「で、今どういう状況?」「生き埋めっす」 (12)

「あれ? ここは?」

「目、覚めたっすか? 死んじゃったかと思ってマジ不安だったっす」

「ああ、悪い 気失ってた」

「そうっすね」

「で、今どういう状況?」

「生き埋めっす」

「だよな 真っ暗だし、体が全く動かねーもん」

「ウチもっす」

「助けくるかな」

「ムリじゃないっすかねー すごい吹雪ですごい雪崩だったっすよ?」

「だよな 今こうして喋れてるのだって奇跡だと思う」

「たまたま瓦礫が挟まったお陰でかろうじて空間が出来ただけっすからね」

「息ができるのが有り難いよな」

「でも酸素何分保つか分かんないっすよ」

「喋るのやめようか」

「ウチ黙ったら死にそうっす」

「本当に死ぬよりは良くないか?」

「いや死ぬっすよ 助からないレベルのガチ生き埋めっす」

「やっぱりそう思う?」

「はい たぶん十分もすれば窒息っすね」

「はぁー死にたくねぇなー」

「ホントっすよ」

「死ぬまで何する?」

「映画館の開場待ち中に友達に向かって吐くセリフ並に軽く言ったっすね」

「いや、深刻にしててもどうせ死ぬんだしさ」

「じゃあなんか話しましょーよ」

「それしかないよな」

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「じゃあウチからいいっすか?」

「いいよ」

「ウチ、先輩のこと好きっす」

「は? いつからだよ」

「一年くらい前っすかね」

「なんでもっと早く言わねーの?」

「言うに事欠いてそれっすか?」

「いや、俺もお前のこと好きだったんだよ」

「マジすか」

「まじまじ」

「もっと早く言っときゃ良かったっす」

「だろ?」

「先輩はいつからっすか?」

「たぶんお前よりもうちょい後だよ」

「なんでウチっすか?」

「なんかよく慕ってくれてるっていうか、可愛いやつだなって」

「それ、ウチが仕掛けてたからっす」

「下心ありか」

「アリアリっす」

「お前はなんでだよ」

「特に理由はないっすよ 目で追ってたらいつの間にか好きになってたっていうか」

「ありがちだな」

「ありがちっすね」

「ところでお前、体痛くないか?」

「あー…痛くないっていうか感覚ないっす」

「なら良かった」

「先輩は大丈夫っすか?」

「俺も感覚ねーよ」

「じゃあ大丈夫っすね」

「どうせ死ぬなら痛くない方がいいもんな」

「苦しいのも嫌っすよね」

「そう考えたら俺ら運良いのかもな」

「不幸中の幸いってもうちょっと運が良い時に使うんすよね?」

「せめて生きて帰れたら使えただろうな」

「不幸中の辛いってとこっすかね」

「それはただ辛いだけだな」

「実際辛いっす」

「そう言う割にお前泣かないよな」

「先輩が目覚ます前にめっちゃ泣いたっす」

「だから声枯れてたのか」

「最初一人で孤独感半端なくてやばかったっすけど、近くで先輩のうめき声が聞こえたんでなんとか持ち直したっす」

「たくましいよお前 よく頑張ったな」

「そういうの泣きそうになるんで勘弁してください」

「悪い」

「まあ頑張ったところでどうせ死ぬから意味ないっすけどね」

「お前のその悟った感じがまた格好良いよな」

「これが現実っす」

「思い知ったよ」

「そんで一人の時に考えたんすけどね ウチが死んだ後のことを」

「おう」

「残された家族とか、大学の友達とか」

「ああ」

「マジ辛いっす」

「感想短ぇな」

「ウチの話より先輩の話が聞きたいっす」

「生き埋めになった時に話すネタ、ストックしてねぇんだわ」

「ウチもっす」

「映画とかだとさ」

「はい あ、話すんすね」

「こういう状況からでも何だかんだ奇跡的に助かるわけじゃん?」

「死んだら後味悪いっすからね」

「だから助かるまでの過程とか色々意味があるんだけどさ」

「はい」

「俺らは映画の登場人物じゃないから普通に死ぬし、今話してることもかろうじて生きてることも何の意味もないんだよな」

「めっちゃ凹みました」

「まじですまん」

「冗談っす」

「お前ってそういうとこあるよな」

「褒めてるんすよね」

「褒めてるよ」

「わぁい」

「お前の顔が見えないのが悔しいな」

「なんでっすか?」

「こういう時、お前すげー可愛い顔するからさ」

「そんなこと思ってたんすね 可愛いとか一言も言ってくれなかったのに」

「言えるわけねーだろ」

「まあそうっすよね でも今はそんな顔できそうにないっす」

「余計に見てやりたいよ」

「ウチも先輩の顔見たいっす」

「ああ 見たいし、触れたい」

「ウチも……」

「泣くなよ」

「泣いてないっす」

「声で分かる」

「大丈夫っす 泣いてたら先輩とお話できないんで」

「お前が近くにいてくれて本当に良かった」

「ウチは先輩だけでも助かって欲しかったっす」

「お前を一人にしたら俺は死にたくなるね」

「一人にしなかったらしなかったでやっぱり死ぬんすけどね」

「面白いこと言うな」

「笑えない冗談っす」

「せめて俺だけでも笑ってやるよ」

「酸素減るんでやめてください」

「切実だな」

「ていうかもうだいぶ薄いっす」

「確かに」

「意識も薄れてきた」

「気を確かに」

「天国見えてきたかも」

「戻ってこーい」

「天国とかあの世ってあるんすかね」

「ねーだろ 死んだらこの世からいなくなるだけだ」

「冷めてるぅー」

「冷たい男とは言われるよ」

「現在進行形で冷たくなってる辺りポイント高いっす」

「そのポイントどこで使えるんだよ」

「地獄の沙汰で使ってください」

「決済サービス充実させてんじゃねーよ」

「そっちにツッコみましたか」

「地獄送りでもねーよ」

「えっ? 先輩が天国っすか?」

「さっきのポイント使っていいか?」

「喧嘩を買うなら現金でお願いします」

「お前は地獄の鬼を見習え」

「獄卒って儲かるんすかね」

「字面だけ見たら大卒より儲かりそうだな」

「大学中退の身には有り難いっす」

「この場合の中退は、中途退学じゃなくて途中退場だけどな」

「人生中退っすか」

「そんな履歴書、書類選考で落とされるよ」

「お祈りされちゃいますか」

「お祓いされちゃうんじゃないか?」

「お祓い箱っすね」

「腹痛いわ」

「じゃあ人生卒業で」

「卒業おめでとう」

「随分飛び級しちゃいましたけど」

「その上二階級特進だよ」

「めちゃエリートじゃないっすか」

「就活生共冷え込んでるかー?」

「ウチらはリアルに氷漬けっす」

「死体が上がるのは春以降かもな」

「スマホのGPSがあるんで見つかるとしたらすぐかもしれないっすよ」

「腐る前に見つけてもらいたいもんだ」

「普通にバッテリー切れて終わりっすね」

「土になるまで一緒なんてなんかロマンチックだな」

「結婚どころかキスもしてないっすよ」

「天国なら牧師さんいるよな」

「天国なんてないって言ったじゃないっすか」

「お前と別れたくないんだよ」

「まだ付き合ってもいないっすよ?」

「じゃあ付き合ってくれ」

「よろこんで」

「天国ならラブホくらいあるよな」

「やっぱやることやるんすね」

「当たり前だろ 未練ありまくりだよ」

「童貞っすもんね」

「なんで知ってんだよ」

「自分で言ってたじゃないっすか」

「でも後輩の女子に言われて傷ついた」

「ウチもまだなんでおあいこっす」

「ああ……」

「そのリアクションはマジでやめて抉れる」

「天国行ったら俺とやろうな……」

「ウチが欲求不満みたいな言い方すんな」

「欲求不満じゃないのか」

「ここから出たい欲求がすごいです」

「それはそうだ」

「身体を求めたいです」

「上の口は正直じゃないか」

「くっ……殺せ」

「すまんが俺も死にそうなんだ」

「死んじゃだめ」

「もう喋り疲れた」

「だめ」

「ちょっと休もう」

「だめ」

「ちょっと」

「だめ」

「…………」

「ねえ」

「…………」

「ねえってば」

「…………」

「ウチも……連れてって……」


お死舞

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