一色いろはは諦めきれない (218)
※注意点
・いろは人称です
・モノローグたぶん多いです
・想像と自己解釈で書いてる部分が多いので、他の人と解釈が違う部分もあるかと思います
・いろはも可愛いですね
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【わたしは】
えぇー……なに、なんなんですかこれ……。
先輩に今日の会合がなくなったことを伝えに奉仕部の部室に来たんだけど、漏れ聞こえてくる声からするとどうも和やかな雰囲気じゃなさそうだ。
なんか結衣先輩と雪ノ下先輩が言い争ってる……ように聞こえる。
あ、先輩の声もする。三人ともいるみたい。
なになに?痴話喧嘩?
じゃないか。
わたしの見たところあの三人はまだ何もないみたいだし。
イベントを助けてもらおうとして来た時も妙な雰囲気で、先輩一人だけで手伝ってるままだし、もしかしたらやっぱりなにかあったんですかね?
このまま聞いてるのも悪いかなーとも思ったけど、何を話しているか知りたいという興味の方が勝ってしまった。
そのまま扉の前で漏れてくる声を聞く。
なんだか抽象的というかなんというか、話せばわかるかも、とか言葉が欲しいんじゃない、とかよくある青春ドラマみたいな台詞が聞こえてくる。
うっわー……先輩たち青春してますねー……。
最初はそんな冷やかしみたいなことを思ってたけど、さらに雰囲気が重く変わったように感じて思考が中断される。
先輩………………泣いてる?
俺は、本物が欲しい。
呻くように、絞り出すように、誰かにすがるように放たれた先輩の言葉が響く。
わたしと扉一枚を隔てた、向こう側から。
誰に、何に向けていたのかもわからないその真剣な願いの言葉は、わたしの足を動かなくさせる程の迫真さがあった。
突然扉が開き、雪ノ下先輩が逃げるように部室から出てくる。
わたしのほうを一瞬だけ見たような気がした。
けどすぐに、そこに誰もいなかったかのように振り向くと、そのまま階段を上へ駆けていった。
わたしはまだ動けずにいた。
部室の中では結衣先輩が懇願するように先輩に話しかけている。
今、この場所に、わたしの存在は必要ない。
だから離れるべきなのに、足は動かない。
そうこうしていると結衣先輩と先輩が出てきて、固まっているわたしと目が合う。
わ、わ、なんか言わなきゃ……わたしは何も聞いてませんから……。
「あ、先輩……あー、あの声かけようと思ったんですけど……」
うわ、わたし超怪しい……。
これじゃバレるかもしれないと思ったけど、そんなことを気にしていたのはこの場でわたしだけだった。
「いろはちゃん?ごめん、また後でね」
結衣先輩が、いろはちゃんには関係ないから、とばかりに断りを入れすぐに駆け出す。
結衣先輩に続いて行こうとする先輩を見て、ここへ来た目的の伝えるべき言葉を思い出した。
「せ、先輩、今日会合休みですから!それを言いに……。あ、あと」
「ああ、わかった」
先輩はわたしの言葉を最後まで聞かずに返事をして、すぐに行こうとする。
おもわず先輩のブレザーを掴んでしまった。
少しだけの嫉妬と疎外感があった。
はぁ……先輩たちには仲良くしてほしいですし、ちゃんと伝えますかね……。
「話、最後まで聞いてくださいよ……。雪ノ下先輩なら上です!上!」
先輩の顔、こんなんだったっけ……。
目も少し赤い気がする。ほんとに泣いてたんだ……。
「悪い、助かる。由比ヶ浜、上だ」
二人はわたしを残して、特別棟の階段を駆け上がっていった。
今の先輩たちの前に、わたしはいないも同然だった。
だから、追いかけて続きを見たいとは思わなかった。
きっと、嫉妬と疎外感が大きくなって、虚しくなるだけだから。
あんな風に真剣に言葉を、想いをぶつけ合える関係。
それでもなお、まだ今とは違う本物が欲しいと、涙を流しながら願う先輩。
これまで冷めた人生を送ってきたわたしにとって、先輩たち三人の関係はとても破滅的で、愚かしくて、何よりも美しいものに見えた。
わたしは、こういうものに憧れていたのかもしれない。
この時は頭でよくわかっていなかったけど、わたしの心の奥底で燻っていた、僅かな願望に火を灯すには十分だったみたい。
さっきまでわたしを足止めして動けなくしていたその言葉は、すぐにわたしを突き動かす不思議な力に変わっていった。
そして、わたしの目の前を駆けて行った先輩たち三人の間に、これまでにわたしが諦めていた何かが見えた気がした。
☆☆☆
はぁ……また手の込んだことを……めんどくさー……。
以上、現生徒会長である城廻先輩から呼び出されて、わたしが生徒会長選挙に立候補していたことを聞かされた時の感想。
まあ、周りの女子からあまり好かれてはいないことは知ってましたけどねー。
ちょっと手の込んだことやりすぎじゃないですかね……ムカつくー……。
顔にはあまり出さないように、心の中でこんなことをした連中に悪態をついていると、城廻先輩がほわんとした顔で「どうかしましたかー?」と言わんばかりにこちらを覗き込んでくる。
うっ……わたし、この人たぶん苦手だ……。
生徒会長だからとか先輩だからとかじゃなく、このほんわかオーラには紛い物の気配がしないから。
そういうものが作られたものであるかどうかは、女子同士ならすぐにわかる。
まあだからわたしはこんな目にあっているわけなんですが……。
それは置いといて、女子同士ならすぐにわかるのに、男子はもう、それはもうビックリするほどに騙される。
まるでジャグラーにでもなったかのように手玉に取れるので、おもし……たまに気の毒になることすらある。
で、城廻先輩のほんわかビームは天然培養、純国産、混じり気なしの本物とわたしは判断した。
ということは、ですよ。
養殖培養、雑外国産(?)、混じり気しかないわたしの愛嬌は見透かされて、それはいいにしても本物をまざまざと見せつけられるわけで。
そんな人(失礼)とあまり話したくないのは当然です。
「あ、あのー……わたし、立候補とかした覚えないんですけど……」
ようやくそれだけを話すと、城廻先輩は不思議そうな表情を浮かべて首を傾げる。
くっ、あざと……くない!城廻先輩本物だ!もういやこの人!
「でも立候補の書類出てたし、公示も既に終わっちゃってるんだよねー……」
こうじ?工事?好事?
聞き慣れない言葉に対して漢字をいくつか当てはめる。
あ、公示か。で、それってどんな意味でしたっけ?
「それで、公示?が終わってたらなんなんでしょうか……?」
城廻先輩は真っ直ぐにわたしを見つめ、優しく諭すように話す。
「……もう、立候補は取り消せないってこと」
はー…………マジ、超めんどー…………。
それからわたしは、立候補などしていない、他人の悪ノリで勝手にされたことなんです、ということをじっくり説明した。
いじめられている、とは言わなかった。
実際にそんな酷いことをされているわけじゃないし、口にすると他人からの無責任な悪意に屈してしまうような気がしたから。
たぶん妬まれている、というほうが正しいんだと思う。
だって、自慢でもないけど、わたしは可愛いし。
わたしは入学して割とすぐ、葉山先輩に目をつけた。
この人はわたしが追いかける価値のある人だ。そう思った。
サッカー部のマネージャーとして、学校で一番モテる先輩を追いかける健気な後輩。
うん、これだ。これこそわたしに相応しい。
わたしが求める、わたしの姿。
そう考えてすぐにサッカー部のマネージャーとして入部した。
そんな風にして葉山先輩やおまけで戸部先輩にも近い立場にいるし、同じ学年のいろいろな男子からかなり言い寄られてることもある。
だから、わたしを良く思わない女子がたくさんいるんだろう。
でもそんなの、はいはい妬みに僻み、お疲れさまでーす、ってなもんです。わたしからすれば。
くだらない。
ちやほやされたいと思って何が悪いんですか。
わたしは適当に愛嬌を振りまいて、世間一般で言ういい男と青春っぽい恋愛をして、付き合って、進学して、就職して、結婚して、適当な家庭を築いて幸せになるんです。
それの、どこが悪いんですか。
……ほんと、くだらない。
生徒会長とかやりたくもないし、しかも信任投票。
落ちても嫌だし、当選しても嫌。
なにこれ……リスクオンリーノーリターンとか交渉の余地あるわけないじゃないですかバカなんですか。
けど城廻先輩曰く、立候補撤回はどうにも難しいらしい。
嫌ですやりたくないですわたしも被害者です、というスタンスのわたしに困り果てた城廻先輩は、平塚先生のところへ相談しに行くことを提案してきた。
そこで初めて知った奉仕部の存在。
なんでも生徒の相談事を聞いて、手助けしてくれる部活らしい。
はー……変わったことをやる人たちがいるもんですねー……。
まあ他に相談相手もいないわたしにとっては都合のよいことですし、しっかり解決してもらいますかねー。
城廻先輩は奉仕部のことを知っているらしい。
なんでも過去のイベントで何度もお世話になったとか。
なるほど、遊び半分でやってる部活とは違いそうですね。
それならますます頼りにしちゃいましょうかー。
特別棟の入ったことのない部屋の扉をくぐる。
中には結衣先輩と、噂で聞いたことのある雪ノ下先輩と、どこかで見たことがあるような気がする、変な目をした男の人がいた。
これが、わたしと奉仕部と、先輩との出会い。
これから先、わたしをあんなに変えることになる特別な出会いとはとても思えなかった。
わたしが最初に訪れた時、奉仕部はお世辞にもいい雰囲気とは言えない状態だったと思う。
正直なところ何を言ってるのかよくわかってなかったけど、雪ノ下先輩と先輩の意見は対立していたようだし、結衣先輩はその間で困っているようだった。
まあわたしが生徒会長にならなければなんだっていいんですけどね……。
そう思ってたのに、最終的には先輩に乗せられる形で生徒会長を引き受けることになった。
釈然としない部分はいくつかあったけど、一年生なのにサッカー部のマネージャーと生徒会長を兼任する健気なわたし☆という先輩の言葉は確かに魅力的だった。
けどその言葉を話す先輩は果てしなくうざかった。
わたしというブランドに更に付加価値を与えてくれる、そう思った。
それと同時に、そういう事を思い付く先輩に少し驚いた。
簡単に手玉に取れそうなタイプの男子に見えたけど、そうじゃないみたい。
わたしが望むわたしの姿、その方向性を理解している。
つまり、わたしの作っている部分を見透かした上で、それでも構わないと後押しをしたことになる。
先輩が何を思ってそうしたのかはわからなかったけど、そんな対応をされたのは初めてのことだった。
わたしの作っている性格を見透かしている人ならこれまでにもいた。
でも、葉山先輩のようにわかっていながら何も言ってくれないか、もしくはそういのはやめたほうがいいと、全然ありがたくもない否定をされるかのどちらかだった。
ただわたしのことに興味がないだけかもしれないけど、それをわかった上で認めてくれる先輩のことに、少しだけ興味が沸いた。
生徒会長選挙の依頼を通じて、わたしは奉仕部の先輩たちに好印象を抱いた。
三人ともろくに知らないわたしの依頼に対して、とても真剣に解決しようとしてくれたのは確かだから。
この人たちは利用……じゃなくて、ちょっとは信用してもいいのかなと思った。
だからその後、海浜総合高校とのクリスマスイベントで困り果てたわたしは、また奉仕部を頼ることにした。
ちょっとだけ先輩に興味があるのも確かですけど、だいたい生徒会長になったのは先輩のせいなんですからね。
しっかり手伝ってもらいますよー。
そう思って奉仕部の扉をくぐって甘えながらお願いをしたけど、奉仕部の雰囲気は前よりもさらに妙なものになっていた。
そのせいなのかどうかは知らないけど、先輩は奉仕部への依頼じゃなくて個人的に手伝ってくれると申し出てくれた。
結衣先輩と雪ノ下先輩となにかあったんですかね……。でもまあわたしが一番興味があるのは先輩だし、扱いやすいし、それでも構いませんよ。
そうして海浜総合高校との会合に一緒に出ることになった。
そこでの先輩はわたしが思っていたよりも、ずっと真面目で、有能で、優しかった。
人って見かけによらないもんですね……。
人にあざといとか言っておきながら、いいですって言ってるのに奪ってまで荷物を持ってくれたのはあざとくて……でも、とても嬉しかった。
そんな中、偶然奉仕部で三人の関係性を見ることになり、わたしは奉仕部へ、先輩たちへ、先輩へ。
嫉妬と疎外感と、憧れを抱いた。
奉仕部がいつからあったのかは知らないけど、わたしが訪れるまでの間にも、三人でいろんな時間を過ごしてきたんだなと思えた。
そのあとは三人で、奉仕部として手伝ってくれることになり、イベントは無事成功を収めることができた。
奉仕部の先輩たち三人の間に、見えない信頼のようなものが見えた気がした。
もし、わたしが一年早く生まれて先輩達と同級生だったら。
わたしは奉仕部の仲間に入れてたのかな、と考えてみる。
たぶんだけど、そうはなってないと思う。
結衣先輩はともかくとして、あの性格の雪ノ下先輩とこんなわたしが仲良くやれているはずがない。
ましてや同級生の先輩となんか、話をしている自分が全く想像できない。
今わたしの周りにいる、有象無象のモテナイ君と同等、もしくはそれ以下で気付きもしないかも。
それなら、一年早く生まれてこなかったことを幸運だと思わないと。
わたしが下級生だから、後輩だから、先輩たちはわたしにも目をかけてくれているんだ。
自業自得なところもあるんだけど、生徒会長選挙に立候補させられるというわたしの周りからの嫌がらせ。
そのおかげで、本来であれば繋がれることのなかった先輩たちと、か細くも繋がれたという幸運。
……ほんとに何がどう転ぶかわかんないもんですね……。
三人の間にうっすら見える気がする、わたしの憧れ。
わたしもそこに近づいてみたい。
何が見えるんだろう。
あるかどうかもわからないものに希望を抱き、柄にもなく胸の奥に確かな熱さを感じる。
こんなの、全然わたしらしくない。
お互いがちゃんと欺くことなく向き合う、適当じゃない人間関係。
作らないわたしで言いたいことを言い合えて、ぶつかって離れたりすることもあるけど、何度でもまた繋がり合える関係。
そんなものを、わたしも願おうとしたことはある。
でも、素の自分がみんなに好まれる性格ではないことを知っているわたしと、なるべく全員に好かれようとするわたしは、それを願うことを許さなかった。
そんなものは存在しないと妥協して、まるで何かを演じているように、ふとした時に冷めた自分を認識するという生活を送ってきた。
こんなわたしでも、まだ、それを夢見ることは許されるだろうか。
わたしもそれが欲しい、見てみたいと勝手に熱くなったわたしは、勢いに任せて葉山先輩に告白をしたけど、それは見えてこなかった。
葉山先輩はわたしのことを見透かしていたし、わたしも葉山先輩自身のことを見ていなかった。
自分でも結果はわかってたけど、止められなかった。
それでも、振られたという事実は悔しくて、悲しかった。
ただの憧れでも、葉山先輩は素敵な人だとは思っていたから。
告白をしたもう一つの意味は、わたしなりのケジメをつけるという意味があった。
あれから自分でも、本当に牽かれ始めているのは誰なのかと考え、それを否定することができなくなっていたから。
でも、その人はわたしなんかよりも確実に大切なものを、素敵な人たちとの関係を既に持っている。
そしてわたしがその間に入ることは、とても難しい。
無理だとしか思えない。
なら、間じゃなくてもその輪に入ることができたら。
もうわたしはわたしを抑えることができなくなっていた。
無理だと思っていても、なまじ見えてしまった気がするから諦めきれない。
先輩たちと一緒にいれば見えるのかな。
結衣先輩は誰よりも暖かくて、分け隔てなく優しくて、可愛い。
雪ノ下先輩はちょっと怖いけど、誰よりも芯が通っていて、かっこよくて、美人。
先輩はさほどかっこよくもないし、口は悪いし、ぶっきらぼう。
だけどクレバーなように見えて、内心では熱い何かを持っていて、たまに優しくて、素のわたしも作ったわたしも認めてくれる。
奉仕部の先輩たちはみんなわたしにはないものを持っていて、だからこそわたしは憧れ、牽かれている。
わたしをこんな風に思わせたのは……先輩ですからね?
責任、取ってもらってもいいですか。
わたしも、それが欲しいんです。
あのときの扉一枚の向こう側へ、わたしも行けますか?
三人の間には、わたしの持っていない、何があるんですか?
もう少しだけ近くにいけば、それは見えますか?
先輩。
わたしは 終
続きはまたそのうち
すげぇ邪魔されて悔しいです!
それはまあそうですね……
失言でした申し訳ない
続きもここでいきますよー
自分の中のいろはがやっとできたんで投下できました
続き書いてきます
このSSまとめへのコメント
トリ付けてくれたら検索で追えるよ