・地の文がある
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ギターが鳴りやんで、歓声。
照明がきつすぎるね。目が眩んで。
客席、見えない。全然。
「イエーー!!」
コールアンドレスポンス。
歓声。
拍手。なりやまなくて。
光の幕の向こう側から、叩きつけられる。
熱気が。
興奮する。
「今日はみんなありがとーー!!」
歓声。
「ロックンロール!!」
歓声。
ロックンロール。
…………
………
……
…
「……っくぅー!」
本日何度目か分からないうなり声を漏らして、叫び出したくなる衝動をこらえる。
歩く足も自然と早くなって、っていうか、スキップの一歩手前。道ばたじゃなかったら、はしゃぎまわっちゃってたね、これ。
とにかく今の私は、完全にテンションがあがりっぱなしで、つまりハイテンションで、昨日のライブの熱が少しも冷めていない。
クールダウンできていない。私は。
最高だったなぁ。
昨日のライブ。
ハデなロックナンバーで一気に盛り上がったし、スローなラブバラードもハズさなかった。
それでMCもバシッとキマって、ファンもドワーッって沸いて。
そこに絶妙なタイミングでギターがジャジャジャジャって、ステージも客席もブワーッ、一気に新曲ガツーン! バーン!ズオワーッて!
「っくぅー!」
思い出すだけで気分が昂ぶる。
全身を包む筋肉痛すら、心地よい。
やっぱり最高だ。
ロックって。
そんな風にいまさら思う。私は。ロックアイドル・リーナである私は。
ただし今日は完全オフの、ただのロック愛好家(17)の多田李衣菜である私は。
でも思ってるだけじゃ物足りなくて、私は誰かに伝えたい。
私の身体の中に溢れかえっている、この「ロックンロール最高ー!」を、誰かと分かち合いたくなる。
たとえば、今すぐここで、ロックンロールを叫びながら駆け出してしまいたい。
たとえば、私が一番信頼している理解者、Pさんを捕まえて、小一時間語ってみたい。
たとえば、それから――……
「あ」
と。
道の先、信号待ちの人が数名。
その中のひとりの、その後ろ姿を。
正確には、その『トサカ』を。
認めた瞬間、私は走り出していて。
「な~つきち~~~~!!」
手を振りながら、大声出しながら。
……って、別に手を振る必要はなくない? むこうはこっち、向いてないわけだし。こっち向いてない? てことは、あ、人違いの可能性もある? あ、あ、どうしよう人違いだったら。あんな『トサカ』、絶対おっかない人じゃん。いや、なつきちがおっかない人ってわけじゃなくて、あ、こっち向いた!
よかった。
なつきちだ。
反射的に走り出していた私は、そこでようやく、自分の思考に追いつかれる。追いつかれて。
絶対おっかない人じゃん、のところで、右足は止まって。
よかった、のところで、左足は進んで。
バランスを崩して、足を滑らせる。
天地がなくなって、首にかけていた、ヘッドフォンが、宙を舞って。
「あっ」
「だり……!?」
『トサカ』の女が――、なつきちが手を伸ばす。
私もそれにすがるように、手を。
伸ばした。伸ばしたのに、その手は……、私の手は、彼女の手をすり抜ける。
するりと。
「なづぎっ……!」
コケた。
おもっきり。
手のひらからイッたから頭とか顔は無事だけど、手のひらズザーッておもっきりアスファルトにハイタッチ。
いたい。
「んぐぅぅぅぅぅぅ」
「あぶねー、間一髪だったな」
どこがですかね。
間一髪どころか、間ゼロ髪? 首の皮で言うとゼロ枚? 手の皮で言うと……べろーん。うわあ。
いーたーい。
「ほれ」
で、なつきちが間一髪守ってくれたのは、飛んで行った私のヘッドフォンで。
私の手をつかむ代わりに、ヘッドフォンをナイスキャッチしてくれたみたいです。
突っ伏したままの私に、なつきちがヘッドフォンを差し出す。
「高価なもんなんだろ、これ」
うん、まあ、そうだけどね。
無事でよかったんだけどね。
釈然としない表情の私に、なつきちは苦笑を投げかけながら、「悪かったよ、だりー」って抱き起してくれて、私の手首を優しくつかむ。
血のにじんだ右の手のひら。
「あちゃー、結構ハデにやったなぁ。いたそー」
「いたい……」
「ほら、はやく洗わないと……、あそこのお店な、行くぞ。歩けるか? おんぶいるか?」
「歩けるよぅ……」
なつきちに手を引かれて、歩く。涙目で。
こんな感じです
ゆっくり書きます
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