男「……?」
幽霊「えっ、あの。わ、私の事が見えるんですか?」
男「えっ? いや、見えるけど……」
幽霊「ほ、本当に?」
男「え、えぇ。」
幽霊「本当に本当?」
男「……そんな事嘘吐いてどうするんですか。」
幽霊「は、はい。」
男「え?」
幽霊「ゆ、指、何本ですか?」
男「……二本でしょ?」
幽霊「お、おぉ。じゃあ、これ!」
男「四本……」
幽霊「ほ、本当に見えるんだぁ。」
男「さっきから何を言ってるんですか……」
男「は?」
幽霊「だ、だから、幽霊なんです!」
男「……」
幽霊「そ、その顔、信じてないですね。」
男「いや、だって。そんな、幽霊だなんて……」
幽霊「た、確かに信じられないかも知れませんが、ほ、ほら手を触って下さい。」
男「手を?」
幽霊「き、きっと触れないですから。」
幽霊「ほ、ほらほら。」
男「……」
男「……触れるって、冷たい!?」
幽霊「えっ? あ、暖かい……」
男「えっ? ほ、本当に幽霊?」
幽霊「ほ、本当に本当ですよー!」
男「本当……?」
幽霊「本当です!」
幽霊「あれ、お、おかしいな……? 触れない筈なのに……」
男「いや、触れたけど。手、氷みたいに冷たいし……」
幽霊「わ、私から触ろうとすると触れないのかな?」
男「ちょっ、冷たい!?」
幽霊「あ、あれ、触れる……」
男「ひ、人の話聞いて!」
幽霊「え?」
男「まぁ、信じたくないけど幽霊って分かったから!」
幽霊「し、信じるも信じないも、目の前にいますよ!」
男「一応、夢かもしれないし……」
幽霊「……」
男「冷たっ!? 分かったから首に手、ひっつけないで!」
幽霊「え、えへへっ。」
男「えへへっ、じゃないよ!」
幽霊「暖かい……」
男「冷……痛い痛い!」
幽霊「あ、ご、ごめんなさい……つい……」
男「いやいやいや、離して! 冷たくて痛いから!」
幽霊「むーっ。」
男「むーじゃないですよ……夏なら兎も角。まだ六月で寒いんだから……」
幽霊「……あ、暖かいなんて久々で。そ、それに人と話すのも久々で……」
男「そ、そうなのか。」
幽霊「ひ、久々に暖かいと思うと、だ、抱きしめたいくらいです。」
男「死ぬから止めて。」
幽霊「そ、それにしても、なんであ、貴方にだけ私が見えるんでしょう……いつもなら誰にも見えない筈なのに……」
男「そうなのか……」
幽霊「うーん……」
男「じゃあ俺は帰る……」
幽霊「えぇっ!? か、帰らないで下さいよ! 寂しいじゃないですかぁ!?」
男「いや、だって一応、幽霊なんだろ? 怖いし……」
幽霊「こ、怖くない幽霊ですからー!」
男「怖くない幽霊って……」
幽霊「お願いですよぉ……」
男「……」
男「まぁ、少しくらいなら……」
幽霊「や、やった! ありがとございます!!」
男「冷っ! 手を握るな!!」
幽霊「わーいわーい!」
男「ちょっ、手が死ぬって!」
幽霊「あっ……ご、ごめんなさい……つい……」
男「ったく……」
幽霊「や、やっぱり抱き締めて暖かい夜を過ごしたいです……」
男「いやいやいや、さっきも言ったけど、命が危ないから。」
幽霊「ざ、残念です……」
男「……」
幽霊「……あの。」
男「えっ?」
幽霊「お、お名前、なんて言うんですか?」
男「お、男だけど。」
幽霊「お、男。そ、そうですか。」
男「……」
幽霊「えへへっ、男。」
男「……っ。」
幽霊「ひ、久々に人の名前を呼びましたよ。……って何で顔赤いんですか?」
男「う、うるさいっ。」
幽霊「? どうしたんですかぁ……」
男「気にしなくて良いから!」
幽霊「むーっ!」
男「……じゃ、じゃあ! 君の名前は?」
幽霊「えっ?」
幽霊「……」
幽霊「……何なんだろう。」
男「えっ?」
幽霊「わ、分からない……って言うよりも、忘れちゃいました……」
男「……そう、なんだ。」
幽霊「……」
男「……」
幽霊「……あの。」
男「ん?」
幽霊「い、いつまでここに居られますか? も、もっと話してたいです……」
男「……」
男「まだ、全然大丈夫だよ……」
幽霊「え? ほ、本当ですか?」
男「うん。」
幽霊「や、やったぁ! あ、で、でも家は大丈夫なんですか?」
男「……」
男「まぁ、うん。ちょっと色々あってさ……」
幽霊「……?」
男「……」
幽霊「まぁ、でも、私はう、嬉しいです。」
男「……君は何処に住んでるの?」
幽霊「え、あ、と。この神社ですよ?」
男「あ、そうなの。」
幽霊「って言うよりも、この神社からあまり離れられないんです。」
男「離れられない?」
幽霊「地縛霊、って奴なんですかね? 遠くに離れようとしても全然駄目なんです。」
男「ふーん……この神社に何か未練でもあるの?」
幽霊「い、いえ。全然。大体、せ、生前の事とかも覚えていませんし。」
男「じゃあ気づいた時には幽霊だった、って事?」
幽霊「は、はい。気づいたらこの神社に座ってました。」
男「そっか……」
幽霊「最初はびっくりしたんですけど、でも、人には気づいて貰えないし、何にも触れないし、幽霊だって気づいたんです。」
男「ん? 幽霊になってどれくらいなんだ?」
幽霊「もう六十年くらいなんじゃないですかね。正確には分かりませんけど……」
男「六十年!?」
幽霊「え、は、はい。そ、そうですよ……?」
男「同い年くらいなのに……」
幽霊「と、歳は取りませんからね……あ、あと、何も食べなくても平気です。」
男「そうなのか……」
男「え? て言う事はこの神社も六十年前からあるってこと?」
幽霊「はい。む、昔はもうちょっと綺麗でしたけど、でも出来たてってわけでもなかった……と、思います……」
男「そんなに昔からあるのか……」
幽霊「でも、全然人こないし、来ても話せないからつまらなかったです……」
男「まぁ、田舎だから人自体そんなに多くないし……ここも見つけにくいだろうし……」
幽霊「そ、そうなんですか。」
男「……でも凄いな。」
幽霊「え?」
男「いや、六十年もここで一人いたなんてさ。その割に元気だなーって……」
幽霊「お、男がいて話してくれるから久々に元気なんですよ? い、いつもはぼーっとしてます。」
男「……そっか。」
幽霊「……」
幽霊「あの、もし良かったら……」
男「?」
幽霊「ま、また明日も来てくれませんか?」
男「えっ……」
幽霊「わ、私はいつでもここに居ますし、明日は見えるか分からないですけど、で、でも、良かったら……」
男「……分かった。」
幽霊「い、嫌なら良いんですよ? って、え?」
幽霊「ほ、本当ですか?」
男「まぁ……暇だしね。」
幽霊「や、やった!」
男「うおっとぉ! 抱き着かせないよ?」
幽霊「ちっ。」
男「ちっ、って……」
男「まぁ、良いや。じゃあ暗くなると危ないし、って言うかもう随分暗いし。今日の所は帰って良いかな?」
幽霊「えーっ! 嫌ですよぉー!!」
男「明日は懐中電灯持って来ますから。」
幽霊「むーっ……」
幽霊「分かりました……」
男「ありがとう。」
幽霊「で、でも……!」
男「?」
幽霊「絶対に来てくださいね!?」
幽霊「……や、約束ですから。」
男「……あぁ。」
男「じゃあ、また明日。」
男「……」
男「……ただいま。」
父「おう、お帰り。」
義母「あっ。お、男君。お帰りなさい。」
男「……」
男「……っ。」ダッ
父「あ、男! おい!! ……ったく。」
義母「……」
男「……」
男「幽霊、か。俺もおかしくなっちまったのかな。」
男「って言うかあいつ別れるとき変な事言いやがって。」
幽霊『もう来ちゃ駄目ですよ?』
男「明日も来てって言いながらなんだよ……どっちだよ……」
男「……」
男「まぁ、家にも居たくないし、丁度良いか……」
男「……はぁ。」
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