<山>
コロ助「この山に、オークとかいう悪い魔物がいるナリね」
コロ助「さぁ、行くナリよ! 女騎士!」
女騎士「そ、そうだな……」
女騎士(ううむ、小さい。まるで子供ではないか)
女騎士(なぜ私はこのような者と、オーク退治に向かわねばならんのだ……)
女騎士(なんでも、かつては“キテレツ”や“キテレツサイ”なる者に仕え)
女騎士(紆余曲折を経て、今では発明家となった“キテレツ”の道具とやらで)
女騎士(一人で色々な世界を旅し、武者修行してるとのことだが──)
女騎士(本当に戦えるのか? こんなに小さな剣士が……)
コロ助「どうしたナリか? さぁ、出発するナリよ!」
女騎士「う、うむ!」
女騎士「ところで、コロ助殿……」
コロ助「なんナリか?」
女騎士「失礼だが、あなたは……その……本当に戦えるのか?」
コロ助「む、ワガハイの腕を疑ってるナリか?」
女騎士「いやっ! そんなことはないのだが──」
コロ助「まぁ、見ておくナリ。武士は口ではなく、刀で証明してみせるナリ!」チャキッ
女騎士(刀って……あんなナイフのような短剣でか……?)
女騎士(あんなものがオークに通用するとは思えんが……)
コロ助「じゃあ、聞くナリが、そっちこそ大丈夫ナリか?」
女騎士「!」ギクッ
女騎士「む、むろんだ! たかがオーク、一撃で叩き斬ってみせる!」
女騎士「団長の推薦があったから、仕方なくあなたとコンビを組むことになったが」
女騎士「本来はこんな任務、私一人で十分なのだ!」
コロ助「ふぅ~ん。それならいいナリ」
コロ助「あれが、オークとやらの住む洞窟ナリね?」
女騎士「そうだ、相当に凶悪な魔物らしい」
女騎士「時々人里に現れては、金や食料、さらには命をも奪うこともあるという」
コロ助「とんでもない奴ナリ! 許せないナリね!」
コロ助「よぉし、いざ進めやナリ!」ダッ
女騎士「えっ!? まだ心の準備が……!」
ゾロゾロ…… ゾロゾロ……
「なんだこいつら?」 「チビと女だ」 「オークさんがいってた騎士ってやつだろ」
コロ助「あれ? なんかいっぱい出てきたナリよ」
コロ助「どれがオークナリか?」
女騎士「いや……この中にオークはいない」
女騎士「どうやら、討伐のために騎士が派遣されるのを事前に察知して」
女騎士「人々から奪った金や食料で、仲間であるモンスターを集めたのだろう」
コロ助「むむ……悪知恵のはたらく奴ナリ!」
コロ助「だけど、武士として退くわけにはいかないナリ! 行くナリよ!」ダッ
女騎士「わ、分かった!」
コロ助「でいっ! だあっ! とりゃあっ!」
ドッ! ガッ! ガツッ!
ゴブリン「ぐおぉ……!」ドサッ…
リザードマン「ぐはっ!」ドザッ…
ワーム「ギャアアッ!」ドサッ…
コロ助「安心するナリ……みね打ちナリ」
コロ助「さて、女騎士は──」チラッ
スライム「キシャアァァァッ!」
女騎士「わっ! ひっ! ──く、来るなぁっ!」ブンブンッ
コロ助「た、大変ナリ!」
コロ助「でやぁっ!」
ドカッ!
スライム「うきゅうぅぅぅ……」ガクッ
コロ助「女騎士、大丈夫ナリか!?」
女騎士「か、かたじけない……」
女騎士「あれほど大口を叩いておきながら、とんだ恥を晒してしまった……」
コロ助「女騎士、もしかして……」
女騎士「……ふっ」
女騎士「察しのとおり、私は実戦経験がほとんどないのだ……」
女騎士「こんなザマで、あなたのことを疑ったりして……申し訳ない」
女騎士「笑ってくれ……」
コロ助「…………」
コロ助「笑わないナリ!」
女騎士「え……?」
コロ助「ワガハイだって、昔は弱かったナリ!」
コロ助「しょっちゅうブタゴリラにいじめられて、トンガリにバカにされてたなり!」
女騎士(ブタゴリラ? トンガリ? 魔物の一種か……?)
コロ助「だけど旅をしながら修行して、これだけ強くなったナリよ」
コロ助「最初から強い奴なんていないナリ。みんな、最初は弱いナリ」
コロ助「経験がないのなら、少しずつ経験を積んでいけばいいナリ!」
コロ助「自信を持つナリよ、女騎士!」
女騎士「ありがとう……コロ助殿」
コロ助「元気を取り戻したナリね。それじゃ、洞窟に突入ナリ!」
<洞窟>
「きやがったぞ!」 「騎士だ!」 「ぶっ殺してやれ!」
女騎士(洞窟内にも、モンスターがうようよと……!)ジリ…
コロ助「女騎士、冷静になって敵の動きを見るナリよ」
コロ助「落ちつけば、そこまで怖い相手じゃないナリ!」
女騎士「う、うむ!」チャキッ
ガーゴイル「グオオオオオッ!」シュバッ
女騎士(右へっ!)サッ
女騎士「せいっ!」
ザシュッ!
ガーゴイル「ぐわぁぁぁ……!」ドサッ…
女騎士「や、やった……!」
コロ助「その調子ナリ!」
そして──
オーク「グハハハハッ! ついにここまで来たか!」
オーク「あんだけ仲間をかき集めてたってのに、大したもんだぜ」
女騎士「オーク! 今こそ成敗してくれる!」
オーク「ふん、調子に乗るなよ……?」
オーク「女とドチビなんざに、このオレを倒せるもんかよ!」ギロッ
女騎士「ぐ……!」
女騎士(この殺気、やはり今までの魔物とはケタ違いだ……!)
コロ助「やっとオークのお出ましナリか?」
女騎士「そうだ! とてつもない怪力と格闘能力を誇る、凶悪な魔物だ!」
コロ助「ふむふむ、まるでブタゴリラみたいな奴ナリねえ」
オーク「なにい!? ブタゴリラだと!?」
コロ助「へ?」
オーク「そこまで屈辱的な表現をされたのは初めてだ! 許せねえ……!」
コロ助「そ、そんなに傷ついたナリか?」
オーク「当たり前だろうが! ブタで、しかもゴリラってひどすぎだろ!」
コロ助「だけど、ワガハイの友だちはそう呼んでも怒らないナリよ」
オーク「どんだけ心が広いんだ、そいつは!」
女騎士(ブタゴリラって友だちだったのか……!)
オーク「ええい! クソチビ、まずはテメェから片付けてやらぁ!」ダッ
ブオンッ!
コロ助「わっと」ヒョイッ
オーク「おりゃあっ!」
ブワオンッ!
コロ助「おっと」ピョイッ
オーク「く、くそっ! ちょこまかと……すばしこい……!」
オーク「だあっ! でやあっ! どりゃあっ!」
ブンッ! ブウンッ! ブオンッ!
コロ助「うわっと! 危ないナリねぇ~」
オーク「ヤロウ……!」
女騎士(すごい……! あの速く激しい攻撃を、ヒラリヒラリとかわしている!)
ブオンッ!
オーク「く、くそっ……! かすりもしねえ……!」ハァ…ハァ…
コロ助「今度はこっちから行くナリよ~!」
オーク「へっ、そんなちっぽけな剣で──」
コロ助「とりゃっ!」
ザンッ!
オーク「ぐおおっ……!」
コロ助「大人になったキテレツに作ってもらった、この刀をなめちゃダメナリよ」チャキッ
コロ助「ただし、めったなことじゃ、刃は使わないナリがね」
オーク「ぐ、ぐうっ……!」
オーク(くそっ! このチビ、とんでもない強さだ!)
オーク(背が低かったり、素早かったり、思ったより刀が鋭いのも厄介だが──)
オーク(なによりも場数を踏んでやがる!)
オーク(これまで数々のピンチに出会い、乗り切ってきたって感じの動きだ!)
オーク(こうなったら──)ギロッ
女騎士「え!?」ギクッ
オーク「弱い奴からだ! まずはテメェからやってやる!」ブオンッ
女騎士「きゃああっ!」
コロ助「危ないナリッ!」バッ
ドゴォンッ!!!
ドザァッ……
コロ助「ぐ……」
女騎士「コ……コロ助殿ォッ!」
オーク「お? こりゃあラッキーだ! グハハハハッ!」
女騎士「コロ助殿! しっかりしろ! すまないっ……!」ユサユサ…
コロ助「お、女騎士……」
コロ助「ワ、ワガハイはここまでナリ……」
女騎士「!」
コロ助「だけど……自信を持つナリ……」
コロ助「女騎士なら……きっと……やれる、ナリ……」ガクッ…
女騎士「くっ、コロ助!」
オーク「グハハハハッ! チビはくたばったか! ざまあねえな!」
オーク「残るテメェもとっととあの世に送ってやるよ!」
女騎士「ゆ、許さん……!」
女騎士「許さんぞ、オーク!」
女騎士「これまでキサマの欲望によって傷つけられてきた人々のためにも──」
女騎士「未熟な私を助けるため、倒れたコロ助殿のためにも──」
女騎士「絶対にキサマを斬る!」
オーク「……へっ、口上はご立派だが、実力がついてこなきゃ意味がねぇなァ!」
オーク「くたばれやぁぁぁっ!」ダッ
女騎士(き、来た……! 凄まじい迫力!)チャキッ
女騎士(だが、落ちつけ! ひるむな!)
女騎士(ヤツはコロ助殿との戦いで消耗している……倒せない相手ではない!)
女騎士(なにより、この勝負は私だけの勝負ではないのだ!)
女騎士(コロ助殿のためにも、絶対に勝ってみせる!)
オーク「どりゃあっ!」
女騎士(相手の動きをよく見る!)キッ
ブオンッ!
オーク「なにっ!? か、かわしやがっ──」
女騎士(そして──自信を持て!)
オーク「今度こそォ!」
女騎士「だああああああっ!!!」
ザンッ……!
オーク「が、がはっ……」
オーク「バカな……オレが、女ごと、きに……」ドサッ…
女騎士「ハァ、ハァ、ハァ……」
女騎士(た、倒した! この私が……オークを!)
女騎士(ベテランの戦士でもうかつに手を出せないという、あのオークを!)
女騎士「!」ハッ
女騎士「コロ助殿!」
コロ助「よくやったナリ!」
女騎士「……へ?」
コロ助「ワガハイ、女騎士ならやれると信じてたナリよ!」
女騎士「あ、あれ……? オークの攻撃をまともに喰らってたのに……」
コロ助「ワガハイは武士にしてロボットナリ」
コロ助「キテレツに頑丈にしてもらってたから、あれぐらいじゃ死なないナリよ」
女騎士(ロボット……!?)
女騎士「そ、そうか、よく分からないが……よかった……」ホッ…
女騎士「あっ、もしかすると──」
女騎士「あなたはわざとやられたフリをして」
女騎士「消耗したオークを私に倒させてくれたのでは……?」
女騎士「私に自信をつけさせるために……!」
コロ助「考えすぎナリよ」
女騎士「……かたじけない」
コロ助「それじゃ帰って、騎士団長さんにご褒美をもらうナリ!」
女騎士「うむ!」
<騎士団の砦>
騎士団長「よくやってくれた、コロ助殿」
騎士団長「経験の浅い女騎士を導き、オーク退治を果たしてくれるとは……」
騎士団長「あなたを雇った私の目に、狂いはなかったようだ」
コロ助「なんのなんの、これぐらいどうってことないナリよ」
騎士団長「ではさっそく、報酬の金貨を──」ジャラッ…
コロ助「ワガハイ、お金よりもコロッケが欲しいナリ」
騎士団長「えっ、そんなものでよろしいのか!?」
コロ助「そんなものとは失礼ナリ! コロッケはワガハイの大好物ナリ!」
騎士団長「こっ、これは失礼!」
騎士団長「騎士団お抱えのシェフに、すぐに作らせよう!」
コロ助「わぁ~いナリ! やったナリィ!」
女騎士(変わった人だ……)
コロ助「いやぁ~、たくさんコロッケを食べさせてもらったうえに」
コロ助「いっぱいコロッケをもらっちゃって悪いナリね~」
騎士団長「いやいや、満足していただけてなによりだよ」
コロ助「では、さらばナリ」
コロ助「女騎士、これからも修行に励むナリよ!」
女騎士「はいっ!」
騎士団長「旅のご無事を祈っているよ」
コロ助「ありがとうナリ~!」テクテク…
女騎士「……すばらしい戦士でしたね」
騎士団長「うむ、彼のような高潔な人物を、“サムライ”と呼ぶのだろうな」
コロ助「いっぱい食べた後だけど、また食べるナリ」モグモグ…
コロ助「うん、うまいナリ!」
コロ助「さぁて、次はどこへ行くナリかねぇ」
コロ助「ぶらりぶらりと、武士は気の向くまま、ナリ……」
ズデンッ!
コロ助「痛いナリ! ああっ、コロッケを落としてしまったナリ!」
コロ助「ひどいナリ~! こんなのあんまりナリィ~!」
おわり
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