猫が居ました。 (16)
猫は心臓に病気を持っていました。
綺麗な白い毛並みと、群青色の深い瞳を持った美しい猫でした。
猫は生まれるとすぐに高値で取引されて金持ちの家にもらわれましたが、最初は可愛がっていた家族もすぐに猫に飽きてしまいます。
その上心臓に病気まで見つかってしまいましたから、もう癒えに置いておく理由はありません。
ただでさえ使用人任せだった世話も完全に放棄して、近所で噂にならないように、誰も知らない野原へ捨てたのです。
猫はみすぼらしい箱に入れられ、見た事もない景色に置き去りにされました。
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猫は初めて雨に打たれ、初めて風に吹かれ、箱がしなびていくのよりも早くボロボロになっていきました。
もう誰も、お金を払って猫を買う者などいないでしょう。
水たまりに映る姿は雑巾のようで、群青の滴が一滴落ちると、水面に波紋をつくりました。
限界までお腹が空いてようやく、猫は箱から出ることを覚えました。
初めて歩く土は居心地が悪く、足の裏をいじめてきます。
鼻にかかる草はくすぐったくて、足元には蟻が道を作っていました。
何匹か舌ですくって食べると、幾分空腹が紛れたように思えました。
しばらく歩くと町に出ました。
ああやっと見た事のある景色です。
少しだけの安心は得ましたが、それでもやっぱりお腹が空いて死にそうでした。
どこを歩いたのか分からないくらい歩いて、気が付くと裏路地でした。
機械油にまみれた髭だらけの老人が、足元にパンを置いてくれました。
自分と同じくらいボロでしたが、猫は一声お礼して、それからがつがつとかぶりだしました。
老人はずっと笑っていました。
数日ぶりの食事はあまりに美味しくて、ポロリと涙をこぼすとそれは真珠になりました。
また、猫の左目はラピスラズリの宝石になっていました。
老人は驚き、猫の目をじっと見ると、真珠だけをひょいと拾い上げて、それからはずっと何も言いませんでした。
猫は老人にぺこりと頭を下げて先を急ぎます。
それからも死にそうになるたびに誰かが助けてくれ、その度に猫の身体は宝石や希少な金属などに変わりました。
右目はエメラルドに、爪はダイアモンドに、皮は絹、毛は極めて細いガラス細工に。
そうしてようやくお金持ちの家にたどり着いた時、猫の全身は輝くほど美しいものに変わっていました。
もう、もとの白猫の比ではありません。
輝く猫を使用人が見つけ、旦那に伝えました。
旦那は喜び勇んで駆けつけました。
その後すぐに太った奥様と、同じく太った息子もどたどたと走ってやってきました。
あの時捨てた猫が、こんなに綺麗になって帰ってきたよ。
やあ、世の中何が起こるか分からないものだなあ。
こっちへおいで。何か食べさせてあげよう。
近所中に自慢して回らなきゃ。
彼らがそう言って抱き上げようとしたその時。
猫は一声にゃあと鳴いて、それからごぼりと血の塊を吐いて倒れました。
呼んでも揺すっても動かず、触れたそばから身体は土くれに変わっていって、最後には何一つ残りませんでした。
ちくしょう、何だって急に死んだんだ。
さっきまであんなに綺麗だったのに。
どうして。
どうして。
猫は心臓に病気を持っていました。
綺麗な白い毛並みと、群青色の深い瞳を持った美しい猫でした。
お金持ちの家では、誰もその事を覚えていませんでした。
おしまいです。
見てくれた人いたらありがとう。
石英がどうたらいうのを書いてた者です。眠れなくて書きました。
これからもノンジャンルで投下していくので見かけたらよろしくお願いします。
おつ
>>9
ありがとう
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