工藤D「ここが、765プロライブ劇場か」 (47)

初クロス物になります。
白石晃士監督によるホラーモキュメンタリー「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」と「アイドルマスターミリオンライブ!」のクロスSSです。
わずかながらモバマスの要素も含みます。


――この映像は、あらゆる怪奇現象を取材・検証するシリーズである。

某月某日、都内某所。「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」スタッフルーム。
ディレクターの工藤仁と、アシスタントの市川実穂は、カメラマン田代正嗣の撮影の下、田中琴葉という名の少女から話を伺っていた。
琴葉「今回は、どうしても工藤さんたちの助けが必要なんです」
市川「助け、ですか?」
市川が疑問げな表情を浮かべる
琴葉「ええ。工藤さんたちならと思って、ここまで来たんです」
琴葉の顔には、焦りが見える。
工藤D「……俺たちがこういう、怪奇現象の取材してんのは、人助けとかじゃなくて、あくまで金儲けの一環だけどさ。とりあえず、まずは今回起こったことやビデオについて、詳しく教えてくれる?それがないことには、何も始まんないから」
琴葉「はい。その日は遅くまで、旧劇場で恵美と自主練習をしていて、終電車の時間を過ぎてしまったので、宿直室に泊まることにしたんです。そこで……」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1436111577

【投稿映像】
恵美「よーし、準備おっけーい!」
琴葉「何が、って、あーっ!」
驚く琴葉の顔をとらえた映像が、ビデオに映し出される。
琴葉「ちょっと恵美、それ、今朝亜利沙から没収したビデオじゃない!明日返すつもりだから、イタズラしないの!」
恵美「委員長はお堅いなぁ~。ここも今月いっぱいで取り壊しだし、最後の思い出づくりにぐるりと回って撮影してみない?肝試しみたいで楽しそうだし、亜利沙へのいいお土産にもなるじゃん!」
琴葉「お土産ねぇ」
琴葉は苦笑する。
恵美「よーっし決まり!それじゃあ、夜の旧765プロライブ劇場探検ツアー、スタート!」
琴葉「しょうがないわねぇ・・・、くれぐれも壊さないようにね」
恵美「大丈夫だってー!ささっ行こっか!ここのレッスンルームはともかく、ステージの方はしばらくご無沙汰だったし」

結局、琴葉は恵美の提案に乗ることにした。
恵美はおちゃらけて見えているときも、意外と羽目を外さない。
琴葉はそれを長い芸能活動の中でのつきあいの中で心得ていたし、彼女もまた、世話になった旧劇場で、最後の思い出を作っておきたかったのだ。

消灯時を過ぎ、すっかり暗くなった劇場内を、あてどもなくぶらぶら歩く二人。
ビデオ映像は、そこを歩く琴葉の横姿を映している。

ゆく先々の壁には、独特な絵がいくつも貼られている。

琴葉「これ、昨日になって一気に貼られてたけど、ロコちゃんのかな?」
恵美「ほんと凄い量だね~。でもさ、こんなに作ったのに、ロコ、珍しく黙ってるよね?」
琴葉「確かに、普段だったら自信満々でみんなに発表するのにね」
恵美「言いたくない事情でもあるのかなぁ?」
琴葉「う~ん、考えるとしたら、これはまだ未完成で、だから内緒にしてるんじゃないかしら」
恵美「そうかもしれないなぁ。けどこんなに作って、思い出づくりだとしても、どう仕上げるつもりなんだろう?」

歩いているうちに何かに気付いたのか、琴葉は恵美とカメラの方へ顔を向けて語りかける。

琴葉「恵美、なんだか浮かない顔だけど、どうしたの?」
琴葉は、何かに気づいたような表情で、カメラの方を向く。
恵美「い、いやぁ、なんだか名残惜しいっていうか…」
琴葉「・・・でしょうね。ここは思い出の場所だから」
恵美「普段は、古くさくて不便だなぁって思ってたのになぁ」

旧劇場は、昭和中期の雰囲気をたたえた、モダン調の造りであった。
設備の更新も、ビデオの映像を見る限り、商業施設として、必要最低限の処置しかなされていないようである。

恵美「765プロって、以外とケチっていうか、貧乏なんだなって、入って最初は思っちゃってさ」
琴葉「恵美がここに来た頃、ね…」
恵美「けど、琴葉たちのステージを見てたら、そんなのは全然問題じゃないんだって、わかったんだ」
琴葉「あのときは、恵美、それにロコちゃんとか、新メンバーは社長が直接スカウトしたから、すごい人が来るぞって、みんなとても緊張してたのよ」
恵美「ええっ! ちょ、でも全然そんなことなかったでしょ? アタシはむしろ、ここに来て、思った以上にみんながしっかりしてて、びっくりしたんだから」
琴葉「ううん、あのとき恵美たちを見て凄いって思えたから、私たちも一層気合いが入ったの」
恵美「もぅ、そういうのは照れるからやめてよ~」
琴葉「そうだ、今も私ばかり目立ってちゃ仕方ないし、カメラ、代わるわよ」
恵美「ええっ、アタシ今変な顔になってないかな~」

恵美はもじもじしながらも、琴葉にカメラを渡す。
カメラが、顔を少し赤らめた恵美の姿を捉える。
生真面目で育ちの良さそうな印象の琴葉とは対照的に、恵美は今どきのコギャルといった風情の外見をしている。

恵美「しっかし琴葉、昔と比べると結構フランクになったというか…あっ」
琴葉「何かあった?」
恵美「ちょっと、お花を摘みたくなってさ…」

どうやら赤面の理由は、照れくささだけではなかったようである。

恵美が用を足している間、琴葉はロビー一帯をカメラに収めていた。
壁には、例によっ独特の絵が何枚も貼られていた。

琴葉「ここにも・・・」

カラフルなそれらの絵をよく見るとその中には、独特の文様が、いくつもちりばめられていた。
ロビーを一回りした琴葉は、客席への扉を開ける。
そこにはーー。

琴葉「きゃっ!」

琴葉はあるものを目の当たりにして、思わず驚きの声を上げた。
それは、新聞紙とガムテープで出来た等身大の人形であった。
周囲を見渡すと、あろう事かその人形は複数体おり、観客席の間から、ステージの上に至るまで、様々な場所に分散して立っていた。

琴葉「いつの間にか、こんなにたくさん・・・」

一体一体をよく観察すると、体型は少女の体型に形作られた上で、それぞれ異なる意匠が施され、かなり丁寧に仕上げられていることがわかった。

琴葉「こっちはエレナで、こっちは美奈子?」

どうやら、新聞人形は一体一体が、765プロの所属者をモデルに作られているようだ。

琴葉「これも、ロコちゃんが作ったのかしら?」

琴葉がそう口にした直後、

「イヤァァァァァ!」

ステージの方から、耳を裂くような悲鳴が響く。
声はひどい高音で、この世のものとは思えないほどであった。

琴葉「な、何今の!?」

琴葉はステージの、声が聞こえた方へと駆けていく。
そこで琴葉は、恐ろしいものを目の当たりにした。

琴葉「ええっ・・・」

ステージの床に、べっとりと赤黒い粘液が広がっていた。
それは、ふつうの血液の数倍は臭く、強い粘り気と光沢を持っていた。
琴葉が思わず後ずさりすると、観客席の方から、くぐもった低い声が響く。

「おまえ・・・琴葉か?琴葉なんだな?」

琴葉は振り向いて駆け出す。

「琴葉ぁーーーーーーー!!!!!」

その絶叫とともに、琴葉へと迫ってきたのは、長い髪で顔が隠れ、下半身が欠損した、この世のものとは思えぬ奇怪な存在だった。
その奇怪な存在は、激しく痙攣しながら琴葉の周囲をぐるぐると回りだした。

琴葉「きゃああああああ!」

琴葉はそれに攪乱させられて、よろけつつ出入り口の方へと駆ける。
扉を開け、飛び出す。
カメラの映像が一瞬乱れる。

琴葉「わっ!」

琴葉はいきなり、高所から落ちたかのように体を地面に打ちつける。

琴葉「いたたたた・・・」

琴葉が放り出されたのは、なんと、屋上であった。

琴葉「え?え?うそ、ここって!?」

琴葉は驚きながらも再び立ち上がり、カメラを構えるが、

琴葉「うそ……そんな!」

彼女の前には、先ほどの奇怪な存在がじっと待ちかまえていた。
そしてそれは、琴葉目掛けて猛烈な速度で直進し、

琴葉「きゃあっ!」

そのまま彼女の体をすり抜けていった。

琴葉「はあっ、はあっ」
恵美「琴葉、こんなとこにいたの?」
琴葉が息を切らしているところに、恵美が声をかける。
琴葉「め、恵美?いたの?良かった!」
琴葉は、安堵の声を洩らす。
恵美「いたの?って、それはこっちの台詞だよ……。何も言わずに外に出るなんて、心配したんだから」
琴葉「ごめんなさい。ところで、ステージの方から、叫び声、低い声と甲高い声、聞こえなかった?」
恵美「んん~、全然聞こえなかったよ」
琴葉「そ、そう」

ビデオを観終えた一同。

市川「工藤さん、アレは……」

工藤D「あの、下半身のないやつな。アレは多分『テケテケ』だな」

――テケテケ。それは、下半身が欠損した、女性の幽霊。一般に、北海道で踏切事故に遭った女性が、あまりの寒さに出血が止まったために即死できず、あまりにもの苦しみに怨霊と化した存在とする説が有名である。
死の間際、必死に通りがかる人々へ助けを求めたが、下半身のない異様な姿が不気味か、もう手遅れと思われたのか、見て見ぬふりをされたという。
それ故、テケテケは人間を憎み、襲うようになったそうである。

工藤D「ビデオ見る限りじゃ、取材したら、結構面白いことになるとは思うよ」

琴葉「……そうですか。それから、ビデオの最後の方、その、テケテケが、私の体をすり抜けたときの事なんですが」

工藤D「なんか、ヤバいことでもあったの?」

琴葉「私自身は無傷だったんですけど、恵美の…血を流して倒れている姿が見えたんです。」

工藤と市川の顔が、かすかに険しくなる。

琴葉「それに、出入口が屋上につながっていたのも考えると…。工藤さん、前にも似たような事件を取材したことがありましたよね?」

工藤D「…花子さんの時か」

琴葉「はい。以前、映画で怨霊の役を演らせていただいた事があって、研究として『コワすぎ!』も鑑賞したんです」

工藤ら『コワすぎ!』取材班はかつて、廃校に潜む『トイレの花子さん』と遭遇し、直後ビデオカメラ越しに自分が死ぬ未来を目撃してしまった少女と、それを撮影した友人を取材したことがあった。
その際廃校内に生じた時空の歪みによって、工藤たちは同じ地点を無限ループの如く、何度も回る事態に陥り、さらにはタイムスリップ、果ては異次元世界にまで突入するはめになったのだ。
ただ、カメラマン田代が捉えたそれらの映像は、一般世間からはインチキ扱いされ、正当な評価を与えられることはなかったが。

工藤D「ただ、あん時と違って、恵美っていう、君の友だちが死ぬとこは、ビデオには写ってないし、真壁さんも、もうこの世にはいねぇんだ」

――真壁。フルネームを、真壁栞。『トイレの花子さん』取材時、工藤たちに同行した霊能者だ。彼女の活躍により、少女は死の未来を回避し、取材陣全員が無事時空の歪みから逃れることが出来たが、その代償か、彼女は廃校を脱出直後に、不慮の事故で死亡した。
この事故によって、工藤たちはついに業務上過失致死の疑いを問われ、結局証拠不十分で不起訴とはなったものの、映像提供のコネが途絶え、次回制作の目処は立たなくなっていた。

琴葉「それでもいいんです。今まで色々な怪奇現象を調べてきた工藤さんたちの力があれば、何か、事態を打開できる鍵が見つかると思っていますから」

工藤D「とにかく、まずはあのテケテケが何なのか、そっから攻めてかなくっちゃ。人の死を教えてくれるテケテケってのは、初めて聞く話だしな。とりあえず、史料集めとか聞き取りとかやった後に、突入しようと思う」

琴葉「それでは……受けていただけるんですね!」

工藤D「ああ。それじゃあ皆さん、取材開始です」

琴葉「よろしくおねがいします!」

琴葉は工藤たちに感謝の礼をし、スタッフルームを後にした。

市川「工藤さん、これ凄いことじゃないですかね」

工藤D「そりゃ『コワすぎ!』は毎回凄いことになるからな」

市川「そうじゃなくて、彼女結構有名人ですよ!?それが直々にうちのスタッフルームへ、VTRを持ち込んできたんですから、とんでもないことですよ!」

市川は、信じられないような顔で、工藤に告げる。

工藤D「そういや、劇場がどうとか、映画がどうとか言ってたな」

市川「とりあえず、これ見てください」

市川は工藤にスマートフォンの画面を見せる。

工藤は、興味深げにそれを覗く。

工藤D「それじゃあ、田中琴葉ってのは、結構いいとこの事務所の、それなりに人気のあるアイドルってわけか」

工藤の調子が上がりだす。

市川「そうですね。その琴葉ちゃんが、『コワすぎ!』を知っていたとは、私でも少々信じがたいことですが…」

市川は低い調子でつぶやく。

工藤D「信じがたいってなんだよオイ!」

工藤が市川に怒りのローキックを入れる

市川「痛いです!そんなの工藤さんが一番わかってるんじゃないですか?」

工藤D「うるせぇ!とにかく、そんぐらいの有名人から直々にオファーということは、いよいよこの『コワすぎ!』にも大きなツキが巡ってきたというわけだ!明日からすぐ聞き取り開始だ!」

その気になった工藤は、乱暴な調子でそう宣言した。

支援だよ

「アイドルマスターミリオンライブ!」より
>>1
田中琴葉(18) Vo
http://i.imgur.com/vjH8rxt.jpg
http://i.imgur.com/JYHvj5F.jpg

>>2
所恵美(16) Vi
http://i.imgur.com/7XM4f0a.jpg
http://i.imgur.com/XZ87nJR.jpg

「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」より
工藤仁
http://i.imgur.com/0E3RqGu.jpg

市川実穂
http://i.imgur.com/QZ5TWua.jpg

[ネ申]正嗣
http://i.imgur.com/HaDQzpS.jpg

今回はここまでです。
頭の方、セリフ改行時の空白や三点リーダーなどがめちゃくちゃですが、ポメラから書き写す際の変換忘れと、初投稿で勝手がわからなかったが故、どうかご容赦ください……。

>>9
支援ありがとうございます

投下再開します。

遅くなりましたが、特記事項を
・時系列は「コワすぎ!」第4章~劇場版序章の間です。

・元ネタである「コワすぎ!」の慣例にならい、特定の固有名詞や、禁止用語は「×××~」と伏せ字で表記します。

・元ネタの性質上、悪趣味・暴力的な要素を多少含みます。

旧劇場内に潜むという「テケテケ」の謎を探るべく、工藤たちは手始めに旧劇場周辺を廻り、一般人からの情報をまとめることとした。

「テケテケ?旧765シアターで?わからんないねぇ」

「俺、ミリオンスターズの大ファンでさ、あそこが現役の時はよく通ってたけど、そんな話は聞いたことがなかったな」

「あそこはもともと××グループが所有してて、それなりに年季は入ってたけど、そういう話は聞いたことがないですね」

「幽霊とかテケテケとかわからないですけど、ただロコって子が凄い現代アートに凝ってて、お化けみたいなオブジェって言えばいいんですか?そういうのをロビーによく飾ってましたよ。それが人によってはそう見えたんでしょう」

「あの建物は買い手がつかずに、十年くらい空き家だったのを、765プロってとこが安いからってんで買ったんですよ。ただやっぱり、古くって無理があったのか、移転しちゃいましたけどねぇ」

「765さんに買い取られる前、公演中に事故かなんかがあったとは聞いています。けど霊が出るとかそういう話は全く」

不思議と、幽霊に関しては聞いたことがない、との証言が大多数だった。
事故があった、という興味深い一言が得られたが。
まだ、手がかりとしては弱い。さらなる調査の必要がある。

市川「元々××グループ所有だったって事と、事故があったって言うのが気になりますね」

工藤D「××グループってのは、かなりの大手だからな。多分×会図書館で記念誌とか当たれば、事故の事含め、いろいろわかるだろう。あとは、ロコのことだな。あいつが、どうも気になってきた」

市川「ビデオの方でも出てましたね」

工藤D「多分、あいつは何か持ってるよ。」

文献の収集を経て、工藤たちは765プロダクション社長、高木順二郎のもとを訪ねた。

工藤D「今回は、半年前まで使用されていた、旧765プロライブ劇場について伺いたいのですが……。」

高木「うむ。何について聞きたいのかね?」

工藤D「実は先日、おたくの所属タレントの子からビデオの投稿をいただきまして、その内容が、下半身のない幽霊に襲われるというものだったんです」

高木「幽霊か」

工藤D「それで、旧劇場のこと、こちらで人に聞いたり、文献を当たったりして独自に調べたんですよ。そしたら、今からおよそ60年前に、舞台の公演中、事故があったと」

――60年前の事故。それは、舞台の公演中、ある女優が機械式セリのシャフトに衣装を巻き込まれ、衣装を固定していた金属のベルトで締め付けを喰らい、胴体を裂かれたという、痛ましい出来事であった。

だが、その事実は時代とともに風化し、事故に関する報告書が作成されたきり、忘れられた出来事となっていた。

あれから長い時を越え、下半身のない幽霊--テケテケが現れたことが一体なにを意味するのか。

工藤D「そういう事故が昔にあって、どうもおたくのタレントさんが体験した出来事が、それに関係してそうだと」

高木「その事故に関しては、私は建物を買い取る際、小耳に挟んではいたが、いかんせん、かなり昔の出来事だ。それに私は、ゼロからの叩き上げでこの事務所を大きくしてきたもので、あそこを売ってくれた××グループとも、関わりが薄いのだよ。今までとんと話を聞かなかった幽霊が出たと言われても、こちらとしては応えかねる」

工藤D「そうですか。それじゃあ、またおたくン所のタレントの話になるんですが、ロコっていう子がいるでしょう」

高木「ああ、伴田路子くんか」

工藤D「彼女について、知っていることがあれば教えていただけないでしょうか」

高木「彼女は、私が素人参加番組で見て、スカウトした子でね。ただ少々協調性に難があるのか、他の子……例えば、ほぼ同じ頃に私が呼んだ所くんと比べると、周囲にとけ込むまで、それなりに時間がかかったよ」

工藤D「何だか、変な絵を描いたり、オブジェを作ったりしていると」

高木「変と言えば、そうかもしれないが・。彼女は独創的なものを作ることに情熱を傾けていてね。私はそれを見込んで、彼女を呼んだのだ。ただそれが、周囲との溝がなかなか埋まらなかった理由でもあるんだが・」

工藤D「それじゃあ、ロコに直接会いたいのですが」

高木「うう~む」

工藤D「何か、難しい事情でもあるんですか?」

高木「実はだねぇ、彼女、ここ数日、私たちの前に全く顔を出していないんだよ」

工藤D「顔を出してない?病気でもしてるんですか?」

高木「家からの連絡によると、高熱を出しているそうでな。しばらく面会謝絶だそうだ」

工藤D「そうですか」

社長への取材を終えた工藤たちは、さらに深く情報を探るため、事務所に出入りするアイドルたちを対象に、聞き込みを続行したが、得られる情報は、どれも似たようなものばかりで、なかなか決め手は見つからなかった。

そんな中、工藤たちはついに、ある一人のアイドルから、興味深い証言を得ることに成功した。

昴「……もう、二年ほど経ちますけど。実は俺、じゃなくて私、旧劇場に幽霊がいるかもって話を聞いて、夜中確かめに、仲間やプロデューサーと見て回ったことがあったんです。その時見たんですよ、舞台袖で変な女を。」

市川「その女というのは、下半身が欠けていた?」

昴「いや、体は足までちゃんとくっついてました。髪が長くて、口に花を加えていたんです」

口に花、の言葉を聞いて、工藤の目つきが険しくなる。

工藤D「他の奴は、そいつのこと見ていないのか」

昴「……私だけです。話しても、なかなか信じてもらえなくて」

工藤D「物的な証拠とかもなかった?」

昴「なかったですね。ただ、ロコっていうやつがいるんですけど、あいつに、ふとそのことを話した時に、こういうのをもらったんです」

昴はそう言って、フェルトのマスコットを出した。
それは、ビデオに映っていた一連の絵と似た色彩で構成され、絵の中にあった意匠と似た形をしていた。

昴「これをもらってから、また例の舞台袖を見に行ったんですが、何も現れなくなっていました」

工藤D「他の仲間はさぁ。これ貰ったりしてなかった?」

昴「この形のやつは……多分自分だけだったと思います」

***

取材を終え、工藤たちは車で帰路につく。

工藤D「……また夕子かよ」

工藤は、ハンドルを握りながらつぶやく。

――真野夕子。かつて、工藤たちにビデオを送った若者グループの一人で、ビデオが送られた後、奇妙な噂をいくつも残して失踪。
永吉昴が語った女同様、長髪で、口からは花を出していた。

工藤は彼女に隠された謎を明かそうと奔走したが、あと一歩というところで返り討ちにされ、長期入院を余儀なくされる事があった。
その後も、工藤たちが怪異調査のために向かった先々で、彼女の幻影や、彼女がくわえていた花が不自然に生じるところが確認されている。

市川「工藤さん、琴葉ちゃんたちのスケジュール調整が出来たようですので」

工藤D「ああ。いよいよ突撃だな。今回も、霊能者の先生に付いてってもらうわ。また危なくなりそうだし」

市川「そのことなんですが……」

工藤D「何だ?」

市川「今回、投稿者が結構気を使った方がいい立場の方なので、あんまり怪しかったり、威圧的な人を呼ぶのはちょっと避けたほうがいいと思います」

工藤D「じゃあなんだよ。お前に呼ぶツテがあんのか?」

工藤がイラつき気味に言う。

市川「無かったらそういうこと口に出しませんよ」

市川も、工藤の自分をバカにしきった態度にイラつきを見せる。

市川「うちの兄と文通をしてる女の子がいて、なんでもその子が生まれ育ち青森の恐山で、凄いホラー好きで、呪術とか幽霊について熱心に研究していると」

工藤D「歳はいくつぐらいなんだ」

市川「確かまだ中学生だったと思うんですけど、兄いわく、そうとは思えないくらい詳しくて、口寄せとかがすごく上手いそうです」

工藤D「ふーん……。それほどなら、同行させる価値はありそうだな。兄ちゃんに連絡かけてさ、そいつの事呼んどいて」

市川「分かりました」

今回の投下はここまでです

コワすぎのSS初めて見たので期待

ただ、コワすぎの原作通りだと仮に序の前にVTR撮ってたとしたら序の最初の工藤D達のセリフと整合性とれなくなるんだけど
(真壁先生の死に対して、工藤D「まぁ俺も、ちょっとシリーズ続けていく気に、ちょっと、全然なれなかったんだけど」等)
そこら辺はパラレルワールド設定ってことで了解すればよろしい?
それともそこの一見したところの齟齬を解消納得させる展開が今後出てくる? その場合はこうして余計な事突っついてしまってもうしわけない

支援ありがとうございます
>>23
仰るとおり、コワすぎ劇場版序において、第4章における真壁氏の死のショックを受けて一定のブランクがあったこと、世間での評判等が語られていますので、これに関してはパラレルと解釈されて構わないです。

それから、現在私事により執筆に時間が割けない状況にあり、次の投下までには時間がかかるかと思います。
読者の皆様、申し訳ありません。

投下再開します

次の取材日、都内某所で工藤らは琴葉たちと合流する。

琴葉「おはようございます。」

恵美「へぇー、あんたが工藤なんだー。あ、アタシは所恵美! よろしくね」

恵美が明るく挨拶する。恐らく、工藤の本性をまだ知らないのだろう。

工藤「おう、今日はよろしく」

P「私、765プロダクションのプロデューサーと申します。二人の身の安全を考慮して、今回同伴させていただきます」

工藤「そうですか。ところで、ロコって言うのとは連絡は」

P「それが……、昨日に家を出たきり、帰っていないと」

工藤「……昨日、か」

市川「皆さんおはようございます。今日は今ここにいるメンバーに加え、アドバイザーとして霊能者の方をお呼びしてます」

市川が指示を送ると、取材車から一人の少女が現れる。

恵美「ねえ、あの人って…」

琴葉「ええ、まさか」

小梅「…こ、今回……ア、アドバイザーを、つ、努めさせて……いただき、ます、…白坂小梅、です」

恵美「白坂小梅!? 本当に!? 」

琴葉「霊感があるとは聞いていたけど…」

小梅「……よろしくお、お願い、…します」

恵美「じゃあ、初めて一緒に仕事ってことかな? 楽しみだなぁ~」

小梅「…楽しみ、ですか……。……私も、ある意味……へへへ…」

小梅が少し気味の悪い笑顔を浮かべるが、恵美は気持ち悪がる気配も見せず親しく接する。

琴葉「恵美、貴方の命がかかってるのよ? そんな呑気に構えていちゃ……」

恵美「琴葉、演技に入り込んでるにしたって、硬すぎだって! どうせドッキリかなんかでしょ? 」

琴葉「ドッキリって…私はそんなつもりじゃなくて! 」

恵美「まぁまぁ、琴葉がそこまで本気なら、ご期待にお応えして、今日はあたし、叫びまくっちゃうから! 」

琴葉「もう…」

P「琴葉、もう少し肩の力を抜いてこう。このまま深刻な顔をしていると、かえって恵美を心配させるからな」

琴葉「プロデューサーが、そう言うなら…」

***

工藤「おい市川、コイツもアイドルってやつなのか?」

市川「そうですね」

工藤「しかし大丈夫なのか? もっと気の強そうなヤツのほうが、いざって時頼りになるんじゃないか?」

市川「そんなこと言って、どうせ理不尽なことで工藤さんの気に触って大ゲンカになるの見えてますよ」

工藤「調子こいてんじゃねーぞこの野郎」

市川「だから、そうやって暴言吐いてやらかすのが私は嫌なんです。見て下さいよ周り」

琴葉と恵美が、怪訝そうに工藤と市川を見ている。

工藤「まぁ、よっぽどの事ない限り、ブチ切れたりしねーから、そこは安心していいよ」

市川「この人本当にタチ悪いから。何かあったらこっちが止めます」

恵美「は、はぁ…」

工藤という人間に、早くも違和感を覚える恵美であった。

***

旧劇場前。

恵美「これから旧劇場へ入って、どうするの? 」

工藤「生け捕りだ」

恵美「え? 」

工藤「生け捕りだよ。劇場にいるテケテケ、捕まえんだよ」

恵美「い、いやそこ普通だったらお祓いとか…。それに捕まえるなんてバチアタリじゃ」

工藤「バチアタリだからなんだよ。言っとくけどな、あんなのはお祓いなんかじゃ妥協してくれねーぞ」

琴葉「工藤さん、生け捕りにしてどうするおつもりなんですか? 私は、恵美が死ぬのを避けたくて……」

工藤「だからだよバーカ! テケテケ捕まえて、話引き出すんだよ! そしたら何でお前が恵美の死ぬとこ見せられたか、理由もわかるってもんだろ!? そのための用意だってしてんだ。こっちはなぁ、毎回大真面目に、命かけてやってんだよ!! お前コワすぎ見てんならそんぐらい考えろよブス! 」

琴葉「そうですか……! すいません、私の配慮が足らないばかりに……! 」

工藤の余りにも威圧的な態度に気負される琴葉。

恵美「工藤! いくら何でもそんな言い方ないんじゃないの!? 」

琴葉も恵美も芸能界にいる以上、自分の至らなさを叱咤されることは少なくない。

しかし、それを差し引いても、工藤の物言いは暴虐的で傲慢極まりなく、その主張内容も、人間の力で相手できるか分からない、それ以前に実在すらはっきりしない類のものを「生け捕り」にするという、おおよそ正気とは思えないものだ。

恵美が怒りを覚えるのは、当然のことだった。

工藤「うるせぇ! この撮影の主導権握ってんのは俺だ! 俺がいいと思ったやり方でやるまでだクソビッt」

市川「少しは言葉選んでください! 」

市川が平手打ちを工藤に浴びせる。

工藤と市川の口論が始まる

恵美「…琴葉、テケテケも、あたしが死ぬなんてのもドッキリなんでしょ? そのためにあんなおかしい人に付き合うなんてどうかしてるよ」

琴葉「…でもビデオには確かに…それに、それに本当にアレは」

P「恵美、琴葉、落ち着いてくれ。工藤さん、危ないと思ったら絶対に退却してください。けが人が出てからでは遅いですからね? 」

工藤「…こっちも、まるっきり勝ち目がないなって時には、思い切って引き下がることにします。ただそれまで妥協する気は一切ありません」

小梅「…こ、琴葉、さん、恵美、さん、工藤……さんの考えもその…一理はあると……思う」

恵美「…小梅まで、そう言うんだ……」

***

旧劇場へと、裏門側から潜入する一同。

琴葉「壁周りに貼られた絵、私達がいた時より明らかに増えてます」

工藤「お前らがビデオを撮った後、誰かが使ったというのはあるか? 」

琴葉「いえ、あの日が一番最後の開放日で、次の日には完全閉鎖されました。誰かが不法侵入したかという場合のは把握しきれませんが…」

工藤「調べてみたところ、ここで昔事故があったってことがわかったんだが、それについてはなんか知ってたか? 」

琴葉「いえ、全く」

小梅「…この場所には……、かなり強い、力を感じます……。でも……昔の…悲しいことが、呼んだものとは……、明らかに、違う……」

工藤「それって、どういうことだよ? 」

小梅「増幅…されている、んです……。元は人々から忘れ去られかけ、弱まっていたはずの因果やカルマの類が、何かしら、外から力を集めることで……」

一同が、ステージへとたどり着くと、そこにあった人形が、琴葉たちが訪れる前より大幅に数を増していた。

恵美「……さすがに、気味悪いねぇ」

小梅「…思った通り、です……。ここは、元あった因果やカルマを土台に、霊力を無理やり増幅して……また、外へと放つ、そんな……・」

小梅は人形一つ一つを観察しながら言う。

工藤「この人形やら絵は、そのためのユニットなのか? 」

小梅「…はい。……・例えるなら……ソーラーパネル、風車の羽根、のような……、力を集めるための……機器」

工藤「さしずめ、霊力発電所ってことか」

小梅「…では…少し実験、します……。……スウッ、セイ! 」ヒュウッ

小梅は人形のひとつに向かって印を結び、気を吐く。

すると、人形が突如跳ね上がり、次の瞬間には消滅していた。

工藤「うわっ! なんだよこれ……」

驚く一同

小梅「……もう、一回……。……スウッ、セイ!」ドサッ

小梅が再び気を吐くと、先ほど失くなった人形が再び落ちてきた。

小梅「…やはり、これは、ただならないやり方で……、ここまで…移されてきた……」

恵美「そ、そんな、何かの仕掛けだよね? 」

琴葉「今の、本当に消えちゃったけど、どういうことなの? 」

小梅「一言で言うなら……テレポート、の類で……。今のは、あの人形が、辿ってきたルートを遡るように……念を、送った。そうしたら、急に消えた……。だからこれは、私たちが本来、関わりのない……そんな場所を通り抜けて……」

工藤「そこまでやる辺り、向こうは誰にも気付かれねぇ様に、事を成し遂げたいと思ってんのか」

小梅「…そう…考えるのが……正しそう、です」

工藤「なるほど、そんならこっちもいよいよだな。」

小梅「…そう、しましょう」

P「ちょっと、待ってください。いよいよって、まさかこちらから刺激するようなことを」

工藤「今更刺激もクソもねぇだろ。 俺たち既にヤバイ領域踏み入れてんだ。やるっきゃないだろ」

P「しかしもっと慎重に…」

小梅「……さっきも言ったけど……、ここでは誰かが……何かのために霊力を集めてる…。このまま、放っておくと……」

琴葉「プロデューサーさん、今は二人を信じましょう」

恵美「……ここまで台本通り、なんだろうね……多分 」

今回の投下はここまでとなります

しばらく間が空いてしまい申し訳ないです
現在続きを執筆中です
今週のうちには投下再開します

投下します

小梅は背負っていたリュックサックを下ろすと、中から小さな木箱やろうそく、白布を取り出し、簡易的な祭壇のようなものを組んだ。

小梅「……これから印を唱え、……向こう側とこちらを結ぶ、通り道を……探知します。……そして」

恵美「そして?」

小梅「……見つかり次第、全力で念を送り、道をふさいで、しまいます。……ただ、上手くいくとは限らない、かも……へへ」

不安げな内容とは裏腹に、小梅の顔はまたしても、不気味な笑みを浮かべていた。

市川「それって、具体的にはどんなことが起こるかはわかりますか?」

小梅「……返り討ち、とか」

周囲の空気が重みを増す。

琴葉にいたっては、顔が完全に青ざめ、こわばりきっている。

恵美「ちょ、琴葉!?大丈夫!?」

琴葉「はっ……ごめんなさい、正直、想像を超えていて……」

我に帰りはしたものの、琴葉の顔はやつれ果てている。

工藤「まぁ、備えはちゃんとしてある」

そう言って、工藤はあるものを見せつける。

金属バットであった。

恵美「それ使ってどうするの?」

工藤「決まってんだろ。こいつ使ってなぁ、ぶん殴るんだよ」

恵美「えっ」

恵美「えっ」

工藤「何が『えっ』だ。相手はバケモン、ケダモンだぞ。お前も琴葉みたいにお祓いはだのバチアタリだのなんて言い出すんじゃねぇだろうな」

恵美「いや、そういうことじゃなくて、こういう時こそ普通はさ、ほら、印を結ぶとか、御札を貼るとかでえいってやるんじゃ……」

工藤「それだけじゃダメなんだよ。ああいうのはあくまで、奴らを引き付けるワナ仕掛けだ。キッチリ力で痛めつけて弱らせてからの方が、確実に捕まえやすくなるってもんだろ?」

恵美「いやいや!?だからって、流石に無茶じゃないの!?」

小梅「………恵美さん、工藤さんの言うこと……間違ってない。……霊力の足りない人が、霊と戦うには……、おまじない、とか、だけじゃ、心許ない。……霊力が強くても、もっと強い霊を術式だけで祓おうとして、死んだ……、そんな人、私の知り合いに何人もいる。だから、工藤さんのように……こっちの出せるわざを全部出して……立ち向かったほうがいい」

工藤「ただ、いざって時のために、こういうのも用意してある」

工藤はさらに、黒くてもじゃもじゃした物体を、懐から取り出した。

琴葉「これはあの!」

恵美「うわっ!?なっ、何なのこれ!?」

小梅「……これ……呪いの……髪の毛飾り」

呪いの髪の毛飾り。工藤がかつて、口裂け女について調査した際、入手した呪具である。
工藤は怪異への対抗手段として、これをしばしば利用しているのだ。

恵美「……はぁ、ちゃんとそういうのも用意してあんだね。でもやっぱりテケテケとかより、アンタが一番危ない気がするんだけど……」

工藤「……そりゃ、危ないオッサンだからな。ただなぁこっちはな、このやりかたで今まで命かけてやってきたんだ。俺の勘に任せとけ」

P「そう言うんなら、本当に、本ッ当に取り返しの付かないことになる前に、正しい判断をお願いしますよ!」

琴葉「プロデューサー、私はもう覚悟出来ています。だからあまり心配は……」

恵美「ちょっちょっと琴葉!まるで死ににいくみたいに言わないでよ!」

恵美「(これって、どうせインチキか何か、そのはずだよね?でも、一番怖いのは霊がどうこうより、今のこの空気なんだけどな……)」

今回の投下ここまでとなります。

分量は少なくなりますが、今後の投下ペースは早めるよう努めます

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