千早「ちょっと胸が、痛んだだけ……」 (51)

ファイル整理してたら出てきたやつ
どんどんあげるのでよかったら見てね(供養


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  ─────

   ──


 ─────、────!

         
     ……誰? 誰なのっ?


  ……○□☆▽っ、◇=#


       え、何……聞こえないわ


 えtto、%▽#☆


 何が見える、何が見えるの千早ちゃん 


  分から、ない、わか□◇☆=&──……

 ────

  ──

千早「っは! ……っ? ……?」バッ─

如月千早は混乱していた。
飛び起きたせいか自分がいる世界がどちらなのかを、
少しの間理解することが出来なかった。

千早「……今のは、夢?」

千早「……春香、起きてっ」ユサユサ

春香「……んん、千早ちゃん?」

隣にいる天海春香を揺り起こす。寄り添って眠っていたのか、
千早のシャツには微かな熱がまだ残っていた。

千早「夢を見たのよ、なにか……とても、怖い夢」

春香「夢……? そっかぁ、よーしよし」

千早「え、ちょ、ちょっと春香っ」

春香「えへへー」

ほぼ原文ママで出してます
地の文入れてるの自分も気になるけどみんなも気にしないで(

撫でられた頭を押さえてたじろぐ千早は、
夢の存在を徐々に薄れさせていった。

千早「あれ、私……どんな夢を……」

春香「千早ちゃんっ、ほら、行こうよ」

千早の胸中に暗闇がぐるぐると渦巻き始める。
淡い声色で返事をした千早は、ソファからゆっくりと立ち上がった。

千早「……そうね」


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  ─────

   ──


 ──ゃ─、─────!


  誰? %#○&▽?


   …………★〇△

 
    え、何……聞こえないわ


     何が見える、何が見えるの千早ちゃん 


  ○が、ゆ──世界が、世か&とが見ゆる界……──


 ────

  ──


千早 「っ……!」バッ─

千早「……疲れているのかしら、私」

頭を小さく傾け、千早は嘆息した。
ソファの温もりに甘えていたいと思いながらも、
ゆっくりとだるいままの身体を起こした。

千早「今の夢、誰かが……」

 ガチャッ

「ただい──おっ、はるるんどったのー」

千早「春香……?」

千早「……」

真美「あっ、千早お姉ちゃんっ、やっほ→」

千早「真美、おかえりなさい。それより今『春香』って……」

真美「んー? なんか『レッスンレッスンー!』とか言って走ってったよ?」

千早「そう、まったく春香ったら」ハァ…

真美「……ん、千早お姉ちゃんどしたの? 元気ないね」

指摘された千早は多少無理に笑顔をつくり、心配させまいと努力する。

千早「大丈夫よ、真美。ちょっと疲れているだけだから、
   なんだか、最近夢見が悪くて……」

真美「夢ー? ふ~む~……千早お姉ちゃんが夢の話をするって、
   なんからしくないね→」

真美は活発な少女らしく満面の笑みで、
しかし、何か企んでいるかのような笑い方をするのだった。

千早「そうかしら? でも、確かに言われてみれば少しばかり、
   私らしくもないのかも」

真美「でも真美も前にあったよー、そういうこと」

千早「へぇ、真美が?」クスッ

真美「むーっ、なにさ! 真美だって仕事で悩むことだってあるんだかんね→。
   えっと、あれ……どんな夢だったっけ」

千早「まあ、夢なんてそんなものよね」

そんなもの。思ってもいないようなことを裏返して、千早は言った。
卑しくも夢の記憶は再び、千早の心の奥底に沈んでいった。

千早「心なしか身体も重たくて……疲れているのね、私」

真美「風邪? だいじょぶー? もうすぐ海外公演っしょ?」

千早「それには障ることはないと思うけれど……。
   風邪……そういう感じでも」

真美「むー???」

千早「まあ、気にするほどのことじゃないわ」


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  ────


数日が経ち──

インタビュアー「如月さん、海外公演の話をもらってどうですか?」

千早「はい。自身の夢でもあったことですので、
   正直今でも信じられないぐらいです」

インタビュアー「でも、やっぱりプレッシャーとか感じてるでしょ……。
        世界で歌うことになって、思うことはありますか?」

千早「そう、ですね……世界中のみんなに私の歌声が届けばいいなと、

   ずっとそう思っていたので。あまり今までと変わりません。 
   ただやっぱり、スケールが大きくなったというか」 

インタビュアー「確かに。活動の場が日本だけじゃなくなるわけですからね
        変わらないと言っても色々あるんでしょうね」

千早「それでも、私は誰がどこにいても歌声が届くように……」

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  ──

体調は段々と悪くなっていく。
仕事から戻った千早は力なくソファに座り込んだ。

千早「どうして、こんなに……」

なにかがおかしい、と。
思いたくもなかったことをついに、
千早は完全に認めるのだった。
突然身体を蝕み始め、苦しめ続けているモノ。

千早「…………」

精神的なことだと、すぐに思えることができた。
それから察するに、
まず一番に思い当たったのは『海外公演のプレッシャー』。


 「えぇ、怖くないの千早ちゃん?」

 「別に、緊張しているつもりはないけれど……」


最近あった春香との会話。
ただ、無意識に強がっているだけなのかもしれない。
千早はありえなくもないと、考えを心に留めておく。

ああ、だったら仕事はどうか。
過密なスケジュールが身体的苦痛を及ぼしている、とか。
単純に疲労困憊しているだけかもしれない、と千早は思案した。

千早「でも、前からあまり変わらないわよね……」

千早は自答して、すぐに考えを取り下げる。
過密なスケジュールは今までと変わらないのだ。

千早「……」

みんなと離れ離れになるのが嫌だ、とか。
英語をうまく話せるのか心配だ、とか。
千早にはどれもいまいちしっくりこない。

千早「……うーん」

ため息をついて。
そういえば──最近不気味な夢を見ていることを、
千早は唐突に思い出した。

千早「……」

千早「……誰かが、私を呼んでた」

千早は曖昧な記憶を思い起こし、夢について考え始める。
直感が千早を突き動かしていた。
不気味な夢の中にいた──

千早「私の、大事な人が……」

真美「ちっはやお姉ちゃん→!!」

千早「ふぇっ? ち、ちょっと真美っ」

真美「思い出したよー、思い出したんだYO!」
  
千早「な、何を思い出したの?」

真美「やだなー夢だよ夢! ずっと思い出そうって頑張ってたんだけどね、
   やーーーっと! 思い出したよ→」

真美「えっとねー、はるるんがいっぱい夢に出てきてねー……」

千早「えっ」

刹那、千早は夢の記憶の奥部に引っかかるものを感じ取った。

真美「うんっ。始めははるるんって分からなかったんだけど、
   段々と一緒に、夢の中で戦えるようになったんだ→」

真美「それでね、はるるんと最後には敵をやっつけてー……」

 グラッ─

真美「って、ち、千早お姉ちゃんっ!?」

千早「っ……ぁあ、そうだ、そうだわ…」

真美「な、何が……?」

ソファにもたれ掛かり、千早は不気味に満足げに微笑した。
夢に溶け込んでいた、大事な人は──

千早「春香、だったのね……」

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  ────

春香「泊めて!!」

千早「……いきなり何よ春香」

P「千早。少し頼まれてほしいことがあるんだが……」

千早「? はい、なんでしょうか」

P「春香が電車にもう間に合わないらしくて。
  タクシー代をだすって言うんだけどな……」

春香「千早ちゃ~ん、またお泊りしていい?」

千早「えぇ?」

千早「……」

あの話を春香にするべきなのかしら、と千早は心中で呟いた。
どちらにしろそんなことは関係なしに、
千早は春香を招き入れる以外の選択肢を持たないのだが。

P「まったく、わがままばっかり言うなよな……」

千早「いいわよ春香、いらっしゃい」

P「悪いな千早。それにしても、春香もまだまだ子供だな」

春香「むーっ、なんですかプロデューサーさん。
   いいじゃないですか、私千早ちゃんのこと大好きなんですもん。ねー?」

千早「えぇ、そうね。ふふっ」

P「まったく……」


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  ──

 ガチャッ

千早「いらっしゃい春香」

春香「ほんと、久しぶりだねっ」

千早「……あの、春香」

春香「ん、どうしたの千早ちゃん?」

千早「……先にシャワー浴びてちょうだい、
   簡単なものだけど、私が作っちゃうから」

春香「えーっ! 一緒に作ろうよお風呂入ろうよ~」ズイッ

千早「えぇっ? ち、ちょっと春香っ!」

春香「ほらほら一緒に~……」ズイズイッ

千早「わ、分かったから近い、近いってば!」

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  ──

それから千早はすぐに寝静まってしまった。
簡単な夜食と風呂を済ませ。
春香も千早の横にそうっと寝転がり、しっとりとした大人びた声色で呟いた。

春香「おやすみ、千早ちゃん」


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  ─────

   ──


   Hello and Welcome! Ms.Kisaragi!! 

どこかのホールであろうか。外国語が飛び交うところから考えるに、
日本の会場ではないことは確かである。

    □*?×っ!! ありがとう、みんなありがとう……!

歓声に対し千早は笑顔で受け答える。
どうやら千早にとっての海外公演のイメージらしかった。
千早の夢は明るく、輝きに満ち満ちていた。
しかし、何かが物足りない。

          You, you!  

       私? ……え、ゆ$△?
 
      そう、後ろを向いて

対して──

千早はその声に従うように、静かに後ろを向いた。
そこには如月優の前で幸せそうに歌っている、如月千早の姿があった。

千早の中で巨大すぎる矛盾が、起こってしまっていた。
海外公演で歌う私は、決して優のために歌う私ではない──
そういう考えが作り出した存在。

           ……優? それに、私?

優の前で歌う千早は、
舞台に立っている千早とはまるで違う存在なのだ。

      You are me ...? 

            Yes! You are you!!

暗転からの、場面の転換。       
写し出される、売れない頃の自分。

   ああああ! ○%♯◇、あの頃には戻りたくない!!

      如月さん、スタンバイお願いしまーす
      
              やめて!!

また、転換。
アパートの角で蹲る、千早の姿。

      春香に私の、優の何が分かるのよ!
           もう、お節介はやめて……!!

     ……あ、れ。

無意識に発した言葉に引っかかるものを感じた千早は、
勢いよく顔を上げる。

         え、春香……? 春香、そこにいるのっ?

       千早ちゃん……私、天海春香ですっ

そのドアの先から聞こえる声はあの時と変わらず、とても強いものだった。
千早の夢には、春香がいた。

       ○>#□※◇っ! 私、は…#×=△
 
ああ、だめだ、何故だ。千早は掠(かす)れていく思考を恨みながら、
感覚を無意識に委ねていった。 

       やっぱり不器用だね、千早ちゃんは……でも

          大分と、分かった気がする
  
 ────

  ──

千早「っは!? っ……、……」

何を訴えていたのかは分からない、しかし、
今度はしっかりと記憶していた。
夢に現れた、ある存在の姿を。

千早「……春香」

あなたは……と、ぽつりと呟いた。
なんの因果もないのかもしれない。
だが、千早には隣で寝ている少女の存在が、
夢の中に出てくるただのキャラクターとは到底思えなかった。

春香「……っ、ん、千早ちゃん?」

千早「あのね、今春香が夢に……っ」

春香「夢? 千早ちゃん、また怖い夢見たの?」

千早「そういうわけじゃ、ないけど……」

また寄り添って寝ていたのか、
二人の距離は異様なほどに近く千早は少しばかり驚いた。

春香「……疲れてる? プロデューサーさんから聞いたんだけど、
   私ならいつでも力になるから」

千早「……ええ、ありがとう春香」

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  ──

  はーいオッケー、お疲れ様でしたーっ!

春香「お疲れ様でしたっ」

千早「お疲れ様でした」

春香「……えへへ、千早ちゃんとお仕事できて楽しかったー♪」

千早「私もよ、ふふっ」

微笑む二人の空間を引き裂くように。ことは、唐突に発生する。

千早「っ! ……っ、ぐぅっ……!」ガクッ

春香「ち、千早ちゃん!?」

千早「はぁ……はぁ……、っ、大丈夫よ。
   ちょっと胸が、痛んだだけ……」

春香「千早ちゃん……一回寝よっ。
   控え室でさ、寝ればきっと治るか──」

千早「寝て……どうするのよ」

若干、千早の声が荒っぽくなる。

千早「休んだらよくなるような、そんなものじゃないのよ。
   気持ちは嬉しいけれど、適当なこと言わないで」

春香「……私は、どこだっていつだって、
   千早ちゃんを助けるためならっ」

千早「……ごめん、春香」スタスタ

春香「あっ……」

千早「なんでもいいから、もう……」ボソッ


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  ──── 


雪歩「千早ちゃん、あと一週間で外国だっけ?
   寂しくなるけど、頑張ってね……!」

千早「ええ、ありがとう萩原さん」

雪歩「じゃあ、仕事行ってくるね」タタッ

千早「ええ」

千早を蝕む精神的苦痛は徐々に強まっていった。
身体が怠いという連続的なものではなく、
急に胸が痛むような、鋭い発作が如月千早を襲っていた。

プロデューサーには相談をし、海外公演取り止めもやむなしとなったのだが、
しかし千早はそれを断固として拒否した。

      「私の、夢ですから」

千早「……ふぅ」

 ズキッ─

千早「っ……!? ぐっ、うっぅ……っはぁはあぁ……!」

今までにない、鋭く重たい発作が千早に襲いかかった。
視界がぐらんぐらんと眩み、動悸が早まる。

千早「だ、だ、れかっ……」

小鳥「っ!? 千早ちゃん!? 大丈夫千早ちゃん!!」

事務所には幸か不幸か、事務員の音無小鳥しかいなかった。
小鳥の声が事務所内に響き渡る中、千早は呼吸を整えることに努めた。

小鳥「今、救急車を呼ぶから……!」

千早「音無さんっ、もう、大丈夫です……だから、救急車は」

小鳥「何言ってるの! 今だって現に──」

千早「精神的な、ことなので……なんでも、ないですから」


千早の強い制止に、小鳥は一度尻込んだ。しかし事務員として、
しっかりとしたなだめるように千早に言い聞かせる。

小鳥「そう、千早ちゃんがそこまで言うのなら……。
   それでも、お医者さんには行かなきゃ。もしかしたら病気かもしれないし、
   万が一のことも考えてよ。だから、ちょっと準備して待ってて」

千早「っ……ごめんなさい」

小鳥の母親のように優しい声色に泣き出しそうになりながらも、
千早は素直に頷いた。


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  ──

 ブゥーーーーン…─


診断結果はやはり「精神的なところからの症状」、であるということだった。
医者からは大事をとって一日でもいいから休みなさいと言い渡され、    
二人はそのまま事務所へと帰った。


小鳥「今日の仕事は断っておいたから、ソファでゆっくり休みなさい。
   毛布持ってきてあげるから、あとお茶と睡眠薬もね」

千早「ありがとうございます、……ふぅ」

何も考えずに事務所のソファで休むことが、千早にとっての快楽へと変化した。
何も考えなければ発作は起きない、そんな気がしてならなくなった。

千早「ほんと、どうしよう…………」

身体と精神をそのまま預け、千早はウトウトと眠りについたのだった。

 ────
  ──

小鳥「これでよかったのね、春香ちゃん」

春香「はい、必ず今回で終わらせます」

小鳥「でも大丈夫? 夢への接触は下手をすると、
   春香ちゃんの精神にまでその影響を及ぼすかもしれないんだから」

春香「大丈夫ですっ」

春香「こうならない内にも解決、出来たかもしれない…。
   これは贖罪でもあるんです、それに──
   私はどんな時でも千早ちゃんの、みんなの力になりたい」

春香「そういう子になりなさいって、
   彼女はそう言って、このリボンを私にくれたんです」

小鳥「…まったく、あの子は一人の女の子になに任せてるんだかっ」

春香「ホントですよね……」

小鳥「本当に、気をつけてね?」

春香「はい。もしダメだったとしても、助けにきてくれますから。
   ……あんまり、助けにきてほしくはないけど」

眠っている千早の髪にそっと触れ、吐息の漏れる唇をなぞってから、
春香はもう一つのソファで横になった。
今日も夢を、みる。



 ──────────

  ─────

   ──

     Hello and Welcome! Ms.Kisaragi!! 


鳴り止まぬ大歓声が如月千早を包み込んだ。

 
      嬉しいっ!! ありがとう、みんなありがとう……!


千早は幸せに満ちた、清清しくも熱い笑顔を観客席に振りまけていた。
しかし、何かが物足りない。


                You, you!  

        私? ……え、優?

            そう、後ろを向いて


そこには如月優の前で幸せそうに歌っている、如月千早の姿があった。
千早は幸せに満ち満ちた、恍惚な表情を浮かべていた。 


         You are me ...? 

             イエース! ユー、アー、ユー!!

       って、春香っ?


暗転からの、場面の転換。
写し出される、売れない頃の自分。


  春k──ぁぁああああ! やめて、あの頃には戻りたくない!!


よく分からないままに千早は叫んでいた。
千早の意識を無意識が支配できる、
とてもアンバランスな世界。それが夢なのである。


         千早ちゃん、スタンバイお願いしまーす

           やめて!!


また、転換。
アパートの角で蹲る、千早の姿。


        春香に私の、優の何が分かるのよ!
    
     もう、お節介はやめて……!!


無意識に発した言葉に引っかかるものを感じた千早は、
勢いよく顔を上げる。


      え、春香……? 春香、そこにいるのっ?

          千早ちゃん……私、天海春香ですっ

  春香! この世界は一体……? 私達は一体どうなってしまったのっ?


意識を取り返した千早は早口に訊いていた。
薄々は感付いている、それに確信が持てないだけで。


     千早ちゃんを助けるために、私が夢に化けて出てきたんだよ~


         ゆ、夢の世界……!?


ようやく確信を持てた千早を置いていくかのように、
春香は周囲を確認しつつ息をついた。


          意味深そうなんだけど……逆に考えると、
   ここじゃないんだよね。もっと最初の……


パチンと、春香の指が軽快に鳴る。


            Hello and Welcome! Ms.Kisaragi!! 

      嬉しいっ!! ありがとう、みんなありが、とう…?

                You, you!

                     …………優?


意識は保てている、ただ、千早には理解できていなかった。
分からないままに、


         そう、後ろを向いて


千早はその声に従うように、静かに後ろを向いた。
そこには如月優の前で幸せそうに歌っている、如月千早の姿があった。


        どうして、あそこに千早ちゃんがいるの?

              それは、#□!☆…

      千早ちゃんは一人だよ、二人いちゃいけない

          どっちかなんだよ


春香は強みを込めて言った。絶対に譲れないラインをしっかりと引き、
千早の逃げ道をなくしてしまった。


     どっちか……そんなこと、私だって分かっているわよ!


千早は大きく動揺した。
ただ歌い続ける千早を尻目に、意識のある千早は激昂した。


            だって、私の夢だったんだもの。
   
       優も「歌って」って言ってくれたんだもの……!

                 じゃあ歌えばいいじゃない! 

     優くんのために歌うってそう千早ちゃんが──


              やめて!!


叫ぶ千早の声と同時に、再び場面は切り替わった。
優のことは終わったんだ、私は優のために──


           春香に私の、私の何が分かるのよ!

         もう、お節介はやめて……!!

            千早ちゃん……


春香は随分と悲しい声で、千早の名前を呟く。
過去に逃げ出した場所へ、千早はまた逃げ込んでいる。


       ……ごめんね、酷いことをしちゃうけど


パチンと、バック・スキップ。


       Hello and Welcome! Ms.Kisaragi!! 

        やめ、て……っ!!



理解が追いつかない、追いつきたくない。
そんな気持ちが交錯し、千早を限界まで追い詰めていた。
自分の中の矛盾がどうしようもなく、怖かった。


        っ……! ……!!

           You, you! 

     確かにこうやって千早ちゃんはこれから、
   
        世界のみんなに歌を届けることになるよ。
   
  だからって、優くんを忘れるわけじゃないでしょうっ?


春香がそれを、千早の矛盾を紐解いていく。


             …………優?

         そう、後ろを向いて


千早はその声に従うように、静かに後ろを向いた。
そこには──如月優が、ただ幸せそうに笑っていた。



       優くんのため、世界のためじゃないよ千早ちゃん。
   
          不器用に、分けて考えちゃダメだよ……。

    「優くんがいた世界」のために、千早ちゃんは歌うんだよ。
 
        それはもちろん、優くんのためでもある


本当に不器用だね、千早ちゃんは。そう言って春香は微笑んだ。
どうして、そんな簡単なことが考えられなかったのだろう。


 そういう、ものなのか──


千早は、やっと理解することが出来た。


      お姉ちゃん、お姉ちゃん!

         優……優っ!


       あとは千早ちゃんの問題だよ?
   
     ちゃんと向き合っていかないと。
 
   大丈夫、千早ちゃんなら。私たちだっているんだもの

        っ、ええ……そうね


そう言って、抱きしめる。
温かさを確かめるように、強く、ゆっくりと抱擁する。


       うぅ…痛いよ、お姉ちゃん

  優、私頑張るから。優のためにも、みんなのためにも頑張るからね。
        
             だから、見ていて


千早自身、優の問題はあの時解決したと思っていた。
思っていたからこそ、それが隠れ蓑になっていて気付けず、
精神病を作り出す原因となってしまっていた。

それを今、千早は乗り越えたのだ。

 
           えっと、…うんっ! 頑張ってね、お姉ちゃん……──

 ────

  ──


千早「……っ、っう、っ……!」

起き上がってから千早は、子供のように思い切り声を上げて、泣いた。
夢の時に溜めていた涙も全て、すぐ後に目を覚ました春香と共に、
泣きに泣いて、綺麗に洗い流したのだった。

 ────────
  ────


海外公演準備期間の二日前。如月千早と天海春香はお墓参りに来ていた。
春香は姉弟水入らずだと自重したのだが、千早はどうしてもと利かなかった。

千早「…………。行ってくるわね、優」スッ

春香「……」

千早「わざわざ、ついて来てくれてありがとう、春香」

春香「えぇっ? そ、そんな私お礼されるようなことなんて……」

謙虚になり赤くなる春香を、面白いと千早はながら見し、
そして大きく背伸びをした。


千早「私、無意識にあんなことを思っていたのね……」

春香「もう大丈夫だよっ、これからが大事なんだから……!
   ファイトー、千早ちゃん!」

千早「ふふっ、もう春香ったら」

いつまでも明るい表情で話す春香に、
千早はつられて笑顔にならずにはいられなかった。

千早「……」ジー

春香「? な、なにかなっ」

千早「ねぇ、春香。あなた一体……」

春香「え、えへへ。やっぱりそうなっちゃうよね……」
   
春香「私、私は──」

春香は笑った。千早の怪訝そうな表情を無視し、
真面目に回答する気のないような、そんな浮ついた声色で、言った。

春香 「──夢探偵、ってところかなっ?」




 
                             ─完─

うん、たぶんこれ作った時パプリカ読んでたんだろうね
もし誰か、見てくれたのならありがとうございます!乙!

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