「今日は、見ているだけでも心癒される愛犬ロボ、てつのご紹介です」
「実は、リモコンが付いており、この真ん中のついてくるボタンを押すと……」ポチッ
ワンッ! ワンッ! ワンッ!
「まっすぐに自分のところに近づいてくるんです」
「ただ歩くだけでなく、背中や頭をなでたり、左右の耳を触ると……」サスサス
ゲヘゲヘゲヘウーワンワン
「愛くるしい多彩な反応が楽しめます」
「そして、ただ吠えるだけでなくこのリモコンのTボタンを押すと」ポチッ
アソボウヨー
「と、言葉を話すんです」
「約……」
葵「(桜と凛へのプレゼントにぴったりかしら……注文してみましょう)」
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葵「はい、二人共。少し早いけどお誕生日プレゼントよ」
凛「わぁー、子犬だ!」
桜「でも、ふつうのわんちゃんと少し違う?」
葵「この子はね、愛犬ロボ「てつ」って言うのよ」
凛「愛犬ろぼ?」
葵「えぇ、試しに触ってみて?」
凛「う、うん」ソー
ツン
てつ「わんっ! わんっ!」
凛「わっ、動いた!?」
葵「すごいでしょ? 色んな愛くるしい反応を見せてくれるの」
凛「すごいすごーい!」
桜「わ、私も……触っていい?」
葵「えぇ、桜も触ってごらん?」
桜「じ、じゃあ……」ソー
てつ「ヘッヘッヘッヘ……わんわんっ!」
桜「わぁ……」パァアア
葵「気に入ってくれたかしら?」
凛・桜「うんっ!」
時臣「(葵と娘達が使い魔のような何かと触れ合っているな……新手の魔術の鍛錬だろうか)」
てつ「わんっ! わんっ! わんっ! わんっ!」テクテク
桜「わぁ、着いてきた!」
凛「すごーい!!」
葵「(うふふ、リモコンの反応が新鮮ね)」
時臣「楽しそうだね」
凛「あ、お父様!」
時臣「どれ、珍しい使い魔だね……私も触っていいかな?」スッ
てつ「……」シーン
時臣「……?」
葵「(あら、リモコンが反応しないわ……どうしてかしら)」
桜「えっと……てつ?」
てつ「わんっ! わんっ! わんっ!」テクテク
時臣「ど、どうやら主を識別する事が出来るようだね」
葵「(もう一度説明書読んでおいたほうがいいかしら……えーと、愛犬ロボ「TETSU」故障かな? と思ったらの項目は)」
桜「すぅ……すぅ……」
凛「むにゃむにゃ……てつ~」
てつ「……」
葵「うふふ、二人共てつの事をすっかり気に入ったのね」
葵「そうだ、しばらくしたら電池も変えなくちゃいけないわね。用意しておかなくちゃ」
イソイソ
葵「これでしばらくは安心ね」
時臣「(最近は使い魔を宅配便で扱うようになっているのか……見覚えのない請求が来た時は何事かと思ったが、娘達の教育につながるし、まぁいいだろう)」
桜「わぁ、今度はダンスを踊ってるよ!」
凛「すごいすごーい!」
葵「うふふ、大切にしてあげなさい」
凛・桜「はーい!」
てつ「あそぼうよー」
凛「ねぇねぇ、次は何して遊ぶ?」
桜「てつはどうしたい?」
てつ「わんっ! わんっ! わんっ!」テクテク
時臣「(間桐から養子の話がきているな……)」
てつ「わんっ! わんっ! わんっ!」
桜「んぅ……てつ?」
てつ「わんっ! わんっ! わんっ!」テクテク
桜「てつ、どこにいくの?」テクテク
凛「むにゃむにゃ……」
てつ「……」テクテク……ピタッ
桜「てつ、どうしたの……?」
「……」
「……」
桜「(話し声が聞こえる……お父様とお母様?)」
桜「(扉に耳を当てたら聞こえるかな?)」スッ
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葵「桜を養子に……?」
時臣「魔術は一子相伝が基本だ。凛に後を継がせるとなれば桜は魔導の道に進めなくなる」
時臣「だが、間桐の養子となり、間桐の当主となれば桜も凡俗としての道を歩まずに済む」
時臣「これは桜の為でもある、分かってくれるか?」
葵「……魔術師の妻となった時から、覚悟はしています」
時臣「理解してくれて嬉しいよ、葵」
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桜「……え?」
桜「嘘……だよね? 私、知らないおうちに連れて行かれちゃうの?」
桜「姉さんとも、てつとも……一緒にいられなくなっちゃうの?」
桜「やだよ……そんなの、嫌」
てつ「わんっ! わんっ! わんっ!」テクテク
桜「てつ……?」
桜「一緒に逃げようって、言ってくれてるの?」
てつ「わんっ! わんっ! わんっ!」
桜「…………」
凛「嘘……桜がいなくなったって、嘘ですよね、お父様!?」
時臣「信じがたい事だが……屋敷の結界に敵の反応は感知されていなかったにも関わらず桜がいなくなってしまっているのは事実だ」
葵「そんな……まさか、桜が誘拐されたんじゃ!?」
時臣「いや、桜を誘拐しようとする輩が訪れたら屋敷の結界が反応しているはず」
葵「じゃあどうして桜がいなくなったの!?」
時臣「それは……」
凛「私、桜を探してくる!!」ダッ
時臣「こら、待ちなさい!」
葵「凛、どこにいくの凛!?」
凛「桜、どこにいったのよ……早く出てこないと許さないんだから!!」
桜「……家出しちゃったね」
てつ「わんっ! わんっ!」
桜「……てつは優しいね」
てつ「あそばんか?」
桜「……ごめんね、今はショックで遊ぶ気になれないの」
てつ「……」
桜「もう、姉さんとも会えないのかな……」
てつ「わんっ! わんっ!」
桜「……そうだよね、てつが一緒にいてくれるよね」
桜「私、寂しくないよ。てつが一緒にいてくれたら……寂しく……なんて」ポロポロ
てつ「わんっ! わんっ!」
桜「ぐすっ……やっぱりさみしいよ……てつぅ」
てつ「わんっ! わんっ!」
ヒュオオオオオオ
桜「……」ブルッ
桜「少し……寒いね」
てつ「……」
桜「一緒にねよっか……おやすみ、てつ」
てつ「……」
桜「すぅ……すぅ……」
「ほう、この小娘が遠坂の……」
「こんな所にいるとは、わざわざ引き抜く手間が省けたわい」
てつ「わんっ! わんっ!」
「ん? なんじゃこの機械は」
てつ「わんっ! わんっ! わんっ!」シュバッ
「な、何をするやめ……!!」
…………
桜「……ん……ぅ」
てつ「わんっ!」
桜「てつ、おはよ……」
桜「(そっか……私、家出しちゃって……それで)」
凛「桜! やっと見つけた!!」ダッ
桜「あれ……姉さん?」
凛「あんた、今までどこに行っていたのよ!?」
凛「急にいなくなって……ほんとに……心配、したんだから」グスッ
葵「桜!!」
桜「お母様……?」
葵「桜……無事でよかった」ギュッ
桜「あ……」
葵「急にいなくなったから心配したのよ……本当に、無事でよかった」
桜「お母様……私」
凛「ねぇ桜、なんでいきなりいなくなったりしたのよ? 私達がどれだけ探したと思ってるの?」
桜「それは……」
時臣「そうか……あの話を聞かれていたのか」
桜「……お父様、私は……いらない子なの?」
時臣「そうではない。だが、桜と凛は共に魔導の才能がある」
時臣「だが、一つの家で二人同時に後を継がせる事はできない。魔術刻印は一子相伝だからね」
時臣「それだと、どちらか片方は魔術師の道を歩む事ができなくなり、凡俗として生きなければならなくなる」
時臣「親として、それは冒涜でしかない。だからこそ間桐の申し出は天啓だった」
時臣「桜、君は間桐の家で立派な魔術師になりなさい。間桐で魔術を学ぶ事で、君は幸せになれる」
桜「…………私、は……」
てつ「わんっ! わんっ!」
桜「てつ……」
時臣「……その使い魔を少し黙らせる事はできないかな?」
桜「お父様……てつは使い魔なんかじゃないです」
桜「てつも私達の家族です……てつがいなかったら、私は……」
凛「そうよ! 私、知ってるんだから!」バンッ
時臣「凛!?」
葵「だめよ凛、今は大事なお話をしているの」
凛「てつはね、桜の事を大事に思ってくれてるのよ! 桜が家出した時だって、きっとてつが守ってくれたんだから!」
凛「それに、桜が家出した理由を聞いてあげてもいいじゃない! 桜がなんで今回家出したか、それを聞いてから話をしたらどうなんですか!?」
時臣「……それも一理あるね。 桜、何故いきなり家出を?」
桜「……私は、知らないおうちに渡されるって聞いて」
桜「姉さんやお母様、お父様から必要とされてないって思って……それで……」
葵「そんな事ないわ、私達は桜の事も大事に思っているもの」
桜「でも……私、養子にやられたくない」ポロポロ
桜「やだよぉ……魔術師なんてならなくてもいいから、ずっとみんなと一緒に暮らせたらそれでいいから」
桜「お願いだから……養子になんて……出さないで」グスッ
時臣「……それが、桜の答えか」
桜「……」グスッ
時臣「…………本来ならば、娘の幸せを思って心を鬼にするべきなのだろう」
時臣「けど、本人が望まない道を強制するのは親失格だ」
凛「じゃあ……」
時臣「あぁ、桜も凛も、養子には出さない」
桜「お父様……!!」パァアアア
凛「やったぁあああああああああああああ!!」
てつ「わんっ!」
それから、私達は今まで通りの暮らしに戻った。
てつと遊んで、姉さまがいて、お母様とお父様がいて……
もしてつがいなかったら、私は本心を言い出せずに養子に出されていたかもしれない。
望んでもいない魔術師としての道を歩かされていたのかもしれない。
そう思うと、てつは私の恩人で、大事な大事な家族です。
ありがとう、てつ……これからもずっと一緒だよ。
てつ「わんっ!!」
完
小ネタとして怨怨叫ぶ魔改造てつが目にとまってスレを建てたと思ったらちょっとしたほっこり話になっていた。
超短話でしたがこれにて完結です。完成したら思ってた半分のクオリティも出せてなくてショック……
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