吹雪「解体してもらおうかな……」 (60)

提督「また大破で帰還か、吹雪。相変わらず戦果が芳しくないようだな」

吹雪「す、すみません。次は頑張ります!」

提督「頑張ります、ねぇ。それを聞くのも何度目だろうな」

吹雪「…………」

提督「お前がこの鎮守府に配属されてから、どれだけ経った?」

吹雪「えっと……2年とちょっと、です」

提督「その間、一度でもMVPを取ったことがあったか?」

吹雪「い、いえ……」

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提督「ほとんど大破、よくて中破。お前のために道中で引き返したのも一度や二度じゃない」

吹雪「……すみません」

提督「私もMVP、つまり特別なことをしろとは言わん」

吹雪「…………」

提督「ただ、他の駆逐艦にできることくらいはできないものか。それすらも期待しすぎだと?」

吹雪「い、いえ! 次こそは必ず!」

提督「まあ、いつも返事だけはいいがな」

吹雪「…………」

吹雪「――はぁぁ。また怒られちゃった……」

加賀「ひどい溜息ね」

吹雪「あっ、加賀さん……」

加賀「落ち込むなら自室でやりなさい。公の場で悲観的な姿勢を見せるのは感心しないわ」

吹雪「ご、ごめんなさい」


吹雪(加賀さんにも叱られた……私、何やってるんだろ……)

吹雪(精神的に参った時……加賀さんならどうしてるのかなぁ)


吹雪「あっ、あの! 加賀さんに、ちょっと聞きたいことがあって!」

加賀「……なに?」

吹雪「わ、私……また全然活躍できなくて、司令官に怒られて……」

加賀「そのようね。その様子から容易に想像がつくわ」

吹雪「でも、どんなに頑張っても空回りするだけで、私もう、くじけそうで」

加賀「……何が言いたいの?」

吹雪「え、えっと……加賀さんはくじけそうな時、何を支えに頑張ってるのかなって」

加賀「支え? 愚問ね」

加賀「国のために戦うという志。それ以外に何があるのかしら」

吹雪「国のため……」

加賀「私たち艦娘は、この身に類稀なる能力を授かった。深海棲艦と戦えるだけの力を」

吹雪「……はい」

加賀「その力を以て、身を削ってでも深海棲艦と戦う。それが私たちの存在意義でしょう?」

吹雪「そ、それは分かってます。でも……」

加賀「その意志があれば、どんな苦境でも『くじける』なんてとても言えないと思うけれど」

吹雪「…………」

加賀「あなたは嬉しくないのかしら。自ら国に貢献できることが」

吹雪「……嬉しい、はずなんですけど」

加賀「はず? 曖昧な答えね」

吹雪「大破して、怒られての繰り返しで……何のために生きてるのか、もうわからなくて」

加賀「個の心情は関係なく、生きる理由は国のため。そう言ったつもりだけど」

吹雪「私たちは、国のためにしか生きちゃいけない……」

加賀「当然のことでしょう」

吹雪「…………」

~ 防波堤 ~


吹雪「……艦娘は、国のためにしか生きられない」

吹雪「じゃあ何の力にもなれない、弱い私は存在する意味すら無いんじゃ……」

吹雪「弱いから提督にはしょっちゅう怒られるし、お陰ですっかり謝り癖がついちゃったし」

吹雪「凹んだ時もこうして膝を抱え込むだけで、大破したからって特訓する気も湧いてこない」

吹雪「なんだかなあ。私、なんで艦娘に生まれちゃったんだろう……」


赤城「……あら? 吹雪さん、こんにちは」

吹雪「えっ、赤城さん? なんでここに……」

赤城「私だって、たまには散歩くらいしますから」


吹雪(……赤城さんも、やっぱり加賀さんと同じように考えてるのかな)

吹雪「――というわけで、なんだか最近ずっとモヤモヤしてて」

赤城「『艦娘は国のためにしか生きてはいけない。だから弱い自分は必要ない』ですか」

吹雪「はい……」

赤城「吹雪さん。あなたは、少し勘違いをしているのかもしれませんね」

吹雪「勘違い、ですか?」

赤城「私達が国のために生きるのは当然のこと。艦娘の生まれた理由そのものなのですから」

吹雪「それは分かりますけど」

赤城「でも、加賀さんがこの艦隊に吹雪さんは不要だ……と考えているとは思いません」

吹雪「え?」

赤城「最初は誰だって弱いんです。だから、弱いからいらない、なんて誰も言えません」

吹雪「でも、加賀さんは……」

赤城「加賀さんは自分にも周りにも厳しい方ですので、誤解されやすいだけなんです」

吹雪「…………」

赤城「本当はあなたが強く成長するのを期待していると思います。きっと提督もそうですよ」

吹雪「でも私……ホントに成長するんでしょうか。こんなんじゃMVPなんて一生無理じゃ……」

赤城「……吹雪さん、あなたにいいことを教えてあげますね」

吹雪「いいこと?」


赤城「『無理』というのは、嘘つきの言葉なんです」

吹雪「ど……どういうことですか?」

赤城「途中で諦めるから無理になるんです。諦めなければ無理ではなくなります」

吹雪「え、え? じゅ、順序が逆じゃ……普通は『無理だから諦める』ですよね?」

赤城「でも何度大破しようと戦い続ければ、一ヶ月後か一年後か、MVPを取ることはできます」

吹雪「まあ、きっといつかは……」

赤城「つまり、無理ではなかったんです。MVPが取れたのだから『無理』という言葉は嘘だった」

吹雪「それは……そうかもしれませんけど」

赤城「一度できたのですから、次からはもう『無理』だなんて言葉は言えませんよね?」

吹雪「は……はい……」


吹雪(あ、赤城さん……怖い……)

~ 吹雪の自室 ~


吹雪「……加賀さんは、国のために身を粉にして戦えって言ってた」

吹雪「赤城さんも口調は優しかったけど、弱音を吐くのは許さないって感じだったし」

吹雪「どうしよう……私、やっぱりもう……」

吹雪「…………」



吹雪「解体、してもらおうかな……」

~ 司令室 ~


吹雪「失礼します」

提督「吹雪か。帰還報告なら先ほど聞いたが、他に何かあるのか?」

吹雪「実は司令官に、これを受け取ってもらいたくて」

提督「これは……解体届か。自分で書いて持ってくるとはな」

吹雪「はい。もう私、この鎮守府でやっていける自信がありません……」

吹雪(……これでいいんだ。艦隊のお荷物になるくらいなら、解体された方がマシなんだから)

提督「そうか。では明日付けで駆逐艦『吹雪』は解体する。これは決定事項だ」

吹雪「あ、あれ……? ず、ずいぶんあっさり……」

提督「私は100隻以上の艦娘を抱えている。軟弱者をいちいち説得している暇は無い」

吹雪「…………」

提督「長門」

長門「ええ、『次』を用意しておきます」

吹雪「次……って、私の代わりの艦娘ってことですか?」

長門「ああ。国のためならと、最前線への着任を希望する艦娘はいくらでもいるからな」

提督「では明日、解体準備が完了したら呼び出す。それまでは自室待機だ、荷物もまとめておけ」

吹雪「はい。失礼しました」

 ガチャッ バタン

提督「……とは言ったものの。成長を見込んで2年も運用していたから、解体するのはな」

長門「解体しても、駆逐艦では大した資源にもなりません。近代化改修の素材に回しては?」

提督「いや……待てよ。そういえば次に攻める海域は、ボスがあまり強くないはず」

長門「ええ、ですから道中さえ突破できれば制圧は容易かと。それが何か?」

提督「私にいい考えがある」

翌日――


吹雪「司令官! 今日の任務、私も出撃するんですか?」

提督「そうだ」

吹雪「もう解体待ちの身なのに、出撃しても……」

提督「状況が変わったのだ。解体するまで私の部下であることに違いはない、指示には従え」

吹雪「は、はいっ」

長門「今回は私が旗艦を務める。編成はこの通りだ、各艦はすぐ出撃準備に入れ!」

 長門改  Lv95
 赤城改  Lv92
 加賀改  Lv90
 那智改二 Lv87
 川内改二 Lv85
 吹雪   Lv7

吹雪「なんだか、また私が足を引っ張りそうな編成だなぁ……でも最後だし、がんばろっと!」

那智「吹雪!」

川内「良かった、出撃前に見つかって」

吹雪「那智さん、川内さん。どうしたんですか?」

那智「その……今回の出撃、取りやめる気はないか?」

吹雪「えっ? どうしてですか?」

川内「……今の時点じゃなんとも言えないけど、嫌な予感がする」

那智「ああ。お前はまだ練度も低い、無理をしなくてもいいだろう?」

吹雪「ありがとうございます。でも私、これが最後なので。一度くらい活躍してみせたいんです!」

那智「…………」

吹雪「すみません、まだ出撃準備が終わってなくて。また後で!」タタタッ



那智「……よりによって、最後の出撃でか」

川内「酷いよ、こんなの……」

戦闘海域 道中――


長門「ビッグ7の力、侮るなよ!」

 ドゴォォン!!

重巡ネ級「グオオォォォォ……」


長門「今ので最後のようだな。赤城、被害報告を」

赤城「3戦闘を終えて、吹雪さんが大破。他の艦は軽微な損傷で済んでいます」

吹雪「す、すみません……」

長門「ふむ。では、次のボス海域までこのまま進軍する」



吹雪「…………えっ」

吹雪「そ、そんな! このまま進軍したら、私……」

長門「轟沈するかもしれんな。しかし、それが提督の命令だ」

吹雪「司令官の!?」

赤城「やはり、吹雪さんは捨て艦でしたか」

吹雪「す……捨て艦……?」

加賀「つまり、沈んでも良い艦ということ。弾散らし用に、練度の低い艦をあえて入れているのよ」

赤城「ボスが強くなければ、5隻以下で十分勝利できる。海域突破には有効な戦術とされています」

吹雪「じゃ、じゃあ私は、最初から沈む前提で出撃を……?」

長門「そういうことだ」

吹雪「……っ!!」

吹雪「だからさっき、那智さん達が……」

那智「……確証は無かった。あったところで私ごときの権限では止められないが」

川内「捨て艦戦法が指示されてるのなら、もう運良く生き残れることを祈るしかない……」

吹雪「そ、そんなの無理ですよ! 大破でボスに挑んで、生き残れるわけ……」

赤城「また無理と言いましたね。諦めなければ無理ではない。そう教えたはずですよ」

吹雪「あ、赤城さんまで……」

長門「さあ、グズグズするな。時間が経てば近海から敵の増援が来る可能性もある」

加賀「弱い弱いと嘆いていたあなたが、形はどうあれ国に貢献できるのよ。本望でしょう」

吹雪「う、ううっ……!」

ボス海域――


空母ヲ級「ヲヲ……!」

 ドゴォォォォ!!

加賀「やりました」

赤城「さすがは加賀さん、敵空母を一蹴とは」

長門「ボスにしては攻撃の質も量も、道中とさほど変わらない。想定通りだな」

赤城「長門さん、慢心は……」

 ブゥゥゥ….ン

赤城「この音は……艦載機? 撃墜した敵空母の艦載機がまだ……」

加賀「! 長門さん、直上です!」

長門「なに!?」


 ズドォォォォ……!

吹雪「あ……ぅ……」

長門「吹雪!?」

赤城「な、長門さんを庇うなんて!」

加賀「大破の身でそのようなことをすれば……」


吹雪(なんでだろう。こんなに酷い扱いをされてるのに、自然と体が動いた)

吹雪(きっと、私が……艦娘、だから)

 バシャァァァン…

吹雪(……力が、入らない……沈む……暗い暗い、海の底に)

吹雪(でも……私なんかでも、長門さんを、助けられた……)

吹雪(これで、本当の……最後の最後、に……役に、立っ――)


吹雪「………………」

数時間後 鎮守府――


長門「――はい。予定通り海域を突破。海域の制圧に成功しました」

提督「うむ。それで……」

長門「吹雪についても、予定通り轟沈しました」

提督「弾除けくらいにはなったのか?」

長門「…………はい」

提督「そうか、最後は役に立ったか。よくやったな」

長門「ありがとうございます」

提督「それで、次の艦にはこの島風と雪風というのが――」

赤城「命令とはいえ……捨て艦は何度見ても、気分の良いものではありませんね」

加賀「結局あの子は、その成長を待たずして終わってしまった」

那智「しかし文字通り身を削って、国のために戦ったのだ。私は立派だと思う」

川内「うん……あの子、最後は満足そうだった」

赤城「大破、叱責、落胆の繰り返しで、毎日楽しいことも無かったでしょうから」

加賀「その身を国に捧げられたことを誇りに思っているといいのだけど」

赤城「きっと思っていますよ。吹雪さんは、艦娘の本懐を遂げたのですから」

加賀「……そうですね」

3年後 某所――


吹雪「あっさりー、しっじみー、はっまぐっりさーんっと」ザクザク

リ級「おつかれさま」

ヲ級「調子はどう」

吹雪「あっ、今日の分はもう採り終わりました!」

ヲ級「ん。じゃあ帰ろう」

吹雪「そうですね。まだ日は高いですけど、あまり働くと姫様に怒られちゃうし」

リ級「分かってるね。明日やればいいことは明日やる、これ大事だよ」

吹雪「えへへ。そうだ、帰ったらまた言葉を教えてください。うまく喋れないところがあって」

ヲ級「もう十分、流暢に喋れていると思う」

リ級「駆逐艦たちよりよっぽど上手いよ。で、まだ昔のことは思い出せそうにない?」

吹雪「そっちは全然……私って、どこから来たんでしょうねー」

ヲ級「…………」

リ級「そういえば、来週は初出撃だって聞いたけど」

吹雪「そうなんです。あの『ナガト』や『アカギ』の鎮守府が相手らしいので、不安ですけど」

ヲ級「大丈夫、3年も訓練を積んだのだから。Lv90ならその辺の艦娘には負けない」

吹雪「3年か……もうそんなに経つんですね」

リ級「手足をもがれて瀕死のあなたを見つけた時は、絶対助からないと思ったよ」

ヲ級「私たちの部品を継ぎ接ぎして修復したけど、蘇るかは一か八かの賭けだった」

吹雪「本当に感謝してます! 私、粉骨砕身の覚悟でがんばりますから!」

ヲ級「粉骨砕身……は、困る」

吹雪「えっ?」

ヲ級「自分を犠牲にする必要はない。私たちは組織の奴隷ではないのだから」

吹雪「でも私って弱いので、きっと必死に戦うことくらいしかできませんし……」

リ級「Lv90は弱いとは言わないけどね」

ヲ級「強さは関係ない。誰かを沈めて得られる勝利に価値はない、それだけのこと」

リ級「だいたい、個を重んじない組織が、全として成立するとは思えないよ」

吹雪「な、なるほど……」

ヲ級「それに、戦うだけが能ではない。先程のように資源を集めるのも大事な仕事」

吹雪「……確かにそうですよね。なんだか、国のために自分を犠牲にしなきゃって思っちゃって」

ヲ級「それは気の迷い。お風呂に入って忘れよう」

吹雪「はい、そうします!」

~ 某拠点 ~


吹雪「ただいま戻りましたー」

ネ級「おかえり。お風呂湧いてるから入ってきなさい」

吹雪「はぁーい!」


ネ級「……すっかり馴染んだわね、あの子も」

ヲ級「それも、来週の出撃で終わり」

ネ級「3年前、あの戦いで撃墜した駆逐艦『吹雪』……やっぱり、敵の元に返すのね」

ヲ級「あの子は眩しすぎる。この暗い海の底に留めて良いものではない」

リ級「鎮守府にいれば記憶も戻るはず。その方があの子も、きっと幸せになれるよ」

ネ級「……そうね。少し寂しいけど、しょうがないわね」

吹雪「ふぅ~、いいお湯だなぁ」

吹雪「こうして湯船に浸かってると、大破する度に入ってたのを思い出――」

吹雪「……ん? あれっ、それっていつの話だっけ?」

吹雪「おかしいよね、大破なんて。私、出撃したことなんてないのに……」

吹雪「ま、いっか。よーし、来週は『ナガト』や『アカギ』を倒せるように頑張るぞー!」

レ級「相変わらず独り言のうるさい奴だな」

吹雪「うわぁ、いたんですか!? すみません!」

レ級「……それももうすぐ聞けなくなるのか。ふん……」

吹雪「??」


この後吹雪は、長門や赤城、加賀といった旧知の仲間達と戦場にて再会し、
戦いの最中でかつての記憶を取り戻す。

己を犠牲に使命を果たす道か、個としての安寧を掴む道か……
2つの道を知った吹雪がどちらを選ぶのかは、まだ誰にも分からない。


おわり

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年08月29日 (土) 23:23:40   ID: dqI2Pp5N

打ち切り漫画の終わり方じゃん

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