を見るのはこれが初めてで、それはつまりヤチーがわたしの家で、昼寝も夜寝もしたことがないことを意味する。
わたしの家に、馴染んでくれたのかなぁ。
ヤチーにとってここが、本当に心の休まる場所になったのかなぁ。なんて考える。
寝顔を見ていると、あれやこれやいろいろな想いが、ぽんぽんと、ポップコーンのように弾けては消えてゆく。
でもいくつか、簡単に消えてくれないものもあって。
甘いのも苦いのもあって。
一番大きな甘いかたまりは、うまく言い表せない。
わたし以外誰もいない状況で、気を許してくれた喜び。わたしにだけ、という、誰に対してかわからない優越感。
わたしが。
わたしだけが、今、ヤチーの側にいる。
そう思うと湧き出る、この、モヤモヤとした気持ち。
その甘さをかみ砕いて味わうには、まだ、何かが足りないのかな?
わたしに足りないものなんて、挙げていけばきりがないけれど。
せめて、ヤチーと、こうして過ごしていられる間に、一つでも多く見つけたい。
その姿はどうしようもなく儚くで、まばたきをすればそこにはもう、ヤチーを表すものが何一つ残っていなくても不思議じゃない。
その儚さがわたしを焦らせ、わたしをひきつける。
「んん~・・・ぅん」
「はっ」
ヤチーの、うめき?いびき?で我に帰る。
よかったぁ、まだ起きてないみたい。
・・・ん?何がよかったんだろう?
眠っててほっとした・・・ってことは?
ヤチーが、眠っていないと、できないこと?ある?
んっ?
なんだなんだ?
そりゃあ・・・無くはないかも?
いや、でも、ヤチーとは、これからも仲良くしたいし!絶対!
嫌われることはしたくない・・・けど。
それでも、このビッグチャンスをみすみす逃してしまうのは、もったいない。もったいなすぎる。
・・・軽いイタズラなら、許してくれるよね?
むぅぅ。
どきどきして、たまらない。
なにか、とんでもない大犯罪を犯すような気分になる。
禁忌を、破るような。
ヤチーという聖域に、土足で踏み入るのだ。もちろん、そんなつもりはない。ヤチーをどうこうしようって訳じゃない。
ない、けど。
じっと、そのきれいな顔を見つめる。
整った顔立ちに、見つめ返されたわけでもないのに、気恥ずかしくなる。
そっ、と。
優しく、水色の髪を撫でる。
いつまでも触っていたくなるような、なめらかな髪質。
撫でるたびにふわりと舞い上がる光が、辺りに漂う。
なでなで。なでなで。
あ、今、ちょっと笑った?
気のせいかもしれないけど、うれしい。
じっ。
髪を撫でていると、顔の方にしか目が行かないのは必然なわけで。
ついつい柔らかそうなくちびるや整った長いまつ毛に目が行ってしまうのも、また必然なのだろう。
「きれいだなぁ…」
今口に出して呟いたのか、心の中でこっそり呟いたのか、わからないくらいにふわふわしてる。
「ほっぺ・・・」
もちもち。
つうっと、指を這わせる。
少しだけ、ほっぺいじるだけ。
これくらい、友達ならふつーだよふつー。
動き出した指に、あとだしで理由を付ける。
しかし、自分勝手な指は物足りないと言わんばかりに、くちびるの下とかなぞり始める。
あぁ、これじゃ理由が台無しだよー。
流石にこんなこと、したこともされたこともない。
もう、終わり!
終わりに、しよう。
・・・あと。
最後、くちびるを一回なぞって、終わり。
自分勝手な区切り方を思いつくあたり、ああ、この指の持ち主なんだなぁと思う。
すぅすぅと耳触りの良い音を立てるそこに、そっと指を近づけて。
「はむ」
うひゃあ、と叫ぶ。が、声は出ない。
出なかった。
ぱくぱく。ばくばく。
何?何が起きたの?
わたしの、ゆびが、たべられた?
いや、先っぽだけだけど?
なな、なんで?
50メートル走でベストタイム出したときみたいになってる。息切れ?違う?
まともな考えが、できない。
「あ、あわ、やっ」
起きて。でも起きないで。そんな気持ちが混ざって出たそれは、言葉にならなくて。
通じた祈りは、一番目のほうだった。
「んむ?」
「わわっ」
びくっと、せきずい反射で手を引っ込める。
危なかった。せーふ、せーふ。
「おや・・・ちょっとうとうとしてしまいました」
「う、ぅん」
ぎこちない。ぎこちないぞわたし。
「まさか・・・寝てる間に何かしましたか?」
「ぅぁうっ!?」
「・・・あっ、お菓子!さてはお菓子たべましたね!ずるいです。くださいー」
ほっ。
こういうとき、やっぱりヤチーが・・・うん。
ヤチーでよかった。
また明日
―――
「これからわたしのことはお姉ちゃんと呼んでください」
「やだ」
唐突に来たお願いを、唐突にはたきおとす。
それはもう、ばしーっと。
「えー」
「えーじゃない」
はたきおとしつつ、わたしもうねーちゃんいるし、と返す。
それを聞いたヤチーがはっと気づいたように、
「あ、よく考えたらわたしのほうがしまむらさんよりもお姉ちゃんでした」
いや、それはない。
並んだら頭何個分もちがうから。
わたしの年齢はー、ってそれ前も聞いたよ。しかも前より増えてるし。
「むむぅ、どうしたらしょーさんはお姉ちゃんと呼んでくれるのでしょう」
「呼ばないってば」
ほとんど体つきも変わらないヤチーを『お姉ちゃん』と呼ぶにはちょっと、いや強い抵抗があった。
なにより、ヤチーと血のつながっている自分というのが、まったく想像できない。
「しょーさん、この国では年上のおんなのひとを、『お姉ちゃん』と呼ぶそうですが?」
「むっ」
へんなことばっかり知ってるなぁ。
『年上のおんなのひと』は、『お姉ちゃん』よりさらに似合ってないように思えた。
へんな取り合わせ。馬子にも衣装?ちがうか。
「・・・もう、しょうがないなあ、一回だけだよ?」
「おっ、やりました。われわれの勝利です」
かくめいだー、と両手をあげる一人ぼっちのヤチー。
これじゃあ、どっちがお姉ちゃんなのやら。
でも・・・そんなに喜んでくれるのなら、その、まんざらでもない。
「では・・・」
「はい」
なぜか立ち込める堅苦しい雰囲気。
「せいざ!」「はい」なぜ正座。
ますます重苦しい空気の中で、水色の光だけが優雅に泳いでいる。
「えっと・・・お姉ちゃんっ!」
「わお」
重さを振り切るために、ちょっと大きな声。
それでも恥ずかしさは振り切れなかった。むぅ。しつこいやつめ。
「ふふふ」
あっ、得意げ。ものすごく得意げ。心なしかふわふわしてる光まで得意げに見える。
やっぱり笑ってるほうがかわいいなぁ。
「お姉ちゃん・・・わたしがしょーさんのお姉ちゃんです」
「いやちがうから」
それはそれ、これはこれ。
わたしにも、ゆずれない場所がある。
「ではおれいにしょーさんのこともお姉ちゃんと呼んであげましょう」
「おぉっ?」
それでいいのか、お姉ちゃんの威厳。
このすっぱりした切り替えが、実にヤチーらしい。
実のところ、ヤチーに『お姉ちゃん』と呼んでもらうのは・・・かなりまんざらでもない。かも。
そこんとこは気づかれないように、無関心なフリをする。
「ふーん・・・じゃあ、ちょっとやってみて」
「お姉ちゃんっ」
いきなり。
間髪いれず。
すぐさま。
はやい。心の準備とかするひまも無かった。
それは無防備なわたしのこころに直接ひびいて、体じゅうに広がる。
・・・お姉ちゃん、いいかも。
ねーちゃんはいつも、こんな気分でいたのかな?
いや、これはたまにだからいいのかも。
それとも?
「わたしがお姉ちゃんで、しょーさんもお姉ちゃんですね」
「いよいよわけわからなくなってきたし」
「しまむらさんもお姉ちゃんで、わたしがさらに・・・」
「もうそのへんで」
わかってる。
ちょっと止めたくらいじゃ、ヤチーが話し続けるってこと。
だから、『お姉ちゃん』が渦巻き、あふれかえるであろうその前に。
わたしだけに向けられた『お姉ちゃん』をそっと胸にしまいこんだ。
目指してたのとちょっと違う気がするけど、このまま明日からも続けていきます。
―――
すぅすぅ。
すっかり聞きなれてしまった寝息に、嬉しさと寂しさを覚える。
あれからヤチーは、遊び疲れるとちょくちょく寝顔を見せてくれる。
わたしも一緒にばたんきゅーのときが多いけど、今日は持ちこたえた。
あの日から、ずっと引っかかっていることがある。
ヤチーの寝込みに、いたずら。
それは、なんかこう、なんだろ、その、わたしの、なにかを、むずむずさせる響きを持っている。
目を合わせちゃいけない、けど、見たい、そんな感じ?
不思議。頭の名前を他のどの友達に変えても、そんな気分にはならない。顔にマジックペンで落書きするシーンが浮かぶ。
でも、ヤチーだけは、ちがう。
子供のわたしには、まだ早い悩みなのかな、と自分のどこかが感じている。
だからって、このまま大人になるだけでは答えを出せるとも、思えなくて。
もやもやなわたしは、とりあえずあまいお菓子を求めてリビングへ向かう。
「あっ」
「やば」
と。
リビングでねーちゃんがポッキーを食べている。
お菓子ハンターと化したわたしとしては、これを見過ごすわけには行かない。
「ちょーだいっ」
「じゃあ・・・残りあげる」
お、意外と素直。かんしんかんしん。
って。
「一本しか入ってないじゃんっ」
「いや・・・食べ切るつもりだったから・・・ごめん」
たった一本かぁ。と、ここで問題発生。
持って帰って部屋で食べようと思ってたけど、一本だと話は違ってくる。
よし、ここはプランAでいこう。
「おやおや、おやつの時間ですか?」
「げっ」
部屋の隅からひょっこり出てくるヤチー。なんというカンのよさだ。部屋を出るときは完全に寝てたくせに。
ここは・・・急遽思いついたプランBだ!
「えいっ」
「あぁー」
「あっ、ずるっ」
食べちゃえ!
こうしてしまえばわたしのもの!ふふん。
いつぞや、飴を食べられたときのしかえし。うん。
「ずるいですー。はむ」
ちょっ、ちょっと!?
無理やり、反対側から食べる気だ!
これは、俗に言うポッキーゲームというやつでは。
じゃない!かおが、顔が近い!ちかいって!
さくさくと食べ進むヤチーが、一瞬機械的に見える。
明らかにポッキーのことを見ている瞳に、少しの安心と不満を覚えた。
わたしはいつも、その瞳に吸い込まれてしまうのだ。
どきどきして、恥ずかしくって。
それでも目を閉じようとしないあたり、わたしは。
そして、おとなしくされるがままにしているわたしは。
このポッキーに、これ以上の何か、はたらきを、期待しちゃっているのだろうか。
ぽりぽり。半分。
ぽりぽり。半分の半分。
ぽりぽり。半分の半分の・・・ちかい!
も、もう本当に目だけしか見えないよ?目で、ヤチーでいっぱいだよ?
どこまでいくの?どこまでいってほしいの?
その答えは。
ぽきん。
「おや、半分だけ食べようと思いましたが。ちょっと食べ過ぎてしまいましたか?」
「明らかに八割いじょう食べてたけど」
「もっと口の中に入ってるのかと思いました。二倍くらい」
「うちの妹は化け物かなんかかいな」
わたしとの距離は、ここまで。
そう言われたような気がして。
「ん?食べられたの、そんなに悔しかった?また買ってきて・・・って、逃げること無いじゃん・・・」
不意に、残ったもうひとつの答えも、わかってしまった。
―――
「はぁ・・・」
さっきよりも広く感じる部屋。
いきなり飛び出しできちゃって、ヤチーびっくりしちゃったかな。
それとも・・・怒ってるかな。
やだなぁ。
わたしが。じぶんが。やだ。
「しょーさんっ、まってくださいっ」
ヤチーは、当たり前のように追いかけてきてくれた。
それを期待していなかったといえば、嘘になる。
「あの、すみませんでした、つい、たべちゃいました」
「ううん、いいよ」
いい。
べつに、そんなことで怒るほど、子供じゃないよ。
いつもどおりの見当違いに、ほっとする。
―――それでいい、はずだったのに。
「でも、もうちょっと、食べたかったなぁー」
わたしの中のあくまが、首をもたげる。
ゆっくりと。目を光らせて。その目が見てるのは、ヤチー?わたし?
初めて手にした、ヤチーの弱み。
捨ててしまうのが正しいと分かっているのに、それは甘すぎて、吸い付いて放せない。離れない。
そわそわするヤチー。
「わかりました・・・がんばってみましょう」
「がんばれー」
どろどろとした内面を見せずに、いつも通りに振舞える自分が、少し腹立たしくもあった。
「はいっ」
一瞬、さっと後ろに回した右手には、次の瞬間、そのお菓子が一本、握られていた。あまり頑張った印象は無い。
少し冷や汗が出る。
いくら不思議を体験しても、慣れるものではないなぁと思う。
「・・・なんでそっち持ち?」
「?」
思いっきりチョコのついた方を握っていることを指摘しても、意図は伝わらなかったようだ。
あれではお菓子会社の人も浮かばれまい。
「はいどーぞ」
「あ、ありがとう・・・」
どうやら一本きりのようだ。
そのことに対して、わたしの頭は都合のいい妄想を勝手に繰り広げる。
もしかしたら、期待、してる?
ポッキーはこれであわせて二本なわけで、ヤチーは丸ごと一本食べたわけではなくて、つまり平等にするには。
するには?
・・・もちろん、さっきの一本をヤチーが丸々弁償しようとした、と考えるのが、ふつう。
期待してるのは、ヤチーじゃなく、わたしのほう。
だけど、きっと、ヤチーは。
「じゃあ、さっきのお返しで、ヤチーがくわ、くわえたの、たべる」
「あいあいさー、です」
嫌がらないよね?
「ふょーふぁん、ふぉーふぉ」
「ん」
たべたい・・・のだけれど、ヤチーが頭をふらふら振り回すので食べれない。
目線も、あっちにいったり、こっちにいったり。
近づくと目を突かれそうだ。『どーぞ』じゃないと思う。
「ふひょ」
自分でもびっくりした。
ヤチーの両頬を手のひらで包んで、しっかり固定。
空気が漏れるまぬけな音に、少し吹き出しそうになりながら。
赤べこみたいな首の動きを止める。ぐらぐらと抵抗してくる。やめなさいってば。
ぎゅっと押さえたらすぐおとなしくなった。いつの間にかその瞳も落ち着きを取り戻している。
な、なんだか、これじゃあますます、アレな感じじゃないかぁ。
急に見つめないでよー、なんて贅沢な念を送りながら、ようやく食べ始める。
「いただきます・・・」
ぽりぽり。ぽりぽり。
粉っぽい欠片はあっという間に口の中の水分をうばって、からからにする。
噎せそうになりながらも、食べる速度は落とさない。
のまれたら、だめ。
やっと半分。一口を大きくしていく。
どきどきは大きくなりすぎていて、もう聞こえない。さくさく食べる音も、周りの音も。そのほうが都合が良い。
目は閉じない。閉じれない。目の前。
鼻がぶつかりそう。少し、首を左に傾ける。
最後に残ったポッキー。それを、すこし吸うように。
ヤチーのくちびるに、触れた。初めて、唇で。
ヤチーのおっきな瞳が、一瞬。更に大きくなる。初めて見る顔。
ポッキーを、抜き取って、顔を、離す。
「しょー、さん・・・?」
人生、初めての。
端から見れば事故かもしれないけど。
わたしには、明らかにその意思があった。
やってしまった。
やってしまったのだ。
さっきまで出しゃばっていたからだが、ロウで固めたようにうごかない。
短いポッキーをくわえて、たぶん、すごいまぬけ。
「これは、わたしのぶんですよ・・・?」
ちゅっ。
おかえし、といわんばかりにわたしの口からポッキーを取り返して、
見慣れた顔で、にっこり微笑んだ。
もうちょい甘くしたい
また明日
―――
「ちきゅーでは、くちびるを合わせるのはごく普通のことなのですか?」
フリーズしていたわたしが落ち着いてきたのを見計らって投げかけられた質問は、またわたしを固まらせる。
珍しくこちらを見ないまま動くくちびるが、どこかしおらしい印象を与えて、ぎくしゃくした空気をつくる。
なんだようその質問ぅ。ずるくないかぁ。
「ん、そう、わりとふつう、だよ」
そう答えるしかないじゃないか。
「そうですか。・・・じゃあ、しまむらさんともしてきます」
「ちょ、ちょっと、まって」
それはこまる。すごく。
引き止めて、振り返って・・・あ、にやっと、悪い顔してる。
ここでやっとわたしはからかわれていたことに気づいて、赤い顔が更に赤くなるのを感じる。
「・・・いじわる」
「わたしだってさっきはびっくりしましたよ?」
「・・・したんだ」
「しました」
わたしにとってはびっくりしたかしなかったかよりも、もっと気になることがあるのだけれど。
聞いてよいものか、迷う迷う。さっきの勢いなんて、どこ吹く風。
「では、わたしとしょーさんにとっては、ふつーということにしましょう」
「えっ?」
唐突な提案すぎて意味が分からないんだけど。そもそも何が?
「これのことですよ」
そっ、と。自然に。
二度目は、一度目から数分も経たずに。
きっとわたしの人生で一番その密度が高い時間なのだろう。
「なっ、な、ななっ!?」
「ふふふ、いがいとじゅんじょー?ですねぇ」
きざなセリフ。ドラマの見すぎだぁ!
ヤチーにあばすれキャラがまるっきり似合ってない。
それでもわたしはあたふた、まるっきり純情キャラというところが。
「ふ、ふつーって、いみ、わかんないし」
「ふつーのことだから、しょーさんの、したいときに、していいですよ?」
『しょーさんの』を妙に強調してくる。
なんなんだろうその提案は?
訳がわからない。ヤチーと出会って色々あったけど、今までで一番わからない。
「そのかわり、わたしにも好きなときに、させてください」
くちびるに指を添えて微笑むヤチーの言葉は、やっぱり意味不明で。
瞬間、ヤチーが『年上』であることを漫然と理解し。
ただわたしたちの関係が、今までにとは違うものになってしまったことだけは、わかった。
あのポッキーと共に、ヤチーとの間にあった何かも、砕けて無くなってしまったようだった。
答え?答えなんて・・・考えてもしょうがないよね?
―――
普通とは、何だろう。
「ごろーん」
「ご、ごろーんっ」
あれ以来ギクシャクしているわたしとは対照的に、ヤチーは絶好調のようだ。
今日もいつの間にか隣に来て、妙な遊びを強要してくる。
・・・急に出てくるの、やめてほしい。どきっとして、どきどきしちゃう。たぶん無理だろうけど。
「よいしょー」
「わっ?」
二人して布団に寝っころがっていると、ヤチーがわき腹に抱きついてくる。
ここのところ、こんな感じでやたらボディータッチが多いのだ。
毎度毎度こんなことされていたら、いろいろと、その、持たない。
なんて言いながらも、まあ、しっかり抱きしめ返してるわけだけど。
お腹には手が届かないので、仕方なく頭を包み込む体制になる。
「あったかいです」
「・・・わたしも」
はじめてかも。夏に『あつい』じゃなくて『あったかい』って感じたのは。
じんわり、ヤチーと触れている場所から伝わる、心地よさ。
それ自体は熱を持っていないのに、からだを変にあつくさせる。
「・・・むぅ」
横になったはよしとして、ここからどうなるんだろう。
ヤチーは離してくれそうもないし、かといってこのまま寝付けるわけも無い。
こういう時、ヤチーなら『つまらないです、何かしましょう』と言ってきそうなものだけれど。
気になるその表情は、くしゃっとなったシャツのかげで隠れてしまっていた。
「ふむ」
わたしはわたしで、勝手にさせてもらおう。
「よしよし」
頭を撫で始めると、一瞬ヤチーがぴくっとする。
・・・よし。落ち着いて撫でられている。相変わらず、すてきな髪質。さらさら。
と、思ったら。
ぐいぃっ、と手が伸びてきて、頭がせり上がってきて。
「なでなでも、ふつうですか?」
なんて聞いてくる。またか。
あれ以来ヤチーは、なにかと『ふつうですか?』と聞いてくる。
なんでもかんでも『ふつう』にしてわたしとの距離をやたらと縮めてくるのだ。
うれしい、けれど、その勢いにちょっとついていけていないのも事実で。
「うん、ふつーだよ・・・っと!?」
「ばふー」
今度は、首の後ろに手をまわしてきて・・・って!ちょっと!
・・・キスされるかと思った。
こんどは耳どうしがこすれるような体勢の抱き合い。
こっちのが恥ずかしい。そしてうれしい。
すごくあったかい。すごくちかい。すごくやわらかい。
どうしよう。お互い薄着だから感触が、やばい。
だめだだめだ。これいじょうかんがえるな。
なんて思って、結局余計に意識してしまう。
そんな、ごくありふれた昼下がり。
百合ゲーのせいで遅れが出てます
明日も投稿・・・できたらいいな
―――
たぶん、今年で一番暑い日の昼間。
太陽が肌をじりじり焼くチャンスをうかがっているときに、わたしはアイスを求めて外へ出た。
コンビニの涼しさを感じてしまうと、家に帰るのさえ面倒に感じてしまう。
それでもえいっとやる気を振り絞って、、外へ。
つやつやの木の葉が、まぶしい光を浴びて、塗りつけたような銀色に輝いている。
その輝きにつられてなのだろうか、こちらへ近づいてくる小さな人影。
「こんにちは」
「あ、やっぱり」
やっぱりって何ですか、なんて聞かれたって、わたしにも分からない。
ただ、家で一人アイスを食べるより、二人で食べる光景のほうが強く印象に残った。
だから、ビニール袋の中にはレシートと、二袋のアイスが入ってる。
早く帰らないと、溶けちゃうな。
うだるような暑さの中を、早足で通り過ぎようとする。
早く歩くと暑いし、ゆっくりしているともっと暑い。微妙な調整が、うまくいかない。
横ではヤチーが、文字通り涼しい顔をして、わたしの横を歩いている。暑くないのかな?
家が目の前、というところでプール帰りらしい、すこしだけ年上っぽい女子集団とすれ違う。
「ねぇ、今の子見た?青かった」
「すごーい、へんなのー」
むぅ。ヤチーは全く気にしていないようだけど、わたしにはちょっと引っかかった。少し、早足になる。
そりゃあ、ヤチーは変じゃないのか?って聞かれれば、間違いなく、『変』なんだけど。
さっきのひとが言ってた『変』とわたしの思う『変』は絶対、ちがう。
ふふ。たぶん、みんなは気づかない。
ヤチーの魅力、その『変』なところのよさ。
わたしが。わたしだけが。
「ただいま!」
さあ、涼しい部屋で、アイスを食べながら。
今日はヤチーと、何をしよう?
―――
「これはまた、かわったものですね」
「そうかな」
前から思ってたけど、ヤチーがそういうことを言うと嘘っぽい。
よく見慣れた水色のシャーベットアイス。ふたつ。
ヤチーが持ってると宇宙と交信する道具のようにも見える。
一応、ちゃんとどんなものか教えてあげる。あまいよ。
「ふむ、たしかにあまいです」
「わっ、たれてる、たれてる」
「おおっと」
木の棒をつたって腕に流れた汁を、初めてとは思えないくらい上手に舐めとる。
全部舐めとり終わって、はっと気づくと、わたしのアイスは床と腕にたれまくっていた。
まずい。床はまずい。怒られる。
それもこれも・・・ぼーっとなったのはヤチーのせいだから。
残りのアイスを二口で飲み込んで、濡れ布巾を探しながら、ちょっぴり毒づく。なんてね。
思った以上にべとついて取れにくかった汁を、何とか証拠隠滅して、ほっと一息。
ヤチーはといえば・・・何か手にとって見てる。
なんだろうと思えば、それは新しく買ってきたドロップスの缶だった。
・・・また真っ白白にされるのは、勘弁して欲しい。
「ひとついいですか」
「どーぞ」
まあひとつならべつに。
からからと振って、ひとつ出す。かと思いきや、わたしに缶を差し出してくる。
「食べさせてください」
それはびっくり。でも最近のことを思い返すと当たり前のようにも思えてくる。
「何色が良いの?」
「んー、なんでもいいです」
「そういうのが一番困るんだけどなー」
「では、しょーさんの好きな色で」
・・・それは、わたしの食べたい色を減らすということになるけど、分かっているのか。
明らかに分かってない顔だった。
ふぅ。仕方ない。
からから。からから。
ころん。一回目で出てくる、オレンジ。
少し驚きつつ、つまんで、口元へと運ぶ。
どきどき。口が開いて・・・って、もっと大きく開けないと・・・指、思いっきり当たっちゃう、よ・・・?
「そーじゃ、ないですよ」
「う、えっ?」
ど、どういうこと?
もしかして、いや、だった?
わたし、調子に乗りすぎちゃった?
やばい。やばい。ちのけが引くとは、こーいうことか。
「うーん・・・どうしましょうか」
「あ、う・・・いや、だったかな」
「・・・じゃあそれ、たべてください」
「えっ?」
「手に持ってるやつです」
これは、言うとおりにすべきなのかな・・・。
ぱくり。少し安っぽいオレンジの味が口に広がる。
「んちゅ」
「んっ?」
オレンジの味に気をとられて、一瞬何が起こったのかわからず。
ヤチーが顔をくっつけてきたのだと分かり。
う、あぁ!?
し、した?
べろが、入ってきてる!
わたしのしたを、追いかけて、右へ、左へ!?
これはもう、感触がどうとかやわらかいとかのレベルじゃない!
どうやら目当ては舌のうえのあめだったようで、舌でくるっととると、抜いて、顔を離した。
「こういうことです」
「ど、ど」
どういうことなの、と言い終わる前に、力が抜けて、しなっと。
息があがったままで、へたりこんでしまった。
よくわかんないけど、たぶん・・・じょうず、だったんだと・・・おもう。わかんないけど!
あだしまの百合ゲーとかやりたい
でも選択肢選べたらそれは安達さんじゃないような気もしたり
また明日かきたい
―――
普通とは、何か。
それはとても難しい質問で、それでもわたしがわかる範囲でいうなら、寝て起きて、食べて、いつもの日常。
普通は、どんどん変わっていく。一年前の普通と、今の普通は明らかに違う。どちらも、わたしにとって大切な普通だ。
どちらが大切かなんて比べるべきものではないとわかっていても、わたしの頭は勝手に順位を付けてしまう。
でも、ひとまずそれは置いておこう。
そこは夏休みの宿題よりも、ごちゃごちゃと後回しにされているものたち。
やらなきゃなぁ、と思っても、気づいたら明日。その次の日。
もしかしたら、わたしはこの状態を気に入っているのかもしれなかった。
「考えごと、ですか?」
透き通った声。おそらくその机の上はいつもまっさらで、どこからか拾ってきたものが積み上がることなどないのだろう。
少し、寒気がした。
「いや、ちょっと、寒いかなーって」
「いまは夏ですよ」
そうじゃなくて、クーラーが効き過ぎて。
と、言いかけてやめた。
でも隠すのは気が引けて、本当のことを一部だけ、わたしに都合よく嘯く。
「ヤチーがもっと近くにいたら、寒くなくなるかも」
「・・・」
「な、なんてね・・・わっ!?」
「わぅっ!」
「うぎゃっ!」
よくわからないうめき声?をあげながら、わたしの方に近づき・・・もとい、タックルしてくる。
わたしは床に大の字に倒れ、ヤチーがその上にまたがっていた。びっくりするほど軽い。
そのくせ、わたしをつきとばす力はちゃんとあるのだった。
「・・・これは、ふつーにした覚え、ないんだけど」
頭を打ったわけではないけど、背中がちょっと痛かった。
じとっと抗議の眼差しをつくる。
「す、すみません、からだが、かってに」
「かってにってなにさ」
「それは、なんというか、その・・・ぶわーっと」
まるで要領を得ない、水を掴むような答え。
いつものことだと思う一方で感じる、微かな違和感。それはわたしの中で、確信めいたものに変わっていった。
ヤチーの瞳を、じっと、下から覗き込む。
「な、なんですか・・・しょーさん」
やっぱりおかしい。らしくない、ちょっと弱気な表情。
なるほど。さっきヤチーが言っていたこと、少しだけわかったかもしれない。ぶわー。
両手をヤチーの肩に添えて、そっと抱き寄せる。
「ちゅっ」
「・・・!」
あれ以来ヤチーはちゃっかり、度々舌を入れてきたが、わたしから入れるのは初めて。
口の中で舌を動かすたび、ヤチーも何かしらの反応を見せる。肩が震えたり、足がぴくってなったり。それがあとをひく。
小さい歯を。舌を。頑張って探して、味わう。湿ったものがこすれ合う音も、今は気にならない。
時々、ヤチーの口から押し殺したような声が漏れ出すたびに、わたしの心は蒸気を吸って膨れ上がって、萎む。
息が苦しい。名残惜しいけれど、口を離す。
「ぶはぁ、はぁ、はぁ」
わたしたちの間につばで橋が架かって、顔を離すと跡形もなく消えた。なぜか恥ずい。
こんなにとろっとしてたっけ、と顔が赤くなる。
「きゅーに、は、びっくりしますよ・・・」
「お互い様だよ」
『お互い様』って言葉、なんか良いな、と思った。
その格好のまま、どちらからともなく、クスクス笑いだす。
なぜかこの体勢をお互い解こうとしないので、ごろんと、首だけ横を向く。
こうしてると、周りの音が良く聞こえてくる。わたしの心臓の音、ヤチーの息の音。どこからか聞こえてくるずんずんという振動。
それは、部屋の外から足音が近づいてくる音だと、すぐ気づく。
まずい。
なにがまずいかわからないけど、多分まずい。
今この状態を見られるのは何かいろいろと問題がある気がする。
「ヤチー、そ、そろそろおり、もじょ、ろう」
焦ったせいでよくわからない単語になったが、意味は伝わったようだ。
「そうですか・・・」
「うん、うん」
そうそう、名残惜しいけど、ね。
「・・・じゃあ、最後に、」最後?
言うが早いか、わたしに覆い被さってくる。
なっ!なんでそーなる!
その瞬間、ドアが開いた音がした。入ってきたのはねーちゃん。
何かを言おうとして開いた口が、こっちを向いて、開きっぱなしになった。
あぁ、お母さんよりはマシかな、という気持ちと何かが終わった、という気持ちがごっちゃになった。
毎日更新とは一体
ちょっと書き溜めたのでたぶん明日も
―――
私は、どちらかといえば妹思いな方だと思う。
今日だって、誕生日でもないのに、お菓子買ってきてやってるし。
しかしこのお菓子には、罪滅ぼしのような意味合いも含まれている。
ここのところ大分妹を放ったらかしていた。だからって嫌われるとも思わないが、そういう問題ではないのだ。
口では言わなくてもよく拗ねる。本心を口に出さないところは、ちょっと遺伝かもしれない。
弁明しておくと、私が妹をうざったいとか思ってるわけではない。言うなら、ただちょっとだけ、ヤシロに甘えていたのかもしれない。
夏休みが始まるとヤシロは毎日のように家に来だした。あれでも学校には通っていたのか?違うだろうなぁ。
そのくせ私に話しかけてくる頻度は変わっていない。
多分妹と遊んでくれているのだろう。でもそれが放っといていい理由にはならない。
最近では妹を見る回数とヤシロを見る回数に差が無くなって来たように思う。
良くない。
昨日の夜ふと気付いて反省し、早速行動に移す。
多分ヤシロも来ているのだろう。そう思って三人分用意してある。
なんだか改まってこういうことをするのは、変な気分だ。
自分の部屋を開けるのに少し戸惑って、開ける。
あれ?いない?
そんなはずは、と端の方を見て、比喩でなく、固まった。
なんだ、あれは。
「ん・・・?あ、しまむらさん」
ふわっと水色の粒子を振りまきながら、ヤシロがこちらへ振り返る。
ヤシロが頭を引いて初めて、妹の顔がはっきり見える。
その顔は、まさに何かまずいものを見られた、と言わんばかりだ。そして息が上がっている。ちょっぴり涙目で顔も赤くて、見ているこっちが恥ずかしくなる。
「あ、あの、これは、ね・・・」
「あ、うん、えと」
まだ頭の中がパニックだが、こういう時こそ年上の余裕を見せなければ。
スルー。ここは、やんわりスルーが正解。
「えーっと・・・なんでもない・・・のかな?」
「なんでもなくないです」
ヤシロが出てきてきっぱりと言い切った。そこにはほんの少しの固さを感じる。
せっかく人が気を使っているというのに。大人しく折れてくれてもいいんじゃないか。
「じゃあ・・・なんでもなくはなかったんだね?」
「はい」
「じゃあそういうことで」
「そういうことで」
もうどうしたら良いのかわからないので、ヤシロのペースに合わせることにした。
うん。もう曖昧になったし、十分でしょ。
もう、いいよね。
「それで、何しに来たの」
ずっと黙っていた妹が口を開く。そうだった。あまりにもあのインパクトが強すぎて目的を見失っていた。
手に持ったそれを掲げる。
「わぁ、お菓子です」
「たまたま買って来たからねー」
本当のことを言うのはやめておいた。
私も安達と付き合ってきたおかげで、言うべきでないことがなんとなくわかるようになってきたから。
それにしても驚いた。
まさか、うぅ、身内のこういうのって思ったより恥ずかしいなぁ。
心なしか口が重い。
「まぁ、別にいいと思うよ、私は」
なんて、曖昧な肯定にするだけで精一杯だった。妹も「そ、そう」なんてそっぽを向いて答えるので精一杯のようで。
ヤシロは何のことだかわかりません、という顔をしている。こらこら。
この事件は私の今年度重大事件暫定一位に滑り込んだ。てっきり安達がベスト3まで占めると思っていたのだけど。
もしこの話したら安達は拗ねるだろうなぁ。なぜか。
わたしもいつかそういうこと、誰かとするんだろうか。まあいつかはするだろうけどさ。
誰だろう。思いつかない。まあ、そのときが来たら分かる。
少なくとも妹は、十分良い相手だったではなかろうか。
いやごめん、さっぱりわからん。姉の面子丸つぶれ。もういいや。
安達に電話でもして、切り替えよう。
次で最終回の予定です。
もう少しお付き合いください。
―――
お祭り。花火大会。盆踊り。
誰かから誘われれば行くけど、自分から行きたいとは思えない。
今日もクーラーの効いた涼しい部屋からガラス越しに見る花火は、きれいだった。
でも何でだろう。今日はちょっと、外に出てみたくたくなった。
窓をあけて、少し汚れたサンダルを履いて庭に出る。
引き締まった部屋の空気から、むわっとした夏の中へ踏み出す。
庭には気持ちの良い風が吹いていて、花火の代わりに白い煙が空に佇んでいた。
あちゃー。ゆっくりしすぎたかー。
このまま戻るのも癪なので、白くもやのかかった星空をしばらく眺めることにした。
「こんばんは。騒がしい夜ですねー」
来た。
本当は、待ってたよ。
「花火だよ。知ってる?」
「見たことはありませんでした。きれいなものですね」
知ってたんだ。
「確かにきれいだけど、わたしは月のほうが好きかな。静かだし、輝いてるし」
それに、いつでも見れるし。
「つき?」
「ヤチーはどう思う?」
「・・・どれでしょう?」
「ほら、あの光ってる、丸いの」
「・・・あぁ、あの衛星ですか」
ふんと鼻を鳴らして、えらそうに言う。
「わたしの故郷のあれに比べれば、なんでもないですね」
「あれって?」
「そうですね・・・あのつきよりも何倍も大きくて、輝いていて」
嬉々として語り出すヤチー。次々と飛んでくる聞きなれない単語。とにかく、この景色よりも派手に輝いているということらしい。
たしかに、ヤチーのような輝きが近くにあったら、月も、太陽さえ霞んで見えてしまうだろう。
ヤチーは間違いなく、ここよりも輝いている世界の住人。ヤチーが光ならば、わたしは影なのだろうか。
でも、それでは。
「ヤチーはいつまで、『ここ』にいるの?」
「・・・」
「ねぇ」
「・・・わたしは、ドーホーを捜しにここに来ています」
「その、どーほーってのが見つかったら?」
「帰ることに、なるでしょうね」
帰る。それはわたしの手の届かない場所に行ってしまうことに間違いなかった。
そんなの、いやだ。
いつだったか交わした約束。今のわたしはあの時とは違う。もう、ごめんね、では許せなくなってしまっている。
そしてそれは、ヤチーも同じではないか。そう、期待していた。いや、している。
「見つかれば、の話ですよ」
少し表情を崩して、柔らかく言葉を紡いでくれる。
言い終わるとそこで息を吸って、真剣な表情になる。
「でも、もしも」
「もしもしょーさんが、わたしと一緒に居たいと言うならば・・・」
そんなの、決まってる。
わたしにはうなずくことしか出来ない。。
「・・・まあ、見つけても、見なかったことにするのだって、やむなしでしょう」
真剣な顔つきのままで。
「え、そ・・・そんなことで、いいの?」
真剣に持ちかけられたアイデアは、拍子抜けもいいところ。
「良くは、ないですが」
そりゃそうだろう。ここに来たそもそもの目的なのに。
「でも仕方ないです。今のわたしなら、そういう優先順位になるのですから」
う。それって。
不意に向けられた、明確な好意にからだじゅうが沸き立つ。
「そもそも、ここのところドーホー捜しは全くはかどっていません。主にしょーさんのせいで」
「わ、わたし!?」
わたしのせい?
そんな、と考えると思い当たることだらけだけど。でもそれは本当にわたしのせいなのか?
・・・そういう疑問は置いといて、それを『わたしのせい』と言ってくれたことがたまらなく嬉しい。
「そうですよーこまりますー・・・なんとか、してくれますか?」
「それは、出来ないかなー」
出来ないし、する気もない。
そうですか、と笑うヤチーが髪を揺らすたび、水色の光が広がって、空へ昇る。
光が星空に溶けて、そこはまるで、わたしたちだけのプラネタリウムだった。
「きれいだね」
「ふむ、そうかもしれません」
どこで聞いた話だっただろう、夜は女を美しくするとか。概ね、その通りだと思った。
水色の星々と、水色の太陽。
その炎がわたしを焼くことはもうないと、今ならそう言える。
だって、ほら。
「こんなに、あったかい」
隙をついて、後ろから抱きつく。星空の代わりに視界を覆う髪もまた、神秘的な美しさをはらんでいた。
とっくに限界を超えたわたしのあたまは、意思じゃなく、気持ちで動いてる。
気持ちを、のせて。
後ろから、左耳に頭をよせる。
「だ、だ、だぃ、だ」
「だい・・・なんですか?」
だめだ。
気持ちだけじゃ、言えない。意思だけでも、きっと言えない。じゃあどうすればいいの?
目の前が水色から肌色に流れる。その目はどこかぎこちなく、わたしを見ていた。
「何か言いたいことが、あるんですか?」
「ヤチーこそ」
「しょーさんから、どうぞ」
「・・・」
ぐるぐる回る、思い、想い、重い。
しかめっ面になるのも気にせずに、必死で出口をさがす。けれど、届かない。
「ふふっ」
「何がおかしいの、さー」
「いえ・・・そんな、別に、今でなくたっていいと、おもいますよ」
また明日。その次の日。さらに次の日だって、あいに来ます。
その日まで、待ってます。
そうはにかんだヤチーの笑顔は、この星で、宇宙で、私だけのために向けられたもので。
ずるい。そんなこと言われたら。
口にできない想いは、くちびるにこめて。
伝わるといいなと、願うばかり。
これで終わり、のはずだったのですが、しょうもない蛇足を思いついてしまったのでそれを投稿してから落とします。
投稿は次の月曜夜あたりになる予定です。
―――
「あなたのお家に泊まらせてください」
曇り空の下を散歩しているとばったり出会った、ヤチーの第一声はそれだった。
飽きないなぁ。今度は何を思いついたのかな。
いきなりでちょっと面食らいつつ、特に断る理由もないのでいつものように一緒に家へ向かう。
「田舎のじょーちょあふれる、あじのある家ですねぇ」
「ごく普通の一軒家だと思うけど」
どうやら何かの旅番組でも見て、それに影響されたらしい。
いつ見ても代わり映えのしないこの家に、情緒などあるのだろうか。
「ではおじゃまします」
「ただいま」
「玄関の作りも実に・・・えーっと、和風?でしょう。はい」
すでに旅番組のノリに飽きてきてるヤチーは放っておいて、冷蔵庫から冷えた飲み物をいただく。
くぅー、しみわたる。
一口じゃ足りない。二口、もっともっと。
あ、ヤチーが飲みたそうにこっち見てる。
自分でやって、と適当な指サインのようなものを送る。
わかった・・・のかな?なんかゆらゆらしてるけど。
大丈夫、ヤチー?声をかけようとして。
「ちゅー」
「ごっほっ!?」
「うわぁっ」
何の前触れもなしに、くちびるを奪われる。
何!?なんで口移しって発想になるの!
「ちょっとしか飲めませんでした」
「いやちがうでしょ」
「違いましたか?」
「ちゃんと指でコップ指したじゃん」
あぁー、と間抜けな返事。でもつづく言い訳が、しょーさんの目がそう言ってる気がしたんです、では言い返しづらい。
やばい。わたしそんなオーラ出てたかな?そんなことで分かるものなのか。でまかせか。うーむ。
気をつけよう。
「ではごちそうさまでした」
どういう意味、と一瞬妙な考えをした自分に、さらに一瞬後の自分が赤くなる。ちょっと消えたくなった。
ジュースまみれの床を見て、もっかい消えたくなった。
―――
「そこのまくらとってくださいー」
「んー」
ヤチーがお泊り。実のところわたしは大分ドキドキしていた。
前に泊まったことは何回かあったけど、その、あの、最近は、ない。
しかしいつもと変わらないこのダラダラした空気。
何か考えがあって言い出したのかと思ったけど、間違いなく無い。
そもそもヤチーに計画性というものがあるのか、そこがまず疑わしかった。
ゴロゴロしはじめてるし。昼寝する気なのかな。
チラリチラリとまくらの後ろからこっちを見てるけど、気づかないフリをした。
ここでほいほい誘いに乗ったら、ものすごく安っぽいやつみたいじゃないか。
流されないぞ。
せっかくのお泊りなら、もーちょっと特別なカンジで、ほら、こう・・・あるんじゃない?
とんとん。
ノック。お母さんであるはずはない。ので。
少し濡れた黒っぽい髪が、ぬっと入ってくる。
「はーい」
「ごはんだよー、ってあれ、ヤシロまだいたの?」
「今日はおとまりします」
「また急に。別に良いけど」
ごはんだから来な、ってひとまとめに呼ばれる。ちょっとほっとした。
お母さんのことをノーテンキだとか言ってたけど、ねーちゃんもなかなかだと思う。
―――
「おしょーゆとってください」
「はいはい」
いつもより一人多い食卓が、わたしにはとてもまぶしく見える。
みんなが意外とヤチーについて疑問を持って無いのが、ちょっと複雑な気持ち。興味持たれたらそれはそれで、困るけど。
うちの一家は変わり者ぞろい、ということなんだろう。
わたしだけマトモ。うん。
そんなもやもやなんか吹き飛ばすしょーげき発言が、いきなりお母さんからとびだす。
「食べ終わったら、あんたたち、お風呂入っちゃいなさい」
「はーい?」
あんた、『たち』?
たちって、ねーちゃん、もう風呂入ってるけど?
まさか。まさか。まさか?
「青い子は、着替えとか持ってるの?」
「だいじょーぶです」
何が大丈夫なのだろう。いやそんなことより。
一緒にお風呂。なのだろうか。やっぱり。やっぱり?やっぱりってなんだ!
ほらいきますよ、って待って!心の準備させて!
―――
「ふぅぁうぁ・・・!」
布団が湿っぽくなるのも気にせずに頭からまくらにつっこむ。
でもってそのままぐりぐりとこすりつける。
顔から火が出そうだ。ひんやりする布団がありがたい。
お風呂上がりの扇風機って、こんなに気持ちの良いものだったのか。
結論から言うと、なんかもう、よくおぼえてない。
ただ、からだのつくりは、変わらないよね、あれ。たぶん。
いや、みてないって!目に入っちゃっただけだから!
はぁ、はぁ。きりかえ!
「ヤチーは、パジャマとか着ないの?」
「わたしの服はこれだけです」
もったいない。色々似合いそうなのに。
頭の中のヤチーを着せ替え人形にして、イメージする。やっぱり水色かなぁ。ズボンよりスカートだよね。うん。いや。
どれも本物には程遠いイメージなのでやっぱりやめておいた。目の前に居るんだから、妄想は必要ない。
「でもそれじゃ寝にくいでしょ?わたしの貸してあげる」
「・・・では、お言葉に甘えましょう」
がさがさと時間をかけて棚から選び出したのは、水色の薄い、ちょっとヒラヒラしたキャミソール。我ながらよくこんなの持ってたなと感心する。えへん。
下は白いホットパンツ。決して足がよく見たかったとかではない。決して。そんなことは。
「似合う似合う」
「おー、これは、動きやすい」
パタパタと暴れて着心地を確認。わたしのいつも着ている服がヤチーを包みこんでいると思うと、なんとも言えないぞくっとする感じがする。
いつもより身近に感じられるのが、嬉しいのかな。
とんとん。
「はーい」
「あ、えと、私今日物置部屋で徹夜で勉強するから。・・・じゃ、ぇ、おやすみ、二人とも」
ばたん。
突然やってきて、言いたいこと言って出て行ってしまった。
え、なんなの。おやすみを返す暇も無い。
ねーちゃん、徹夜で勉強ってタイプじゃないよね。
「なんだったんだろ」
「・・・これで、二人きりですね」
二人きり!
それなのかな?
もしかしてねーちゃん、気を遣ってくれて?
うぅ、ありがとう、なのかな、これは。
凄いチャンスであると同時にピンチのような気がする。
前は一つの布団でぴったり、ぐっすり寝たけど、今じゃ眠れる気がしない。そもそもそこまで近づけない。
ああもう寝たい。もう早く寝てしまいたい。
でも寝るときが一番大変。
複雑だー。
「そろそろ寝ましょう、そうしましょう」
はっと気づいて見た時計の針は横につぶれたV字。布団に入るには少し遅いくらいの時間だった。いつの間に。
振り返るとわたしの布団にはヤチーが既に寝そべっていた。はしっこにすごく寄って。
小さな手で大きな余白をポンポン叩いて言う。
「さあさあ、どーぞ」
「あ、ぅ・・・ん」
そこはもともとわたしの布団、と威勢良く言おうとして出てきたのは情けない了承。
すごすごと布団に入っていくしかないのが一層情けない。
待った。電気消さなきゃ。
「先に電気消すねー」
「はーい」
パチンと入り口のスイッチを押す。いつもの電燈ひもは使わない。なんとなく、真っ暗の方が良い気がした。それに、ヤチーがいるなら暗くても怖くない。
まだ目が慣れない暗闇は、わたしの期待をさらに膨らませる。今日は未知への恐怖じゃなく、未知への期待が勝る。
「こっちですよー」
まだしばしばする目でもぼんやり捉えられる水色の光。便利だなぁ。
光を道しるべに、布団の中へ潜り込む。
薄いタオルケットを隔てて、やわらかな質感を感じる。
どくん。どくん。
心臓が跳ね上がる音がうるさいぐらいに、静かで真っ暗な空間。
まるでわたしの考えていることが全て読み取られてしまいそうな、錯覚にとらわれる。
全てを見透かす、水色の瞳。
口元に、ちょっといたずらっぽい笑みをたたえているように見える。
「・・・なんか、どきどきします」
「ん、かも」
前とは違う。変わったのはわたし?ヤチー?多分両方なのだと思う。
タオルケットの感触とか、二人で真っ暗のなかで寝てることとか、この時間に一緒にいることとか。わたしには全て特別に感じる。
「そういえば気になることが」
「なに?」
「しょーさん、お風呂でそっぽ向いてるふりして、横目でわたしのこと見てましたよね」
「ご、ほっ!?」
むせる。
ばれ、てた。というか、やっぱり見てた。うん。だよね。
「わ、わかっちゃっ、た?はは」
「もちろん、わたしはずっとしょーさんを見てましたからねっ」
あっけらかんと言い切られると、むしろこっちが恥ずかしくなる。
こんな思いをするなら、開き直って普通に見てれば良かったぁ。ムリだろうけど。
「ふふ、しょーさんっ」
「な、なにやい」
わたしは今、もーれつになさけないのだ。さっきの自分が。
「見たいんですか?」
いつもと変わらないトーンで尋ねてくる。おなかの奥からなにかが飛び出して来そうになって、必死で押し留める。
「あ、それとも、触りたいですか」
「な、な、うぇっ・・・と、えぇ!?」
「他のひとならちょっとヤですけど、しょーさんになら全然オッケーですよ」
まるでいつもの、今日の、『まくらとって』と同じ声色で朗らかに言う。
じゃあわたしも、いつも通りにあわせて答えようか?
でもわたしにとってその質問の意味はもっと深くて、こい。
わたしはあまいかおりに惹かれた蝶のように。
本能のまま、蜜を求める。
―――
「えっと、こうですか?」
さっきのお風呂の時といい、ヤチーは服を脱ぐ時ためらいが無いみたい。目の前にはキャミソールを肩までたくし上げたヤチーがいる。その顔はまくれ上がった布で見えない。つまりわたしのことも見えない。
ここぞとばかりに、ヤチーのからだを見る。なめまわすように、ってこんな感じなのかな、たぶん。びっくりするほど自分に正直になっているみたい。
変。毎日見ているじぶんのとほとんど変わらないはずなのに、こうも心がめちゃくちゃになるのは、なんでだろう。
わき腹のちょっと上辺りをなぞる。「ひゃっ」さらさらした手触り。
おへそ。「ちょっ、と、んっ」強くいじると痛いだろうから、やさしく。
すりすり・・・っと。あれ。
ヤチーそれ、かお、わざと隠してるよね?見られたくないの?
・・・ちょっと、気に入らないなぁ。
わき腹を撫でる手を、パーからチョキに変える。
「こしょこしょ」
「ひゃっ!ひゃははっ!しょー、さん、や、めっ!」
「んー?なにー?聞こえないよー?」
「ひゃはっ!ひゃはははははは、はぁ!」
わたしはくすぐられた経験なんて、ねーちゃんぐらいにしか、しかも片手で数えるほどしか無い。
少なくともその時はなんかの罰ゲームだかお仕置きだかで、正直嫌だった。
でもどうだろう。ヤチーがちょっと喜んでるように感じるの、気のせいじゃないよね?
とにかく、くすぐってるわたしがいい気分なのは間違いない。
すごい。ぞくぞくする。
ヤチーの上ずった笑い声がわたしのなかに流れ込んできて、内側から溶かしていくようだった。でも溶けて無くなったところがヤチーで満たされるのなら、それも構わない。
ちょっと反応がワンパターンになってきたので、移動移動。スベスベのおなか、おへそー。
「はぁ、はぁ・・・はぁ」
「んひゃ!?ぁっ、ぅん、あぅ・・・ひっ!?」
うや。声がおとなしくなっちゃった。
喉の奥からしぼりだしたような、いや、抑えてるのかな?
なんか、こっちのがやばい、かも。
「やちー・・・やちぃー・・・」
「うぁ、んっ!・・・はぁ、ぁん、ひっ!」
びくびくはねるヤチーのからだがたまらなく・・・たまらなくて、左手をまわす。
こうするとからだの動きをもっと、近くで感じられる。体温も。あと、いろいろと。
「ぁう、やっ、んあっ、あっ!」
ヤチーが一際大きい声をだして大きくはねる。と同時にいつの間にか背中にあった両手がパジャマをぎゅーっと握りしめてくる。びっくりしたわたしのすべての動きがぴたっと止まる。
それが『やめて』の合図だったと気付いたのはヤチーの潤んだ瞳を見たときだった。頬は紅くなり、呼吸もわたしより乱れてる。
「・・・しょーさんの、えっち」
「なっ・・・!?」
そんな、そんな、ことは。
わたし、くすぐってただけだし。そりゃ、まぁ、ちょっとだけ、いろんなくすぐり方したけど?
「・・・へんな声だしてたヤチーのほうが、よっぽど」
「へんな声なんてだしてません」
「うそつきー」
「だしてません」
だめだ、顔がにやけちゃう。
ヤチーはちょっとむくれっつら。
「それじゃ、かわいーのがだいなし・・・」
むにっとほっぺを横に広げる。うん。やっぱりこっちのがいい。とってもいい。
おっ。にゅっと手が伸びてきて、わたしのほっぺも横に広がる。あふ。
分かりづらいけど、たぶんしたり顔のつもりなのかな。
あっ、ヤチーが何言おうとしてるかわかっちゃった。
おかえしー?違うよね。
「おふぉろいー」
おそろい。
水色の目がお皿になる。
指先から力が抜けて、へたってなった。
「まさか、しょーさんがちょーのーりょくしゃだったとは」
「えへん。すごいでしょ」
「わたしにも教えてくださいー」
ころころ変わる表情、話題。
まぶたが重くなってきても、面倒に感じないくらい楽しい時間。
でもそろそろげんかい、かも。
気が緩んだスキに疲れがはいりこんで、からだが急に重くなる。
ねむい。おやすみ、ヤチー。そう言おうとして。
眠くて眠くて、ちゃんと舌がまわらない。小さなうめき声になってしまう。でも。
「そうですか、おやすみなさい、しょーさんっ」
だいすきな笑顔を見てから、目を閉じる。
なんだ、ちゃんとやちーも、つかえるじゃん、ちょーのー、りょく・・・。
おでこに感じる、やわらかい感触。
あったかい感覚が広がって、からだの奥まで、じんわりと流れ込んでくる。
それはたぶん、ちょーのーりょくよりもっと、すてきなチカラ。
おわり。エロいのが書きたかっただけです。この二人はそういうことしないよ、って人にはすいませんでした。
ヤシロの挿絵が少なすぎてそらメソのノエルとイメージが同化してきています・・・
何が言いたいかというとあだしま漫画化かアニメ化はよ
ご覧頂きありがとうございました。
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