【オリジナル童話】 『いちばんつよいヤギ』 (19)


一回で読み切れる程度の短い童話を書いていきます。

よろしくお願いします。



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むかし、ある島に人間とヤギが暮らしていました。


人間は、ヤギをつかまえて、ミルクを絞り、時には殺してその肉をたべました。


ヤギたちは、山のなかで人間につかまらないように、おびえて暮らしていました。


ある年の春、とても大きなヤギが生まれました。


お母さんヤギは、その子にアダムと名付けました。


アダムは、山の中ですくすくと成長し、やがて山のヤギのリーダーとなりました。


アダムは、リーダーとしてふさわしいヤギになるため、長老たちに話を聞きました。


長老は言いました。


「リーダーとしてふさわしいヤギは強いヤギだ」


それを聞いたアダムは、毎日いっしょうけんめい角で戦い、ついに一番になりました。


そんなアダムを見て、別の長老が言いました。


「リーダーは強いだけでなく賢くなければならない」


それを聞いたアダムは、毎日いっしょうけんめい本を読み、ついに人間よりも賢くなりました。


そんなアダムを見て、また別の長老が言いました。


「リーダーはたくさんのメスに子供を産ませ、子孫を残さなければならない」


それを聞いたアダムは、たくさんのメスに求愛し、子供が100匹生まれました。


たくさん増えたヤギ達は、山の草を食べてしまい、やがて人間の畑を荒らしました。


人間たちは怒り、ヤギをつかまえては、その肉をたべました。


お母さんも、長老も、子供たちも人間に食べられたアダムは、怒り、悲しみました。


ある夜、アダムが丘の上から人間の町を眺めていると、とつぜん目の前に神さまが現れました。


神様は、一人涙を流しているアダムを見てこう言いました。


「アダムよ、なぜ悲しむのか」


アダムは答えました。


「ぼくの家族も、仲間も、みんな人間に食べられてしまいました」


すると神さまは言いました。


「お前はこの島で、最も強く、最も賢く、最も大きな群れのリーダーではないのか」


アダムは、その言葉を聞くと、はっと気づきました。


「そうだ。ぼくはこの島で最も強いリーダーだ。ぼくが頭を使えば人間をこの島から追い出せるかもしれない」


それからアダムはいっしょうけんめい考えました。


そして、人間が寝静まった夜、群れを率いてこっそりと町に降りて、町の草や野菜をすべて食べてしまいました。


食料がなくなった人間たちは、もはやこの島では暮らせないと悟り、一人、また一人と島を去っていきました。


最後の人間が島を去った時、アダムと群れは勝利の声をあげて鳴きました。


そしてアダムは、リーダーとしてメスに多くの子ヤギを産ませ、島はヤギの楽園となりました。


ヤギをつかまえる人間たちがいなくなったためヤギの数はどんどん増えていきました。


そしてヤギ達は、島の最後の草を食べてしまうと、今度はどんどん数が減っていきました。


その時になってやっとアダムは気づきました。


敵だと思っていた人間たちがいたおかげで、ヤギ達が暮らせていたことを。


全ての仲間が息絶えて、島にはアダム一匹となりました。


島でいちばんつよいアダムは、海の遥か彼方を見つめて鳴きました。


おわり

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