【アイマス】レモンのサプリメント (32)
早起きは三文の徳
果たしてこれは、眠れずに夜を明かした人間にも当てはまるのだろうか?
空が白みだし、仕方なく外へ出る。
当て所なく歩いていると自宅から少し離れた川にたどり着いた。
--このあたりなら、あまり迷惑にはならない、かな?
最近、こんなことばかり考えてしまっている。
そんな時、私は、彼女に、出会った
~~~、~~~~~、~~
朝日に照らされる川面を前にして、歌っている女性。
気づくと私の頬に一雫、涙が伝っていた。
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こちらが何とかしたいと思っても、そう上手くいかないのが現実というもので。
昼下がりの公園、私はベンチで頭を抱えていた。
そろそろ生きていくにも事欠く事態が迫っている。
「どうかしたのかね?」
封印していた思いが頭をもたげる気配を感じていると、いきなり声をかけられた。
驚いて顔を上げると、そこには人の好さそうな中年の男性がいた。
「良い若者が、昼間からそう暗い顔をするものではないよ。どうだね、私でよければ話を聞かせてはもらえないかな?」
不思議と警戒感を抱かせない、柔らかな印象の男性だった。
――――――
――――
――
「そうか、なるほど……」
気づくと私は、ここまでの経緯を粗方吐き出していた。
「つまり君は仕事がしたい、それも音楽に携われる仕事を」
私は頷きつつ嘆息する。
経験もコネもない人間が容易く足を踏み入れられる世界でないことは、この数ヶ月で痛感していた。
「ならば、ウチの事務所に来てみないかい?」
そういって差し出された名刺には
株式会社765プロダクション 代表取締役社長 高木順二朗
そう記されていた。
「ほんの小一時間話をしただけの、氏素性も知れない男に正気ですか?」
「なに、人を見る目には自信がある」
連絡待っているよと言い残し、来た時と同じように唐突に彼は去って行った。
狐につままれたよう、とはまさにこんな時に使う言葉なのだろう。
「765プロダクション……」
だが、手渡された名刺が夢でないことを伝えてきた。
恩を返すチャンスが目の前にあるのだと。
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数日後
「諸君、我が765プロに新しい仲間が加わることとなった。そして、彼には諸君らのプロデュースを担当してもらう」
そう言って私を紹介する。
「はじめまして。今日からプロデューサーとして皆さんと共に働かせていただきます。右も左もわからない未熟者ですので、しばらくはご迷惑をおかけすることになると思います。一日も早く皆さんのお役に立てるように頑張りますので、よろしくお願いします」
困惑が8、歓迎が2といった割合で突き刺さる視線。
素人が突然プロデューサーに、と言われればそうもなるだろう。
むしろ、わずかながらにも歓迎の空気が感じられるほうが驚きだ。
ほどなく事務所は割れんばかりの喧騒に包まれる。
種々雑多な感情の輪に囲まれていると、その輪の少し外れた位置から無関心な視線を感じた。
そこに、彼女は、いた
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--君には如月君のプロデュースを担当してもらおうと思う
あの後、社長室でそう告げられた。
社長には、先日の公園で事態のあらましを知られてしまっている。
その上で一点を見つめて動けなくなった私の視線の先には彼女がいた。
何をかいわんや、である。
「千早ちゃんならレッスンスタジオで自主トレしてますよ。迎えに行ってあげたらどうですか?」
このあたりの地図を手にそう教えてくれたのは、事務員の音無さんだった。
傍目に分かるほどに落ち着きがなかったのだろうか。
「ありがとうございます、音無さん。さっそく行ってきます」
そう言って荷物片手に立ち上がると再び声をかけられた。
「千早ちゃん、ちょっと難しいところもある娘ですけど、根はとっても良い娘ですから。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
優しい気遣いを受け、今度こそ事務所を出る。
確かに、かつてないほどに緊張している。
音無さんが思っているのとはおそらく違う理由で緊張しているのだけれども。
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目的地に着き、如月さんのトレーニングが一区切りつくのを待って部屋に入る。
「……貴方は」
驚きと疑問と、如月さんはそんな表情を向けてくる。
「お疲れ様です、如月さん。突然ですが、如月さんのプロデュースを担当することになったので挨拶に来ました」
前置きも何もあったもんじゃない。
やはり私は相当に緊張しているらしい。
「貴方が、私の、プロデューサーに?」
「ええ。それで顔合わせというか、これからよろしくお願いしますのあいさつというか」
「わかりました」
ひどくあっさりと承諾された。
拍子抜けして彼女の眼を見ると、そこに期待の色はうかがえなかった。
まあ、半人前以前の人間がプロデューサーでは仕方がない、か。
「それでですね。今後の方針を決めるためにも聞いておきたいことが。如月さんは、どんなアイドルになりたいですか?」
「……アイドルには興味ありません。私は歌手になりたいんです」
「成程。如月さんは歌手志望なんですね。でもアイドルとしてデビューしている以上、歌だけでは厳しいと思いますよ?」
「私は、歌が歌いたいんです」
「もちろん、如月さんの意志は尊重します。ただ、多少の回り道は我慢してくださいね」
「……はい」
明らかに納得していない返答。
歌唱力に関しては圧倒的な技術と情熱を持つ一方、その他のことを切り捨てている感がある。
社長との話の中で抱いた感想は、的外れなものではなかったようだ。
ストイックといえば聞こえはいいが、危うさと表裏一体のそれは、かつての自分を見ているようだった。
「レッスンにはなるべく立ち会います。といっても勉強中の身なので、素人並みの感想しか言えないと思いますが。仕事についても、歌関係の仕事が取れるよう、頑張ります」
「よろしくお願いします、プロデューサー」
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「如月さん、それが食事ですか?」
事務所のソファーに腰かけた彼女の前にあるのは、黄色い箱の某バランス栄養食。
それと数秒で栄養補給できるらしいゼリー飲料。
「はい」
「今日はたまたま、ですよね?」
「いえ、大体こんな感じですが」
何か問題が?といわんばかりの表情。
足りない分はサプリメントで補ってますから、と言われてもこれは駄目だ。
「死にますよ?」
思わず物騒なセリフが出てしまった。
案の定彼女は目を白黒させている。
だが、あながち間違いでもないのでこのまま説得を試みる。
「サプリメントというものは足りない部分を補完するためのもの、あくまで脇役です。主役がちゃんとしていなければ意味を成しません。いくら素晴らしい伴奏があっても、主旋律が存在しない楽曲は評価されますか?」
彼女の目が見開かれる。
どうやら少しは伝わったらしい。
「でも、私は一人暮らしで、料理も決して得意では……」
一人暮らし、と言った時に彼女の目が若干曇ったようだが、とりあえず触れずにおく。
何も完璧に自炊しろとかそういう話ではない。
それに、彼女には仲間がいるんだから頼ればいいだけの話だ。
「簡単で、適当に作れる料理を事務所のみんなに教えてもらえばいいんです。で、最低でも一日一食は普通の食事をとるようにしてください」
頼めば嬉々として作って来そうな娘もいる。
これをきっかけにもう少し仲間と打ち解けられればいいのだが、そんな考えが頭をよぎる。
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そうして日々はあっという間に過ぎていく。
先輩プロデューサーの秋月さんのしごきに食らいつき、音無さんのさり気ないフォローに助けられ。
どうにかこうにかプロデューサーとして恰好がついてきた頃、ようやく仕事を取ることができた。
「如月さん、歌の仕事ですよ」
「!!」
事務所でそう切り出すと、如月さんは今まで見たことのない鋭さで反応した。
「といっても、ローカルTVの深夜番組、その中のほんの数分のコーナーへの出演をかけたオーディションなんですけどね」
「舞台の大小は関係ありません。歌えるチャンスがあるのならば、全力を尽くすだけです」
多少は落胆の色を見せるかと思っていたが、彼女は歌に対してはどこまでも真摯だ。
「そうですね。これまでのレッスンの成果をしっかりと発揮できれば、そんなに難しくないと思います。ただ……」
「ただ?何か問題があるのでしょうか」
「このオーディションは、歌だけでは駄目なんですよ。“アイドルとしての”如月さんの力が評価の対象なんです」
「……そういうこと、ですか」
如月さんはアイドルとしての自分に価値を見出していないらしい。
日々の言動や、レッスンへ取り組む姿勢からも薄々感じていたことではある。
折を見て話をしてはいるのだが、今に至るまで効果は出ていないようだ。
自分の不甲斐なさを悔いても仕方がない、とにかくこのチャンスを掴むことだ。
「歌手でもアイドルでも、人の目に留まらなければ始まりません。頑張りましょう」
「わかりました。精いっぱい頑張ります」
完全に納得してもらうことはできなかったようだが、チャンスであることは分かってもらえただろうか。
ともかく、目の前に目標があるのとないのとでは張り合いが違うはず。
オーディションに向けて私は私でできることをしていこう。
千早スレとか最高!
春香や響、やよい、あずささんなんか頼めば喜んで教えてくれるだろうな
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ボーカル面では問題なし。
一方でビジュアル、ダンスといった面では疑問符が付く。
傍で見ているだけの私と、レッスン担当の先生との意見は残念ながら一致した。
審査員の好みによってはオーディション落選の可能性もある。
むしろ、その確率のほうが高そうだ。
技術云々の話ではなく、意識の問題だというのは分かる。
だが、私みたいな人間の言葉がはたして届くかどうか……
「仕方ない。アイツの力を借りるか」
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「如月さん、私の知り合いから『ウチのライブハウスで歌ってみないか』っていう話があるんですが」
「行きます」
「謝礼も何も出ない、前座その1ですよ?」
「構いません」
「わかりました。先方には話しておきます」
――――――
――――
――
「如月さん、お疲れ様。どうでした?」
舞台袖に帰ってきた彼女に水を渡しながら尋ねる。
御世辞にも盛り上がったとは言えないステージに、彼女の表情は暗い。
「実力不足を痛感しました」
「そうですか。ところで、ここのマスターが話をしたいそうです」
その言葉を合図に、私とは腐れ縁の、ここのマスターが入ってきた。
彼は、開口一番とんでもないことを口走った。
「如月千早さん、だっけ。君この仕事やめたほうが良いよ」
「なっ」
案の定如月さんは固まってしまった。
彼女が立ち直るよりも早く、畳み掛けるように言葉が続く。
「歌はうまいけどそれだけ。自分だけで完結して満足してるなら一人でカラオケでもしておいで。歌手志望のアイドルだか何だか知らないけど、なんで人前で歌おうと思ったの?誰かに認めてもらいたいとか?伝えたい想いがあるとか?どっちにしても無理だけどね」
横目で如月さんの表情をうかがう。
ほとんど思考停止の状態のようだ。
「MCは無愛想、振付は中途半端。歌のついでにとりあえずやってる感がビシビシ伝わってきたよ。何?ウチが小さなハコだからって舐めてるの?」
コイツがここまで本気で毒を吐くのも珍しい。
如月さんの才能は、やはり本物ということだろう。
「舞台ってのはさ、単に歌えばいいわけじゃないのよ。自分を表現する場なの。自分の全身全霊を相手にぶつけるのが最低限の礼儀。今日君はそれをした?」
「私はっ」
「君の後に舞台に立った奴ら見た?歌は下手糞、パフォーマンスもまるでなってない。でも客は君の時よりも盛り上がってたよね」
ようやく回復してきた如月さんに、更なる追い打ちをかける。
「なんでか分かる?アイツらにはさ、夢があるんだよ。何が何でも夢を叶えたいっていうガムシャラな情熱があるんだよ。できるできないじゃない。やりたいことに必要ならどんな努力も惜しまない。その姿勢は少なからず相手に通じるもんだ。で、君はどう?」
「……私は歌が歌いたくて」
「言ったよね。歌いたいだけならカラオケ行っておいでって。なんで舞台で歌いたいの?誰に向けて歌うの?何を伝えたいの?それすらわからないなら宝の持ち腐れだから、君の歌の才能をアイツらに譲ってあげて」
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事務所へ帰る車中、如月さんは深く考え込んでいるようだった。
「ごめんなさい、驚きましたよね?」
返答はないが、話は聞いてくれているようだ。
「彼もね、音楽の道を志していたんですよ。情熱は誰にも負けないものを持っていました。でも彼は才能という、絶対的な壁を乗り越えることができませんでした。それでも音楽を捨てきれず、今ではライブハウスのマスター。自分の夢は叶えられなかったけれど、同じ夢を持つ人の手助けをしてやるんだって言っていました」
「そうだったんですか」
「口の悪さはあの通りですが、自分が認めた相手にしかあんな風にはならないし、できると思ったことしか言いません。自分になかった才能を持った如月さんだからこそ、言わずにいられなかったんだと思います」
「なぜ、プロデューサーではなかったんですか ?」
「何がですか?」
「今日は、オーディション前に私の至らない点を指摘しておきたかったのでは?なぜ、プロデューサーは他人の口を借りたのですか?」
いつかは向かい合わなければならない問題。
思っていたより早くその日が訪れようとしていた。
「私は、技術的なアドバイスはできないから……では答えとしては駄目なようですね」
「はい。今日言われたことは技術の話ではなく、心構えの問題でした。わざわざ他人の口を借りて伝えるものではなかったはずです」
「答えは、私がレモンだから、でしょうか」
真面目に答える気がないと思われたのか、如月さんの視線に険が加わる。
「ごめんなさい。はぐらかすつもりはないのですが、少し長くなるので明日事務所でお話しします」
そう言うと、不満げではあるがとりあえず引き下がってくれた。
ひょっとすると表情に影が出ていたのかもしれない。
それでも、もう逃げるわけにはいかない。
――――――
――――
――
その夜、アイツからメールが届いた。
『今日の報酬、今後の如月千早のライブチケットな
ありゃ化けるわ
追伸:プロデュース失敗したら……わかってるな?』
なまじ付き合いが長いとこういう時に厄介だ。
こっちの事情を見透かした上で絶妙なプレッシャーをかけてくる。
いよいよもって逃げ道がなくなってしまった。
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事務所の屋上で紫煙を燻らせる。
逃避の一種であることは分かっているのにやめられない。
自嘲の笑みをこぼしていると、人の気配が近づいてきた。
「煙草、吸われるんですね。知りませんでした」
「事務所やみんながいるところでは控えてましたから。でも、今日だけは勘弁してください」
私のような弱い人間には、逃避先が必要だった。
自らの恥部を曝け出そうとしている今は尚更。
「構いません。それで昨日の続きですが。レモンって、出来損ないって、どういう意味ですか?」
いきなり切り出された。
意味不明な逃げ口上の真意を、しっかりと悟られた。
「そのままの意味ですよ。私は、人としては欠陥品に分類されると思っていますから」
「なぜ?」
「如月さん、貴女は私をどういう人間だと思っていますか?」
質問を質問で返すのはルール違反だが、どうしても聞いておきたかった。
「……プロデューサーは人当たりが良くて、気遣いのできる人だと思います。冷静で、声を荒げることのない穏やかな人です」
如月さんの眼には、思っていたよりも好人物に映っていたらしい。
嬉しい反面、後ろめたさも感じる。
「ありがとうございます。でもね、人当たりが良いのは敵を作りたくないから。気を遣うのは自分の価値を認めてほしいから。滅多に怒らないのは自信がないから。そういう意味だとしたら、どうです?」
「そんな!」
「少し昔話をしますね」
そう言い置いて、私の傷に光を当てる。
「私が如月さんくらいの頃、私はごくごく狭い人間関係の輪で満足していました。その関係が、私という人間の唯一の価値でした。気の合う数人と遊んだり、馬鹿話をしたり。いわゆる青春というやつでしょうか」
すみません、と断ってから次の煙草に火を点ける。
「ところが、ある日突然私の周りには友人がいなくなってしまった。唯一の価値はへし折られ、私はいないものとして世界が回り始めたんです。誰も自分を顧みることのない世界に放り出されたら、人間ってどうなると思います?」
当時の暗澹たる感情が紫煙とともに吐き出されていく。
「何も見えなくなるんですよ。人というのは、他人が見てくれるから存在できるんです。誰も見てくれなければ自分の形すらわからなくなる」
「プロデューサー……」
気遣わしげな瞳が私を見る。
分かってくれないかもしれない、という疑念はその瞳が打ち払ってくれた。
「そうなると心なんて簡単に壊れます。誰にも心を開くことができず、自分を信じることすらできない。人と人の間に立てないのに人間、なんておかしいでしょう?」
「でも、今のプロデューサーはきちんと人と人の間に立ってるじゃないですか」
「どんな傷でも時が経てばある程度は癒えるものです。それでも後遺症とでも言えばいいのでしょうか。今でも私は他人との距離の取り方がわかりません。それを誤魔化すための人当たりの良さ、穏やかな態度なんですよ」
「それじゃあ何故プロデューサーになんてなったんですか。そんな風に自分を評価する人に務まる仕事ではないはずです」
「プロデューサーになる前の数ヶ月間、私は死ぬことばかり考えていました。幸い心配をかける相手はほとんどいませんでしたし、迷惑をかけない死に場所がないかと彷徨ったものです」
「そんな、ご家族とかは……」
「私が壊れている間に家族も壊れてしまいました。あの人たちの中では、私はなかったことになってるんじゃないでしょうか」
あの人たち、という物言いに如月さんが息を詰まらせる。
こんな言い方をしてしまうから、私は駄目なんだ。
「そんなある日、私はとある川辺で一人の女性を見つけました。彼女は朝日を浴びながら歌っていました。綺麗な声で、誰に聞かせるでもなく伸び伸びと。それを聞いていたらね、なぜか涙が零れてきたんですよ」
あの日の光景は、生涯忘れることはないだろう。
「歌を聴いて感動する、そんな当たり前の感情が自分に残っていたことに驚きました。そうしたらね、思ってしまったんですよ。この感動を、もっと多くの人にも感じてもらいたいって」
それは唐突に湧き上がった想いだった。
自分みたいな半端ものが何を大層な、そう思いもしたが捨てることができなかった。
「私にとって、このオーデションはその一歩目なんです。できる限りのことはしたいと思いました。でもやっぱり自信がなくてね。如月さんに足りない部分を友人の口から指摘してもらうようなことをしてしまいました。本当にごめんなさい」
自分の行為は、信頼を裏切る行為だった。
こんなことで許されるかはわからないが、頭を下げる。
「それはその……そういう事情があったのでは仕方がないと言いますか、でももっと私を信頼して欲しかったと言いますか」
顔を上げると如月さんがあたふたしている。
はじめて見る光景は年相応の女の子のそれで、思わず笑みがこぼれてしまった。
「っ!次同じことをしたら口をききませんから」
笑顔を見咎められ、そっぽを向かれてしまった。
頬を赤くしながらそんなことを言われては逆らうことはできない。
「わかった。約束する」
素の口調で答えると、今度は驚いた顔をされた。
「その話し方のほうが良いです。今回のお詫びに、今後固い話し方は無しにしてください。あと、疑問だったんですが、なぜ私をプロデュースしようと思ったんですか?」
「……その答えはオーディションに受かってから、じゃ駄目?」
「わかりました、約束です」
そういって彼女は微笑んだ。
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「さあ、答えを聞かせてください」
本気を出した彼女は想像を超えてすごかった。
件のオーディションをあっさりと突破してしまうのだから。
表現としてはまだまだ荒削りだが、観る者に与える熱量は以前の比ではない。
そして今、私は事務所の屋上で問い詰められている。
その迫力も以前の比ではない。
「如月さんをプロデュースしようと思ったのはですね」
「千早です。あと口調が固いです」
あの日以来、名字で呼ぶと眼だけ笑っていない笑顔で訂正を求められるようになった。
正直怖い。
「千早を選んだのは、歌以外を切り捨ててる姿が以前の俺に重なって見えて、でも俺と同じようなことにはなって欲しくなかったから」
「プロデューサー……」
「というのは建前で」
あ、やばい、千早の眼が据わってる。
これガチで怒られるパターンだ。
素早く両手を掲げてごめんなさいしながら、正直に告げる。
「いつかの川で歌ってた女性が千早だったから」
こんな恥ずかしい話、素面でいきなり言えるわけがない。
「……えっ?えっ!?」
今度は混乱している。
このまま千早が立ち直るまでここにいたら、身の毛もよだつような羞恥に晒されることだろう。
「じゃ、営業行ってくる」
三十六計逃げるに如かず、だ。
そう言い残して足早に立ち去る。
--出来損ないの心の不足を補完してくれてありがとう
言えなかったこの言葉は、もう少し恩を返してから伝えることにしよう。
<了>
面白かった
はじめてSS書いて投下した
駄文過ぎて正直後悔している
でもアイデア浮かんだらこのP使って別の話を書きたいと思ったり思わなかったり
次はもっとアイドル前面に出す……ことができるかどうか
HTML化依頼ってすぐ出したほうが良いのですか?
>>11、>>26
レスつくと思ってなかったからテンションだだ上がり
ちゃんと千早スレしてなくてごめんなさい
感想貰えるのがこれほど嬉しいとは
頑張って次書いてみる
千早視点?料理回?
書ける保証はないんだけれども
ともあれHTML化依頼だしてきま
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